初等中等教育の分野における教育バ
ウチャー制度と学校選択制
慶應義塾大学経済学部
赤林英夫
2007年12月5日
12:15~13:30
財務省財務総合政策研究所
ランチミーティング
•
•
Copyright (C) 2007. Hideo Akabayashi. All rights reserved.
このファイルの著作権は、赤林英夫が保有します。これらの文書、画像等を無断で使用すること禁じます。
学校選択とバウチャー
要旨
 米国・ヨーロッパ・南米等における学校選択・バウチャー
政策とその実証研究をサーベイする。
 現在の日本における議論と実証研究を紹介。
 ポイント





外国の経験から学ぶ際には、その国で公立学校・私立学
校がどのような地位を占めていたかに注意が必要。
学校選択・バウチャー政策を教育の自由化・規制緩和とと
らえることは出発点として誤り
日本での最大の論点は、私立学校の選択の自由をどこま
で制限するか、という点になる。
計画的なデータ収集がなければ政策の効果の検証は不可
能。
教育社会学者・経済学者の双方とも、自分たちの立場・も
のの見方にこだわりすぎ。
学校選択とバウチャー
参考文献
 赤林英夫 2007「的はずれな日本の教育バウチャー論
争」中央公論2月号. pp.206-215.
 赤林英夫 2007 「学校選択と教育ヴァウチャー 政策と
研究」市村・伊藤・小川・二神編『現代経済学の潮流
2007』pp.189-216(東洋経済新報社)
 Akabayashi, Hideo. 2007. “Average Effects of School
Choice on Educational Attainment: Evidence from
Japanese High School Attendance Zones.” Working
paper. (web 上で公開)
学校選択とバウチャー
教育の経済学
 教育の費用・効果分析(教育の収益率)
 個別教育資源の教育効果と代替性
 教員の給与、学位、経験、クラスサイズ、設備。
 均質なクラスか、多様性のあるクラスか
 学校経営の方法(ガバナンス)と教育効果
 学校レベルの意思決定、学校評議会、親の評価
 教員の給与や採用の裁量
 教育政策・学校市場設計と教育効果
 教員資格、カリキュラム、情報公開

学校間競争、私学補助(バウチャー)、補助金配分スキー
ム
学校選択とバウチャー
学校選択と教育バウチャー
 教育バウチャー(Education Voucher:)とは?

私立学校に通うための学費など、学校教育に目的を限定
した補助金を、受益者である子供(保護者)に直接支給す
る政策。
 学校選択(School Choice)」とは?
 わが国では、公立学校の通学区域の拡大や撤廃を意味。

国際的には、バウチャーによって私立学校の選択を容易
にさせることも含めた広い意味。
 公立学校の選択制や教育バウチャーの導入による教育
の選択肢の拡大は、世界的な潮流。
学校選択とバウチャー
米国におけるバウチャー論争
 トーマス・ペイン 「人間の権利」
子どもを学校に行かせることを条件とした補助金を提案。
 ミルトン・フリードマン 「資本主義と自由」
 米国の公立学校教育は非効率・低質で、その原因は、公立学校が廉価
な教育を独占しているからであるとし、教育の質を高めるために市場原
理を用いることを提案。
 私立学校にも、「バウチャー」の形で生徒の数に応じた補助をすべきこと、
公立学校の予算も生徒数を反映すべきであること、等を主張。
 ジェームズ・コールマン他 「高校生の教育達成度:公立、カソリック、私立学
校の比較」
 私立学校の教育生産性は、生徒の家庭環境の差を考慮したとしても、
公立学校よりもすぐれている、と主張。
 クリストファー・ジェンクス 「制約付きバウチャー」
 補助金は貧困家庭の子供に多くする、入学に対する条件をなくし生徒の
選抜は抽選を使う、学校は一定比率の少数民族の子供を受け入れ、バ
スなどの通学手段を提供する。

