ペンローズ過程
ペンローズ過程に触れるために、まずはカー時空での有効ポテンシャルを導出します。カー・ニューマン時空のほ
うでやったほうがいいんですが、面倒なのでカー時空で行います。
簡単にするために赤道軌道 (θ = π/2) のみにして、カー時空での粒子の軌道を求めます。
ds2 = (1 −
ρ2 + a2 cos2 θ 2
2mρ
2
)(cdt)
−
dρ − (ρ2 + a2 cos2 θ)dθ2
ρ2 + a2 cos2 θ
a2 + ρ2 − 2mρ
−[(a2 + ρ2 ) sin2 θ +
2mρa2 sin4 θ
2mρa sin2 θ
2
]dϕ
cdtdϕ
−
2
ρ2 + a2 cos2 θ
ρ2 + a2 cos2 θ
= (1 −
2m
ρ2
2ma2
4ma
)(cdt)2 − 2
dρ2 − [(a2 + ρ2 ) +
]dϕ2 −
cdtdϕ
2
ρ
a + ρ − 2mρ
ρ
ρ
= (1 −
2m
2m a2 −1 2
2m
4ma
)(cdt)2 − (1 −
+ 2 ) dρ − [ρ2 + a2 (1 +
)]dϕ2 −
cdtdϕ
ρ
ρ
ρ
ρ
ρ
これがカー・ニューマン計量なら
ds2 = (1 −
2mr − e2
r2
(2mr − e2 )a2
(2mr − e2 )a
)(cdt)2 − 2
dr2 − [(r2 + a2 ) +
]dϕ2 − 2
cdtdϕ
2
2
2
2
r
r + a − 2mr + e
r
r2
このようになります。r と ρ は同じものです。
変分問題を考えます。今の場合では
Z
2m
2m a2 −1 2
2m 2 4ma
δ [(1 −
)(cṫ)2 − (1 −
+ 2 ) ρ̇ − [ρ2 + a2 (1 +
)]ϕ̇ −
cṫϕ̇]ds = 0
ρ
ρ
ρ
ρ
ρ
オイラー・ラグランジュ方程式
d dF
dF
= i
ds dẋi
dx
を使うことで、時間成分は
d
2m 2
4ma
[2(1 −
)c ṫ −
cϕ̇]
ds
ρ
ρ
2m
2ma
(1 −
)cṫ −
ϕ̇
ρ
ρ
=
0
= cl
ϕ 成分は
d
2m
4ma
[−2[ρ2 + (a2 +
)]ϕ̇ −
cṫ] = 0
ds
ρ
ρ
2m
2ma
[ρ2 + a2 (1 +
)]ϕ̇ +
cṫ = h
ρ
ρ
よって必要な方程式は
1
・(1 −
2m
2ma
)cṫ −
ϕ̇ = cl
ρ
ρ
・[ρ2 + a2 (1 +
・1 = (1 −
(1a)
2m
2ma
)]ϕ̇ +
cṫ = h
ρ
ρ
(1b)
2m a2 −1 2
2m
2m 2 4ma
)(cṫ)2 − (1 −
+ 2 ) ρ̇ − [ρ2 + a2 (1 +
)]ϕ̇ −
cṫϕ̇
ρ
ρ
ρ
ρ
ρ
(1c)
カー・ニューマンでは
・(1 −
2m e2
2m e2
+ 2 )cṫ − a(
− 2 )ϕ̇ = cl
r
r
ρ
r
・[r2 + a2 (1 +
・1 = (1 −
2m e2
2m e2
− 2 )]ϕ̇ + a(
− 2 )cṫ = h
r
r
r
r
2m e2
2m a2
e2
2m e2 2
2m e2
+ 2 )(cṫ)2 − (1 −
+ 2 + 2 )−1 ṙ2 − [r2 + a2 (1 +
− 2 )]ϕ̇ − a(
− 2 )cṫϕ̇
r
r
r
r
r
r
r
r
r
になります。l は無限遠での µc2 によって割られた粒子のエネルギーです。そして、(1) は ρ が大きく、a, e が無視
できるならシュバルツシルトと同じにできます。
(1a) を ϕ̇ の式に変形させて
ϕ̇ = −
ρ
ρ
2m
cl +
(1 −
)cṫ
2ma
2ma
ρ
同様に(1b)で cṫ について変形すると
cṫ =
ρ
ρ
2m
h−
[ρ2 + a2 (1 +
)]ϕ̇
2ma
2ma
ρ
(1b) に代入することで cṫ は
[ρ2 + a2 (1 +
clρ
2m ρ
2ma
2m
)][−
+ (1 −
)
cṫ] +
cṫ
ρ
2ma
ρ 2ma
ρ
2m 2
2m
2ma 2
(1 −
)[ρ + a2 (1 +
)]cṫ + (
) cṫ
ρ
ρ
ρ
2m
[a2 + ρ2 (1 −
)]cṫ
ρ
=
h
=
cl[(ρ2 + a2 (1 +
=
よって
