RCWA のフォーミュレーション
グレーティングによる回折効率の解析には、厳密結合波理論(RCWA、rigorous coupled-wave analysis)
がよく用いられる。RCWA に関する代表的な review 論文、
• [1] J. Opt. Soc. Am. A 12, 1068 (1995), M. G. Moharam, E. B. Grann, and D. A. Pommet,
Formulation of stable and efficient implementation of the rigorous coupled-wave analysis of binary
gratings
に従って、RCWA のフォーミュレーションを説明する。座標軸や文字の定義も論文にほぼ従っているが、
typo と思われる数式の間違いの訂正と多少の補足を加えている。この他には、
• [2] J. Opt. Soc. Am. A 13, 779-784 (1996), P. Lalanne and G. M. Morris,
Highly improved convergence of the coupled-wave method for TM polarization
• [3] J. Opt. Soc. Am. A 14, 1592-1598 (1997), Philippe Lalanne,
Improved formulation of the coupled-wave method for two-dimensional gratings
などを参考にした。
1
アウトライン
空間を z 軸に沿って次の三つの領域に分けて考える。
1. 光が入射する部分(領域 I、z < 0)
2. 回折格子の領域(グレーティング領域、0 ≤ z < d)
3. 光が出て行く領域(領域 II、d ≤ z )
最初に三つの領域中の電場と磁場を、x 軸方向への波数が異なる波を基底として展開する。そのときの展
開係数が後で決定すべき未知数になる。次に、三つの領域を分ける二つの境界面において、電場と磁場の
接線成分が連続である条件を課す。そこから展開係数に関する一次方程式を得る。最後に、その一次方程
式を解くことで反射側、透過側における回折効率を計算する。
RCWA は、数学的には行列の固有値問題と一次方程式を解くことに帰着されるので、原理的な困難さ
はない。しかし、実際に計算させるときには、0 に近い係数行列が出現する場合があり、数値的に不安定
region I
θ
y
z=0
d
x
Λ
nI
ngr
fΛ
grating region
z
nII
region II
図 1: グレーティングの配置と座標系の定義
1
nrd
な計算結果をもたらす恐れがある。[1] の論文では、その問題をうまく回避するフォーミュレーションを与
えている。
TE 波の場合
2
2.1
領域 I と II の電場を表す
TE 波は入射電場の x、z 成分がゼロで、y 成分だけが値を持つ。振幅を 1 に規格化した入射電場の y 成
分を次のように表す.
[
]
Einc,y = exp −jk0 nI (sin θx + cos θz)
(1)
時間依存は exp(+jωt) を仮定してあり、全ての項に共通になるので表記は省略してある。nI は入射領域
(z < 0)の屈折率で、波数ベクトルが kI = k0 nI (sin θ, 0, cos θ) で与えられる平面波を仮定している。入射
角度 θ は z 軸(回折格子の面に垂直な軸)と波数ベクトルのなす角度になる.k0 は真空中での波長 λ0 を
用いて、
k0 =
2π
λ0
(2)
で与えられ、真空中の波数ベクトルの大きさである。
平面波がグレーティングで回折されたとき、逆格子ベクトルの整数倍だけ波数ベクトルの x 成分が変化
を受ける。従って、i 次の回折光の波数ベクトルの x 成分は次式で与えられる.
