日本の政府開発援助システム(ODA)とその発展
Japanese Official Development Assistance System and its Development
廣田 洋一* ・ Rajendra Niraula** ・ 草柳 俊二***
By Yoichi HIROTA* ・ Rajendra NIRAULA** ・Shunji KUSAYANAGI***
1958 年インドに対し、電力、船舶、プラント設備など
1. はじめに
を対象に 50 万ドルの円借款を供与した。これ以降、円借
款はタイドの資金協力として、
輸出促進の狙いと共に積極
1954 年にコロンボ計画に参加して以来 50 年間に、
日本政府は 185 の国・地域に累計 2,210 億ドルの政府
開発援助(ODA)を供与してきた。日本は世界第 2 の
的に供与された。
d)援助実施体制の整備
1954 年 社団法人アジア協会設立。技術協力の実
援助大国であり、ODA を通じて世界の平和と発展に貢
献してきた。然し、被援助国は現在のシステムに必ずし
施機関。
1961 年 3 月海外経済協力基金(OECF)設立。円
も満足していない。本稿は、ODA の歴史を振り返りつ
つ、一般無償資金協力システムに焦点を当てて、その改
借款の実施機関。
1962 年 社団法人アジア協会を海外技術協力事業団
善策を提案するものである。
に改組。
1974 年 海外技術協力事業団を国際協力事業団(J
2. 日本の ODA の歴史
ICA)に改組。
1999年
(1)体制整備期 1954 年−1976 年
a)技術協力からODA開始
1954 年 10 月 6 日、日本はコロンボ・プランへの加
盟を閣議決定し、
翌年から政府ベースの技術協力を開始し
日本輸出入銀行と海外経済協力基金が合併、
国際協力銀行(JBIC)設立。
2003 年 JICAを独立行政法人化。
e) 貿易振興からの脱却
ODAの供与額は 1964 年の約 1.15 億ドルから、
た。
1976 年には約 11.05 億ドルに増え、DAC諸国中第 4 位
b)資金協力の開始
となった。この間に日本は高度経済成長を遂げ、ODAと
1954 年 11 月に締結されたビルマ連邦との平和条約
輸出を結びつける理由が薄くなった。一方、欧米諸国はO
において賠償支払いと共に経済協力が規定された。
これが
DA資金を輸出に結びつけることに批判を強めたので、
日
資金協力の始まりとされる。その後、アジア諸国との間に
本政府は 1972 年円借款のアンタイド化を決定、1980 年
賠償・準賠償の形で総額約 15 億ドルの資金協力が行われ
以降はほぼ 100%のアンタイド化が実現した。
た。賠償と関係のない無償資金協力は、1969 年にヴェト
この間、ODAを供与する理由として、憲法第 9 条によ
ナムに対し難民用住宅を供与したのが始まりである。
り、武力による国際貢献が出来ないので、ODAは資金・
c)円借款の開始
技術による国際貢献の手段である、との議論がなされた。
キーワーズ:システム分析、財源・制度論、開発技術論
(2)計画的拡充期 1977 年―1991 年
* 学生員、高知工科大学社会システム工学科
a) 量的拡大
(高知県香美郡土佐山田町宮の口185)
Tel 0887-53-1113 Fax0887-57-2000
** 同上
*** フェロー、工博、以下同じ
1978 年日本政府はODA第 1 次中期目標を設定して 3
ヵ年倍増を目指して以来、ODA金額は毎年増加し、1989
年には、実行額が 8,965 百万ドルに達し、米国を抜いて世
界1の援助大国となり、
この地位は2000年まで守られた。
b) 質的拡大
一般無償援助に加えて、1973 年緊急災害救助援助、
年の 24.3%から 2003 年には 43.4%に増大した。
1975 年文化無償、1977 年食糧増産援助が開始された。
1970 年世銀は、発展の究極的目的は個人の福祉の継続的
3.日本のODA政策
改善にあるとして、基礎生活分野(BHN)の充足を目的
とする援助が重視された。
日本もこれに応じてBHN分野
の援助を増やし、1977 年の10%台から 78 年には 23%
に増加した。以後 20−30%台で推移している。
また、2 回のオイルショックによって財政状況が悪化した
開発途上国に対して世銀が供与する構造調整融資にも、
1986 年以来日本は資金を拠出している。
(1) ODAの目的
ODA大綱は、ODAの目的を以下の通り定める。
・ 国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国
の安全と繁栄に資する。
・ 貧困、紛争、感染症、環境問題、ジェンダー等の問題
解決にODAを活用する。
・ 国際貿易の恩恵を享受し、資源、エネルギー、食料を
(3) 政策・理念充実期 1992 年―2002年
a) ODA 大綱
海外に依存する我が国としては、ODAを通じて開発
途上国の安定と発展に貢献する。
1992 年政府はODA大綱を閣議決定して援助政策を包
括的に取りまとめた。援助の基本理念として、①人道的考
・ 平和を希求する我が国にとって、ODAは国際社会の
