平成23年度採択分
平成26年3月14日現在
アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現
に関する総合的地域研究
Conflict Resolution and Coexistence through Reassessment
and Utilization of ‘African Potentials’
太田 至(OHTA
ITARU)
京都大学・アフリカ地域研究資料センター・教授
研究の概要
現代のアフリカは、紛争によって解体・疲弊した社会秩序をいかに修復・再生させるかという
課題に直面している。本研究は、アフリカ人がみずから創造・蓄積し、運用してきた知識や制
度(=潜在力)を解明し、それを人びとの和解や修復のために活用する道を探究することを目
的とする。
研
究
分
野:複合新領域
科研費の分科・細目:地域研究
キ ー ワ ー ド:アフリカ、紛争と共生、潜在力、和解と社会的修復、在来の知識や制度
1.研究開始当初の背景
4.これまでの成果
アフリカでは、とくに 1990 年代に入ってか
ら大規模な内戦や地域紛争など、多種多様な
紛争・もめ事が頻発した。これに対して国際
社会は、軍事的介入や停戦・和平協定の締結
支援、紛争後の制度構築への協力、国際刑事
裁判所などによる司法介入、NGO などの市民
社会による支援といったかたちで関与し、一
定の成果をあげてきた。しかし、こうした介
入は欧米出自の思想や価値観にもとづくもの
であり、人々の和解や社会関係の修復には、
あまり効果を発揮していない。
(1) アフリカでおこっている紛争の実態
現在のアフリカで生起している紛争・もめ
事は、国家とローカルな共同体のあいだ、共
同体同士、移住民や外国人労働者と地元民の
あいだ、国際的な組織・企業とローカルな共
同体のあいだなど、複数の主体のあいだで複
雑かつ重層的に生起している。そして、こう
した主体間に明確な境界線を想定すると、し
ばしば現実を誤認することになる。非常にロ
ーカルな紛争にも、国家や国際関係の動向が
つよく影響している場合もある。また、紛争
終結後に被害者の正義をどのように回復し、
いかなる賠償を提供できるのかもアフリカ
各地でおおきな問題となっている。
2.研究の目的
本研究は、アフリカ人がみずから創造・蓄
積し、運用してきた知識や制度(=潜在力)
を明らかにし、それを人びとの和解、社会関
係の修復と共生の実現のために活用する道を
探究する。この潜在力は、固有で不変の実体
ではなく、西欧近代やアラブ/イスラームと
いった外部世界からの影響と、つねに衝突や
接合を繰り返しながら創出・生成されている。
3.研究の方法
本研究では、フィールドワークを基礎とし
た地域研究の方法論によって、以下の課題を
明らかにする。(1 )紛争・もめ事が発生する機
序と実態の解明、(2) アフリカ社会の基礎的な
潜在力の同定、(3) 外部から移入される要素と
在来の潜在力とのインターフェイス機能の解
明、(4) アフリカの潜在力を紛争解決と共生の
実現のために活用する道の探究。
(2) 紛争・もめ事を解決し人々の共生を実現
するための「アフリカの潜在力」
アフリカの各地には、紛争やもめ事を解決し
人々の共生を実現するために自主的に組織・
開催される集会がある。それには誰もが参加
して活発な議論をかわす。聴衆の情動に訴え
るレトリックを駆使した雄弁さと同時に、他
者の発言に辛抱づよく耳を傾ける姿勢が高く
評価され、しばしば「宗教的な正しさ」も言
及される。集会には調停役がおり、人々の創
造的な議論を引き出す役を果たす。ねばりづ
よい折衝のあとで、最後には参加者全員が同
意するかたちで集合的な結論が導かれる。こ
の集会は犯罪者の処罰ではなく、争いの当事
者相互の癒しと共生、そして共同体の調和の
回復に重点をおいている。
本研究では上記の集会に代表される「アフ
リカの潜在力」の特質として、
「語りの力と聴
く力」
「ねばりづよい折衝」
「癒しと共生」
「調
和の回復」
「集合的な判断」の 5 点を抽出した。
(3) 社会の外部から移入される知識、技術、
制度と「アフリカの潜在力」の接合
上記の「アフリカの潜在力」の特徴は、南
アフリカの真実和解委員会やルワンダのガ
チャチャ裁判にも、顕著に発現していた。す
なわち「アフリカの潜在力」は、国家や近代
的裁判との相互関係のなかでも発揮されて
いる。また、ケニアではイスラム教とキリス
ト教の聖職者が共同で組織する団体が地域
の問題解決にあたり、多様な人々が混住する
南アの都市ダーバンでも、人々がもめ事を自
主的に解決する組織が報告されている。人々
は、ローカル NGO や宗教組織などの現代的
な団体を中核としつつ、外来の知識や価値観
(西欧やイスラム世界など)と在来のそれと
を接合し、みずからの生活世界をより良いも
のにするための実践をおこなっている。
ただしアフリカでは、上記のような集会を、
