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はじめに:
前作の『米国留学紀行』を読んだ友人イチロー君に、あの著書には私
がいかに留学に耐えうる英語力を身につけたか、少しも書いていないと
批評された。あの本は、英語の習得法に関する本ではないですよ、と答
えておいた私だった。今回の著書は、過去において大学で実践した体験
を綴っているので、少しはその答えの一部が読み取れるかもしれない。
しかし、ここにイチロー君のために、2∼3ヒントだけは示すことにす
る。
1つは、体験したことをすべて英語で表現してみる、である。私が
常々学生に奨励していることだ。例えば、授業中あくびをする学生がい
たら、「あくび」を英語で言ってみなさい 、と。くしゃみをしたら 「くし
ゃみ」、セキをしたら「セキ」という言葉を、それぞれ英語で言わせる。
こういう言葉は英語圏で生活していれば自然と身につくが、学校の授業
ではなかなかでてこない。それなら現地で過ごすような環境を、日本に
いて自分で作ってしまえばいいのだ。その際分からない言葉や表現は、
すぐに辞書を引かないで、知っている言葉で簡単に表現してみる。日本
語からの直訳は奨励さ れない場合が多いが、ど うしてもわからなければ 、
直訳してもよい。これらは「コミュニケーション方略」と呼ばれている
が、後日適切な表現を調べる習慣を作れば、直訳の弊害は取り除かれる
であろう。
2つ目は、好きなことを英語と絡めるのが秘訣である。私が興味を持
って研究しているのは 「言語使用域(レジスタ ー)」である。人は 自分が
獲得したレジスターの中から、状況に最も適切な一つのレジスター、す
なわち通常の言語と違う「言語使用」を選択することが知られている。
例えば、野球実況放送で使われるアナウンサーの英語は1つのレジスタ
はじめに――3
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ーで、日常会話とは違う独特の語彙や表現を含む。一般的に文法は簡素化
される一方、語彙は豊富になる傾向がみられる。このような研究は、デー
タ収集と分析が非常に困難であるが、野球好きの私にはまったく苦になら
ず、むしろ楽しい体験となる。英語を学ぶ時には、自分の好きなことと絡
めるのが長続きできるコツである。イチロー君も自分の興味ある分野を探
し、それに関連した形で英語を学ぶといいと思う。
3つ目は、個人学習だけでなく、グループ活動の奨励である。1人で勉
強する時より先輩やクラブ活動の先生などと英語活動にあたると上達の伸
びしろ(「最近接発達領域」)が大きくなることがある。1人で受験勉強す
る癖のついているイチロー君は、意外とグループ活動が苦手かもしれない。
しかし共同作業をしていると、自分では表現できない時、適切な助け舟が
出る場合もあり、互いに励ましあいながら、言語活動を継続することがで
きる可能性が増える。万が一挫折し、3日坊主になっても、またその日か
らやり直せばいいのだ。永遠に諦めることなく何度でも挑戦すれば、必ず
や良い結果につながるはずである。
本書は、英語教師が歩んだ3 9年(短大1 3年と大学2 6年)の記録であり、
これらのイベントに参加したイチロー君や私の体験報告を読んだ人は、上
に述べた言語習得のヒントを1部体験したことになる。卒業後もさらに、
英語活動を継続することを願いながら、初めのことばとする。
4――
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イチロー君、大学で何を体験した?
もくじ
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イチロー君、大学で何を体験した?
はじめに:………………………………………………………………… 3
第1章:大学で何を学ぶか
1)選択・決断・実践………………………………………………………12
2)私の講義概要……………………………………………………………17
3)「学生から見た私の授業」………………………………………………20
第2章:外国語学部・英語英文学科イベント
1)外国学部創立40周年記念国際シンポジウム:アジアにおける
英語と文化の多様性…………………………………………………… 28
2)英語英文学科主催のフェスタ・文化ウィーク………………………38
a) 英語フェスタ 2002:ミュージカル「オクラホマ」…………………38
b) 英語フェスタ 2003:鶴田講演会・通訳体験ワーク・ショップ……39
c) 文化ウィーク 2007:シェイクスピア劇「夏の夜の夢」……………41
d) 文化ウィーク 2008:橋本ゼミによる英語劇・
英語スピーチ・コンテスト…………………… 41
e) 文化ウィーク2009:シェイクスピア劇「ロミオとジュリエット」・
英語スピーチ・コンテスト…………………… 43
f) 「スピーチ・コンテスト実行委員の声」…………………………… 45
第3章:派遣語学研修・推薦語学研修
1)1987 アストン大学派遣語学研修:……………………………………50
2)1991 カリフォルニア大学デービス校派遣語学研修:………………57
3)1998 カリフォルニア大学デービス校派遣語学研修:………………65
4)2009 米国4大学訪問:…………………………………………………71
6――
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5)「ある交換留学生の声」:………………………………………………73
6)国際交流に関する提案:……………………………………………… 75
第4章:シンガポール日本企業訪問
1)2005シンガポール日本企業調査……………………………………… 80
2)2005シンガポール日本企業訪問……………………………………… 82
3)2007シンガポール日本企業訪問……………………………………… 84