学校選択とバウチャー
米国におけるバウチャー論争
 米国の教育システム(州によって異なる)
基本的に6歳から16-18歳までが義務教育(公立は無料)。
 幼稚園から高校までの教育を”K-12”と呼ぶ。
 公立なら、居住地域によって通う学校はほぼ決まる。
 公立学校の行財政
 財政的に独立する学校区(school district)によって運営される。
 財源はその地域の固定資産税をベースに、若干の州からの補
助金や特殊教育に関する連邦政府からの補助金が加わる。
 学校区の選択により、教育の内容は大きく変わる。
 オルターナティブはどこに存在するか?
 チャーター制学校(charter school)と呼ばれる「自発的」公立学
校(2005年のK-12で約2%)。
 私立学校(2005年のK-12で約12%)は、従来、公的な補助を全
く受けてこなかった(政教分離)。
 反面、その設立に関する規制は非常に少なかった。

学校選択とバウチャー
米国におけるバウチャー論争
 なぜ、米国では、バウチャーが望まれているのか?


貧困家庭の多い地域は税収が不足教育の質が悪化。
豊かな家庭だけに選択肢がある貧困の固定化。
 なぜ、公立学校を充実させないのか?

底辺地域の公立学校に税金を投入しても何も変わらない、という認識。
 バウチャーは、一義的には低所得家庭向け



低所得の家庭の子供にも(生産性の高い)私立という選択肢を与える。
競争による効率性の上昇+公平性の促進
共和党(保守富裕層)と民主党(リベラル・マイノリティ)の両方にアピール。
 では、なぜ問題か?


人種間の融合を、教育・社会政策などの公的な枠組みの中で行おうとしてき
た経緯があり、「個人の選択」を公教育で認めることは方向転換。
私立学校(特に宗教系)への連邦政府の補助金が、連邦最高裁の憲法判断
によって禁じられてきたこと。
学校選択とバウチャー
バウチャー・学校選択がもたらす経済
理論的予想
 生徒と学校のマッチング(相性)の変化
 競争が学校の教育生産に変化を与える

学校・教師・生徒
 生徒間の外部効果(peer effect=友人効果)の
変化
学校選択とバウチャー
生徒と学校のマッチングの変化
 自分にあった学校を選ぶことができる。

生徒と学校間の(目に見えない)相性の向上
 (学校や教師に変化がなくても)教育の生産性に変
化
 学校間での階層化(sorting)と、学校内での均一性
(homogeneity)に影響を与える。
学校選択とバウチャー
競争が学校の教育生産に影響

教師へのプレッシャー拡大 による教育意欲向上





学校予算や教師の雇用保障が、生徒数や学校の評価にリンク
することで、教師の努力や時間配分に変化を与えたり、労働市
場での教師の供給が変わったりする。
開いた労働市場を想定すると、新たな人材の参入の可能性
学校内での生徒の均一化と教育効率の向上
自分が望む学校に入るために子供がより努力する。
常にプラス効果?





正しい指標を教育目標として競争すればプラス。
教育過程で数字になりやすい目標のみ強調した場合マイナス。
資質のある教師の自発的な教育意欲が阻害されればマイナス。
不正が発生すればマイナス
身分が保障されている公務員でも意欲が向上?
学校選択とバウチャー
生徒間の外部効果(peer effect)の変化

できる子どもができない子どもに与える良い影響
(プラスの外部性)と、できない子ができる子に与え
る悪い影響(マイナスの外部性)のどちらが大きい
か。
外部効果が「線形」かにどうかに依存
例えば
 非線形の「相乗効果」がある場合



学校の階層化は格差拡大を助長する。
しかし、学校の生産性自体は階層化により向上する。
学校選択とバウチャー
理論的予想の難しさ
 これらの効果の方向と大きさによって、社会全体
の教育達成度が向上するか、格差の拡大が起き
るかが決まる。
 しかし、理論的予想は、モデルとパラメータなど
の細部の設定に大きく依存(Neal 2002)。
学校選択とバウチャー
諸外国の教育バウチャー
 米国
 いくつかの都市(ミルウオーキー、クリーブランド、フロリダ
等で実施)ー抽選、低所得者中心
 チリ
 私立と公立の同等化ー私立は選抜、無料
 コロンビア
 抽選で低所得者に補助ー私立の学費の5-6割
 スウェーデン
 公立経費の85%を私立に補助ー選抜なし、無料
 オランダ
 私立の補助金は公立と同じー選抜無し、無料
 ニュージーランド
 私立と公立の同等化ー公立も選抜自由、無料
学校選択とバウチャー
ウィスコンシン州ミルウォーキー市
Milwaukee Parental Choice Program (MPCP)
 制度
 米国で最初の公的な教育バウチャー政策。
 1990年から現在まで




