博士論文予備審査会
Coexistence mediated by a common predator
in three species host-parasitoid experimental systems
寄生蜂-寄主の3種実験系において共通の捕食者がもたらす共存持続性
総合文化研究科広域システム 石井弓美子
指導教官 嶋田正和
序論
なぜ自然界では、複雑な食物網を構築する多くの種
が、競争排除などにより消滅することなく共存してい
るのか?
平衡説
自然界は資源の需要と供給が
バランスする平衡状態
ニッチ分化によって多
種が共存
非平衡説
環境の攪乱や捕食などにより
種間競争の弱められた非平衡状態
中程度の攪乱説
(Connell 1978)
(MacArthur & Levins 1967)
捕食説
(Paine 1966)
序論
捕食説:捕食による共存促進効果
被食者の密度を低下させることで
種間競争を緩和し、被食者間の共存を促進。
(Paine 1966, review in Chase 2002)
とくに、捕食者が頻度依存捕食を行う場合、
被食者の共存促進効果は大きい。
捕食
(Murdoch and Oaten 1975, Hassell 1978, Abrams 1999)
これらは主に
野外における捕食者の操作実験
理論的な研究による予測
によって示唆されている。
種間競争
捕食・種間競争を含む実際の生物による実験系を構築
序論
マメゾウムシ2種と、寄生蜂を用いた実験個体群
ゾウムシコガネコバチ
Anisopteromalus calandrae
捕食
種間競争
ヨツモンマメゾウムシ
Callosobruchus maculatus
マメ
アズキゾウムシ
C. chinensis
共通の捕食者は、マメゾウムシの種間競争と3者
系の持続性にどのような影響を与えるか?
博士論文の構成
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
序論
3者系の長期累代動態
寄主2種間の競争
寄生蜂による寄主選好性の学習
寄生蜂の学習と系の共存持続性モデル
総合考察
博士論文の構成
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
序論
3者系の長期累代動態
寄主2種間の競争
寄生蜂による寄主選好性の学習
寄生蜂の学習と系の共存持続性モデル
総合考察
材料
マメゾウムシは卵が孵化した後
3週間程度で成虫が羽化。
寄生蜂はマメゾウムシの幼虫・蛹
に産卵し、成虫が2週間程度で羽化。
2種の豆の割合を変えることに
よって寄生蜂の捕食圧を調節。
ブラックアイ:ほとんど寄生される。
アズキ:マメゾウにとってrefugeになる。
累代実験系のシステム
1週間ごとに
・10gの豆を追加
・個体数をカウント
2種の豆の割合を変えることによって寄生蜂の捕食圧を調節。
捕食圧の調節は5段階:
AZ10
low
8
2
5
捕食圧
5
2
8
BL10
high
結果1:寄生蜂なし
アズキのみ
ヨツモン
Number of Adults
アズキゾウ
豆の割合に関わらず
競争排除により
アズキゾウムシの消滅
ブラックアイのみ
weeks
アズキのみ
low
結果2:寄生蜂あり
Number of Adults
捕
食
圧
アズキゾウ
high
ブラックアイのみ
weeks
ヨツモン
共存持続性:2種マメゾウムシの共存期間
寄生蜂なし
寄生蜂あり
共
存
期
間
(
週
)
0
0.2
0.5
0.8
豆(ブラックアイ)の割合
1
0
0.2
0.5
0.8
豆(ブラックアイ)の割合
low
捕食圧
1
high
蜂の導入によりマメゾウムシ2種の共存が促進さ
れた。(p= 0.0136, lorank test)
寄生蜂の存在により共存が促進されるメカニズム
100
0
Number of Adults
可能性1:寄主の種間競争の緩和 (第3章)
可能性2:蜂による頻度依存捕食 (第4・5章)
0
20
40
weeks
60
80
本研究の目的:
これらの要因が個体群動態と3種の
共存持続性に与えている影響を解明
100
第1章 序論
第2章 3者系の長期累代動態
第3章 寄主2種間の競争
第4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
第5章 寄生蜂の学習と系の共存持続性モデル
第6章 総合考察
3章 寄主2種間の競争
マメゾウムシの種間競争
マメゾウムシの幼虫は、産卵された豆の中で資源をめぐって
競争し、羽化するまでパッチを移動することができない。
2つの競争戦略
Attack
コンテスト型
Avoid
スクランブル型
どちらがESSとなるかは、豆の大きさ(豆が大きいときスクラ
ンブル有利)や、AttackとAvoidが出会ったときの勝率などに
よって異なる(Smith and Lessells 1985, Colegrave 1994)。
 ブラックアイが多いほうが
2種マメゾウがより長い共存。
30
20
10
 ヨツモンによるアズキゾウの
競争排除。
0
第2章の長期累代実験では
2種の共存時間(週)
40
3章 寄主2種間の競争
00
20.2
8
0.5 6
0.8
豆(ブラックアイ)の割合
4
101
アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシの競争戦略は?