(
)
λ0
2π
i = k0 nI sin θ − i
kxi = (kI )x −
Λ
Λ
(3)
ここで Λ は回折格子の格子間隔で、対応する逆格子ベクトルは 2π/Λ になる。一方、波数ベクトルの z
成分 kz は、マクスウェルの方程式から導かれる分散関係、
2
2
= εϵ0 µ0 ω 2 = (k0 n)2
+ kzi
kxi
を満たすように決定する。ここで、ϵ0 、µ0 は真空の誘電率と透磁率、ε は比誘電率、n ≡
(4)
√
ε は屈折率で
ある。すなわち kz は
{
kl,zi =
√
n2 − (kxi /k0 )2
√l
−jk0 (kxi /k0 )2 − n2l
+k0
(k0 nl > |kxi | のとき)
(k0 nl < |kxi | のとき)
(5)
で与えられる。l には領域を示す添え字(I か II)が入る。x 軸方向の波数 kxi が小さい場合には、kzi は実
数なので伝播する回折光が生じることに対応している。一方、kxi の絶対値が大きい場合(次数の高い回
折光の場合)には、kzi は純虚数となり、z 方向には指数関数で減衰する波(エバネッセント波)になる。
実際の数値計算おいては級数展開を有限の次元で打ち切ることになるが、その展開の高次のモードはエバ
ネッセント波になる。エバネッセントの場合の波数の符号に、−がついているのは、z が増加したときに
減衰する波を表現するためである。(波の位相の空間側にマイナスをつけて定義したため。)x 軸方向の波
数 kxi に関しては、境界面での連続性からスネルの法則が成立するので、領域によって区別する必要はな
い。(論文 [1] の kl,zi の定義式では、場合分けの記述で |kxi | の絶対値が抜け落ちている。コーディングの
際に間違いやすいので注意)
振幅反射率 Ri と振幅透過率 Ti を用いて、入射領域(領域 I)と出射領域(領域 II)の電場は次のよう
にかける。
EI,y
EII,y
( (
))
∑
= Einc,y +
Ri exp −j kxi x − kI,zi z
i
∑
=
Ti exp(−j(kxi x + kII,zi (z − d)))
i
2
(6)
(7)
ここで d はグレーティング領域の厚さを表す.反射波は −z 方向に進むので、波数の符号が − になってい
る。
(論文 [1] では、領域 II の z 方向の符号が − になっているが + の間違いと思われる.
)また、z 方向の
位相原点を z = 0 ではなく z = d に取っていることは、数値的に安定な定式化のために役立つことが後で
分る。
2.2
グレーティング領域の電場を表す
回折格子領域の比誘電率 ε(x) をフーリエ級数展開で表す.
(
∞
∑
ε(x) =
h=−∞
2πhx
εh exp j
Λ
)
Λ は回折格子の格子間隔で j は虚数単位。εh はフーリエ級数展開の関係式から、
(
)
∫
1 Λ/2
2πxh
εh =
ε(x) exp −j
dx
Λ −Λ/2
Λ
(8)
(9)
で計算することができる.binary grating(グレーティングの形状が矩形の凹凸で、屈折率は x 方向にの
み変化する)を仮定すると、
εh
ε0
sin(πhf )
(h ̸= 0)
πh
= n2rd f + n2gr (1 − f ) ( h = 0)
= (n2rd − n2gr )
(10)
(11)
が得られる。
(ε0 は真空の誘電率 ϵ0 と似ていて紛らわしいのだが、混同なるする場面は少ないので、[1] の
ままにしておく.
)nrd と ngr はグレーティング部分を形成する二つの材質の屈折率を表す.(添え字の rd
は ridge: 基板から飛び出した部分、gr は groove: へこんでいる部分からきていると思われる。)
グレーティング領域(0 < z < d)の電磁場を表す展開基底(モード)を得るために、電場の y 成分
と磁場の x 成分を次のように展開する。
Egr,y
=
∑
i
Hgr,x
Syi (z) exp(−jkxi x)
(
= −j
ϵ0
µ0
)1/2 ∑
(12)
Uxi (z) exp(−jkxi x)
(13)
i
ここで Syi (z) と Uxi (z) が、これから決定すべき深さ (z) 方向依存性を表す関数である。マクスウェルの
方程式、
∂B
∂t
∂D
= i+
∂t
∇×E = −
(14)
∇×H
(15)
より、B = µ0 H、D = εϵ0 E の関係式と時間依存性が exp(+jωt) であることを利用すると、
∇ × E = −jωµ0 H
