土木学会東北支部技術研究発表会(平成18年度)
VII-2
渓流環境評価手法について
新庄河川事務所調査課
法人会員
佐藤
巧
1.はじめに
我が国の砂防事業においては、従来は不透過型(閉鎖型)の砂防堰堤や床固め工を中心に整備が進められて
きた経緯があり、その結果、水域の連続性分断や土砂供給量、撹乱頻度の低下等に伴い、回遊魚等の移動障害
を始め、渓流の形態や生物相、物質収支に変化をもたらすことが指摘されている1).このため、新庄河川事務
所においては、管内渓流における砂防堰堤のスリット化や魚道設置等の保全対策を順次実施してきたものの、
その環境改善効果については適切に評価が行われていない状況にある.
2.目的
本検討は、上記の背景を考慮し、砂防事業による環境影響、環境改善効果を適切に評価するため、渓流環境
の生態的価値を定量的に評価し得る評価手法の確立を目的とするものである.
3.検討方法
既往評価手法の整理
評価手法の検討の流れは、以下に示すとおりである(図−1 参照)
.
なお、評価手法の検討に当たっては、全国渓流への適用を想定した「汎用性」、
適用評価手法案の仮設定
評価及びデータ取得等の「簡便性」
、第三者への説明・理解に当たっての「平
評価手法の検討
易性」の確保を基本的要求事項とする.
3.1
評価対象種の検討
既往評価手法の整理
評価指標の検討
既往の生態系定量評価手法とそれらの適用事例等について、既存資料等より
評価単位区間の検討
各評価手法の有する特性(評価対象、評価スケール、課題等)を把握し、渓流
評価モデルの検討
環境を対象とした定量評価手法としての適否について検討を行う.
3.2 適用評価手法案の仮設定
代表渓流における実地検証
既往評価手法の整理結果を参考に、基本的要求事項の観点に基づき、評価手
適用評価手法の設定
法、評価対象種、評価指標、評価単位区間、評価モデルの各項目について検討
を行い、適用評価手法案(以下、「評価手法案」とする.)を仮設定する.
なお、事業実施に伴う環境影響、環境改善効果を適切に評価するため、適用
他渓流への適用、検証
(図−1
検討の流れ)
評価手法としては、将来予測が可能な評価手法を選定するものとする。
3.3
管内代表渓流における実地検証
仮設定した評価手法案について、管内代表渓流をケーススタディとした実地
検証を行い、必要に応じ、評価手法案へのフィードバックを行う.実地検証対
象渓流は、既往現地調査の実施状況等を考慮し、最上川水系の三ツ沢川(角川
流域)及び大井沢川(寒河江川流域)の二渓流とする(図−2 参照)
.
なお、実地検証に当たっては、HEP(ハビタット評価手続き)、IBI(生物保全
指数)等、前項において検討を行った複数の評価手法による評価結果の比較に
より、評価手法案の妥当性の検証を行うことを想定する.
3.4
適用評価手法の設定
実地検証により評価手法案の妥当性が確認された場合には、仮設定した評価
手法案に基づき渓流環境評価手法を設定する.また、実地検証において、当該
地域特有の生物相等が確認された場合には、評価対象種としての適用の必要性
等について検討するものとする.
(図−2
実地検証対象渓流)
土木学会東北支部技術研究発表会(平成18年度)
4.現時点における検討結果
1)
評価手法
既往評価手法の整理の結果、基本的要求事項を考慮した評価手法としては、将来予測が可能であり、比較的
評価方法が明確かつ平易である等の特性から、HEP の概念を基本とすることが有効であると評価された.HEP
は、複雑な生態系の概念を、特定の野生生物に対する生息環境(ハ
る評価手法であり、環境条件の「質」と「空間」との積算により
生息環境の価値を算定する手法である.また、施設設置等の事業
実施に伴う環境影響、環境改善効果を適切に評価するためには、
環境条件の「質」や「空間」の変化とともに、「時間」の変化を
反映させることが重要であり、HEP については、こうした時間変
︻質︼×︻空間︼↓ハビタットの価値
ビタット)の適性度に置き換えることにより定量評価を可能とす
(事業を実施しなかった場合)
スリット化、魚道
設置等による連
続性の復元に伴
う「価値」の改善
(事業を実施した場合)
砂防堰堤設置に
伴う分断化によ
る「価値」の悪化
化の概念(図−3 参照)を組み込むことが可能であることからも、
【時間】→ターゲットイヤー
本検討における適用評価手法として適切であると判断される.
2)
渓流環境の有する
治癒力による経年
的な「価値」の改善
評価対象種
(図−3
時間変化の概念)
既往現地調査における生息確認種を対象に、①渓流域において
一般的で馴染みのある種、②生息条件等に係る知見が豊富な種、③餌条件に偏りが少ない種、④砂防事業によ
る影響を受けやすい種、⑤現地調査が容易な種等の観点に基づき整理した結果、本検討対象箇所の渓流魚であ
るニッコウイワナ、ヤマメ(サクラマス)、カジカの三種を評価対象種として選定するものとした.
5.今後の検討内容
1)
評価指標の検討
評価対象種の生存必須条件(生息条件、餌条件、繁殖条件)を規定する環境要素(水質、川幅、水深等)を
対象に、①評価対象種の生息状況との関連性が強い項目、②砂防事業による影響を受けやすい項目、③調査が
容易(既存調査結果の活用が可能、現地調査が容易)な項目等の観点に基づき評価指標を検討・仮設定する.
2)
評価単位区間の検討
複数の評価単位区間(距離別(500m 間隔、1km 間隔)、河川形態別、事業影響範囲別)を仮設定し、実地検
証により、適切な評価単位区間を設定する.
3)
評価モデルの検討
評価対象種毎に、評価指標に対する適性指数(SI)を用いた評価
モデル(HSI モデル)を作成する.SI の算定に用いる選好曲線(SI
モデル)については、他渓流への適用も想定し、評価対象種に係る
生態的知見や専門家への聞き取り調査により作成する.また、評価
モデルにおける SI の結合方式は、既往の知見や現地調査結果に基
HSI=a1*SI1+a2*SI2+・・・+an*SIn
HSI:ハビタット適性指数
SI:(評価指標毎の)適性指数
a:重み付け係数
(現地調査結果等に基づく多変量解析により設定)
(図−4
評価モデルの基本形)
づく多変量解析(重回帰分析等)により、評価指標毎に重み付けを行うことを想定する(図−4 参照)
.
6.適用評価手法の活用方法
本業務において検討する渓流環境評価手法を活用することにより、砂防事業の事業評価に当たって、生態的
価値に係る環境面での評価を加えることが可能となる.その結果、砂防事業に対する総合的かつ明瞭な事業評
価が可能となり、地域住民等との合意形成の促進にも繋がることが期待される.
参考文献
1)太田猛彦,高橋剛一郎編:「渓流生態砂防学」
,東京大学出版会,1999
ダウンロード

渓流環境評価手法について