現代世界経済をとらえる Ver.5
第7章 金融グローバリゼーション
-アメリカ型「錬金術」がもたらしたもの-
©東洋経済新報社
1
7.1 外国為替市場と国際金融市場
a 外国為替市場
外国為替が取引される外国為替市場は,顧客市場と銀行間
市場に分けることができる。顧客市場では,銀行は個人,多国
籍企業,機関投資家などとの間で外国為替の売買を行う。銀
行間市場は銀行,為替ブローカー,通貨当局で構成されてい
る。外為市場は通常銀行間市場を指す。
銀行
為替ブローカー
通貨当局
• 企業等の当事者間の外貨建て債券債務の銀行間のものへの移し替え
• 外貨の持ち高操作や為替需給の動向予測
• 銀行間売買の仲介
• 口先または為替売買による市場介入
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
2
外国為替取引の最近の特徴
① 実需関連取引(貿易や直接投資など)が減少,
金融取引関連の取引(投機など)が増加
② 東京市場,円の地位低下,
新興国・資源国・高金利国などの取引および通貨が増加
③ 金融工学を駆使したデリバティブ市場の急拡大
急拡大の
背景には
① ヘッジファンドなど投資家グループが活性化
② 機関投資家が国際分散ポートフォリオを有する傾向
③ コンピューターで自動化されたプログラム売買取引の存在
2007年取引高
(次スライド表7-1参照)
直物(スポット)取引
1兆50憶ドル (34%)
アウトライト取引
3620憶ドル (11%)
為替スワップ
1兆7140憶ドル (55%)
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
3
表7-1 主要外国為替市場の取引高
(出所)BIS[2007] Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Derivatives Market
Activity in 2007, Table B1,B2.
http://www.bis.org/publ/rpfxf07t.pdf?noframes=1
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
4
b 国際金融市場
国際金融市場とは?
⇒国際金融取引が行われる場所
金融取引:資金に余裕があるものから資金の不足しているものに
資金を融通する取引
国際金融取引:ある国の居住者と非居住者間で行われる金融取引
三大金融市場
•ロンドン
•ニューヨーク
•東京
―最近では
新興市場が台頭してきている。
Ex.) BRICs諸国
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
5
図7-1 主要株式市場の時価総額の推移
(出所)内閣府『世界経済の潮流2008 Ⅰ』2008年,第1‐1‐4図.
http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh08-01/ss08-1-1-4z.html
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
6
3大金融センター(ロンドン金融市場)
ロンドン金融市場=古典的国際金融市場
国際金本位制の時代,ポンドは国際通貨であった
周辺各国はロンドンに口座を開き,要求払い預金を保有
第三国間取引でもロンドン市場を利用
第2次大戦後
ポンドは地位を失ったものの,ロンドンはドルなどの「外貨建てカレンシー市場」の
中心として国際金融市場の一角としての地位を保持
LIBOR(London Interbank Offered Rate)(ロンドンの主要銀行間取引で資金の出し手がつける金利)
→世界中の外貨建てカレンシー市場における変動金利の基準値の役割
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
7
3大金融センター(ニューヨーク金融市場)
ニューヨーク金融市場
•20世紀に入り台頭
(第二次大戦後アメリカの役割拡大,ドルの基軸通貨化による
「ドル・バランス」の重要性が増したため)
•短期金融市場および財務省証券市場に厚み
(アメリカ国債は有事の際に「質への逃避」対象に)
•アメリカは純債務国であり,非居住者にとって
ニューヨークは資金の運用の場に
ニューヨーク証券取引所
• ⇒巨額資金の調達が可能
•⇒企業イメージを世界市場に定着させる広告塔としての役割も
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
8
3大金融センター(東京市場)
東京市場
1980年代
現在
世界の資本供給源として期待
(日本が世界最大の純債権国になったため)
「空洞化」傾向から回復できていない
資金供給面から
•日本の機関投資家による証券投資が圧倒的多数
•銀行融資はアジア向けが多い
資金運用市場として
•非居住者が東京に置く決済用の円預金はごくわずか
・ 2008年末の日本国債・地方国債の発行額は先進国中最大(対GDP比170%)だが,2007年
末の外国人保有比率は7.3%にとどまる
