第5章
コーポレート・ファイナンス
――金融システムの機能後退と企業の対応――
はじめに
本章の目的は,金融危機後の数年における金融システムの構造変化を,企
業の資金調達の側面を軸に観察することによって,短期的な金融システムの
再構築の現状と,工業化過程における金融システムの役割にかかわる中長期
的な見通しの,二つの点について評価を与えることである。
タイ経済の見通しについては,金融危機以後のここ4年のあいだ,悲観論
と楽観論が波のように交代して現れては消えている。危機直後には深刻な金
融部門への問題認識とは裏腹に,長期的な輸出競争力に対する自信は維持さ
れていたように感じられた。1
9
9
8年に実質成長率が−1
0.
4%というかつてな
い水準に陥ると,実物部門での調整の厳しさが認識される。ところが,1
9
9
9
年になると深刻化する不良債権問題を後目に,実物経済は急回復を示し,直
接投資の流入も再開して,タイ経済の見通しについて楽観論が聞かれるよう
になる。2
0
0
0年半ば以降認識はさらに反転して,不良債権問題の解決が見か
け上は進む一方で,経済の減速がふたたび明らかとなっている。2
0
0
1年に入
ると国内部門のみならず経常収支の赤字化が懸念される事態となり,悲観的
な空気が再び強まっている。
しかし,悲観楽観はともかく,タイ経済にこの数年一貫してみられる特徴
は,金融部門と実物部門の際立った関係性の薄さである。理論的には,短期
2
1
6
の経済循環や長期の経済成長に金融部門がもつ影響ないし役割は重大なもの
があると考えられているにもかかわらず,タイのマクロ経済の観察からは,
金融部門の機能不全は,実物部門とくに製造業の回復や停滞には,初期のマ
クロショックによる総需要の後退という点を別にすれば,ほとんど影響を与
えていないように見受けられる。本章は,このような実物部門と金融部門の
相互関係がどのようなものであるのかについて,危機前後の両部門の資金需
給関係からひとつの見方を提供し,さらにそれにもとづいて,現在のタイ金
融システムについて,短期,中長期の二つの視点から評価を試みるものであ
る。
本章では,銀行・企業のミクロ財務データの観察というアプローチをとる。
ここでは観察のために,さまざまなデータソースから,商業銀行と製造業企
業の損益決算書および貸借対照表を入手し,整理を行った。データのカバ
レッジは,商業銀行については全銀行について1
9
9
6年から2
0
0
1年上半期まで
を,製造業企業については,総資産基準でみた主要企業に関して1
9
9
1年から
1
9
9
9年までを対象としている。原則として年次データである。
タイのコーポレート・ファイナンスに関する最近の研究には,国際比較の
立場から論じたものとしてClaessens, Djankov and Lang[1
9
9
8]が,企業
グループの所有・経営との関係から論じたものとしてYupana[1
9
9
9]
[2
0
0
0]
がある。しかし,これらは観察対象を上場企業に限っており,その点で限定
性をもつ。また,三重野[2
0
0
0a]
[2
0
0
0b]は1
9
9
0年代前半期について非上
場を含んだ企業の資本構成を分析しているが,危機以降の動きについてはカ
バーすることができなかった。本章は,観察の対象を主要な非上場企業まで
含んで,金融危機以降の動きを銀行部門の機能後退との関係で考察するもの
であるという点に最大の特徴をもつ(データについては本章補論参照)。
本章の構成は以下のとおりである。第1節では分析の視点について整理す
る。第2節では企業の資金調達の現状の評価に先だって予備的観察を行う。
最初に,マクロ経済の回復過程について観察し,さらに資金の供給主体であ
る銀行部門の活動および機能を評価する。第3節ではそれをふまえ製造業部
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
1
7
門における企業の資金調達構造を,企業の資本構成の変化を観察することに
よって考察する。そこでは,資本構成の一般的傾向と危機以後の変化につい
てみた後,企業グループの特定ケースについて検討し,また外資系企業につ
いても観察する。第4節では,観察された事実をふまえて,金融システムの
短期的な機能回復についての評価と,今後の工業化過程にかかわる中長期の
視点から金融システムの現状に対する評価を加える。
第1節 分析の視点
1.途上国における企業の資金調達手段
企業の資金調達手段に関する一般理論として,Modgiliani
and
Miller
[1
9
5
8]は調達手段の効率性および資金コストについての中立性を示し,長
い間標準的理解として受け入れられてきた。これに対しMyers and Majluf
[1
9
8
4]などのいわゆるPecking
Order 仮説は,資金調達手段には企業に
とって選好順序があることを主張している。すなわち,情報の非対称性の存
在にともなうエージェンシー・コストの各調達手段による差異によって,各
調達手段には資金コストの違いが生じ,企業はそれが低い順に,例えば自己
資金,銀行借入,社債,株式発行といった順に,調達手段を選好することを
指摘している。この見方によれば,金融仲介の効率性にはエージェンシー・
コストの圧縮により,改善される余地が残っている。
しかし,この仮説を金融システムの発展が不十分な途上国の現実に適用す
る場合にはより根本的な問題に直面する。すなわち,そうしたさまざまな調
達手段の存在や生成の問題である。そもそもさまざまな資金調達手段は,金
融システムの発展のなかで生じてくる性格のものであり,企業にとってはそ
れらの手段の選択は,外生的あるいは事前の自己決定による制約幅が課され
ている。自己資本だけは常に選択可能な手段であるが,銀行借入は金融シス
2
1
8
テムが情報生産機能を発揮し,取引を成立させる程度までエージェンシー・
コストが低くなった段階で初めて利用可能となるものである。また,社債や
株式発行といった証券市場を通じる調達手段は,整備された証券市場が存在
するもとで,企業が証券取引所へ参加することを決定したうえでしか機能し
ない。
さらに,現実の途上国における資金調達手段にはより曖昧で複雑なものが
存在している。第1に,所有者・経営者個人からの直接的な調達方法(「所
有者・経営者借入」)や,企業グループ内の子会社・関連会社からの借入(「関
連企業借入」
)といった自己資本に性格が近い借入手段が存在する。これらを
本章では「『内部金融市場』を利用した調達」と呼ぶこととしたい。第2に,
社債,株式発行という調達手段を実現するための企業の証券市場への参加
(証券取引所への有価証券の上場)は,それ自体が上場時に発生する資本剰余
金(上場プレミアム)の獲得による資金調達手段となりうる。一般に東アジ
アの途上国の構造として間接金融比率,あるいは負債比率が高いことが指摘
されている。しかし,タイについて本章で詳しく観察されるように,これら
の諸国のコーポレート・ファイナンスは銀行借入すら十分に機能していると
は言い難いのが実態である。間接金融,負債とされているもののかなりの部
分は銀行借入ではなく,実際には内部金融市場を利用した負債が占めている
のである。
2.工業化における金融の役割
寺西[1
9
9
1]は,実物経済の成長という観点から金融システムを評価し,
!
工業化過程における金融システムの問題点として,1産業・企業の成長性を
!
評価し,適切に資金を仲介する審査能力の蓄積の遅れ,2長い迂回期間をと
もなう製造業への長期資金の供給不足,の二つの問題が生じることを指摘し
ている。企業グループ内の「内部金融市場」を多用する東アジアの途上国の
金融システムの実態は,金融システムが上のような機能を十分に発揮してい
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
1
9
ないことへの対応として代替的に機能してきたものと捉えることができよう。
工業化過程に際して,金融システムには金融機関の審査(情報生産)能力
の蓄積により資金仲介機能が向上していくことが求められる。タイの金融シ
ステムの評価を行うには,単に不良債権が処理され金融システムが機能を回
復したかどうか,という点だけでなく,金融危機以後の再編過程で金融シス
テムが長期の工業化を支える方向に再編成されつつあるのかどうかといった,
中長期的な視点からの議論が重要であろう。
この問題については,二つの論点が補足的に考慮されなければならない。
第1は,外資主導工業化過程における資金調達の問題をどう捉えるかという
点である。工業化が直接投資による外資を中心に進む場合,地場の金融機関
の役割には限界があることが指摘されている(奥田[2000])。危機以降のタ
イにおいてこの点をどう捉えるべきか考慮する必要がある。第2に,証券市
場,とりわけ社債市場がどの程度,銀行借入に代替するかが考慮されなけれ
ばならない。証券市場の危機以後の動きについては,本書第2章で詳しく議
論されており,本章では,観察にもとづいてこれに補足的な見通しを加えた
い。
3.タイ金融システムの現状への視点
現在,タイの金融システムは金融危機後の大きな変動のなかにあり,金融
機関は再建の過程にある。商業銀行は不良債権の処理に取り組み,バランス
シートの再構築を試みるとともに,経営戦略の見直しに取り組んでいる(本
書第4章)
。その過程で,銀行のガバナンス構造も大きく変容し,戦後銀行
を中心に形成されてきた金融コングロマリットが解体して,主要銀行に対す
る外国資本の所有参加が進んでいる。上位行では旧株主・経営者が外資を過
半近くまで受け入れ,また下位行では外資による直接的な買収が行われた
(本章図1,本書第4章表2)
。政府管理銀行も将来民間に売却される過程で
外資の参加が増えるとみられる。一方,2
0
0
0年ごろまでは,証券市場の役割
2
2
0
強化への期待が大きく,さまざまな証券市場改革が進められてきた(本書第
2章)
。こうしたタイ金融システムの現状を評価するには,二つの視点を分
けることが重要であると思われる。第1は短期的視点からの評価である。金
融システムは現在,危機によって生じた混乱の最中にある。そこで,短期的
には金融システムが資金仲介を中心とする金融機能を回復しつつあるのか否
かが,基本的ながら重要な評価の基準となる。その際,比較的好調な製造業
が,このような金融環境のなかでどのように資金を調達できたのか,あるい
はできないのか,についても考察される必要があろう。第2は,中長期的視
点からの評価である。今後の工業化過程との関係でみた場合,金融システム
!
!
