中原区医師会 糖尿病病診連携の会
勉強会 その三
2007年8月23日
於 ホテル・エルシー
日本医科大学 武蔵小杉病院 内科
南 史朗
「糖尿病は不思議な病気で、肉や手足が溶けて尿に出
てしまう。患者はとめどもなく尿をし、その流出はあたか
も水道の蛇口から出るごとくである。いったん病気と
なってしまうと長くは生きられない。なぜなら体の溶け
出しは速やかで、死もまた速やかだからである。のどの
渇きは癒すべくもなく、尿に出る以上にどんなに水を飲
んでも追いつかず、水を飲むことも尿をすることもやめ
られない。それどころか、もし水を飲まないでいると、口
はカラカラに渇き、体は水気を失い、内臓はしなびたよ
うになる。吐き気と不穏な気持ちと、焼け付くような渇き
で遠からずして死んでしまう。」
アレタエオス カパドキア 1世紀
糖尿病とは
糖尿病はインスリンの作用不足により
起こる慢性の高血糖を主徴とする特徴
ある代謝異常をきたす疾患群である。
糖尿病治療ガイド(2002-2003)
インスリン発見当
時のバンティング
とベスト, インスリ
ンで生きている膵
臓全摘出犬, 1921
インスリン注射の効果
インスリンの作用不足と糖尿病の原因
膵β細胞
インスリン
細胞
ブドウ糖
肝
高血糖
尿糖
食物
インスリン分泌不全
分泌が足りない
出が遅い
インスリン抵抗性
インスリンが効きにくい
インスリン作用不足
体質
β3アドレナリン受容体Trp64Arg多型の出現頻度
イヌイット(68%)
ピマインディ
アン(54%)
モンゴロイド
日本人(34%)
基礎代謝量 200kcal 低下
倹約遺伝子
• β3アドレナリン受容体
• 脱共役蛋白質1(UCP1)
• PPARγ
• レプチン
• TNF-α
etc
日本人の特性
日本人はもともとインスリン分泌
能が低い体質をもっているので、
欧米人と異なり、小肥り程度で
あっても糖尿病になりやすい。
2型糖尿病のインスリン分泌パターン
インスリン分泌
正常
初期
インスリン抵抗性?
末期
体質としての分泌低下
2型糖尿病の薬物療法の考え方
*2型糖尿病患者の治療の基本は食事・運動療法であり安易に
薬物を開始することは避けなければならない。
*初診患者では、急性代謝障害がなければ、食事・運動療法を
指導し、場合によっては数ヶ月経過観察することも可能。
*患者の年齢や病態、合併症、併発疾患を考慮して薬剤の選択を
する。
*経口血糖降下剤やインスリン製剤は少量より開始し、徐々に
増量する。
*糖毒性解除および膵β細胞機能温存を目的とした早期の
インスリン治療の開始。
では、薬を使う前に何をしますか?
1. 動機づけのために、糖尿病について教える、おどす。
2. 徹底的に食事指導をする、したい。
3. 徹底的に運動療法をすすめる、すすめたい。
4. 現代社会ではあまりにも誘惑が多く、食事療法も運
動療法も難しい、無理である。
5. モンゴロイドの体質なのだから、所詮むりである。
脂肪細胞から出るホルモン
脳
脂肪
食欲抑制
レプチン
筋
エネルギー
消費増大
グルコバイ ベイスン
セイブル
グリコラン・メルビン
・メデット
オイグルコン・ダオニール
グリミクロン ラスチノン
アマリール
スターシス・ファスティック
グルファスト
アクトス
インスリン分泌機構とSU剤の作用機序
膵β細胞
SU剤
SUR1
Ca2+
KATPチャン
ネル
X
K+
インスリン
ATP
ブドウ糖
GLUT2
ミトコンドリア
SU薬の心筋細胞KATPチャンネルに対する作用と
プレコンディショニング
SU薬
ミトコンドリア
細胞膜K ATPチャ プレコンディショ
KATPチャンネル
ンネル抑制
ニング
抑制
トルブタミド
-
-
消失しない
グリベンクラミド
(オイグルコン)
+
+
消失する
グリクラジド
(グリミクロン)
-
-
消失しない
グリメピリド
(アマリール)
-
+
消失しない
経口糖尿病薬(SU薬)二次無効の原因
環境に関する因子
•過食と体重増加
•治療コンプライアンスの悪化
•運動不足
疾患に関連した因子
•膵細胞の減少ーインスリン分泌能の低下
•インスリン抵抗性の悪化
治療に関連した因子
•長期の経口糖尿病薬使用による脱感作
•高血糖を誘発する薬剤の併用
このようにヤバイSU薬を使い続けてよいのでしょうか?
