41474
日本建築学会大会学術講演梗概集
(東北) 2009年 8 月
建築エネルギー・環境シミュレーションツール BEST の開発
第 9 報 BEST 開発の進展と専門版の機能
建築エネルギー 建築環境
シミュレーションツール
正会員
同
同
同
同
BEST
1.序
BEST は、空調・電気・衛生エネルギーおよび室内環
境のシミュレーションが可能であることが特徴であり、
用途に応じ、簡易版、基本版、専門版、拡張版を開発・
公開することを目指している。最初に着手した専門版の
開発に続き、省エネルギー計画書作成の支援ツールとな
る基本版、簡易版の開発も進めている。本報は、BEST
の開発の進展状況と専門版の機能・特徴を報告する。
2.BEST 簡易版、基本版の開発
省エネ計画書の提出が小規模ビルに対しても義務づけ
られるようになることから、省エネ計画書を簡単に作成
できるツール、行政側からはスムーズに計画書を確認で
きるシステムが望まれている。BEST では、省エネ計画
書作成支援ツールとして、延床面積 300~5000 ㎡以下の
建物を対象とする簡易版、5000 ㎡以上を対象とする基本
版を開発することにした。計算エンジンは専門版と同じ
で、入力を極力簡易にするものである。計算エンジンの
利用法として、①ユーザ入力データをもとに専門版の入
力データを自動設定し、専門版エンジンで毎回計算を行
う、②予め専門版で多ケースの計算を行い、その結果を
利用して簡単に求める、すなわち実験計画法などの統計
的手法を利用して推定する、あるいは単純補間から推定
する、という方法が考えられる。現在は、①の方向で開
発を進めている。また、広範囲のユーザによる計画書作
成・提出を考えると、Web を介するツール利用が前提と
なる。計画書の内容は XMLDB として、行政から容易に
確認、解析可能にすることを狙っている。
3.BEST 専門版の機能強化
建築部分は、日周期定常最大熱負荷計算を可能とし
た。拡張アメダス設計用気象データの複数の気象タイプ
をまとめて計算し、最大熱負荷計算用の予冷熱条件を想
定できる。また、入力データやデータベースの XML タ
グ名の汎用化、各種ケーススタディ、BESTEST や他の
シミュレーションツールとの比較検証を進めた。
空調システムは、テンプレート機能の充実を進めてい
る。システム構築には、多くのモジュールの接続指定が
必要であるが、その手間を軽減するために、予めテンプ
レートを用意する。また、コード上は、複数のモジュー
ル間の伝達情報にマップを利用し、ユーザ指定不要の自
動情報伝達機能の付加を試みている。
○石野 久彌*1
赤坂 裕*3
郡
公子*5
大塚 雅之*7
野原 文男*8
同
同
同
同
村上 周三*2
坂本 雄三*4
長井 達夫*6
牧村 功*8
滝澤 総*8
空調機器の特性に関しては、熱源機器、熱源補機、パ
ッケージ空調機、搬送機器、空調機器の分科会ごとに、
データ収集とデータベース化、モデリングを行った。機
器種類により入出力を定義し、その関係を物理モデルま
たは回帰式モデルにより記述した。今後、機器特性デー
タを自由に利用するためのシステム側プログラムのフレ
ームワーク改造が必要である。
給排水・衛生システムについては、負荷パターンを想
定し、給水量、給湯量、エネルギー消費量のシミュレー
ションが可能になった。さらに、雨水利用システムのシ
ミュレーションも可能である。電気システムは、照明制
御、太陽光発電、エレベータ、変圧器などのモジュール
が整備できた。コジェネレーションシステムは、ガスエ
ンジン発電機、排熱投入型吸収冷温水機、給湯予熱槽を
想定したシステムが、建築・空調・電気システムとの連
成計算を成功させた。蓄熱槽は、水蓄熱(連結完全混合
槽型、温度成層型)、氷蓄熱(現場築造型)の計算が可
能である。
表 1 には、専門版の機能と特徴をまとめた。
4.結
今後、さらに機能の拡張と検証を進める予定である。