対象は低所得家庭のみで、当初は、宗教学校やすでに私
立に通っている子供は除外。
バウチャーを受け取る学校は、学費は無料とし、生徒の選
抜を抽選で行う必要がある。
初年度の参加校は7、生徒数は337人
2005年秋には、参加校125、生徒数1.5万人まで拡大
学校選択とバウチャー
ウィスコンシン州ミルウォーキー市
Milwaukee Parental Choice Program (MPCP)
 評価
抽選に落選した52%の生徒が、ミルウォーキーの公立学校に
戻ってこなかった。また、バウチャーを受け取って私立学校に通
い始めた子どもの54%もが、1年後、その学校を退学。
 彼らは事後的なテストデータに含まれないため、バウチャーの効
果の評価を困難にした。
 Greene, Peterson, and Du (1998)
 バウチャーを受け取った子供は、3-4年後に、分布の標準偏差の
0.1から0.5分だけの学力向上が、数学にも読解にも見られた。
 Witte (2000)
 どの科目についても、バウチャーの効果は認められなかった。
 Rouse (1998)
 バウチャーを受け取った子供には、数学について僅かな向上が
見られたが、読解には向上が見られなかった。

学校選択とバウチャー
オハイオ州クリーブランド市 Cleveland
Scholarship and Tutoring Program (CSTP)
 オハイオ州クリーブランドで実施された、2番目の公的なバウチャー政策。



当初(1995年)は、K-3が対象で、貧困基準の2倍以下の所得の家庭の子ど
もに最大2250ドル(学費の90%まで)、それ以上の場合は、1875ドル(学費の
75%まで)を支給。私立にすでに通っている生徒も対象。
現在は、高校入学後(9-12年生)も対象。
「明らかに公的な目的で平等に配布されている政府資金が、受け取った側
の選択で宗教系私立学校で使われたとしても、憲法違反ではない」という、
新しい最高裁判断。(Zelman v. Simmons-Harris case, June 27, 2002)。
 評価
 Greene, Howell, and Peterson (1998)


新設された学校に通い始めた生徒の数学と読解は、相対的に上昇。
バウチャーに当選して私立に行った生徒の親は、そうでない親よりも満足。
 Plucker et al. (2006)

6年生の時点の社会科と言語について、バウチャー学校に優位が見られる、
それ以前にこれらの教科について差は見られない、数学では、6年生以前
には、バウチャー学校が他の公立に比べて劣る。
学校選択とバウチャー
フロリダ州 A-Plus - Opportunity
Scholarship Program
 バウチャーを利用した学校情報開示政策
1999年から、州の統一テスト(FCAT) の平均に従って、各学校はAから
Fまでの「成績評価」を与えられる。
 過去4年間のうち2年でFの評価を与えられた学校の生徒は、私立学校
バウチャーを受け取り、私立学校に転出する権利を得る。
 初年度には78校がFをつけられ、その内の2校の生徒がバウチャーを
受け取り、何人かが私立学校へ転出。
 その翌年は4校のみがFランクとなり、前年にFをつけられた78校は一校
も含まれなかった。
 評価
 Greene(2001)
 Fを受けた学校が、その後最も大きく成績を向上させた、と評価。


州最高裁で、「公的資金を様々な質の私立学校に配分するのは、『公教育を
通じて均質な教育を提供する』と定めた州憲法に違反する」と判断され、
2006年夏に廃止。
学校選択とバウチャー
米国でのバウチャーの理解
 Neal(2002)


