電磁気学再入門を読む(4)−4
K E N Z OU
2010 年 10 月 8 日
10 月に入った日の早朝,コニーら一行がK氏を訪ねてきた。
• コニー:こんにちわ∼。いよいよ初秋の 10 月を迎えたわね。
• K氏:いやぁ∼,こんにちわ。今年の夏は 36 ℃を越える猛暑というか酷暑が続いてまいったね。
引越しや暑さボケでなかなか気力が湧かず,
「電磁気学再入門を読む」もしばらくほったらかしに
していたけど,まぁ,そろそろ再開しようかという気になってきた。ということで第 4 章を仕上
げてしまおうという次第だ。ここまで来るのに大変だったけど,あとひと踏ん張りだ。がんばっ
ていこう。
• エミリー:この暑さで野菜の収穫も厳しいものがあったようね。ところで,前回は,加速度運動
する点電荷(荷電粒子)から放射される電磁場について勉強したわ。ここでは電磁波の散乱と誘
電体中の電磁場について勉強するのね。
• K氏:そうなんだ。いろいろ面白い話題がでてくると思うので楽しみにして。それでは早速はじ
めよう。
目次
4.9
その他の問題 . . . . . . . . . . . . .
4.9.1 輻射の反作用 . . . . . . . . .
(1) エネルギー保存則と減衰力
(2) 輻射の反作用 . . . . . . .
4.9.2 電磁波の散乱 . . . . . . . . .
(1) 点電荷による電磁波の散乱
(2) 微分断面積 . . . . . . . .
(3)Thomson 散乱 . . . . . . .
(4)Rayleigh 散乱 . . . . . . .
4.9.3 物質の中の電磁場 . . . . . . .
(1) 電気感受率 . . . . . . . .
(2) 金属の導電性 . . . . . . .
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1
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2
2
2
3
13
13
15
15
18
20
20
23
4.9
その他の問題
4.9.1
輻射の反作用
(1) エネルギー保存則と減衰力
• K氏:点電荷が加速されているとき,点電荷は電磁波を放出し,その分,自身のもつ力学
的エネルギーは減少した。つまり荷電粒子の運動にブレーキがかかるわけで,これを輻射
(放射)の反作用という。この反作用は,電荷が放出した電磁波が自分自身に作用して,電
荷に力を及ぼす自己力によるものだ。輻射の反作用は,電荷の運動方程式の中に減衰力と
して顔をだしてくる。減衰力の一般的な導出は後でやるとして,ここではエネルギー保存
則の立場から減衰力を導いてみよう(←もっとも,これから導出された減衰力は正しいも
のではないことが後で分かる)。
点電荷が周期運動している場合 を考える。ある時刻 t1 と t2 において
ξ̇(t1 ) = ξ̇(t2 ) = 0
(4.1)
とする(←単振動している場合,最大振幅の位置で速度は 0 となるね)。点電荷の速度が
光速度に比べて小さい場合,点電荷の単位加速時間あたりに放射される輻射エネルギーは
Lamor の公式から
dW
e2
2
=
ξ̈ (t)
(4.2)
3
dt
6πε0 c
で与えられ,一方,点電荷の運動エネルギーは,エネルギー保存則より,この分のエネル
ギーが失われることになる。求める減衰力を K とすると,時間 t1 , t2 において K が点電荷
になす仕事は,同じ時間に放射された輻射エネルギーに等しいことから,単位時間になす
仕事量,つまり,仕事率1 は
Z t2
Z t2
e2
2
dtK(t) · ξ̇(t) = −
dtξ̈ (t)
3
6πε0 c t1
t1
Z t2
¯t2
・
・
・
e2 ¯¯
e2
¯
dtξ̇(t) ξ (t)
=−
¯ξ̇(t) · ξ̈(t)¯ +
3
3
6πε0 c
6πε0 c t1
t1
Z
t2
・
・
・
e2
=
dtξ̇(t) ξ (t)
(4.3)
3
6πε0 c t1
となる。2 行目から 3 行目にかけては周期運動条件 (4.1) を使うことで第 1 項をバッサリ落
とすことができる。これから減衰力 K は
µ
¶
・
・
・
e2 ・・・
2
~
K(t) =
ξ (t) = α
m ξ (t)
(4.4)
3
2
6πε0 c
3
mc
と得られる2 。時間の 3 階微分が顔をだす。α は微細構造定数と呼ばれ,α = e2 /4πε0 ~c =
・
・
・
1/137 の値をとる。m ξ にかかる係数は時間の次元をもち3 ,電子の場合その大きさを見積
もると
¶
µ
e2
2
2 1
~
T0 =
= α
' ·
· 10−21 sec ∼ 10−23 sec
3
2
6πmε0 c
3
mc
3 137
・
・
・
のオーダーとなる4 。電子の加速度が変化する時間を T とすれば m ξ ' mξ̈/T とおけるの
で,減衰力は K(t) ' (T0 /T )ξ̈(t) と表わすことができる。加速度が変化する時間 T が T0
1
2
3
4
単位時間にする仕事の量:力と速度の積
古典論なのに ~ がでてきたことにギョッとされた方がおられるかも知れないが,微細構造定数を引っ張り出す関
係で ~ が顔をだしただけと理解いただきたい。
これでちょうど K(t) は力の次元となる。
電子の静止質量:mc2 = 0.511MeV= 0.511 × 10−13 J, ~ = 10−34 J·s.
2
に比べて十分長い場合,放射による減衰力は無視できる。例えば,巨視的な荷電体の場合
などは質量 m が極めて大きく,T0 は電子のときよりもさらに小さくなる。このため,電
磁波の放射による減衰力は無視できる。
いま,1 個の点電荷が外力 F によって加速され,電磁波を放射しながら運動している場
合を考えよう。点電荷の運動方程式は
・
・
・
mξ̈(t) = F (t) + K(t) = F (t) + T0 m ξ (t)
(4.5)
となる。これは時間について 3 階の微分方程式なので,解は初期位置と初期速度の 2 つだ
けでは決まらない。つまり,時間について 2 階の Newton の運動方程式から予想される解
以外の解を含んでいる可能性がある。そこで,そのあたりの様子を調べるために F = 0 の
場合についてみると,電子は自由運動(等速運動)するので ξ̈(t) = 0 なる解をもち,
・
・
・
ξ̈(t) = T0 ξ (t) = 0
(4.6)
より減衰力は 0 となる。ところで,この解以外に
1
d
ξ̈(t) =
ξ̈(t) −→ ξ̈(t) = ξ̈(0) exp(t/T0 )
dt
T0
(4.7)
の解をもつ。ξ̈(0) は t = 0 における加速度。上の解は,外力が作用していないのに荷電粒
子の加速度が指数関数的に増大するという奇妙な運動を示す5 。この妙な解は F = 0 とし
て出てきたものだが,この場合,点電荷の運動は周期的ではないことに注意! つまり,条
件 (4.1) を満たさないので,残念ながら減衰力 T0 mξ̈(t) が正しく定式化されているという
保証はない,ということになる。そこで,非周期運動をも含めた一般の運動に対して,減
衰力がどのように定式化されるかを考える必要がある。そのためには荷電粒子の自分自身
が作る電磁場から受ける反作用を正確に考慮していくことが必要になるわけだね。
• エミリー:ちょっとまわりくどい議論のようだったけど,整理するとこういうことね。周
期運動を取り上げて,減衰力 K による 仕事 = 輻射エネルギー として求めた K は残念な
がら減衰力を正しく表わしているという保証はないということね。
(2) 輻射の反作用
• K氏:うん。そこで,電磁場の中に置かれた点電荷系の運動を考えてみよう。まず,電磁
場の中の i 番目の点電荷の運動方程式は
n
o
mξ̈ i (t) = ei E(ξ i (t), t) + ξ̇ i (t) × B(ξ i (t), t)
(4.8)
で表わされる。点電荷系の運動に伴って電磁場が発生するが,その電磁場は次の Maxwell
の方程式を満たす。
∇ · E(x, t) =
1
1 X
ρ0 (x, t) +
ρi (x, t)
ε0
ε0
(4.9)
i6=0
∂ B(x, t)
∂t



