Hosei University Repository
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要
Vol.1(2012 年 3 月)
法政大学
常時微動から推定する建物の振動特性に関する研究
-最適化手法を用いた構造同定-
A Study on Structural Vibration Property Estimated from Microtremor
-Structural Identification by Optimization Method-
秋元一成
Kazunari AKIMOTO
指導教員
吉田長行教授
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
This study proposes the identification method based on the dynamic characteristics of the structure, which
is measured by the microtremor observational instrument. There are three advantages on this method: We will
be able to make a structural model, 1)We can reduce cost and time to put the data picken up from plan into
analytical model. 2) without drawings and specifications, and 3) considering the aging of the structure and
the defects in construction. The observed structure is ’58 building at Ichigaya campus of Hosei University.
This thesis develops a new process on structural identification.
Key Words : Microtremor, Identification problem, Structural dynamics, GA
1. はじめに
することにある(Fig.2).本プロセスによれば,耐震診
地盤や構造物は地震時でなくても常に人間の感覚では
断業務において,図面からデータを拾い,計算用構造モ
感じ取れないほど微小に揺れている.これは「常時微動」
デルにインプットするなどの作業を短縮し,また,図面
と呼ばれ,風や火山活動などの自然現象や,車や電車,
等の資料が得られない場合でも既存建物の耐震性を診断
工場などの人間活動により生じるものである(Fig.1).
できる利点がある.
Retrieve data that make
structure model
Fig.2 Method of identification
Fig.1 Hypocenter of microtremor
耐震診断では建物調査により,建物の劣化状態を目視
調査,現地にて設計図書との整合性や修繕履歴等の有無
を確認する現地調査と,診断レベル確認のため基礎,地
盤,劣化状況,部位寸法や配筋状況,コンクリート強度
等の調査が必要かどうかを確認する診断レベル調査を行
い,その後1次,2 次,3 次診断と建物の耐震性の検討
へと続いていく.しかし,古い建物では,資料の老朽化
や紛失がしばしば生じ,また,施工段階での変更やミス
から実際には資料と異なる条件で竣工された可能性もあ
る.そこで現場に赴き,建物を実測することにより実験
的に耐震診断する手法の確立が求められており,その 1
つの手法として常時微動観測を利用するものがある.
本研究の目的は,常時微動観測機器を用いて常時微動
下の対象建物を観測し,得られたデータのみから建物の
振動特性等を探り,構造諸量を同定するプロセスを構築
Stiffness
Damping
etc.
同定モデルの理論的考察
2.
2.1
多質点せん断モデル
建物に地震動が加わる時の振動方程式は以下のように
表せる.
M x j  Cx j  K x j  M x0 
M , C , K  :mass, damping, stiffness matrices
(1)
x  :displacement vector in time(layer j)
j
x0  :acceleration vector in time(ground)
式(1)の詳しい誘導については文献[1],[2]を参照され
たい.ここで,地震動の変位が周期的に変化する時間 t の
関数であるとすると以下のように表せる.
x0  x0 e it , x 0  x0 ie it , x0   x0 2 e it
(2)
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同様に建物の変位は次のように表せる.
 X  x x 


   h( )  1   H  
 x   x 
j
x j  x je
it
, x j  x j ie
it
2 it
, x j   x j  e
(3)
  M   iC  K x e   M x e
(4)
x     M   iC   K  M 
1 x  
it
0
0
(11)
0
(11)式は各層の絶対増幅率応答倍率を表し,これを本研
これらを式(1)に代入し,整理すると
2
j
j
究では 3 自由度 1 軸モデルの目標関数とする.
it
2
0
1
2
j
2
遺伝的アルゴリズムによる推定
3.
0


xj 
1
2
1 2
     M   iC   K  M 
 x0 
(1)
BIT
(5)
(2)
上式で各要素の絶対値を取ったものを下式とする.
INIT

 xj 


  h( )
x

 0 

(6)
(3)
PTYPE
式(6)は各階の相対応答倍率を表す.本研究では各階で
(4)
DATA
の絶対変位を扱うこととし,次のように書き換える.
 X  x x 


   h( )  1   H  
 x   x 
j
0
j
(5)
(7)
0
(1)BIT・・・初期設定
世代数,個体数,ビット数の設定
(2)INIT・・・初期集団の発生
パラメータの乱数を発生させる
(3)PTYPE・・・パラメータの設定
2 進コードから 10 進数への変更
(7)PURPO・・・適応度の評価
各個体に適応度を与える
(9)ROUL・・・ルーレット戦略
適応度に比例した割合で個体を選択
(10)CROS・・・交叉,エリート戦略
染色体を組み替えて子を作る
(11)MUT・・・突然変異
遺伝子を一定の確率で変化させる
CALCU
(6)
0
MATIN
X j :absolute displacement
H  :amplification ratio
(7)
PURPO
(8)
CHANGE
本研究では,式(7)を多質点せん断モデルの目標関数と
(9)
する.
2.2
ROUL
3 自由度 1 軸モデル
定式化は多質点せん断モデルと同様に行う.
(10)
CROS
 M   X   C   X    K   X     M   X 0 
 M x 
0
 x0  
X 