(16)
∇×H
(17)
= jωε(x)ϵ0 E
がえられる。ここで電流密度 i = 0 を仮定した。電場が y 成分しか持たないことを利用して、磁場の x 成
分と電場の y 成分の関係式を式(16-17)から次のように得ることができる、
∂Egr,y
∂z
∂Hgr,x
∂z
= jωµ0 Hgr,x
= jωϵ0 ε(x)Egr,y +
3
(18)
∂Hgr,z
∂x
(19)
式(18)の両辺の項は式(12-13)で級数展開されているので、各 kxi での成分を等しいとすれば、
∂Syi (z)
= k0 Uxi (z)
∂z
(20)
√
が得られる。ここで ω ϵ0 µ0 = ω/c = k0 を用いた。一方、式(19)には展開されていない磁場の z 成分
Hgr,z が含まれている。そこで、式(16)から得られる式、
Hgr,z =
j ∂Egr,y
ωµ0 ∂x
(21)
を x で微分すると、
∂Hgr,z
j ∂ 2 Egr,y
=
∂x
ωµ0 ∂x2
(22)
であるから、これを式(19)に代入すると j 消去することができる。すなわち、
∂Hgr,x
∂z
=
jωϵ0 ε(x)Egr,y +
=
−j
(
ϵ0
µ0
)1/2 (
j ∂ 2 Egr,y
ωµ0 ∂x2
(23)
−k0 ε(x)Egr,y +
−1 ∂ 2 Egr,y
k0 ∂x2
)
(24)
である。これに、誘電率と電磁場に関する級数展開した式 (8)、(12)-(13) を代入、各 kxi 成分を等しいと
置くことで、次式が得られる。
∑
∂Uxi (z)
= −k0
εi−p Syp +
∂z
p
(
2
kxi
k0
)
Syi
右辺第一項に関して具体的に計算すると次のようになる。
(
)
∑
2πhx ∑
εh exp j
ε(x)Egr,y =
Syp (z) exp(−jkxp x)
Λ
p
h
[ (
) ]
∑∑
2πh
εh Syp (z) exp −j (kxp −
x
=
Λ
p
h
∑∑
=
εh Syp (z) exp [−jkxp+h x]
=
変形の途中では kxp −
p
h
i
p
∑∑
εi−p Syp (z) exp [−jkxi x]
(25)
(26)
(27)
(28)
(29)
2πh
Λ
′
= kxp+h であることを用い、変数の置き換え p + h = i を行った。
式 (20) と (25) は、z = k0 z のように無次元の変数を定義して、つぎのような行列形式に書き直すこと
ができる。
(
∂Sy
∂(z ′ )
∂Ux
∂(z ′ )
)
(
=
0
I
)(
A 0
Sy
)
Ux
(30)
ここで、行列 I は単位行列を表し、A は次式で定義される行列である。
A = K2x − E
(31)
ここで、行列 Kx は成分を kxi /k0 とする対角行列で、E は εi−p を ip 成分とする行列である。上の式をさ
らにまとめて一つの式で書くと、
∂ 2 Sy
= ASy
∂(z ′ )2
(32)
の形になる。
電場の展開係数 Sy の z 依存性を exp(qk0 z) の形に仮定とすると、上の式は
q 2 Sy = ASy
4
(33)
√
を意味する。したがって、行列 A の m 番目の固有値を gm とすると指数は qm = ± gm になる。すなわち、
固有値 gm に対応する固有ベクトルを wm とすると、グレーティング領域を表す電磁場の固有モードが、
Em =
∑
wi,m exp(±qm k0 z) exp(−jkxi x)
(34)
i
のように得られたことになる。ここで wi,m は固有ベクトル wm の i 成分を表す。固有モード Em は、x 軸方
向の波数が異なる波を重さ wi,m で重ね合わせた電場で、z 軸方向への依存性は各項で共通して exp(±qm k0 z)
になっている。したがって qm が実数の場合にはエバネッセント波を表し、純虚数であれば伝播する波に
なる。
ところで行列 A の固有値は必ず実数になる。なぜなら式 (31) の第一項の行列は、実の成分を持つ対角
成分なのでエルミート行列である。また、第二項は E の成分を定義する式 (9) を見ると、誘電率 ε(x) は
実数であることから、ε∗−h = εh である。エルミート行列の和はエルミート行列であるから、行列 A の固
有値は実数になる。
上で計算された固有モードに対応する磁場は、式(30)の上半分の式から、z ′ で微分することにより
(
Hm = −j
ϵ0
µ0
)1/2 ∑
