論文
河川技術論文集,第7巻,2001年6月
洪水時に発生した高水敷の洗掘原因
HYDRAULIC REASON FOR SCOURING ON FLOODPLAIN DURING FLOOD
渡邊康玄1・大山史晃2
Yasuharu WATANABE and Fumiaki OYAMA
1正会員
2正会員
工博
工学
北海道開発土木研究所
北開水工コンサルタント
環境研究室(〒062-8602 札幌市豊平区平岸1-3-1-34)
河川調査部(〒062-0052 札幌市豊平区月寒東2-20-5-10)
Large-scale scouring was generated during the 1998 flood of the Shokotsu River resulting in
revetment damage. The cause of this scouring of the flood plain was considered for the purpose of
understanding the impact of flood to channels. It seemed that the scouring was caused by the formation
of double-raw bars. A linear stability analysis in unsteady flows is performed to understand the
behavior of the sandbar formation. The stability analysis under unsteady flow conditions indicated that
bar formation did not change so much and double-row bars formed during the flood. This result concurs
with field observations.
Key Words : Flood disaster, Scouring, Sand bar, Double-row bar, Alternate bar, Stability analysis,
Shokotsu River
1. はじめに
1997年の河川法の改正により、河川環境が河川整備の
目的の一つとなり、平常時の河川環境の保全・創出を目
的とした施策が進められている。しかし、河川環境は平
常時の状態のみならず、洪水による撹乱や渇水の影響等
を受けつつ成立している。一方で、集中豪雨による計画
規模に匹敵する洪水が各地で頻発しており防災面での対
策も進められている。洪水における河道へのインパクト
を把握することは、「川の365日」を意識しつつ治水・
利水・環境に関わる施策が策定されている現在、河道の
維持管理を考える上で非常に重要な事項となっている。
洪水の河道へのインパクトとしては、流れによる物質の
流送や河床形状の変化あるいは河道そのものの移動が挙
げられる。
防災面で見ると、河床形状の変化の大きな要因として
砂州の形成があるが、河床に砂州が発生すると、流れは
その影響を受けて蛇行し水衝部を形成する。また砂州の
前縁部には局所的にかなりの深掘部が形成される。この
ように災害と砂州の発生形態とは密接に関係している。
一方自然環境から考えると、近年になってダムの洪水制
御等による砂州の固定化が進み、河川生態系の保全のた
めの河床形状の攪乱が必要不可欠であると指摘されてい
る1)。このことから、ダム放流等により人為的に洪水を
発生させ、自然環境の復元を目指す動きも見られるよう
になってきている。人為的な洪水を発生させるためには、
水資源の有効な利用を考慮する必要があり、河床の攪乱
に対して効果的な洪水波形や継続時間を算定する必要が
ある。洪水の河道へのインパクトとして洪水時の砂州の
挙動を的確に把握することは、防災および自然環境の両
面から必要不可欠の課題となっている。
一級河川渚滑川において1998年9月に発生した計画高
水位に達する規模の洪水の際に、高水敷に低水護岸の破
壊を引き起こした規模の大きな洗掘が生じた。洪水の河
道へのインパクトを把握することを目的として、この高
水敷の洗掘原因を検討することとした。本研究は、洪水
直後に行った現地踏査の結果を踏まえ、渡邊らの非定常
流下の安定線形解析手法2)を用いて渚滑川の洪水時にお
ける砂州の挙動を検討し、高水敷上に発生した洗掘と砂
州との関係について考察を行った結果を報告するもので
ある。
渚滑橋(KP2.0)
被災地点(KP16.0)
オホーツク海
上渚滑(KP19.4)
流れ
滝ノ上
立牛
天塩岳
0
5 10km
写真- 1 高水敷の洗掘状況
図- 1
渚滑川流域概要
40.5
流量
水位
流量(m3 /s)
1400
40.0
1200
39.5
1000
39.0
800