X
∂ E(x, t) 
J i (x, t) + ε0
∇×B(x, t) = µ0 J 0 (x, t) +


∂t
∇×E(x) = −
(4.10)
(4.11)
i6=0
∇ · B(x, t) = 0
5
(4.12)
初期条件に位置と速度以外の特定条件をつけてこの不可解な解を排除するという操作が必要になる。
3
ただし,
(
ρi (x, t) = ei δ(x − ξ i (t))
J i (x, t) = ei ξ̇ i (t)δ(x − ξ i (t))
(4.13)
で,ρ0 と J 0 は,いま考えている電子の電荷密度と電流密度で,ρi と J i はそれ以外のす
べての点電荷系による電荷密度と電流密度を表す。また,電子は極めて小さいながらも半
径 a0 をもつ剛体球であるとしておく6 。
• アリス:え∼っと,電磁場を注目している電子それ自身が作る電磁場とそれ以外の電子系
が作る電磁場とに分離したわけね。電子は有限の大きさを持つ剛体球と仮定するというこ
とは,電荷が球体内に分布し総電荷が e ということね。電子を有限な大きさを持つ帯電球
とした場合,その静電エネルギー HCoul は
Z
Z
1 1
ρ(x, t)ρ(x0 , t)
HCoul =
dx dx0
(4.14)
2 4πε0
| x − x0 |
で7 ,この式に電荷密度 (4.13) を入れて積分すると分母に | x − x0 | があるため発散してし
まい,無限大のエネルギーとなってしまうわ。電子が有限の大きさを持つとする剛体球モ
デルは無理があるのじゃないかしら?
• K氏:うん,その疑問は当然だね。これは自己エネルギーの問題として知られる,未だに
本質的解決がされていない難問中の難問なんだ! だからややこしいことには蓋をして(笑
い),先ほどの発散積分は a0 で切断 (cut-off) して積分を収束させるというやり方で切り
抜ける。x = x0 で積分は発散するので,これを防ぐために点 x と点 x0 とは
| x − x0 | =
a0
2
までしか近寄れないとするんだ。あるいは,(4.14) の積分の分母を | x − x0 | →| x − x0 | +
a0 /2 に置きかえてやってもよい。そうすると積分は収束して,静電エネルギーは
HCoul =
1 e2 2
e2
=
2 4πε0 a0
4πε0 a0
(4.15)
と得られる。相対論によると質量 m の粒子には mc2 のエネルギーをもつので,これを HCoul
に等しいと置き,a0 を re に置き換えると古典電子半径 re が得られる。
mc2 =
e2
,
4πε0 re
... re =
e2
' 2.8 × 10−15 m
4πε0 mc2
(4.16)
• アリス:この剛体球モデルでは,電子は古典電子半径の殻を持ち,殻の中は空っぽ? 電荷
は殻の外側を包み込むように分布しているという構造になるわね。
• K氏:そうだね。まっ,そういうことで,i = 0 番目の電子の運動方程式を書くと次のよう
になる。
Z
mξ̈ 0 (t) =
V
dx {ρ0 (x, t)E(x, t) + J 0 × B(x, t)}
(4.17)
注目している電子自身が作った電磁場の自分自身に作用する自己力(self force)を考える
ために電磁場を 2 つに分けよう。すなわち
(
E(x, t) = E 0 (x, t) + E 1 (x, t)
(4.18)
B(x, t) = B 0 (x, t) + B 1 (x, t)
6
7
相対論では剛体は存在しないので,この前提は相対論の要求と相反する。
第 3 回目の (3.73) を参照。
4
• エミリー:自己力というを少し詳しく説明いただけるかしら。
• K氏:そうだね。いままで自己力というものを特に考慮に入れてこなかったけど,輻射の
問題ではこれが重要なファクターになるので簡単に復習しておこう。自己力というのは先
ほども少し言ったように,自分が作る場から自分自身が力を受けるというものだ。
(1)
E1
E0
ρ0
E = E1 + E0
E 1 :領域 (1) の電荷が作る電場
E 0 :電荷分布 ρ0 の帯電体の作る電場
いま,静電場 E 1 があり,その中に電荷密度 ρ0 の分布を持つ帯電体をおく。帯電体も電場
E 0 を作るだろう。だから,全体の電場 E はもとからあった静電場 E 1 と帯電体の作る新
たな電場 E 0 の重ね合わせで E = E 1 + E 0 となる。したがって,帯電体が電場 E から受
ける力を F とすると
Z
Z
F = dxρ0 (x)E(x)dx = dxρ0 (x)(E 1 (x) + E 0 (x))
Z
=
Z
dxρ0 (x)E 1 (x) +
dxρ0 (x)E 0 (x)
(4.19)
と表すことができ,右辺の第 2 項
Z
F0 =
dxρ0 (x)E 0 (x)
(4.20)
を自己力といい,E 0 (x) を自己場 (self field) と呼んでいる。
• キャサリン:自分が作った電場を自己場といい,その自己場から自分自身が力を受ける,
それを自己力と呼んでいるわけね。
• K氏:そうだね。
• アリス:ところで Coulomb の法則を勉強したとき自己力は問題にしなかったわ。それな
りの理由があることと思うけど,その辺りことをハッキリしていただけるかしら。
• K氏:静電場の場合,この自己力は 0 になるんだ。もし,自己力が 0 でないとすると,外
部の電場 E 1 がないときでも自分自身に自己力が作用して勝手に動きだすという奇妙なこ
とになるね。理論的には,帯電体のつくる静電場は
Z
1
x − x0
0
E 0 (x) =
dx0
(4.21)
3 ρ0 (x )
0
4πε0
|x−x |
x0 は帯電体内部の座標だね。これを (4.20) に入れると
Z
Z
x − x0
1
dxρ0 (x) dx0 ρ0 (x0 )
F0 =
4πε0
| x − x0 |3
(4.22)
ここで積分変数 x と x0 を入れ替えると積分値の大きさは同じで負号が変わり,F 0 = −F 0
となるので F 0 = 0 でなければならない。静電場では自己力は 0 ということになる。
5
• アリス:なるほど。いま,電荷分布 ρ0 を持つ帯電体を考えたけど,点電荷の場合は x0 = 0
とすればいいわけね。そうすると自己力の大きさは
Z
Z
Z
e2
e2
e2 2π
1
1
2
f0 =
dV 2 =
r sin θdrdθdφ 2 =
dθ sin θ = 0
(4.23)
4πε0
r
4πε0
r
ε0 0
となるわけね。
• コニー:電荷が等速運動している場合,それに乗った座標系から見れば電荷は静止して見
えるので自己力は 0。しかし加速度運動している場合には自己力の影響が顔をだすという
わけね。自己力の origin についていまいちイメージが湧かないんだけど,そのあたりのこ
とを分かりやすく説明していただけるかしら。
• K氏:うん。いま,電子を一つの荷電された球と考えているわけだけど,この荷電球体が
静止している場合,各部分の電荷は他の部分の電荷と反発しあうけど,全体としての合力
は 0 で釣り合っているね。しかし,電子が加速されるときは電磁気的な影響が他の場所に
伝わるのに時間がかかるために,全体の力の釣り合いが崩れてしまうことから自己力が顔
をだしてくるんだ。具体的にこの状況を図で示すと次のようになる。
α0
−
−
−
−
−
−
−
−
−
ξ̈
−
ξ̈
−
−
β
全体の合力は作用・反作用
により 0
−
−
α
β 部分の α 部分に及ぼす影響
は遅延時間により中心対称部
でない α0 部分に作用する。
−
−
この結果,各部分に働く力はこの
図のようになり,加速度方向と反
対の力が働く
この結果,加速度運動している電子には加速度と逆向きの力(反作用力)が作用するとい
うことになるというわけだね。
• コニー:そうなんだ。このブレーキ力が減衰力の Origin か。。。
• K氏:うん。さて,話を戻して,(4.18) で 2 つに分けた電磁場はそれぞれ Maxwell の方程
式を満たすので
1
∇ · E 0 (x, t) = ρ0 (x, t)
ε0
∂ B 0 (x, t)
∇×E 0 (x) = −
∂t
(4.24)
½
¾
∂ E 0 (x, t)
∇×B 0 (x, t) = µ0 J 0 (x, t) + ε0
∂t
∇ · B 0 (x, t) = 0
6
および
X
∇ · E 1 (x, t) =
ρi (x, t)
i6=0
∂ B 1 (x, t)
∂t