は上述のように1効率的な資金仲介,2長期資金の供給という役割を担う。
これが十全に果たされるような方向に金融システムが再構築されつつあるの
か否かが,中長期的には重要な評価点である。
第2節 銀行業と金融システムの構造変化
1.2
0
0
1年上半期までのマクロ経済状況
最初に,金融危機後4年間のマクロ経済環境を,本書巻末の付表を手がか
りに概観しておきたい。1
9
9
9年にV字回復という用語で表現された急速な景
気回復は,2
0
0
0年半ば以降,明らかに減速する傾向にある。これは,生産面
からみれば農業,製造業,商業が比較的堅調であるにもかかわらず,建設業
を中心とする国内部門の調整が深刻な段階を迎えていることによる。他方,
支出面からみれば,設備投資の伸び率がマイナスに陥り,消費の伸び率も落
ち込んでおり,国内需要の落ち込みが響いている。その一方2
0
0
0年央以降の
一段のバーツ下落による輸出競争力を背景に,輸出は堅調に拡大しており,
景気を支える形になっている。ただし,同時に輸入も拡大しており,2
0
0
1年
に入り貿易収支は赤字に転落している。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
2
1
このように2
0
0
1年上半期までのマクロ経済の状況は,建設業と金融業と
いった国内部門の調整を,農業,製造業のとくに輸出部門の成長でかろうじ
て支えている状況であり,深刻な調整過程のなかにあるといえる。しかも,
輸出部門は貿易収支の赤字化にみられるように非常に脆弱であり,下半期以
降の米国経済の変調などを勘案すると予断を許さない状況にある。
2.銀行業の機能回復の現状
そのようななか,タイの金融部門の調整は明らかに道半ばにある。不良債
権の処理の過程で信用が縮小するなど,金融仲介機能は後退する傾向にあり,
銀行の収益力も回復していない。以下,このような金融危機以後の銀行業の
現状を全体的な機能面から観察してみよう。
金融危機以降,1
5行あったタイの銀行業は大きな枠組みの変更を余儀なく
された。図1にあるように,金融危機までの銀行業は,4∼6行ごとに上位
行,中位行,下位行と分類して扱われることが多かった。上位行は総資産
ベースでみて全銀行部門の7
0%以上の圧倒的な規模をもち,地方の広大な支
店網を維持し,また,製造業を含む総合的なコングロマリットを形成してい
た。中位行は,2
0%程度の資産比率をもち,流通・不動産部門とのかかわり
が深い銀行が多かった。下位行はバンコク周辺に少数の店舗を維持して,主
に不動産経営や手数料業務に比重があった。このようなことから,この分類
は,単なる規模分類にとどまらず,業態に近い意味あいで使用されてきた。
金融危機の再編過程で,これらの分類は必ずしも有効ではなくなりつつあ
る。図1に大まかにまとめているように(1),上位行のほとんどは,国からの
資本注入や,海外銀行の出資を受け入れながら,自力での再建の道を進んで
いる。ただし,上位行のうち,大蔵省が株式の大宗を保有するクルンタイ銀
行だけは,破綻銀行の受け皿として中核的な役割を担わされている。中位行
はほぼすべてが経営破綻し,一部はクルンタイ銀行に吸収され,一部は減資
のうえ大蔵省の管理下に入っている。下位行の上位2行はさらに深刻で,破
金融危機以前(1999年代前半期)
上位行
グループ
2
2
2
図1 金融危機以後の商業銀行の再編概要
金融危機後(2000年末現在)
Bangkok Bank
Thai Farmers
Bank
Bangkok Bank
Thai Farmers
Bank
Siam Commercial
Bank
Bank of Ayudhya
Siam Commercial
Bank
Bank of Ayudhya
Thai Military
Bank
Krung Thai Bank
(国営銀行)
大規模行
―グループA
Thai Military Bank
First Bangkok
破綻→優良資産の Krung Thai Bank
City Bank
(国営銀行)
み引き継ぎ
Bangkok Bank of
Commerce
中位行
グループ
Bangkok Metropolitan
Bank
Bangkok Metropolitan Bank
―破綻→減資後国有化
売却先選定中
Siam City Bank
破綻→減資後吸収
Laem Thong
Bank
下位行
グループ
Thai Danu Bank
Nakornthon
Bank
(出所) 筆者作成。
Union Bank of
Bangkok(UBB)
Bank of Asia
破綻→減資後合併
Radanasin Bank 98/1
設立 LTBを吸収
→99/11 United
Overseas Bankに売却
Siam City Bank
国営・政府
―破綻→減資後国有化 管理銀行
売却先選定中
―グループB
Bankthai― Krung Thai
Thanakit FinancとUBBを
母体に閉鎖されたFC12社
の優良物件を移管して設立
The DBS Thai
Danu Bank
UOB Radanasin
Bank
Standard Chartered
Nakornthon Bank
Bank of Asia
(ABN-AMRO)
外資買収銀行
―グループC
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
2
3
綻ののち新たに設立された政府管理の受け皿銀行(Bank ThaiおよびRadanasin Bank)に吸収されている。これらの政府管理銀行はすべて,優良・不良
資産を分離して,経営を再建のめどを立てたうえで,民間に売却される予定
になっている。下位行のうち3行は,破綻に至ることなしに外国銀行に買収
されて再建が図られている。
このように,危機以降の再編の過程で,銀行の特徴は旧上位行を主体とす
る地場大規模行グループ,旧中位行を中心とする国営・政府管理銀行グルー
プ,旧下位行を中心とする「外資買収銀行」グループの3種類に分かれつつ
ある。政府管理銀行は,再建のめどが立った後に民間,主に外資に売却され
る見通しである。これらの3グループをそれぞれ,グループA,B,Cと呼
んで分類し,それぞれの傾向を観察したい(2)。
不良債権残高の推移は本書第1章表4のとおりである。銀行の不良債権残
高は,1
9
9
9年央の4
7%をピークに減少に転じた。1
9
9
9年末以降,政府・銀
行・企業の間で債権処理の手続きが整理されるとともに,不良債権処理のた
めの資産管理会社(AMC)の各行による設置と債権の移管が進められたこ
とから,不良債権比率は概ね1年ごとに半減する勢いで減少しており,2
0
0
1
年9月の時点で1
2.
9
0%となっている。この水準自体は銀行経営が健全化し
たと判断できるほどには十分に低いものではないが,処理そのものは着実に
進んでいるとみることはできる。AMCへの不良債権の移管は1
9
9
9年末以降,
銀行ごとに断続的に進められそのタイミングごとに不良債権比率は急減して
いる。また,2
0
0
1年2月に成立したタクシン首相の新政権は,同年7月に政
府による資産管理会社(Thai Asset Management Corporation: TAMC)を設
置し公的資金利用を含めた不良債権処理を進める計画を打ち出している。
このような不良債権の処理過程で金融システムの機能回復が進んでいるか
否かをみる場合のひとつのポイントは,不良債権償却の原資がどこから調達
されているかである。大きく分けて,以下の4通りが考えられる。すなわち,
1当期利益によるもの,!
!
2内部留保の取り崩しによるもの,!
3資本剰余金な
どの準備金 の取り崩しによるもの,4
!資本金の取り崩しによるもの,の四
(3)
2
2
4
!
つである。1の範囲内で行われる引当てはもっとも健全な方法であり,この
! ! !
場合資本は減少しない。2,3,4の引当てはいずれも資本を取り崩して行
! ! !
われるものである。銀行経営の健全性は2,3,4の順に悪化し,資本金以
上の取り崩し(資本が負)の場合が債務超過の状態となる。他方,銀行は取
り崩しに備えて,増資によって資本金と資本剰余金を外部から調達する。グ
ループBに属する銀行の政府管理化過程では公的資金による増資には,ほと
んどの場合株主の請求権である資本金を圧縮し資本剰余金に転換する減資が
ともなっている。
タイについてこの問題をみる際の難しさは,当期の営業損失も不良債権へ
の引当ても,その大宗が内部留保にマイナス値を積み増すことで処理され,
! ! !
一見して上の2,3,4のどのレベルまで資本が浸食されているのか,はっ
きりしない点である。そこで,表1のような形で,銀行の個別バランス・
シートを組みなおし,一方で損益決算書から貸倒引当て前の営業利益を計算
し,グループごとに集計してみた。この表からは,内部留保が正であれば上
!
!
述2の範囲に,内部留保が負でしかし準備金との和が正であれば3の範囲に,
!
内部留保と準備金の和が負でしかし資本勘定が正であれば4の範囲に,実質
的に資本の浸食が進んでいると読みとることができる。また,下段の内部留
!
保の変化量と営業利益からは利益による引当て余力(1)がどの程度回復し
てきたかを読みとることができる。
表によると,グループAの銀行については,1
9
9
8年から2
0
0
0年にかけて増
資によって資本金,準備金の積み増しを進め,1
9
9
9,2
0
0
0年には大幅な引当
てを行っている。資本の取り崩しは,実質的にも準備金の取り崩しにとど
!
