様式 C-19
科学研究費補助金研究成果報告書
平成22年5月28日現在
研究種目:基盤研究(B)
研究期間:2007~2009
課題番号:19300059
研究課題名(和文) インターカラービジョンシステムと知能的ユニバーサルデザイン支援に関する研究
研究課題名(英文) Inter-Color-Vision System and Intelligential Universal-Design Tool
研究代表者
岡嶋 克典(OKAJIMA KATSUNORI)
横浜国立大学・大学院環境情報研究院・准教授
研究者番号:60377108
研究成果の概要(和文)
:視覚の加齢変化と色覚異常のメカニズムを解明し、それらのモデル化・
定式化を行い、世代や色覚特性が異なる人同士の視覚情報を高い精度で相互に接続・交換でき
る動画像変換システム「インターカラービジョンシステム」を開発した。また、画像認識の技
術を統合することで、高齢者や色覚異常者にとって不適切なデザインとその改善策を色覚正常
な若年デザイナーに教示する知能的なユニバーサルデザイン支援ツールを開発した。
研究成果の概要(英文)
:I clarified and formulated age-related changes and the mechanisms
of dichromats so as to develop an Inter-Color-Vision System which is a dynamic image
transformation system that enables the connection and exchange of visual information
precisely between ayoung observer and an elderly or between a trichromat and a dichromat.
In addition, by merging image processing technology, I developed intelligent assistant tools
for Universal Design which can instruct young designers to recognize wrong designs and to
help their improvement taking into account the elderly and dichromats necessities.
交付決定額
(金額単位:円)
2007年度
2008年度
2009年度
年度
年度
総 計
直接経費
8,500,000
3,200,000
2,800,000
間接経費
2,550,000
960,000
840,000
14,500,000
4,350,000
合 計
11,050,000
4,160,000
3,640,000
18,850,000
研究分野:総合領域
科研費の分科・細目:情報学・知覚情報処理
キーワード:視覚情報処理、色彩工学、シミュレーション、加齢変化、空間周波数特性
1.研究開始当初の背景
(1) 同じものを見ても、視覚特性が違えば脳
内に生じる視覚イメージは異なる。加齢によ
っても視覚特性は系統的に変化するため、あ
る世代の人が見ている視覚情報と、それとは
異なる世代の人が見ている視覚情報は異な
っている。また、色覚異常者の色の見えも三
色覚者と大きく異なる。そのため、若い三色
覚者が見やすいと判断して設計したカラー
デザインが高齢者や色覚異常者にとっては
見えにくい配色になってしまうケースが多
発していた。
(2) 高齢者の視覚特性に関する水晶体や瞳
孔径等の眼光学レベルについては定式化が
行なわれていたが、色の見えや閾上コントラ
スト知覚等の高次レベルの特性については
定式化がなされておらず、高齢者の見えを忠
実に再現する動画像シミュレーションシス
テムが存在していなかった。また、色覚異常
も含めた総合的な視覚シミュレーションシ
ステムや自動的にユニバーサルデザインを
実現する知能的な支援ツールも存在してい
なかったため、社会におけるユニバーサルデ
ザインの普及に困難が生じていた。
2.研究の目的
(1) 視覚の年齢変化ならびに色覚異常の色
知覚メカニズムを解明し、それらのモデル
化・定式化を行い、世代や色覚特性が異なる
人どうしの視覚情報を高い精度で相互に接
続(交換)できる動画像変換システム「イン
ターカラービジョンシステム」を提案・試作
した。
(2) 提案システムの検証実験およびその実