X
∂ E 1 (x, t) 
J i (x, t) + ε0
∇×B 1 (x, t) = µ0


∂t
∇×E 1 (x) = −
(4.25)
i6=0
∇ · B 1 (x, t) = 0
となる。そして電子の運動方程式は
mξ̈ 0 (t) = F 1 + F 0
(4.26)
と表せる。F 1 , F 0 はそれぞれ
Z
F 1 = dx {ρ0 (x, t)E 1 (x, t) + J 0 (x, t) × B 1 (x, t)}
(4.27)
Z
F0 =
dx {ρ0 (x, t)E 0 (x, t) + J 0 (x, t) × B 0 (x, t)}
(4.28)
F 1 は,他の粒子により発生した電磁場がいま注目している電子に働く力を表わし,F 0 は
自己力だったね。今まで顕には言わなかったが,Lorentz 力はこのような自己力を取り入
れたもので,それではじめて全系のエネルギーや運動量保存則が成立することに注意して
おこう。
さて,(4.24) を形式的に解くと,電磁ポテンシャルは
Z
µ0
J 0 (x0 , t0 )
A(x, t) =
dx0
4π
| x − x0 |
(4.29)
Z
0 0
1
0 ρ0 (x , t )
A0 (x, t) =
dx
4πε0
| x − x0 |
で表される。ここで電磁ポテンシャルの初期項 A0 , A00 は省略した。t0 は,
t0 = t −
| x − x0 |
c
(4.30)
である。(4.29) を (4.28) に入れると自己力の作用の下での電子の運動方程式が得られる。
いま,電子の速度は光速度に比べて十分小さいものとすると,速度 ξ̇ 0 (t) の 1 次の項だけ
.
を考えればよい。J 0 は ξ̇ に比例し,また | B |=| E | /c より | ξ̇ × B |∼ β | E |= 0 とな
るので,磁場による力は無視できる。したがって,運動方程式は次のようになる8 。
Z
mξ̈ 0 (t) = F 1 + dxρ0 (x, t)E 0 (x, t)
¶
∂ A(x, t)
= F 1 − dxρ0 (x, t) ∇A0 (x, t) +
∂t
³
´

0
0 , t − |x−x |
Z
Z

ρ
x
0
c
1
= F1 −
dxρ0 (x, t) ∇ dx0
0

4πε0
|x−x |
µ
Z
+
8
1 ∂
c2 ∂t
Z
dx0
´
³
0
J 0 x0 , t − |x−cx | 
| x − x0 |

(4.31)
以下の議論は砂川重信「理論電磁気学」(第 3 版),J.D.Jackson「Classical Electrodynamics」2ndEdition を参
照。
7
ここで右辺の空間積分は半径 a の電子の球の内部にわたるものであることに注意しよう。
発信時刻 t0 は
| x − x0 |
a
t0 = t −
∼t−
(4.32)
c
c
の程度で,t0 は ∼ (a/c) 程度だけ t と異なる。この時間間隔は非常に短く,この間での電
子の運動状態の変化は極めてわずかであると考えられので,t0 = t の周りで Taylor 展開し
ても問題ない。遅延時刻 t0 = t − (R/c) での値を [ ] をつけて表すと
[
µ ¶
∞
X
(−1)2 R n ∂ n
[
]=
n!
c
∂tn
],
R =| x − x0 |
(4.33)
n=0
したがって電荷密度や電流密度は
[ ρ0 ] = ρ0
¡
µ ¶
∞
X
(−1)n R n ∂ n
x , t − R/c =
ρ0 (x0 , t)
n!
c
∂tn
0
¢
(4.34)
n=0
∞
¡
¢ X
(−1)n
[ J 0 ] = J 0 x0 , t − R/c =
n!
n=0
µ ¶n n
R
∂
J 0 (x0 , t)
c
∂tn
(4.35)
これを (4.31) に入れ,微分演算子 ∇ は x に作用することに留意して整理すると
½
¾
Z
Z
∞
1 X (−1)n
∂n
Rn−1 ∂ J 0 (x0 , t)
0
0
n−1
mξ̈ 0 (t) = F 1 −
dx dx ρ0 (x, t) n ρ0 (x , t)∇R
+ 2
4πε0
n!cn
∂t
c
∂t
n=0
(4.36)
となる。右辺第 2 項のスカラーポテンシャル A0 からくる項のうち,n = 0 の項は,
µ ¶
Z
Z
Z
Z
1
1
1
x − x0
0
0
−
dx dx ρ0 (x, t)ρ0 (x , t)∇
=−
dx dx0 ρ0 (x, t)ρ0 (x0 , t)
4πε0
R
4πε0
| x − x0 |3
で,これは x と x0 に関して反対称であるから消える9 。次に n = 1 項は ∇R0 となるので
恒等的に 0 となる。
Z
Z
∂
1
dx dx0 ρ0 (x, t) ρ0 (x0 , t)∇R0 = 0
4πε0
∂t
そこで (4.36) の右辺第 2 項の自己力のうち,スカラーポテンシャルからくる項では n → n + 2
と置き換え,整理すると

Z
Z
∞
n+1

1 X (−1)n

0
n−1 ∂
F0 = −
dx dx ρ0 (x, t)R
{ } 


n+2
n+1
4πε0
n! c
∂t
n=0
(4.37)

n+1
0 , t)

∇R
∂
ρ
(x
0


{ } = J 0 (x0 , t) +

∂t
(n + 2)(n + 1)Rn−1
となる。{
} の式に電荷保存則 (連続の式) を使うと
{
} = J 0 (x0 , t) − ∇0 · J 0 (x0 , t)
= J 0 (x0 , t) − ∇0 · J 0 (x0 , t)
9
これは静電自己力で,球対称の電荷分布の場合には 0 になる。
8
(n + 1)Rn ∇R
(n + 2)(n + 1)Rn−1
R
n+2
x0 に関する積分はしたがって
½
Z
0
dx Rn−1 J 0 (x0 , t) −
¾
1
0
0
n−1
(∇ · J 0 (x , t))(R
R) n+2
(4.38)
ここで次の展開式
∇0 · (J 0 Rn−1 R) = (∇0 · J 0 )Rn−1 R + J 0 ∇0 · (Rn−1 R)
を使って左辺を表面積分に直して落とすと
(∇0 · J 0 )Rn−1 R = −J 0 ∇0 · (Rn−1 R)
したがって (4.38) は
½
Z
= dx0 Rn−1 J 0 +
¾
¡
¢
1
Rn−1 J 0 · ∇0 )(Rn−1 R
n+2
½
µ
¶¾
Z
1
(J 0 · R)
0
n−1
n−1
= dx R
J0 −
R
J 0 + (n − 1)
R
n+2
R2
¶
µ
¶
¾
½µ
Z
n − 1 (J 0 · R)
n+1
0 n−1
J0 −
R
= dx R
n+2
n+2
R2
(4.39)
となる。いま,電子は微小な剛体球としているので J 0 は
J 0 (x0 , t) = ξ̇ 0 (t)ρ0 (x0 , t)
と表せる。そこで (4.39) を成分表示で書くと
¶
µ
¶
¾
½µ
XZ
n − 1 Ri R j
n+1
0
0
n−1 ˙
(4.39) =
δij −
dx ρ0 (x , t)R
ξj (t)
n+2
n+2
R2
(4.40)
(4.41)
j
となる。これを (4.37) に入れたとき,xとx0 について対称であるから
1
Ri Rj = R2 δij
3
(4.42)
とおくことができる。結局 (4.39) は
½µ
¶
µ
¶¾
Z
Z
1 n−1
2
n+1
0
0
n−1
(4.39) = dx ρ0 (x , t)R
ξ̇ 0 (t)
−
= ξ̇ 0 (t) dx0 ρ0 (x0 , t)Rn−1
n+2
3 n+2
3
となり,これを (4.37) に代入すると
Z
Z
∞
n+2 ¡
¢
1 X (−1)n 2
0
n−1 ∂
ξ0 (t)ρ0 (x0 , t)
F0 = −
dx
dx
ρ
(x,
t)R
0
n+2
n+2
4πε0
n! c
3
∂t
(4.43)
n=0
が得られる。ρ0 を時間微分すると電荷保存則より J 0 が現れ,(4.40) より ξ̇ 0 の 2 次以上の
項がでてくるが,電子の速度 ξ̇ 0 とその時間微分に関する非線形項を無視する10 と
´
∂n ³
∂n
0
0
ξ̇
(t)ρ
(x
,
t)
→
ρ
(x
,
t)
ξ̇ (t)
(4.44)
0
0
0
∂tn
∂tn 0
とおけるので,自己力 (4.43) は次のように表せる。
Z
Z
∞
1 X (−1)n 2 dn+2 ξ 0 (t)
F0 = −
dx dx0 ρ0 (x, t)Rn−1 ρ0 (x0 , t)
4πε0
n! cn+2 3 dtn+2
n=0
10
・
・
・
‰̇0 , ‰̈0 , ‰ 0 , · · · がそれらの 2 乗を無視できるほと小さいと仮定する
9
(4.45)
ごたごたした計算が続いてなんだったど,自己力を定式化することができた。最初の数項
を調べてみよう。
Z
Z
0
1 1 2
e2
4
(0)
0 ρ0 (x, t)ρ0 (x , t)
・n = 0 : F 0 = −
ξ̈
(t)
dx
dx
=
−
ξ̈ (t)
0
4πε0 c2 3
R
4πε0 r0 3c2 0
この項は自己エネルギーと関係し,(4.15) で求めた自己エネルギーを W とす
4
W ξ̈ 0 (t)
3c2
Z
Z
1 1 2・・・
e2 ・・・
0
0
=
ξ
(t)
dx
dx
ρ
(x,
t)ρ
(x
,
t)
=
ξ (t)
0
0
0
4πε0 c3 3
6πε0 c3 0
(0)
るとF 0 = −
(1)
・n = 1 : F 0
これは (4.4) で求めた減衰力だ!
1 (−1)n 2
(n)
(n+2)
(t)
・n >
= 2 : F 0 = − 4πε n! cn+2 3 an ξ
0
Z
Z
ただし,an = dx dx0 ρ(x, t)Rn−1 ρ(x0 , t)
an は剛体球電子モデルの内部構造に関係した量である。
(4.46)
これらのことから,自己力の作用下における電子の運動方程式は
mξ̈ 0 (t) = F 1 −
e2
e2 ・・・
(t)
+
W
ξ̈
ξ (t) + · · ·
0
3c2
6πε0 c3 0
(4.47)
となる。右辺の第 2 項は加速度に比例する項で,その係数を me として左辺に移項すると
(m + me )ξ̈ 0 (t) = F 1 +
me =
e2 ・・・
ξ (t) + · · ·
6πε0 c3 0
4
4
e2
W
=
3c2
3 4πε0 re c2
(4.48)
(4.49)
となり,電子の質量が増えたような効果としてあらわれる。m を力学的質量とするなら,
me は電子が自分の周りに静電場を作ることにもとづく電磁的質量であると解釈でき,わ
れわれが観測する電子の質量は m∗ = m + me であると考えることができる。(4.48) が,電
子の非周期運動に対しても成り立つ一般的な運動方程式である。
ところでこの方程式の右辺には時間の 3 階微分が含まれているので,(4.7) の不可解な解が
・
・
・
顔をだすが,(4.48) の方程式は,速度や加速度の線形項だけを採用した,つまり ξ̇, ξ̈, ξ , · · ·
がそれらの 2 乗を無視できるほど小さいという前提で成り立つもので,(4.7) の解はこれを
満たさない。だから,この解は許されないことになる。
• コニー:得られた一般的な運動方程式と (4.5) の点電荷の運動方程式を並べて書くと