まっている(3)。業務活動も,営業損失は1
9
9
9年には底を打ち,2
0
0
0年に
は営業利益を計上して回復過程に入っており,2
0
0
1年上半期には小さいなが
らも内部留保は増加に転じている。
グループBの銀行については,政府管理への移行過程で旧資本金の減資と
中央銀行,FIDFによる増資が行われ,払込資本金,準備金とも大幅に積み
増されたが,不良債権への引当てがきわめて大きく,2
0
0
0年の時点では実質
第5章
!1
表1 不良債権処理と資本勘定項目の変化
グループA
(単位:1
00万バーツ)
1
9
9
6
1
2
3
2+3
1+2+3
4
5
6
!2
1
9
9
8
4
5
6
2
0
0
0
2
0
0
1
内部留保の当期増加
うち当期営業利益
うち当期その他増加
−4,
2
5
8 −1
1
9,
3
3
3 −1
9
6,
9
7
5 −5
4,
7
7
9
5,
4
6
6
5
9
5,
1
6
8 6
0
7,
7
5
9 −8
8,
0
2
0 −5
9,
8
6
8 1
7
1,
2
4
4 1
5
8,
0
8
2
−6
1
2,
0
1
7 −3
1,
3
1
3 −1
3
7,
1
0
7 −2
2
6,
0
2
4 −1
5
2,
6
1
5
(単位:1
00万バーツ)
1
9
9
7
1
9
9
8
1
9
9
9
2
0
0
0
2
0
0
1
払込資本金
資本剰余金など準備金
内部留保
準備金・内部留保合計
資本勘定合計
7
8,
5
7
3 8
1,
5
1
5 2
1
4,
6
1
4 3
5
9,
6
8
2 2
4
0,
2
3
4
2
4,
5
8
1 2
4,
2
5
3
9,
2
2
1 1
2,
6
2
1 1
0,
4
4
5
2
3,
1
9
8 −6
9,
3
2
8 −1
2
5,
5
9
5 −2
4
0,
5
0
2 −1
8
2,
7
7
3
4
7,
7
7
9 −4
5,
0
7
5 −1
1
6,
3
7
4 −2
2
7,
8
8
0 −1
7
2,
3
2
8
1
2
6,
3
5
2 3
6,
4
4
0 9
8,
2
4
0 1
3
1,
8
0
2 6
7,
9
0
6
内部留保の当期増加
うち当期営業利益
うち当期その他増加
−9
2,
5
2
6 −5
6,
2
6
7 −1
1
4,
9
0
7 5
7,
7
2
9 1
1
5,
1
2
8
1
8
2,
4
0
0 1
6
1,
7
3
0 −2
6
3,
3
2
0 −1
8
1,
0
0
1 −1
1
1,
5
9
2 −5
4,
3
2
0
−2
5
4,
2
5
6 2
0
7,
0
5
3 6
6,
0
9
4 1
6
9,
3
2
1 1
6
9,
4
4
8
グループC
1
2
3
2+3
1+2+3
1
9
9
9
3
6,
9
5
3 3
6,
9
5
5 5
2,
4
6
1 9
8,
0
6
2 1
2
8,
0
3
7 1
2
8,
0
4
4
7
0,
0
5
5 9
0,
1
5
5 1
8
3,
4
2
3 2
1
9,
1
8
2 2
2
7,
2
3
8 2
2
6,
5
2
4
1
6
5,
1
6
8 1
6
0,
9
1
0 4
1,
5
7
7 −1
5
5,
3
9
8 −2
1
0,
1
7
7 −2
0
4,
7
1
1
2
3
5,
2
2
3 2
5
1,
0
6
5 2
2
5,
0
0
1 6
3,
7
8
4 1
7,
0
6
1 2
1,
8
1
3
2
7
2,
1
7
6 2
8
8,
0
2
0 2
7
7,
4
6
2 1
6
1,
8
4
7 1
4
5,
0
9
8 1
4
9,
8
5
7
グループB
1
2
3
2+3
1+2+3
4
5
6
1
9
9
7
払込資本金
資本剰余金など準備金
内部留保
準備金・内部留保合計
資本勘定合計
1
9
9
6
!3
コーポレート・ファイナンス 2
2
5
2
0
5,
7
6
7
1
0,
7
3
4
−6
7,
6
4
5
−5
6,
9
1
1
1
4
8,
8
5
6
(単位:1
00万バーツ)
1
9
9
6
1
9
9
7
1
9
9
8
1
9
9
9
払込資本金
資本剰余金など準備金
内部留保
準備金・内部留保合計
資本勘定合計
8,
0
4
0
2,
9
8
4
6,
3
5
1
9,
3
3
5
1
7,
3
7
5
8,
0
7
7 2
6,
0
5
1 4
9,
0
5
9 6
2,
2
8
0 6
2,
2
8
0
9,
7
6
3
9,
1
0
7 1
1,
1
3
2 1
4,
7
9
0 1
4,
7
0
6
4,
6
0
1 −1
6,
5
9
8 −3
8,
0
0
0 −5
7,
6
8
4 −6
1,
8
1
8
1
4,
3
6
4 −7,
4
9
1 −2
6,
8
6
8 −4
2,
8
9
4 −4
7,
1
1
2
2
2,
4
4
0 1
8,
5
6
0 2
2,
1
9
1 1
9,
3
8
6 1
5,
1
6
8
2
0
0
0
内部留保の当期増加
うち当期営業利益
うち当期その他増加
4
3,
0
1
5
−1,
7
5
1 −2
1,
1
9
8 −2
1,
4
0
3 −1
9,
6
8
4
3
1,
3
8
7 −3
8,
1
9
1 −4
6,
3
8
8 −7
5,
6
3
0
−3
3,
1
3
8 1
6,
9
9
3 2
4,
9
8
5 5
5,
9
4
6
(注) 2
0
0
1年は6月末の数値,営業利益については年率換算値。
(出所) Listed Company Info, Stock Exchange Market of Thailand 各年版より計算。
2
0
0
1
−4,
1
3
4
4,
2
2
4
−8,
3
5
7
2
2
6
!
的に資本金の3分の2程度を取り崩している状態にある(4)。2
0
0
1年上半
期には資本はかなりの程度回復しているが,業務活動については,2
0
0
1年上
半期の現在で,営業損失は高いレベルで続いており,回復の方向には未だな
い。
グループCの銀行も,外資の買収の過程で資本金が大きく積み増されたも
のの,取り崩しの水準はすでに1
9
9
8年の段階で実質的に資本金にまで及んで
!
おり(4),1
9
9
9年,2
0
0
0年に大規模な増資が行われ資本金が増加している
にもかかわらず,2
0
0
1年上半期現在で実質的には資本の4分の3が不良債権
の償却によって浸食される状態にある。営業利益については2
0
0
0年まで赤字
幅が広がっていたが,2
0
0
1年上半期には営業利益を計上するまでに回復して
いる。しかしその水準はきわめて小さく,引当て原資の不足が懸念される状
況である。
上のような不良債権処理過程での銀行のバランスシートの悪化を背景に,
金融システム全体としても金融仲介機能の低下が続いている。図2は商業銀
行の総資産,貸出および預金の推移をみたものである。銀行の総資産は1
9
9
7
図2 銀行貸出,預金および資本
(100万バーツ)
8,000,000
(%)
90
80
7,000,000
70
6,000,000
60
5,000,000
50
4,000,000
40
3,000,000
30
2,000,000
20
1,000,000
0
10
0
第1 第2 第3 第4 第1 第2 第3 第4 第1 第2 第3 第4 第1 第2 第3 第4 第1 第2 第3 第4 第1 第2 第3 第4 第1 第2 四半期
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
年
貸出/資産(%)
資本/資産(%)
貸出残高
預金残高
資本勘定
総資産
(出所) Bank of Thailand, Quarterly Bulletin.
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
2
7
年半ばの危機以降ほぼ横這いに推移している。負債・資本サイドからみれば,
借入の減少に対して,預金が着実に増加しており(4),資本の増減と併せて相
殺されていることによる。一方,貸出は,危機以降傾向的に減少しており,
とりわけ不良債権を大規模にAMCへ移管した時期に低下が著しい。貸出の
減少は不良債権の償却によるものであり,この過程で,新規の貸出は低位に
とどまっているようにみられる。
表2によって銀行の資金供給の状況をグループ別に分解してみてみよう。
これによると運用資産と貸出の低下は全グループに共通したものであるが,
とりわけグループA,Bの銀行において著しいことがわかる。上位行と政府
管理銀行が不良債権の償却を強く進めている結果であると考えられ,金融活
動の収縮が不良債権処理を原因とするものであることが確認でき,しかもそ
れが2
0
0
1年上半期の段階でも底打ちしていないことが示されている。
それではこうした貸出の低下はどの産業分野に強く影響を与えているか。
表3によって産業別貸出をみてみると,金融部門への貸出比率が2
0
0
0年に急
増している。これは各部門の不良債権をAMCへ移管した結果であると考え
表2 グループの貸出,運用資産
(単位:1
0
0万バーツ,%)
1
9
9
6
1
9
9
7
1
9
9
8
1
9
9
9
2
0
0
0
2
0
0
1
グループA 貸出
2,
6
0
0,
9
8
3 2,
7
7
9,
6
6
2 2,
5
3
8,
9
1
3 2,
3
0
5,
5
1
5 2,
2
4
0,
4
7
9 2,
2
0
1,
7
9
7
対総資産比率
8
4.
2
7
6.
6
7
2.
2
6
8.
4
6
4.
3
6
1.
9
運用資産
2,
7
8
8,
7
4
6 2,
9
4
6,
8
8
5 2,
7
8
5,
9
3
9 2,
6
9
1,
7
8
9 2,
6
8
4,
1
1
5 2,
7
0
5,
6
5
1
対総資産比率
9
0.
2
8
1.
2
7
9.
2
7
9.
8
7
7.
1
7
6.
0
グループB 貸出
1,
4
1
2,
1
7
7 1,
5
4
2,
8
7
8 1,
2
7
0,
6
5
1 1,
2
4
0,
4
4
3
8
4
5,
7
8
0
7
4
1,
5
5
6
対総資産比率
8
4.
9
8
5.
4
7
7.
5
7
2.
1
運用資産
1,
5
0
1,
8
7
3 1,
5
9
9,
4
0
7 1,
3
5
0,
3
1
9 1,
3
5
0,
2
0
6
対総資産比率
9
0.
3
8
8.
6
8
2.
4
7
8.
5
4
9.
8
9
4
5,
5
7
1
5
5.
6
4
0.
0
8
4
9,
9
2
9
4
5.
8
2
3
1,
8
8
0
7
3.
6
2
6
2,
9
0
1
8
3.
4
2
3
1,
3
3
9
7
2.
3
2
6
0,
8
4
9
8
1.
5
グループC 貸出
対総資産比率
運用資産
対総資産比率
2
6
3,
8
7
3
8
5.
0
2
8
5,
2
3
3
9
1.
9
3
0
7,
3
5
2
8
4.
8
3
2
2,
0
5
2
8
8.
9
2
7
2,
0
5
6
7
6.
3
3
0
8,
1
3
4
8
6.
4
2
4
5,
7
5
2
7
4.
9
2
8
7,
0
3
9
8
7.
5
(注) 2
0
0
1年は6月末の数値,年率換算値。
(出所) Listed Company Info, Stock Exchange Market of Thailand 各年版より計算。
2
2
8
表3 商業銀行産業別貸出比率
(%)
農
業
鉱 業
製造業
建設業
貿易業・流通業
卸売・小売
輸出業
輸入業
銀行業・その他金融業
不動産業
公益事業
サービス業
個人消費部門
1
9
9
6
1
9
9
7
1
9
9
8
1
9
9
9
2
0
0
0
2
0
0
1
6月 1
2月
6月 1
2月
6月 1
2月
6月 1
2月
6月 1
2月
6月
3.
4
2 3.
3
8 3.
1
0 2.
6
7 2.
6
5 2.
8
0 2.
6
5 2.
6
3 2.
6
1 2.
6
2 2.
3
9
0.
4
8 0.
5
0 0.
6
6 0.
5
9 0.
6
4 0.
6
2 0.
6
1 0.
5
7 0.
5
0 0.
4
8 0.
3
9
2
6.
8
42
7.
0
52
7.
5
53
0.
9
03
0.
9
93
0.
6
63
0.
6
93
0.
0
63
0.
2
22
8.
6
82
7.
1
7
4.
6
0 4.
8
7 4.
9
0 4.
5
1 4.
5
3 4.
7
1 4.
6
4 4.
3
5 4.
2
0 3.
5
4 3.
4
2
2
5.
1
22
4.
9
72
5.
5
92
3.
6
22
3.
1
02
3.
5
52
3.
3
32
2.
1
92
2.
1
02
0.
1
01
8.
4
1
1
7.
7
81
7.
9
21
8.
6
41
7.
1
31
6.
7
91
6.
5
61
6.
5
01
5.
3
41
5.
4
11
4.
2
61
3.
1
6
4.
1
6 4.
0
4 3.
9
5 3.
6
1 3.
3
2 3.
3
2 3.
1
6 3.
0
3 2.
9
8 2.
7
6 2.
5
6
3.
1
8 3.
0
2 3.
0
0 2.
8
8 2.
9
8 3.
6
7 3.
6
7 3.
8
2 3.
7
1 3.
0
9 2.
7
0
7.
5
5 7.
1
1 6.
5
3 8.
0
4 7.
1
5 5.
0
3 4.
8
0 7.
6
4 7.
7
61
4.
5
02
0.
1
7
9.
0
8 8.
7
8 8.
2
9 8.
0
9 9.
2
0 9.
