水工学論文集, 第 57 巻 2013 年 2 月
土木学会論文集B1(水工学) Vol.69, No.4, I_487-I_492, 2013.
福島県口太川流域における放射性物質の移行の
モデル化と再現について
NUMERICAL MODELING AND ESTIMATION OF RADIOACTIVE CESIUM
MOVEMENT AT THE KUCHIBUTO RIVER BASIN, FUKUSHIMA
田中 智大1・立川 康人2・椎葉 充晴3・萬 和明4・キム スンミン5
T. TANAKA, Y. TACHIKAWA, M. SHIIBA, K. YOROZU and S. KIM
1 学生会員 京都大学大学院工学研究科 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C1)
2 正会員 博 (工) 京都大学 准教授 大学院工学研究科 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C1)
3 正会員 工博 京都大学 教授 大学院工学研究科 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C1)
4 正会員 博 (工) 京都大学 助教 大学院工学研究科 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C1)
5 正会員 博 (工) 京都大学 講師 大学院工学研究科 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C1)
Radioactive cesium (Cs-134 and Cs-137) dispersed from the Fukushima No.1 Nuclear Power Plant is
strongly attached to surface soil layers. To estimate a movement of radioactive cesium with suspended
sediment in a catchment scale, a distributed rainfall and sediment runoff model was developed. Radioactive cesium attached to suspended load was modeled by considering a sediment particle size distribution.
A constructed simulation model reproduced an observed rainfall runoff as well as an estimation of sediment runoff considering the origine of the source of sediment generation and an estimation of the cesium
movement contained in the suspended load.
Key Words:
suspended sediment, distributed runoff model, radioactive cesium, particle size distribution
1. はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震
および津波によって引き起こされた東京電力福島第一
原子力発電所 1,3 号機での水素爆発により,多量の放
射性物質が大気中に放出された.大気中に放出された
放射性物質はその後の大気・水循環過程によって広範
囲に移動・拡散した.その中でも放射性セシウムである
Cs-134 および Cs-137 はアルカリ金属であることから,
その多くが陰イオンである土壌に強く吸着する.土壌
に吸着した Cs-134 および Cs-137 は降雨・土砂流出に
より河川に流集し,海洋に流出すると考えられる.特
に Cs-137 はその半減期が 30 年と長期間にわたるため,
移行・拡散の状況を予測し,対策を立てることが重要
である.
そこで本研究では,Cs-137 の移動・拡散現象を降雨・
土砂流出モデルを通して再現することを試みる.まず,
降雨・土砂流出現象を分布型流出モデルで表現し,浮遊
砂の発生起源を把握することによって,Cs-137 の空間
分布を考慮に入れた浮遊砂流出のモデル化を行う.次
に浮遊砂中の放射性セシウム含有量のモデル化を試み
る。対象流域は,放射性物質が高濃度かつ広範囲に拡
散した一級河川阿武隈川の支流で,特に高い線量地域
を含む口太川流域 (139km2 ) である.浮遊砂に吸着して
移動する Cs-137 の輸送量を予測し,その再現性を測定
結果と比較した.
Cs-137 輸送量の測定値 1) は,筑波大学および京都
大学によって得られた,観測期間 2011 年 6 月 21 日∼
2011 年 8 月 24 日の河川の水位,濁度および 2011 年 6
月 21 日∼2011 年 8 月 16 日の浮遊砂単位質量あたりの
Cs-137 含有量から得られた.測定地点は,対象流域で
ある口太川流域の中に設定した水境川下流地点,口太
川上流地点,口太川中流地点,口太川下流地点の 4 地
点である.口太川および各測定地点の位置を図-1 に示
す.測定地点の位置は赤字で示す.
2. 降雨・土砂流出のモデル化
(1) 分布型降雨流出モデルの構築
水文モデル構築システム OHyMoS2) を用いて分布型
流出モデル 3) を構築した.斜面部の流れは,不飽和・
飽和中間流・表面流を考慮したキネマティックウェーブ
モデル 4) を用い,河川流はキネマティックウェーブモ
デルを用いて追跡した.