38.5
600
38.0
400
37.5
200
37.0
0
98/9/16 12:00
98/9/17 12:00 98/9/18 12:00
時間
36.5
98/9/19 12:00
A
水位(m )
1600
洗掘箇所
流れ
図− 2 1997年9月洪水の上渚滑における流量と水位
2.高水敷に生じた洗掘の概要
写真- 2 洪水直後における洗掘箇所周辺の状況
しており、白破線より下が低水路、上が高水敷となって
いる。また、流れは右から左の方向に流れている。低水
検討を行った洪水は1998年9月16∼17日に渚滑川で発
生した降雨出水である。渚滑川は、北海道東部に位置し、 路護岸に沿って深さ1m程度で幅30m長さ250m程度の洗掘
が生じたことがわかる。写真−1に見られるように、天
オホーツク海に注ぐ幹川流路延長84km 、流域面積
端工の被災状況が低水路側に捲れあがるような状態でな
1,240km2の一級河川である。図−1に渚滑川の流域概要
く下部の土砂が流掃されたと思われる状態であったこと
を示した。1998年9月の洪水は高水敷高以上に増水し、
から、護岸背面方向から低水路方向への戻り流れによる
下流部の上渚滑及び渚滑橋の各観測所で計画高水位を超
3)
被災ではないと判断される。
え、観測史上最高の水位を記録した 。図−2は、この洪
洗掘箇所の状況をより広範に見ることとする。現地踏
水の上渚滑における流量と水位の変化を示したものであ
査により状況の把握を行ったが、ここでは写真を用いて
る。河口から19.4km上流に位置する上渚滑におけるピー
3
述べることとする。写真−2は、洪水直後に撮影された
ク流量および水位はそれぞれ1,500m /sおよび39.89mで
3
航空斜め写真である。写真中「A」と記した洗掘箇所前
あり、計画流量および水位の1,300m /sおよび39.68mを
面の砂州の両側を洪水流が流下した形跡が読み取れると
上回っている。なお、越水の被害は観測されていない。
ともに、現地踏査によって把握した「A」と記した砂州
洪水期間中に写真−1に見られる砂州が発生したと思
及び周辺の砂州上に生育していた植生の多くが流失ある
われる大きな深掘部が高水敷に形成され、低水路護岸が
いは倒伏していたことが確認できる。また、洗掘部直下
崩れる被害が報告されている。この災害は、河口から約
流の高水敷が白っぽく写っているが、これは砂礫堆状の
16km上流の右岸高水敷で発生した。図−3は、洗掘箇所
堆積が生じているためである。「A」と記した砂州は、
周辺の河道形状を示すコンタ−図である。上から、洪水
高水敷高と同程度の高さとなっていた。洗掘発生位置及
前の河床標高、洪水後の河床標高、および洪水前後の標
び植生の倒伏方向等から判断した洪水流の流向を図−4
高の違いすなわち洪水による洗掘深を、それぞれ示した
に示した。河床形状及び流向等から判断すると、「A」
ものである。図中の白破線は、低水護岸法肩の位置を示
洪水前
高水敷
低水路
洪水後
高水敷
低水路
洪水前後の差
流れ
低水路
m
図− 3 洗掘箇所周辺における洪水前後の地形コンタ-
と記した砂州は複列砂州河道に見られる河道中央部に形
成される砂州であると考えられる。図−4について砂州、
流向、被災箇所に着目し、模式的に表したものが図−5
である。被災箇所は、砂州「A」の前縁部に位置してい
ることがわかる。このことから被災の原因は洪水中の砂
州前縁が護岸箇所に位置していたためであると判断され
た。災害が、砂州の影響により生じたと判断されたこと
から、被災箇所を含む河道に形成される砂州の挙動につ
いて検討を行うことにした。
A
高水敷
植生域
被災箇所
流向
0
250
500m
図- 4 被災箇所付近の河道形状と
痕跡による流向
3.非定常線形安定解析の概要
A
砂州前縁
洗掘箇所
洪水流向
今回の洪水は、河床形状を形成するといわれる融雪出
水等継続時間の長いものではなく、継続時間が数日単位
図- 5 被災箇所付近の砂州形状と流れの模式図
の出水を対象としている。三輪ら4)、Tubino5)および渡邊
ら2)は、非定常流れにおける砂州の挙動が定常流れにお
τy
∂V
∂V
∂V ∂H
ける砂州の挙動と異なることを指摘している。このこと
σ
+U
+V
+
+ β0
=0
(2 )
∂τ
∂x
∂y ∂y
D
から、砂州の挙動について洪水の非定常性を取り込んだ
非定常線形安定解析2)を用いることとした。非定常線形
∂D ∂(UD ) ∂(VD )
安定解析の概要を以下に示す。
=0
(3)
σ
+
+
∂y
∂x
∂τ
川幅 2B * の直線水路における拡散項を省略した非定常
2次元浅水流式と連続の式および掃流砂を対象とした流
2
∂Qby 
 ∂Q
∂ F0 H − D
砂連続式を、図−6および図−7に示す記号を用いて、
=0
(4)
+ Q0  bx +
∂t
∂y 
 ∂x