1. 血糖がよく下がるので、目的にかなっているから、
もちろん使う。
2. 他の作用機序の薬を優先し、どうしてものときには
使う。
3. インスリン導入までのつなぎに使う。
4. もう使わない。
78歳 女
76歳、女
主訴: 意識障害
既往歴: 不明
現病歴: 一人暮らしで、息子が毎日来ており元気であった。
高血圧などで某医にかかっており、服薬もしていたらしいが、
何の病気で何の薬を服用していたかは不明。息子が朝行っ
てみると、目を覚まさないので、救急車を要請し来院。
入院時現症: 意識はなく、明らかな麻痺はない。血圧
140/78mmHg、脈拍78/分・整。体温36.1C。発汗過多なし。
ときどき間歇的な全身痙攣を起こし、数十秒で消失。
入院時検査: WBC 11800/mm3、Hb 12.5g/dl、Na
143mEq/L、K 4.5 mEq/L、Cl 103mEq/L、血糖値 22mg/dl、
HbA1c 8.2%、尿中ケトン(-)。頭部CTで原因病巣を認めず。
経過: 家族に手持ちの薬品を持ってこさせたところ、中にダ
オニール(2.5mg/tab)があったが、どのように服用していた
かは不明。ブドウ糖の投与によって低血糖状態はなくなり、
IVH管理を行った。意識は回復することなく、4ヶ月後に肺炎
で死亡。
高齢者に対するスルフォニルウレア剤について
1. 血糖値が高くても、少量のSU剤で遷延性低血糖
をきたすことがあり、しばしば植物状態に陥る。
2. 患者が服用方法を間違うことを前提とするべきで
ある。
3. 70歳以上の患者にはグリベンクラミド(オイグルコ
ン・ダオニール)を用いない。
症例1
K.Mさん 女性 67歳、身長157cm、体重97.0kg (BMI
罹病期間10年以上
過食有り 39.4 )
アクトス 30mg/day
HbA1c
(%)
体重(kg)
97.0
101.5
105.5
107.0
108.0
HbA1c 10.5
10.
0 BS(随
9.0 時)
359
256
8.0
合併症は無し
過食あり、超肥満
9.5
BS
(mg/dL)
350
7.9
300
6.8
7.0
6.7
195
6.0
血中IRI
22.9
30
197
152
23.5
IRI
(μU/ml)
17.9
23.7
25
20
15
8.8
250
200
アクトス、使い続けますか?
1. 劇的な効果があるので、使い続ける。
2. アクトスの量を減らして使い続ける。
3. 体重増加のため、中止する。
4. よくわからないのでタケダに聞いてみる。
日本人の糖尿病の病態
ーインスリン分泌不全とインスリン抵抗性ー
理論上では・・・
インスリン分泌不全
インスリン抵抗性
日本人の糖尿病の病態
ーインスリン分泌不全とインスリン抵抗性ー
実際には・・・
インスリン分泌不全
インスリン抵抗性
グルコバイ投与後
食後血糖・空腹時血糖およびHbA1Cは有意に低下
血糖値とHbA1Cの推移(全例)
(mg/dL)
(%)
250
11.0
10.5
血糖値
200
150
220
162
*
食後血糖
*
*
*
*
*
*
*
空腹時血糖
*
*
*
*
183
*
*
144
9.5
9.0
8.5
100
8.0
HbA1C
*
*
*
*
*
*
7.12
7.5
7.0
6.5
0
6.0
投与開始時
n= 607
485
940
1ヶ月後 2ヶ月後 3ヶ月後 4ヶ月後 5ヶ月後 6ヶ月後
665
641
581
518
444
351
529
482
420
359
302
244
1109
1050
944
821
696
565
投与終了時
651
534
1129
HbA1C
*
7.75
50
10.0
グルコバイは食後の糖の吸収を遅らせるだけなのに、なぜ
早朝空腹時血糖が低下しHbA1cが低下したのでしょうか?