Dcṫ = cl[(ρ2 + a2 (1 +
2ma
2m
)] +
h
ρ
ρ
D = a2 + ρ2 (1 −
2
2m
)
ρ
2m
2ma
)] +
h
ρ
ρ
ϕ̇ は(1a)に代入することで
(1 −
2m
ρ
ρ
2m
2ma
)[
h−
[(ρ2 + a2 (1 +
)]ϕ̇] −
ϕ̇ =
ρ 2ma
2ma
ρ
ρ
2m
[a2 + ρ2 (1 −
)]ϕ̇ =
ρ
cl
−
2ma
2m
cl + (1 −
)h
ρ
ρ
これも D を使うことで
Dϕ̇ = −
2m
2ma
cl + (1 −
)h
ρ
ρ
cṫ と ϕ̇ を(1c)に代入するんですが
x = (1 −
2m
2m
2ma
) , y = [ρ2 + a2 (1 +
)] , z =
ρ
ρ
ρ
計算の利便性の為にこのような置き換えをして
x(cly + hz)2
ρ2 ˙2 y(−clz + hx)2
2z(clx + hz)(−clz + hx)
ρ −
−
−
=1
D2
D
D2
D2
これを ρ̇2 について変形させて
x(c2 l2 y 2 + h2 z 2 + 2clhyz) y(c2 l2 z 2 + h2 x2 − 2clhxz)
ρ˙2 =
−
ρ2 D
ρ2 D
−
2z(−c2 l2 yz + h2 xz − clhz 2 + clhxy)
D
− 2
ρ2 D
ρ
µ2 をかけて
µ2 ρ̇2 =
(µ2 c2 l2 xy 2 + µ2 h2 xz 2 + 2µ2 clhxyz) (µ2 c2 l2 yz 2 + µ2 h2 x2 y − 2µ2 clhxyz)
−
ρ2 D
ρ2 D
−
D
2(−µ2 c2 l2 yz 2 + µ2 h2 xz 2 − µ2 clhz 3 + µ2 clhxyz)
− 2
ρ2 D
ρ
エネルギー E と角運動量 L である

E = µlc3

 L = µhc
EL = µ2 hlc4
これらを使うことで
3
µ2 ρ̇2
=
=
=
µ2 l2 c6 (xy 2 + yz 2 ) µ2 h2 c2 (−xz 2 − x2 y) µ2 hlc4 (2xyz + 2z 3 ) µ2 D
+
+
− 2
c4 ρ2 D
c2 ρ2 D
c3 ρ2 D
ρ
E 2 y(xy + z 2 ) L2 x(z 2 + xy) 2ELz(xy − z 2 ) µ2 D
−
+
− 2
c 4 ρ2 D
c2 ρ2 D
c3 ρ2 D
ρ
2 3
2
2
1 E [ρ + a (ρ + 2m)] L (2m − ρ) 4maEL
[
+
+
− µ2 ρ2 (ρ − 2m) − a2 ρµ2 ]
ρ3
c4
c2
c3
この式はシュバルツシルトでの有効ポテンシャルを一般化したものになり、a = 0 で一致させられます。今の場合
は EL という混ざった項が生じているために、二つの有効ポテンシャルを定義でき
µ2 ρ̇2 =
1
(E − V+ )(E − V− )
c4
このようにすることができます。転回点 ρ̇ = 0 で V = E となるので V± は
[ρ3 + a2 (ρ + 2m)] 2 4maL
L2 (2m − ρ)
E +
E+
− µ2 ρ2 (ρ − 2m) − a2 ρµ2 = 0
4
3
c
c
c2
これを解の公式によって解いてやることで
V± =
−2maLc ± [(2maLc)2 − {ρ3 + a2 (ρ + 2m)}{c2 L2 (2m − ρ) − c4 µ2 ρ2 (ρ − 2m) − c4 a2 ρµ2 }]1/2
[ρ3 + a2 (ρ + 2m)]
分子は
1/2
−2maLc ± (2maLc)2 − {ρ3 + a2 (ρ + 2m)}{c2 L2 (2m − ρ) − c4 µ2 ρ(ρ2 + a2 − 2mρ)}
= − 2maLc ± (2maLc)2 − c2 L2 (−ρ4 − a2 ρ2 + 4m2 a2 + 2mρ3 )
1/2
+ c4 µ2 ρ(ρ2 + a2 − 2mρ)(ρ3 + a2 (ρ + 2m))
= − 2maLc ± [c2 L2 ρ2 (ρ2 + a2 − 2mρ) − c4 µ2 ρ(ρ2 + a2 − 2mρ)(ρ3 + a2 (ρ + 2m))]1/2
= − 2maLc ± [(ρ2 + a2 − 2mρ)]1/2 [c2 L2 ρ2 + c4 µ2 ρ(ρ3 + a2 ρ + 2ma2 )]1/2
