物質構造科学特論
瀬戸秀紀
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所
中性子科学研究系
2. 中性子の特性と中性子散乱
2.0 overview
2.1 中性子
2.2 中性子の発生
2.3 中性子散乱実験装置
2
中性子による回折
X線と中性子
画像提供:㈱東芝
X線と中性子
X線:電子によって散乱される
原子番号が大きいほど散乱が強い
軽い原子は見えにくい
中性子:原子核によって散乱される
散乱の強さは原子番号順になっていない
同位体は散乱能が違う
6
中性子を発生する方法
研究用原子炉
世界の主な核破砕中性子源
0.18MW
核分裂反応を用いる
Fission(~2.5n/Reaction)
5MW
1.4MW
中性子は連続的に発生
加速器中性子源
ISIS(UK)
Spallation(~24n/1Gev Proton)
ESS(EU)
SNS(USA)
陽子加速器による核破砕反応
~1984 (was the world highest before SNS)
中性子はパルス状に発生
~2008 upgraded acc. & new target station
~ Apr. 2006
Expected to start operation from 2017
CSNS (0.1MW) project is under way in China.
パルス中性子のメリット
1MW
中性子強度増大の歴史
HANARO
MLF/J-PARC(Japan)
~May 2008
J-PARC
MLF
Linac
3 GeVシンクロトロン
ニュートリノ
物質・生命科学実験施設
(MLF)
50 G
eV シ
ンク
ロト
ロン
J-­‐PARC
(Japan Accelerator Research Complex)
ハドロン
物質生命科学実験施設
140m
32m
Neutron Beam Lines
(23 total)
70m
GeV
MLFの中性子源 ターゲットのアウトライナー(2004/10/17)
Decoupled
Width: Sharp
Int.: Weak
陽子ビーム
3 GeV, 1MW, 1015 陽子/秒
水銀ターゲット
3GeVの陽子1個 → ~中性子75個,1017 中性子/秒
中性子パルスの形
Poisoned
Width: Ext. Sharp
Int.: Very Weak
中性子モデレータ (3種類)
Neutron Energy=5meV
7
15 atm, 20K, High
超臨界水素:中性子エネルギーを
1/1010 に減らす
Peak Intensity
(x 10
16
Intensity
n/cm/s/sr/eV/pulse)
6
5
Coupled
4
3
Decoupled
2
Surge Tank (Poisoned
1m3)
1
Plate-­‐Type Heat
0
0
100
200 300
Exchanger (550kW)
400
Time (µsec.)
Coupled
Width: Broad & Bad
Intensity: Strong
500
(n/cm/s/sr/eV/pulse)
Intensity
10
水銀
600
o
10
重水
Shutter
t=2 m Iron Sheilding
Taget Vessel
16
15
Neutron Beam
Proton Beam
10
14
10
13
0
Sharp
Width
100
108~109 Neutrons/Sec./cm2
Small Tail Component
Mercury Drain Tanks
(2.5m3)
200
300
400
500
600
Time (µsec.) 陽子ビーム(Size:18x7cm
10m
2)
Shielding
Iron & Concrete
~4,000 ton Iron is used.
MLF中性子実験装置群
Operation
Construction
NNRI
(東京工大/JAEA/北大)
Operation
ビーム孔=23本
NOBORU (JAEA)
Operation
SHRPD(KEK)
Construction
利用中:12台
Operation
SPICA
(NEDO/KEK)
NOP(KEK)
基礎物理から産業応用まで
Operation
iBIX
(茨城県)
建設中:6台+1台
建設主体
PLANET (JAEA/東大)
HRC (KEK/東大)
Construction
Operation
DNA (JAEA)
KEK
JAEA
茨城県
東大、北大、京大、九大、...
Operation
Operation
AMATERAS
(JAEA)
TAIKAN
(JAEA)
4SEASONS (JAEA.)
Operation
Construction
NOVA
(NEDO/KEK)
KEK,
6%
2010B
,
6%
JAEA,
10%
.