(2) 流量の計算結果
構築した分布型降雨流出モデルを用いて図-1 中の 4
観測地点での流量の再現性を確認した.図-2 は分布型
流出モデルで用いた流域地形データであり,赤色の流
域下端が口太川下流地点,水色の流域下端が口太川中
I_487
流量 [m3/s-1]
口太川下流地点
福島市
口太川上流地点
山木屋雨量観測所
二本松市
○
○
○
西谷雨量観測所
郡山市
0
140
6
105
12
70
18
35
24
水境川下流地点
口太川
降雨強度 [mm/hr]
阿武隈川
175
口太川中流地点
百目木雨量観測所
東京電力
福島原子力発電所
0
30
0
1
2
3
4
5
6
時間 [day]
図-3 移川流域での観測流量と計算流量の比較
80
H-Q換算流量
70
計算流量
3 -1
図-1 口太川流域の位置と各測定地点
50
40
30
20
N
口太川下流域
10
口太川上流域
0
6/21 6/27
水境川流域
移川流域
7/5
7/12
7/20 7/25 8/1
8/9
8/16
降雨強度 [mm/hr]
流量 [m /s ]
60
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
110
120
8/30
図-4 口太川下流地点での H-Q 換算流量と計算流量の比較
2km
図-2 口太川および移川流域の流域地形モデル (赤:河道)
流地点,茶色の流域下端が口太川上流地点,灰色の流
域下端が水境川下流地点である.口太川流域では過去
の流量観測記録がない.そこで,降雨流出モデルのパ
ラメータは,口太川流域に隣接し、口太川流域と同様
に流域の大部分を山地が占める、移川流域 (120km2 ) で
の過去の流量観測記録を用いた.移川流域は図-2 中の
南側の薄灰色の部分である.
パラメータの同定に用いた降雨事象は 2004 年の台
風 23 号による降雨流出である.パラメータはそれぞれ
ds = 0.3440,dc = 0.2875,ka = 0.0046,β = 6.3486,
n = 1.6667 とした (パラメータの意味は文献 4) 参照).
同定したパラメータを用いた移川の計算流量と H-Q 換
算流量を図-3 に示す.降雨データについては国交省の
百目木地点,山木屋地点の雨量データ,および福島県
の西谷地点の雨量データを用いた.それぞれの位置は
図-1 に示す通りである.口太川 4 地点での河川流量は,
4 観測地点で計測された水位をもとに,観測期間中の低
水時に流量を測定して作成した H-Q 曲線を用いて,流
量に変換した.口太川下流地点での計算流量と H-Q 換
算流量を比較した結果を図-4 に示す.計算流量と H-Q
換算流量はおおむね一致しているが,7 月 5 日,7 月 13
日および 8 月 16 日のピーク流量の計算流量が H-Q 換
算流量に比べ小さくなっている.H-Q 曲線が低水時の
みのデータを用いて作成されたことから,7 月 5 日およ
び 7 月 13 日の H-Q 換算流量は H-Q 曲線の適用範囲外
であり、過大である可能性がある.他の 3 地点におい
ても同様の可能性がある.したがって,高水時の H-Q
換算流量には不確かさが含まれているため、低水時の
H-Q 換算流量との適合性と移川流域での適合性を考え、
同定したパラメータを以下の分析に用いた.
(3) 分布型浮遊砂流出モデルの構築
流域からの浮遊砂流出量を推定する手法は多数提案
され 5)6) ,河川中を流れる土砂の粒径分布や拡散・沈降
を考慮したモデルが清水ら 7) などによって数多く提案
されている.本研究では表土層の浸食を表現し,分布
型降雨流出モデル組み合わせて用いることができ,パ
ラメータの扱いが容易と考えられる市川ら 8) が構築し
た赤土流出モデルを基本とする.流域斜面は矩形斜面
の集合であり,個々の斜面に対して次の浮遊砂の流出
モデルの基礎式を用いる.