6
61
0.
4
01
0.
0
2 9.
6
8 7.
3
7 6.
6
4
2.
7
8 2.
9
4 2.
9
3 3.
2
5 3.
3
6 3.
6
2 3.
8
9 3.
9
8 4.
0
8 4.
8
0 4.
5
4
7.
8
6 7.
7
8 7.
7
9 7.
5
6 7.
6
6 7.
9
9 7.
8
8 7.
5
1 7.
5
7 6.
8
0 6.
3
5
1
2.
2
61
2.
6
21
2.
6
51
0.
7
71
0.
7
21
1.
3
61
1.
1
11
1.
0
51
1.
2
81
1.
1
11
0.
5
1
(出所) Bank of Thailand, Quarterly Bulletin.
られる。その見合いとして縮小している産業分野は,停滞部門の建設業,不
動産業にかぎらず,比較的好調な製造業にも及ぶものであることがみてとれ
る。製造業への貸出比率は,1
9
9
7年まで長期にわたって上昇傾向にあったも
のが危機以降横這いとなり,2
0
0
0年に入って大幅な減少に転じている。貸出
総額は低下していることから,製造業企業から銀行貸出が急速に引き上げら
れている現状が明らかであろう。
総じて2
0
0
0年末時点では,不良債権の処理によって貸出が減少する一方,
新規の貸出が十分に行われておらず,とりわけ実物部門を牽引している製造
業においてそれが著しい。このことは,銀行は不良債権処理のなかで,収益
性の高い部門に資本を仲介するという,本来の金融仲介機能を回復させる状
況には未だないことを意味している。
3.銀行の収益構造と見えてこない将来戦略
それでは,銀行は底の見えない不良債権処理と再構築の過程でどのような
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
2
9
経営戦略を模索しているのだろうか。経費の圧縮と伝統的な貸出業務への回
帰によって収益性の改善を目指しているのであろうか。あるいは証券市場に
かかわるような投資銀行業務への展開を指向しているのか。そしてそれらは
効果を上げているのか否か。この点を検討するために銀行の収益構造を観察
してみる。表4は銀行の収益構造を各行の損益決算書から計算し,グループ
ごとに集計したものである。最初に利潤に着目すると,不良債権への貸倒引
当て前の営業利益は2
0
0
0年の時点でグループAの銀行がプラス,グループB,
Cの銀行がマイナスであり,2
0
0
1年上半期に入ってグループCがわずかにプ
ラスに転じた状態にすぎない。全体として銀行はいわゆる「本業」について
の収益性をかろうじて回復する段階にあり,今後の不良債権償却の必要を考
えると,償却原資の調達は予断を許さない状況にある。
収益性の問題を経費の側面からみてみると,1
9
9
8年以降断続的に進められ
ている人員の削減(5),支店の統廃合などの経費削減は明確な効果として表れ
てはいないことがわかる。グループA,Bでは経費率は1
9
9
9年を境に微減傾
向にあるが,そのなかの人件費率については横這いかやや上昇している。グ
ループCでは経費率は上昇傾向にあり,人件費率も上昇している。物件費に
ついては,すべてのグループで横這いか微増しており,これは後述するよう
に,支店の削減が比較的小規模にとどまっていることと関係している。経費
率の上昇は,経営面からの経費の削減への努力が,不良債権処理にともなう
営業規模(運用資産)の著しい縮小によって相殺されてしまっていて,収益
性に対して今のところ大きな効果をもたらしていないことを示している。
次に,銀行業の業態変化は進んでいるのかどうかについて,表5によって
収入の構造からみてみよう。危機以降,総収入は著しく縮小している。減少
は利子収入,非利子収入の双方において生じているが,利子収入の縮小の方
がより著しい。これは不良債権の処理過程にあって貸出が低下していること,
および金利の低下によるものであろう。これに対し,非利子収入の減少は比
較的軽微にとどまっており,その結果,非利子収入の総収入に対する比率が
高まってみえる。一見すると非貸出業務が相対的に拡大しているように感じ
2
3
0
!1
表4 商業銀行の収益構造
グループA
総収入
利子支出
非利子支出(経費)
人件費
物件費
管理費その他
営業利益
(総資産に対する比率%)
1
99
6
1
9
9
7
1
9
9
8
1
99
9
2
00
0
20
0
1
11.
3
9
6.
8
9
1.
9
4
0.
8
3
0.
3
6
0.
7
6
1
1.
82
7.
3
3
2.
2
2
0.
8
1
0.
3
8
1.
0
3
1
0.
4
1
8.
1
5
2.
7
2
0.
6
2
0.
3
5
1.
7
5
6.
96
4.
91
2.
5
3
0.
75
0.
3
9
1.
40
6.
08
3.
5
1
2.
17
0.
7
0
0.
38
1.
0
9
5.
65
3.
00
2.
1
5
0.
70
0.
3
9
1.
06
2.
5
6
2.
2
7
−0.
4
6
−0.
4
8
0.
4
0
0.
5
0
不良債権引当て
0.
31
1.
7
2
2.
4
1
4.
97
3.
0
4
0.
34
引当て後利益
2.
2
5
0.
5
5
−2.
8
7
−5.
45
−2.
6
4
0.
16
!2
グループB
総収入
利子支出
非利子支出(経費)
人件費
物件費
管理費その他
(総資産に対する比率%)
1
99
6
1
9
9
7
1
9
9
8
10.
1
6
7.
3
2
1.
8
3
0.
7
4
0.
3
3
0.
7
7
1
0.
69
8.
5
0
2.
1
0
0.
7
8
0.
3
3
0.
9
9
9.
0
3
1
1.
7
5
4.
2
3
0.
8
9
0.
4
4
2.
9
1
1
99
9
2
00
0
20
0
1
4.
28
4.
69
2.
8
3
0.
58
0.
4
0
1.
85
4.
06
3.
6
0
2.
47
0.
6
3
0.
36
1.
4
8
3.
78
2.
56
2.
2
9
0.
59
0.
3
1
1.
38
営業利益
1.
0
1
0.
0
9
−6.
9
5
−3.
2
3
−2.
0
2
−1.
0
7
不良債権引当て
2.
14
4.
5
6
1
5.
6
0
−2.
24
0.
7
9
1.
42
−1.
1
4
−4.
4
7
−2
2.
5
5
−0.
99
−2.
8
1
−2.
48
1
9
9
6
1
99
7
引当て後利益
!3
グループC
総収入
利子支出
非利子支出(経費)
人件費
物件費
管理費その他
営業利益
(総資産に対する比率%)
1
9
9
8
19
9
9
2
00
0
20
01
10.
8
6
7.
13
1.
8
1
0.
83
0.
3
3
0.
64
1
1.
8
1
8.
2
4
2.
3
1
0.
7
8
0.
3
3
1.
2
0
1
2.
3
7
1
0.
9
4
2.
9
4
0.
7
3
0.
4
8
1.
7
3
6.
8
0
5.
06
4.
1
4
1.
09
0.
5
4
2.
52
5.
83
3.
38
7.
0
7
1.
1
0
0.
51
5.
4
6
6.
0
1
2.
84
3.
0
9
1.
14
0.
5
6
1.
39
1.
9
2
1.
2
6
−1.
5
1
−2.
4
0
−4.
6
1
0.
0
7
不良債権引当て
0.
3
1
1.
4
0
4.
9
4
4.
31
0.
4
0
2.
1
8
引当て後利益
1.
61
−0.
1
4
−6.
4
6
−6.
71
−5.
0
1
−2.
11
(注) グループB,1
9
9
9年の不良債権引当てがマイナスとなっているのは,Laem Thong BankRathanasin Bankの数値である。引き継ぎにともなう会計処理と推察される。
(出所) Listed Company Info, Security Exchange of Thailand 各年版より。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
3
1
表5 商業銀行収入構造
(%)
1
9
9
6 1
9
97 1
99
8 1
99
9 20
00 2
0
01
グループA
利子収入/総資産
非利子収入/総資産
9.
73 1
1.
5
1 1
0.
0
4 4.
35 5.
38 5.
0
9
0.
9
5 1.
2
9 1.
2
4 0.
74 1.
0
7 1.
0
3
非利子収入/総収入
8.
8
7 1
0.
0
7 10.
74 13.
9
3 1
5.
9
9 1
6.
61
グループB
利子収入/総資産
非利子収入/総資産
非利子収入/総収入
8.
6
2 10.
0
8 8.
1
8 3.
8
9 3.
4
5 3.
12
0.
7
3 0.
7
5 0.
1
0 0.
6
2 0.
55 0.
88
7.
75 5.
8
6 0.
9
8 12.
51 1
3.
9
4 2
0.
1
5
グループC
利子収入/総資産
非利子収入/総資産
9.
6
2 1
2.
3
8 1
2.
7
2 4.
44 4.
9
9 5.
0
0
0.
7
9 0.
7
5 0.
8
6 0.
6
2 0.
5
3 0.
86
非利子収入/総収入
7.
6
7 5.
68 6.
4
8 11.
6
2 9.
69 1
4.
61
(注) 2
0
0
1年は6月末の数値,年率換算値。
(出所) Listed Company Info, Stock Exchange Market of Thailand 各年
版より計算。
られるが,これは上のように減少幅の違いの結果生じたものであり,新しい
経営戦略へのシフトを意味するものではない。上位行における外国人保有株
式の増加,下位行の外資買収により業務形態の変化が予想されるが,現状で
はそれらは現れてきていない。とくに,証券市場の活性化に対応した投資銀
行業務の強化といった傾向は,財務面からは確認できない(6)。
最後に,銀行の支店展開(Branch Banking)の変化を観察しよう。表6は
商業銀行各行の支店数の推移をまとめたものである。金融危機以降,商業銀
行の支店数は減少に転じ,その傾向は現在も続いている。しかし,全体とし
て支店の統廃合はきわめて緩やかである。グループAは支店数をほぼ横這い
で維持しており,バンコク内についてはむしろ支店を増やす傾向がある。グ
ループCは比較的大規模な支店の削減を行っているが,そのほとんどは地方
支店であり,グループAと同様にバンコクへの集中度をより高める傾向があ
る。支店展開についても,収益性が低いと思われる地方の支店を閉鎖し,バ
ンコクに集中するという一般的傾向が確認される程度で,いずれの銀行につ
1
99
9
バンコク
合 計
2
3
2
表6 銀行支店数の推移
20
0
1/9
2
00
0
バンコク
支店比率
バンコク
合 計
バンコク
支店比率
バンコク
合 計
バンコク
支店比率
Bangkok Bank
1
2
8
5
26
24.
3%
1
4
1
54
7
2
5.
8%
1
46
5
6
2
26.
0%
Siam Commercial Bank
1
4
8
4
96
29.
8%
1
4
3
47
8
2
9.
9%
1
43
4
7
6
30.
0%
Thai Farmers Bank
1
5
8
5
33
29.