共感を得られる最善の政策である。
慮、②相互依存関係の認識、③環境の保全、及び④開発途
上国の離陸に向けての自助努力の支援、
の 4 点を掲げた。
(2) 基本方針
b) ODA中期政策
a)開発途上国の自助努力支援
1999 年にODA中期政策を策定して、
人間中心の開発、
b)
「人間の安全保障」の視点で対処
ソフト面での協力重視、と言う考えを打ち出した。
c)公平性の確保
一方で、透明性の確保、国民参加、効率性向上を求める
d)我が国の経験と知見の活用
ODA改革の動きが強まった。
e)国際社会における協調と連携
(4) 新たな時代への対応 2003 年 ― 現在
2003 年 8 月政府は新ODA大綱を策定した。
(3) 重点課題
a)貧困削減
b)持続的成長
(5) ODAの現状
a)金額の減少
日本のODAの純支出額は以下の通り2000年以降
減少を続けている。
2000 年 13,508 百万ドル
2001 年
9,847 百万ドル
2002 年
9,283 百万ドル
c)地球的規模の問題への取組。環境問題、感染症、人
口、食料、エネルギー、災害、テロ、麻薬、国際組織犯罪
に国際社会と協調して取り組む。
d)平和の構築。紛争防止、和平プロセス促進、復興支
援等にODAを活用。
4.無償資金協力
2003 年 8,880 百万ドル
減少の主な部分は円借款の支出減で、2003 年には前年比
34.8%減少した。
b)質の変化
ODA大綱は
「人間の安全保障」
と言う視点を導入し、
人材開発を通じて地域社会の能力強化にODAを活用す
る、と述べている。これは、人づくりの為の専門家を多く
派遣することに通じ、
技術協力の比重が高まることを意味
する。事実、2 国間援助に占める技術協力の比率は、2002
(1)無償資金協力のタイプ
日本のODAには、有償資金協力と無償資金協力があ
る。前者は一般に円借款と呼ばれる。後者には、以下の
タイプがある。
a)一般無償:機材供与、インフラ施設建設等のプロジ
ェクトに供与される。
b)水産無償:漁船、漁港建設、魚市場建設等水産業振
興プロジェクトに供与される。
c)食糧援助(KR)
:米、麦を供与。
d)食糧増産援助(KR2)
:農機、肥料、農薬を供与。
e)文化無償:文化、スポーツ振興用機材を供与。
上記のうち、本稿では、一般無償資金協力を取り上げる。
(2) 予備費を計上できない。
JICAの積算ガイドラインによると、
建設案件に含ま
れる費用項目は以下の通りである。
(a)建設費
(a―1)直接費
(aー2)仮設費
(2)一般無償資金協力の手続き
(a―3)包装・輸送費
日本のODAの基本方針は「開発途上国の自助努力支
(a―4)技師派遣費用
援」である。従って、援助は、裨益国政府からの要請が
(a―5)人件費を含む現場費用
あって初めて対応が検討される。これを要請主義と言い、
(a―6)一般管理費
下記の手続きに従い、援助が行われる。
(b)機械費
① 裨益国から、特定の案件に対する援助要請書が我国
(c)詳細設計及び施工管理費
外務省に出状される。外務省がこれを検討して、実
上記の通り、価格変動等に対する予備費は計上されない。
施することを決定。
これは、工期が 1 年であろうと、1 年を超えようと同じで
② 外務省は、実施をJICAに指示。JICAはコン
ある。交換公文には金額と工期が明記されているので、途
サルタントを雇用して基本設計調査を行う。この調
中でいかなる価格変動が起きても、
両国政府は対応する義
査で、プロジェクトのスコープ、金額、工期がほぼ
務がない。従って、請負建設業者がそのリスクを負うこと
固まる。
になる。
③ 上記設計結果を基に、外務省は裨益国政府と交換公
文を交わして、援助供与を決める。
(3) 追加費用と工期延長は認められない。
④ 交換公文が署名されると、JICAは裨益国政府に
予備費が計上されていないため、追加費用も工期延長も
対して、基本設計を行ったコンサルタントの推薦状
認められないこととなる。
JICAが作成した建設業者と
を発行。コンサルタントは、裨益国政府と詳細設計、
裨益国政府とのモデル契約には、
「契約内容は交換公文と
入札補助及び施工管理を請け負う契約を締結する。
一致しなければいけない。
」と規定されている。従って、
紛争が起きても、
交換公文に定めた金額と工期を変えられ
(3) 一般無償資金協力の実績
2002 年 2,151.26 億円 (純支出額)
2003 年 1,969.18 億円(純支出額)
二国間援助に占める比率は、2002 年 25.5%、2003 年
28.6%であった。
ないため、
業者が泣き寝入りするしかないのが現状である。
JICAのモデル契約に予備費が含まれないのは、
JI
CAが国内の公共事業に使用される「標準請負契約約款」
を準用したからである。標準請負契約約款は、ランプサム
契約に基づいており、その規定は会計法によっている。会
計法には、
プロジェクトの予備費と言う考え方が全くない。
5. 一般無償資金協力システムの問題点
標準請負契約約款は、発注者と請負業者を拘束するのは、
契約金額と工期だけ、と言う考えで規定されており、JI
(1) 単年度主義