 


 M y 
X   Y  ,  X 0    y0  ,  M    0

 
 0 
0
 


 0
 
Cx 
0

, C    0
C y 

0
 0
 K x 
0 
0


0  ,  K    0
 K y 


0
C 
 0
(8)
0

0

 I 
(11)
MUT
Fig. 3 Identification process by GA
0 

0 

 K 
1
X 
2
 M  {1} 2
      M   i C    K 

X
 0
本論文の推定法は,最適化手法を用いることにする.
その中でも遺伝的アルゴリズム(GA)を採用した.
(9)
模擬モデル同定解析
4.
実際に扱う建物の観測データには様々な雑音が混ざっ
ており,複雑な波形を示している.そこで,直接実際の
この各要素の絶対値をとり
 X 

  h( )
 X 0 
建物を解析する前に単純な模擬観測モデルを用いて同定
手法を検討する.
(10)
4.1
評価関数
同定は,目標関数とモデル応答関数の差を評価関とし
て,これを最小化することによってなされる.
式(10)は各階の相対応答倍率を表す.本研究では各階
での絶対変位を扱うこととし,次のように書き換える.
 ji  h j i   h j i 
~
(12)
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n
n ~
 j    ji   h j i   h j i 
i 1
(13)
i 1
 j  1,2,, m
h j i  : amplification ratio(observation)
~
h j i  :amplification ratio(analysis)