∂(Chs ) ∂(Cqs )
+
= RE
∂t
∂x
(1)
RE = ρs E(1 − γ)pf
(2)
t は時間,x は流下方向,C は浮遊砂濃度,hs は表面
流の流積,qs は表面流の単位幅流量であり,hs および
qs は斜面流のキネマティックウェーブモデルから算出
される.(1) 式は浮遊砂の連続式に相当し,右辺の RE
I_488
測定値
計算値
浮遊砂流出量 [kg/s]
100
10
1
0.1
0.01
6/21 6/27
7/5
7/12
7/207/25 8/1
8/9
8/16
1e+006
降雨強度 [mm/hr]
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
110
120
130
140
総浮遊砂量の計算値 [kg]
1000
水境川下流地点
口太川上流地点
口太川中流地点
口太川下流地点
100000
10000
1000
100
10
8/30
10
時間
図-5 口太川下流地点での浮遊砂流出量の観測値と計算値
100
1000
10000 100000
総浮遊砂流出量の測定値 [kg]
1e+006
図-6 サンプラー設置期間の総浮遊砂流出量 (横軸が H-Q 換
算流量を用いた測定値,縦軸が計算値)
は (2) 式で表される単位時間単位長さ当たりの土砂の
浸食量である.ただし,ρs は土砂礫の密度,E は浸食
速度,γ は表層土層の空隙率,pf は表層土層内の微細
粒子の重量百分率である.
(2) 式中の浸食速度 E については,芦田・田中 9) の実
験によって得られた浸食速度と摩擦速度の関係式を利
用する.芦田・田中 9) の実験によると,掃流力 τ と土
粒子が移動し始めるときの掃流力 (限界掃流力)τc の比
τ /τc が 1 に近いところでは,掃流力の増加に伴って浸
食速度が急増する.この実験結果から,薄層流が発生
する斜面で掃流力の増加,すなわち摩擦速度の増加に
伴って浸食速度が急増すると仮定し,比例定数 ξ およ
びべき定数 ζ を用いて浸食速度 E を E = ξuζ∗ とする.
摩擦速度 u∗ は表面流の流積 hs ,重力加速度 g ,斜面勾
√
配 sin θ を用いて u∗ = ghs sin θ とした.斜面流域に
おける各矩形斜面間での浮遊砂の受け渡しは,下流側
に表面流が存在する場合のみ受け取り,存在しない場
合は上流側矩形斜面に堆積するとした.河道では,浮遊
砂の発生・沈降はなく斜面部で発生した浮遊砂を (1) 式
によって輸送すると仮定した.そのため河道では,(1)
式の右辺の項は斜面部からの浮遊砂の流入強度を表す.
(4) 浮遊砂流出量の計算結果
上記の浮遊砂流出モデルを分布型降雨流出モデルに組
み込み,浮遊砂流出量を計算した.浮遊砂流出量につい
ては過去の観測データが存在しないため,2011 年 6 月
21∼27 日の観測データをもとに,浮遊砂流出モデルの
パラメータ ξ と ζ を,試算を繰り返して ξ = 1.0,ζ = 11
とした.pf および ρs は,pf = 1.0,ρs =2750kg/m3 と
固定した.口太川下流地点での浮遊砂流出量の観測値
および計算値を図-5 に示す.観測値は濁度計の計測値
から算定した浮遊砂濃度を流量と掛けて算出した.H-Q
換算流量と計算流量が一致した期間は時系列変化を再
現することができた.他の 3 地点においても同様の傾
向であった.