豆の大きさ(ブラックアイのほうが大きい豆)の影響は?
方法:10gの豆(アズキ・ブラックアイ)に対し2種マメゾウムシの導入個体
数をさまざまに変えて、次世代羽化個体数と羽化個体の体サイズを測定。
3章 寄主2種間の競争
5
10
5
10
15
20
0
10
20
30
40
3.0
5
コンテスト型(Attack )
2.5
2.5
3.0
0
0
アズキゾウ
2.0
幼虫による干渉行動あり
1.5
1.5
2.0
ヨツモン
1.0
1.0
(mg)
羽
化
個
体
サ
イ
ズ
アズキゾウ
スクランブル型(Avoid
)
ヨツモン
0
平1
均豆
羽あ
化た
個り
体
数
10
15
15
結果1:2種マメゾウムシの資源利用パターン
5
10
15
20
5
10
15
20
1豆あたりの平均幼虫密度
25
30
35
40
3章 寄主2種間の競争
結果2:競争曲線の最尤推定
導入個体数N(t)と次世代羽化個体数N(t+1)から競争曲線のパラメタを最尤推定。
N1(t+1) = λN1 (t) / {1 + a ( N1 (t) + α12 N2 (t) ) }b
競争係数α, 増加率λ, 環境収容力に関する定数 a, 密度効果のかかり方 b(Hassell and Comins 1976)
500
500
(t + 1)
400
(t +1)
400
300
H2( t+1)
H1(t+1)
300
200
200
100
100
0
0
100
100
400
200
300
200
400
100
(t)
(t)
H2
400
200
(t)
H1
(t)
H1
300
(t)
300
300
200
400
100
(t)
アズキ
α12= 4.144
α21= 0.768
アズキゾウはヨツモンマメゾウから
ブラックアイ
α12 = 4.038
α21 = 1.631
強い種間競争の効果を受ける。
競争係数α
(t)
(t)
H2
アズキの場合
3章 寄主2種間の競争
結果3:予想される種間競争
推定した競争曲線からN(t+1) - N(t) = 0 として平衡点を解析。
ブラックアイ(大きい豆)
ヨツモン導入個体数
ヨツモン導入個体数
アズキ(小さい豆)
ヨツモン勝利
ヨツモン勝利
不安定平衡点
アズキゾウ
勝利
アズキゾウ導入個体数
実際の長期累代実験の動態
0
1
2
3
4
5
6
7
log(アズキゾウ個体数)
6
3
4
5
初期値依存の競争排除
1
2
(10,10)
0
0
1
2
3
4
5
必ずヨツモン(Attack)
の勝利
(10,10)
log(ヨツモン個体数)
7
6
log(ヨツモン個体数)
7
アズキゾウ導入個体数
0
1
2
3
4
5
6
7
log(アズキゾウ個体数)
3章 寄主2種間の競争
考察:ランダムな取り除きによる密度低下の効果
毎世代Rの割合で2種マメゾウムシとも捕食されるとする。
N1(t+1) = λN1 (t)・(1-R) / {1 + a ( N1 (t) + α12 N2 (t) ) }b
ブラックアイ(大きい豆)
ヨツモン勝利
アズキゾウ導入個体数
ヨツモン初期個体数
ヨツモン初期個体数
アズキ(小さい豆)
不安定平衡点
アズキゾウ導入個体数
捕食者が密度を低下させるだけでは、
2種マメゾウが共存する領域が広くなることはない。
3章 寄主2種間の競争
3章まとめ
アズキゾウはAvoid型、ヨツモンはAttack型。
アズキ(小さな豆)では、ヨツモンがアズキゾウをブラックアイの場合より短い時
間で競争排除 → 小さい豆で Attack型(ヨツモン)が有利