いかなるコンテクストにも適用可能な技術
のようにみなし、その実施を専門家にまかせ
て大衆を排除するという「アフリカの潜在
力」の「技術還元化」と、国家や国際機関に
よる「乗っ取りと盗用」もおこっている。
(4) 「アフリカの潜在力」という概念の彫琢
「アフリカの潜在力」という概念を彫琢す
るにあたり、単純な二元論(伝統/近代、特
殊的/普遍的、西欧/アフリカなど)は無用
である。「アフリカの潜在力」を本質化した
り、特定の実体をもつものとみなすことはで
きない。また、現実におこっている紛争・共
生のプロセスは複雑で動的なものであり、そ
れにかかわる主体は重層的な関係をもち、相
互に浸透・混合しあう。「伝統」「在来」「エ
スニック」「共同体」といった概念も、所与
のものとみなすことはできず、これらの概念
で指示されるものは実際には可変的・状況依
存的であり、つねに競合や交渉にさらされて
いる。
歴史的にみて、アフリカでは人々が頻繁な
移動を繰り返し、地域社会は異質な外来者を
取り込みつつ変容してきた(包摂性と流動
性)。また、大多数の人々は隣接民族の言語
を理解する多言語話者であり、民族帰属も状
況依存的であった(複数性と多重性)。さら
にアフリカの人々は、みずからの生活世界を
より良いものにするために、外来の知識や価
値観を必要に応じて取り入れ、異なるものを
接合しつつ新しい知識や制度を創造してき
た(混淆性とブリコラージュ)。
「アフリカの
潜在力」を背後から支える論理として、この
三つの特徴を抽出したことは、本研究の重要
な到達点である。
5.今後の計画
(1)「全体会議」などで議論を深めるとともに、
現地調査による一次資料収集を継続する。
(2) 国際人類学民族科学連合中間会議など、
国際学会における成果発表を継続する。
(3) 第 4 回(2014 年 12 月ヤウンデ)、第 5
回(2015 年 8 月アジスアベバ)
「アフリカ紛
争・共生フォーラム」を開催する。
(4) 2015 年 12 月に最終的な成果発表の場と
して国際シンポジウムを京都で開催する。
(5) 英文による 2 冊の成果出版を、2014 年 8
月と 2015 年 3 月までにおこなう。
(6) 和文による 5 冊の成果出版を、2016 年 3
月までにおこなう。
6.これまでの発表論文等
論文
1. 遠藤貢、2013「アフリカにおける武力紛
争からの脱却への課題」
『国際問題』621:
17-27.
2. 松田素二、2013「地域研究的想像力に向
けて―アフリカ潜在力の視点」『学術の動
向』7月号:62-66.
3. Abe, T. 2012. Reconciliation as Process
or Catalyst: Understanding the Concept
in a Post-conflict Society. Comparative
Sociology 11: 785-814.
4. Oyama, S. 2012. Land Rehabilitation
Methods Based on the Refuse Input:
Local Practices of Hausa Farmers and
Application of Indigenous Knowledge in
the Sahelian Niger. Pedologist 55 (3)
Special Issue: 466-489.
5. 高橋基樹、2011「開発のための公共性の
構築―アフリカ政治経済論の新しい展開
に向けて」『国民経済雑誌』203(4):1-29.
著書
1. 太田至(編)2014『アフリカ紛争・共生
データアーカイブ第1巻』111頁、京都大
学アフリカ地域研究資料センター.
2. Ohta, I., S. Oyama, T. Sagawa, and Y.
Ito (eds.) 2013. Proceedings of African
Potentials
2013:
International
Symposium on Conflict Resolution and
Coexistence. Center for African Area
Studies, Kyoto University. 201 pp.
国際会議
1. Ohta, I. (Organizer) 2013. Third
International Forum on Conflict
Resolution and Coexistence Realizing
“African Potentials”. Dec. 6-8, 2013.
Juba Grand Hotel, Juba, South Sudan.
ホームページ等
http://www.africapotential.africa.kyoto-u.a
c.jp/
ダウンロード

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