(U ,V ) = (U * ,V * ) U 0* 、 D = D1 * D0* 、 H = H * F0 2 D0* 、
(Qsx , Qsy ) = Qsx* , Qsy * ∆g *d s*3 2
、
ここで、 t * ;時間、 x* , y * ;縦横断方向座標軸、
2
(τ , t ) = t * 1 σ * , B* U 0* 、 (τ x ,τ y ) = τ x* ,τ y * ρ *U 0* 、 U * ,V * ; x* , y* 軸方向の流速、 H * ;水位、 D* ;水深、
(x, y ) = (x* , y * ) B* で無次元化すると、(1)∼(4)式となる。 η* ;河床高( = H * − D* )、τ x * ,τ y * ; x* , y* 軸方向の剪断
*
*
力、 Qbx , Qby ; x * , y * 軸方向の掃流砂量、 ρ * ;水の密度、
τx
∂U ∂H
∂U
∂U
σ
+ β0
=0
(1)
+
+V
+U
g * ;重力加速度、1 σ * ;洪水の継続時間である。また、
∂y ∂x
∂x
∂τ
D
(
(
)
(
)
)
(
(
)
)
(
)
(
)
* 12
F0 = U 0 g * D0
、 β 0 = B* D0 、 σ = σ * B * U 0 、
12
3
*
(1 − P )U 0* D0* 、 ∆ = ρ s* − ρ * ρ * で あ
Q0 = ∆g *d s
*
*
り、 ρ s , P, d s ;河床材料の単位堆積重量・空隙率・粒
*
*
*
径、 U 0 , H 0 , D0 ;基底流の流速・水位・水深である。
なお、*の付いた記号は有次元量を示し、付いていない
ものは無次元量を表している。
ここで各諸量を、波形によって決定されるものと、河
床の変化に伴う摂動量に分けU = U 0 + εU 1 、V = εV1 、
H = H 0 + εH 1 、 D = D0 + εD1 、 C f = C f 0 + εC f 1 、
ϑ = ϑ0 + εϑ0ϑ1 、 φ = φ 0 + εφ 0φ1 等で表現する。ここで、
*2
*
C f ;河床摩擦係数 = U * U *2 , U * ; 摩擦速度 、 ϑ ;
*3
無次元掃流力、 φ ;単位幅流砂量を ∆g *d s で無次元
化した掃流砂関数、 ε ;摂動パラメータである。河床波
の波長は一般に洪水波の波長に比べ十分小さい。このた
め、定点では時間的に洪水波の挙動すなわち水位の上昇
下降等の挙動を示すが、洪水波によって決定される水深
や流速の変化は時間のみに依存し、水面勾配は時間的に
変化しない状態を扱うこととすると、波形によって決定
される U 0 ,V0 , H 0 , D0 等は時間 t のみの関数であり、 x, y
については一定値となる。水路側壁において横断方向流
速0となる条件を考慮し、交互砂州形成に伴う摂動量
U 1 ,V1 , H 1 , D1 について、(5)式で表現する。
(
*
*
) [
*
]
(
)
(
1
1
1
1
y*
1
1
1
1
1
1
1
1
H*
U*
V*
D*
η*
2B *
)
{U ,V , H , D } = {Uˆ ,Vˆ , Hˆ , Dˆ }{S , C , S , S }E
1
x*
図− 6 座標系模式図
D*
D0 (t* )
*
D0
*
1 σ*
t*
図− 7 洪水波の模式図
(5)
+ c.c.
∂c f
ϑ ∂c f
, CD = 1
, Φ T = ϑ 0 ∂φ
,
CT = 0
こ こ で 、 S1 = sin (πy 2) 、 C1 = cos(πy 2) 、
φ 0 ∂ϑ ϑ =ϑ0
c f 0 ∂ϑ ϑ =ϑ0
c f 0 ∂D D = D0
E1 = exp(iλx ) であり、 i ;虚数単位、 c.c. ;共役複素数、
λ ;縦断方向砂州波数( λ = 2πB * L* , L* ;砂州波長)であ
D ∂φ
,
,
a1 = (C T − 1)λD 0
ΦD = 0
る。
φ 0 ∂D D = D0
通常 σ << 1 であり慣性項を省略するとともに、
Û 1 ,Vˆ1 , Hˆ 1 を D̂1 で表し整理すると(6)式が得られる。
a2 = β 0 c f 0 (− 3 + CT + C D D0 ) , a3 = 2 β 0 c f 0 {π 2 − 2(CT − 1)λ2 } ,
∂Dˆ 1
+ G d s 0 , β 0 ,ϑ0 , D0 , λ Dˆ 1 = 0
∂t
(
)
(6)
ここで、 d s 0 = d s D 0 、 ϑ 0 ;基底流の無次元掃流力
である。また G (d s 0 , β 0 ,ϑ0 , D0 , λ ) は、複素関数であり(7)式
で表される。
*
*
(
)
F0
∂f H
+
2
F0 f H − 1 ∂t
2
G d s 0 , β 0 ,ϑ0 , D0 , λ =
1
Q0φ0  iλ  2