・豆が小さいときAttackがESS (Smith and Lessells 1984, Colegrave 1995, Tuda and Iwasa 1998)
・小さな豆で継代するとコンテスト型が進化
(Toquenaga and Fujii 1991, Tuda 1996, Messina 2004)
初期頻度依存的な競争結果(ブラックアイ)
AvoidとAttackの競争結果が頻度依存的に決定される領域(Smith and Lessells 1984)
捕食による共存促進
本種間競争モデルの解析によれば、ランダムな捕食者が密度を減少させる だ
けではこれらのマメゾウムシ2種が長期共存するのは難しい。
第1章 序論
第2章 3者系の長期累代動態
第3章 寄主2種間の競争
第4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
第5章 寄生蜂の学習と系の共存持続性モデル
第6章 総合考察
寄生蜂のホスト選好性
1. 遺伝的に決定されたもの
(Prevost & Lewis 1990, Gu &Dorn 2000)
2. 可塑的な学習(産卵経験など)によるもの
(Turlings et al. 1993, Lewis & Martin 1990)
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
寄生蜂の学習
寄生蜂は、寄主やその寄主の利用する植物
などの化学的物質を用いてホストを探索。学
習により化学的物質に対する反応が増加。
( Turlings et al. 1993, Lewis & Martin 1990)
寄生蜂が化学的cueを学習するライフステ
ージは、卵・幼虫( Barron 2001, Gandolfi 2003 ) , 羽
化時・羽化後産卵時(Du et al. 1997, Fujiwara 2000)
など。
実験1:ゾウムシコガネコバチでは、
学習により寄主への選好性は変化するか?
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
1. 蜂の条件付け
・羽化前学習(どちらの寄主から羽化したか)
・産卵による学習(どちらの寄主に産卵させたか)
産卵による条件付け
1日
2. 選好性実験
2日
産卵
羽化
羽化前学習
産卵による学習
条件付けした蜂1♀
アズキゾウ幼虫 : ヨツモン幼虫
= (1:1)
2時間産卵
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
5
3
4
C.maculatus
C.chinensis
0
1
2
3
0
5
7
9
1
3
5
7
9
4
3
1
0
1
3
5
7
9
羽化前学習の効果は検出
されなかった。
とくにアズキゾウで
強い羽化後学習の効果
(アズキゾウp=1.03×10-10,
ヨツモン p=0.016, logistic regression)
2
4
1
2
3
5
3
5
1
0
蜂
が
羽
化
し
た
寄
主
1
2
産卵数
4
5
結果1:条件付けされた蜂の選好性
1
3
5
7
産卵条件付けした日数
アズキゾウ
産卵した寄主
ヨツモン
9
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
ゾウムシコガネコバチは2種のマメゾウムシ幼虫を見分け、 産
卵経験によって選好性を変化させていた。
このような産卵行動は、寄生蜂は数の多いほうの寄主に選好性
をシフトさせ、頻度依存捕食を引き起こす可能性。
実験2:
2種マメゾウムシの頻度が変動している累
代実験系で、寄生蜂の寄主選好性は
どのように変化しているか?