4)シンガポールにおける英語の2変種併用話者……………………… 87
5)「参加学生の声」…………………………………………………………93
6)ハワイ・ニューヨーク企業訪問の可能性……………………………95
第5章:修士論文・博士論文要旨
1)森田あかね(修士論文 1 9 9 9)
「第2言語習得における会話調整とコミ
ュニケーション方略」…………………………………………………102
2)外間喜和(修士論文 1999)「学習者に合わせた英文法の授業展開」
…………………………………………………………………………… 104
3)澤登由紀子(修士論文 2000)「外国人教師によるインプットの分析」
…………………………………………………………………………… 106
4)大友直(修士論文 2006)「英語聴解能力における音変化指導の考察」
……………………………………………………………………………107
5)大平紅童(修士論文 2007)
「異なるリーディング・タスクによる語彙
学習への効果」…………………………………………………………110
6)大場衣織(修士論文 2008)
「インプット貧困環境におけるリキャスト
とプロンプトの有効性」………………………………………………113
7)百瀬創(修士論文 2008)「トップダウンとボトムアップ指導の聴解力
レベル別差異」…………………………………………………………115
8)冨沢拓夫(修士論文 2 0 0 9)“Effectiveness of Mind Map Strategy on
もくじ――7
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ8
Vocabulary Teahching”
……………………………………………………117
9)赤石恵一(博士論文 2010):“Good Foreign Language Learners: A Case
Study on the Graduates of Sapporo Agricultural College 1880 - 1885”
……………………………………………………………………………120
第6章:エッセイ
1)旅行記…………………………………………………………………… 128
a) 2008 加藤学園暁秀初等学校(静岡県沼津市)におけるイマージョン
教育………………………………………………………………………128
b) 2006「グローバル・ビリッジ:吉川村塾」(仙台市)
;
2009 東北大学…………………………………………………………… 137
c) 2008 ニューヨーク1人旅……………………………………………… 139
2)教育一般………………………………………………………………… 149
a) 臨界期説再考 …………………………………………………………… 149
b) 英語母語話者のレベルになれない者、どこを目指せばいいか?… 150
c) ドナルド・キーンとの面談から:余談に学ぶ日本語習得史実…… 154
d) ギター・レッスンと英語習得………………………………………… 157
e) 松葉杖との独り言:一時的身体障害者の「5つの発見」………… 161
第7章:イチロー君へ贈る言葉
1)チャペルからのメッセージ…………………………………………… 174
2)結婚式の乾杯発声……………………………………………………… 178
3)入学式・卒業式に贈る言葉…………………………………………… 179
おわりに:…………………………………………………………………183
8――
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スタッフ
編 集 佐田 満
構 成 佐田 満
校 閲 宇田川森和
装 丁 Yuki
コピー 宇田川森和
画像処理 デザインオフィスはな
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第1章 大学で何を学ぶか
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第1章:大学で何を学ぶか
イチロー君へ:「大学で何を学ぶか」という問いに対して、イチロー
君はどう答えるかな? 何か1つ特別な解答があって、それでなければ
ならないと考えていませんか。高校時代の試験問題を思い出すと、正解
は常に1つだけという勉強をやってきましたね。だから君が、そのよう
な傾向になるのはよく理解できます。でも先の問いに対しての答えは、
色々あってよいと思うよ。大事なのは、多くのオプションの中から君が
何を学ぶかを選択、決断、そして実践することなのです。
1)選択・決断・実践(注1)
新入生の中には、第1希望で入学し意欲満々の人もいれば、希望の大
学に入学できず意気消沈し、仕方なく今ここにいる学生もいると思う。
また明確な将来の夢を持ち、例えば中高の英語教員になろうと思って、
大学に入学した者もいれば、在学中になんとか自分のやりたいことを探
そうと考えている人もいるであろう。高校時代さらに浪人時代と勉強漬
けだったから、この4年間は自分のやりたい事に時間を過ごそうと思っ
ている者もいるかもしれない。そのように異なるタイプの学生が大学に
いても、それは自然なことでかつ結構なことである。
次に英語英文学科諸先生方の新入生へのメッセージを読んでみる。
1)自分だけにしかない素材の発見と優れたロール・モデルとの出会い
を求めよ!
2)大学在学中によき友人を作り、また何か自分の好きなこと1つに打
ち込め!
3)大学では専門的知識の修得だけでなく、自己の探索、自己アイデン
12――
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ティティの確立を!
4)外国語を学び、異文化に接触し、この激変する時代にいかに文化価
値やライフ・スタイル が変化するか、「国際人」とは、いかなる人 である
べきかを探求しよう!