−
 Φ T fU D0 2 + CD Φ T + Φ D (1 − CT ) −

2
F0 f H − 1 1 −C T  K




1
1 1
1
r

−
2
F0 f H − 1 
(7 )
π  fV D0 2 − π
1

2 K
2 βϑ 2

0 0


(
)
ここで、(7)式中の諸係数は、以下のとおりである。
fU = −
iK (− 4ia1λ2 + a2π 2 + a3 )
(a a
1
fH = −
(
+ ia3 )D0 2
1
4
,
1
)
4
2 Kπλ (a2 + ia1 )
(a a
1
4 K 2 λ β 0 c f 0 + iλD0 (a2 + ia1 )
(a a
fV =
+ ia3 )D0
+ ia3 )D0 2
1
4
,
(7)式の解は、 G(d s 0 , β 0 ,ϑ0 , D0 , λ ) が t について独立であ
る場合(流れが定常状態)には(8)式となり、基本的に従
来と同様の結果6), 7)を示す。しかし流れを不定流として
いるため D0 が時間の関数であり、 G(d s 0 , β 0 ,ϑ0 , D0 , λ ) は t
の関数となる。したがって解は(9)式となる。
Dˆ 1 = exp[− Gt ] const.
(8)
t
Dˆ 1 = exp − ∫ Gdt ' const.
 t