・ 株式では外国上場企業は一握りにすぎないが,売買取引額では2008年に外国人投資家
が63%のシェアを占め,日本の株価の騰落を主導している
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
9
c オフショア金融センター
・ オフショア金融センターは国外から資金を調達しても国内には
流入させず,国外で運用する「内外分離型」が原型になっている
・ ロンドンや香港は資金交流が自由な「内外一体型」の オフショア
金融センター
・ オフショア金融センターの中でも重要になのが
「タックスヘイブン(租税回避地)型」で,富裕層向け私募形式の
投資信託であるヘッジファンドと深く結びついている。
これらヘッジファンドによる高レバレッジ運用により,
数多くの国際金融危機の引き金を引いた。
2009年4月のロンドンG20金融サミットで規制導入の機運が高まった。
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
10
7.2 金融グローバリゼーション
a 金融グローバリゼーションの展開
•金融グローバリゼーションは「ウォール街=財務省
複合体」と呼ばれるように,アメリカの政治と経済が
一体となって進められた。国際政治面では東西冷
戦を,技術面では情報通信革命を舞台装置とし,経
済政策思潮としては新自由主義経済学をバックボ
ーンとし,「金融工学」の進展によって推進された
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
11
1971年8月
ニクソンショック(金ドル交換停止)
1972年5月
シカゴ・マーカンタイル取引所での先物取引の開始
1980年代
デリバティブ市場の拡大
1990年代半ば 各国の8条国への移行
•IMFや世界銀行,BISも金融グローバリゼーションを後押しした。第14条過渡期から第8条自由
化への移行方式を踏襲し,資本取引の自由化を加盟国に義務づける協定改正案を提案する
つもりでいた。東アジア諸国では1990年代半ばごろまでにはIMF協定第8条に規定された経常
取引の自由化を約束し,それと前後して義務化されていない為替・資本取引の自由化,外国
投資家への市場開放を推し進めていった。ロシアや東欧諸国は1990年代半ばに8条国移行を
果たし,アフリカ諸国でも市場経済の土壌が熟成しておらず規制枠組みも整備されてないまま
十数カ国が同調した。
•1997-98年アジア危機やその後のロシアやブラジルへの伝染はものづくりの成果を金融グロ
ーバリゼーションの「錬金術」が瞬時にして奪っていく破壊力の大きさを示した。危機に陥った
諸国から支援要請を受けたIMF・世界銀行は金融・財政の緊縮政策を課して通貨と株価を暴
落させ,経営破綻と失業者の増加に手を貸すとともに,金融機関の監督・規制のあり方,証券
市場の拡大,企業ガバナンス,会計制度,情報開示,労働市場の柔軟化など構造調整政策の
同時実行を迫った。「世界基準」としてアメリカ基準の採用を勧告し,競争市場へのいっそうの
開放を約束させた。
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
12
b デリバティブ(金融派生商品)の拡大
デリバティブ(金融派生商品)
・将来の為替レート,金利,証券価格などの変動に伴うリスクを除去し相殺する手段として
・将来の変動を確立的に予測してその変動から投機的な利益を得る手段として
原資産から派生してできた商品として発達。オフバランス取引である。
デリバティブの種類
•先渡し・先物取引
•スワップ
•オプション(通貨・金利スワップ)
ブラック=ショールズ方程式: オプションでのプレミアムの決定要因を解明
ノーベル経済学賞の対象に
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
13
先渡し・先物取引,スワップ,オプション
デリバティブ
スワップ
先渡し・先物
オプション
先物とオプションの多くは主要金融センターの取引所で一定のルールに則って行わ
れるが,先渡しとスワップ取引は銀行と企業や機関投資家などのユーザーとの相対
で店頭取引として行われることが多い。
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
14
c 店頭デリバティブ市場
今日の外為市場→大半が金融的取引
•ヘッジ取引:価格の変動による損失リスクを回避する取引
•裁定取引:同一の資産または代替性が高い類似の商品を
安い市場で買って高い市場で売り,その利ざやを稼ぐ取引
•投機取引:通貨や証券の将来の価格変動に関する確立的な予測に基づいて
買いもち・売りもちのポジションをとり予想が的中した場合に
為替差益やキャピタルゲインをあげようとするもの。
店頭デリバティブ市場
→外為および金利関連デリバティブ取引などで構成
OTC想定元本比較(04年→07年) 全体で135%増
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
15
表7-2世界のOTCデリバテ
ィブ市場取引残高(取引形
態別)
(注)省略している項目があるため,小計,総計
の数字は一致しない.
