第2回 モデル分析入門
Introduction to Modeling
国際政治経済システム学 2007
1
1イントロダクション
2
モデルとは?
現実を単純化してつくられたミニチュア世界
現実の世界は複雑で全体像を把握することが困難
多数の主体,多数の出来事が複雑に作用しあい,あ
るひとつの変化の最終的結末を筋道立てて考えること
が困難.
細部を切り捨てて単純化した世界を構築する
個人の数を限定する,出来事の相互作用を限定する
などして,全体を見渡すことができるようなシンプルな
世界(モデル)を人工的につくりあげる.
このシンプルな世界の中でならば,ある変化の最終的
結果を筋道立てて追うことができる.
現実の世界
?
モデル
(ミニチュア世界)
A
C
B
モデルの効能
個人と個人,出来事と出来事の関係が明快
に規定されているので,あるショックが加わっ
たとき社会に何が起こるかは,論理演繹に
よってほとんど機械的に導出される.
シンプルな世界であるため,どことどこがどう
反応してそのような結果にたどり着くのか,す
なわち「因果のメカニズム」をフォローすること
ができる.
*むろん,こうしたご利益に預かるためには,
モデルが十分に特定されている必要がある.
モデルを使って何をする?
因果関係に関する仮説の論理的一貫性を維持
モデルにショックを加え,仮説と同じことが
起きるかどうかを見る.同じことが起こるならば,
仮説の論理的一貫性は保持されている.
仮説を支える重要な仮定を特定
モデルの挙動を詳細に追うことで,仮説が成
立する際にどの部分が決定的に重要な役割
を果たすかを見つけ出す.
2人の間に恋が芽生えた原因は,
火事が起きたためではないか?
モデルに火事を起こし,恋が芽生える
かどうかを確認する.
モデル
(ミニチュア世界)
火事で恋が芽生えなかったら
地震を起こしてみる.
モデル
(ミニチュア世界)
モデルなき仮説提示
「中国からの安価な製品の輸入が,日本のデフレを引き
起こしている」という仮説を提示.
モデルを提示せず,一国の物価水準が決定される
メカニズムは明示されていない.
論文の大半は,著者が“単身中国に乗り込んで”調べて
きた,中国の財価格・労働賃金と日本のそれとの比較.
このような論文の問題点は?
中国からの低価格品の輸入増大は,即座に日本の物価水準の下
落にはつながらない.
間にはいくつかのステップがあるはず.
マクロ経済モデル
B
中国からの輸入
品価格の低下
A
?
日本の物価水準
D
の低下
C
モデルを提示しなければ,限られた個人的体験に囚われ論理的飛躍
の大きい単なる思い込みに陥る可能性がある.もはや仮説でない.
このような状況で入口と出口の統計的関係を確認したとしても,
典型的な「理論なき計測(measurement without theory)」.
提示する仮説を再現するモデルが提示できない
仮説の実現する簡単な世界すらつくることができない
そのような仮説はそもそも論理的一貫性が危ないのでは?
よくある反論:「この仮説は簡単な世界では再現できない」
メカニズムも追えないほど複雑な世界において,
仮説どおりのことが起こるとどうして言えるのか?
それは仮説ではなく「仮定・前提」では?
つまり,因果関係が前提されてしまっている.
2モデル構築の実際
12
単純化の方法
(1) 登場人物を限定する
(2) 登場人物の行動・行動原理を限定する
(3) 世界を限定する
モデルの構成要素
(A) アクター(行動主体)
登場人物は誰なのか.
(B) アクターの行動
それぞれのアクターは何をインプットとして受け取り,
何をアウトプットするのか.
(C) アクターの行動原理
それぞれのアクターのインプットとアウトプットの
関係(関数)はどなっているのか.どのような
行動原理に従ってアウトプットを選択するのか.
モデル構築の例:りんご価格の決定モデル
(1) 登場人物を限定する
りんご農家
消費者
りんご市場
(2) 登場人物の行動・行動原理を限定する
利潤を最大にする
市場価格
りんご農家
肥料価格
生産量
効用を最大にする
市場価格
消費者
購入量
所得
みかんの価格
需給を均衡させる
農家の生産量
りんご市場
消費者の購入量
市場価格
肥料価格
モデルの全体像
りんご農家
生産量
利潤を最大にする
りんご市場
市場価格
購入量
効用を最大にする
消費者
所得
みかんの価格
モデルの均衡
りんご農家
均衡価格
120円
110円
100円
生産量
市場価格
130個
120個
100個
りんご市場
購入量
150個
140個
130個
消費者
誰も行動を変えようとしない状態を均衡(equilibrium)と言う.
(3) 世界を限定する
りんごの市場における出来事は,みかんや肥料の
市場に影響を与えない.
みかん農家
りんご農家
生産量
生産量
みかん市場
みかんの
市場価格
りんごの
市場価格
りんご市場
購入量
購入量
消費者
消費者
モデルの中で決まる変数(内生変数)と,
モデルの外から与えられる変数(外生変数)を
決める
内生変数と外生変数
内生変数 Endogenous Variables
他の変数の影響を受ける変数.
モデルの中で決まる変数.
「りんごの市場価格」 「購入量」 「生産量」
外生変数 Exogenous Variables
他の変数には影響を与えるが,自分自身は
他の変数からの影響を受けないような変数.
