和漢古典籍研究分科会研究発表
戯作者たちの書物と薬の広告
―専修大学所蔵向井信夫文庫の和本にみえる―
2013.12.12
1
発表内容
 分科会の目的
 活動内容
 戯作者たちの書物と薬の広告
2
研究分科会の目的
古典籍資料について、大学図書館職員
として必要な書誌学の基礎知識・書誌作
成の方法を習得すること。
3
分科会の活動内容
基礎知識の涵養
堀川貴司著『書誌学入門』(勉誠出版) の輪読
書誌作成
会員所属図書館の和漢古典籍を使用
見学
会場校の図書館や貴重書庫、付属施設、古典籍
を多く所蔵する機関
4
分科会の活動風景
5
分科会見学会
1.国立公文書館
2.東京大学東洋文化研究所図書室
3.紙の博物館
4.東洋文庫
5.金澤文庫
6
戯作者たちの書物と薬の広告
―専修大学所蔵向井信夫文庫の和本にみえる―
研究の着眼点
・戯作者たちの書物に、なぜ薬・化粧品・雑貨
の広告が掲載されているのか?
・私たち図書館員はこの広告を書誌作成に役
立てられるか?
7
専修大学所蔵向井信夫文庫とは
 江戸を代表する戯作者の作品を集めた
コレクション
 『南総里見八犬伝』『偐紫田舎源氏』など
の読本、草双紙、滑稽本、人情本
 和本4,090作10,346冊
 図書4,852冊
(図書4,578冊、雑誌21誌274冊)
8
課題設定
前半:広告変遷の背景
出版、教育、流通といった視点から
後半:専修大学所蔵向井信夫文庫を題材に
四人の戯作者と薬や化粧品の広告
10
和本について
11
和本の各名称
12
江戸期広告の変化
しょじゃく もくろく
①書籍目録(1660年代~1810年代)
版元(出版社)により出版された書籍を
網羅的に掲載した「出版目録」
13
書籍目録(廣益書籍目録大全)
14
江戸期広告の変化
②蔵版目録・近刊予告・新板広告
(1700年代前半~)
各版元が自らの出版物に既刊・近刊
などの情報を載せたもの
→現代の図書と同じ
15
奥付にある近刊予告等
16
裏表紙裏にある蔵版目録
17
江戸期広告の変化
③薬・化粧品広告
(1800年代~幕末)
18
薬広告
19
広告変遷の背景
①出版業の拡大
・版元の京阪から江戸への進出
・刊行点数の増加
20
広告変遷の背景
①さらなる出版業の拡大
・版元の京阪から江戸への進出
・刊行点数の増加
21
江戸と上方における出版点数の変遷
22
広告変遷の背景
①出版業の拡大
・本のジャンルの多様化
・書籍目録を比較
寛文6(1666)年頃『和漢書籍目録』
宝暦4(1754)年頃『新増書籍目録』
23
本のジャンルの多様化
24
広告変遷の背景
②広がる庶民の教育
・文書主義と商業の発展
⇒庶民に読み書きそろばんの需要
⇒寺子屋(手習所)の出現
・農村の生活の安定
⇒子弟に教育を施す余裕
↓
識字率は幕末で約60%?(もちろん地域差や男女差あり)
25
広告変遷の背景
③流通の変化
・交通網の整備
・行商や旅行による人々の移動
⇒江戸、京都、大阪の三都から
地方への文化の伝播
↓
階層・地域を超えて拡大した書籍市場
26
広告変遷の背景
④貸本屋
・1800年代から盛んに
・高価な本を庶民に安価で提供
↓
広告媒体としての本の価値向上
⑤戯作者の生活
・出版の取り分(原稿料)ほとんどなし