1. グルコバイの副作用、腹部症状によって食欲が低
下したため。
2. 服薬によって、少しは気をつけなきゃという意識が
働いた結果。
3. これぞグルコバイの知られざる作用である。
4. 食後過血糖を抑制した結果である。
膵β細胞機能不全と高血糖による悪循環(糖毒性)
肥満
膵β細胞の
質的・量的な異常
SU薬
インスリン作用不足
による高血糖の悪化
膵β細胞機能異常
の不可逆化
糖毒性の惹起
過食・運動不足
生理的なインスリン分泌動態
(mU/L)
70
血
中
イ
ン
ス
リ
ン
濃
度
60
追加インスリン分泌
50
40
基礎インスリン分泌
30
20
10
0
06:00
09:00
12:00
15:00
18:00
21:00
Polonsky KS, Given BD, Hirsch LJ, et al.:N Engl J Med.,318(19);1231-9.,1988(一部改変)
24:00
03:00
06:00
インスリン製剤
超速効型(Q)
速効型(R)
中間作用型(N)
持効型(L)
インスリン製剤
超速効型(Q) = 1〜2時間
速効型(R) = 2〜4時間
中間作用型(N) = 6〜8時間
持効型(L) = 4〜20時間
インスリン製剤
超速効型(Q): リスプロ(ヒューマログ)
アスパルト(ノボラピッド)
速効型(R): レギュラー
中間作用型(N): NPH
持効型(L): グラルギン(ランタス)
レベミル(デテミル)
従来
従来
理想的なインスリン動態の再現
Basal-Bolus療法
超速効型インスリン製剤
(mU/L)
中間型・持続型インスリン製剤
70
血
中
イ
ン
ス
リ
ン
濃
度
60
50
40
30
20
10
0
06:00
09:00
12:00
15:00
18:00
21:00
Polonsky KS, Given BD, Hirsch LJ, et al.:N Engl J Med.,318(19);1231-9.,1988(一部改変)
24:00
03:00
06:00
インスリン製剤
超速効型(Q): リスプロ(ヒューマログ)
アスパルト(ノボラピッド)
速効型(R): レギュラー
中間作用型(N): NPH
持効型(L): グラルギン(ランタス)
レベミル(デテミル)
インスリンの導入をしてみませんか?