などがある。
また最も過激な発言 は、「英語英文学科 は君に何も教えないし、 何もい
いことをしてあげられない」である。このメッセージの意図は、学生は
自分で目標を立て、自分で努力し、自分で夢を実現して行くのだ。大学
は、ただその刺激、きっかけを与えるだけなのだと提言しているのであ
ろう。私自身、大学時代に学んだことは、「批判的思考、健全な判断力、
決断の実践」だ。一般書でも専門書でも、書いていることを鵜呑みにし
ないで、批判的な目を持って読み、また自分自身の考えを持ち、公正な
判断力を養い、さらに判断・決断したことを実際に行動に移すというこ
と。
大きな目標が見えてきたところで、次に英語英文学科ではどのような
カリキュラムになっているか眺めてみることにする。履修科目は、大き
く分類して「基本科目」と「専門科目」がある。
一般的に言うと、前者は1−2年次に、後者は主に3−4年次に履修
する。前者と後者の関係を、あるH名誉教授がかつて新入生に語られた
例を紹介すると、次の ようになる。「カリキュラムを山に例えると 、基本
科目は山の裾野、すなわち山の土台であり、専門科目はその土台の上に
専門知識を構築して行きます。裾野が広ければ広いほど、その上に積み
上げる専門研究が広く 深いものになるのです。」専門科目にしか目 が向い
ていない学生がいたとしたら、上の含蓄ある譬え話を思い出して欲しい。
英語英文学科の学生の場合1−2年次に、将来の研究の土台となる
「基本科目」と平行して「聞く 」、「話す」、「読む」、「書く」技能の養成に
力を注ぐカリキュラムになっている。英語母語話者教員による少人数の
会話の授業はもちろんのこと、LL教室、マルチメディア教室など、設備
環境も充実している。しかし、これらのクラスに参加していれば誰でも
英語が聞けて、話せるようになるほど言語習得は甘くはない。先に述べ
第1章 大学で何を学ぶか――13
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ14
た「英語英文学科は君に何も教えない」のメッセージを思い出して欲し
い。クラスでの体験をきっかけにして、クラス外でもテレビやビデオ、
映画などにどっぷり漬からなければならないのだ。
3年次からは、英語学、英米文学、地域研究の分野から1つ選択し、
重点的に専門性を追及することになる。大学で英語を学ぶというのは、
ただ単に英会話能力を高めることだけを意味しているのではない。1−
2年次で身につけた語学力を駆使しながら、英語学や文学、異文化など
に接して、その専門性を高めていくことこそが大学での課題なのだ。こ
のため、1年次に「基礎演習」、2年次に「基礎研究」、3年次に「専門
研究」、4年次に「卒業論文」を開講し 、学生がそれぞれの 興味と関心に
沿った専門的研究を進められるようになっている。同僚のH名誉教授の
言葉を紹介すると、「英語はあくまでも 手段。何を話したい のか話題がな
ければ悲劇です。」さてイチロー君は、 どの専門分野を選び 、何の話題を
語ろうとするのだろうか?
ここまでの議論の流れ を算数の例えで言う と、「足し算と引き算をマス
ターしてから掛け算を」である。もちろんこの考え方は正しいが、掛け
算の計算にどっぷり漬かっていると、知らず知らずの間、足し算や引き
算も復習しているのである。ここで重要な点は、「どっぷり」と「復習」
であろう。言語習得のよい例として、静岡の加藤学園のような「イマー
ジョン・プログラム」(小中教育におい て一般科目も外国語 で行う教育方
法)がある。一般科目を学んでいるつもりでも、または小学校教育を受
けているつもりでも、実は児童や生徒は英語にどっぷり浸っている。そ
の結果、知らぬ間に英語 を習得し、上手に操 れるようになってい るのだ。
これを実証する例として、英語圏で1年以上留学・研究に従事した人が、
知らぬ間に英語を操れるようになったケースを上げることができる。
それでは、どのようにしたら「言語にどっぷり漬かる」ことができる
か、について考えてみる。私は大学生時代に外国語をマスターする方法
に関する著書を多く読んだ。その後も世間で言う「英語の達人」に接す
る機会を多く持った。そして言語の達人には3つのタイプに分類される
ことに気づいた。第1のタイプは、成人前に外国に滞在し現地の教育を
14――
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現地語で受けた者。彼らは前に述べた「イマージョン・プログラム」の
ように、知らないうちに言語にどっぷり漬かっていた。その結果、彼ら
の発音や抑揚は母語話者のそれと、ほとんど変わらないことが多い。た
だし文法や語彙力や作文の面では、まだ発達段階途上であり、母語話者
である子供の場合と同様に、さらに言語能力を発達させる必要がある。
しかし、彼らの言語習得は意識下のレベルで行われ、文法を意識しなく
ても自然に、まるで母語のように口から出て来るようだ。このレベルの
人は、未知語を含む映画やニュースであろうとも気軽にエンジョイでき
るようだ。分からない語彙が1つでもあると、その後すべてが分からな
くなる我々一般人とは大いに異なる。
第2のタイプとして、外国で自分の専門を大学院などで数年学んだ者
を上げることができる。彼らは言語にどっぷり漬かる時期が、第2言語
習得の「臨界期」を過ぎたため、発音や抑揚の面で日本人特有の訛りが
残る場合がある。しかし、言語運用能力は極めて高い人が多い。外国滞
在中、専門の講義を多く聴き、専門書を多く読み、言語習得に必要なイ