4 地点に設置された浮遊砂サンプラーは,観測期間
中 8 回 (6 月 27 日,7 月 5 日,7 月 12 日,7 月 20 日,
7 月 25 日,8 月 1 日,8 月 9 日,8 月 16 日) 回収され,
各期間の浮遊砂量とそれに含まれる Cs-137 含有量が測
定されている 1) .浮遊砂流出量について,4 地点のサ
ンプラー設置期間の計算値と測定値の総量を図-6 に示
す.図-6 中で,H-Q 換算流量と計算流量に大きなずれ
があった期間を黒くプロットした.全体としていずれ
の観測地点においても計算値が測定値に比べやや小さ
いが,計算流量と H-Q 換算流量がおおむね一致した期
間については,オーダーが一致した.ただし,水境川
と口太川上流では計算流量と H-Q 換算流量が一致して
いても浮遊砂流出量の計算値と測定値が大きく異なる
期間がある.これは,下流で同定したパラメータ ξ ,ζ
を流域全体に用いたことが原因と考えられる.
3. 発生起源を考慮した浮遊砂流出のモデル化およ
び計算結果
本研究で用いる分布型流出モデルでは,図-2 中の異
なる色で表される部分流域から生産された浮遊砂が,赤
線で表される河道区分に流出する.河道区分への浮遊
砂流入強度は,部分流域からの浮遊砂流出量を河道区
分の長さで割った単位長さ単位幅当たりの浮遊砂横流
入量 Rs とし,河道での浮遊砂連続式
∂(CA) ∂(CQ)
+
= Rs
∂t
∂x
(3)
に導入する.A は通水断面積、Q は流量、Rs は斜面部
からの浮遊砂の流入量である.今,ある部分流域とそ
の河道区分を考える場合,この河道区分上流にある部
分流域で発生した浮遊砂は,(3) 式とは独立して追跡す
る.たとえば,この河道区分より上流の部分流域が N
個ある場合,この河道区分には (3) 式で追跡する浮遊
砂とは別に,上流の部分流域ごとに発生した N 種類の
浮遊砂が流れると考え,モデル上ではこの河道区分で
N 個の連続式を設定して浮遊砂を別々に追跡する.す
なわち
∂(Ci hs ) ∂(Ci qs )
+
= 0, i = 1, 2, .., N
∂t
∂x
(4)
とする.(4) 式は上流域から供給される N 種類の浮遊
砂濃度 Ci (i = 1, 2, ..., N ) の連続式となっている.右辺
I_489
と仮定する.土粒子が球形であると仮定すれば,1 粒の
体積 Vp は
( )3
4π D
Vp =
(6)
3
2
10
浮
遊
砂
流
出
量
[kg]
1
0.1
0.01
なので 1 粒あたりの土粒子の密度 ρs =(const.) とすると
粒径 D の粒子 1 粒あたりの質量 mp は
( )3
D
4π
ρs
(7)
mp = ρs Vp =
3
2
0.001
0.0001
1e-005
6/21 6/27
7/5
7/12
7/20 7/25
8/1
8/9
8/16
8/30
時間
図-7 口太川下流地点での発生起源別浮遊砂流出量
の横流入項は,(3) 式で与え、(4) 式 では 0 とする.結
局,この河道区分の場合,合計 N + 1 個の連続式を解
いて発生源の異なる浮遊砂を追跡することになる.(3)
式,(4) 式は浮遊砂濃度 C に対して線形であるため,こ
のようにモデル化することにより,部分流域ごとの浮
遊砂流出量を個別に追跡することができる.
この方法では,下流に向かうほど河道区分での連続
式の数が多くなり計算量が増加するが,各部分流域で
発生した浮遊砂を時々刻々と追跡できる.このモデル
化手法により,Cs-137 の空間分布を考慮して Cs-137 の
移行を追跡することが可能となる.口太川下流地点に
おいて図-2 の各部分流域から生産された浮遊砂の観測
期間中の計算結果を図-7 に示す.計算結果の色と図-2
の流域分割図の色が対応している.