・副業として薬・雑貨等の製造・販売
↓
薬・雑貨の宣伝をする必要
27
広告変遷の背景(まとめ)
書籍目録から蔵版目録等へ
・刊行頻度の低い書籍目録
・出版点数の増加
・ジャンルの多様化
⇒よりタイムリーかつ効率のいい広告へ
薬・雑貨広告の出現
・階層・地域を超えた市場拡大
・貸本による広告価値の高まり
・副業を持つ戯作者たち
⇒自分たちの作品を収入UPに利用
28
戯作者たちの副業と薬の広告
「向井信夫文庫」の実例調査
1.江戸期の和本には、薬・化粧品・雑
貨の広告がたくさん掲載されているが
それはどのようなものだろうか。
2.京伝や馬琴など著名な戯作者たちは
著作以外に売薬・化粧品製造などの副
業を持っている。これらの副業の広告
から刊記などの書誌的事項を推定する
ことは可能だろうか。
29
戯作者たちの副業と薬の広告
「向井信夫文庫」の実例調査
発表の流れ
1. 江戸の薬屋事情と売薬
2.「向井信夫文庫」にみえる薬の広告
3. 4人の戯作者の副業と薬広告
4.薬と書物の販売網ー売弘所/取次所
ー馬琴と京山の書物広告から
30
書籍の広告
薬・化粧品の広
告
31
江戸の薬屋事情
便覧類にみる製薬・売薬業の普及と大衆化
貞享4(1687)
寛延4(1751) 文政期(1820年 文政7(1824)
代)
江 薬種問屋・製薬 生薬屋:124軒 生薬屋:206軒
戸 所:38軒
※ 『 江 戸 惣 鹿 薬種問屋:51軒
※『江戸鹿子』 子』
※『江戸買物案
内』
大
坂
京
都
天保2(1831)
生薬屋:178軒
問屋:17軒
※『商人買物独
案内』(大坂之
部)
生薬屋:145軒
※『商人買物独
案内』
32
江戸時代の売薬
薬問屋絵図
『江戸名所図会』より
今も売られている「陀羅尼助丸」
33
向井信夫文庫にみえる薬の広告
調査した和本の広告に載っていた薬・化粧
品は約100種類にのぼる。
奇応丸、神能救命丸、かるやき、かんのくすり、甘露水、雷除神丹、救命丸、清香散、
金匱救命丸、金勢丸、金慶丹、薬王丸、加正散、けはへ薬、さくら香、青龍円、曙の富
士、泉玉、伊吹山九年晒御薬艾、薄化粧、打身合薬、運利香、永壽丸、江戸元祖松のみ
どり、おしろい ぱっちり、御にほひ袋蘭奢袋、蘭奢袋(御にほひ袋)、御薬艾、風邪
引一夜なほし、固歯散、神女湯、酒どくけし薬、三生園、珊瑚碎、三国一風薬、三養湯
、實母散、志やくの黒薬、順補丸、諸合薬、小児百日せきの奇薬、小児無病丸、白妙、
白芙蓉、白牡丹、白雪糕、神秘五疝散、水晶粉、清澄御薫物、雪月花御眉刷毛、仙女香
(美艶仙女香)、せんきの妙薬(せんきの大妙薬)、仙方延壽丹、たいとく一通の妙薬
、寶壽丸、玉匱保赤圓、陀羅尼助
ちちのいづる薬、ちちの粉、つけきらず、唐傳金応丹、長生養潤丹、人参丹、寝小便の
大奇薬、読書丸、登龍丸、箱入御はみかき、御はみがき、歯のいたみそく妙、ひぜん妙
薬、婦人つぎ虫の妙薬、ふつきこんり香、紅毛奇方妙あらひこ、美玄香(黒油美玄香)
、萬病牛黄丸、龍樹散(御目あらひ袋)、両天傘、引風一夜なほし、肝涼円、吾妻香、
玉屑、熊胆黒丸子、江戸の水、酒泉醒々丸、順補丸
諸疳丸、神仙広徳丸、神遷神明湯、人参即効油、成駒香、清凉香、鶴聲丹、天真方粒王
丸、百薬香、無頼丸、里びゆうの薬、霊応丹