【謝辞】
本報は、(財)建築環境・省エネルギー機構内に設置された産
官学連携による環境負荷削減のための建築物の総合的なエネル
ギー消費量算出ツール開発に関する「BEST コンソーシアム」
・
「BEST 企画委員会(村上周三委員長)
」および専門版開発委員会
(石野久彌委員長)、行政支援ツール開発委員会(坂本雄三委員
長)、クラス構想 WG(石野久彌主査)の活動成果の一部であり、
関係各位に謝意を表するものである。クラス構想 WG 名簿(順
不同) 主査:石野久彌(首都大学東京名誉教授)、委員:井上
隆、一ノ瀬雅之(以上、東京理科大学)、上田博嗣(大林組)、内
海康雄(宮城工業高等専門学校)、木下泰斗(日本板硝子)、工月
良太(東京ガス)、黒本英智(東京電力)、郡公子(宇都宮大学)、菰
田英晴(鹿島建設)、芝原崇慶(竹中工務店)、菅長正光(菅長環
境・設備一級建築士事務所)、瀧澤博(元鹿島建設)、長井達夫(東
京理科大学)、二宮秀與(鹿児島大学)、野原文男、二宮博史、丹
羽勝巳、田端康宏(以上、日建設計)、平林啓介(新日本空調)、
柳井崇(日本設計)、事務局:生稲清久(建築環境・省エネルギー
機構)
【文献】
1)石野・村上他:建築エネルギー・環境シミュレーションツー
ル BEST の開発 第 1 報~第 8 報、日本建築学会大会学術講演
梗概集、pp.1027-1042、2008.9
2) 石野・村上他:外皮・躯体と設備・機器の総合エネルギー
シミュレーションツール「BEST」の開発(その 1)~(その 38)、
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集、pp.19669-2040、
2007.9、pp.1077-1156、2008.8
Development of a Building Energy and Environment Simulation Tool, the BEST
Part 9 Progress of BEST Development and Features of the Professional Version
ISHINO Hisaya, et al.
―975―
表1
分類
全体
気象
BEST 専門版の機能と特徴
特徴
概要
建築・空調・電気・衛生との連成計算が可能であり、建物全体のエネルギー消費量を計算できる。同時に、建築、空調・電気・衛生の部
建築と設備の連成
分システムについて単独計算も可能である。
最適解法
非線形・不連続な現象が多いシステム計算はエクスプリシット法を採用。線形化して取り扱い可能な建築計算はシステムとの連成モード
のときはエクスプリシット法、非空調時や単独計算のときはインプリシット法に切り換え可能とする。
1分値気象
国内56地点の1分値データを提供可能とし、60分の約数の任意の時間間隔データに変換する。
国内842地点対応
国内842地点の拡張アメダス標準年、20年(1981~2000年)および設計用気象の1時間値データを補間して任意の時間間隔データを
作成する。
海外対応
世界3700余の都市について、WEADAC気象データの考え方をもとに新たに作成した気象データを提供する。
外部気象対応
EnergyPlusに対応するEPWフォーマットデータをBEST用データに変換して利用可能。
降水量・屋外照度 給排水衛生システムで利用する降水量、昼光計算で利用する屋外照度データを提供する。
豊富な壁体物性値 ①空気調和・衛生工学会便覧データ、②ISOデータ、③湿気データを含むデータの3つのライブラリのなかから、自由に物性値(約230
データベース
種)を選択可能。ユーザが物性値を登録することも可能。
建築
豊富な窓性能値
データベース
豊富なガラス種類とガラス厚、数種のブラインド、中空層厚、封入ガスの場合の断熱性能値、日射遮蔽性能値、可視光透過率データを選
択可能(約650種)。エアフローエインドウの補正用データも用意されている。