e2 ・・・


 ○ (m + me )ξ̈ 0 (t) = F 1 (t) +
ξ (t)
6πε0 c3 0
(4.50)
2
e ・・・


 ×
ξ
(t)
mξ̈(t) = F (t) +
6πε0 c3
非常によく似ているけど,本質的に異なるのね。○の運動方程式は自己力の作用を取り込
・
・
・
んだ電子の一般的な運動方程式で,これは ξ̇(t), ξ̈(t), ξ (t), · · · の 2 乗は無視できるほど小
さいと仮定して導出された。それ故,3 階微分に起因する奇妙な解は存在しないことにな
るわけね。
ところで,電磁質量に関してだけど,me は発散積分を a0 で切断し,無理に a0 = re とお
いた結果でてきたもの,つまり,非常に恣意的にやったものだからこの値を観測できる値
と考えることは無理があると思うのだけど。また,a0 → 0 では発散してしまうわね。
10
• K氏:そうなんだ。はじめにあった質量 m と me との和が有限となり,これが実際に観測
される電子の質量であると考えると事実上は無限大がでなくなる。このような考え方がく
りこみ理論の精神なんだね。ちなみに,素粒子論の方では,m∗ を着物を着た質量,m を
裸の質量,me を着物の質量といったりもしている。さて,(4.48) は
mobs ・・・
ξ (t) + · · ·
ωD
e2
4
4
= m + m,
=m+
2
3 4πε0 re c
3
mobs ξ̈(t) = F 1 +
mobs
(4.51)
1
e2
≡
ωD
6πmobs ε0 c3
と表すこともできる11 。(4.51) の第 2 項は電子の運動を減衰させる働きをもち,減衰項と
呼ばれる。1/ωD は時間の次元をもち,電子の場合 10−23 sec のオーダー。
それでは一般的な運動方程式を使って,電荷を持つ調和振動子の運動を考えてみよう。
点電荷 e が F = −mω02 ξ(t) の弾性力を受け,t = 0 で振動子の振幅は ξ 0 とする。電子の運
動方程式は
1 ・・・
ξ̈(t) + ω02 ξ(t) =
ξ (t)
(4.52)
ωD
減衰力のため,運動エネルギーは放射エネルギーに変換されて振幅は次第に小さくなって
いくが,いま減衰力は弾性力に比べて十分小さいとして
ξ(t) = ξ 0 eiω0 t e−γt/2 = ξ 0 e(iω0 −γ/2)t
(4.53)
の形の解を求める。
• ユナ:え∼っと,なぜそのような形の解になるのかしら。少しそのあたりの事情を説明し
ていただける。
• K氏:そうだね。減衰力が働かない場合,調和振動子の解は ξ(t) = ξ 0 eiω0 t だね。これ
・
・
・
から ξ (t) = −ω02 ξ̇(t) が得られる。したがって,減衰力が十分小さい場合,これを使って
・
・
・
(1/ωD ) ξ (t) ' −(ω02 /ωD )ξ̇(t) と近似できるね。そうすると (4.52) は
ξ̈(t) + γ ξ̇(t) + ω02 ξ(t) = 0,
γ=
ω02
ωD
(4.54)
となる。γ ¿ ω0 とすると (4.53) は (4.54) を近似的に満たすことが分かる。このことは具
体的に計算して確認しておいて頂戴。ということで,先に進もうか。
・
・
・
ξ̇(t) = (iω0 − γ/2)ξ(t), ξ̈(t) = (iω0 − γ/2)2 ξ(t), ξ (t) = (iω0 − γ/2)3 ξ(t) で,(4.52) の左
辺は ω0 À γ と仮定して γ について 1 次の量だけをとると
ξ̈(t) + ω02 ξ(t) = (iω0 − γ/2)2 ξ(t) + ω02 ξ(t) ' −iγω0 ξ(t)
(4.55)
µ
¶
3 2 1
ω3
1 ・・・
3
ξ (t) ' −i ω0 + γω0
ξ(t) ' −i 0 ξ(t)
ωD
2
ωD
ωD
(4.56)
一方,右辺は
とすると,これから
γ=
ω02
ωD
(4.57)
が得られる。このとき,ω0 Àγ の条件は
ω0 À
11
ω02
−→ ω0 ¿ωD ∼ 1023 sec−1
ωD
(4.16):mc2 = e2 /4πε0 re
11
(4.58)
となり,1023 sec−1 の角振動数はガンマ線の角振動数であるから,ω0 À γ の条件は十分満
たされている。
• キャサリン:ちょっと待って,左辺は γ の 1 次の項を残したけど,右辺は γ の 1 次の項を
落としているわね。どういうことかしら?
• K氏:う∼ん,よく見てるね。実は,ωo À γ の仮定から ω03 Àγω02 となるだろう。だから
negligible small ということで落としても問題ないんだね。
• キャサリン:なるほど,そういうことね。
• K氏:さて,減衰振動している電荷から放射される電磁波を調べてみよう。電荷が単振動
しているときには,放射される電磁波は点電荷の角振動数 ω0 に等しい単色波になるが,
(4.53) のような減衰振動している点電荷から放射される電磁波はいろいろな角振動数を含
む電磁波となる。点電荷の単位時間に放射するエネルギーは Lamor の公式より
e2
dW (t)
ξ̈(t)2
=
dt
6πε0 c3
で,これの時間平均をとると12
dW (t)
e2 1
e2
2
=
|
ξ̈(t)
|
=
| ξ̈(t) |2
dt
6πε0 c3 2
12πε0 c3
したがって,全時間にわたって点電荷が放射する平均エネルギー W は
Z ∞
Z ∞
e2
dW (t)
=
dt | ξ̈(t) |2
W =
dt
dt
12πε0 c3 −∞
−∞
で与えられる。次に,平均エネルギー W の振動数分布を求めるために,
Z ∞
ξ(t) =
dωa(ω)eiωt
(4.59)
(4.60)
(4.61)
−∞
と Fourier 変換してやる。この逆変換は
a(ω) =
1
2π
(4.61) より
Z
Z
∞
dtξ(t)e−iωt
(4.62)
dωω 2 a(ω)eiωt
(4.63)
−∞
∞
ξ̈(t) = −
−∞
となるので,平均エネルギーと角振動数の関係は
Z ∞
Z ∞
Z ∞
e2
0
02 2 ∗ 0
0
dtei(ω−ω )t
dωω
ω
a
(ω
)
·
a(ω)
W=
dω
12πε0 c3 −∞
−∞
−∞
Z ∞
Z ∞
e2
= 2π
dωω 02 ω 2 a∗ (ω 0 ) · a(ω)δ(ω − ω 0 )
dω 0
12πε0 c3 −∞
−∞
Z ∞
Z ∞
e2
e2
4 ∗
=
dωω a (ω) · a(ω) =
dωω 4 | a(ω) |2
6ε0 c3 −∞
6ε0 c3 −∞
となる。それぞれの角振動数に対する放射電磁波の強度を I(ω) とすると
Z ∞
dωI(ω)
W =
−∞
12
‰ の複素表現をとる。詳しいことは次のセクションで。
12
(4.64)
と表わせるので,強度 I(ω) は
e2 ω 4
| a(ω) |2
6ε0 c3
I(ω) =
(4.65)
で与えられる。点電荷は t <
= 0 では原点に静止していて,t > 0 のときから減衰振動を始め
るとする。そうすると (4.62) より
Z ∞
Z ∞
ξ
ξ
a(ω) = 0
dte(iω0 −γ/2)t e−iωt = 0
dtei(ω0 −ω)t−(γ/2)t
2π 0
2π 0
ξ
−1
= 0
2π i(ω0 − ω) − (γ/2)
| ξ |2
1
... | a(ω) |2 = 0 2
2
(2π) (ω0 − ω) + (γ/2)2
(4.66)
となって,求める放射強度の角振動数分布は
I(ω) =
e2 ω 4 | ξ 0 |2
1
2
3
2
6(2π) ε0 c (ω0 − ω) + (γ/2)2
(4.67)
と得られる13 。 I(ω) は ω = ω0 付近だけで大きな値を持つから (4.67) の右辺分母の (ω0 −ω)2
以外の ω は ω0 に置き換えてよい。このとき (4.67) は
I(ω) =
e2 ω04 | ξ 0 |2
1
2
3
2
6(2π) ε0 c (ω0 − ω) + (γ/2)2
(4.68)
と表わされる。
I(ω)
自然線幅
γ:半値幅
I(ω)
2
ω0
ω
放射される電磁波の強度は ω = ω0 のとき最大で,その周りでは急激に減少するね。ω0 −ω =
γ/2 のところで最大値の半分の値になるので γ を半値幅という。また,点電荷が放射する
電磁波の角振動数は ω0 のまわりに広がり,この広がりを自然線幅と呼んでいる。
4.9.2
電磁波の散乱
(1) 点電荷による電磁波の散乱
• K氏:外部から電磁波が入射し,点粒子を同じ振動数で揺すって同じ振動数の 2 次的な電
磁波がでる現象を電磁波の散乱という。外力 F の作用の元にある点電荷に,電磁波が入射
したときの電荷の運動方程式は
mξ̈(t) = F (ξ, t) + eE in (ξ, t)
13
いわゆる Lorentz 型の分布。
13
(4.69)
で与えられる。ただし,入射電磁波と速度の遅い荷電粒子との相互作用では Lorentz 力の
磁場の項は v/c のオーダーなので無視した。散乱問題では入射波を複素数で表現しておく
と便利14 なので,少しそれについて触れておこう。入射波を Ee−iωt と書くと
Ee−iωt = (E R + iE I )(cos ωt − i sin ωt)
= (E R cos ωt + E I sin ωt) + i(E I cos ωt − E R sin ωt)
(4.70)
E R と E I はそれぞれ E の実部と虚部である。この実部の 2 乗は
(E R cos ωt + E I sin ωt)2 = E 2R cos2 ωt + E 2I sin2 ωt + 2(E R · E I ) sin ωt cos ωt
(4.71)
で,右辺第 3 項は実部と虚部の干渉を示す。これを 1 周期にわたっての時間平均をとると
)
Z 2π/ω (
1
ω
cos2 ωt
dt
=
2
2π 0
2
sin ωt
Z 2π/ω
ω
dt sin ωt cos ωt = 0
2π 0
なので,(4.71) の干渉項は消える。したがって,時間平均をバーで表すと,
1
1 2
+ EI2 ) = (Ee−iωt ) · (Ee−iωt )∗
(E R cos ωt + E I sin ωt)2 = (ER