35%
, 9%
Operation
Construction
Construction
Operation
Operation
,
30%
4%
SOFA (KEK/九大)
Sharaku
(JAEA)
SENJU (JAEA)
TAKUMI (JAEA)
iMATERIA
(茨城県)
MLF実験ホール
1st Experimental Hall
4SEASONS
BL01
NOBORU
BL10
HRC
2nd
Experimental
Hall
BL12
iBIX
BL03
ANNRI
BL04
NOP
BL05
NOVA
BL21
iMATERIA
BL20
S-HRPD
BL08
ARISA II
PLANET
TAIKAN
BL11
BL15
AMATERAS
BL14
SPICA
BL09
S-HRPD
BL08
TAKUMI
BL19
BL16
中性子科学
中性子イメージング
中性子基礎物理
中性子散乱
中性子散乱
物質の構造と運動状態を調べる手法
=X線では分からない性質が分かる
磁気的な構造
運動状態:振動と緩和
水素
生体物質などのソフトマター
中性子とは
中性子で見えるもの
核による散乱
17K+19Cl‒
軽元素
原子番号の近い元素
磁気構造
運動状態
X線回折
中性子回折
中性子の弱点
奥深くまで通る : 大きな試料が必要
吸収(11B, Cd, Sm, Gd, etc...):測定しに
くい物質がある
非干渉性散乱:バックグラウンドの増大
遮
が大変:装置の大型化
施設が少ない:国内では(事実上)東海村だけ
0: 電荷ゼロ
原子核による散乱
物質との相互作用が強くない
物質の奥深くまで届く
散乱強度
原子番号順ではない
同位体による違い
水素を見る
例:燃料電池
水素貯蔵のメカニズム
½:スピン½
磁性体の構造
磁気散乱
核散乱と同程度
偏極中性子
Spin Flip と Non Spin Flip 過程
核散乱と磁気散乱の分離
磁気散乱
強磁性体
反強磁性体
例:超伝導の研究
1911年にカマリン・オネスが発見
1933年にマイスナー効果が発見される
1980年代以降の「高温超伝導」のブーム
更なる新物質の発見が続いている
1:質量 ~1u
運動状態の測定
散乱前後の中性子の速さ(運
動エネルギー)を測定するこ
とにより、原子や分子の運動
状態が分かる。
非弾性散乱と準弾性散乱
非弾性散乱
I(Q,E)
I(Q,t)
1
t
励起を見る
E
準弾性散乱
I(Q,t)
I(Q,E)
1
緩和を見る
E
t
中性子
• 人体や環境に対する危険性
– 中性子やγ線による被曝
– 放射性同位元素の生成
• 非常に高価
– 建設費1000億円以上、運転経費約50億円/年
– 有償利用の場合は約150万円/日
!(2008
メリット >> デメリット
#
12%#
!
2010A)!
21%#
Li#
#
#
#
5%#
#
#
36%#
30
#
#
7%#
#
#
#
#
2. 中性子の特性と中性子散乱
2.1 中性子
電気的に中性の準安定な素粒子(バリオン)
質量
m=1.674927 10-27kg (1.00866 a.u.)
s=−
スピン
磁気能率
!