0
(9)
(8),(9)式の指数部の実数部は、摂動量が時間的にどの
ように変化していくかを表すものであり、言い換えれば、
交互砂州の時間に関する増幅率 Ω (定常流: Ω S = −G 、
t
非定常流 ΩU = − ∫ Gdt ' )である。増幅率が正の値のとき
t
交互砂州は発達し、負の値のときは減衰する。複列砂州
の場合には、(5)式の代わりに(10)式を用いることによ
り、複列砂州の増幅率が得られる。
0
,
1
 θ ∆d  2
K =  0 s2 
C F 
 f0 0 
a 4 = π 2 + 4 λ2
,
{U ,V , H , D } = {Uˆ ,Vˆ , Hˆ , Dˆ }{C , S , C , C }E
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
2
2
2
+ c.c.
(10)
ここで、 S 2 = sin (πy ) 、 C 2 = cos(πy ) 、 E 2 = exp(2iλx )
320m
基底流 ピーク 河床
の水深 水深
材料
1.0m
3.1m 0.029m
河床
勾配
1/420
洪水継
続時間
32hr
d s0
β0
ϑ0
ϑc
τp
0.029
160
0.05
0.05
0.22
7.0E-01
3.5
6.0E-01
3.0
5.0E-01
2.5
4.0E-01
2.0
3.0E-01
1.5
2.0E-01
1.0
非定常・単列
非定常・複列
無次元水深
1.0E-01
0.5
0.0E+00
1.6m
無次元水深D0
川幅
ΩU1 , ΩU2
表− 1 検討に用いた諸元
0.0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
τ
図− 10 非定常流での砂州増幅率の時間変化
110m
320m
4.0
0.20
3.0
0.15
2.0
0.10
1.0
0.05
0.0
無次元掃流力 θ
θ0
0
無次元水深 D
D0
0
図− 8 被災箇所近傍(KP15∼17)の横断形状模式図
log(ΩS1 /ΩS2 ), log(ΩU1 /ΩU2 )
0.2
図− 9
0.2
0.4
0.6
0.8
無次元時間 τ
0.1
単
列
砂
州
0.0
複
列
砂
州
-0.1
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
τ
0.8
1
図− 11 単列砂州および複列砂州の増幅率の比
0.00
0
非定常
定常
1.0
1
0.9
無次元水深および無次元掃流力の時間変化
である。
C f ,φ に具体的な関数形を与え、 d s 0 , β 0 ,ϑ0 および洪水
波形である D0 を入力することにより、任意の波数 λ の
交互砂州についての増幅率が求まる。線形解析において
は、各増幅率の中で最大の値 Ω を示した波数 λ の河床波
が形成されることになる。
λ
0.8
0.7
非定常・単列
非定常・複列
定常・単列
定常・複列
0.6
0.5
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
τ
図− 12 単列砂州および複列砂州の波数
4.安定解析の適用
検討に用いる断面形状は、縦断的にある程度の距離を
持つ砂州の挙動を対象としていることから、被災箇所を
挟む河口より上流15.0kmの地点から17.8kmの地点の河道
形状を平均した断面とした。なお、高水敷における洗掘
と砂州形成との対応を検討することから、堤堤間320mを
川幅とし、それに合わせて河床高も低水路高と高水敷高
の平均値とした。図−8の破線で示される断面形状を平
均し、実線で表される断面形状を検討では用いている。
検討に用いた洪水のハイドロデータ D0 は、検討対象
区間において水位が観測されていないことから、直近の
観測所である上渚滑における観測水位を用いることとし
た。しかし、対象区間と上渚滑における標高が異なるこ
とから、水深を算出する際に、図−8の破線で示される
複断面の低水路高を上渚滑観測所における低水路高と置
き換えて算出した。 その結果が(11)式である。

1.11(τ+ 0.393) 2
D0 (τ) = 
− 0.986
2

 τ + 0.0864
3
2
(11)
このとき、基底流量の水深 D 0 として ϑ 0 が限界掃流力
ϑ c となる水深を用い、洪水継続時間もϑ 0 > ϑ c となる時
間とした。検討に用いた諸元を表−1にまとめて記した。
ここで、表中の τ p は無次元時間 τ 表示の水位ピーク生
起時間である。図−9は、 (11)式で表される水深の時間
変化を示したものである。なお、水面勾配が時間的に変
化しないとしていることから、無次元掃流力も同じ曲線
で表現される。
*
C f ,φ の具体的な関数形として、それぞれ (12)式で表
の大きな洗掘が複列砂州の形成によるものであると判断
された。このことから、砂州の形成に洪水の特徴である
されるEngelundら による摩擦係数および(13)式で表さ
9)
れるMeyer Peter – Müller の流砂関数を用いることとした。 非定常性を取り込んだ解析を行うこととした。洪水時の
水理量を用いた解析の結果、現地踏査の結果とも一致し、
 D 
−1 / 2