ンプットに充分浸ったことになる。また同僚との議論や学会での質疑応
答を通して、より正しいアウトプットを強要される機会を持つことによ
り、彼らの言語運用能力が養われたものと考えられる。私の友人では言
語学者、教育学者、物理学者、生物学者や医学博士などがこのタイプだ。
ここまで読むと、言語習得するためにはその言語を話す国に行き生活
し、どっぷりその言語に漬からなければならないと考える人がいるかも
しれない。でもそれは違うであろう。言語習得に必要なインプットや、
より正しいアウトプットを強要することは日本にいながらにしても可能
だ。その例が第3の英語達人タイプ。私の友人Tさんは、4年制大学卒
業後、英語を母語とする教員の多い教育機関に勤めた。本人の話による
と、当時ほとんど英語が話せなかった。本人の言葉に偽りがないとして
も、教員になった事実から一般の大学卒業者以上に英語の文法知識はあ
ったと思われる。就職後は誤りなどもあまり気にせず、積極的に外国人
教師との接触をはかり、英語科会では公用語が英語ということもあり、
英語で発言し議事録も英語で作成した。その結果、在職している間、英
第1章 大学で何を学ぶか――15
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ16
語の修得に必要なインプットや正しいアウトプットの機会を充分受け続
けたと考えられる。
高校時代の恩師S先生の場合は、英語教員になられてから毎日英語の
原書を最低1 0∼15ページ読んでおられた。毎年いただく年賀状には、年
間の読書成果が必ず記載されており、退職されてからも毎日欠かさず英
語のインプットを積み重ねておられる。(2 0 1 1年の年賀には「英書1万ペ
ージの読了」とあった。)福島での同僚Sさんも 、読書という面では負け
てない。彼はタイム誌を初めから終わりまで読んでしまう。雑誌とは興
味のある記事だけを読むものと思っていたが、それは彼にとっては常識
ではないのだ。
海外留学体験なしで必要なインプットを日本で得た人は、教員だけで
なく学生にもいる。Iさんの場合は、英語母語話者が周りにいなかった
ため、学生時代にラジオ英会話の番組を1日も欠かさず7年間(高校や
大学入試の日も含め)、初めての米国留学をする 前日まで続けた。番組を
録音し繰り返し聞いているうちに、自然に対話が暗記できたようだ。ま
た中学時代の恩師E先生の忠告は「今日のテストのための勉強でなく、
将来につながる勉強を」だったそうだ。その忠告に従いIさんは、中学
校で使った英語の教科書をすべて暗記してしまったと聞く。
「大学で、何を学ぶか」を考え始めてから、話がここまで来てしまっ
た。この問いは、高校までの解答が一つしかない問題とは異なり、種々
の解答があって当然なのだ。大学には色々な考えを持つ学生や多様な専
門分野の教員がいるように、大学で何を追及するかも、1人1人が違う
答えを出してもよい。言語習得にも色々な方法があり、参考になればと
思い、いわゆる「英語の達人」も紹介した。イチロー君にとって重要な
のは、このような多くのオプションの中から、自分で自分の答えを「選
択、決断、そして実践」することだ。
今回、一般・専門教育と言語習得という観点から話を進めてきたが、
イチロー君以外の学生にも参考になったかと思う。論理的に「基礎」か
ら「専門」という順序は正しいが、逆に専門をやるときに、基本的知識
が繰り返し復習され、またそれが専門研究に役立っているのだ。また大
16――
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学で自分のやりたいことの選択と決断ができたら、次はその実践のみ!途
中でくじけてしまっても、またそこから自分自身の山を構築すればいいの
だ。そこで最後に再び、先輩名誉教授Hさんのアドバイス、「山の裾野を
大いに広げよう」をイチロー君に贈りたい。そこに自分自身の山を積み上
げ、卒業式には、それぞれ自分自身の異なる山々を私たちに披露して欲し
い。
2)私の講義概要
イチロー君へ: 私は20 10年4月、専任として神奈川大学勤続26 年目
を迎えています。5月15日の創立記念日には学長室で勤続25年の表彰を
受けました。前任校は13年で退職し、勤続15年表彰を受けずじまいだっ
たので、今回はある達成感を持ったしだいです。専任以外に、非常勤講師
として青山学院大学で20年、フェリス女学院大学で10年、東京大学駒場
キャンパスで9年、玉川学園大学で9年勤務しました。この章では、過去
に開講した主な講義や演習の概要を提示し、私がそれぞれの講義で何を意
図したか振りかって見ましょう。大学で出版した講義要項には、シラバス
としてさらに詳細を載せているが、ここでは概要だけに限ります。その後
に、学生の目から見た私のクラスの記述も対比として掲載することにしま
す。
a)LL演習:「聞く・話す」
クラスの前半は、聴解力養成のため「放送英語」について市販のテキス
トとM Dで学び、その内容について 英語による質疑応答をする。 さらに最
近のニュース(NHKの多重放送)を扱い、受講生の聴解力を高めたい。
後半は、各自の選択したトピックで3分間スピーチをする。その後、質
疑応答を通して、学生のコミュニケーション能力の向上に努めたい。学期
末には、ディベートも導入したい。
評価法は、スピーチとディベートで4 0 %、毎週行う小テストが3 0 % 、そ
第1章 大学で何を学ぶか――17
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ18