6%
1
5
8
53
2
2
9.
7%
1
58
5
3
0
29.
8%
Thai Military Bank
1
1
1
3
61
30.
7%
1
1
3
36
3
3
1.
1%
1
15
3
6
5
31.
5%
Bank of Ayudhya
1
3
4
4
18
32.
1%
1
3
3
41
8
3
1.
8%
1
30
4
0
3
32.
3%
6
7
9 2,
33
4
2
9.
1%
6
88 2,
3
38
29.
4%
6
92 2,
33
6
2
9.
6%
グループA小計
Bangkok Metropolitan Bank
6
5
17
7
3
6.
7%
65
1
77
36.
7%
6
5
1
7
7
3
6.
7%
15
0
64
3
2
3.
3%
1
43
6
17
23.
2%
1
44
6
1
8
2
3.
3%
Bankthai
4
5
11
6
3
8.
8%
46
7
8
59.
0%
4
7
7
8
6
0.
3%
UOB Radanasin Bank
3
1
68
4
5.
6%
31
6
8
45.
6%
2
3
5
0
4
6.
0%
Siam City Bank
6
4
21
1
3
0.
3%
64
2
11
30.
3%
6
3
2
1
0
3
0.
0%
3
5
5 1,
2
1
5
2
9.
2%
3
4
9 1,
15
1
3
0.
3%
3
4
2 1,
13
3
30.
2%
Krung Thai Bank
グループB小計
Bank of Asia
6
4
1
2
1
5
2.
9%
7
0
12
8
5
4.
7%
7
1
11
8
60.
2%
DBS Thai Danu Bank
4
3
9
5
4
5.
3%
3
3
62
5
3.
2%
3
3
62
53.
2%
Standard Charterred Nakornthon Bank
3
8
67
5
6.
7%
3
9
67
5
8.
2%
3
2
44
7
2.
7%
グループC小計
1
4
5
2
83
5
1.
2%
1
4
2
2
57
55.
3%
1
3
6
22
4
6
0.
7%
1,
1
7
9 3,
8
32
3
0.
8%
1,
17
9 3,
7
46
31.
5%
1,
1
7
0 3,
6
9
3
3
1.
7%
総
計
(出所) Bank of Thailand.
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
3
3
いても経営戦略の抜本的な転換がとられているようにはみられない。
銀行部門についての観察をまとめよう。危機以降,グループA,グループ
Cの各行へは外資が参加し,ガバナンス構造の変化による経営の抜本的な改
革が期待されている。また,証券市場の活性化にともなう銀行のあり方が議
論されている。しかし,財務面をみるかぎり,商業銀行のこのような方向へ
の動きは全く看取できないのが現状である。銀行は当面,不良債権の処理に
よる伝統的な貸出業務による収益の回復を急務としており,しかもそれは道
半ばである。人員,支店などの削減も経費には大きな効果をもたらしてはい
ない。全体としていえば,新しい経営体制による将来戦略がどのようなもの
であれ,実体面からは具体的な成果としてはそれらはほとんど現れてきてい
ないのが現状である。
第3節 コーポレート・ファイナンスの構造変化
1.観察対象とタイ製造業における一般的特徴
前節でみたとおり,金融システムは危機以後の4年を経た2
0
0
1年半ばで,
未だ金融仲介機能を回復するにはいたっていない。では,こうした金融の機
能不全に際して,製造業企業はどのような方法によって対処しているのであ
ろうか。本節では金融危機以後のタイ製造業主要企業におけるコーポレー
ト・ファイナンスの構造変化を検討することによってこの点を明らかにした
い。分析の対象は,前述のとおりデータ入手が可能であった非上場および上
場の製造業企業の1
9
9
9年までの数値である。サンプル企業については補論を
参照されたい。
表7は全サンプル企業の資本構成の概要を上場企業,非上場企業の別にま
とめたものである。時期区分は金融環境の変化とデータの整合性に沿って
1
9
9
1∼9
4年の好況期,1
9
9
5∼9
6年の変調期,1
9
9
7∼9
9年の危機以降の3期に
2
3
4
!1
表7 全サンプルにおける資本構成の変化
非上場企業
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
サンプル数
1
7
2
77
負債比率
7
0.
2%
7
8.
4%
2
銀行借入
3
6.
4%
4
0.
9%
3
関連企業借入
7.
7%
9.
4%
4
社債
0.
0%
0.
0%
5
その他負債
2
6.
1%
2
8.
1%
6
資本勘定
2
9.
8%
2
1.
6%
7
払込資本金
2
9.
1%
2
1.
2%
8
内部留保
−8.
3%
−4.
6%
9
資本剰余金その他
9.
0%
5.
0%
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
レバレッジ(1/6)
!2
6.
5%
7.
8%
3
3.
8%
3
7.
5%
2.
4
3.
6
上場企業
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
サンプル数
1
7
9∼9
8
98
84∼8
7
負債比率
5
4.
2%
5
6.
4%
7
2.
7%
2 銀行借入
3 関連企業借入
3
7.
1%
3.
1%
40.
5%
1.
4%
5
1.
0%
1.
7%
4
社債
0.
0%
0.
0%
2.
0%
5
その他負債
1
4.
0%
1
4.
4%
1
8.
0%
6
資本勘定
2
7.
3%
4
5.
8%
43.
6%
7 払込資本金
8 内部留保
1
7.
6%
1
4.
3%
16.
5%
1
8.
1%
12.
9% −1
0.
5%
9
1
3.
9%
1
4.
4%
1
4.
4%
対関連企業投融資
1
1.
7%
1
3.
0%
1
4.
8%
企業間信用(3+5)
1
7.
1%
15.
9%
1
9.
7%
1.
2
1.
3
2.
7
資本剰余金その他
レバレッジ(1/6)
(注) 総資産に対する比率。
(出所) 補論参照。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
3
5
分けて整理している(7)。また,表8は企業の上場前後2年間の資本構成の変
化をみたものである。表7から,上場企業と非上場企業を静学的に比較する
と,以下の4点が指摘できる。第1に全般的に負債比率は非上場企業におい
てより高い。上場企業では資本剰余金と内部留保が大きく,これらが資本比
率を高めている要素である(8)。
第2に,上場企業の資本比率の高さは,資本金それ自体よりは上場時に取
得した資本剰余金などによるものが大きい。表8によると企業は上場ととも
に資本剰余金を拡大させ,資本比率を高める傾向がはっきり確認できる。こ
のことは逆にいえば,企業は危機以前の時期には株式公開によってかなりの
キャッシュ・フローを手にしており,株式公開が一種の資金調達の手段とし
て機能していたことがうかがわれる。
第3に,上場企業は負債比率が低いにもかかわらず,銀行借入比率はむし
ろ高い。さらに金融危機以降で,銀行借入比率の格差は広がり,上場企業の
表8 企業の上場タイミングと資本構成の変化
サンプル数
−2年
−1年
0
+1年
+2年
2
3
33
4
2
3
7
37
1
負債比率
6
4.
6%
59.
1%
5
0.
3%
5
3.
6%
5
3.
4%
2
銀行借入
4
0.
8%
3
7.
7%
3
7.
1%
3
6.
7%
3
7.
0%
3
関連企業借入
5.
9%
4.
8%
2.
0%
1.
1%
1.
6%
4
社債
0.
0%
0.
0%
0.
0%
0.
0%
0.
0%
5
その他負債
1
8.
0%
16.
7%
1
1.
2%
1
5.
8%
1
4.
8%
6
資本勘定
3
5.
4%
4
0.
9%
4
9.
7%
4
6.
4%
4
6.
6%
2
6.
3%
5.
9%
2
4.
6%
7.
3%
21.
3%
8.
9%
1
7.
6%
8.
8%
1
5.
8%
1
1.
7%
3.
2%
9.
0%
19.
5%
2
0.
0%
1
9.
2%
7 払込資本金
8 内部留保
9
資本剰余金その他
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
レバレッジ(1/6)
8.
2%
7.
3%
6.
6%
7.
9%
7.
7%
2
3.
8%
2
1.
5%
13.
2%
1
6.
9%
1
6.
4%
1.
8
1.
4
1.
0
1.
2
1.
1
(注) サンプル企業はすべて,危機(1
9
9
7年)以前である。
(出所) 補論参照。
2
3
6
銀行借入への依存が相対的に強まっている。表8からも上場の年の前後で銀
行借入比率はほとんど横這いであることが確認できる。負債比率が大幅に低
下していることから,負債のなかで銀行借入の比重は増加していることにな
る。企業の株式上場は,負債比率とネガティブな関係がある一方で,銀行借
入とはむしろポジティブな相関をもっているのである。
第4に,子会社・関連会社間における信用などの,内部金融市場による資
金関係がかなりの程度存在する。表では企業グループ内の信用規模の指標と
(
“Borrowing from Affiliated and
して負債項目に明記された「関連企業借入」
Related Companies”
)と,買掛金,支払い手形などを含んだ「企業間信用」
の2通りの指標をとって観察している。後者は,取引先企業からの信用と
いったグループ内での内部金融市場の範疇からはずれる負債も含んでしまう
難点があるが,前者が捉えることのできないグループ企業間の買掛金などを
含んだものとしての参考である。両者を観察するとこれらが共に非上場企業
において相対的に高く,上場企業において低いことが明瞭である。上場前後
の変化をみても,関連企業借入が上場直後から低下することがみてとれる。
他面,上場企業は子会社・関連会社への投融資がきわめて高い。すなわち,
タイ企業の資金調達においては,内部金融市場を通じた調達がかなりの比重
にのぼり,そのなかで上場企業は資金の出し手で,非上場企業は受け手と
なっている。大雑把にいって,上場企業によって調達された資金が内部金融
市場を通じて非上場企業に移転されている傾向を指摘しうる。
金融危機以後の全般的な変化については以下のようである。金融危機後,
事業の損失部分は内部留保にマイナスにつけることで積み増されている。実
質的には資本の取り崩しが行われていることになるが,内部留保のマイナス
値は1
9
9
9年段階では資本剰余金を上回る水準にはなっておらず資本の劣化は
払込資本金の浸食にまで至っていない。しかしいずれにせよこのような資本
の取り崩しの結果,上場・非上場企業ともバランスシート上の負債比率は上
昇する形となっている。負債のなかで銀行借入については上場・非上場企業
とも比率が上昇しているが,前述のとおりこれはとくに後者で顕著である。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
3
7
また,危機以後,関連企業借入,企業間信用が上昇する傾向がある一方,上
場企業では社債による調達が行われはじめている。
2.製造業財閥系企業の対応
それでは,金融危機以後の銀行業の金融仲介機能の停滞に対応して,製造
業を担う財閥企業,外資系企業がどのような対応をとってきたか,企業の属
性別に考えていきたい。最初に製造業を中心に成長を遂げてきた製造業財閥
(Industrial Group, Suehiro[1
9
8
9: ch. 7]
)をみてみよう。ここでは,データ
の利用可能性に鑑み,サハユニオン・グループとサイアムセメント・グルー
プをとりあげる(9)。
1
!