2
µm = −1.913µN ( µm = 5.051× 10 −27 JT)
t = 886.7 ± 1.9s
寿命
n → p + + e − + ν e + 0.78MeV
波動関数動径
r=0.7 fm
クォーク
uud
粒子性と波動性の関係から
λ (Å) =
2π
h
3.96
0.286
=
=
=
mv v (km/s)
k
E(eV)
例えばE=0.1eVとするとλ=0.9044Åとなる。また
1
h2
2
E = k BT = mv =
2
2m λ 2
より次の表が得られる。
E(meV)
T(K)
λ(Å)
0.1 10
1 120
30 3
冷中性子
5 100
60 1000
4 1
熱中性子
100 500
1000 6000
1 0.4
熱外中性子
2.2 中性子の発生
2.2.1 歴史
1932年
チャドウィックによる中性子の発見
210Po → 4He + 206Pb + 5.4 eV
4He + 9Be → 12C + n + 5.7 MeV
1942年
1943年
エンリコ・フェルミによる最初の原子炉CP-1(Chicago Pile)
Argonne Forestにおける重水減速型原子炉CP-2
Oak Ridge National Lab. におけるGraphite Reactor
マンハッタン計画から中性子束の利用へ
1946年
1949年
1994年
Ernie Wollan(ORNL)がNaClの回折を測定
Shull and SmartがMnOの磁気構造を決定
Cliff Shull and Bertran Brockhouseがノーベル物理学賞受賞
2.2.2 原子炉からの中性子の発生
原子炉=燃料(核分裂物質 235Uや 239Pu)+減速材(水や重水、炭素など)+冷
却材(水や二酸化炭素、ヘリウム等のガス)+遮蔽体
235U
+ n → 核分裂片 + 2.52 n + 180MeV
この反応が連鎖的に起こることによって原子炉が「燃える」
減速材
核分裂で発生する中性子は約1MeVとエネルギーが高いので、効率良く核分裂を
起こさせるためには熱中性子(約25meV)程度までエネルギーを落とす必要があ
る。例えばHの場合は18回、Cの場合は114回衝突することで熱中性子になる。
制御棒
中性子を吸収して中性子数を制御して、連鎖反応が進み過ぎる(暴走する)のを
防ぐ役割を果たす。(B4C、Cd合金、In、Ag、Hfなど)
中性子実験用原子炉(研究用原子炉)
炉心のすぐ外で中性子束が最大になるように設計。水を沸騰させてタービンを回
す発電用原子炉のように高温や高圧にする必要が無いため、運転中は大気圧に保た
れ温度も55℃以下。電源喪失しても冷却水のみで自然に冷却する。また低エネルギ
ーの中性子を生成するために液体水素などを満たした冷中性子源を備えていること
が多い。
炉心や冷中性子源から中性子導管によって中性子を実験装置に導く。バックグラ
ウンドを減らすために、中性子導管は中性子源を直接見ないように配置する。
中性子導管は平滑度の高いガラス上にNiなど中性子に対して干渉性散乱断面積が
大きく吸収の小さい金属膜を蒸着した鏡面を用いる。
中性子導管によって引き出された中性子はガイドホールに導かれ、モノクロメー
タ等で分岐させて実験装置で利用する。
2.3.3 加速器による中性子の発生
1970年代 東北大電子ライナックとHarwell Linac (UK)で加速器駆動による中性子
源開発がスタート
1980年
1981年
1983年
1985年
2006年
2008年
KENS (KEK, Japan)
IPNS (ANL, USA)
LANSCE (LANL, USA)
ISIS (UK)
SNS (ORNL, USA)
MLF (J-PARC, Japan)
パルス中性子
加速器は、陽子や電子などの荷電粒子に電場によってエネルギーを与えて高速粒
子を作る。粒子が加速器内を一度しか通らないものを「線形加速器」、何度も通す
ものを「円形加速器」と呼ぶ。円形加速器では加速空洞で加速した後に偏向電磁石
で軌道を曲げて、加速器内を何度も通してエネルギーを増加させる。荷電粒子が加
速空洞に入る時には空洞内に引き込むように、出る時には打ち出すように電場を制
御する。また粒子の加速に伴って円形軌道の半径が大きくなろうとするため、それ
に合わせて偏向磁場も大きくする必要がある。更にそれに同期して、加速空洞の周
波数も変化させなければならない。このように加速粒子の軌道に応じて電磁場を変
えていく加速器を「シンクロトロン加速器」と呼ぶ。シンクロトロンでは加速空洞
を通過する際に荷電粒子がひとまとまりになる「バンチング」が起きる。従ってシ
ンクロトロンから取り出された加速粒子は加速周波数に合わせたパルス状になる。
これにより加速器中性子源から発生する中性子は「パルス中性子」となる。
核破砕反応
100MeV以上の粒子によって引き起こされる非弾性核反応。原子核にエネルギー
が十分に高いハドロンが入射すると、それによって弾き出された核子(陽子、中性
子)が内部で衝突を繰り返して核内カスケードを形成する。核内カスケードが終了
し励起状態の残留核ができると、第二段階として残留核からの核子の蒸発が起こ
る。
一方入射粒子のエネルギーが400MeVを越えると非弾性パイオン生成衝突が起こ
り、陽子、中性子、パイオン、ミュオン、ニュートリノ、電子等が生成する。
中性子モデレータ
核破砕反応によって発生した中性子はエネルギーが高過ぎてそのままでは実験に
は使えないので、液体水素による中性子減速器(モデレータ)でエネルギーを落と
して利用する。J-PARC MLFでは容器形状や反射材、吸収材との組み合わせによっ
て coupled moderator decoupled moderator poisoned moderator の3種
類を用意し、実験装置の目的に応じて利用している。
2.3 中性子散乱実験装置
2.3.1 原子炉における装置
原子炉から取り出される中性子は時間的変化のない定常ビームであり、またある
エネルギー(波長)範囲に分布する白色ビームである。従って多くの場合、結晶やチ
ョッパー、速度選別機によって単色化して実験に用いる。
φ!