wi,m (±)qm exp(±qm k0 z) exp(−jkxi x)
(35)
i
と計算できる。
グレーティング領域内の一般の電磁場は、一つの固有値 qm に対して z 軸の両方向に進む波があるこ
と、そして異なるモードの重ね合わせを考慮に入れて次のように展開できる。
Syi (z)
Uxi (z)
=
=
n
∑
m=1
n
∑
(
)
−
wi,m c+
m exp[−k0 qm z] + cm exp[k0 qm (z − d)]
(36)
)
(
−
vi,m −c+
m exp[−k0 qm z] + cm exp[k0 qm (z − d)]
(37)
m=1
−
ここで、c+
m と cm は後で決定されるべき未知数で、m 番目のモードの +z 方向と −z 方向に進む波の展開
係数でである。vi,m は vi,m = wi,m qm で定義され、vi,m を係数とする行列 V を用いるならば、qm を対角
成分とする対角行列 Q と成分が wi,m である行列 W を用いて、V = WQ とかける。
2.3
境界条件を課す
三つの領域で級数展開の形で表された電場と磁場の連続条件を考える。領域 I と II の磁場の x 成分に関
しては、マクスウェルの方程式 (式 (16)) から、
)
j
∂Ey
ωµ0
∂z
√
ϵ0 1 ∂Ey
= −j
µ0 k0 ∂z
(
Hx
= −
(38)
(39)
を用いて計算できる。各領域での電場と磁場をまとめて書くと、次のようになる。
領域 I
EI,y
Einc,y
HI,x
Hinc,x
[ (
)]
∑
= Einc,y +
Ri exp −j kxi x − kI,zi z
i
[
]
= exp −jk0 nI (sin θx + cos θz)
√ ∑
[ (
)]
+jkI,zi
ϵ0
= Hinc,x − j
exp −j kxi x − kI,zi z
Ri
µ0 i
k0
√
[
]
ϵ0
= −j
(−jnI cos θ) exp −jk0 nI (sin θx + cos θz)
µ0
5
(40)
(41)
(42)
(43)
グレーティング領域
Egr,y
∑
=
i
Hgr,x
Syi (z)
Uxi (z)
Syi (z) exp(−jkxi x)
√
= −j
n
∑
=
m=1
n
∑
=
(44)
ϵ0 ∑
Uxi (z) exp(−jkxi x)
µ0 i
(45)
(
)
−
wi,m c+
m exp[−k0 qm z] + cm exp[k0 qm (z − d)]
(46)
(
)
−
vi,m −c+
m exp[−k0 qm z] + cm exp[k0 qm (z − d)]
(47)
m=1
領域 II
EII,y
∑
=
i
HII,x
Ti exp[−j(kxi x + kII,zi (z − d))]
√
= −j
(48)
ϵ0 ∑ −jkII,zi
Ti
exp[−j(kxi x + kII,zi (z − d))]
µ0 i
k0
(49)
z = 0 において、電場と磁場の接線成分(x と y 方向)が連続であることを用いる。領域 I とグレーティ
ング領域での各 kxi 成分の項が等しいとすると、
δi0 + Ri
(
)
kI,zi
j nI cos θδi0 −
Ri
k0
=
=
n
∑
m=1
n
∑
(
)
−
wi,m c+
m + cm exp[−k0 qm d]
(50)
)
(
−
vi,m c+
m − cm exp[−k0 qm d]
(51)
m=1
が得られる。行列形式で表すために、新たに対角行列を三つ定義する。対角行列 X の対角成分は exp[−k0 qm d]、
YI の対角成分は kI,zi /k0 、そして YII の対角成分は kII,zi /k0 である。これらの行列を用いると、z = 0
での境界条件は次のように書ける。
(
) (
)
(
)(
)
δi0
I
W WX
c+
+
R=
(52)
jnI cos θδi0
−jYI
V −VX
c−
同様に、z = d での境界条件を考えると、
n
∑
)
(
−
wi,m c+
m exp[−k0 qm d] + cm
= Ti
)
(
−
vi,m c+
m exp[−k0 qm d] − cm
= j
m=1
n
∑
kII,zi
k0
m=1
が得られ、行列形式に直すと、
(
WX
W
VX
−V
)(
c+
)
c−
(
=
(53)
Ti
(54)
)
I
jYII
T
(55)
とかける。式 (52)-(55) は、展開の次数を n とすると 4n 本の関係式を表し、4n 個の未知数 R、T、c+ 、
