様式C-19
科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書
平成24年 6月 4日現在
機関番号:11101
研究種目:基盤研究(C)
研究期間:2009~2011
課題番号:21560844
研究課題名(和文) 孔内ストンリー波のき裂透過係数に現れるオーバーシュートとき裂
特性の関係
研究課題名(英文) Overshoot on fracture transmission coefficient of borehole Stoneley
wave and fracture characteristics
研究代表者
齊藤 玄敏(SAITO HIROYUKI)
弘前大学・大学院理工学研究科・准教授
研究者番号:70264091
研究成果の概要(和文)
:孔内ストンリー波検層において,実フィールドの検層周波数帯域での
き裂透過係数が理論値と異なることに着目し,その原因を理論モデル,シミュレーション,室
内実験で検討を行った.その結果,透過係数が理論値から逸脱する主因は,き裂に入射したス
トンリー波が孔内に戻るときに,反射波を音源方向に,反射波の位相反転モードを受振器方向
に発生させ,後者が透過波と重畳することによるものであることが判明した.
研究成果の概要(英文)
:In this research, we tried to make clear a mechanism of the difference, which
was observed between theoretical and measured values in transmission coefficients of borehole Stoneley
wave logging. The mechanism was examined by theoretical models, numerical simulation and
laboratory experiments. As a result, it was revealed the phase inversion mode of the reflection wave was
superimposed on the transmission wave when the Stoneley wave which entered into the fracture
returned in the borehole.
交付決定額
(金額単位:円)
2009年度
2010年度
2011年度
年度
年度
総 計
直接経費
1,800,000
1,100,000
600,000
間接経費
540,000
330,000
180,000
3,500,000
1,050,000
合
計
2,340,000
1,430,000
780,000
4,550,000
研究分野:工学
科研費の分科・細目:総合工学 / 地球・資源システム工学
キーワード:地下き裂計測,音波検層,孔内ストンリー波,再生可能エネルギー,地熱
1.研究開始当初の背景
数ある代替エネルギーの中で,利用技術が
実利用水準まで確立されている地熱エネル
ギー資源は,エネルギー賦存量,温室効果ガ
スの排出量の少なさ,純国産などの観点から,
そのさらなる開発が要望されている.特に,
天然の条件に依存することなく能動的に地
熱エネルギーの抽出を可能にする次世代型
地熱開発は,高温乾燥岩体(HDR)や高温湿
潤岩体(HWR)を利用するため適用地域が
飛躍的に拡大するとともに抽出可能なエネ
ルギー量が大幅に増大し,また,従来型地熱
開発に比べ環境負荷が小さくなるので期待
は大きい.
次世代型地熱抽出システムを実現するた
めの重要なステップの一つに固体力学的設
計がある.ここでは地下構造と地下き裂が第
一支配因子となるが,地下構造が複雑な地熱
地帯においても,これらを正確に計測・評価
する技術を開発することが重要な課題であ
る.システム造成後においても,地熱貯留層
の正確な分布やその内部の微細な構造の把
握,地熱貯留層を構成する地下き裂の動的挙
動の学術的解明を行うために不可欠な技術
となることは言うまでもない.
本研究は,研究代表者が平成 18-19 年度に
受けた科学研究費補助金で実施した「周波数
領域音波検層法に寄与する孔内モード特定
に関する研究」(基盤研究(c))で見いだした
現象に着目して,地熱貯留層を構成する地下
き裂の性状との関係を明らかにしようとす
るものである.周波数領域音波検層法は,フ
ルウェーブで記録された音波検層データの
各トレースを時間領域から周波数領域に変
換することで得られる周波数領域音波検層
図を用い,その検層図に現れるピーク周波数
の不連続と減衰を利用して,従来の音波検層
法では測定が難しい複雑な地下構造下にお
いても,地層境界面や透水性地下き裂の検出
と評価を実現する手法である.
本手法をき裂の透水特性の評価へと発展
させることを考え,音波検層波形中に観測さ
れるストンリー波の地下き裂における透過
係数と反射係数を利用する方法の現状調査
を行った.実フィールドにおけるき裂性状評
価においては反射係数の利用が主で,き裂の
開口幅の評価結果は 10 倍程度過大評価とな
っている.一方,透過係数の利用はほとんど
ない.この理由として,透過係数にはストン
リー波が卓越する低周波域で雑音の影響が
大きく,理論モデルと整合しないことが挙げ
られている.