バウチャーに効果があるとすれば、それは、アフリカ系の生徒が公立から私
立に移った場合に、教育上のプラスの効果がある。
社会全体における効果は、バウチャーの設計の細部に決定的に依存する。
 Ladd(2002)


低所得者層に焦点を当てた小規模なバウチャー政策に利点があるとしても、
その効果は小さい。
公立学校システムの改善という、大きな目的を達成するための一手段に過
ぎない。
さらに


小地域で行われる社会実験の効果を適切に評価することは難しい。
政策実験の適切な評価のためには、事前にデータ収集方法の設計を入念
にする必要。
学校選択とバウチャー
チリ
 1980年に導入された、全国規模のバウチャー制度

私立学校は、学費を徴収しない限り、公立学校と同額の補助を受け取る。
 評価
 McEwan and Carnoy (2000)

公立学校と比べると、非宗教系の私立学校は教育の質が高いとは言えず、
カトリック系の学校は教育の質が高い。
 Sapelli and Bernardita (2003)

私立学校を選んだ子どもは、テストスコアが向上した。
 Hsieh and Urquiola (2003)

私立学校の増加で競争圧力が上がった地域でも、テストスコアや教育達成
度で見た平均的な生徒のパフォーマンスは向上しなかった、そして、私立学
校が参入するにつれて、中流以上の家庭が私立に流れた。
 政策が全国的に実施され、評価のためのコントロールグループが存在しな
い上、政策変更前のデータもないために、実際に、何が私立学校の比率を
変え、何が生徒の教育達成度に影響を与えたのか、識別がきわめて困難。
学校選択とバウチャー
コロンビア PACES program
 世界銀行の支援を受け、1991年から1998年まで、中等教育(6-11年
生)にバウチャーを導入。
 私立の学費の5-6割(公的教育費の5割程度)の補助金を受け
取るためには、子どもは公立小に通い、所得6階層のうちの下位
2層に属し、PACESに参加する私立中学校から入学許可を得て
いる必要。
 評価
 Angrist et al. 2002; Angrist, Bettinger, and Kremer 2004
 バウチャーに当選した生徒はしなかった生徒に比べ、出席率が
高く、教育達成度も高くなった。長期的な効果としても、高校卒業
率の上昇や、大学入試資格試験の成績の向上などが見られた。
学校選択とバウチャー
ニュージーランド
Tomorrow’s Schools Reform
 1989年以降、学校の自主性の拡大、通学区域の廃止などが実施




教育省傘下の学校では、校長の裁量でEnrollment schemeと呼ばれる面接
や地理条件などの基準を設定し、それに従った生徒の選別が可能。
一方、学校の定員や教師の給与体系などは中央で厳しくコントロール。
教育内容も自由度は高まったものの、概略は残された。
学校は無料であるが、強制的でなければ寄付を募ることができる。
 評価
 Fiske and Ladd (2000), Ladd and Fiske (2001) 、Woodfield and
Gunby(2003)





いったん「良い」という評判のたった学校にはますます生徒が集まり、学校が
生徒を自由に選抜した結果、特に裕福な白人が一層集中するようになった。
生徒の平均的家庭環境で見た学校間の格差が広がった。
少数民族や経済的に不利な家庭の多い地域の学校は生徒を減らした。
どの学校も入学できない生徒も出てきた。(ただし2000年の法改正で解決)。
競争が学校を活性化させたという証拠はない(ただしデータ自体がない?)
学校選択とバウチャー
オランダ
 憲法の規定で、ほとんどの私立学校に公立学校と同様の補助金を
支出。
 初等教育段階の私立シェアは70%。
 政府補助を受けた学校は独自に学費(自発的な寄付に近い)を
設定できる。
 学費を払えないという理由で生徒の入学を拒否することはできな
い。
 教員の給与は私立も公立も中央政府が同一に決定。
 私立学校は入学基準を設けることができるが、ほとんどの学校
が生徒の選別をしていない。
 通学距離は入学許可と無関係。
 評価