2
2
(4.72)
となる。右辺にはバーをつけなくてもよいことに注意されたい。つまり,電磁場に対して
複素表示 (4.70) をとり,そのまま計算を進めると,結果として,実数表示の計算の時間的
な平均の 2 倍が得られる。このことを利用すれば,散乱の計算のように,主に,電磁場の
量の 2 乗の時間的平均を知りたいときには,複素表現を用いる方が手間がかからない。
例えば,入射波が (4.70) の実部で与えられているとすると,その Poynting ベクトルは
1
1
(E × B) =
n0 E · E
(... B = (1/c)n0 × E)
µ0
µ0 c
1
=
n0 (E R cos ωt + E I sin ωt) · (E R cos ωt + E I sin ωt)
µ0 c
©
ª
1
= cn0 E 2R cos2 ωt + E 2I sin2 ωt + 2(E R · E I ) sin ωt cos ωt
µ0
S in =
(4.73)
ただし,n0 は入射波の入射方向の単位ベクトルである。したがってその時間平均は
S in =
=
1
1
1 2
1
n0 (ER
+ EI2 ) =
n0 (Ee−iωt ) · (Ee−iωt )∗
µ0 c 2
µ0 c 2
1
1
1
1
n0 EE ∗ =
n0 | E |2
µ0 c 2
µ0 c 2
(4.74)
となる。
• キャサリン:なるほど,電磁場の量の 2 乗の時間的平均をとる場合,複素表示というのは
便利ね。ところで,点電荷による電磁波の散乱現象というのは,入射電磁波により点電荷
に Lorentz 力が働き,その相互作用で生じる加速度で電磁波を放出するというイメージで
捉えればいいのね。
14
意味があるのは実部のみに注意。
14
(2) 微分断面積
• K氏:そうだね。さて,荷電粒子が入射波によって揺すられて発射する電磁波の単位時間
に放射するエネルギー15 は,
Z
e2
R(t) =
dΩ [n × (n × β̇)]2
(4.75)
16π 2 ε0 c
単位立体角あたりでは
dR
e2
=
[n × (n × β̇)]2
dΩ
16π 2 ε0 c
(4.76)
dR
e2
1
=
[n × (n × β̇)]2
dΩ
16π 2 ε0 c 2
(4.77)
したがって,時間平均は
入射波のエネルギー流れの密度は S in で,ある方向への単位立体角あたりのエネルギーの
流れ dR/dΩ の比を取り,その時間平均をとったものを dσ/dΩ とすると
Á
dR
dσ
=
| S in |
(4.78)
dΩ dΩ
=
e2
| n × (n × ξ̈(t)) |2
16π 2 ε20 c4 | E |2
(4.79)
これは16 ,ある方向への単位立体角あたりの散乱波の相対的な強度を示す指標となる。dσ/dΩ
は面積の次元を持つので,散乱の微分断面積と呼んでいる。
dR
dΩ
dΩ
入射電磁波
Sin
θ
(n)
(3)Thomson 散乱
• K氏:自由電子による電磁波の散乱を考えよう。単色平面波の電磁波が質量 m の自由電子
に入射すると電子は加速されて電磁波を放射する。簡単のため入射電磁波は z 軸に沿って
入射する平面波とし,電場の振動方向は x 方向とする。また,放射の反作用は考えない。
電場が x 軸方向に偏極した入射電磁波
x
y
x
φ
散乱波の観測点
θR
ψ
z
y
自由電子
R sin ψ
β̇
θn
z
cos θ = sin ψ cos φ
ψ:散乱角
θ:散乱の方向nと入射波の電場E
の方向とのなす角
15
16
4-(3) の (4.54) 参照。
2 乗の時間平均に掛かる 1/2 の因子は分子分母で消しあう。
15
電子の位置での電場を E = E 0 e−iωt (E 0 = (E0 , 0, 0)) とすると,質量 m,電荷 e の電子
の運動方程式は
mξ̈ x (t) = eE x = eE0 e−iωt
(4.80)
となるので,電子は x 軸方向に
ξ̈ x (t) =
e
e
E x = E0 e−iωt
m
m
(4.81)
の加速度を受ける17 。
eE0 −iωt
e
(4.82)
mω 2
で,電子は入射電磁波と同じ振動数で振動する。加速する電子から放射される単位時間当
たり,単位立体角あたりの平均エネルギーは (4.76) より
ξ x (t) = −
dR
e2
e2
2
2 =
=
|
n
×
(n
×
β̇)
|
| β̇ − (n · β̇)2 |
2
2
dΩ 16π ε0 c
16π ε0 c
µ0 e2 ³ e ´2 1
=
| E0 |2 sin2 θ
16π 2 c m 2
µ0 e2 ³ e ´2 1
=
| E0 |2 (1 − sin2 ψ cos2 φ)
16π 2 c m 2
(4.83)
となる。ただし,cos θ = sin ψ cos φ となる関係を使った。
• コニー:散乱された電磁波は入射波と同じ振動数,つまり単色波ということね。
• K氏:そうだね。ところで,(4.83) で放射の角度分布が cos φ に依存しているのは,入射波
が直線偏光だからで,入射波の偏りが全くない自然光ときには,E 0 のあらゆる方向につ
いての平均をとればよい。それは φ のあらゆる方向についての平均をとることと結果的に
同じだ。cos2 φ の平均は
Z 2π
1
1
dφ cos2 φ =
2π 0
2
なので,入射波が自然光の場合,(4.83) は
dR
µ0 e2 ³ e ´2
=
dΩ 16π 2 c m
µ0 e2 ³ e ´2
=
16π 2 c m
1
| E0 |2 (1 − sin2 ψ cos2 φ)
2
1 + cos2 ψ
1
| E0 |2
2
2
となる。したがって,微分断面積は
,
dR
dσ
| S in |
=
dΩ dΩ
µ
¶2
e2
re2 (1 + cos2 ψ)
1 + cos2 ψ
=
=
4πε0 mc2
2
2
(4.84)
(4.85)
で与えられる。re は電子の古典半径18 。(4.85) を Thomson 散乱の微分断面積の公式とい
う。 全断面積 σT は (4.85) を全立体角にわたって積分して19
Z
Z
dσ
8π 2
re2 π
(4.86)
σT = dΩ
dψ(1 + cos2 ψ)2π sin ψ =
=
r
dΩ
2 0
3 e
17
18
19
自由電子が入射波の作用で得る速度は光速度に比べて十分小さく,磁場による力は無視できる。双極子能率は
px = e‰x
re = e2 /4πε0 mc2 = 2.82 × 10−13 [cm]
dΩ = 2π sin ψdψ, 0 <
=ψ<
=π
16
が得られる。これを Thomson 散乱の全断面積という20 。自由電子による散乱の断面積は
入射波の振動数には無関係の常数となる。σT ∼ πre 2 と近似すると,これは古典的電子の
幾何学的断面積だ。したがって,全断面積は単位面積を通って入射した電磁波が電子の的
に衝突する割合を表わしている。
• コニー:入射波が直線偏光と自然光の場合を調べたわけだけど,入射波が楕円偏光の場合
はどうなるのかしら。
• K氏:うん,楕円偏光の場合,入射波の電場は
E = E A cos ωt + E B sin ωt
(4.87)
で表わされる。E A とE B は互いに直交しているベクトルだね。電子の運動方程式は
mξ̈(t) = eE
でこれから
e
(E A cos ωt + E B sin ωt)
m
(4.76) の右辺は電場の周期 2π/ω で時間平均したものだから
ξ̈(t) = cβ̇(t) =
dR
e2
=
| n × (n × β̇) |2
dΩ 16π 2 ε0 c
e2
| n × (n × E A ) cos ωt + n × (n × E B ) sin ωt |2
=
16π 2 ε0 c3 m2
¢
e2
1¡
=
| n × (n × E A ) |2 + | n × (n × E B ) |2
2
3
2
16π ε0 c m 2
ª
1©
e2
=
| n × E A |2 + | n × E B |2
2
3
2
16π ε0 c m 2
(4.88)
(4.89)
となる。ここで
(... ϕ = π/2)
| n × (n × E A ) |=| n || n × E A | sin ϕ =| n × E A |
を使った。
n × EA
楕円偏光
EB
ER
EA
n
一方,入射波の時間平均あたりのエネルギーは
S in =
20
¢
1 1
1 1¡
| E A |2 + | E B |2
| E |2 =
µ0 c 2
µ0 c 2
σT = 0.665 × 10−24 cm2
17
(4.90)
となるので
,
dσ
dR
=
| S in |
dΩ dΩ
µ
¶2
e2
| n × E A |2 + | n × E B |2
=
4πε0 mc2
| E A |2 + | E B |2
(4.91)
という公式が得られる。
Thomson 散乱の公式は入射電磁波の波長が長い場合に適用できるけど,X 線や γ 線な
どの短波長では散乱波は入射波と異なった振動数をもつ Compton 散乱が起きてしまうの
で,この場合は Thomson の散乱公式は使えず,Compton 散乱に対する Klein-Nishina の
公式を使う必要がある。Klein-Nishina の公式も長波長の極限を取ると Thomson の公式に
一致するんだ。
• エミリー:有名な Klein-Nishina の公式ね。仁科博士は Dirac 方程式を使ってこの公式を
導出するまで,2 人の計算結果がなかなか合わずに大変苦労したというお話を何かで読ん
だことがあるわ。
• ユナ:ところで,今の議論で放射の反作用を考慮すればどうなるのかしら。
• K氏:そうだね,その場合の方程式は (4.51) より
µ 2
¶
d
1 d3
e
−
ξ x (t) = E0 e−iωt ,
2
3
dt
ωD dt
m
1
e2
≡
ωD
6πmε0 c3
(4.92)
と書ける。この解を ξ x (t) = ξ 0 (t)e−iωt とおいてやると ξ̇ x (t) = −iωξ 0 e−iωt , ξ̈ x (t) =
・
・
・
−ω 2 ξ 0 e−iωt , ξ x (t) = iω 3 ξ 0 e−iωt なので,これを上の方程式に入れて整理すると

