Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版
一般病棟での使用経験と導入のコツ
東札幌病院 緩和ケア科
中島 信久
第16回日本緩和医療学会学術大会
(2011.7.29 札幌)
発表者の利益相反開示事項
講演演題
LCP)日本語版
発表者氏名
中島信久
一般病棟での使用経験と導入のコツ
所属/身分
該当なし
企業の職員
■
企業等の顧問職の報酬
■
株式等配当
■
講演料等
■
原稿料等
■
受託研究費(治験)・
寄付金等
■
専門的証言・助言等
■
贈答品等
■
研究種別
■臨床研究
医療法人 東札幌病院
基準に該当ありの場合:企業名等
□非臨床研究
一般病棟における終末期ケアの問題点
近年,わが国におけるホスピス・緩和ケアについては,
緩和ケア病棟,緩和ケアチームなどの充足とともに,
その質は向上してきているが,がん患者の多くがその
最期を過ごす一般病棟において提供される緩和ケア
の質はいまだ十分とはいえない.
終末期ケア,特に看取りの時期にある患者・家族への
ケアにおいても改善すべき点は多い.
一般病棟では,「初回治療(手術など)~再発に対する
化学療法~終末期」という一連の経過を経て,看取りの
ケアを提供することが多い.
そうした経過の中で,予後が「月単位」から「週単位」へ,
ついで「週単位」から「日単位」へと切り替わる時期を意
識することは,この時期のケアの質を高めていくうえで重
要である.
ある日の外科病棟でのスタッフのつぶやき。。。
いつも病棟でそれなりに緩和ケアを意識して取り組んでは
いるけれども,“週単位”から“日単位”に差しかかるあたり
の判断が難しいなと思います.
あとから振り返れば,「ああ,あのタイミングだったのかな」
と思えることもありますが,その時はなかなか気づくことが
できなくて・・・.
ケアが後手に回り,十分な関わりができない中で,最期の
時を迎えてしまうことが多いです.
患者さんが今こうした時期にあることに気づけたら,ケアの
見直しを図ることができたんじゃないかなと思います.
そこで考えたこと。。。
終末期,“看取り”が近づきつつある中で,
「何をどうすればよいのか」を具体的に示してくれる
“道しるべ”のようなものがあったらなあ~
そうした共通のツールを活用して,スタッフ同志が
共通の目線で患者・家族ケアに関わりたいなあ~
イギリスにおいて看取りのプロセスの指標として広く
普及していたLiverpool Care Pathway(LCP)のオリ
ジナル版の導入を試みた.
一般病棟におけるLCP導入の試み
緩和医療学(9) 147-153, 2007
急性期一般病院外科病棟においてLCPを導入した.
(札幌社会保険総合病院:274床,緩和ユニットなし)
導入は2期に分けて行った.
第1期:2004年4月~6月の3ヶ月間.
第2期:2004年12月~2005年2月の3ヶ月間.
第1期に経験したバリアンスを抽出,検討した.
これをもとに,第2期はSTAS日本語版を運用している状況
下でLCPによる評価を行った.
その際に用いたオリジナルのシート( Hospital version )を
以下に示す.
Section 1 初期アセスメント(1)
患者のアセスメント
診
断
原発
入院年月日
転移
人種
身体症状
嚥下困難
嘔気
嘔吐
便秘
混乱
不穏
身のおきどころのなさ
精神的辛さ
あり
なし
□
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□
□
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□
認知力がある
意識清明である
排尿に関する問題
カテーテルチューブなど
気道分泌
呼吸困難
疼痛
その他
あり
なし
□
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□
□
Section 1 初期アセスメント(2)
初回評価
「いいえ」なら
バリアンスへ
Goal 1
投薬内容を再評価,必要でない投薬の中止.
・経口投与の皮下(静脈,直腸)への変更.必要でない投薬の中止.
はい / いいえ
Goal 2
頓用の指示を得る.(疼痛時,不穏時,嘔気時,呼吸困難時,発熱時)
はい / いいえ
Goal 3
治療目的に一致しない治療・検査の見直し
・定期採血・・・患者,家族の希望が無ければ中止
・輸液・・・・・・・浮腫,胸腹水,気道分泌の悪化→減量(<500ml/日)
ルート確保で苦痛を伴う場合,中止or皮下輸液に変更
・心肺蘇生・・・DNRの確認(Dr.
,年月日
. . )
はい / いいえ
Goal 4
治療目的に一致しないケアの見直し・・・体位交換,バイタルサイン
はい / いいえ
Goal 5
病状認識の評価(患者・家族)
病名; 知っている / 知らない / 不明
死が近いこと; 知っている / 知らない / 不明
はい / いいえ
Goal 6
家族への連絡方法の確認.家族への施設の情報の提供.