となるので
V± =
−2maLc ± [(ρ2 + a2 − 2mρ)]1/2 [c2 L2 ρ2 + c4 µ2 ρ(ρ3 + a2 ρ + 2ma2 )]1/2
[ρ3 + a2 (ρ + 2m)]
(2)
これがカーでの有効ポテンシャルになります。ここまでくると電荷 e がどこに入ってくるかなんとなく予想できそ
うですが、カー・ニューマン時空では
V± =
−aLc(2m −
e2
r )
± [(r2 + a2 − 2mr + e2 )]1/2 [c2 L2 r2 + c4 µ2 r(r3 + a2 (r + 2m −
r3 + a2 (r + 2m −
4
e2
r )
e2 1/2
r )]
このようになります。e = 0 でカー時空と一致します。ここで ρ が大きいとすれば
V± ⇒
±ρ[c2 L2 ρ2 + c4 µ2 ρ4 ]1/2
⇒ ±µc2
ρ3
よって古典的な結果を一般化したものになっていると考えられます。また、a = 0 として符号を + に選べば
V+
=
=
=
=
[(ρ2 − 2mρ)]1/2 [c2 L2 ρ2 + c4 µ2 ρ4 ]1/2
ρ3
s
(ρ2 − 2mρ)(c2 L2 ρ2 + c4 µ2 ρ4 )
ρ2 ρ4
s
2m c2 L2
(1 −
)( 2 + c4 µ2 )
ρ
ρ
s
2m µ2 h2
)( 2 + µ2 )
c2 (1 −
ρ
ρ
となるのでシュバルツシルトの場合とちゃんと一致します。
ここまではカー時空一般での話でしたが、ここからペンローズ過程の話に入っていきます。シュバルツシルトで
の有効ポテンシャルは r > 2m で明らかに正になりますが、カーではそうなっていないことがペンローズ過程への
発想につながります。実際にブラックホール半径となる ρ2 + a2 − 2mρ = 0 では
V+ =
−2maLc
ρ3 + a2 (ρ + 2m)
これはもし a, L が同じ符号であればマイナスになります。そして a はブラックホールの角運動量 J とは逆向きな
ので、マイナスになるのは物体の角運動量 L が J と反対になる時です。つまり、ブラックホールと逆向きに回転
する粒子に対してマイナスのエネルギーを許すことになります。マイナスのエネルギーが許されるということに
より特殊な性質を考えることができます。例えば始めに E1 というエネルギーを持っている粒子が二つに分離し、
E2 , E3 となったとします。エネルギー保存則より E1 = E2 + E3 が成り立つので、もし E2 がマイナスであれば
E3 は E1 よりも大きくなります。つまり、このことを利用すればブラックホールからエネルギーを取り出せるこ
とになります。また、取り出すエネルギーというのはブラックホールの回転エネルギーなので、エネルギーを取り
出しきったとすればブラックホールの回転はなくなります。この回転ブラックホールからエネルギーを取り出す過
程をペンローズ (Penrose) 過程と呼びます。現実にエネルギーを取り出そうとすると問題がいくつかありますが、
取り出す方法はいろいろと考えられており実際に取り出すのは可能な様子です。
それではこんなことがどの範囲で起こるのか見てみます。(2) で簡単に計算できるように、µ を 0 だとし光子に
してやると
V+ = −2maLc +
p
(ρ2 + a2 − 2mρ)ρ2 L2 c2
V+ がマイナスもしくは 0 になる範囲は
4m2 a2 L2 ≥ (ρ2 + a2 − 2mρ)ρ2 L2
このとき、V+ = 0、つまり最大の ρ は ρ = 2m です。よって、光子に対してマイナスの全エネルギーとなること
√
を許す範囲は m + m2 − a2 と 2m の間だということになります。このことは赤道軌道のみでなく一般化するこ
5
とができ、その時の範囲は地平面 ρ+ と無限赤方偏移面 ρ+∞ の間だということになり、カー・ニューマンブラッ
クホールでも同じことです。つまりエルゴ領域で起こる現象です。
では、回転ブラックホールからどれだけのエネルギーを取り出せるのか調べてみます。調べるのに必要なもの
としてホーキング (Hawking) の表面積定理というのがあり、これはブラックホールの表面積は始状態よりも小さ