の内容は、語彙テストとディクテーションとする。クラス内での英語に
よる質疑応答は30%とする。必然的に自宅でのテキストとMDでの予習、
復習が要求される。
b)英語音声学
音声学は言語音の総合的分析研究を目的とするが、本講では英語の音
声について、調音音声学の原理に基づいて、分析・記述し、その調音法
と表記法に習熟する。前期の 主な内容は、単音(子音 ・母音)から始め、
次に音声変化(音の連結・脱 落・短縮・同化)、最後にかぶせ音(アクセ
ント・リズム・イントネーション)などについて学び、さらに英語の方
言にも触れ、英語の音声全般に習熟したい。後期は、前期で学んだ言語
音の調音法と表記法の知識を使い、子音・母音の音声変化、さらにアク
セント・リズム・イントネイションを復習することにより、リスニング
やスピーキングに役立つ技能を修得することを目的とする。使用する教
材に載っている練習問題だけでなく、実際放送されているNHK多重放
送のニュースを使い、時事英語で頻繁に使われる新出単語の表記ならび
に意味理解に努め、さらにニュースの一部を聞き取るディクテーション
も行う。出席、クラスでの積極的参加、復習を重視する。
c)英語学演習
本演習の目的は、バイリン ガリズムについて教育的 、社会的、心理的、
文化的と多角的な観点から情報を得て、その理解を深めることにある。
前期の統一テーマは、「個人的・社会的バイリン ガリズム」で、後期の統
一テーマは、「バイリンガル教育と第2言語習得 理論」とする。上記の目
標達成のため、クラスでは各自が選択したトピックを口頭発表し、その
後発表に関する質疑応答を中心に討論を進めてゆく。学期末には、クラ
スで発表したテーマのレポートを提出してもらう。
d)大学院修士課程(講義)
本講義では、一貫テーマとして「言語習得」をかかげ、実証的研究の
18――
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成果を踏まえ、第2言語習得過程と理論を検証してゆく。隣接諸科学、
特に心理言語学、社会言語学の研究成果について言及しながら、最近の
言語習得理論の全体像を追及して行きたい。前期の主な課題は、1)第
1・第2言語研究の変遷、2)形態素・音素・語彙の習得順序、3)統
語(否定文、疑問文、関係代名詞など)の習得段階、4)習得モデル
(インプット仮説、インタラクション仮説、アウトプット仮説、応化理論、
文化変容など)である。予習は大前提で、クラス内では自主的で活発な
発言を歓迎する。
後期の主な課題は、 1)学習者要因(情意要 因、認知要因)、2)年齢
要因(臨界期説、敏感 期説など)、3)早期英語教育の是非、4) 教室内
研究、5)言語テスト と第2言語習得(テスト の種類、信頼性、妥当性 、
統計処理)などである。予習は大前提で、クラス内では自主的で活発な
発言を歓迎する。
e)大学院博士過程(講義)
本講義の目的は、第1に第2言語習得研究一般に関する原書、さらに
専門誌に掲載された研究論文を読むことにより、専門的知識を深めるだ
けでなく、原書を読みこむ語彙力と文法力を伸ばすこと。第2に各自の
博士論文テーマに関する文献を収集し、クラスで輪読することにより、
専門化された論文を読破、批評できる能力の養成に努めること。課題と
して、クラスで読破した論文の批評レポートを提出し、最終的には、各
自博士論文文献批評(literature review)として提出してもらう。
f)大学院修士課程(演習)
本演習の目的は、2年間の履修を通し修士論文を作成すること。1年
目の目標は、第1に第2言語習得研究法の論文を読破することにより研
究法の理解を深め、第2に専門誌に掲載されている第2言語習得研究論
文を批判的に読み、各 自の修士論文テーマを見 つける。2年目の目標は 、
第1に修士論文計画書を立案し、それに基づいたデータ収集を実施、そ
の結果を論文としてまとめあげる。
第1章 大学で何を学ぶか――19
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ20
g)大学院博士課程(演習)
本演習の目的は、3年間の履修を通し博士論文を作成すること。1年
目の目標は、第2言語習得研究に関する著書を読破し、また専門誌に掲
載された研究論文を批判的に読み、各自の博士論文テーマを見つける。
2年目の目標は、博士論文パイロット計画書を立案し、それに基づいた
研究を実施し、パイロット研究計画書の自己評価をする。3年目の目標
は、パイロット研究計画書の問題点を踏まえ、正式に博士論文計画書を
作成し、データ収集をし、結果分析と考察をまとめ、博士論文として完
成する。なお、在学3年間のうちに、神奈川大学英文学学会または外部
学会で各自研究発表をし、さらに論集を学会誌に掲載することが期待さ
れている。最後に、各学年の後期は、基本的に前期に体験した論文批評
を踏まえ、パイロット研究計画書の作成、または正式な博士論文計画書
作成に時間を当てる。
イチロー君へ:今これらの講義概要を読み返してみて、どう思いまし
たか? いかめしい授業のよ うに聞こえましたか? 簡 単そうなクラス、
受講したくなるクラスはありましたか? イチロー君は、実際どのクラ
スを受講しましたか? 概要と実際の講義とのギャップはありました
か? 当時の学生はどのように、 私の演習を見ていた か、下記の学生によ
る私のゼミの記述を読んで、イチロー君の感想と比較してみてください。
3)学生から見た私の授業(注2)