4. 浮遊砂中の Cs-137 含有量のモデル化
前節までの浮遊砂流出のモデル化によって,部分流域
ごとに浮遊砂量を追跡することが可能となった.次に,
浮遊砂中の Cs-137 含有量をモデル化する.前節では,
浮遊砂として輸送される全粒径の浮遊砂濃度を追跡す
るモデルを構築した.ただし,一般に,降雨によって
供給された Cs-137 の土砂への分配 (固液分配係数) は
粒径に依存し,粒径の小さい土粒子に Cs-137 が選択的
に付着することが知られている 1) .各粒径ごとの浮遊
砂流出量は,粒径分布が得られれば,前節までで計算
される総浮遊砂流出量に粒径分布をかけて得られる.
そこで,ここでは観測期間中に浮遊砂サンプラーか
ら得られた粒径分布 1) が時間的に変化しないものと仮
定して,各粒径の浮遊砂に含まれる Cs-137 含有量をモ
デル化することで,浮遊砂全体に含まれる Cs-137 含有
量を推定した.粒径分布の設定については,5. で改め
て述べる.モデル化の流れを以下に示す.
(1) 粒径分布を用いた Cs-137 含有量のモデル化
粒径 D[µm] の土粒子 1 粒に含まれる Cs-137 含有量
p[Bq] を
p = βDα
(5)
となる.一方,浮遊砂サンプラーによって補足される
浮遊砂の質量を M ,質量密度関数を Pf (D) とすると,
サンプラー中の粒径 D の粒子の質量密度は M Pf (D) と
なる.したがって,サンプラー中の粒径 D の粒子数密
度 N (D) は
N (D) =
M Pf (D)
6M
=
Pf (D)D−3
mp
πρs
(8)
となり,これに粒子 1 粒あたりの Cs-137 含有量 p =
βDα を掛けて全粒径で積分することで,サンプラー中
の Cs-137 含有量 Cs は
∫
6M β
Cs =
Dα−3 Pf (D)dD
(9)
πρs D
となる.
(2) パラメータ決定方法
粒径分布の観測値は,ある粒径幅 ∆Dj ごとの質量累
積分布関数 F (Dj ) として得られている.そこで,(9) 式
を ∆Dj ごとに離散化し,その代表粒径を Dj [µm] とす
ると
n
6β ∑ α−3
Cs = M
D
Pf (Dj )∆Dj
(10)
πρs j=1 j
となる.n は粒径分布の観測値における粒径の分割数
であり,ここでは n = 51 である.質量累積分布関数
F (Dj ) が観測値として得られているので,Pf (Dj )∆Dj
は F (Dj+1 ) − F (Dj ) で得ることができる.また,左辺
の Cs と浮遊砂の質量 M がサンプラーの回収した回数
だけ観測値として得られている.
土 粒 子 の 質 量 密 度 ρs に つ い て は ,2. と 同 様 に
ρs =2750kg/m3 と固定した.そのため,モデルパラメー
タは α および β となる.これらは Cs-137 の土粒子へ
の吸着を示すパラメータであり,空間的に変化する値
をとると考えられるため,部分流域ごとにこれらのパ
ラメータを同定した.具体的には,流域を図-2 に示す
ように,黒い太線で区切られた,水境川流域,口太川
上流域,口太川中流域,口太川下流域の 4 つの部分流
域に分割し,浮遊砂サンプラーが設置された水境川下
流地点,口太川上流地点,口太川中流地点,口太川下
流地点の 4 地点での粒径分布の観測結果を用いて,4 つ
の部分流域でそれぞれパラメータを同定した.