1
eE0 −iωt


, τ0 = 1/ωD
 ξ̈ x (t) = m e
1 + iτ0 ω

1
 ξ (t) = − eE0 e−iωt

x
2
mω
1 + iτ0 ω
(4.93)
が得られる21 。あとは上でやったと同様に計算すれば微分断面積は
dσ
1 re2 (1 + cos2 ψ)
=
dΩ
2 1 + τ02 ω 2
(4.94)
と得られる。電子が放出する電磁波が可視光であれば,ω ∼ 1014∼15 Hz 程度22 で,ωτ0 ' 10−9
となり,反作用の効果は無視できるというわけだ。
(4)Rayleigh 散乱
• K氏:次に電子が原子核の中心に引っ張られる力で束縛されている場合を考えよう。具体
的には速度に比例した減衰力 γ ξ̇(t),これは放射の反作用による減衰力とは別物だけど,そ
れを受けながら角振動数 ω0 で振動しているケースを取り上げよう23 。入射波が電子に当
たったときの運動方程式は,電場の複素表現を使って
µ 2
¶
d
d
e
2
+
γ
+
ω
Ee−iωt
(4.95)
0 ξ(t) =
dt2
dt
m
21
22
23
上の式で意味のあるのは実部であることに注意。
λ = 0.38 ∼ 0.78µ m, ω = (2π/λ)c
反作用力が十分小さい場合,これに相当することを以前やった。
18
と表わせる。γ は比例常数。この式の解を ξ(t) = ξ 0 e−iωt とおいて (4.95) に入れて整理す
れば
ξ̇(t) = −iωξ 0 e−iωt ,
ξ̈(t) = −ω 2 ξ 0 e−iωt
e
E
e
(ω02 − ω 2 − iωγ)ξ 0 = E , ξ 0 =
2
m
m ω0 − ω 2 − iωγ
e
E
e−iωt
... ξ(t) =
2
m ω0 − ω 2 − iωγ
(4.96)
が得られる。Ee−iωt の実部は
Re(Ee−iωt ) = E R cos ωt + E I sin ωt
であることに留意。微分断面積は
µ
¶
e2
ω4
dσ
| n × E R |2 + | n × E I |2
=
dΩ
4πε0 mc2 (ω02 − ω 2 )2 + γ 2 ω 2
| E R |2 + | E I |2
(4.97)
となる。これは Rayleigh 散乱の微分断面積の公式と呼ばれる。入射波の角振動数が ω0 に
等しいとき,断面積は最大になる(共鳴散乱)。この式で ω0 = 0 とおくと,自由電子によ
る微分断面積が得られ,さらに γ = 0 とおけば Thomson 散乱の微分断面積になるね。
Rayleigh 散乱の特長を見るために γ = 0 の場合を考えると
dσ
ω4
∼ 2
dΩ
(ω0 − ω 2 )2
で,ω0 À ω のときには
ω4
λ4
dσ
∼ 4 = 04
dΩ
λ
ω0
(4.98)
となり,散乱断面積は入射波の波長の 4 乗に逆比例することがわかる。
• キャサリン:太陽光が大気で散乱されて、空が青くみえるのはレイリー散乱によるといわ
れるけど,短波長の光ほど散乱断面積は大きくなる,つまり青い光が観測者の方に散乱さ
れることによりということね。
・
・
・
• ユナ:ところで輻射の反作用による減衰項( ξ (t))を考慮した場合はどうなるのかしら。
方程式は (4.51) より
µ 2
¶
d
1 d3
e
2
−
+
ω
Ee−iωt
(4.99)
0 ξ(t) =
dt2 ωD dt3
m
となるわね。この式の解を ξ(t) = ξ 0 e−iωt とおいて (4.99) に入れて整理すれば
・
・
・
ξ̇(t) = −iωξ 0 e−iωt ,
ξ̈(t) = −ω 2 ξ 0 e−iωt , ξ (t) = iω 3 ξ 0 e−iωt
e
E
e
(ω02 − ω 2 − iω 3 /ωD )ξ 0 = E , ξ 0 =
2
2
m
m ω0 − ω − i(ω 3 /ωD )
e
E
e−iωt
... ξ(t) =
2
2
m ω0 − ω − iτ0 ω 3
(4.100)
が得られる。ここまでくると上と同様の計算により,Rayleigh 散乱の微分断面積は
¶2
µ
| n × E R |2 + | n × E I |2
dσ
e2
ω4
=
(4.101)
dΩ
4πε0 mc2
| E R |2 + | E I |2
(ω02 − ω 2 )2 + τ02 ω 6
= re2
ω 4 sin2 ψ
(ω02 − ω 2 )2 + τ02 ω 6
(4.102)
19
となるわ。したがって,全断面積は
Z π
Z
dσ
ω4
2
dψsin3 ψ
σT = dΩ
= 2πre 2
dΩ
(ω0 − ω 2 )2 + τ02 ω 6 0
=
8π 2
ω4
re 2
3 (ω0 − ω 2 )2 + τ02 ω 6
(4.103)
• K氏:そうだね。ω0 → 0 および τ0 ω ¿ 1 とすると (4.103) より自由電子による Thomson
.
散乱の全断面積を得る。また,ω = ω0 では全断面積は非常に大きくなり,共鳴散乱の場合
となる。このときは,ω ∼ ω0 とおけるので ω + ω0 ' 2ω0 となることを考慮すると
σT =
ω4
ω4
8π 2
8π 2
re
r
'
e
3 {(ω0 + ω)(ω0 − ω)}2 + τ02 ω 6
3 4ω 2 (ω0 − ω)2 + τ02 ω 6
=
ω2
2π 2
re
3 (ω0 − ω)2 + τ02 ω 4 /4
=
2π 2
ω2
re
(ただし γ = τ0 ω 2 )
3 (ω0 − ω)2 + γ 2 /4
(4.104)
となる。これは Rayleigh 散乱の分散式と呼ばれるものだ。
σT
Rayleigh 散乱の全断面積(分散関係)
ω
ω0
放射の反作用の効果は,ω が ω0 のごく近傍を除いて τ0 ω ¿ 1 であれば無視できる。τ0 ∼
