観測的宇宙論
第11回: 宇宙を測る距離梯子
今井 裕
(鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻)
今日の講義の内容
• 様々な天体距離測定法と宇宙の「距離梯子」
– 年周視差法
– 分光視差法
– 連星系軌道法・モデルフィッティング法(・統計視差法)
– 変光星の周期ー光度関係
• 天体距離測定と宇宙論
– 「宇宙論的距離」にある天体の測距
• 距離推定における「統計誤差」と「系統誤差」
参考文献: シリーズ現代の天文学
3巻:宇宙論II ―宇宙の進化 4巻:銀河I ー銀河と宇宙の階層構造
5巻:銀河II―銀河系 7巻:恒星
年周視差法
• 仮定がない最も信頼性が高い距離推定法
– 地球ー太陽間の距離: 1AU (astronomical unit)
地球ー金星間の距離: レーダーを使った直接測定
地球と金星の公転周期: 恒星を基準として直接測定
問題1: 地球と金星は太陽の周りを真円に沿って公転していると
仮定する。「衝」(太陽ー金星ー地球の順で一直線に並んだ状
況)における地球ー金星間の距離を b、地球と金星それぞれの公
転周期を Pe, Pv が実測された場合、ここから地球ー太陽間の距
離 a を求めなさい。
ヒント: ケプラーの第三法則を利用する。
• 視差楕円: 黄経方向に沿って楕円長軸 1”⇔1pc
• 適用範囲(誤差10%)
– 可視光位置天文衛星 HIPPARCOS: <100 pc
– 電波位置計測 VERA, VLBA < 10 kpc
分光視差法
• スペクトルタイプ、有効温度(色指数)を利用
• 絶対等級(M: 推定) v.s. 実視等級(m: 測定)
– 1つ1つの星には適用できない:
星のタイプが不明だから(主系列?巨星?)
– 星団単位で適用: 主系列・水平分枝(red clump stars)
• 距離係数 (distance modulus) m  M   5logDpc  5
問題2: 星の明るさを表す等級の定義と、星の見かけの明るさと
距離との関係式から、上式を導出せよ。

• 個々の星々について見分けられる距離
– 主系列星: 銀河系内 (<10 kpc)
– 水平分枝や赤色巨星: アンドロメダ銀河(M31~800 kpc)
– 星間減光・星間赤化によって誤差が大きくなる
連星系軌道法
• 公転周期・公転速度:
ドップラー効果⇒輝線の分光観測
• 軌道傾斜角・天球面に投影された軌道の計測:
電波・光干渉計使用
恒星 a, b の恒星系における運動方程式
d 2ra
Gmb
d 2rb
Gma

r  ra ,

r  rb 
3 b
3 a
2
2
dt
dt
rb  ra
ra  rb
重心系の(重心を基準とした)運動方程式に書き換える
mara  mbrb
r0 
楕円軌道の焦点の位置
ma  mb
mb
ma
Ra  ra  r0 
ra  rb , Rb  rb  r0 
rb  ra 
ma  mb
ma  mb
m  mb
m  mb
rb  ra  a
Rb   a
Ra
ma
mb
重心系における運動方程式
Gm3b
Gm3a
d 2ra d 2Ra
Ra
d 2rb d 2Rb
Rb


,


2
3
2
3
2
2
2
2
dt
dt
dt
dt
ma  mb  Ra
ma  mb  Rb
ニュートンの方程式から得られる公転長半径及び周期
2
2
3 1 2

dR
GM
V
2R
R




,
P


2



2
2
dt
R
R
V
GM 
問題3: ここから先は自分で計算し、下記の関係式を導出しなさい。

m 3b
4 R

GP2
2
3
a
or
m 3a
4 2Rb3

GP2
ma  mb 
ma  mb 
観測量: P, θa(=Ra/D), θb, maga, magb(実視等級)or maga/magb,
スペクトル型(有効温度、表面重力)⇒絶対等級
主系列星から成る連星系の場合:

質量ー光度関係を利用 L∝Mα, α=3ー4 ⇒恒星質量比の決定
⇒データフィットによる距離D推定
2
2
Ro測定: Sgr A*を
取り巻く恒星集団
1992ー2008
におけるS2の軌道
天球面上での速度(固有運動)の計測
からでも距離推定は可能
Ro=8.4±0.4kpc (Ghez+08; Gillessen+09)
変光星の周期ー光度関係を利用した距離推定
• 規則正しく周期的に変光する星:
セファイド型、こと座RR型、ミラ型、など >103Lsun
• 発端: マゼラン雲中の
Ita et al. 2004
セファイド変光星で
この関係が発見される
– すべての対象星が
ぼ同じ距離にある
– 金属量依存性がある
• 距離が既知でないと
距離の直接推定にならない
– 銀河系内の星々で
この関係式を精密構築する
必要性がある
• 30 Mpc 程度まで適用可能
LMC
ほ
ミラ型
セファイド型
SMC
銀河中心核円盤水メーザー
を利用した回転視差計測
• 銀河中心巨大ブラックホール周り
の高速回転ガス円盤の存在
(Miyoshi et al. 1995)
• 円盤サイズの実測: VLBI利用
• 回転運動=固有運動の実測:
VLBI利用(数年スパン)
• スペクトル上での視線速度ドリフ
ト=加速度の測定:
単一電波望遠鏡利用(数年スパン)
測定例: NGC4258 (Herrnstein+99)
D=7.2±0.2(random)±0.5(systemtic)
highv
sys
φ
V
SN expanding shock front method
SN1993 J D=3.96±0.05±0.29 Mpc (Bartel+07)
HST Cepheids distance
D=3.63±0.34 Mpc
(Freedman+01)
電波と可視光線とで
測定される膨張速度は
一致している?
距離梯子
測定段階が多いほどより多く誤差が付加されていく
1990年代
2010年代
• 年周視差 < 100 pc
• 分光視差 < 10 kpc
• 運動学的距離推定 <
0.1 Mpc
• 統計視差法
• 変光星周期光度関係
< 30 Mpc
• タリー・フィッシャー法
• 惑星状星雲光度関数
• 年周視差 < 10 kpc
• 運動学的距離推定 <
10 kpc
• 変光星周期光度関係
• 銀河中心核円盤
< 100 Mpc
• 重力レンズ効果
• 超新星残骸膨張法
< 10 Mpc
モデル(仮定する模型)を介さない手法はどれ?
天体距離測定と宇宙論
• 宇宙論パラメータの推定
– 距離推定からは主にH0 (ハッブル定数)推定が目標
– WMAP測定精度が当面の目標:
H0=71.0+4.1-3.0 km s-1Mpc-1 (Spergel et al. 2004)
• 宇宙論的距離にある天体の測距
– 近傍: おとめ座銀河団(〜10 Mpc)内部の局所運動
– 宇宙論的距離:
Hubble flow (D> 30 Mpc) に乗っている天体
– 距離梯子に準拠しない方法もある
• 距離梯子に準拠しない=系統誤差が大きい
• 距離梯子に準拠しない⇒準拠するものに改訂されるべき
距離梯子に準拠していない測距
法
直接遠方の測距が可能だが系統誤差が大きい
対象天体のごく少数でも距離梯子に準拠した測距が必要
採用モデルの精度検証
• Ia型超新星
 連星系白色矮星の熱核爆発型超新星爆発
 チャンドラセカール限界質量ぴったりで爆発が起こっていない
 近傍宇宙での発現と母銀河測距が必要(Sandage+06)
• ガンマ線バースト源
 赤方偏移を測定できても測距はできなていない
 近傍宇宙での発現と母銀河測距を乞う期待
• 重力レンズ効果
 レンズ効果を受けた遠方銀河中心核の電波強度曲線が必要
• スニャーエフ・ゼルドビッチ効果
 銀河団プラズマの天球面方向の広がりと
視線速度方向と奥行きとを比較
天体測距における統計誤差と系統誤差
基礎物理学実験の教科書を復習すること
• 統計誤差 (statistic error)
– ランダム過程、誤差の正規分布 (e.g. 熱雑音)
– 誤差は √N (Nは測定回数/個数)に反比例
– 頻度ピーク(期待値)=真値だと考えられる
• 系統誤差
– 期待値≠真値の場合の2者間差
– 誤差が推定できれば補正に加える
– 大きさは予測できても補正できない場合がある
Sunyaev-Zel’dovich 効果
• 銀河団を取り巻くプラズマが宇宙背景放射からの光子を叩く
(逆コンプトン散乱)
• 宇宙背景放射の
ピーク波長が
わずかに短くなる
• 電波放射
(ミリ波・センチ波)
では強度が弱くなる
Calstrom et al. (2002)
Sunyaev-Zel’dovich 効果
• SZ効果の及ぶ範囲~X線放射領域の奥行き
• 銀河団までの距離を直接計測
• 野辺山45m電波望遠鏡を使って50時間掛かる
(Tsuboi et al. 1998)
Calstrom et al. (2002)
重力レンズ天体の電波・VLBI観測
• 効果を受ける天体
– 遠方で詳細な構造を
把握するのが難しい
– 優れた解像度で似た
構造の天体
(=同一天体)を同定
• 複数に分裂した
電波像=銀河中心核
– 各分裂片の強度変化
は同じだがタイムラグ
がある
重力レンズ天体を用いた距離/H0推定
• 効果を与える天体(手前, lensing object)
– 重力ポテンシャルの形(∝ r-β)・総質量
– 質量/光度比: 暗黒物質の存在割合
• 効果を受ける天体(向こう側, lensed object)
– 複数像の強度変化(時間差あり)
– 天球面パターン
– 赤方偏移量
– 距離
– ハッブル定数
※最後の3つは数学
的には独立していない
宇宙論につながる天体測距の現状のまとめ
• 超新星・ガンマ線バースト天体
– 母銀河の測距が必要⇒セファイドを用いた測距
– セファイド尺度の精度に依存
– 頻度が少ない、測定数がまだ少ない
• セファイド変光星 ( D < 30 Mpc )
–
–
–
–
変光周期が数日−数10日で観測期間が手頃
ほとんどの測距対象銀河に適用
金属量依存、星間減光によって系統誤差が発生
近赤外線測光が課題
– ミラ型変光星の方がもっと明るい
• 年周視差や運動学的手法による強力な足がかりが重要
– 年周視差計測: VERA/VLBA/VSOP-2(電波) GAIA(可視光線)
– Magamaser Cosmology Project (HSA/ VSOP-2)
ダウンロード

Cosmology_Imai_2009_6