(出所)BIS[2007] Triennial Central Bank Survey
of Foreign Exchange and Derivatives Market
Activity in 2007, Table C5.
http://www.bis.org/publ/rpfxf07t.pdf?nofram
es=1
リスク要因別にみると
①外国為替(全体11.2%)83%増
②金利関連(75.3%)119%増
③株式(2.1%)111%増
④貴金属や原油・穀物など1.6%で6.1倍
⑤信用リスク関連(9.9%)11.42倍
⇒2007年の危機で話題になった商品先物取引や
投機やクレジット・デフォルト・スワップを含む取引
が増加
市場別にみると
2007年6月末
→イギリス38.6%アメリカ14.6%で
この2地域が6割近く,
外国為替関連では8割超
⇒アメリカ発の金融危機で巨額の損失を被った金
融機関が欧米に多いのはデリバティブ取引の大き
さと関係していると考えられる。
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
16
7.3国際資本移動と国際金融危機
a 1990年代以降の国際資本移動
国際資本移動とは?:
•国際間の資金移動
•国際収支表では経常移転収支,
資本取引にくくられる
•国際資金フローともいわれる
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
17
1990年代までの国際資本移動
1970年代半ばから1980年代初め:
•
•
石油危機に伴う産油途上国の経常収支黒字がロンドンおよびニューヨークの大手銀行へ集中
アメリカ系大銀行を幹事とする非産油途上国へのシンジケート・ローンが債務残高を累積
1980年代(債務危機が勃発し,中南米やアジアの多くの途上国や東欧諸国が巻き込まれた):
① 途上国への資金還流では銀行は撤退して先進国からの直接投資以外の資金は事実上途絶
② 日欧の経常黒字および途上国からの資本逃避が対米証券投資として,また企業買収資金がアメリカへ
還流するという流れが主流に
1990年代(アメリカ一極集中に加えて新興国市場向け還流が特徴):
① 日欧など先進諸国は対米証券投資を急増させ直接投資も増えると,アメリカの資本流入は経常収支赤字
を大幅に上回った。
② アメリカは資本流入を利用して株高や社債ブームを創り,情報通信革命を成功させて「ニューエコノミー」
に沸いた。
③ 1995年以降,帝国循環(対米貿易黒字国から米国経常収支赤字を上回る投資を呼び込み,その余剰で
新興国市場などに証券投資や直接投資をすること)を展開した
④ 新興市場に流入した資金はバブルと見るや一挙に流出してアジア通貨・金融危機を引き起こした
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
18
図7-2 21世紀の国際資金フローの変化(2000-02年平均→05‐07年平均)
(出所)内閣府『世界経済の潮流
2008 Ⅰ』2008年,第1‐1‐7図.
http://www5.cao.go.jp/jj/sekai_chouryuu/sh08-01/ss08-11-7z.html
•特にEU・イギリスとアメリカの間の資金フローが顕著
•図には描かれていないが,中東などの新興国の余剰資金もヨーロッパを経由してアメリカに流入
•中東産油国を中心とした政府所有の投資ファンド,ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の活用も
イギリス,ユーロ圏
中国
•外貨準備高,米国債保有高ともに日本を抜いて世界
のトップ
•ユーロ高やポンド高,相対的高金利を利用して資
金を引き入れ運用
•サブプライムローン後も特定の時期を除いて保有高
を増大
•対外・対内投資が共に増加,形態別に見ると直接
証券投資以外の銀行融資などの増加が顕著
•国際通貨ドルの支持基盤は日本から中国と中東産
油国にシフトしていく様相
•アメリカ,アジア,中東等との間で幅広く資金を仲
介する機能
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
19
図7-3 主要国・地域の対内純投資の推移
(出所)内閣府『世界経済の潮流2008 Ⅰ』2008年,第1‐1‐6図.