10−24 秒のオーダーなので,入射電磁波の周期 T (= 2π/ω) が十分長ければ無視できるとい
うことだね。先ほども言ったけど,電子が放出する電磁波が可視光であれば,ω ∼ 1014∼15 Hz
程度24 で,ωτ0 ' 10−9 となり反作用の効果は無視できる。一方,電子が X 線やガンマ線
を放射するような場合には,放射の反作用の効果は重要になってくる。しかし,そのよう
なケースは古典論で記述することが困難で,量子論での記述が必要になってくるんだ。
4.9.3
物質の中の電磁場
(1) 電気感受率
• K氏:物質に比較的弱い電磁場がかかっており,物質中の荷電粒子の運動方程式は (4.95) で
記述できるとしよう。荷電粒子の振る舞いを,自由な荷電粒子,電気双極子能率密度 P (x),
磁気双極子能率密度 M (x) で代表させようとするわけだが,物質中の電荷の変位による
分極電荷密度を ρ分極 ,それに伴う分極電流密度を J 分極 ,また磁化された物質中の電流を
24
λ = 0.38 ∼ 0.78µ m, ω = (2π/λ)c
20
J 磁化 とすると,全電荷密度と全電流密度は
(
ρ(x) = ρF + ρ分極
J (x) = J F + J 分極 + J 磁化
(4.105)
と表わされる。ρF ,J F は分極や磁化による以外のもの,つまり自由電荷によるものだ。物
質中に一様でない分極がある場合には,ρ分極 = −∇ · P (x) の電荷密度が現れ,分極電流密
度は J 分極 = Ṗ (x),また磁化に伴う磁化電流密度は J 磁化 = ∇×M (x) と表わされる25 こ
とに注意すると (4.105) は
ρ(x) = ρF (x) − ∇ · P (x)
(4.106)
J (x) = J F (x) + Ṗ (x) + ∇ × M (x)
(4.107)
と書ける。ρ(x), J (x) は
µ
¶ µ
¶
∂ρ
∂ ρF
∂∇ · P
+∇·J =
+ ∇ · JF −
− ∇ · Ṗ (x) − ∇ · (∇ × M ) = 0
∂t
∂t
∂t
で連続の方程式を満たす。(4.106),(4.108) を Maxwell の方程式に代入して整理すると
µ
¶
1
1
∇ · E(x) + P (x) = ρF (x)
(4.108)
ε0
ε0
∂
∇ × E(x) + B(x) = 0
(4.109)
∂t
½
µ
¶¾
∂
1
∇ × (B(x) − µ0 M (x)) = µ0 J F (x) + ε0
E(x) + P (x)
(4.110)
∂t
ε0
∇ · B(x) = 0
(4.111)
と表わされる。ここで
ε0 E(x) + P (x) ≡ D(x)
(4.112)
B(x) − µ0 M (x) ≡ µ0 H(x)
(4.113)
を定義し,物質中の電磁場を取り扱う出発点となる Maxwell 方程式を次のように書くこと
にする。
∇ · D(x) = ρF (x)
∂
∇ × E(x) + B(x) = 0
∂t
∂
∇ × H(x) = J F (x) + D(x)
∂t
∇ · B(x) = 0
(4.114)
(4.115)
(4.116)
(4.117)
もし,電磁場が弱くてしかも物質が均一なときには,(4.112), (4.113) の量はそれぞれ E(x)
と B(x) に比例し,
D(x) = εE(x)
(4.118)
B(x) = µH(x)
(4.119)
と書くことができる26 。ε, µ は物質に固有の定数で,それぞれ物質のもつ誘電率,透磁率と
いう。ところで,物質中の電磁場を求めるには,(4.114)∼(4.117) の Maxewll 方程式だけ
25
26
詳しいことはファインマン物理学 III ,IV 等を参照されたい。
P が E に比例する場合 (線形応答),P = χε0 E と書き,定数 χ を誘電体の分極率と呼んでいる。
21
では求めることができないので,D とE ,B とH の関係を与える (4.118),(4.119) の関係
式と連立させて解くことになるわけだね。
線形関係式 (4.118),(4.119) は,物質が均一でなかったり,入射電磁波の角振動数に依
存したりして,一般的にはもっと複雑で,場合によっては非線形関係になることもあるけ
ど,物質中の電荷が方程式 (4.95) を満たしているとすれば,線形関係は近似的に成立する
ことを見ておこう。方程式の解は (4.96) で与えられたので,物質中の i 番目の荷電粒子の
電気双極子能率は
e2
Ee−iωt
pi (t) ≡ eξ i (t) =
(4.120)
m ωi2 − ω 2 − iωγi
巨視的には無限小だが,微視的には大きい体積 v の中にこのような電気双極子能率を持つ
粒子が ni 個あるとすると,点 x にある微視的な体積 v の全分極密度は
P (x) =
X ni
i
v
pi (t)
(4.121)
となり,右辺は電場に比例するので,結局 (4.118) の線形関係が成立することがわかる。
上式の右辺は各振動数 ω の電場に比例しているので
P (ω) = ε0 χ(ω)E(ω)
(4.122)
と書き,χ(ω) を電気感受率(electric susceptibility) といい27 ,分極の強さを表わす。電気
感受率は
e2 1 X
ni
e2 1 X ni (ωi2 − ω 2 + iωγi )
=
mε0 v
mε0 v
ωi2 − ω 2 − iωγi
(ωi2 − ω 2 )2 + ω 2 γi2
i
i
µ
¶
ni (ωi2 − ω 2 )
ni ωγi
e2 1 X
+i 2
=
mε0 v
(ωi2 − ω 2 )2 + ω 2 γi2
(ωi − ω 2 )2 + ω 2 γi2
i
χ(ω) =
(4.123)
(4.124)
という複素数で表わされるが,両辺の実部を取り出して解釈する。通常は,実部と虚部と
を分けて

χ(ω) = χ0 (ω) + iχ00 (ω)