日本の無償資金協力は、
1会計年度内に完了することを
CAの一般無償資金協力システムはこの考えを踏襲した
ものとなっている。
原則にしている。そのため、基本設計調査の期間が短くな
る。特に、土工事を伴う建設案件では、十分な測量、地質
6.システム改善の提案
調査を行う時間が取れず、
既存の資料の見直しと補足的調
査で対応せざるを得ないことも起こる。しかも、基本設計
(1)予備費計上
調査時の積算価格は、詳細設計時の 10%以内の誤差に収
少なくとも価格変動に対する予備費は計上すべきであ
めるべし、との条件があり、請負建設業者にとってリスク
る。実際に、2003 年の見積もりに基づいて、2004 年に工
が大きい。
事を施工した建設業者は、石油製品、鉄鋼製品の値上がり
で大きな損害を被った。
計上する予備費は円借款の過去の
記録からみて、建設費の5%で十分であると考えられる。
開発途上国では、
教育は教科書による理論だけに終わって
おり、現場での教育はなされていない。ODAプロジェク
(2)追加費用と工期延長
トは、調査、設計、施工管理の各段階で裨益国の人材開発
予備費が計上されれば、
追加費用と工期延長が認められ
に役立てるべきである。即ち、資金協力と技術協力を一体
ることになる。この場合、コンサルタントの役割が大きく
化したシステムを導入すべきである。それによって、裨益
なる。すなわち、建設業者からのクレームを評価して、適
国のオーナーシップと責任感を強めることが出来る。
切な費用と期間を裨益国の実施機関及びJICAにアド
ヴァイスする業務が発生する。
国内の標準約款をベースに
(6) CM方式の導入
契約管理を行っているコンサルタント、
コントラクター及
現在のシステムでは、建築・土木工事の請負業者は日本
びJICAも国際的標準約款で仕事をせざるを得なくな
企業に限られているが、
しばしば建設コストが高いと批判
り、建設業の国際化のメリットも大きい。
されている。コスト削減の手段として、現地に信頼できる
建設業者がいる場合には、CM方式を導入すべきである。
(3) 交換公文の変更
JICAの契約は、交換公文に基づいているので、予備
このメリットとして以下のことが挙げられる。
a)現地の資材が活用される。
費を計上すると交換公文にもその旨記載するする必要が
b)
現地建設業者・エンジニアへの技術移転が促進される。
ある。即ち、a)予備費の金額及び目的、b)予備費の振
c)現地のエンジニア、技術者及び労働者の雇用が促進さ
替は裨益国政府の申請に基づいて日本国政府の実施機関
れる。
たるJICAの同意を要すること、c)予備費振替の結果
この場合、予備費の計上・工期変更の可能性が必須の条件
工期延長が必要な場合は、交換公文により確認すること、
となる。
の 3 点は交換公文に規定すべきである。
7.おわりに
(4) 基本設計調査期間の延長
通常、基本設計調査の期間は、報告書作成も含めて 3
1954 年にコロンボ計画に参加して以来日本のODAは
ヶ月程度である。
現地調査の期間は、
長くて40 日である。
50 年を経過して、システムを見直すべき時期に来ている。
建設工事案件では、この間にサイトの地盤から、輸送手段
実務上、最大の根本的な問題は、建築・土木工事プロジェ
まで含めて工事に必要な情報を全て集めなければならな
クトにおいて、
コントラクターだけがコスト上昇のリスク
い。道路のような距離が長い案件では、現地の業者を雇用
を負っていることである。本稿ではそれを避けるために、
して測量や地盤調査を行うが、
必ずしも能力のある業者が
予備費を計上することを提案した。然し、これだけでは根
いるとは限らない。
調査団が帰国後測量結果を受領して内
本的解決にならない。問題は、ODAシステム、特に無償
容に不安があっても、それをベースに設計、積算を行わざ
資金協力システムが国内の公共工事システムに準拠して、
るを得ない。ある案件では、全く異質の土壌が分布してい
ランプサム契約、単年度主義を採用していること、コンサ
ることの報告がないままに設計を行い、
施工段階でこの土
ルタントも国内の影響で役割が限定されていることにあ
壌の処理に多額の費用を要したことがあった。
この費用は、
る。
この様なシステムを国際的に普遍的なシステムに改革
業者が負担せざるを得なかった。
このような事態を防ぐた
すべきである。
めにも基本設計調査の期間を長くして、
質の良い設計が出
来るようにすべきである。
参考文献
外務省:パンフレット− ODA50 年の成果と歩み−、
(5) 技術移転
現在の一般無償協力システムでは、
裨益国の実施機関に
(2002 年版 2003 年版 2004 年版)
ODA政府開発援助白書
国際協力機構(JICA): 業者契約書フォーム(施設案件)
責任感もオーナーシップも無い。その原因は、要請状は裨
国土交通省: 公共工事標準請負契約約款
益国政府が作成するが、基本設計調査、詳細設計、施工管
渡辺 利夫、三浦 有史:ODA(政府開発援助)
、中公
理の段階で、
裨益国が関与することが殆ど無いことにある。
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