モデルの外から与えられる変数.
「所得」 「肥料の価格」 「みかんの価格」
内生・外生の区別は普遍ではない.
分析の目的に応じてモデルの作成者が決める.
たとえば,「所得」は常に外生変数とは限らない.
別のモデルでは内生変数になることもある.
「みかんの価格」はみかん市場を記述するモデルでは
内生変数になる.
あることの「原因」であると予想される変数を
外生変数に,「結果」である変数を内生変数に
してモデルをつくるのが一般的(理由は後述).
2モデルを用いた分析:
比較静学
(Comparative Statics)
22
思考実験1:肥料価格の上昇
仮説 肥料価格の上昇はりんごの市場価格を上昇させる
実験 モデルにおいて肥料価格を上昇させ,
りんごの市場価格への影響を見る.
りんごの価格決定
モデル
肥料価格
上昇
?
肥料価格
りんご農家
生産量
市場価格
りんご市場
購入量
消費者
結果 肥料価格の上昇はりんごの市場価格を上昇させる
思考実験2:みかん価格の上昇
みかん価格の上昇はりんごの市場価格にどう影響する?
実験 モデルにおいてみかん価格を上昇させ,
りんごの市場価格への影響を見る.
りんごの価格決定
モデル
みかん価格
上昇
?
りんご農家
生産量
市場価格
りんご市場
購入量
消費者
みかん価格
結果 みかんの市場価格の上昇はりんごの市場価格を上昇させる
思考実験3:りんご価格の上昇?
このモデルで「りんご価格が上昇したら何が
起こるか」と問うことに意味はある?
内生変数であるりんご価格が何かの偶然で
上昇したとしても,外生変数が変化しない限り
もとの均衡価格に戻るだけ.
外生変数が変化した結果として,
内生変数(の均衡値)が変化する.
「外生変数が変化したとき,内生変数(の均衡値)に
何が起こるか」という問を立てなければならない.
モデルは,「原因」と予想されるものが外生変数に,
「結果」が内生変数になるよう組み立てる.
まとめ1:モデルの効能
1. 仮説の論理的一貫性を確認できる.
2. 自分が暗黙のうちに前提・仮定していたことが
明確になる.
仮説の成立に必要な前提・仮定が明確になる.
3. 想定している世界が明確になり,他者と共有する
ことが可能となる.
仮説の前提・仮定や定義が明らかにされるため,
他者への伝達が正確になる.
まとめ2:モデル作成の要点
1. 現実を単純化する.
登場人物を限定する
登場人物の行動・行動原理を限定する
世界を限定する
2. 仮説の「原因」を外生変数に,「結果」を内生変数にする.
3. 「原因」から「結果」までのプロセスが機械的に導出
できるようにする.
注意すべき点
モデルは「小さな仮説・仮定」の集合.
これらの「仮説・仮定」から論理演繹によって
導かれる結論も,やはり「仮説」(大きな仮説)
である.
モデル分析を行う目的は,あくまで仮説の論
理的一貫性を維持することである.
ある仮説を記述するモデルができることと,
その仮説の妥当性を証明することは常に
一致するわけではない(*).
補論
A モデルと現地調査
B モデルの数学的表現
31
補論A:モデルと現地調査
仮説・モデルの前に「観察」がある(数土(2005))
仮説
現地調査
刺激の
クールダウン
モデル化
仮説
重要ポイント
の抽出
現地での観察から「粗い仮説」が浮かび上がる.
モデルをつくることで,「洗練された仮説」になる.
前提・仮定の妥当性の確認を試みる.
論理矛盾
の発見
現場で目にする出来事は刺激的で,
最初はリアルな体験に引き摺られてしまう傾向がある.
モデル化によって「冷たい目」で見ることが可能になる.
現場で見たことが全て重要に見えてしまう
(「せっかくなのだから」見たこと全てを大事にしたい…)
モデル化によって,重要な仮定とそうでないものを
区別することが可能になる.
それほど多くない現地調査の機械を効率的に
利用することができるのでは?
補論B:モデルの数学的表現について
数学はモデルを最も誤解なく表現できる言語.
(数学は,モデルを記述するのに用いる言語のひとつ)
数学を用いて表現することで,仮説の論理的一貫性は
最も厳密な形で保つことができる.
数学で表現された諸仮定からの演繹は,
通常の論理演繹よりも射程距離が長い(志田(2005)).
数理モデルに数学的操作を施すことで,
論理演繹ではたどりつく事が困難な仮説を導出する
こともできる.
モデルの数学的記述:農家
q
利潤
肥料の使用量
pA
pA  y A  r  q
利潤を最大にするように
を最大にするように.ただし,
β
A
y  q , 0   1
市場価格
りんご農家
肥料価格
r
生産量
yA
モデルの数学的記述:消費者
効用(満足度)

A
1
O
C C
効用を最大にする
を最大にするように.ただし,
pA
pACA  pOCO  I
市場価格
I
消費者
所得
みかんの価格
pO
購入量
CA
購入量
CO
max pA  y A  r  q
農家
yA
β
s.t. y A  q , 0    1

A
1 
O
max C  C
消費者
C A ,CO
s.t. pACA  pOCO  I
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