浮遊砂の粒径分布と質量,Cs-137 含有量は流量・浮
遊砂濃度と同様に,水境川下流地点,口太川上流地点,
口太川中流地点,口太川下流地点の 4 地点で浮遊砂サ
I_490
浮遊砂中のCs-137含有量の計算値 [Bq/kg]
表-1 各分割領域でのパラメータ
流域パラメータ
水境川流域
口太川上流域
口太川中流域
口太川下流域
α
2.43
2.85
2.88
2.76
β
0.02
0.01
0.002
0.01
70000
水境川下流地点
口太川上流地点
口太川中流地点
口太川下流地点
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
0
Csm
3
∑
n
6βi ∑ αi −3
=
Mi
D
Pi (Dj )∆Dj
πρ j=1 j
i=1
(11)
と表される.ただし,上流から流下してくる浮遊砂の
発生起源別の粒径分布や質量を観測することはできな
い.観測できるのは,それらすべてを合わせた口太川
中流地点での浮遊砂の粒径分布 Pm と質量 Mm である.
そこで,部分流域ごとに発生する浮遊砂の粒径分布に
大差はないと仮定し,P1 = P2 = P3 = Pm とすると,
(11) 式は
Csm =
3
∑
i=1
n
∑
Mm Mi
6βi αi −3
D
Pm (Dj )∆Dj
M1 + M2 + M3 j=1 πρ j
(12)
となる.
Csm ,Mm および Pm は観測値として得られており,
M1 ,M2 ,M3 は,3.で構築した発生源を考慮した
浮遊砂流出モデルによって計算できる.(12) 式中の
Mm /(M1 +M2 +M3 ) は,計算した浮遊砂流出量の和が
観測された浮遊砂サンプラー中の浮遊砂の質量となる
ように補正していることを意味している.また α1 ,β1 ,
α2 ,β2 は水境川流域および口太川上流域のパラメータ
として得られているため,(12) 式の未知パラメータで
ある口太川中流域でのパラメータ α3 および β3 を同定
した.下流についても同様の手法で α4 および β4 を同
定した.同定は RMSE 法により行った.
(3) パラメータの決定結果と再現計算
筑波大学および京都大学による浮遊砂中の Cs-137 含
有量の測定 1) は,浮遊砂サンプラーを 2011 年 6 月 20
日∼8 月 16 日の観測期間中 8 回 (6 月 27 日,7 月 5 日,
7 月 12 日,7 月 20 日,7 月 25 日,8 月 1 日,8 月 9 日,
8 月 16 日) 回収して行われたため,浮遊砂サンプラー
図-8 浮遊砂単位質量あたりの Cs-137 含有量 (パラメータ同
定期間 6 月 27 日∼8 月 1 日)
浮遊砂中のCs-137含有量の計算値 [Bq/kg]
ンプラーにより得られた.そのためまず,最上流域に
ある水境川流域および口太川上流域において、ぞれぞ
れの流域ごとに α および β を同定した.
次に,上流域をもつ口太川中流域および口太川下流
域については以下に示すようにパラメータ同定した.水
境川流域,口太川上流域,口太川中流域,口太川下流域
で発生した浮遊砂に関する量を示す添え字をそれぞれ
i = 1,2,3,4 とすると,口太川中流地点での Cs-137 輸
送量 Csm は,水境川流域,口太川上流域,口太川中流
域を起源として中流地点を通過する浮遊砂の質量 M1 ,
M2 ,M3 ,その質量密度関数 P1 ,P2 ,P3 ,および部分
流域ごとに定めるパラメータ αi ,βi を用いて
10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000
浮遊砂中のCs-137含有量の測定値 [Bq/kg]
70000
60000
50000
40000
30000
水境川下流地点
口太川上流地点
口太川中流地点
口太川下流地点
20000
10000
0
0
10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000
浮遊砂中のCs-137含有量の測定値 [Bq/kg]
図-9 浮遊砂単位質量あたりの Cs-137 含有量 (再現期間 8 月
1 日∼8 月 16 日)
設置期間ごとの 8 個のデータとなっている.そのため,
6 月 27 日∼8 月 1 日までの 6 期間の測定値を用いてパ
ラメータ同定を行い,8 月 1 日∼8 月 9 日,8 月 10 日∼
8 月 16 日の 2 期間で再現性を確認した.一番最初の観
測期間 6 月 20 日∼6 月 27 日の期間はすべての観測地
点において測定値が非常に大きな値を示しており,余
震や観測誤差,局所的な高濃度汚染地の可能性などが
考えられる.そこで,本研究のモデル化ではこの期間
をパラメータ同定期間から除外した.