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
1週間ごとに累代実験系から蜂を取り出し、選好性の時系列的な変化
を調べた。
選好性実験
20♀
アズキゾウ:ヨツモン = (1:1)
3.5時間産卵
その後累代実験系に戻す。
Preference Index
ln
Preference = 0; 2種マメゾウを同数寄生
アズキゾウに対する寄生数
Preference > 0; ヨツモンをより多く寄生
ヨツモンに対する寄生数
Preference < 0; アズキゾウをより多く寄生
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
結果2:寄生蜂のホスト選好性の動態
preference
2種マメゾウが交互に増加
ヨツモン
preference
frequency
アズキゾウ
preference
2種マメゾウが
存在
ヨツモンのみ
2種のマメゾウムシ頻度が
振動しているほうが
選好性の分散が大きい
week
現在寄生できる幼虫の頻度と
寄生蜂の選好性に正の相関。
(F-test, p=0.001)
4章 寄生蜂による寄主選好性の学習
4章まとめ
実験1:ゾウムシコガネコバチは、学習により産卵経験の
ある寄主に対し選好性を示した。
実験2:実際の累代個体群において、2種マメゾウムシの
頻度とともに選好性が変化していた。
ゾウムシコガネコバチは、
寄主を学習することにより
頻度依存捕食を行っていた。
第1章
第2章
第3章
第4章
序論
3者系の長期累代動態
寄主2種間の競争
寄生蜂による寄主選好性の学習
第5章 寄生蜂の学習と系の共存持続性モデル
第6章 総合考察
4章で示された寄生蜂の選好性変化で、
累代実験で観察されたような共存持続性の増加を説明できるか?
5章 寄生蜂の可塑的な学習と系の共存持続性のモデル
モデルの構成
・マメゾウムシ2種N1,N2の再生産と種間競争は、3章でパラメタを推定した競争曲
線で計算。
・蜂P(t)が毎世代 a・(N1(t) + N2 (t))・P(t)のマメゾウムシを捕食。
・出会った寄主 i を発見して産卵する確率を Pi とする。蜂は寄主の存在頻度に応
じて、どちらかの寄主に出会う。寄主 i に対して産卵を経験すると、 Pi が増加(産
卵経験による学習)。産卵しないときには、 Pi はステップごとに d だけ減少する
(学習効果の減衰)。
1.0
学習による産卵効率の上昇
(Dukas and Real 1991)
0.8
1
Pi = c – be- r n
n: 産卵経験数
r : 学習効率
c,b: 定数
r = 0.01
0.2
0.4
0.1
0.0
Pi
0.6
0.5
0
20
40
60
産卵経験数 ni
80
i
100
5章 寄生蜂の可塑的な学習と系の共存持続性のモデル
結果1:捕食の強さ
実験結果
20
40
60
80
共
存
時
間
(
週
)
0
共
存
世
代
数
100
120
r=0.3
d=0.04
0.06
0.064
0.068
0.072
0.076
0.08
low
捕食圧
high
捕食の強さ(a)
中程度の捕食圧のときに長い共存時間がみられ、
実験結果に一致。
80
40
60
r: 経験によるPiの増加率
20
学習が速いほど系は持続。
0
共
存
世
代
数
100
5章 寄生蜂の可塑的な学習と系の共存持続性のモデル
0.01 0.1
共
存
世
代
数
0.5
1.0
2.0
i : host1に産卵したときの
host2のPdの減少
0
100
20
40
60
80
100
学習効率 r
0.0
1.0
1.5
2.0
60
80
d : 産卵しなかったときの
時間の経過によるPiの減少
20
40
寄生蜂が寄主を忘れにくいとき
系は持続。
0
共
存
世
代
数
0.5
0
0.08 0.2
d
0.4
0.6
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
序論
3者系の長期累代動態
寄主2種間の競争
寄生蜂による寄主選好性の学習
寄生蜂の学習と系の共存持続性モデル
第6章 総合考察
6章 総合考察
共通の捕食者による捕食が
系の持続性増加に与えている影響
種間競争の緩和の効果(3章)
頻度依存捕食の効果(4章)
今後の課題:より定量的なモデル解析により、蜂の学習
行動が3者の動態・安定性に与える影響を解析する。
●蜂の学習効率の行動解析
●長期動態の時系列から、寄主ー寄生蜂動態のより現実的
なパラメタを推定
6章 総合考察
・学習による捕食パターンの変化は、遺伝的に固定された選好性
の進化よりも、時間的に非常に早く起こり、個体群の持続性に影
響を与える。
・昆虫・鳥・魚など多くの生物で、学習による捕食行動の変化や、
頻度依存捕食が観察されている (Sheratt et al. 1993, Weale et al. 2000,
Shigemiya 2004 ) 。
学習により捕食行動を変化させる捕食
者が、生物個体群の持続性を増加させ
るひとつの実例。構成種の行動的可塑
性が群集の多様性維持に大きな役割を
もつ可能性を示唆。
The End
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3章 寄主2種間の競争