一括設定入力
複数ゾーンに共通の入力データを一括設定可能。例えば、他ゾーンのガラス種類を一括設定、一括変更できる。
XML形式データ
とJAXB利用
データベースおよびユーザ入力データに対して、内容を理解しやすく再利用効率の高いXML形式を採用した。同時にJAXB(Java
Architecture for XMl Building)を利用し、XMLデータを自動マッピングしオブジェクト化している。
計算時間間隔可変 解法などに合わせて、計算時間間隔をスケジュールで設定可能。
多ゾーン相互影響 隣接室間あるいは同一室の隣接ゾーンの相互影響(内壁貫流、ゾーン間換気)を考慮する。
最大熱負荷計算
設備
共通
空調
衛生
日周期定常最大熱負荷計算用の予冷熱計算が可能(建築単独計算のとき)。拡張アメダス設計用気象データの複数気象を連続計算可能
温熱環境指標
熱的快適性の評価指標である作用温度、PMVを計算して出力する。平均放射温度はASTで代用する。
昼光・調光計算
昼光と人工照明による照度計算を行い、スラット角制御と調光制御の効果をシミュレーションすることも可能。
機器のモジュール 各機器モデルを、統一的フォーマットに従ったモジュールにより表現する。これにより自由なモジュール接続によるシステム構築が可能
化
なうえ、ユーザがモジュールを追加することもできる。
拡張性の高いフ
レームワーク
各機器モジュールのクラスは、機器共通の処理を記述した抽象クラスのサブクラスとして実装され、外部からはインターフェースを介し
て、情報伝達やメソッドの実行がされる。多様なモジュールを簡単に追加可能な汎用性・拡張性が高く、比較的シンプルな構造のフレー
ムワークを実現した。
例題システム
添付された典型的な例題システムをもとに、モジュールの追加・リンク接続を行うことにより、多彩な機器構成に対応できる。
テンプレート機能
モジュール接続の手間を軽減するため、「空調機」、「熱源」、「熱源群」などのテンプレートを用意。例えば「空調機」の場合、「冷
温水コイル」、「加湿器」、「ファン」といった要素モジュールを意識せず、まとまりとして「空調機」を扱えばよい。
部分システム
室から熱源・冷却塔に至る全体システム以外にも、機器単体、あるいは熱源周りのみといった部分システムの検討が可能である。
単線接続
モジュール同士の接続およびテンプレート同士の接続において、複数の媒体を1つの接続変数にまとめて単線で接続することにより、大
幅な接続の簡易化が可能となる。
給水給湯負荷算定
文献や設計データにおいて汎用的に使用されている原単位データを細分化し、器具吐水量(節水効果)と人員(男女比)、器具使用頻度
(パターン)を組合せた簡便な負荷算定手法により、設計の自由度を高めた。
システム計算
水槽やポンプといった衛生機器をモジュールとして扱い、モジュール間のノードのやりとりで水量と水温を計算し、負荷に応じた水槽の
水位変動やポンプの運転状態を計算することが可能である。テンプレート機能を用いた標準的な給排水システムを用意した。
資源量・エネル
ギー消費量
ユーザが入力した負荷算定のためのパラメータや衛生機器の仕様・容量に基づきシステム計算を行い、計算結果として給水給湯使用量、
エネルギー消費量、雨水利用量、配管熱損失(給湯計算の場合)等を出力することが可能である。
昼光連動照明制御 照明制御において、明るさセンサ部に入射する昼光照度を受け、人工照明の削減量を計算することが可能である。
電気
太陽光発電量
時刻変動する太陽光などの気象条件に合わせ、太陽光発電の電力量を計算することが可能である。
変圧器損失電力量 時刻変動する各負荷機器の消費電力に合わせ、変圧器の損失電力量を計算することが可能である。
排熱温度可変
排熱温度を固定するモデルではなく、排熱量や気象条件、需要量のバランスによって変動するモデルを採用した。