同定したパラメータを表-1 に示す.(9) 式から明らか
なように,α < 3 の場合は粒径が大きいほど,単位質量
の浮遊砂に含まれる Cs-137 含有量は小さくなる.得ら
れた α の値は,どの部分流域でも 3 以下となり,粒径
の小さい土粒子に選択的に Cs-137 が吸着する性質が,
結果として表れている.また,パラメータの値から口
太川中流域において比較的 Cs-137 含有量が少ないこと
が示唆される.
パラメータ同定期間について,4 観測地点の全 8 期
間の浮遊砂中の Cs-137 含有量の計算値と観測値を図-8
に示す.また,再現期間については図-9 に示す.パラ
メータ同定期間は多少のばらつきはあるが,再現期間
である最後の 2 期間はすべての観測地点で計測値と計
算値がおおむね一致した.
5. Cs-137 輸送量の予測
2.,3. で示した浮遊砂流出のモデル化,および 4. で
示した浮遊砂中の Cs-137 含有量のモデル化により,Cs137 輸送量を以下のように予測する.まず,降雨データ
I_491
Cs-137輸送量の計算値 [Bq]
1e+011
1e+010
6. おわりに
水境川下流地点
口太川上流地点
口太川中流地点
口太川下流地点
1e+009
1e+008
1e+007
1e+006
1e+006
1e+007 1e+008 1e+009 1e+010
Cs-137輸送量の測定値 [Bq]
1e+011
図-10 4 観測地点での Cs-137 輸送量の観測値と予測値の比
較 (6 月 27 日∼8 月 16 日)
から分布型降雨・土砂流出モデルにより浮遊砂流出量
を計算する.次に,この値に Cs-137 の含有量を乗じて,
Cs-137 の移行量を予測する.浮遊砂中の Cs-137 含有量
の値は,浮遊砂の粒径分布に依存するが,粒径分布は
予測値としては得られない.ただし,図-8 および図-9
からわかるように,単位質量あたりの Cs-137 含有量は
部分流域ごとには異なるが,浮遊砂サンプラー設置期
間ごとに大きな変化が見られない.すなわち (10) 式に
おける Cs /M の測定値および計算値が部分流域ごとに
ほぼ一定であり,浮遊砂の粒径分布の期間変化が小さ
いことがわかる.そこで,各部分流域ごとに粒径分布
を固定し,その空間分布を考慮した Cs-137 の輸送量推
定を行った.固定した粒径分布は,まず 8 回の浮遊砂
サンプラー中の浮遊砂の質量および粒径分布を用いて
各サンプラー中の質量分布を求め,それを 8 回のサン
プラー中の浮遊砂の総量で割ることで作成した.
こうして作成した観測地点ごとの粒径分布を Pi (i =
1, 2, 3, 4 は各観測地点) とし,得られた Cs-137 含有量モ
デルのパラメータ αi ,βi を用い,(12) 式を用いて観測
地点ごとに単位質量あたりの Cs-137 含有量を設定した.
観測地点ごとに設定した単位質量あたりの Cs-137 含有
量を ηi ,観測地点ごとのサンプラー設置期間の Cs-137
輸送量の予測値を C̃sij (j = 2, 3, ..., 8 はサンプラー設置
期間) とすると,浮遊砂モデルによって得られる流域 i,
期間 j の浮遊砂流出量の計算値 Mij を用いて
C̃sij = ηi Mij , i = 1, 2, 3, 4, j = 2, 3, .., 8
本研究では,分布型降雨・浮遊砂流出モデルおよび浮
遊砂中の Cs-137 含有量のモデルを構築して,河川中の
Cs-137 輸送量の再現を試みた.その結果,流量・浮遊砂
流出量ともに計算値が測定値とはよい適合性が見られ
た.浮遊砂中の Cs-137 含有量についても,測定結果に
近い結果が得られた.発生起源を考慮した分布型浮遊
砂流出モデルによって浮遊砂中の Cs-137 含有量の空間
分布をモデルパラメータとして表現したこと,Cs-137
の含有量を浮遊砂粒径の関数としてモデル化したこと
は本研究の大きな特徴といえる.