孔内からき裂への流体の流入を仮定し,この
流入によるエネルギー損失を基に,反射係数
と透過係数を定めている.この仮定は,スト
ンリー波がき裂に入射した瞬間は問題ない
が,入射後少し時間が経過し,き裂に流入し
た流体が孔内に逆流を始めると成立しなく
なる.
本研究では,透過係数に見られるオーバー
シュートは,この逆流によってき裂と孔井の
交点を波源として,孔の上下方向それぞれに
伝搬するモードが新たに発生することが原
因と考え,理論モデルに組み入れた.具体的
には,反射波の位相反転モードを透過波に重
畳させ,透過係数を周波数の関数として求め
た.
(2) 孔内音波検層波形の合成
理論モデルで得られたストンリー波のき
裂透過係数を利用して,音波検層波形の合成
を行う.これにより,計測波形から抽出可能
なき裂の情報の検討を行った.
孔内ストンリー波のき裂近傍における受
信波形を合成するには,透過係数を伝達関数
として,入力信号との積を求め,これを逆フ
ーリエ変換し,時間領域波形を得た.得られ
た時間領域の波形に対して,き裂パラメータ
に対する感度解析を行った.また,波形の解
析に必要なアレイ信号処理法である FFT セン
ブランス法と最尤推定法の構築を行った.
(3) 室内実験システムの構築
孔内ストンリー波の伝搬特性を明確する
ために、室内実験システムの構築を行い,孔
内ストンリー波の室内計測実験を行った.
2.研究の目的
研究代表者が実フィールドにおけるデー
タを用いて,き裂を透過したストンリー波の
透過係数を調べた結果,(1) 2.3kHz をピーク
とするオーバーシュートが見られる,(2) オ
ーバーシュートは振動しており,孔口圧の増
加(き裂の開口)とともに振幅は大きくなる,
(3) オーバーシュートの振幅は周波数が大き
くなるにつれて小さくなる,(4) オーバーシ
ュートは 7kHz 以上になると無くなり,透過
係数は孔口圧の増加とともに小さくなる,等
が判明している.
本研究では,(1)透過係数の低周波領域に現
れるオーバーシュートの原因を明らかにす
る,(2)オーバーシュートの特性とき裂の性状
との関係を明らかにする,(3) オーバーシュ
ートの特性を利用するき裂の性状評価法の
開発する,ことを目的としている.
4.研究成果
(1) き裂モデル
岩盤-き裂-岩盤の三層構造とし,き裂の
厚さを L とする.このとき,き裂近傍におけ
る孔内ストンリー波の反射係数( A / A )と
透過係数( C / A )は次式で与えられる.
3.研究の方法
(1) き裂モデルの理論的検討
ストンリー波の反射係数と透過係数を理
論的に求めている論文の一つに Tang and
Cheng (1993)の論文がある.この論文では,
A / A  2i(k 22  k12 ) s i nk(2 L) / G
C / A  4k1k2 e
ik1L
ik2 L
/G
(1)
(2)
ik2 L
G  (k1  k2 )e
 (k1  k2 )e
(3)
孔内ストンリー波の伝搬特性は波数 k1 ,
k 2 によって定まる.波数 k1 は岩盤を剛体と
仮定すると次式で表される.
k1   / V f
(4)
ここに,角周波数  は角周波数,水中の音波
速度 V f は水中の音波速度である.また,き
裂部の波数 k 2 はき裂モデルにより異なり,次
式で与えられる.
平行平板き裂モデル:

k2 

Vf
2 H 1(1) (k1 R)
1
k1 R H 0(1) (k1 R)
(5)
浸透率が大きく,平行平板き裂にほぼ等しく
なると振動は消え,平行平板モデルの透過係
数に近づくことがわかった。
多孔質浸透層モデル:
2 Ri f   

k 2   k e2 

R2  a2 



 i K 1 (  i D ) 
D K 0 (  i D ) 
1
2
(6)
ここに, R は孔井半径, a は検層ツールの
半径, H はハンケル関数, K は第二種変形
ベッセル関数,D は空隙流体の拡散係数, f
は流体の密度,  は流体の粘性,    は動
浸透率である.
反射係数はき裂に流入した流体が孔内に
逆流し,き裂と孔井の交点を波源として,孔
の上下方向それぞれに伝搬するモードであ
る。このことから,検層ツールの送信器と受
振器がき裂を挟む位置にあるときに得られ
る受信信号には透過波に加えて,反射波の位
相反転モードが記録されていると考えられ
る(図 1).