はい / いいえ
Goal 7
紹介医への患者の状態の連絡
はい / いいえ
Section 2 継続アセスメント(1)
4時間ごとに記載
苦痛の緩和
苦痛の理解 : Goal : 患者が何を苦痛としているかの理解
疼痛: Goal : 痛みがない
気道分泌: Goal : 気道分泌による苦痛がなく,かつ呼吸が
気道分泌のために障害されない
不穏: Goal : 不穏がない
尿閉,便秘の除外.抑制せず,薬物的鎮静を図る.
嘔気,嘔吐: Goal : 嘔気,嘔吐がない
呼吸困難: Goal : 呼吸困難がない
その他の症状
治療・処置
口腔ケア: Goal : 口腔内が湿潤で清潔
排尿: Goal : 患者にとって快適な排尿
患者の価値観にあった排尿方法,利尿剤,夜間点滴の中止
薬物投与
Goal : 確実な薬物投与
08:00
12:00
16:00
20:00
24:00
04:00
Section 2 継続アセスメント(2)
12時間ごとに記載
体位
Goal : 患者が快適で,安全な環境である
・苦痛緩和のみを目的とした体位交換,
・移動しない除圧,マットレスの交換
排便
Goal : 患者が便秘,下痢のために苦痛を感じない
・摘便,GEを行う
・患者の価値観にあう方法(パッドなど)
患者への精神的ケア
Goal : 患者が精神的の穏やかにいられる
・患者に意識があるときと同じように接する(あいさつ,声かけ,タッチなど)
・どのような処置を行うか,あらかじめ伝える
家族へのケア
・患者の状態(死が近いこと)に関する認識の確認,不安の把握,
・苦痛緩和の手段についての情報提供
・身体的疲労に対する配慮。悲嘆が強い場合,傾聴,感情表出の促進
・予測される死の過程についての説明
08:00
20:00
一般病棟におけるLCP導入の試み
Ⅰ.導入第1期(2004年4~6月)
対象:この期間に当病棟に入院中であった全終末期がん患者
8例(消化器がん;6例,乳がん;2例).
実際の運用にあたっては,最初からLCPを病棟全体で共通の
ツールとして用いるためには,その導入に向けての教育やトレ
ーニングなどに多くの時間や労力を要する
⇒ スモールグループによる試験的な運用を試みた.
医師+プライマリーナース+各勤務帯の担当ナースが,
随時,病状や問題点の確認などを行いながらパスを運用
~ 8例全例でパスを遂行.
評価期間(初期アセスメントから死亡まで) : 3~13日(平均7日)
初期アセスメントにおけるバリアンス (第1期)
Goal 1:投薬の再評価・中止
3/8 (37.5%)
Goal 2:頓用指示
2/8 (25.0%)
Goal 3:治療・検査の見直し,DNR
4/8 (50.0%)
Goal 4:ケアの見直し
3/8 (37.5%)
Goal 5:病状認識(死が近いこと)
5/8 (62.5%)
Goal 6:家族への連絡,情報提供
3/8 (37.5%)
継続アセスメントにおけるバリアンス (第1期)
苦痛の緩和・・・・・・・・・・・
初期アセスメントで問題点を解決した
のちは,良好なコントロールが可能
治療・処置
薬物投与
体位
バリアンスはほとんどなく,良好な経過
のまま,最期を迎えることができた.
排便
患者への精神的ケア
家族へのケア・・・・・・・・
・キーパーソンを中心とした家族関係の
把握が不十分 ・・・3/8 (37.5%)
・家族の思いの表出・理解が困難
・・・5/8 (62.5%)
バリアンスの発生理由と対処方法
発生理由
・ 病状認識度の低さ
・ 患者・家族とのコミュニケーションの不足
(一連の治療プロセスの中で,行われるべきことが行われていなかった)
対処方法
病棟全体で,STAS-Jを用いた緩和ケアの普及を目指す
⇒看取りの時期に至るよりも早い段階において,病状
認識やコミュニケーション面での問題の解決を図る
⇒その延長線上でLCPを使用するという流れに沿って
ケアを展開していく.
一般病棟におけるLCP導入の試み
Ⅱ.導入第2期(2004年12月~2005年2月)
この期間に当病棟に入院中であった全終末期がん患者7例
(消化器がん;5例,乳がん;2例)を対象として,STAS-Jによる
評価に続いて,LCPの運用を行った.
運用方法は第1期と同様
(医師+プライマリーナース+各勤務帯のナース )
~ 7例全例でパスを遂行
評価期間(初期アセスメントから死亡まで): 4~14日(平均8日)
バリアンス (第2期)
第1期
第2期
Goal 1:投薬の再評価・中止
3/8 (37.5%)
2/7 (28.6%)
Goal 2:頓用指示
2/8 (25.0%)
2/7 (28.6%)
Goal 3:治療・検査の見直し,DNR
4/8 (50.0%)
3/7 (42.9%)
Goal 4:ケアの見直し
3/8 (37.5%)
2/7 (28.6%)
Goal 5:病状認識(死が近いこと)
5/8 (62.5%)
2/7 (28.6%)
Goal 6:家族への連絡,情報提供
3/8 (37.5%)
2/7 (28.6%)
家族のケア:家族関係の把握
3/8(37.5%)
1/7(14.3%)
5/8(62.5%)
2/7(28.6%)
家族の思いの表出
導入にあたっての注意点とコツ
一般病棟における緩和ケアの質の向上を目指して
いく中で,よりよい看取りのケアの実践を目的として
LCPを導入したプロセスを紹介した.