用化を推進するとともに、これらの知見と画
像認識の技術を統合することで、高齢者や色
覚異常者にとって不適切なデザインならび
にその改善策を色覚正常な若年デザイナー
に教示する知能的なユニバーサルデザイン
支援ツールを提案・開発し、その有効性につ
いて検証した。
3.研究の方法
(1) 単純色パターンならびに複雑な色背景
上での色の見えを刺激サイズや背景の配色
等を系統的に変えて、若年者と高齢者ならび
に色覚異常者を被験者として測定できる実
験システムとプログラムの開発および実験
条件を決定するための視覚実験を若年者主
体で実施した(図1)。
図1
色の見え測定実験の装置と条件
刺激の生成は、任意の光源の分光特性と物
体の分光反射率から色度を自動的に計算し
忠実な色再現が可能なプログラムを作成す
ることで実現した。色の見えの測定は、カラ
ースケーリング法とカラーマッチング法を
用いて行なった。その結果から、完全2色型
の色覚異常者の色の見え特性を明らかにす
るとともに、刺激条件による色の見えの変化
を定量的に測定できることを示す(図2)。
Subjects Response
R = A+ C
= W + Bk + (R or G ) + (Y or B
= 100
PA
)
: Achromatic Response
A × W A × Bk
:
100
100
PC
Y
W
PC
G
PA
θ
a = [ a RG , aYB ] = [(R - G ) , (Y - B )]
PC = [PRG , PYB ]
= [C × cos θ , C × sin θ
{ a RG
図2
]
θ = tan − 1 (a YB / a RG )
B
Bk
R
: Chromatic Response
> 0 ∩ a YB > 0 , 0 < θ < π 2 [rad
]}
色相角θと彩度 PC の導出法
また、ガボールパターン(図3)を用いて
視覚の空間周波数特性を若年者と高齢者で
測定し、加齢効果の定式化も行なった。
図3
ガボールパターン刺激
さらに、質感やテクスチャー情報をも含め
た高次元の視覚情報を接続するために、様々
な質感やテクスチャーを有する画像に対し
て様々な空間周波数フィルタリング等を施
した画像を生成するプログラムを作成し、質
感知覚特性を測定した。
(2) 開発した実験システムを用いて、若年被
験者で検討した実験条件を基に、高齢者も被
験者に加えて実験を行い、測定データを収集
した。それらの結果を用いて、世代内の分析
を行うとともに、世代間の比較分析を行い、
分析結果を基に年齢効果のモデル化・定式化
ならびに年齢効果の生理的メカニズムの考
察を行なった。並行して、色順応特性の加齢
変化を実験室ならびに実空間の両方で実験
を行うとともに、高次視覚特性(光沢や鮮度
判定等)のシミュレーションを実現するため
の質感知覚特性に関する実験も開始した。さ
らに、画像認識技術を用いた知能的ユニバー
サルデザイン支援システムの実現を目指し、
その理論的な検討を行なった。
4.研究成果
(1) 画像の明るさ感にコントラスト情報が
影響することや、光沢感の定常知覚に必要な
呈示時間等を明らかにした。以上の視覚実験
と並行して、「インターエイジカラービジョ
ン」画像処理システムを試作した(図4)。
にするとともに、その色変換を定式化し、高
齢者と若年者で同じ色の見えを生じさせる
等価色変換技術を確立した(図6~8)。
Result: Defference of the Hue between elderly and young subjects
π/2
θ (70yr) –θ (20yr)
(3) 実験システムを用いてHMDによる携
帯型システムを開発するとともに、リアルタ
イム処理が行えるよう様々な最適化チュー
ニング手法を検討し、若年ならびに高齢の被
験者による様々な視覚刺激(視環境)でのフ
ィールドテストを繰り返すことで、本システ
ムの実用性を検討した。また、フィールドで
使いやすく実用的なシステムを実現するた
めに、キャリブレーション手法や質感再現に
ついて検討するとともに、本システムを知能
的ユニバーサルデザインツールへと拡張し
た。
Subjects (N=10)
― Young subjects: 21-26 years old (Ave. 23.7)
― Elderly subjects: 65-73 years old (Ave. 68.2)
π/4
0
-π/4
-π/2
2π
( ) [rad]
 (φ - 28.8 ) 