図 2:平行平板き裂モデルによる透過係数
図 3:多孔質浸透層モデルによる透過係数
図 1:音波検層ツールで測定しているストン
リー波の信号の概念図
き裂を透過した孔内ストンリー波として
計測した信号に反射波の位相反転モードが
含まれていることを平行平板モデルと多孔
質浸透層モデルに組み込み,透過係数を求め
た.図 2 は平行平板き裂モデル,図 3 は多孔
質浸透層モデルの結果である.図より,平行
平板き裂モデルでは,オーバーシュートは発
生するが,振動は起こらない.一方,多孔質
浸透層モデルでは,オーバーシュート,振動
ともに発生することがわかった.また,振動
は,多孔質浸透層の厚さと浸透率に依存し,
(2) 孔内音波検層波形の合成
き裂近傍における孔内ストンリー波の受
信波形を合成するために,き裂の反射係数と
透過係数を伝達関数 H ( ) として,入力信号
Sin ( ) との積 S out ( ) を求め,これを逆フー
リエ変換することで時間領域の波形を求め
た.本研究では中心周波数 7kHz のリッカー
ウェーブレットを入力波形として用い,計算
で設定した周波数帯域は 0Hz から中心周波数
の 3.5 倍までとした.
図 4 と図 5 に合成したストンリー波の音波
検層波形を示す.図 4 は平行平板き裂モデル,
図 5 は多孔質浸透層モデルで求めた波形であ
る.計算では検層ツールの送受信部間距離を
1.0m とし,き裂面の位置を 0m として,-1.05m
から 2.45m までの範囲を 0.2m 刻みで 19 波形
求めた.
図 4 と図 5 に共通して,振幅の大きな波が
発信部から直接受信部に伝わる孔内ストン
リー波,振幅の小さく上方および下方にムー
ブアウトする波がき裂によって生じた反射
波である.両図ともに実際の音波検層図の傾
向を概ね再現できている.ただし,実際の音
波検層波形では,き裂を透過した直達ストン
リー波の減衰が大きく反射波の振幅は小さ
いことから,図 5 の多孔質浸透層モデルの結
果は実フィールドで得られる音波検層波形
を,より忠実に再現している結果といえる.
図 4:平行平板き裂モデルによる合成ストン
リー波検層波形
図 5:多孔質浸透層モデルによる合成ストン
リー波検層波形
図 6:合成ストンリー波検層波形の透過波振
幅の様子
図 6 は前述の 2 つのき裂モデルで得られた
合成ストンリー波検層波形の透過波振幅を
受振器の位置毎に示したものである.図より,
き裂モデルに特徴的な減衰分布が生じるの
で,実フィールドで得られたストンリー波の
透過波振幅について,これを調べることで適
切なき裂モデルの選択が可能になる.
(3) 室内実験システムの構築
計測システムは音波の送信部,受信部,孔
井モデルからなる(Photo.1)
.
送信部
方形パルスをファンクションジェネレー
タ(NF 社製 NF WF1945)を用いて発生させ,
それをパワーアンプ(NF HAS 4012)で増幅
し , 超 音 波 ト ラ ン ス デ ュ ー サ ( NF
AE-900F2-WP-T)で音波に変換して孔井モデ
ルに入射させる.超音波トランスデューサは,
Photo.2 のように高真空接着剤で孔との間に
隙間ができないように接着した.
受信部
孔井モデルの孔に受信機を挿入する.測定
の際,受振器が孔の中心に位置するように以
下 の材 料を 用い て芯 出し機 構を 作製 した
(Photo.4).受信機はブリュエル・ケアー社
製のハイドロフォン 8103 (Photo.3)を使用
した.付属の O リングを外径 8.3mm のもの
に変更し,アルミパイプに対する受信機の据
付を安定させるために用いた.
受信機をアルミパイプの中心に位置させ
るため、Fig.1 に示すようにねじを 2 箇所取り
付けて、その反対方向に鉛を接着剤で貼り付
けた.このようにすることで、受信部を面で
支えることになり受信機支持の安定化がで
きる.また,提灯バネを 3 個取り付けるが,
バランスを考慮して Fig.2 のように上面から
見て 120 度ずつずらして設置した.
トリガ位置
model 1
80
60
40
offset[mm]
孔井モデル
孔井モデルの材料にアルミニウム(P 波 :
6420 m/s , S 波:3040 m/s)を用いて以下の 3
のモデルを作製した.
モデル 1(Photo.5)
:直径 200mm,高さ 250mm
の円柱である中心に直径 18mm の孔を掘削
している.