ここでの経験をもとに,一般病棟でLCP日本語版を
用いる際の注意点やコツなどについて整理する.
1.
2.
3.
4.
開始時期について
LCPを導入する前にしておくべきこと
バリアンスへの対処方法-病状認識
円滑な導入のためのポイント
1. 開始時期について
LCPによる評価の開始時期については,「パスの適応基準」を
もとに,おおむね「最期の1週間」としたが・・・
実際の評価期間は3~14日と幅があり,開始時期の判断を
正確に行うことが難しかった.
LCP発祥国であるイギリスと比べて,わが国ではやや早い時期
に「寝たきり」や「内服が困難」になる患者の割合が高い.
⇒ パスの適用期間は長くなる可能性あり!
その分だけ看取りのケアの準備に充てる時間的余裕がある!
と,前向きに捉えることもできる!!
☆ このパスに習熟し,より適切な運用が可能となっていくことで,
この問題は解消していくでしょう.
2. LCPを運用する前にしておくべきこと
バリアンス分析の結果から明らかなように,看取りの時期
のケアの質は,そこに至るまでの経過の中で行われたケ
アの内容の影響を受ける.
患者が現在抗がん治療中であり,今後徐々に緩和ケア
のニードが高まってくることが予想される時期から,患者・
家族との関わりの中で生じる様々な問題を,その都度適
切に解決しておくことが重要である.
ここで注意してほしいこと・・・
「STAS→LCPという流れでケアを行いましょう!」と
いうことを勧めているわけではないのです。。。
当時われわれが働いていた一般病棟では,よりよい緩和ケア
を提供したいが,何を拠りどころにすればいいのかが分からず
に困っていた.
その時,「STAS日本語版」に出会い,これが病棟全体に普及
していく過程で,予後「月単位」の時期からの緩和ケアの質が
充実していった.
そうした状況において,「“残り1週間”以降の時期にLCPを用
いることで,看取りの時期のケアの質が向上した」という“1つ
の取り組み”を紹介したのである.
3. バリアンスへの対処方法-病状認識
第1期においては,初期アセスメントの中でバリアンス発生率の
高い項目は,「病状認識(死が近いこと)」と「DNRの確認」
「病状認識(死が近いこと)」については,この時期に至ってから,
そのズレを修正することは難しいし,これによって得られる効果
も不明瞭!
より早い時期から修正しておくことが重要だが・・・,
その一方で,この時期に至るまでに十分な病状理解が得られて
いない場合は,患者・家族に病状認識の修正を促すのではなく,
“患者・家族の認識にどの程度のズレがあるのかを,医療者側
が理解し,そしてそれをもとにケアに携わっていく”というスタンス
を目指すのが良いであろう.
4. 円滑な導入のためのポイント
・上からの押しつけで始めない!
・・・ “評価自体が目的化”する危険あり!
・ 最初は小規模から~~ 関心を持った仲間を徐々に増やしていく .
・ 部署全体での運用開始後も,限られた業務量の中で,対象を
限定して行う.
導入当初,「アセスメント項目が多くて,仕事量が増えそう!」
という意見が 聞かれた.
“丁寧なアセスメント”を心掛け,まずは1例1例を大切に!
・成功の秘訣・・・その「良さ」をスタッフが実感できるか否か!
困難な壁にぶち当たった時こそ,仲間との話し合いを大切に!
LCPの運用に関わった病棟スタッフの声
・ 「最期の1週間」すなわち「看取りの時期」が近いことを
意識するきっかけになる.
・ 看取りの時期に必要なケアの見直しができる.
・ 看取りの時期に必要なケアが一目でわかり,見落とし
が減る.
~「今,何をしなければならないのか」に気づくことが
できる.
・ 必要なケアをもれることなく提供できる.
まとめ
一般病院における終末期ケアの質を高めることを目的と
して,LCPの運用を試みた.
緩和ケアの必要な,なるべく早い段階から,患者,家族と
の関わりの中で生じるさまざまな問題を,その都度適切
に解決することを目指し,円滑なギアチェンジを行う.
その延長線として“看取りの時期のケア”につなげていく.
LCPは,「これを使えば“看取りのケア”の 質が向上する」
という“魔法のツール”ではありません!
でも,うまく活用すれば,いくつもの“気づき”を与えてくれ
るでしょう!
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一般病棟での使用経験と導入のコツ(中島信久)