θ (70 yr ) − θ (20 yr ) = 4.5 × cos  2π
 + 4 .4
0
π
Hue of stimuli
φ = tan −1 b* a*

50.9

図6 高齢者と若年者の色相角差の定式化
| PC (70yr) | / | PC (20yr) |
Result: Ratio of the chroma between elderly and young subjects
Subjects (N=10)
― Young subjects: 21-26 years old (Ave. 23.7)
― Elderly subjects: 65-73 years old (Ave. 68.2)
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0
図4
研究協力者らとも検討を重ねながら、過去
の知見を定式化した年齢変化モデルならび
に色覚異常モデルを画像処理プログラムの
中に組み込み、それらを並列的に表示可能な
システムを稼動させた(図5)。
実環境
カメラ出力画素
X
X’
X”
オリジナル・一型・二型二色覚・高齢者の同時表示例
LUT番号
対応色
A
X
B
Y
LUT番号
対応色
A
(a
)
2
+ b* 2 − 50 
+1
2
3000


*2
図7 高齢者と若年者の彩度比の定式化
X’
LUT③(高齢者)
③(高齢者)
対応色
X”
X
X
X”
X’
ノートPCなど小型ディスプレイ
ノート など小型ディスプレイ
(利便性が良い)
X”
対応色を出力
対応色を
A
図5
−
 − a* 2 + b* 2  1
= 0.83 Exp 
 − Exp 
PC (20 yr )
13.3


 8

LUT②(二型二色覚)
②(二型二色覚)
A
X’
60
LUT①(一型二色覚)
①(一型二色覚)
LUT番号
A
PC (70 yr )
40
a *2 + b *2
・・・
A
PC
・・・
大型ディスプレイやヘッドマウントディスプレイ
(高い没入感)
A
20
Chroma of Stimuli
インターエイジカラービジョンの概念図
並列処理型色覚シミュレータ
また、色覚異常者の絶対分光感度を実際に
測定し、その結果をシステムに反映させるこ
とで、これまでになく精度の高い色覚異常の
シミュレーションが可能となった。
(2) 高齢者の色の見えは色相・彩度において
系統的な加齢変化が存在することを明らか
図8 若年者(左)と高齢者(右)の色の見え
次に、試作を開始していた画像処理システ
ム「インターカラービジョン」の実用化に向
けて、本格的な開発に着手した。具体的には、
小型カメラとHMD(ヘッドマウントディス
プレイ)を用いて、リアルタイムに実在の視
環境の高齢者ならびに色覚異常者の見えを
評価可能なシステムを開発した(図9)。そ
のシステムに、これまでの当研究において得
られた年代間色接続変換式ならびに色覚異
常者の色変換式をソフトウェアで組み込む
ことで、高齢者ならびに色覚異常者の色の見
えをリアルタイムシミュレーション可能で
ポータブルな視覚変換システムを開発した。
図12 問題箇所可視化システムの概要
図9 カメラ装着型のHMDシミュレータ
また、健常高齢者(図10)の空間特性の
加齢変化と白内障の特性(図11)を関数化
してシミュレータに組み込み、より忠実な高
齢者視覚シミュレーションを実現した。
図10 空間特性を考慮した高齢者視覚シミュレ
ーションの表示例(左:若年者、右:高齢者)
色覚正常者にも違和感のない配色を実現す
るアルゴリズムを考案し、デザイナーに改善
策を教示する知能的ユニバーサルデザイン
支援システムを開発した(図13~14)。
図13
知能的ユニバーサルデザイン支援
システムの画像処理過程
図11 白内障シミュレーション(右)の表示例
(左:元画像、中央:点拡がり関数)
(3) インターカラービジョンシステムの計
算エンジンを用いてオリジナル画像から高
齢者または色覚異常者の見えをシミュレー
トする変換画像を生成し、このコントラスト
情報等から視認性マップをそれぞれ作成し、
両者のカラーマップおよび視認性マップ値
を比較することで、変換したことによって色
が大きく変換した箇所や視認性が低下した
画像部位を抽出し、変換画像に抽出部をマー
キングできるシステムを開発した(図12)。
また、問題箇所を抽出するだけでなく、変
換画像において問題箇所の修正方法を示唆
する機能を付加するとともに、色覚正常者の
カテゴリカル色認識特性を考慮することで