 0
ni (ωi2 − ω 2 )
e2 1 X
χ (ω) =
(4.125)
mε0 v
(ωi2 − ω 2 )2 + ω 2 γi2

i



e2 1 X
ni ωγi

00


 χ (ω) = mε v
2 − ω 2 )2 + ω 2 γ 2
(ω
0
i
i
i
と書かれる。ωi が特別の ωi ,たとえば ω0 に近いときに,これらは大きな値をとる。減衰
項は ωi に比べて小さいので
χ0 (ω) =
≈
χ00 (ω) ≈
27
e2 1
e2 1
n0 (ω02 − ω 2 )
n0 (ω0 − ω)(ω0 + ω)
=
2
2
mε0 v (ω0 − ω 2 )2 + ω 2 γ0
mε0 v {(ω0 − ω)(ω0 + ω)}2 + ω 2 γ02
e2 1
mε0 v
½
4ω02
e2 1
4mε0 v
2ω0 (ω0 − ω)
n0 (1 − ω/ω0 )
e2 1
¶2
µ
³ γ ´2 ¾ = 2mε v
0
0
1
2
(ω0 − ω)2 +
(ω0 − ω) +
γ0
2
2
n0 γ0 /ω0
¶2
µ
1
2
(ω0 − ω) +
γ0
2
複素電気感受率とか分極率ともいわれる。いずれにしても誘電分極の起こりやすさを示す物性値
22
(4.126)
と近似される。実部 χ0 の方は,電磁波の物質中での屈折率に関係しており,虚部」χ00 の
方は,物質によって電磁波がどれだけ吸収されるかを示す28 。ひとつの i について図示す
ると下図のようになるね。
• コニー:物質の屈折率や吸収係数は複素電気感受率から求められるということね。
• K氏:そうなんだ。ここではこれ以上踏み込まないので,興味があれば適当な参考書を紐
解いてみてください。
(2) 金属の導電性
• K氏:金属の内部ではいわゆる Ohm の法則が成り立っていることはご存知の通りだ。Ohm
の法則は,物質中で自由に流れうる電荷による電流が電場 E(x) に比例するというもので
J F = σE(x)
(4.127)
と表わされる。σ は電気伝導率という物質に固有な量で,電気感受率と同様に電場の角振
動数に関係したり,場が強くなると (4.127) の線形性からずれてくることもあるけど,以
下では,場が弱く,線形関係が成り立つ範囲での議論を進める。
金属の内部での Maxwell 方程式は
ε∇ · E(x) = ρF (x)
∂
∇×E(x) + B(x) = 0
∂t
∇×B(x) = µσE(x) + εµ
(4.128)
(4.129)
∂
E(x)
∂t
∇ · B(x) = 0
(4.130)
(4.131)
電流・電荷の保存則は
∂
∂
ρF (x) + ∇ · J F (x) = ρF (x) + σ∇ · E(x) = 0
∂t
∂t
(4.132)
で,これと (4.128) より,金属内の電荷密度に対して
∂
σ
ρF (x) + ρF (x) = 0
∂t
ε
³ σ ´
.
. . ρF (x) = ρF (x) exp − t
ε
28
n = (1 + χ0 /2ε0 ), α(吸収係数) ≈ ω
p
µ0 /ε0 χ00
23
(4.133)
が得られる。ここで x は x = (x, t) と位置と時間の関数であることに注意してください。
電場が印加されたとき,金属内の自由電子による電荷は時間とともに指数関数的に減少す
る。たとえば銅では常温で σ/ε = 6.5 × 1018 sec−1 で,異常に短い時間の間に,電荷は金
属内の各点で初期値の e−1 に減る,つまり,ほとんど瞬間的に電荷は消えてしまう。他の
金属でもだいたい同じオーダーなので,金属中の電磁場を取り扱うときには,(4.128) の右
辺をはじめからゼロとおいてかまわない。そうすると,∇×(∇×E) = ∇(∇ · E) − ∇2 E =
−∇2 E, ∇×(∇×B) = ∇(∇ · B) − ∇2 B となることを使って Maxwell 方程式を整理すると
(
−∇2 E(x) + µσ Ė(x) + εµË(x) = 0
(4.134)
−∇2 B(x) + µσ Ḃ(x) + εµB̈(x) = 0
が得られる。これが金属の中の電磁場を記述する Maxwell 方程式となる。ちなみに,自由
空間での Maxwell の方程式は
(
∇2 E(x) − ²0 µ0 Ë(x) = µ0 J̇ (x)
(4.135)
∇2 B(x) − ²0 µ0 B̈(x) = −µ0 ∇ × J (x)
(4.134) は電信方程式と呼ばれる。特に σ = 0 の場合は
( 2
∇ E(x) − εµË(x) = 0
∇2 B(x) − εµB̈(x) = 0
(4.136)
で,同次の d’Alembert 方程式となる。詳細は省略するが,これを解くと静的な電磁場と
平面波 (横波) を重ね合わせた解が得られる。したがって,導体や半導体以外の σ = 0 の物
質では,電場がかかっても電流は起きず,ρF は動かない。まわりに電場を生じるだけであ
るが,単なる Coulomb 場ではないことに注意しよう。
• アリス:先ほどの Ohm の法則だけど,物質中の電子が速度に比例した抵抗力 k ξ̇ を受ける
として導出されるわ。単位体積に n 個の質量 m,電荷 e の荷電粒子があり,速度 ξ̇ で流れ
ているとすると,運動方程式は
nmξ̈ = neE − nk ξ̇
これから
µ
¶
k
e
ξ̇ = ξ̇ 0 exp − t + E
m
k
が得られて,t → ∞ とすると,終端速度は ξ̇ ∞ = (e/k)E となる。電流密度は J = neξ̇ ∞
なので
ne2
ne2
J = neξ̇ ∞ =
E = σE, σ =
(4.137)
k
k
となるわね。荷電粒子が抵抗を受けない場合は
ξ̈ = (e/m)E −→
∂
J = neξ̈ = (ne2 /m)E
∂t
(4.138)
となるわ。
• K氏:そうだね。ところで アリス が導いた (4.138) と Maxwell の方程式を組み合わせると
∂
ne2
∂
ne2
ne2
J=
E −→
∇×J =
∇×E =−
Ḃ ∂t µ
m
∂t
m
m
¶
ne2
∂
∇×J +
B =0
...
∂t
m
24
(4.139)
が得られる。
r
1
B = 0,
∇×J +
µ0 λ2L
λL =
m
µ0 ne2
(4.140)
を London の方程式という。この式は超伝導の特徴の1つであるマイスナー効果29 を理論
的に説明する方程式として知られているね。Maxwell の方程式
µ
¶
1 ∂2
2
∇ − 2 2 B = ¤2 B = µ0 ∇ × J
c ∂t
に London の方程式 (4.140) を入れると
¤2 B = −
1
B
λ2L
(4.141)
が得られる。z = 0 に超伝導体の表面があり,z 軸方向は表面から外部に向かっているとし
よう。外部磁場が表面に平行 (B//x) に一様に印加されたとき,超伝導体の内部では磁場
dBy
dBx
=
=0
は外場と同じ方向に作られる。磁場は x, y 方向には一様としているので
dx
dy
が成り立ち,Bx に対する方程式は,(4.141) より
d2
1
Bx = 2 Bx
dz 2
λL
(4.142)
となる。境界条件を Bx (z = 0) = B0 , Bx (z → −∞) → 0 としてこれを解いて
Bx (z) = B0 e−z/λL
(z > 0)
(4.143)
を得る。これから,磁場は超伝導体内部で指数関数的に減少することが分かるね。λL を
London の侵入距離30 といっている。λL は 10 ∼ 100 nm のオーダーで,λL の数倍深い場所
では磁場は完全にゼロになり,これを Meissner-Ochsenfeld 効果と呼んでいる。
z
y
外部磁場
超伝導体表面
x
0
超伝導体内部では外部磁場は
指数関数的に急激に減少する
アンペールの法則 ∇ × B = µ0 J より
1 dBx
1
∇×B =−
j
µ0
µ0 dz
B0 −z/λL
... Jy (z) = −
e
µ0 λL
J=
(j:y 軸方向の単位ベクトル)
(4.144)
を得る。これから,磁場が x 方向を向いているとき,電流は y 方向に侵入距離の幅の表面
付近のみしか流れないことが分かる。
29
30
超伝導体内部への外部磁場の侵入を完全に排除して内部磁場をゼロにする。
数 10 nmのオーダー
25
• エミリー:London の方程式を上のケースに当てはめて書くと
∇×J +
∂ Jy
1
1
+
B −→ −
Bx = 0
∂z
µ0 λ2L
µ0 λ2L
(4.145)
となるので,超伝導体の内部磁場がゼロになるということは,流れる電流が作る磁場で打
ち消されるというイメージね。
• K氏:そうだね。ここではこれ以上深入りしないけど,興味があれば超伝導の適当な参考
書で勉強してください。とりあえず第 4 章はこれにて終了することにします。お疲れ様で
した。
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G OOD L U C K !
S E E Y OU A G A I N !
by K E N Z OU
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