c− に関する連立一次方程式である。
この方程式を解くもっとも直接的な方法は、全ての未知数を同時に解く方法である。すなわち方程式全
体を

I

 −jYI

 0

0
0
−W
−WX
0
I
jYII
−V
−WX
−VX
VX
−W
V
6

R


−δi0

 
  T   −jnI cos θδi0

 
  c+  = 
0

 
−
c
0






(56)
のように扱って、全ての未知数に関して同時に解く。ただし行列の次元が大きいのでこの方法は効率的で
はない。一見よさそうな別の方法は、式 (55) から係数 c+ と c− について解き、その結果を式 (52) 代入す
る方法である。しかし、
(
c+
c−
)
(
=
WX
VX
)−1 (
W
−V
I
jYII
)
T
(57)
の中の逆行列は、数値的不安定性を引き起こす可能性が高い。なぜなら、その行列中には対角行列 X が含
まれているが、その対角成分は exp[−k0 qm d] である。高次のエバネッセント波 (qm が大きい値を持つ) や
グレーティング領域が厚い場合 (d が大きい) には、その成分は実質的にゼロになる。連立一次方程式を解
く標準的な方法であるガウスの消去法を思い出すと、ピボットがゼロになると計算はそこでストップしな
ければならない。小さな値のピボットで無理に計算を進めると、その数で割り算を行うために数値的不安
定性の原因になる。
そこで先に R と T を消去して係数 c+ と c− を決定する手順を踏むのがよい。すなわち、式 (52) の上
側を R について解くと、
R = Wc+ + WXc− − a1
(58)
のようになる(a1 ≡ δi0 と定義した)。また、下側の式に代入すると、
a2 − jYI R
−
a2 − jYI (Wc + WXc − a1 )
+
−
+
(V + jYI W)c + (−VX + jYI WX)c
= Vc+ − VXc−
−
Vc − VXc
+
=
= a2 + jYI a1
(59)
(60)
(61)
になる。a2 ≡ jnI cos θδi0 と定義した。一方、式 (55) の上側からは、
T = WXc+ + Wc−
(62)
となるので、これを下側の式に代入すると、
VXc+ − Vc−
=
VXc+ − Vc−
−
(VX − jYII WX)c + (−V − jYII W)c
+
(63)
=
jYII T
jYII (WXc+ + Wc− )
=
0
(65)
これらを、まとめて行列の形にすると、次の連立一次方程式になる。
(
)(
) (
)
V + jYI W
−VX + jYI WX
c+
a2 + jYI a1
=
VX − jYII WX
−V − jYII W
c−
0
(64)
(66)
この一次方程式は安定に解くことができる。得られた c+ と c− を式 (58) と (62) に代入すると、R と T
が得られ、振幅反射率と透過率を計算することが出来る。
最後に、各モードへの回折効率 (反射側 DEri 、透過側 DEti )はポインティングベクトルの z 成分の比
から得られ、
DEri
= Ri Ri∗ ℜ
DEti
= Ti Ti∗ ℜ
(
kI,zi
)
k0 nI cos θ
(
)
kII,zi
k0 nI cos θ
を用いて計算できる。([追記] ポインティングベクトルの計算については最後の節にまとめた)
7
(67)
(68)
TM 波の場合
3
3.1
各領域の電磁場を級数展開で表す
次に、磁場がグレーティングに平行な場合(TM モード)を考える。基本的には TE モードの場合と同
様であるが、逆誘電率も展開しておくと分かりやすい。すなわち、
(
)
∑
1
2πhx
=
κh exp j
ϵ(x)
Λ
(69)
h
のように展開すると、その係数は
∫
1
κh =
Λ
Λ/2
−Λ/2
(
)
2πhx
1
exp −j
dx
ϵ(x)
Λ
(70)
の定義式から、
)
1
1
sin(πhf )
− 2
(h が 0 以外のとき)
2
n
ngr
πh
rd
1
1
f + 2 (1 − f )
n2
ngr
rd
(
κh
=
κ0
=
(71)
(72)
である。また κi−j を ij 成分とする行列 G を後のために定義しておく。
入射光の磁場の y 成分を
[
]
Hinc,y = exp −jk0 nI (sin θx + cos θz)
(73)
のように表す。(入射波は z < 0 の領域で定義されるが、[1] では z > 0 とあり、誤りであると思われる.