サハユニオンのケース
サハユニオン・グループは,事業兼持株会社であるサハユニオン社を中核
とする企業グループである。サハユニオン社(Saha Union PLC)は1
9
7
2年
に設立され,次々と傘下企業を設立しながら,繊維,ケミカル・シューズな
どの軽工業品を基幹として急成長を遂げ,1
9
8
0年代末にはタイを代表する製
造業グループとなった。主要生産品が示すように,同グループは伝統的に輸
出部門に大きな比重をもっており,1
9
9
0年代に入り,家電製品,コンピュー
タなどへの多角化が試みられている。同グループは証券市場への上場に非常
に積極的であり,中核会社のサハユニオン社はタイ証券取引所が設立された
1
9
7
5年にただちに上場され,また,グループ関連会社の多くも上場企業と
なっている。
表9はサハユニオン社(Saha Union PLC)とグループ子会社・関連会社
の一部の資本構成をまとめたものである。これによると,内部留保の増加が
示唆するように,グループの事業自体は危機後もきわめて順調に収益をあげ
ているようにみられる。1
9
9
9年の実物経済の回復は輸出を主導としたもので
あったが,サハユニオン・グループの事業分野の好調とこの点は整合的であ
2
3
8
表9 サハユニオン・グループ企業における資本構成の変化
1 Saha Union Plc
!
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
1
負債比率
3
9.
2%
4
0.
5%
4
7.
4%
2
3
4
5
6
7
8
9
銀行借入
関連企業借入
社債
その他負債
資本勘定
払込資本金
内部留保
資本剰余金その他
2
1.
7%
2.
3%
0.
0%
1
5.
2%
6
0.
8%
2
4.
7%
1
9.
1%
1
7.
1%
27.
3%
2.
2%
0.
0%
1
1.
0%
59.
5%
2
1.
1%
2
0.
3%
1
8.
1%
2
6.
8%
7.
5%
0.
0%
1
3.
1%
5
2.
6%
1
8.
3%
2
0.
9%
1
3.
4%
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
5
5.
4%
1
7.
4%
6
6.
1%
13.
2%
7
0.
3%
2
0.
6%
0.
6
0.
7
0.
9
レバレッジ(1/6)
!2
サハユニオン関連会社(上場企業)
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
サンプル数
4
4
4
1
負債比率
4
4.
3%
4
3.
3%
3
6.
5%
2
3
4
5
6
7
8
9
銀行借入
関連企業借入
社債
その他負債
資本勘定
払込資本金
内部留保
資本剰余金その他
1
1.
4%
7.
2%
0.
0%
2
5.
8%
5
5.
7%
2
4.
7%
2
0.
7%
1
0.
2%
12.
4%
7.
8%
0.
0%
2
3.
1%
56.
7%
2
6.
3%
2
3.
7%
6.
8%
6.
5%
2.
1%
0.
0%
2
7.
9%
6
3.
5%
2
5.
7%
3
0.
3%
7.
5%
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
4.
6%
3
3.
0%
1
1.
9%
30.
9%
9.
4%
3
0.
0%
0.
8
0.
8
0.
6
レバレッジ(1/6)
!
(注) 1
サハユニオン・グループ子会社・関連会社は以下の
とおり。
Pan Asia Footware PLC.
Union Footware PLC.
Union Pioneer Fabric PLC.
Union Textile Industries PLC.
2 中核会社,関連会社ともいずれの時期においても,
社債の比率はゼロである。
(出所) 補論参照。
!
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
3
9
る。中核会社であるサハユニオン社を観察すると,同社はもともと総資産の
5
0%以上を子会社・関連会社への投融資に向けており,グループに対する持
株・金融機能をもっている。一方で,サハユニオン社,子会社・関連会社と
も銀行借入比率が非常に小さく,危機以前から内部金融市場に依存した資金
調達構造をもっていることが確認できる。
金融危機以降,同社は負債比率を上昇させ,銀行借入を維持し,そして関
連企業借入の比率を上昇させる傾向がある。このような資金調達の維持を背
景に,子会社・関連会社への投融資を総資産の7
0%の水準まで高め,中核会
社としての金融機能を強化する傾向にある。一方,子会社・関連会社では負
債比率,銀行借入比率が急激に低下しており,金融仲介機能の後退による銀
行貸出の収縮のインパクトを強く受けている。それを補っているのは主に内
部留保であり,自己金融への依存を強める傾向にある。また同時に関連企業
借入の水準を維持している(10)。グループの子会社・関連会社は自己金融と
内部金融市場を利用した資金調達を強化することで資金を確保していること
がうかがわれる。
!2
サイアムセメントのケース
サイアムセメント・グループはタイ最大の製造業グループである。サイア
ムセメント社(Siam Cement PLC)は1
9
1
3年に設立され,戦前,戦後を通じ
てセメント,煉瓦を中心とする建築資材を主な産業分野として成長を遂げて
きた。1
9
7
0年半ば以降,同グループはさまざまな建築素材,製紙,プラス
チックなどの素材部門に多角化している。このように,サイアムセメント・
グループの産業分野は伝統的には国内向け素材部門であり,その点でサハユ
ニオン・グループとは伝統的性格が大きく異なっている。1
9
9
0年代に入り,
同グループはさらに家電製品,自動車部品などへの多角化をはかったが,金
融危機以後は,グループ事業を見なおし,セメント,石油化学,製紙などの
伝統的な中核部門に経営資源を集中する形に再編が試みられている。
サイアムセメント社は王室によって設立され,現在でも王室財産管理局が
2
4
0
最大株主であることはよく知られているが,公開企業としても1
9
7
5年のタイ
証券取引所の設置と同時に上場した長い伝統をもつ会社である。ただし,サ
ハユニオン社と異なり子会社・関連会社は非上場にとどまる傾向が強い。危
機以後,同社は大幅な事業再編を行っており,1
9
9
9年1月にはサイアムセメ
ント社はセメント事業をSiam Cement Industry Co., Ltdに移管し,持株会
社としての性格を強めている(本書第2章参照)。
表1
0はサイアムセメント社と子会社・関連会社の資本構成をまとめたもの
である。前者については2
0
0
0年の数値も揃えたうえで,危機以後の時期を事
業再編(1999年1月)の前後で二つに分けて示してある。
まず危機以前を基準に観察してみよう。サイアムセメント社は負債および
銀行借入の比率が上場企業としてはきわめて高く,銀行借入によって資金を
調達しながら,総資産の4
0∼5
0%程度を関連会社への投融資に振り向けてい
る。中核会社によって調達された資金が企業間信用によって子会社・関連会
社に移転されている点は,サハユニオン・グループと共通している。子会
社・関連会社については非上場企業としては銀行借入に強く依存し,内部留
保が相対的に小さい調達構造となっている。
金融危機以降,子会社・関連会社は内部留保がマイナスに陥っており,収
益の悪化が示唆されている。これは,サイアムセメント・グループの関連事
業がサハユニオン・グループと異なり内需向けの製品に比重があり,危機以
前のセメント事業関連の過剰設備と危機以後の建設不況の影響を大きく受け
ていることによる。そうしたなかで,子会社・関連会社は銀行借入を低下さ
せており,金融収縮の過程で銀行貸出が引き揚げられる事態が典型的に現れ
ている。これらの企業は関連企業借入への依存を強めている。一方,サイア
ムセメント社本体については,1
9
9
9年の事業再編以降,社債による資金調達
に比重を大きく移し,銀行借入への依存から脱却しつつある。また,持株会
社化もあって,対関連企業投融資を急増させている。同社は,銀行貸出市場,
証券市場からの資金調達を行って,その資金をグループ会社に供給するとい
う,金融的な機能を強めつつある。同グループにおいても,やはり銀行の機
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
4
1
表1
0 サイアムセメントグループにおける資本構成の変化
!1
Siam Cement PLC
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
9
9
7∼9
8 1999∼2000
1
負債比率
7
0.
4%
7
8.
2%
8
2.
8%
79.
8%
2
3
4
5
6
7
8
9
銀行借入
関連企業借入
社債
その他負債
資本勘定
払込資本金
内部留保
資本剰余金その他
6
1.
6%
0.
0%
0.
0%
8.
7%
2
9.
6%
2.
6%
2
6.
9%
0.
1%
7
1.
7%
0.
0%
0.
0%
6.
6%
2
1.
8%
1.
5%
2
0.
2%
0.
0%
7
3.
6%
6.
4%
0.
0%
2.
8%
1
7.
2%
0.
7%
−4.
8%
2
1.
3%
36.
2%
3.
3%
38.
4%
40.
4%
20.
2%
0.
7%
0.
4%
19.
1%
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
4
3.
5%
8.
7%
5
4.
7%
6.
6%
4
8.
3%
9.
2%
87.
1%
5.
2%
2.
4
3.
6
4.
8
3.
9
レバレッジ(1/6)
!2
サイアムセメント子会社・関連会社(非上場企業)
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
9
9
7∼9
8
サンプル数
6
6
1
9
9
9
6
1
負債比率
6
5.
9%
7
8.
7%
63.
7%
2
3
4
5
6
7
8
9
銀行借入
関連企業借入
社債
その他負債
資本勘定
払込資本金
内部留保
資本剰余金その他
4
3.
1%
1
2.
2%
0.
0%
1
0.
5%
3
4.
1%
1
3.
4%
1.
8%
1
8.
9%
5
0.
2%
13.
0%
0.
0%
15.
6%
21.
3%
12.
8%
−1.
8%
1
0.
3%
21.
1%
16.
7%
0.
0%
25.
9%
36.
3%
15.
7%
−2.
2%
22.
7%
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
3.
9%
2
2.
7%
6.
5%
7.
9%
7.
9%
10.
8%
レバレッジ(1/6)
1.
9
3.
7
1.
8
(注) サイアムセメント・グループ子会社・関連会社は以下のとおり。
Siam Kraft Industry Co., Ltd.
Siam Toyota Manufacutering Co., Ltd.
Thai Ceramic Co., Ltd.
Thai CRT Co., Ltd.
Thai Paper Co., Ltd.
Thai Polypropylene Co., Ltd.