a) 「石黒先生のゼミ紹介1」(文責:江崎裕子):
私たち石黒ゼミでは、「言語習得」をテーマに 実践と理論の両面から研
究を進めています。それでは、早速私たちの演習を覗いてみましょう。
教員であられる石黒敏明先生はいつも授業の始まりのチャイムが鳴ると
20――
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同時に教壇に立っていらっしゃる、といっても過言ではないほど、授業
に対して非常に真摯な姿勢を保っていらっしゃる方です。先生の熱心さ
とは裏腹に、残念ながら、学生たちは他の講義と同じように始めのうち
はだいぶ空白の椅子が目立ちますが、出席が取り終えられる頃には、ほ
とんどの学生が期待に胸を膨らませて(!?)ゼミの教室に集まってきます。
さて、そんな時です。急にまるで、江戸時代にでもタイムスリップし
たかのような気分になるのは。
「オヌシの名前は?」(遅刻してきた学生を指して)
「あれ、あのへんに 忍者がひそんでいるな。」(さらに遅れてきた 学生に気
づいて)
石黒先生は、カリフォルニア州のスタンフォード大学大学院で研究な
さった方で、さすがにアメリカ生活が長いためか、たまにかなり時代錯
誤な(! ?)日本語を使われるので、初めは戸惑いを覚えた学生もいたよう
ですが、最近では、かえってそのような口調がほほえましく感じられ、
先生に対する親近感がより深まる想いがします。
次に授業の内容
についてですが、
まず恒例の「今週
のニュースのキー
ワード」がいくつ
か挙げられ、キー
ワードにまつわる
単語や意見の交換
が行われます。先
生はいつも、大学
生は卒業までに多
重放送の英語ニュ
ースや英字新聞を
青学の卒業生たちと。神奈川大学保養所で合宿
第1章 大学で何を学ぶか――21
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理解できるほどの実力をつけ 、日頃から少しずつ「聞 く」「読む」努力を
するようにと、私たちを激励 して下さっており、この ことを反映してか、
学生の中には実際に英字新聞を持って来る人も見かけるようになりまし
た。
確かに単語や熟語を覚えたからといって、すぐに「言語習得」につな
がらないかもしれませんが、時事英語の理解を深めるためには、やはり
重要語句をマスターすることが必要だと思われます。通常の授業では学
生の挙げたキーワードに相当する英語の語彙の意味、さらに、その語句
が英語圏の国々で実際にはどのように用いられているのか、といったバ
ックグラウンド的なことまで波及することが度々あります。
また、そのキーワードを、1)先生が説明して下さるのと同時に発音
のポイントを指摘してくださる、2)学生は発音記号を書き取り、それ
に関連した類義語もいくつか挙げる、3)語句の綴りは最後に辞書を使
って確認する、という作業も毎週行われるのですが、このことは実際英
語ニュースを聴き、見知らぬ語彙・表現に遭遇した際に大変役立ちます。
主な演習課題として、心理学(行動主義、認知主義)と英語教育、言
語学(構造言語学、変形文法、社会言語学)と英語教育が互いにどのよ
うに関連しあっているのか、また、第1言語、および第2言語の習得過
程や外国語を学習する際に起こる心理的要因や社会的背景についても分
析しています。第1言語・第2言語の習得過程に理論と実践の両面から
アプローチすることをテーマに掲げていますが、言語とは何か、英語と
はどういう言語か、そもそも私たちは言語というものをどのように習得
していくのか、ということに関心を持っていらっしゃる方には本当に学
び甲斐のあるゼミだと思います。
ここまで、目を通してくださった皆さんの中には、応用言語学ってな
んだか取っ付きにくそうだな 、と思われた方もいるか もしれません……。
しかし、心配にはおよびませんよ! 豊富な海外経験をお持ちの石黒先
生は、リラックスさせるのがとても上手な方なので、教室は自由に発表
できる開放的な雰囲気が漂っていて、先生の少し日に焼けた小麦色の肌
(! ?)と口ひげからは、思わずラテン・アメリカを連想させられます。ま
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さか半年も経って、「そこの忍者」「オヌシの名前は?」などとつっこまれ
ないためにも、受講者の皆さんは活発に授業に参加するようにしましょう
ね。(ちなみに私は江崎どのと呼ばれています。笑)
なお、本年度は Patsy Lightbown, Nina Spada 著の How Languages are
Learned? を参考テキストにして、毎回先生が準備されたハンドアウトに
沿って基本的には講義形式で進められていますが、授業中最も歓迎される
ことは、やはり学生自らが互いに意見を交換することにあると言えます。
すごい方なのに、いつもとても気さくに接して下さる石黒先生、そして、
言葉と言うものに“広くて深い”関心を抱いている、仲間たちと一緒に教
室で語り合いましょう。それらの経験がどんなにか学生生活の糧を豊かに、
より充実したものにしてくれることでしょう。
b)「石黒先生のゼミ紹介2」(文責:大木 理恵):
私達石黒ゼミの中心テーマは、「言語習得」です。英語を第1言語とし
て学ぶ時の習得過程を追いながら、英語とはどういう言語か、そもそも人
間はどのような過程を経て言語を習得していくのか、ということを勉強し
ます。使用テキストは、O'Grady W., M. Dobrobosky and M. Aronoff.による