34
山東京伝
さんとう-きょうでん
プロフィール
1761-1816
江戸時代中期-後期の戯作者
浮世絵師
代表作
「忠臣水滸伝」
「江戸生艶気樺焼」など
副業
煙草入れ屋、売薬製造
取り扱い商品
「煙草入れ」
「読書丸」「白牡丹おしろい」
「奇応丸」「小児無病丸」
「戯作六歌撰」より
35
山東京伝
さんとう-きょうでん
朱子読書丸
清人覚世道人傳方
椿寿斉拜田信明製
一包壱匁五分
気こんをつよくし物おぼえをよ
くす 心腎のきょそんによし
きのかたぶらぶらわづらひによ
し うまれつきてよわき人用い
てよし 常に辛労おをくしる人
老若男女にかぎらず身におぼえ
て志るしあり 道中するか又病
身の人は常にたくわへおくべし
きうつ酒の酔しゃくつうへ腹痛
のたぐひは一粒にて奇特あり
桜姫全傳曙草紙
36
滝沢馬琴(曲亭)たきざわ-ばきん
プロフィール
1767-1848
江戸時代後期の戯作者
代表作
「椿説(ちんせつ)弓張月」
「近世説美少年録」
「燕石雑志」「玄同放言」
「南総里見八犬伝」
副業
売薬製造
取り扱い商品
「神女湯」「奇応丸」
「熊胆黒丸子」「つぎ虫の妙薬」
「戯作六歌撰」より
37
滝沢馬琴(曲亭)たきざわ-ばきん
精製奇応丸
偽薬をのぞき去り真物を
★広告の画像と翻刻
南総里見八犬伝
えらミ家傳の加げんをも
って分量すべて法に/した
がひ製方尤つゝしめりこ
ゝをもてその功神の如し
別に能書あり今略之
大包二百粒餘入代弐朱
中包三十六粒入代壹匁五
分 小包十一粒入代五分
家傳神女湯 一包代百銅
婦人諸病の良剤にして第
一産前産後ちの/ミちに用
ひてその功神の如し又う
ちミによし手おひに/用ひ
て急へんをすくふべしく
はしくは包紙にしるせり
南総里見八犬伝
38
山東京山
さんとう-きょうざん
プロフィール
1769-1858
山東京伝の弟。
江戸後期の戯作者
代表作
「大晦日曙草紙」
「教草女房形気」
副業
篆刻業、売薬製造
取り扱い商品
「水晶粉」
「琴声美人録」より
39
山東京山
さんとう-きょうざん
十三味薬あらひこ
水晶粉
一包一匁二分
いかほどあれしゃう
なるともこれをつか
へばきめをこまやか
にし/つやをだししぜ
んといろを白くする
事妙なり
ひび しもやけ は
たけ あせもの/るい
をなほす 京山製
江戸京橋南山東京伝
店
双蝶記
40
式亭三馬
しきてい-さんば
プロフィール
1776-1822
江戸時代後期の戯作者
代表作
「侠太平記向鉢巻」
「浮世風呂」
「浮世床」
副業
売薬店
取り扱い商品
「仙方延寿丹」
「江戸の水」
「戯作六歌撰」より
41
式亭三馬
おしろいのよくのる薬
江戸の水/はこ入
代四十八文
第一きめこまかにして
御顔のつやを/出し白粉
ののりあしき御かほに
ても/よくのりてはげず
夏ハあせ冬ハ風に/あた
るともはげざる事うけ
合なり/にきびはたけそ
ばかすあせも/御かほの
できもの一切によし
△諸国に取次所あまた
あり
近来まぎらしき類薬あ
また/見及候間[名前]御
改候もとめ/被遊可被下
候
式亭三馬製
しきてい-さんば
忠臣蔵偏痴気論
42
薬と書物の販売網ー売弘所/取次所
馬琴の書物広告から
河内屋太(多)
助 文金堂
森本氏
(書林版元名・堂
号・本姓)
大坂心斎橋筋唐
町南入