モデル 2(Photo.6)
:モデル 1 を平行に上部
150mm,下部 100mm に分割することで,き
裂を模擬している.
モデル 3(Photo.7)
:モデル 2 のき裂を 15 度
傾けたモデルである.
モデル 2・3 を作製する上で,き裂の開口
幅を変更できるように、支柱材を 4 個用いて
き裂の開口幅を調節できるようにした
(Photo.8).支柱材は 4 種類(支柱材の高さ
40.0mm、40.2mm、40.5mm,41.0mm)作製し,
支柱材をモデルに固定するため,支柱材 1 個
あたり六角ボルト(M6×25 , Photo.9)を 2 本(測
定に使用するボルトは 2 本×支柱材 4 個=計 8
本)使用した(Fig.3).
20
0
-20
-40
-60
-80
0
0.0005
0.001
0.0015
0.002
time[s]
図 7:モデル 1 で得られた孔内ストンリー波
の測定波形
図 8:周波数センブランス法による孔内スト
ンリー波の速度分散の様子
孔井モデル 1 で得られた測定波形を図 7 に
示す.これらの波形は中間点の高さ(125mm)
を基準とし、±80mm の計 160mm を 20mm 間
隔で 9 点測定したものである.図より,測定
波形が送信側から離れると到来時間が遅く
なり,特に波の低周波成分が遅くなっていく
ことが確認できる.
測定波形を周波数センブランス法で解析
し,孔内ストンリー波の速度推定を行った.
速度推定結果を図 8 に示す.サンプリング周
期の都合,測定データに 2 倍の補間をして表
示している.図より,周波数 f=6.6kHz, 位相
速度 v=1400m/s の時に,センブランス値は最
大値になっている.これが孔内ストンリー波
の位相速度で,図より,孔内ストンリー波の
特徴である速度分散性も確認できる.
(4)まとめ
孔内ストンリー波のき裂透過係数は,周波
数が低くなると理論値から逸脱する.これは
実フィールドにおけるストンリー波検層の
周波数帯域である数 kHz~20kHz に対応する.
このために,き裂評価への利用の大きな障害
となっていた.
本研究では,実測した透過係数が理論値か
ら逸脱する原因を明らかにし,それにき裂の
情報が含まれていることを見いだした.すな
わち,原因は反射波の位相反転モードが透過
波に重畳していることを示した.
これを本研究で提示した方法で抽出し,評
価することで,き裂モデルの推定とき裂の性
状評価に結びつけることが可能になる.
本研究の成果は地熱や石油の生産に関わ
る貯留層制御技術や地熱貯留層挙動の高精
度計測に役立つばかりでなく,大規模地下構
造物を取りまく岩盤の計測にも役立つこと
が予想され,音波検層法の汎用性は一層向上
すると考える.
5.主な発表論文等
(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に
は下線)
〔雑誌論文〕(計 3 件)
①齊藤玄敏,孔内ストンリー波のき裂透過特
性に現れるオーバーシュートとき裂特性,平
成 23 年度土木学会東北支部技術研究発表会
講演概要集,CD-ROM,2012,Paper ID Ⅲ-28
(全 2 頁).
②船橋文都・齊藤玄敏,室内実験用孔内スト
ンリー波計測システムの試作,平成 22 年度
土木学会東北支部技術研究発表会講演概要
集,CD-ROM,2011,Paper ID Ⅲ-44(全 2 頁).
③齊藤玄敏,透水性き裂近傍における孔内
ストンリー波検層波形の合成,平成 21 年度
土木学会東北支部技術研究発表会講演概要
集,査読無,CD-ROM,2010,Paper ID Ⅲ-57
(全 2 頁).
〔学会発表〕(計 3 件)
①齊藤玄敏,孔内ストンリー波のき裂透過特
性に現れるオーバーシュートとき裂特性,平
成 23 年度土木学会東北支部技術研究発表,
2012 年 3 月 3 日,秋田大学.
②船橋文都・齊藤玄敏,室内実験用孔内スト
ンリー波計測システムの試作,平成 22 年度
土木学会東北支部技術研究発表会,2011 年 3
月 5 日,東北工業大学.
③齊藤玄敏,透水性き裂近傍における孔内
ストンリー波検層波形の合成,平成 21 年度
土木学会東北支部技術研究発表会,2010 年 3
月 6 日,日本大学.
6.研究組織
(1)研究代表者
齊藤 玄敏(SAITO HIROYUKI)
弘前大学・大学院理工学研究科・准教授
研究者番号:70264091
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