)
波数ベクトルの定義は TE 波の場合と同様に、
k0
kxi
kl,zi
2π
λ0
= k0 (nI sin θ − i(λ0 /Λ))
{
√
+k0 n2l − (kxi /k0 )2
√
=
−jk0 (kxi /k0 )2 − n2l
(74)
=
(75)
(k0 nl > |kxi | のとき)
(k0 nl < |kxi | のとき)
(76)
である。l には領域を示す添え字(I か II)が入る。入射領域と透過領域での磁場は次のように展開できる。
[ (
)]
∑
HI,y = Hinc,y +
Ri exp −j kxi x − kI, zi z
(77)
i
[ (
)]
∑
HII,y =
Ti exp −j kxi x + kII, zi (z − d)
(78)
i
マクスウェルの方程式から、
∇×H
= jωε(x)ϵ0 E
∇ × E = −jωµ0 H
(79)
(80)
が成立するので、電場の x 成分と磁場の y 成分とを書き下すと、
∂Hgr,y
∂z
∂Egr,x
∂z
= −jωϵ0 ϵ(x)Egr,x
= −jωµ0 Hgr,y +
∂Egr,z
∂x
(81)
(82)
がえられる。(論文 [1] では、下側の式の右辺第二項電場の添え字に誤りがあると思われる。) さらに、式
(79) から Egr,z は、
Egr,z =
−j ∂Hgr,y
ωε(x)ϵ0 ∂x
8
(83)
であるから、これを用いて式 (82) から電場の z 成分を消去すると
(
)
∂Egr,x
j ∂
1 ∂Hgr,y
= −jωµ0 Hgr,y −
∂z
ωϵ0 ∂x ε(x) ∂x
(84)
が得られる。
磁場と電場を次のように展開する。
Hgr,y
=
∑
Uyi (z) exp(−jkxi x)
i
(
Egr,x
= j
µ0
ϵ0
)1/2 ∑
(85)
Sxi exp(−jkxi x)
(86)
i
これらの展開式と誘電率 ε(x) に関する級数展開式を式 (81) に代入すると、右辺の係数は −jωϵ0 ×j
(
µ0
ϵ0
)1/2
=
k0 になるから、各 i 成分について比較することで
∑
∂Uyi (z)
= k0
εi−l Sxl (z)
∂z
(87)
l
が得られる。同様にして、級数展開式を式 (84) に代入することで、
∂Sxi (z)
1 ∑
kxi κi−l kxl Uyl (z)
= −k0 Uyi (z) +
∂z
k0
(88)
l
が得られる。このとき右辺第一項、第二項の係数は
( √ )
µ0
−jωµ0 / j
=
ϵ0
( √ )
j
µ0
/ j
=
−
ωϵ0
ϵ0
√
− µ0 ϵ0 ω = −k0
(89)
1
1
−√
=−
µ0 ϵ0 ω
k0
(90)
のように計算できる。また、第二項の計算では磁場を微分した後に、逆誘電率の展開とあわせて kxi の項
についてまとめ、もう一度微分することで計算をすすめる。
式 (87)(88) を行列形式に直すと、
(
∂Uy
∂(z ′ )
∂Sx
∂(z ′ )
)
(
=
0 E
B 0
)(
Uy
Sx
)
(91)
となる。ここで行列 B は
B = Kx GKx − I
(92)
で定義される。
(逆誘電率のフーリエ係数で定義される行列 G は、無限次元まで考慮すれば、誘電率のフー
リエ係数で定義される行列 E の逆行列に E−1 等しい。そのため論文 [1] では G を E−1 に置き換えて表記
してある。TM 偏光の場合、G と E−1 、G−1 と E の置き換えは収束性に大きな影響を与えることが論文
[2、3] で報告されている。)上の式を一本にまとめると、
∂ 2 Uy
= EBUy
∂(z ′ )2
(93)
がえられ、これが U に関する固有値方程式になる。これを解くことで得られる固有値の二乗根から z 方
向の波数 qm が得られる。これを用いて、TE 波の場合と同様に、グレーティング領域の電場を次のよう
に展開して表す。
Uyi (z) =
Sxi (z) =
n
∑
m=1
n
∑
(
)
−
wi,m c+
m exp[−k0 qm z] + cm exp[k0 qm (z − d)]
(94)
(
)
−
vi,m −c+