(出所) 補論参照。
2
4
2
能不全に対応して,内部金融市場の強化が進んでいるとみることができよう。
二つのケースが語るように,製造業財閥グループは,金融危機以後,各事
業会社が銀行借入の減少に直面し,これに対応して,従来から強くもってい
たグループ内の内部金融市場に対する依存をより強めている。
3.金融コングロマリット系企業
タイの金融コングロマリットは金融,不動産,流通業を中心としながらも,
工業化の進む1
9
8
0年代半ばから,製造業へのかかわりを深めてきた。グルー
プ中核会社である銀行本体が大きな再編の波に襲われ,また金融仲介機能が
停滞しているなか,これらの銀行グループの製造業企業がどのような資金状
況にあるのかを把握するため,ここではバンコク銀行グループの一部企業を
例にとって観察したい。
表1
1はバンコク銀行グループの子会社・関連会社3社の資本構成をまとめ
たものである(11)。金融危機以前の特徴として,上場企業にしては銀行借入
比率はむしろ低く,企業間信用の比率の高いことが指摘できよう。
金融危機後,これら企業の内部留保はマイナスで急減しており,3社とも
輸出部門である繊維業関連の企業であるにもかかわらず,著しく収益が悪化
していることが示されている。資本の内訳をみると,危機以後の過程で,増
資とみられる資本金と資本剰余金の補充に努めていることがうかがわれるが,
内部留保の損失はそうして調達された資本剰余金を上回り,払込資本金を取
り崩す水準にまで至っている。このような資本勘定の悪化に対して,負債比
率が著しく大きくなり,銀行借入と企業間信用への依存が強まっている。収
益の悪化のなかで銀行借入が増加する傾向は製造業財閥系企業グループとは
正反対の動きである。これら企業は,収益の悪化のなかで在来的な内部金融
市場による調達を強化しつつ,中核会社であるバンコク銀行への資金調達面
での依存を深めることで対処していることが看取できる。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
4
3
表1
1 バンコク銀行グループ子会社・関連会社
1
9
9
1∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
1
負債比率
4
9.
5%
5
3.
3%
8
0.
2%
2
銀行借入
3
0.
4%
33.
7%
4
7.
5%
3
関連企業借入
1.
9%
2.
5%
2.
2%
4
社債
0.
0%
0.
0%
0.
0%
5
その他負債
1
7.
3%
1
7.
1%
3
0.
5%
6
資本勘定
5
0.
5%
46.
7%
1
9.
8%
7
払込資本金
2
4.
9%
3
0.
8%
3
6.
4%
1
9.
8%
5.
7%
1
0.
0% −2
8.
4%
5.
9%
1
1.
8%
8 内部留保
9 資本剰余金その他
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
レバレッジ(1/6)
0.
3%
0.
5%
0.
5%
1
9.
2%
1
9.
6%
3
2.
7%
1.
0
1.
1
4.
0
(注) 対象としたバンコク銀行グループ子会社・関連会社は以
下のとおり。
Thai Durable Textile PLC.
Thai Melon Polyester PLC.
Union Textile Industries PLC.
(出所) 補論参照。
4.外資系企業
外資系企業はタイの製造業で非常に大きな比重を占める。危機以前,外資
系企業の一部は積極的に証券取引所に上場し公開企業化するものがある一方
で,直接投資元の親会社との資本関係を重視し,非上場にとどまるものも
あった。ここでは,上場と非上場の2種類に分け,観察してみたい。なお,
ここでいう外資系企業の定義は,外国企業出資比率が2
0%以上の企業のこと
である。
!1
外資系非上場企業
表1
2をみると,非上場の外資系企業は,一般の企業と比較して負債比率,
2
4
4
!1
表1
2 外資系企業における資本構成の変化
非上場企業
1
9
9
0∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
サンプル数
2
8∼29
2
9
1
負債比率
6
0.
8%
6
7.
7%
2
銀行借入
2
9.
9%
3
8.
6%
3
関連企業借入
1
1.
4%
4.
5%
5
その他負債
1
9.
4%
2
4.
6%
6
資本勘定
3
9.
2%
3
2.
3%
7
払込資本金
1
7.
4%
1
8.
2%
4.
8%
1
7.
1%
−2.
3%
1
6.
4%
8 内部留保
9 資本剰余金その他
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
レバレッジ(1/6)
!2
4.
8%
6.
5%
3
0.
9%
2
9.
1%
1.
5
2.
1
上場企業
1
9
9
0∼94 1
9
9
5∼9
6 1
99
7∼9
9
サンプル数
1
7∼2
1
22
2
1
1
負債比率
5
3.
8%
57.
0%
6
6.
4%
2
銀行借入
3
6.
8%
4
2.
8%
4
5.
8%
3
関連企業借入
5.
0%
1.
4%
1.
6%
4
社債
0.
0%
0.
0%
2.
4%
5
その他負債
1
2.
0%
12.
8%
1
9.
0%
6
資本勘定
4
6.
2%
4
3.
0%
3
3.
6%
7
払込資本金
1
8.
5%
1
5.
8%
1
7.
1%
8 内部留保
9 資本剰余金その他
1
4.
7%
1
3.
0%
1
2.
0%
1
5.
3%
−5.
0%
2
1.
4%
対関連企業投融資
1
4.
2%
18.
5%
1
5.
9%
企業間信用(3+5)
1
7.
0%
1
4.
2%
2
0.
6%
1.
2
1.
3
2.
0
レバレッジ(1/6)
(出所) 補論参照。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
4
5
銀行借入比率ともやや低めである。1
9
9
5∼9
6年の時期では関連企業借入の比
率がやや大きく,親会社との企業間信用があることをうかがわせる。内部留
保はそれほど大きくはないが,正の水準を維持している。
金融危機以後,全般的に収益は悪化しており,内部留保がマイナスとなっ
ている。ただし,これによる負債比率の上昇および銀行借入への依存の強ま
りは,非上場企業一般の傾向とかわらない。海外親会社の存在を考慮すれば,
危機への対処として内部金融市場への依存,すなわち親会社との企業間信用
のチャンネルを拡大するという形の対処が進めらることが予想されるが,そ
うした形跡は認められなかった。
!2
外資系上場企業
表1
2に明らかなように,危機以前には,外資系の上場企業における資本構
成の構造は一般の上場企業と大差なかった。ただ唯一の点として,表1
3にあ
るように,上場の前後での資本勘定の変化は比較的小さいことを指摘しうる。
このことは危機以前,外資系企業の上場行動は新規上場による資金調達の側
面は比較的小さく,これらの企業の上場動機が一般の企業ほどには上場時の
キャッシュ・フローの獲得にはなかったことを示唆している。
金融危機後,内部留保の低下にみられるように収益は明らかに悪化してい
る。しかし,内部留保の低下にもかかわらず,負債比率の低下は上場企業一
般と比較して限定的である。これは銀行借入を維持する一方,増資によって
資本剰余金をより多く獲得することで資金を確保していることによるもので
あり,また損失がその程度の範囲にとどまっていることも同時に示唆してい
る。外資系上場企業は,危機以前に上場により比較的多くの資金調達手段を
確保し,市場を通じた資金調達を十分に利用することによって,金融危機以
後の金融システムの機能不全に対処しているということができる。
地場系財閥のコーポレート・ファイナンスは,製造業系財閥についても,
金融コングロマリットについても,金融危機以後の銀行業の機能不全に対応
して,危機以前から備えていた構造や方向性をより進展・強化させる形での
2
4
6
表1
3 外資系企業の上場のタイミングと資本構成の変化
サンプル数
−2年
−1年
0
+1年
+2年
7
8
8
7
8
1
負債比率
6
8.
5%
54.
5%
49.
8%
5
3.
6%
5
0.
4%
2
銀行借入
3
2.
4%
31.
5%
3
9.
1%
3
6.
0%
3
5.
2%
3
関連企業借入
8.
8%
7.
7%
2.
5%
1.
5%
2.
4%
4
社債
0.
0%
0.
0%
0.
0%
0.
0%
0.
0%
5
その他負債
2
7.
2%
1
5.
3%
8.
2%
1
6.
0%
1
2.
9%
6
資本勘定
3
1.
5%
45.
5%
5
0.
2%
4
6.
4%
4
9.
6%
7
払込資本金
2
2.
8%
2
8.
8%
2
8.
0%
2
0.
6%
1
7.
1%
8
内部留保
4.
8%
4.
8%
4.
5%
8.
5%
1
4.
3%
9
資本剰余金その他
3.
9%
1
1.
8%
1
7.
7%
1
7.
4%
1
8.
1%
対関連企業投融資
企業間信用(3+5)
レバレッジ(1/6)
9.
0%
5.
3%
5.
9%
1
1.
1%
1
0.
0%
3
6.
1%
2
3.
0%
10.
7%
1
7.
6%
1
5.
2%
2.
2
1.
2
1.
0
1.
2
1.