くならないというものです。この定理を使うためにはカーブラックホールの表面積を知らなくてはならないので、
求めてやります。表面積を求める式は、体積を求める式を変形させればいいだけで
Z
Z
2π
A=
π
dϕ
0
√
dθ −g
0
√
√
−g → g になり、g22 , g33 だけで行列式を作ります。そして、ブラックホールの表面
というのは地平面のことになるので、地平面の半径 (∆ = 0)として行列式を求めれば
空間成分のみになるので
Z
AKerr =
Z
2π
dϕ
0
0
π
dθ(ρ2+ + a2 ) sin θ = 4π(ρ2+ + a2 ) = 4π[(m +
p
m2 − a2 )2 + a2 ]
これがカーブラックホールの表面積になります。そして、始状態のブラックホールは最大の角運動量を持っている
とし、終状態としては回転の止まったシュバルツシルトブラックホールになるとして考えます。ということはシュ
バルツシルトブラックホールの表面積が必要で、それはカーブラックホールで a = 0 にしたものになります。本
当にそうなのか確かめたければカーの表面積と同じようにして求めてやればいいだけです。なのでシュバルツシ
ルトブラックホールの表面積は
ASch = 16πm2
√
m2 − a2 であるために、回転のパラメータは |a| ≤ m という制限をもつことになるので、最
大回転は a = m になります。よってそのときの表面積は
カーでは ρ+ = m +
A = 8πm2
という簡単なものになります。そうするとホーキングの表面積定理より
Af inal
≥
Ainitial
16πm2f
≥
mf
≥
8πm2i
1
√ mi
2
この関係によって取り出せるエネルギーには上限があることがわかり
1
∆E = mi c2 − mf c2 ≤ mi c2 1 − √
2
よって最大で最初のエネルギーの約 30 %のエネルギーを取り出せることがわかります。
同様にカー・ニューマンでも行ってみます。表面積は
6
Z
AKN =
Z
2π
π
dϕ
0
0
dθ(ρ2+ + a2 ) sin θ = 4π(ρ2+ + a2 ) = 4π[(m +
p
m2 − a2 − e2 )2 + a2 ]
これの回転最大での状態は a2 ≤ m2 − e2 より
Ainitial = 4π(2m2i − e2 )
今度は回転が止まればライスナー・ノルトシュトレームブラックホールになるので
ARN = 4π(m +
p
m2 − e2 )2
になります。これをホーキングの表面積定理にいれて
Af inal
q
(mf + m2f − e2 )2
q
m2f + mf m2f − e2
≥
Ainitial
≥
2m2i − e2
≥
m2i
m2f (m2f − e2 ) ≥
m2f
≥
mf
≥
m4i + m4f − 2m2i m2f
m4i
(2m2i − e2 )
mi
q
2 − ( mei )2
よって
2
2
2
∆E = mi c − mf c ≤ mi c
1
!
1− p
2 − (e/mi )2
また、回転最大をルートの部分が虚数にならないようにすることで決めていますがこれは、もし虚数が許されると
したら地平面は実数としては存在しない、もしくは現実に定義できないということになるためです。想像しやす
い言い方をすると回転が速くなりすぎて地平面がなくなり、地平面の内側にあった特異点が剥き出しになるとい
うことです。このように裸の特異点の存在は因果律をきれいに破ってしまうので物理としては困った状況になりま
す。そのためペンローズは裸の特異点は存在しないという宇宙検閲仮説 (Cosmic Censorship Conjecture) を考え
ました。それは特異点は全て地平面の内側にあり裸の特異点は存在しないという仮定です。仮説と言っているよう
に全く証明されていないものですが、因果律を守るためには有効な考えなので前提条件のように使われています。
ただし、重力崩壊によってブラックホールができる過程において、先に裸の特異点が現れてからブラックホール
になるという理論も存在しているので、宇宙検閲仮説なんか必要ないとする考えもあります。
7
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ペンローズ過程