滑稽本多し。馬
琴の著作多し。
江戸和泉屋市兵
衛と共に馬琴の
家伝薬神女湯、
精製奇応丸の取
次所。
南総里見八犬伝
43
薬と書物の販売網ー売弘所/取次
馬琴の書物広告から
丁子(字)屋平
兵衛 文溪堂
岡田氏
江戸小伝馬町三
丁目家主
文化五年貸本屋
世話役。
『八犬伝』板元
。他に読本、人
情本、滑稽本な
ど。
坂本氏仙女香、
林氏の救命丸の
取次弘所。
南総里見八犬伝
44
戯作者たちの副業と薬の広告
「向井信夫文庫」の実例調査(まとめ)
・作家の製造したものに限らず広く「取次所」で扱われてい
た薬の広告が多数掲載されている。
・薬屋と本屋の流通網(流通ルート)が互いに利用しあって
おり、薬と書物の広告が同列に扱われている。
・薬と書物の購買層への広告効果が類似している。
・作家ごとの刊年順のリストからわかること
・薬の流通していた時期と、向井文庫リストの薬・化粧品広
告掲載時期はほぼ一致していることを確認できた。しかし
、これを刊記を特定する要素とするには、さらに調査が必
要である。
45
主な参考文献
書名
著者名
出版社
出版年
江戸の本屋さん : 近世文化史の側面(NHKブックス
今田洋三著
299)
日本放送出版協会
1977.10
江戸の本屋上(中公新書568)
鈴木敏夫著
中央公論社
1980.2
江戸の本屋下(中公新書571)
鈴木敏夫著
中央公論社
1980.3
江戸学事典
西山松之助 [ほか] 編
弘文堂
1984.3
交通・運輸(講座・日本技術の社会史 第8巻)
吉田孝 [ほか] 執筆
日本評論社
1985.6
経済社会の成立 : 17-18世紀(日本経済史 1)
速水融, 宮本又郎編
岩波書店
1988.11
江戸の妙薬
鈴木昶著
岩崎美術社
1991.11
江戸の生薬屋
吉岡信著
青蛙房
1994.12
近世都市江戸の構造
竹内誠編
三省堂
1997.7
青裳堂書店
1998.2
近世書林板元總覧 改訂増補(日本書誌学大系76) 井上隆明著
46
主な参考文献
書名
著者名
出版社
出版年
薬の社会史1 : 日本最古の売薬外郎・透頂香
杉山茂著
近代文芸社
1999.1
江戸時代の書物と読書
長友千代治著
東京堂出版
2001.3
江戸時代の図書流通(佛教大学鷹陵文化叢書7)
長友千代治著
思文閣出版 (発売)
2002.10
日本の伝承薬
鈴木昶著
薬事日報社
2005.3
図説江戸の学び
市川寛明, 石山秀和著
河出書房新社
2006.2
江戸の教育力(ちくま新書692)
高橋敏著
筑摩書房
2007.12
和本入門 続:江戸の本屋と本づくり (平凡社ライブラ
橋口侯之介著
リー747)
平凡社
2011.10
和本のすすめ(岩波新書新赤版1336)
岩波書店
2011.10
和本入門 : 千年生きる書物の世界(平凡社ライブラリ
橋口侯之介著
ー744)
平凡社
2011.9
書籍流通史料論 序説
勉誠出版
2012.6
中野三敏著
鈴木俊幸著
47
次期会員募集
大学図書館職員として身につけて
おきたい知識を基本から習得
(初心者大歓迎!!)
貴重な資料に触れつつ日本の文化を学び、
書誌作成方法を習得することができます。
皆様のご参加をお待ちしております
48
ダウンロード

スライド(PPT)