Ef(λf=2dsinθf)�
!ω = Ei − E f
" " "
Q = ki − k f
Q2 = ki 2 + k f 2 − 2ki k f cos φ
Qx = ki − k f cos φ
Qy = k f sin φ
q x = ki cos ψ − k f cos(φ − ψ )
q y = ki sin ψ + k f sin(φ − ψ )
Ei(λi=2dsinθi)�
2.3.2 パルス中性子源における装置
加速器中性子源ではシンクロトロン加速器から入射する陽子ビームの周期に対応
したパルス中性子を用いる。パルス中性子は発生時刻が分かっているので、カウン
ター位置に中性子が到達した時刻を調べれば中性子の速度(波長)が分かる。中性
子が飛行している時間を調べる方法なのでTOF(Time of Flight)法(飛行時間法)と
呼ぶ。
2.3.3 定常中性子源とパルス中性子源の違い
定常中性子源では中性子は連続ビームとして得られるのに対して、パルス中性子源
では1∼100μ秒程度の幅の中性子が得られる。一般にパルス中性子源の中性子強度
は時間平均では定常中性子源よりも弱いが、パルスのピーク位置での強度は強い。
弾性散乱実験の場合には時間とともに波長スキャンができるので、1つの散乱角2θ
である運動量遷移Qの範囲のデータを取得できる。また非弾性散乱実験の場合にも
TOFを用いることによって、広い運動量-エネルギー空間を一度に測定することがで
きる。
また中性子カウンターはγ線をバックグラウンドとして感じることが多いためγ
線をいかに落とすかがデータの質を上げるために重要だが、パルス中性子源の場合
はカウンター位置における中性子とγ線の到達時刻の違いからデータとバックグラ
ウンドを見分けることができる。従ってパルス中性子源の実験装置の方がS/N比が
良い場合が多い。
原子炉中性子源�
パルス中性子源�
連続ビーム!
時間平均中性子束が大きい�
線源
位置�
パルスビーム�
1~100ms!
neutron!
γ-ray!
飛行時間法で中性子
のエネルギーを分離!
!
ガンマ線バックグラウン
ドノイズも分離"
(低バックグラウンド)"
30 m!
検出器!
位置�
50eV!
n!
γ"
0.0001ms! 0.3ms!
結晶モノクロメーターによるエネルギーの選択�
5 meV!
n!
30ms!
パルス中性子と定常中性子 − 回折実験(弾性散乱) "
λ = 2d sin θ
原子炉�
モノクロメーターで波長を選
んで試料に入射し散乱角2θ
をスキャン。�
パ
ル
ス
中
性
子
源�
連続波長を試料に入射し飛行時
間を分析して波長をスキャン。散
乱角2θもスキャン可。"
λ=h/mv=(h/mL)t"
定常中性子源(原子炉)における分散関係の測定
パルス中性子源における分散関係の測定
ダウンロード

2. 中性子の特性と中性子散乱