宇宙機に働く大気ドラッグの評価について
~高精度な宇宙機運用に向けて~
成蹊大学 理工学部
藤原 均
共同研究者
三好勉信 (九州大学 大学院理学研究院)
陣英克 (情報通信研究機構)
品川裕之 (情報通信研究機構)
東尾奈々 (宇宙航空研究開発機構)
熱圏・電離圏: *低高度衛星・ISSの飛翔領域
*宇宙機が外の世界へ出て行くとき、また帰還
するときに必ず通過する領域
*地上・宇宙間での通信の際に電波が伝わる領域
宇宙天気研究としての熱圏・電離圏の研究課題
現象の理解と予測
•
電離圏電子密度変動
電離圏嵐、プラズマバブル等の現象予測
GPS測位、地上・宇宙通信への影響
2. 熱圏大気密度変動
宇宙機への大気ドラッグ
3. 酸素原子密度 (原子状酸素)
宇宙機の表面素材への影響
http://www.nationalgeographic.co.jp/
2011年9月22日
米国の人工衛星UARS
落下の記事
2011年10月
ドイツの人工衛星
ROSAT落下の記事
X線天文衛星「あすか」の事故
2000年7月15日の大磁気
嵐のために衛星高度が
100 kmも降下。大気摩擦
の影響で姿勢が乱れ、太
陽電池パネルに十分な
太陽光があたらずに、バッ
テリーの枯渇  制御不能
に陥ったと考えられている。
(SWPC/NOAA) 超高層大気の密度計測
人工衛星が惑星周辺を回っているとき、低高度では惑星大気から受けるド
ラッグ/抗力(drag force) のため、わずかながら周回高度が低下する。この
ような抗力を受け続けると、やがて人工衛星は大気圏に再突入(reentry)し、
落下することとなる。
人工衛星に働く大気ドラッグは以下のように表される。
FD 
1
C D ( Vs  U) 2 A r
2
FDは人工衛星に働くドラッグ(drag force)。ρは大気密度。Vs、Uはそれぞれ
衛星速度と大気の風速。CDはdrag coefficient、Arは大気との衝突における
衛星の有効面積。Killeen et al.[1993]の指摘するところによれば、drag
coefficientがキーパラメータであり、かつ、最も理解が遅れている(人工衛
星表面での大気分子・原子と衛星との運動量輸送の微視的な物理過程
がわかっていない)。一般的には、CD~2.2程度の値が使われている。
(例えば、Herrero [1987]によれば、1.6~2.7)
半径rの円軌道で運動する人工衛星のエネルギーは、
E
GMm
1
mv 2 
2
r
m、vは人工衛星の質量、速度。Gは万有引力定数。Mは地球の質量。
大気ドラッグが小さいとすると、円軌道が維持され、中心力場の中で円
運動する衛星の全エネルギーは、
E
GMm
2r
となる。一方、大気ドラッグによる衛星のエネルギー変化は、
1
dE
=  FD ( Vs  U)   C D ( Vs  U) 3 A r
2
dt
簡単のため、V=Vs-Uとすると、
1
dE GMm dr
3
C
V
Ar
=



D
2
dt
2
dt
2r
となり、簡単のためV=Vsとすると、
V
GM
r
軌道半径の変化率は、
ρVC D A r r
dr

dt
m

T
3C D A r r
dT


dt
m
と書くことが出来る。
上記は大気密度が既知として人工衛星の寿命を見積もっているが、歴史的に
は逆のことが行なわれてきた。すなわち、人工衛星の軌道変化から大気密度
を推定した。例えば、King-Hele [1959], King-Hele [1992]。
高度 400 km を円軌道で運動していた人工衛星が再突入(地表面に落下)するまでに
要する時間。モデル大気を使った簡単な計算例を以下に示す。
4つの線は超高層大気のコンディ
ションが違う場合のもの。太陽活
動極大期、地磁気擾乱時には衛
星寿命は約72日と計算された。
一方、太陽活動極小期、地磁気
静穏時の状態では約700日。
(注:ここでは、極端な場合をあえ
て比較している。大気の状態は
時々刻々変わるので、実際の計
算は難しい)
以下に示すのは、スプートニクなど、初期の衛星の軌道データを使って得
られた熱圏での大気密度である。King-Heleが1959年にNature誌に発表し
たものである。
グラフの下方に示されている実線は、当時の理論的な予測にもとづく大
気密度の高度プロファイルであるが、ここでの結果によれば、実測値は
それよりも1桁ほど大きな値を示している。
TAIYO衛星の例 (一週間平均の密度・外気圏温度)
(Kato et al., 1979)
平均的な熱圏大気密度
NRLMSISE‐00 Atmosphere Model
http://ccmc.gsfc.nasa.gov/modelweb/models/nrlmsise00.php
飛翔体に働く加速度の推定例
ವ
మ
飛翔体の落下速度の推定例
ρVC D A r r
dr

dt
m
原理的には宇宙機の落下速度、落下時間、落下場所
を推定することはできる。
しかし、現状では推定精度は極めて悪い。
UARSやROSATでは直前になるまで地表に落下する時間が不明だった。
使用済み衛星の落下予測や、将来的な(無人)宇宙機
の高度な運用のためには、高精度な大気摩擦力(宇宙
機に働く加速度)の推定が重要。
なぜ、推定精度が悪いのか?
*超高層大気質量密度の空間分布や変動が
十分には把握できていない?
*摩擦係数CDの不確定さ?
*衛星の周回周期・高度変化大気ドラッグ大気密度
*大気密度大気ドラッグ衛星の周回周期・高度変化
ρVC D A r r
dr

dt
m
m
dr
 
VC D A r r dt
(from NOAA)
加速度計搭載の測地衛星 CHAMP 熱圏大気質量密度計測において画期的成果
*衛星に搭載したGPS受信機
で精密軌道決定
*高感度の加速度計が搭載され,
非重力場加速度成分の補正
2000年7月15日打ち上げ
2010年9月19日ミッション終了
大気ドラッグ=大気密度
進行方向に垂直な風速
http://op.gfz‐potsdam.de/champ/index_CHAMP.html
Storm-time density variations [Liu et al., 2005]
2003年10月29日の質量密度変動をCHAMPの軌道に沿
ってプロットしたもの (400 km 高度)
現象の理解と予測に向けた試み
領域間結合モデルの開発が
必要
大気圏・電離圏統合モデル
Ground-to-topside model
of Atmosphere and Ionosphere
for Aeronomy (GAIA)
GCM simulation by Fujiwara et al. (IAGA-book, 2011)
20 km 134 km 50 km 180 km 89 km 306 km An example of the GAIA simulations
Miyoshi et al. investigated the equatorial mass density anomaly (EMA) by using GAIA. 10‐12 km/m3
Miyoshi et al. (JGR, 2011) まとめ
高度な宇宙機の運用のために、超高層大気変
動、とくに質量密度の時空間分布の理解は不
可欠である。
宇宙・大気科学研究のために開発された数値
モデルの計算結果を用いて、高精度な質量密
度の時空間分布の推定を行うことが可能と考え
られる。今後、宇宙機落下の予測や、宇宙機の
軌道変化等の推定への応用を視野に入れた研
究を実施していく。
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