Contemporary Linguistics からの抜粋です。前半では、音声学、英語学、言
語習得理論などを学習します。後半では、統合的に見た言語発達を学習す
る予定です。かなり密度の濃い内容です。
授業は、能動的な参加を要求されるため、予習が必須です。具体的に言
うと、毎回、テキストの2∼3頁分を、十分読み砕いてくる必要がありま
す。予習をしてこないと、授業で何が話題になっているか分からなくなる
ばかりか、年度末に自分で自分の首を絞めることになります。
もう1つ、辛いことを申し上げれば、“He is punctual.”です。始業のベ
ルが鳴り終わる頃には、先生は既に出席を取るべく教壇の定位置にいらっ
しゃいます。休講はありません。
ここまで読むと、「相当タフ」なゼミであるように思われるかもしれま
せんが、授業そのものは、とても和やかな雰囲気で進められます。先生は、
学習者をリラックスさせるのがとても上手な方ですので、かなり流暢な英
第1章 大学で何を学ぶか――23
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ24
語と、南・東北地方アクセントの混じった日本語でクラス全体をノセ、
学生の自由な発言を促して下さいます。ご自身が留学時代に米国で経験
したことや夏休みに旅行した時に遭遇したことなど、笑いを誘うエピソ
ードが講義の合間にうまく散りばめられ、9 0分があっという間に過ぎ去
っていきます。
以上のことをまとめると、石黒ゼミは次のような方に適していると言
えます。楽しく勉強しながら英語力を付けたいと思っている人、英語教
育に非常に興味のある人、言語学に興味のある人、第1言語及び第2言
語習得理論を学習したいと思っている人。最後に、先生は遅刻してきた
生徒に対して「そこの忍者、オヌシは誰だ」と言って攻撃するので、授
業には手裏剣が必須アイテムです。
c)「石黒先生のゼミ紹介3」
(文責:石田鈴乃):
本年度の石黒ゼミのテーマは「言語習得」です。日本や海外における
第2言語習得や早期英語教育の現状について心理言語学研究成果を参考
に追及します。
毎回の授業は、英字新聞を用いて、時事問題の時事の英語(特に専門
的用語)をピックアップし、その意味を私たちに考えさせることから始
まります。例えば、今年世界中にその猛威を広げた「豚インフルエンザ」。
日本語で「ブタ」と言えば初めに“pig”を想像しませんか? しかし、英字新聞では“swine flu”という言葉を使っています。また、
より適切な語彙や表現を用いるために、関連する新しい単語とすでに知
っている単語を列挙し、神経細胞のようにどんどん繋げていくことで、
語彙の幅を広げることができる、マインド・マップという語彙習得法を
教えてくださいます。先生は、何気ない会話の中でもすかさず英語では
どう表現するかという質問を投げかけるので、日常生活から英単語に敏
感になります。
第2言語習得の勉強に関しては、テキストの中から1人1項目ずつ選
び、そのテーマに対して授業で習ったことを踏まえ、自分なりに研究し
発 表し ます 。評 価方 法 は各 テー マに つい て の小 レポ ート と口 頭 発表
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(6 0%)、クラス参加(2 0%)、出席(2 0%)となってい ます。先生はどん
なに小さな質問にも、私たちが理解するまで何度も教えてくださいます
し、発言する場を設けてくださるのでとても充実しています。
本年度は、少人数ということもあってか非常にアットホームな雰囲気
で、時折冗談を交えながら自慢の息子さんの話や、最近のニュースにつ
いて話をしてくださり、楽しく講義を受けています。先生の優しい笑顔
に癒されること間違いなしです! また、言語習得について興味ある方
はもちろん、先生は音声学の講義もなさっていますし、授業内で日本の
英語教育について研究する事が多いため、音声学に興味のある方や、教
員を目指している方には特に石黒ゼミをお勧めします!
d)「石黒先生の卒業研究紹介」:(2006年4月14日):
以前、神奈川大学でのゼミ説明会で、私のゼミ説明を大学院生(T
君&O君)に依頼したことがありました。学生の希望と私の方針の間に
ギャップがないようにとの思いから、ゼミ説明のアウトラインを準備し
大学院生に説明を願いました。
1.石黒先生の教育方針
「よく学び、よく遊ぶ」
(勉強しない者は、遊ぶ資格なし!)
「よく出席し、よく発言する」(質疑応答に参加できない人は、私の学生
でなし!)
「在学中は年賀状なし! 卒業後こそ年賀状を!」
2.説明会に参加し た学生に、卒業論文集『 げんごろう』(石黒研究室
出版)を配布する。(『げんごろう』という名称は、ゼミ1期生が名づけ
たもので、「言語ろう!」から来ているらしい。毎年ゼミ論集を出版し、
後輩に先輩の論文を紹介している。)
3.卒研の紹介(発表方法:前期は『げんごろう』から興味ある論文
の報告、後期は各自興味ある本を読んで発表;各週3名、それぞれ30分
ぐらいの発表と質疑応答;合宿:長野県富士見研修所で1回&希望の場
第1章 大学で何を学ぶか――25
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ26
所での合宿1回?;飲み会:随時;英語のカラオケも大歓迎)
4.幹事、副幹事、会計係(飲み会)を決定
5.名簿作成?(携帯番号? 携帯アドレス? 帰省住所?)もし作
るなら誰が? 次週まで!