(12) φ = 8(ϑ − ϑc )32 (13) 洪水期間中河床形態に大きな変化が無く、砂州の発達が
= 6 + 2.5 ln
Cf

 2.5d s 
促進されたと想定された。
図−10は、流れを非定常流として扱った場合の砂州増
一般に、高水敷は低水路河床に比べ敷高が高く、その
幅率すなわち、 ΩU の時間変化について、単列砂州 ΩU 1
分低水路に比べ掃流力が小さく、洗掘を受けづらいと考
と複列砂州 ΩU 2 の違いを示したものである。 τ が0.2付
えられている。しかし、計画高水位に達するような規模
近すなわち水位ピーク頃まで単列砂州と複列砂州の増幅
の洪水では、高水敷であっても砂州が形成され、規模の
率がほぼ等しい。その後τ が0.75付近まで単列砂州の増
大きな洗掘が生じることがあり、複断面河道においても
幅率がやや大きくそれ以降複列砂州の増幅率が大きく
堤々間を河床と見なした考え方を行わなければならない
なっているが、全体的にはほぼ同じ傾向を示している。
場合があるとともに、河床形状を考える場合には洪水の
図−11は、 ΩU 1 と ΩU 2 の比の対数をとった値の時間変化
非定常性を考慮することにより、洪水時の河床形態につ
を示したものである。この値が正の値を示すと単列砂州
いてある程度把握できることを明らかにした。
の領域、負の値を示すと複列砂州の領域にあることを意
味する。なお、比較のため、流れを定常とした場合の増
幅率の比すなわち Ω S 1 Ω S 2 についても併記している。
謝辞:洪水後の現地踏査において北海道大学大学院長谷
流れを定常とした場合に比較し、非定常とした場合の増
川和義先生から貴重な助言を頂いた。また、本研究で用
幅率の比は変化が少なく、対数比で ±0.1 以下であり場
いた航空写真、洪水流の流向データ、水位データおよび
の状態が大きく変化しなかったと想定される。すなわち、
測量データは、国土交通省北海道開発局網走開発建設部
定常とした場合では水位の変化により場の変化を引き起
治水課からいただいた。ここに記して感謝申し上げます。
こし、それに伴って河床形態も大きく変化すると判断さ
れるが、流れの非定常性を考慮すると河床形態が大きく
変化しなかったものと考えられる。
参考文献
次に、λの時間変化を図−12に示した。比較のため、
1) 巖倉啓子、船木淳悟、馬場仁志:流況の変化が河道内植生に
流れを定常とした場合の時間変化も併記した。図中の矢
及ぼす影響に関する一考察、土木学会第53回年次学術講演会
印は、図−11において推定される砂州形態を考慮して、
講演概要集第7部、pp.554-555, 1998.
砂州波数曲線の単列から複列へあるいは複列から単列へ
2) 渡邊康玄、Tubino M. 、Zolezzi G. :非定常流における交互
の移行を示したものである。非定常流とした解析では、
砂州の安定解析、土木学会第56回年次学術講演会講演概要集
定常流とした場合に比べて時間的変化が小さい。さらに
第2部、 2001.(投稿中)
非定常流の場合について、砂州の形態が単列砂州と複列
3) 北海道開発局網走開発建設部:平成10年9月16日∼17日発生
砂州の遷移的なものと考えると、λは大きく変化せずほ
(台風5号)洪水報告書
ぼ0.55∼0.75の値で推移しているものと考えられる。
4) 三輪浩、池田香織、谷和憲:正弦波状流量変化による交互砂
図−4に示される範囲の砂州形状が図−5で表わされる
州の発達・変形過程、土木学会第55回年次学術講演会講演概
とすると、堤々間の川幅を基準としたλは0.6∼0.7程度
要集第2部、pp.540-541, 2000.
となり、今回の解析結果とほぼ一致する。
5) Tubino, M. Growth of alternate bars in unsteady flow. Water
このように、今回洗掘を受けた箇所について、砂州の
Resources Research, Vol. 27, No. 1, 37-52,1991.
増幅率および砂州波数の変化が洪水期間中に大きく変化
6) Colombini, M. et al. Finite-amplitude alternate bars, J. Fluid Mech.,
しなかったことから、河床形態も変化せず、砂州の前縁
181, pp.213-232, 1987.
の位置も大きく変化しなかったと推定される。このこと
7) 渡邊康玄、M. Tubino:掃流砂・浮遊砂を伴う流れの交互砂
により、砂州「A」の前縁に位置する高水敷に洗掘が生
州発生に関する研究、土木学会水工学論文集第36巻、pp.7じたものと考えられる。
8)
14, 1992.
8) Engelund, F. and Hansen, E.:A Monograph on Sediment Transport
5.おわりに
in Alluvial Streams, Copenhagen, Danish Technical Press, 1967.
9) Meyer – Peter, E., and Muller, R., : Formulas for Bed-Load
Transport, Proc. 2nd IAHR Meeting, Stockholm, pp.39-64, 1948.
植生の倒伏状況から判読した流向、砂州を含む河床形
状等、洪水直後の現地踏査の結果、高水敷に生じた規模
(2001.4.16受付)
論文
河川技術論文集,第7巻,2001年6月
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洪水時に発生した高水敷の洗掘原因