http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh08-01/ss08-1-1-6z.html
•アメリカの対外純債務規模:GDP比でみ
て横ばい推移→ドル価値低下によりアメリ
カが所有する対外資産の時価評価が上
昇したため。
•2000年になってアメリカが資本流入を増
加させ,日本が資本輸出を継続し,中国,
中東,ロシアなどが新たに資本輸出を増
加させていることが分かる。この中で日本
は対外資産は債券中心,対外負債は株
式中心のため,収益格差があり長期的な
円高傾向と相まって為替差損も生じ日本
の金融機関や国際通貨としての円の国際
競争力は伸び悩んでいる。
長期にわたる低金利は海外投資家等による円借り・円売りの円キャリー取引を通じて
高金利通貨建て資産や金融商品での運用や原油・穀物など商品先物市場への投機
による利ざや稼ぎに利用され2007-08年の金融危機の背景要因のひとつになった。
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
20
b 1990年代の国際金融危機と2007-08年世界金融危機
•EUの通貨統合を進めるマーストリヒト条約の批准をめぐる時期に,ドイツは東西
統一に伴う巨額財政支出によるインフレ高進への対処として,ブンデスバンク銀
行が短期金利を引き上げたため,イギリスやイタリアは資本流出の危機にさらさ
れた。ジョージ・ソロスによるポンドの空売りとマルク買い攻撃をイングランド銀行
は金利引き上げ,ポンドの買い支え介入で対抗したが,完敗しイギリスはEMSか
ら離脱した。
•1997年のアジア通貨危機はタイ,韓国,インドネシアなど多くの諸国を襲った。投機
家はまずタイに自己実現的通貨投機をしかけた。内容はタイ・バーツが貿易収支の
悪化から下落すると予想し,3ヵ月後に25バーツを売りドルを時価で買う先物予約を
すると同時に直物でバーツを売り浴びせた。タイ中央銀行は通貨防衛を試みたが,
力尽きた。大量の資金が流入して資産バブルを作り上げ,急速に流出して資本収支
危機を引き起こした典型事例である。またIMFによる緊縮政策などの政策により不
況が拡大し,社会・政治をも巻き込む危機に転化した。この危機はロシアや南米諸
国にも伝染した。アメリカでは大手金融機関が巨額損失を出す金融危機に見舞われ
た。
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
21
・2007-08年の世界金融危機
•サブプライム住宅ローンが証券化されて転売され,その焦げ付
きから始まったこの危機は仕組みが複雑でリスクがどこにどれ
だけあるのか把握できないことから事態を深刻化させた
3つの仕組み
①住宅ローン専門会社だけでなくウォール街の大手金融機関の子会社も
住宅ローンを貸し付けた後,債権を銀行・投資銀行に売却して借り手との
縁を切り貸付を回収
②銀行は多数のローン債権をひとまとめにしてローンプールを形成して,
資産を証券化・再証券化する
③この証券はアメリカ国内だけでなくヨーロッパや日本の銀行や
ヘッジファンドにも販売された
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
22
なぜリスク把握ができなかったのか
•証券化商品は金融機関が設立したSPVに譲渡してオフバランス化される
•投資銀行は高レバレッジの取引を行う
•発行する証券をリスク別に分類して販売を促進するとともに原資産のデフォルトなど
から発生するリスクを一部の高リスク・トランシェに集中させて他の証券に高格付けを
獲得させ,証券全体の販売価格の引き上げを図る
•証券化商品のリスクについて開示されない手法で格付け会社がAAAのお墨付きを与
える
•住宅ローン保証を専業とする保険会社(モノライン)やクレジット・デフォルト・スワップ
:CDSが動員された
住宅ローン返済滞
納・住宅価格下落
関係した金融機関
の経営悪化,破綻
金融機関などが高レ
バレッジを解消しグ
ローバル投資を引き
上げる
世界同時株
為替下落
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
実体経済に大打撃
信用収縮
23
c アメリカ型モデルの問題点
~アメリカ基準の特徴~
•市場原理主義
•アメリカ的な証券市場中心システム
•リスクを「商品」にする高レバレッジ型の投資銀行業務
~アメリカ基準の問題~
•利益至上主義,経営者の強欲
•格付け会社の役割の不透明さ・無責任さ
•ワシントン・コンセンサスとウォール街の結合
現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社
24
ダウンロード

現代世界経済をとらえるVer.5第7章