j
点がある.
parameter : k xi , k yi , k i (i  1, n)
a)応答倍率グラフ
:discriminant in this study
ここで,式(13 )は評価関数であり,これを最小化する
建物の層剛性を遺伝的アルゴリズム(GA)により探索す
る.また,遺伝的アルゴリズムの具体的な手法と適用法
につ い て は , 文 献 [3], [4]を 参 照 さ れ た い .
4.2
模擬解析モデルに対する雑音
実際の応答倍率は様々な雑音が入っており,滑らかな
Fig.5 Comparison of spectra (1000thgeneration
X 1/X0)
Fig.6 Comparison of spectra (1000thgeneration
X2/X0)
グラフにならない.そこで,模擬観測モデルの応答倍率
に雑音を入れ,GA を用いて同定を行った.
また,雑音を 30%(振幅をランダムに-30%~+30%
増加させた)程度に解析を行った.
H ()
*
 N  H ( )
(14)
{H ( )} :noise included function
{H ( )} :function without noise
N :noise’s coefficient (-30%~+30%)
*
4.3
模擬モデル解析結果
解析モデルを Fig.4 に示す.遺伝的アルゴリズムに用
b)適合率
いる諸量は Table 1 に記載する.
m2
m1  2  104  kg 
m2  2  104 (kg )
k2
m1
k1
k1  343(kN cm)
k2  255(kN cm)
Fig.4 model 2 mass point
Fig.7
Table 1 Analytical data
Amount of generation
1000
Amount of individual
10
Amount of bit
16
Matrix size
Each mass(t)
2
20
Damping factor
0.05
Number of frequency
200
Step size of frequency
0.1
□剛性パラメータ型
剛性値を個体数分ランダムに発生させることにより,
各質点の剛性値を追い込む.図面のない建物でも適用で
きるが探索範囲が大きい為,解が収束しづらいという欠
Changes of fitting ratio (1000th generation )
c)剛性の比較
Table 2 Rigidity of each story
k1
k2
Analytical model(kN/cm)
343.0
255.0
Identification value(kN/cm)
344.8
249.9
□係数つきパラメータ型
剛性値が既知の場合,係数  ,  ,  を個体数分ランダ
ムに発生させ,剛性に掛け合わせることにより,各質点
の係数と実際の剛性値を追い込む.図面が存在すること
が前提となるが,解が収束しやすく,建物が設計時に比
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べどの程度劣化しているかを知ることができる.
parameter: i , i ,  i (i  1, n) i k xi , i k yi ,  i k i
は,耐震診断により指摘された強度不足である.しかし
ながら,階により天井高(階高)や壁の配置が異なり,一
概に建物全体の強度不足とは言えず,各階に於いて強度
a)応答倍率グラフ
判定を行い,それに基づいて的確に補強することも一つ
の解決策といえる.本研究では,その足がかりを得るた
め,中庭側に隣接した低層棟(Photo 1)を対象に検討を
試みる.
Fig.8 Comparison of spectra (1000thgeneration
X 1/X0)
Photo 1 The exterior of the building for observation
5.2
常時微動観測
常時微動は 19 世紀末頃にはすでに知られていたが,当
時は地震観測時に測定されるノイズに過ぎなかった.し
Fig.9 Comparison of spectra (1000thgeneration
X2/X0)
かし,後の研究で常時微動から地盤や建物の振動特性(剛
性,減衰特性など)を抽出することができるようになっ
b)適合率
た.常 時 微 動 観 測 の 具 体 的 な 方 法 に つ い て は ,文 献
[5]を 参 照 さ れ た い .
Fig.10 Changes of fitting ratio (1000th generation )
c)剛性の比較
Photo 2 Three Axis Vibrograph
Table 3 Rigidity of each story
k1
k2
Analytical model(kN/cm)
343.0
255.0
Identification value(kN/cm)
331.3
261.1
0.96
1.02
coefficient
実測は建物の変位・速度・加速度が時間軸により観測
される(Photo 2).観測波は,様々な周期をもった調和
波の重合である.これを高速フーリエ変換(FFT)によって
周波数領域の情報に変換し,各階の周波数変位応答関数
を得る.本論で同定に用いる目標関数はこの各階変位を
観測値同定解析
5.
5.1
対象建物
地動で割った変位応答倍率である.
5.3
観測値解析結果
本論で同定対象とする建物は法政大学市ヶ谷富士見キ
ここではその模擬観測データを実測データに置き換え
ャンパス 58 年館である.58 年館は竣工から半世紀以上
同様に解析する.本解析は多質点せん断モデルの他に 3
経過し,近年建替えの計画も出ている.その理由の一つ
自由度 1 軸モデルを使用した.解析前,既知の建物デー
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タは Fig.11 に示す通りである.遺伝的アルゴリズムに用
いる諸量は Table 4 に記載する.
m3
k3 , k 3
m2
k2 , k 2
m1
m1  4.3  105 [kg ]
m2  6.3  105 [kg ]
m3  6.0  105 [kg ]
m 1  339  105 [kg  m 2 ]
m 2  317  105 [kg  m 2 ]
Fig.14 Comparison of spectra (1000thgeneration Y1/Y0)
m 3  461  105 [kg  m 2 ]
k1 , k 1
Fig.11 model 3 mass point
Table 4 Analytical data
Amount of generation
1000
Amount of individual
10
Amount of bit
16
Matrix size
Each mass(t)
3
m1  430
m2  630
m3  600
Damping factor
0.05
Number of frequency
200
Step size of frequency
0.1
Fig.15 Comparison of spectra (1000thgeneration Y2/Y0)
b)適合率
□観測値スペクトルによる解析
a)応答倍率グラフ
Fig.16 Changes of fitting ratio (1000th generation )
c)剛性の比較
Table 5 Comparison of Identification
Fig.12 Comparison of spectra (1000thgeneration X1/X0)
Theoretical result(kN/cm)
Identification value(kN/cm)
6.
結論
6.1
本論文の結論
and theoretical result
k1
k2
k3
4913.0
4006.0
1055.0
4814.0
3107.0
879.0
2499.8
9999.5
3508.3
7614.5
2659.6
2446.3
1)模擬モデル同定解析では大変良好な結果が得られるた
め,本研究の方向性は確認できた.
2)観測値同定解析については誤差もあり現段階では完全
Fig.13 Comparison of spectra (1000thgeneration X2/X0)
なプロセス構築であるとは言えない.しかし,スペクト
ルの平滑化やアンサンブル平均など,観測値を扱う上で
の引き出しを増やすことで今後につながるものとなった.
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本研究の歴史はまだ約 2 年と比較的浅い.その中で観測
付録
値の扱い方については重要なウエイトを占めることが確
スペクトルの平滑化
認できた.その他にも今後は推定法や同定モデル化など
多岐にわたり研究を行う必要がある.
6.2
スペクトルの平滑化にはパルゼンウインドウを採用す
る.
研究課題
□推定法について
 sin 2 uf

n
W  f   cu
 2 uf

 n
1)遺伝的アルゴリズムの精度向上
2)他の最適化手法の導入(感度解析,カルマンフィルタ
等)





n
n  1, 2, 4
(15)
□観測値同定について
3)観測手法の改良
参考文献
4)観測値の分析法の確立
[1]
5)評価関数の再検討
ス社,1981.
6)モード減衰のパラメータ化
[2]
□実用化を目指して
戸川隼人著:有限要素法による振動解析,サイエン
柴田明徳著:最新耐震構造解析
第 2 版,森北出版
株式会社,1981.
7)観測対象建物データの蓄積
[3] 高橋健太郎:遺伝的アルゴリズムによる地盤の同定,
8)解析効率の向上(解析時間の短縮)
広島大学大学院工学研究科修士論文,1999.
謝辞:指導教員である吉田長行教授には研究の心構えや,
[4] 伊野慎二:波動透過境界の最適化に関する研究,法
研究者としての物事の考え方を学ばせていただきました.
政大学大学院工学研究科修士論文,2008.
深く感謝申し上げます.佐々木睦朗教授,坪井善隆教授
[5] 秋元一成,吉田長行:最適化手法を用いた建物の同
をはじめ,ご指導下さった先生方にも感謝申し上げます.
定問題,法政大学情報メディア教育研究センター研究報
告,Vol.24,2011.
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