TIMSSなどで常に上位に顔を出しているが、系統的な評価研究
は存在しない。
学校選択とバウチャー
スウェーデン
 1993年以降、市町村に対し、義務教育段階の私立学校へ、公立学
校一人当たり経費の85%以上の補助金の支払い義務
 1997年以降は、私立も学費は無料化。
 補助金の額は学校ごとに市町村との交渉で決定。
 公立と私立も、通学距離と兄弟の在籍等が生徒選別の基準。
 私立学校数は、90校(1990年)から約400校(2000年)に増加。
 評価
 Sandström-Bergström (2002) Arlin(2003)
 1997-8年のデータだと、私立のシェアが高いと公立学校の生徒
のパフォーマンスは上がる。
 1994、1997年のデータだと、私立のシェアは、数学の平均スコ
アにプラスの影響があるが、語学には影響がない。
学校選択とバウチャー
英国
 1988年の教育改革





全国共通のカリキュラムと標準テストが実施。
学校ごとのテスト結果はLeague Tableという形で公表。
公立学校の選択の自由をある程度保障し、学校予算の75%は生徒数に基
づいて決定されるようにした。通学距離が入学許可に際して考慮。
地方教育委員会から学校へ、経営・財政上の多くの決定権を委譲した。
保護者の多数決により、政府直轄のGrant schoolという形への変更を認め、
予算を政府から直接学校に支給し、完全な意思決定の自由を与えた。
 評価
 Machin and Vignoles (2005)



近年、トップの生徒の教育水準は向上しているが、教育改革の結果だという
強力な証拠はない。
市場的改革は、潜在的に不平等を推し進めたようである。
良いとされる学校の近くの地価は上昇する傾向にある。
学校選択とバウチャー
諸外国の政策を理解するときのポイ
ント
 教育バウチャーは 「官から民」政策ではない。
 多くの場合規制の導入私立の「準公立化」
 バウチャー導入以前に、私立学校がどのような社
会的地位を占めていたかに注目
 出発点が異なれば、とるべき政策変更も異なる。
 教育においてどのような効率性と公平性のバラ
ンスを理想と考えるか、という目標設定

バウチャーは「現実に」、どのような生徒の選択肢
を広げたのか?
学校選択とバウチャー
わが国における学校選択・バウ
チャー論争の経緯

1993年2月22日「高等学校の入学者選抜の改善について」(通知 文初高第243号)


1997年1月27日「通学区域制度の弾力的運用について」(通知 文初小第78号 )




「通学区域制度の運用に当たっては・・・地域の実情に即し,保護者の意向に十分配慮した多様な工夫を行うこと」
2000年9月22日「教育改革国民会議中間報告」


通学区域に関しては、「生徒の特性に応じた学校選択が可能となるような方向で検討する」
「地域の信頼に応える学校づくりを進める」べきとし、そのために、情報公開や学校評価制度とともに、「通学区域の一
層の弾力化を含め、学校選択の幅を広げる」
そのころから、品川区を始めとする自治体が、何らかの形の学校選択を小中学校に導入し始めた。
2004年11月30日 規制改革会議による「文部科学省の義務教育改革に関する緊急提言」「教育バウチャー制度の
導入に向けて」という項目で、バウチャーの導入について検討を要求した。
規制改革第2答申




「学校の質の向上を促す学校選択の自由の徹底」
「児童生徒・保護者が多様な選択肢の中から質の高い教育を自由に選ぶことができる機会を拡大することを通じて・・・
真に必要な教育サービスを享受できる環境を整えるとともに、学校の質の向上を促す必要がある」
「選択制の何よりの意義は、供給者の側に立って児童生徒・保護者をいわば教育行政の対象と捉えるのではなく、国
民一人一人の教育を受ける権利を守ることにある。問題は・・・児童生徒・保護者に本来与えられるべき選択権が与え
られていないことにある」。
「イギリス、オランダ、スウェーデン等の教育先進国では、児童生徒数を基準として公的助成が行われ、教育の質の維
持・向上に成功している事実は・・・見習うべき点が多い。我が国においても、特区での実験的導入の可能性も視野に
入れ・・・ることが急務である」