0
(注) サンプル企業はすべて,危機(1
9
9
7年)以前である。
(出所) 補論参照。
企業側の対応である点で,共通していた。これに対し外資系企業は,金融危
機後に逆に銀行貸出の安定的な受け手となり,上場企業は資本市場の利用も
含めた,通常の意味での市場取引への依存を強めつつある。
5.まとめ
本節の観察をまとめよう。観察は,銀行の資金仲介機能の後退がコーポ
レート・ファイナンスに与える影響にはかなりの偏りがあることを示してい
る。すなわち,その影響は非上場企業においては大きく,上場企業において
比較的小さい。また,企業グループの特質との関係では,製造業財閥系企業
グループにおいて大きく,金融コングロマリット系企業,外資系企業におい
ては小さい。銀行の機能不全の影響を強く受け,銀行借入から相対的に強く
排除された製造業財閥系企業は,従来から備えていた内部金融市場の機能を
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
4
7
強化することによって対処している。同様に,金融コングロマリット系企業
は従来からの銀行との資金チャンネルを確保することでその影響を最小限に
おさえている。これに対し外資系企業は危機以後,海外親会社との資金関係
を弱め,銀行貸出市場,証券市場の両面の資金調達をひろげている。
第5節 結論
ここまでの観察から,タイ金融システムの現状に対する短期的視点,中長
期的視点の両面からの評価を試みてみよう。まず,短期的視点からの評価で
ある。金融機関は現在でも不良債権処理の過程のまっただ中にあり,不良債
権総額は低下してきたとはいえさらなる償却原資の調達が予断を許さない状
況となっている。そのなかで金融機関の仲介能力は後退しており,金融部門
の貸出状況,各銀行の収益構造のいずれの面からも,現状では回復の方向は
緒についたばかりである。
そうしたなかで,国内の製造業企業は危機以前に備えていた伝統的な資金
調達構造を強化することで,これに対処している。すなわち,製造業財閥系
企業は中核会社を中心とする内部金融市場の機能を強化し,金融コングロマ
リット系企業は銀行からの資金チャンネルを維持している。1
9
9
9年時点で,
金融システムが深刻な不良債権問題を抱えていたにもかかわらず,実物部門
で輸出を中心とする急回復が可能であったことの背景には,それを主導した
製造業輸出部門の企業が,内部金融市場への依存の強化という伝統的な資金
調達手段に回帰してキャッシュ・フローを維持しつつ,通貨切り下げによっ
て回復した輸出競争力を生かすことができたという構造が存在する。このこ
とが,金融の機能不全が実物経済に与えるダメージを最小限にとどめる結果
となっており,これは,本章の最初で示された設問に対するひとつの答えで
ある。
しかし,今後の工業化に対応した金融システムの再構築という中長期的な
2
4
8
観点からみると,現状から具体的な方向性を読みとることはできない。タイ
の金融システムは危機以前においても,市場を通じた金融仲介が十分に機能
するものではなかった。すなわち,内部金融市場を利用した取引がかなりの
比重をもち,また,証券市場は上場プレミアムの獲得の場としての機能に偏
重していた。危機以後,そのような不完全な金融システムはその機能をさら
に後退させている。本書第4章にあるように,銀行はガバナンス構造を急速
かつ大幅に変容させたにもかかわらず,経営戦略の面で抜本的な変化は,上
位行についても,下位行についても成果としては未だ現れてはいない。企業
部門が在来的な方法に回帰することで金融仲介の収縮に対処したことは,マ
クロ・ショックに対する経済構造の短期的な柔軟性を示すものであっても,
金融システムの発展による中長期的な資金仲介効率の向上という観点からは,
明らかに逆行を示す現象である。
危機以後,証券市場の活性化とその役割の強化がひとつの方策として探ら
れてきた。ただ2
0
0
0年央以降,証券市場は一貫して停滞しており,この点の
評価は今のところ難しい。この問題については,まずは危機以前の時期にタ
イの証券市場が十分に企業の参加を獲得していたのか否か,企業の資金調達
について十分な機能を果たしていたか否か,といった点についての詳細な検
討が必要である。
産業構造の高度化を支える高度で多様な金融システムの構築は,1
9
8
0年代
末以降,タイ経済の長期的成長への必要条件として議論されてきた。それが
現在でも,具体的な形として現れていない以上,中長期的なタイ経済の成長
には,少なくとも危機以前と同程度のボトルネックが相変わらず横たわって
いることになる。1
9
9
9年の景気回復がごく短期に終わり,2
0
0
0年央以降景気
が失速する方向に向かいつつあることは,その意味では自然な帰結であると
みることができる。
ただし,小さなものではあるが,興味深い変化が外資系企業についてみら
れる。外資系企業は全般的な金融仲介の後退のなかで,銀行からの借入と証
券市場からの資金調達をよく維持し,発展させている点で際だっている。外
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
4
9
資系企業は比較的情報の開示が進み,また信用力があることが,こうした行
動を可能にした要因であると想像される。今後の金融システムの再構築過程
で,外資系企業が銀行貸出市場,証券市場における金融取引の主要なプレー
ヤーとして,コーポレート・ファイナンスのモデルケースとなる可能性があ
ることは指摘できよう。外資系企業が金融危機以前においてなぜ積極的に上
場する動きをみせたのか,また危機以後なぜ親会社からの企業間信用によっ
て危機に対処することを選択しなかったのか,という点は今後の興味深い検
討課題である。
補論 商業銀行および企業のサンプル選定とデータソース
1.商業銀行
1.
1.データソース
“Listed Company Info”
, The Stock Exchange of Thailand.
1.
2.対象
商業銀行については,1
9
9
0年代に存在した全銀行を対象として,貸借対照
表および損益決算書の数値を,1
9
9
6∼2
0
0
1年までにおけるフルパネルデータ
として整理した。原則として年末時データであるが,2
0
0
1年のみ上半期末時
点での数値である。
2.製造業企業
2.
1.データーソース
タイの企業の財務諸表のデータソースとしては,以下のものを用いた。
!1
1
9
9
1∼9
4年:Manager Information Service Co., Ltd(磁気媒体)
2
5
0
!2
!3
1
9
9
5∼9
9年:“Bingo Data Base”
, Business on Line Co., Ltd
以上,非上場企業
1
9
9
1∼9
9年:“Listed Company Info”
, The Stock Exchange of Thai-
land
以上,上場企業
2.
2.対象
サンプル企業は総資産基準による上位企業のうち,連続してバランスシー
ト,損益表が入手可能な企業を選択した。ただし,非上場企業について
は,7年以上入手できるものは選択の範囲に含めた。サンプル範囲は以下の
!
手順で設定した。まず,データソース2から全企業の総資産順位上位2
0
0
0社
の基本台帳を作成し,各企業について,企業ダイレクトリーの“Million
Bahts Business in Thailand”(International Business“Co.,”Ltd.),“Listed
Company in Thailand”(Advanced Research“Co.,”Ltd.)をもとに業種種
別を特定した。そのなかで,製造業に分類される企業について,非上場企業
については二つのデータベースで同時に利用可能なものに限定して,上位
2
0
0社分までのバランスシート,損益表を上場企業,非上場企業の各データ
ベースから抽出,整理した。
!
! !
そのうえで整合性を確認したところ,データソース1の数値は,2,3と
の整合度が非常に悪いことが判明したため,非上場企業については1
9
9
4年以
前の数値は扱わないこととした。結果として,利用可能な企業数は次表のよ
うに1
6
5社,1
3
8
9サンプルとなった。
企業数・サンプル数
フルパネル
その他
合
計
サンプル数
製造業
上場企業
5
9
29
88
719
非上場企業
5
3
24
77
670
1
1
2
53
16
5
1,
38
9
合計
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
5
1
2.
3.企業グループ属性の特定化
末廣・南原[1
9
9
1]
,Suehiro[1
9
8
9]
,末廣[2
0
0
0]により財閥グループ,
特定財閥および外資系企業を特定化した。外資系企業の定義は外国企業の出
資比率が2
0%以上の企業である。
2.
4.製造業主要企業と証券取引所への上場
本章の特徴のひとつは,非上場企業のコーポレート・ファイナンスの観察
を行っている点である。上記2
0
0
0社リストによって,製造業の主要企業と上
場・非上場の分布を比較したところ,下記の表のようである。本章がカバー
した上位2
0
0社については,上場企業は全体の3
2.
5%に限られ,1
9
9
9年の時
点でも半数以上が非上場にとどまっている。上位5
0
0社では,上場企業は概
ね4分の1程度に限られてしまう。先進国における研究と異なり,タイの製
造業について主要企業の行動をとらえる場合には,上場企業をサンプルに限
定することは非常に深刻なサンプル・バイアスを招く可能性がある。
〔注〕
!
1
!
2
本書第4章の表1,2もあわせて参照されたい
金融危機後,破綻したLaem
Thong
Bankの 受 け 皿 銀 行 と し て 発 足 し た
Radanasin Bankは,1
9
9
9年1
1月にシンガポールのUnited Overseas Bankに売
却された。本章ではこの銀行はグループBの類型に入れている。
3
!
本章で用いたデーターソースの貸借対照表には法定準備金,資本準備金の別
は明記されていない。ここでは,資本剰余金(Additional Paid in Capital。タ
イの貸借対照表ではPaid in Capitalと記載されていることが多い)を中心とし,
その他の剰余金を含んだものを「準備金」として扱っている。
総資産順位 上場企業数
上場企業比率
1
0
0
3
8
3
8.
0%
2
0
0
6
5
3
2.
5%
3
0
0
8
2
2
7.
3%
4
0
0
1
0
5
2
6.
3%
5
0
0
1
1
7
2
3.
4%
2
5
2
4
!
金融危機以降も各行は,ATMの拡充やインターネット・バンキングへの展開
などを推進しており,預金の持続的な拡大はこのような要因によるものと考え
られる。
!
5
!
6
従業員の削減に関しては本書第4章表1
2も参照されたい。
ただし,2
0
0
0年には利子収入,非利子収入ともすべてのグループの銀行で下
げ止まっている点は回復の小さな兆しとして,注目に値する。
7
!
ただし,非上場企業については1
9
9
0∼9
4年の期間についてのデータの整合性
が確保できなかったため,この部分は観察に利用していない(補論参照)
。
一般的に損失の累積は,金融機関と同様に,貸借対照表上では内部留保にマ
イナスを付すことで処理されていることに注意されたい。
8
!
非上場企業では1
9
9
5∼9
6年段階ですでに内部留保がマイナスとなっており,
この時期すでに収益性が悪化していたことがうかがわれる。
9
!
以下,両社の概要については,末廣・南原[1
9
9
1]を中心として,
『週刊タイ
経済』掲載の関連記事,各社年次報告書などの情報にもとづいている。なお,
サイアムセメント・グループの社史および危機以後の再編については,本書第
2章により詳しい。
!
ただし,関連企業借入の上昇は観察されない。
バンコク銀行の子会社・関連会社でデータが入手可能なものは,上場企業に
限られた。
10
!
11
〔参考文献〕
〈日本語文献〉
奥田英信[2
0
0
0]
『ASEANの金融システム』東洋経済新報社。
三重野文晴[2
0
0
0a]
『タイ製造業における企業の資本構成―エージェンシー・コ
スト理論の途上国への適用可能性―』
(アジア経済研究合同学会論文集,東
アジア経済学会)
。
(国宗浩三編『金融と企業
――[2
0
0
0b]
「タイにおける企業金融構造と金融危機」
の再構築―アジアの経験―』アジア経済研究所)
。
末廣昭[2
0
0
0]
「タイ大企業のデータと分析―国営企業・多国籍企業・財閥グルー
プ―」
(東京大学社会科学研究所調査報告第2
8集,東京大学社会科学研究所)。
――・南原真[1
9
9
1]
『タイの財閥―ファミリー・ビジネスと経営改革―』同文館
出版。
――・東茂樹編[2
0
0
0]
『タイの経済政策―制度・組織・アクター―』アジア経済
研究所。
寺西重郎[1
9
9
1]
『工業化と金融システム』東洋経済新報社。
第5章
コーポレート・ファイナンス 2
5
3
〈英語文献〉
Claessens, Stijn, Simeon Djankov and Larry Lang[1
9
9
8]
“East Asian Corporations: Growth, Financing and Risks Over the Last Decade,
” World
Bank Policy Research Working Paper No. 2
0
1
7, Washington, D. C.: The
World Bank, November.
Modgiliani, F, and M. H. Miller[1
9
5
8]
“The Cost of Capital, Corporate Finance and the Theory of Investment,
”American Economic Review, Vol.
9
7.
4
3, No.3, pp.2
6
1―2
Myers, S. C. and N. S. Majluf [1
9
8
4]
“The Corporate Financing and Investment Decisions When Firms Have Information that Investors do not
2
1.
Have,
” Journal of Financial Economics, Vol.1
3, No.2, pp.1
8
7―2
8
5
5―1
9
8
5, Tokyo:
Suehiro, Akira[1
9
8
9]Capital Accumulation in Thailand 1
The Center for East Asian Cultural Studies.
Yupana Wiwattanakantang[1
9
9
9]
“An Empirical Study on the Determinants
of the Capital Structure of Thai Firms,
”Pacific Basin Finance Journal ,
0
3.
No.7, pp.3
7
7―4
――[2
0
0
0]
“The Effects of Ownership Structure and Corporate Governance
on the Performance of Thai Firms,
”mimeo.
(三重野
文晴)
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第5章 コーポレート・ファイナンス