しかしながら,上流部では一部浮遊砂流出モデルの
精度がよくない期間があり,上流部でのパラメータな
どの検討が課題として挙げられる.そして,本研究で
構築したモデルを長期のシミュレーションに適用する
ためには,放射線強度の時間減衰を考慮するとともに,
各部分流域での Cs-137 の移動による Cs-137 の残留量
の減少を考慮するためのモデルの改良が必要がある.ま
た Cs-137 の付着した土粒子の一部は河道中で発生・沈
降すると考えられるため,これらの機構についても考
慮する必要がある.
参考文献
(13)
として得られる.
4 観測地点でのサンプラー設置期間ごとの Cs-137 輸
送量の合計値の予測値と観測値を図-10 に示す.浮遊砂
サンプラーを回収した 8 回のうち,計算流量と H-Q 換
算流量が適合してかつ,浮遊砂中の Cs-137 含有量の計
算値と観測値も適合した期間は,適切な予測値が得ら
れた.一方,残りの期間は主に,計算流量と H-Q 換算
流量にずれが見られた期間と,Cs-137 含有量の測定値
が著しく大きい 6 月 20 日∼6 月 27 日の期間 (図-10 中
で黒くプロットした期間) であり,計算値が測定値に比
べ約 1 オーダー小さい結果となった.
1) 文部科学省原子力災害対策支援本部: 放射線量等分布
マップ関連研究に関する報告書 (第2編) 6.3.2. 森林,土
壌等の自然環境中における放射性物質の移行状況調査,
pp.2-165–2-190, 2011.
2) 京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻水文・
水資源学分野: 水文モデル構築システム OHyMoS,
http://hywr.kuciv.kyoto-u.ac.jp/ohymos/index.html
(2012/9/30 確認).
3) 市川温, 村上将道, 立川康人, 椎葉充晴: 流域地形の新
たな数理表現形式に基づく流域流出系 シミュレーショ
ンシステムの開発, 土木学会論文集, no. 691/II-57, pp.
43-52, 2001.
4) 立川康人, 永谷言, 寶馨: 飽和, 不飽和流れの機構を導入
した流量流積関係式の開発, 水工学論文集, 48, pp.7–12,
2004.
5) 平林桂, 砂田憲吾, 大石哲, 宮沢直季:片庭川における洪
水時の浮遊砂・ウォッシュロード観測と流域土砂動態モ
デルの検討, 土木学会論文集, no. 768, pp. 33-43, 2004
6) APIP, Takahiro SAYAMA, Yasuto TACHIKAWA and
Kaoru TAKARA, Lumping of a physically-based distributed model for sediment runoff prediction in a
catchment scale, Annual Journal of Hydraulic Engineering, JSCE, vol. 52, pp. 43-48, 2008.
7) 清水康行:水理公式集 例題プログラム集 第 2 編 河川編
[例題 2‐4]1 次元流れと河床変動の計算, 2002
8) 市川温, 藤原一樹, 中川勝広, 椎葉充晴, 池淵周一: 沖
縄地方における赤土流出モデルの開発, 水工学論文, 47,
pp.751–756, 2003.
9) 芦田和夫, 田中健二: 粘土分を含有する砂れき床の浸食と
流砂機構に関する研究, 京都大学防災研究所年報, 17B,
pp.571–5846, 1974.
(2012. 9. 30 受付)
I_492
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福島県口太川流域における放射性物質の移行の モデル化と再現について