文部科学省「教育バウチャーに関する研究会」

教育再生会議


2005年10月に設立。
2006年10月ー現在
学校選択とバウチャー
教育社会学者vs. 経済学者?
 学校選択を支持する経済学者(例:八代尚宏)



学校選択を大いに進めるべき
親にお金があれば悪い(公立)学校から避難するために私立に
通わせられるが、そうでない家庭は公立に行かせるしかない
学校間が「教育内容を始めとする学校教育のより本質的な面で
の競争」をすることで、公教育の質が向上する。
 伝統的教育社会学者(例:藤田英典)



相対的に人気の高い学校とそうでない学校をつくりだし、その人
気の差は程度の差はあれ固定化し、学校が序列化される。
新たな進学競争が発生、教育による階層差の再生産が強化、子
ども達の間に無用な劣等感・優越感が醸成される
地域生活圏の分断化が進み、地域社会の活力やケア機能も低
下していく危険性。
学校選択とバウチャー
バウチャー・学校選択
=「生徒の選択肢の拡大」?

「皆が行きたい学校」をつくるには、生徒を選別が早道。



学校選択・バウチャーで「行きたい学校ほど行けない」状
況に拍車がかかる。
「選択肢はむしろ狭まる」?
「誰でも行きたい学校を自由に選択」(福井秀夫)?
 真に実現するためには、定員の概念を廃止し、希望
者全員を入学させ、不足する教室はプレハブや賃貸、
教員は一時採用・転籍などを利用。
 抽選、優先通学区域、途中の転入をどう認めるか?
 所詮技術的な問題?
学校選択とバウチャー
日本の私立学校の現実とバウチャー

生徒選抜と学費設定に関して高い自由度。
 「受けたい教育を受けられる」状況はありえない。
 バウチャーで実現できるというのも幻想

選択の「実質的」拡大のためには、私立の裁量(選択の
自由)を制限していく必要あり。(諸外国の経験)





どの私立学校にもバウチャーの受け取りを強制
学費の徴収を禁止
物理的に可能である限り生徒を受け入れ、選別は抽選
通学地域を設けない
オランダ、スウェーデンタイプ?
学校選択とバウチャー
バウチャー政策の本質
 単なる公私間の補助金額の是正ではない。
 米国におけるフードスタンプに安易に例えることは誤り。
 バウチャー政策は、必ずしも規制緩和を意味しない。
↓
 生徒にとっての選択肢の大きさと学校にとっての選択肢
の大きさは、基本的にトレードオフの関係。
 生徒にとっての「教育の選択肢の拡大」と学校間の「対等
な競争」とは、現在の私立学校の裁量の制限を意味する。
 バウチャーが、子供にとっての選択肢の拡大になるかど
うかは、補助金額以外の部分の制度設計に大きく依存。
学校選択とバウチャー
選択の自由=教育の格差拡大?
バウチャーのケース
 私立と公立間の格差


私立を低所得者にも身近にする(?)。
私立の人気が高まり、より身近でなくなる(?)
 私立間の格差

どのような学校が補助金を受け取るか、生徒を選
別するかによる。
 生徒間の格差

低所得者地域で親の意欲によって拡大?
学校選択とバウチャー
選択の自由=教育の格差拡大?
公立学校選択のケース
 公立間の格差
友人効果は人気校をますます人気校にする。
 ただしこれは域内の均等化政策で変えられる?(米国
との違い:税収との分離)
 地域間格差と学校間格差を分離=地域の格差縮
小?
 公私間の格差
 私立に行っていた生徒を呼び戻す効果と、逆の効果
 生徒間の格差


??
学校選択とバウチャー
教育社会学者の議論の欠点
 「格差回避」だけがすべて?
 一般からかけ離れた、学校・教員組織に対する
信頼感(彼らにとっての「現場」)
 「競争」に対する想像力の不足。

受験競争とのアナロジー?
 地域による「教育参加」が全てを解決?

地域の差が教育の差に、結局繋がるのでは?
 家庭による格差低位校をむしろ手厚く?