教師からのメールは幹事か副幹事へのみ。幹事が各自に連絡する。も
し、メールを希望する学生がいたら、学生の方からすること。
「セクハラ:言葉や行動で、相手 が性的に不快感をおぼえ れば、それを与
えた人の意図に関わらず、その人はセクハラ。パワハラも同じ。」
6.課題:3年の12月までに、1 0ページ程度のレポート提出。4年次
は、1 2月第2週までに、2 5ページの論文提出、所定の表紙を生協で購入
する必要あり。
イ チロー君へ:大学に入学した新入生は、私の講義概要だけでなく、
他の講義概要も熟読したことでしょうね。イチロー君は、講義概要をよ
く読みましたか? それから、どのよう にして自分の受ける 講義や演習を
選択したのかな? 先輩からの助言を鵜 呑みにして受講した のではないで
しょうね。私はイチロー君と新入生に、初めに載せた「選択・決断・実
践」の助言を再度喚起して、この章を閉じることにします。
注 (注1)毎年新入生のために神奈川大学で出版する小冊子『学問への誘い』
2000年版と2001年度版に掲載された記事。
(注2)青山学院大学英文学会で出版している『会報』に載ったゼミ紹介文。
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第2章 外国語学部・英語英文学科イベント
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第2章:外国語学部・英語英文学科イベント
イチロー君へ:大学が主催するイベント、特に講演会やシンポジウム
などに、君は参加するほうですか ? 私はクラスの初めに、 今度開催され
る行事などを紹介し受講生に参加することを奨励します。そして次週の
クラスでイベントに参加したかを尋ねると、残念な結果が多かったよう
な気がします。この章では、私が責任者となったイベントを紹介するの
で、君の体験と比較しながら読んでみてください。
1)外国語学部設立40周年記念国際シンポジウム:
アジアにおける英語と文化の多様性(注3)
神奈川大学1 6号館セレスト・ホールにおいて、2 0 0 4 年度1 1月2 0日(土)
午後1時から4時まで、外国語学部4 0周年記念国際シンポジウムが開催さ
れた。アジアからの専門家5名を招き 、「アジアにおける 英語と文化の多
様性」というタイトルのもと、各国の多様な文化背景や英語の地位に関
する発表があり、また活発な質疑応答も行われ、充実したシンポジウム
を終了することができた。本稿では、シンポジウムでのパネリストの発
表を中心に振り返り、最後に全体の評価を加え今回のシンポジウムのま
とめとしたい。
実行委員会の発足:
学部長の企画で始まった4 0周年記念国際シンポジウムは、初め主任会
議で数回討議されていたが、その後学部長が学科の枠を越え、教授会で
4名の実行委員を選出した(英語部会の水野晴光、広瀬富男、中国学科
のホウ・コクヤク、英語英文学科の石 黒敏明)。第1回の実行委員会では
学部長を含め5名の参加者が、実 行委員長として石黒、事 務局代表として
28――
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広瀬を選出し、さらにシンポジウムのテーマや主旨について討論した。
第2回の実行委員会からは、実行委員にスペイン語学科から青木康征を
迎え、5名体制になった。第3回実行委員会では、シンポジウムの趣旨
が次のように提案された。
趣旨:アジアには、諸部族言語以外に英語を公用語と認定している諸
国もあれば、外国語として教育の場で1科目として扱う国々もある。大
学教育の場で教授言語として英語を使用している国もある一方、教授言
語は母国語で行われ、英語は使用言語というより、むしろ純粋に研究対
象として扱われている場合もある。また、英語教育が以前から小学校か
ら始まっている国々もあれば、最近小学校に導入された国もあり、アジ
アにおける英語教育と国際語(公用語)としての実態は多様性に満ちて
いる。
神奈川大学外国語学部設立40周年を迎えるにあたり、
「国際語(公用語)
としての英語」、「標準英語」対「英語変種」、「第1言語の言語維持・移
行」の観点や「早期英語教育肯定・否定」の立場などを議論し、アジア
における英語の実態を明らかにするのが、今回のシンポジウムの趣旨で
ある。それぞれの国の言語政策や諸民族のアイデンティティの問題もあ
り複雑な状況の中、各国のパネリストとの意見交換を通し、将来の神奈
川大学での英語教育な らびにアジアでの英語教 育、「国際語」にあ る方向
性を見出せれば今回のシンポジウムの目的が達成すると考えられる。
その後、パネリストとして5名の候補者が上がり、事務局の広瀬が招
待状をアジア諸国の先生方に7月2 1日に郵送した。日本代表して青山学
院大学国際政治経済学部教授、本名信行氏、中国は復旦大学外国語言文
学学院教授、熊学亮氏、韓国は、一橋大学大学院言語社会研究科教授、
イー・ヨンスク女史、フィリピンは、筑波大学大学院地域研究研究科教
授、レスリー E. バウソン氏、最後にシンガポールは、言語教育研究所所
長、フー・ チィー・ ヤェン氏。あいにく、夏休みに入った時期でもあり、
候補者からの返事がなかなか実行委員長に届かず心配させられたが、最
第2章 外国語学部/英語英文科イベント――29
石黒論文2 11.1.16 6:57 PM ページ30
終的には全員にシンポジウムの参加を承諾していただいた。
外国語学部設立40周年記念国際シンポジウム:
本シンポジウムは、司会鳥越輝昭教授(神奈川大学外国語学部)によ
る開会の辞で始まった。
司会の挨拶(抜粋):
私たちは、今言語の面で、1000年に一度起こるか起こらないかの大きな
変化に遭遇しているのかもしれません。2000年前、ローマ帝国が、近東
から北アフリカ、西ヨーロッパへ支配 地域を広げて行きました 。その際、
帝国の西半分では、ローマ人の言葉であるラテン語が話し言葉として広
まり、広い地域でビジネスや政治にコミュニケーションの道具として使
用されたのです。
現在の私たちの周りで、英語に関して、昔ラテン語に起こった現象が
再現されているようです。学問の領域では、理工系、社会系、人文系の
分野でも学会では英語で討論され、論文や著書においては、英語での出
版が増えてきたようです。また同様な大変化が、ビジネスの世界でも起
こっているようです。すなわち、現代の世界では、英語を母語としない
人との間で英語を使ったコミュニケーションの機会が増したということ
なのでしょう。
100年前日本の社会で は、岡倉天心や新渡戸稲造など のように、少数の
エリート層だけが、英語に堪能だったようです。今では、それよりはる
かに広い層の人たちが、英語を使って仕事をしなければなりません。そ
の結果、日本の社会に押し寄せてきている英語と、どのように向き合え
ば良いか、英語をどのように習得すればよいか、どのように教えればよ
いのかが、広い範囲で現実の課題になっています。
言語は1人の個人にとっても、また民族にとっても、アイデンティテ
ィーの中心にあるデリケートな存在で、慎重な取り扱いを必要とするも
のです。本日のシンポジウムには、日本も含めアジアの諸地域から、言
語問題に関する専門家をパネリストと してお招きすることが出 来ました。
30――
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