m exp[−k0 qm z] + cm exp[k0 qm (z − d)]
(95)
m=1
9
wi,m は m 番目の固有ベクトルを m 行に並べた行列 W の im 成分である。vi,m は行列 V の im 成分で、
その定義は V = E−1 WQ である。行列 Q は TE 波の場合と同様に、qm を対角成分とする対角行列であ
る。V の定義式は、式 (91)の上側に注目し、左辺の Ui の z ′ 微分の項から行列 WQ が表れ、右辺は ES
であることから導かれる。
(疑問)行列 EB は必ず実数の固有値を持つのだろうか。B の第二項は単位行列なので、E はエルミー
ト行列であることから問題ない。しかし、第一項からくる行列 EKx GKx に関しては、
(EKx GKx )†
=
K†x G† K†x E†
=
Kx GKx E
となる。それぞれの行列はエルミートではあるが、積の順番が逆になるので、行列の積全体としては、一
般的にエルミート行列にならない。固有値が実数であるためには、必ずしもエルミート行列である必要は
無い (その逆は必ず成立する)。しかし、上で定義された EB が実の固有値を持つのかは疑問のままである。
3.2
境界条件を課す
領域 I と II の電場の x 成分は、マクスウェルの方程式から得られる式 (81) より
Ex
1
∂Hy
−jωϵ0 ϵ ∂z
√
µ0 1 ∂Hy
= +j
ϵ0 n2 k0 ∂z
=
(96)
(97)
で計算できる。この結果を加えて境界条件を課すべき三つの領域での電磁場をまとめて書くと次のように
なる。
領域 I HI,y
Hinc,y
EI,x
Einc,x
[ (
)]
∑
= Hinc,x +
Ri exp −j kxi x − kI,zi z
i
[
]
= exp −jk0 nI (sin θx + cos θz)
√
[ (
)]
µ0 1 ∑
= Einc,x + j
(+jk
)R
exp
−j
k
x
−
k
z
i
xi
I,zi
I,zi
ϵ0 n2I k0 i
√
[
]
µ0 1
(−jk0 nI cos θ) exp −jk0 nI (sin θx + cos θz)
= j
ϵ0 n2I k0
(98)
(99)
(100)
(101)
グレーティング領域
Hgr,y
∑
=
i
√
Egr,x
Uyi (z)
Sxi (z)
= j
Uyi (z) exp(−jkxi x)
(102)
µ0 ∑
Sxi exp(−jkxi x)
ϵ0 i
(103)
n
∑
=
m=1
n
∑
=
(
)
−
wi,m c+
m exp(−k0 qm z) + cm exp[k0 qm (z − d)]
(104)
(
)
−
vi,m −c+
m exp(−k0 qm z) + cm exp[k0 qm (z − d)]
(105)
m=1
領域 II
HII,y
=
∑
i
√
EII,x
= j
Ti exp(−j(kxi x + kII,zi (z − d)))
(106)
µ0 1 ∑
Ti (−jkII,zi ) exp(−j(kxi x + kII,zi (z − d)))
ϵ0 n2II k0 i
(107)
10
境界面 z = 0 での磁場と電場の接線成分に関する接続条件を用いると、係数に関する方程式が次のよう
に得られる。
δi0 + Ri
(
j
kI,zi
cos θ
δi0 −
Ri
nI
k0 n2I
これを行列の形で書くと、
(
)
δi0
)
=
m=1
n
∑
(
)
−
wi,m c+
m + cm exp[−k0 qm d]
(108)
(
)
−
vi,m c+
m − cm exp[−k0 qm d]
(109)
m=1
(
+
j cos θδi0 /nI
n
∑
=
)
I
−jZI
(
R=
W
WX
V
−VX
)(
c+
c−
)
(110)
になる。行列 ZI は対角行列で、対角成分は kI,zi /k0 n2I で定義される。([1] では上の式に対応するところ
で、左辺第二項の ZI の前の虚数単位が抜けていると思われる。)同様に 行列 ZII を対角成分 kII,zi /k0 n2II
を用いて定義しておく。
一方、z = d での連続条件からは、次式が得られる。
n
∑
(
)
−
wi,m c+