政策効果を計量する努力の不足
学校選択とバウチャー
経済学者の議論の欠点
 「競争効果」のロジックへの極端な偏重
 学校・教員組織(官僚組織)に対する不信
 なぜわが国では、「選択の自由=学校の序列
化」が起きるのか、分析不足。
学校選択とバウチャー
両者の欠点
 どちらも実証的証拠に乏しい。
 どちらもバウチャーを一面的に考えすぎ。
 どちらも大学(入試)の責任に言及しない。
学校選択とバウチャー
私の立場
 「クーポン券」などと議論するのではなく、私立学
校のあり方を議論せよ。
 テストによる競争の是非を議論する以前に、(国
際的に見た)現在の大学入試制度の意義を議論
せよ。
 その上で、目的をはっきりさせたバウチャーを試
してみて、「教育の質」が高まるかどうか、その効
果を計測せよ。
学校選択とバウチャー
高等学校の選択肢の拡大の効果
の実証分析(H. Akabayashi 2007)
 趣旨
1991-2001年の全国の全日制高校(ほとんど)すべての卒業者
のデータを利用(リクルート社)。
 通学区域の拡大・縮小が、どの程度、「地域全体の教育力」を引
き上げたか、大学進学率を指標として計測。
 結論
 通学区域の拡大(公立普通科高校の選択肢の拡大)は、普通科
公立高校の大学進学率を上げ、普通科私立高校の大学率を下
げる。
 しかし、地域全体の進学率は影響をうけるとは言えない。
 ただし、大規模な通学区域の変更のあった地域における都市部
の学校だけを見ると、選択肢の拡大はごく僅かに大学進学率を
上昇させる。
 また、選択肢の拡大は、教師よりも生徒にプレッシャーを与える
ことで、大学進学率を上昇させているように見える。(すでに入学
している生徒には影響はない。)

学校選択とバウチャー
都道府県立全日制普通科高等学校
における通学区域の変更(1989-2003)
都道府県
年度
通学区域数
平均学校数
旧
新
旧
新
都道府県
年度
通学区域数
平均学校数
旧
新
旧
新
北海道
2000
52
55
3.96
3.71
新潟
2001
10
8
7.60
9.13
岩手
1994
20
19
2.70
2.79
兵庫
1994
16
17
7.63
7.12
宮城
2001
8
5
7.75
12.60
岡山
1999
21
6
2.05
7.00
茨城
1993
8
5
11.75
18.20
広島
1998
14
15
5.86
4.80
栃木
1994
9
7
5.56
6.86
和歌山
2003
9
1
3.33
29.00
千葉
2001
12
9
10.33
13.56
大分
1995
16
6
2.44
6.00
東京
2003
14
1
11.21
150.00
沖縄
2001
31
30
1.16
1.20
神奈川
1990
16
18
9.50
8.44
学校選択とバウチャー
通学区域の変更例(茨城県)
Before 1993
1993年以前
1993年以後
Since 1993
2
2
学校選択とバウチャー
0
.5
1
1.5
2
1992年における公立普通科高校の大学進
学率分布(学校選択度の変化に応じ3分類)
0
.2
.4
.6
College Advancement Rate: 1992
NSC1 Unchanged
NSC1 Decreased
学校選択とバウチャー
.8
NSC1 Increased
1
0
.5
1
1.5
2001年における公立普通科高校の大学進
学率分布(学校選択度の変化に応じ3分類)
0
.2
.4
.6
College Advancement Rate: 2001
NSC1 Unchanged
NSC1 Decreased
学校選択とバウチャー
.8
NSC1 Increased
1
0
1
2
3
4
1992-2001年間の大学進学率の変化の分布
(学校選択度の変化に応じ3分類)
-1
-.5
0
.5
Change in College Advancement Rate: 1992-2001
NSC1 Unchanged
NSC1 Decreased
学校選択とバウチャー
NSC1 Increased
1
関連研究
 吉田あつし(筑波大学)


足立区の学校選択制が格差拡大に与えた影響
分析。
学校選択は学校間格差を縮めた(!)。
学校選択とバウチャー
ダウンロード

学校選択と教育バウチャー - econ.keio.ac.jp