1. 以外と簡単にできそうなので、これからやってみた
い。
2. 生理的なインスリン分泌動態を模倣するというや
り方に納得できない。
3. 生理的なインスリン分泌動態を模倣するというや
り方は理解できるが、現実的でない。
4. とはいえ、うちではできないので、関東労災病院
や井田病院に紹介する。
28歳、女
主訴: 意識混濁
現病歴: 生来健康。当日の昼過ぎからよく分からないことを言う
ようになり、家人が大学病院を受診させた。夜間救急外来では神
経科が対応し、緊急入院となった。
経過: 2日後、妊娠していることが判明したため、産婦人科へ転
科、点滴を開始したが、意識混濁が進行し、自己抜針して廊下を
血だらけで歩いた。翌日、胎児死亡(3ヶ月)が確認されたため緊
急に人工流産手術の準備を始めた。その時に、血糖値
674mg/dl、動脈血ph 6.91、pCO2 17mmHg、HCO3- 8mmol/L、
Na 128mEq/L、K 4.8mEq/L、Cl 87mEq/L であった。胎児の摘
出手術後、糖尿病性ケトアシドーシスに対する治療を行い、容態
は回復した。
糖尿病性ケトアシドーシス
1. ケトアシドーシスによる意識障害は、しば
しばサイコーシスと間違えることがある。
2. 意識混濁を診たら、必ず血糖値をチェック
すること。
糖尿病性腎症
病期
尿中アルブミン
尿蛋白
GFR(クレアチニン
クリアランス)
第1期
(腎症前期)
<30 mg/gCr
ー
正常ときに高値
第2期
(早期腎症)
30~299 mg/gCr
ー~+
正常ときに高値
第3期A
(顕性腎症前期)
>300 mg/gCr
+ ~ +++
一日尿蛋白>0.5 g
ほぼ正常
第3期B
(顕性腎症後期)
低下
第4期
(腎不全期)
著明低下(血清クレ
アチニン上昇)
第5期
(透析療法)
透析療法中
糖尿病性腎症
血糖コントロール = 強化インスリン療法
降圧治療 = ARB + カルシウム拮抗薬 + ・・・
< 130/80 mmHg
家庭血圧測定
蛋白制限 = バランスのとれた食事
高血圧患者からアルドステロン症患者を見つけ出す
血清K濃度にかかわらず、
血漿レニン活性・アルドステロンを測る
1. 血漿アルドステロン濃度(PAC)≧ 120 pg/ml
2. 血漿レニン活性(PRA)< 1.0 ng/ml/h
3. PAC/PRA ≧ 200
アルドステロンの単位に注意
pg/mlなら120以上、 ng/dlなら12以上
29歳、男
S60年: 糖尿病発症、インスリン治療開始
H 4年: BS 300~600mg/dl、 HbA1c 10~14%
網膜症なし。食事療法を守れない。
インスリン治療をしばしば中断。
H7年2月: BS 345mg/dl、 HbA1c 12.8%
右眼 点状出血、左眼 斑状出血、滲出斑
視力右 1.0(n.c)、左 0.8(0.9)
医師の説得により入院し、インスリン療法再開。入院中に
BS 120-240mg/dlまで低下。以後、自覚し、インスリン治
療を継続。
糖尿病罹病期間
10年
コントロール不良
HbA1c 12.8%
コントロール不良期間
10年
前増殖網膜症
インスリン療法が必要
入院して血糖コントロールをした
BS345mg/dl、
HbA1c 12.8%
3ヵ月で 4.9%の低下
7.9%
右(0.9)
左(0.01)
視 右(1.0)
力 左(0.7)
入
光
院療
凝
治 イ法
固
療 ン開
開
ス始
始
リ
ン
右左
新硝
眼
生子
底
血体
管出
血
H7年 5月
2月
左
黄
斑
浮
腫
左
網
膜
剥
離
8月 9月
左
硝
子
体
手
術
右(0.02)
左(0.01)
右
増
殖
組
織
右
網
膜
剥
離
右右右
硝硝硝
子子子
体体体
手手手
術術術
10月 H8年 11月 H9年
2月
1月
5月
増殖性網膜症、牽引性網膜剥離となり、
視力の著しい低下を招いた
網膜症の悪化は、急激な血糖コントロールを
行った内科医に責任があるとして告訴し、医
師側の全面敗訴
糖尿病コントロールと網膜症
1.
2.
3.
4.
5.
6.
10年以上の罹病期間
HbA1c値が 9.0%以上
3年以上のコントロール不良期間
インスリン治療を要する
前増殖または増殖網膜症
単純網膜症だが活動性が高い
上記が2つ以上ある場合: 短期間(6ヶ
月以内)の急激な血糖是正(HbA1c値で
3.0%以上)を行うことは避けるべき
船津英陽:血糖コントロールの指標から見た網膜症.
眼科 36:765~779、1994.
ご清聴ありがとうございました。
さようなら、エルシー・・・
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講演のスライド集(パワーポイント)