m exp[−k0 qm d] + cm
= Ti
)
(
−
vi,m c+
m exp[−k0 qm d] − cm
= j
m=1
n
∑
m=1
行列の形では、
(
WX
W
VX
−V
)(
c+
)
c−
(
=
I
jZII
(111)
kII,zi
Ti
k0 n2II
(112)
)
T
(113)
である。TE 波と同様に式 (110) と (113) から、R と T を決定することが出来る。その場合には、最初
に展開係数 c+ と c− を決定してから R と T について解くほうが良い。
最後に反射側、透過側の回折効率(DEri と DEti )は
)
(
kI,zi
∗
DEri = Ri Ri ℜ
k0 nI cos θ
(
) (
)
k
k0 cos θ
II
,zi
∗
DEti = Ti Ti ℜ
/
n2II
nI
(114)
(115)
のように計算できる。
4
ポインティングベクトルの計算
反射率や透過率の計算に必要な、平面波のポインティングベクトル S = E × H の計算を復習しておく。
E = E0 exp[−j(k · x − ωt)]
H
= H0 exp[−j(k · x − ωt)]
のように電磁場を複素表示している場合、ポインティングベクトルのような積の量の計算は、通常は実部
をとってから計算しないと正しい結果が得られない。しかし、積の計算の後に時間平均が続く場合には、
複素共役を用いて、
S̄ =
1
E × H∗
2
11
のように計算することができる。S̄ は時間平均の意味でバーをつけた。Er = rEinc のように電場の振幅の
比として反射率が定義されている場合 (TE 波) には、電場が残るように計算する。
S̄
=
=
=
=
=
=
1
E × H∗
2
(
)∗
1
1
E×
∇×E
2
−jωµ0
(
)∗
1
−j
E×
k×E
2
−jωµ0
1
E0 × (k × E∗0 )
2ωµ0
1
(k(E0 · E∗0 ) − E∗0 (E0 · k))
2ωµ0
1
k|E0 |2
2ωµ0
のようになるから、反射界面が xy 面に平行(z 軸に垂直である場合)には、k の z 成分が反射率の計算に
必要な量になる。たとえば kz = nk0 cos θ のように書ける場合には、波数の大きさの中に屈折率が含まれ
る。エネルギー反射率、エネルギー透過率を計算するときには、|E0 |2 の部分に振幅反射率、振幅透過率
の絶対値二乗が表れる。
もう少しだけ計算を進めると、
|S̄| =
=
=
=
1
|k||E0 |2
2ωµ0
1
nk0 |E0 |2
2ck0 µ0
c 1
n2 |E0 |2
n 2c2 µ0
c εϵ0
|E0 |2
n 2
となって、当然のことであるがポインティングベクトルの大きさは、光速 c/n と単位体積中の平均エネル
ギーの積になっている。
一方、磁場の振幅の比として反射率が定義されている場合には、磁場が残るように計算をする。
S̄
=
=
=
=
=
=
1
E × H∗
2
1 1
(∇ × H) × H∗
2 jωεϵ0
1 −j
(k × H) × H∗
2 jωεϵ0
1
H∗ × (k × H0 )
2ωεϵ0 0
1
(k(H∗0 · H0 ) − H0 (H0 · k))
2ωεϵ0
1
k|H0 |2
2ωn2 ϵ0
であるので、屈折率の二乗が分母に表れる。反射率のように同じ空間を伝搬する平面波の比を考える場合
には、割合を計算するとキャンセルするので屈折率の値はそのままは影響しない。一方、透過率のように
媒質が異なる場合には、例えば kz = nk0 cos θ とすると、n の一つがキャンセルされて、式 (115) にある
ように k0 cos θ/n の形があらわれる。
< この節で計算に用いた関係式のまとめ >
∇ × E = −jωµ0 H
12
(116)
∇×H
= jωϵϵ0 E
A × (B × C) =
E0 · k
B(A · C) − C(A · B)
= 0
A × B = −B × A
(130514 修正)
13
(117)
(118)
(119)
(120)
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