入口状態値依存モ 構成する機器には入口状態によって特性が変化する計算モデルを採用した。排熱温度も可変としたため、よりリアリティのあるシミュ
レーションが可能である。
コジェネ デルの採用
システム
システム性能に最も影響する需要量を与条件とするのではなく、建物性能や内部で使用する機器を変更した場合などのような、需要量が
連成計算が可能
システム構成・運用によって変動する場合も、空調や衛生、電気と連成させることで対処可能とする。
配管熱容量
配管内の水熱容量を考慮するモデルを採用し、システム停止時や開始時の温度低下、上昇を再現可。開始時の計算精度が向上した。
モジュール分割
蓄熱槽本体(水蓄熱槽:連結完全混合槽型・温度成層型、氷蓄熱槽:現場築造型)、蓄熱用制御弁、蓄熱槽内水槽プロフィール確認用グ
ラフ、熱量計などを独立モジュールとして作成し、これらの組合わせにより色々なタイプの蓄熱システムに対応できるようにした。
蓄熱槽に物理モデ 水蓄熱槽および現場築造型氷蓄熱槽には、TESEP-W(ヒートポンプ蓄熱センター)や中原らの研究成果を採用。氷蓄熱ユニットについ
蓄熱
ルの採用
ても作成予定である。水槽内部の変化を精度を上げて解くために、水槽モジュール内部で計算時間分割を行なっている。
システム
状態値モニタ
計算中に水槽内の水温変化などをリアルタイムでグラフ表示するモジュールを用意した。水温プロフイールの確認が可能である。
蓄熱制御
UMLの利用
外部ファイル化
GUI
蓄熱制御モジュールは簡易な翌日熱源運転時間制御を用意した。制御モジュールも独立しているので、既存の現実の蓄熱制御方法や新制
御方式の開発についても制御部分だけを作成すれば、蓄熱システムとしての評価が即座に可能としている。
BESTで想定される使い方について、UMLの一つであるユースケース図を用い整理を行い開発を進めた。
CSVファイルにて定義されるGUI画面の修正は、ソースコードの修正を必要としない。また、ツリーメニューも外部ファイルにて定義さ
れており、新しい部品の追加などのカスタマイズが自由。XMLファイルとの共存を視野に入れている。
状態値をオブジェ モジュール間の空気や水などの熱媒をクラスとして取り扱い、状態値をオブジェクトで取り扱う。例えば、空気クラスは、乾球温度、絶
クトで扱う
対湿度、質量流量、圧力などの状態値を持つ。これにより物質、エネルギー等の流れを統一的に整理・把握することができる。
計算順序自動決定 システム部品の計算順序は、熱媒の流れに沿って自動的にGUIから決定する。また、ユーザが変更することもできる。
リアルタイムグラ 各ステップの計算結果を逐次グラフに表示し、計算しながら結果を確認できる。これにより、最終結果を待たずに計算条件の修正が可能
フ表示
となる。
*1
*2
*3
*4
*5
*6
*7
*8
首都大学東京大学院 名誉教授 工博
建築研究所 理事長 工博
鹿児島工業高等専門学校 校長 工博
東京大学大学院 教授 工博
宇都宮大学 准教授 工博
東京理科大学 准教授 博士(工学)
関東学院大学 教授 工博
日建設計
*1 Emeritus Prof., Tokyo Metropolitan Univ., Dr.Eng.
*2 Chief Executive, Building Research Institute, Dr.Eng.
*3 Principal, Kagoshima National College of Technology, Dr.Eng.
*4 Prof., The Univ. of Tokyo, Dr. Eng.
*5 Associate Prof., Utsunomiya Univ., Dr.Eng.
*6 Associate Prof., Tokyo Univ. of Science, Dr.Eng.
*7 Prof., Kanto-Gakuin Univ.,Dr.Eng.
*8 Nikken Sekkei Ltd
―976―
ダウンロード

第9報 BEST開発の進展と専門版の機能