図14 カテゴリカル色認識特性を考慮した
ユニバーサルデザイン自動色変換結果の例
さらに、変換画像ならびに視認性マップを
作成する際、色変換だけでなく、空間周波数
特性の加齢変化等も考慮することで、精度の
高いユニバーサルデザインツールを実現す
るとともに、高齢者や色覚異常者に対して、
視覚だけでなく聴覚や触覚によって情報補
償するマルチモーダルシステムを提案し、そ
の基礎特性についても実験的に検討した。
5.主な発表論文等
(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に
は下線)
〔雑誌論文〕(計13件)
① 岡嶋克典:
「色覚特性と画像における色彩
表現」、日本色彩学会誌、査読無、Vol.34、
No.1、67-72 (2010)
② 岡嶋克典:
「視覚の加齢変化 -基礎と応
用-」、照明学会誌、査読無、Vol.94, No.3,
171-175 (2010)
③ Yuji
Wada,
Carlos
Arce-Lopera,
Tomohiro Masuda, Atsushi Kimura,
Ippeita Dan, Shouichi Goto, Daisuke
Tsuzuki,
Katsunori
Okajima,
"Influence of luminance distribution
on the appetizingly fresh appearance
of cabbage," Appetite, 査読有, Vol.54,
No.2, 363-368 (2010)
④ 原直也、神農悠聖、岡嶋克典:
「有彩色と
白色の照明光間の色変化時における定常
順応のための所要時間」、照明学会誌、査
読有、Vol.93, No.2, 86-91 (2010)
⑤ Takeshi Haraguchi, Taka-aki Suzuki and
"Quantitative
Katsunori
Okajima,
Analysis of Inhomogeneous Luminance
Effect on Visibility of Text," Optical
Review, 査読有, Vol.16, No.6, 627-635
(2009)
⑥ 荒井観、岡嶋克典:
「粗さ触知覚における
両側刺激の影響」 、映像情報メディア学
会誌、査読有、Vol.63, No.12, 1800-1806
(2009)
「断続的振動呈示によ
⑦ 荒井観、岡嶋克典:
る文字表現手法」、ヒューマンインタフェ
ー ス 学 会 誌 、 査 読 有 、 Vol.11, No.4,
331-338 (2009)
⑧ Kan Arai, Katsunori Okajima, "Tactile
Force Perception Depends on the Visual
Speed of the Collision Object,"
Journal of Vision, 査読有, 9(11);19,
1-9 (2009)
⑨ 原口健、岡嶋克典、鈴木敬明:
「有彩色背
景上に表示された有彩色文章の可読性の
定量化」、映像情報メディア学会誌、査読
有、 Vol.63, No.3, 323-330 (2009)
⑩ 岡嶋克典:
「高齢者・色覚異常者の色の見
えシミュレーションシステム」、眼鏡学ジ
ャーナル、査読有、Vol.12, No.2, 19-24
(2009)
⑪ 岡嶋克典:
「高齢者色覚シミュレーション
の基礎と応用」、日本色彩学会誌、査読無、
Vol.32, No.1, 44-48 (2008)
⑫ 岡嶋克典、藤本新之助:
「光環境の明るさ
感における空間周波数分布の影響」、照明
学会誌、査読有、Vol.92, No.2, 77-82
(2008)
⑬ Masahito Nagata, Katsunori Okajima,
and Masayuki Osumi, "Quantification of
Gloss Perception as a Function of
Stimulus Duration," Optical Review,
査読有, Vol.14, No.6, 406-410 (2007)
〔学会発表〕(計39件)
① 石田康裕、岡嶋克典:
「カテゴリカル色知
覚を考慮した知能的カラーユニバーサル
デザイン支援ツール」、日本色彩学会誌
Vol.34,Suppl., 22-23 (2010.5.15),岐阜
② 岡嶋克典、徐爽、岩元健治:
「コントラス
ト弁別感度の加齢変化を考慮した高齢者
視覚シミュレーション」、電子情報通信学
会技術研究報告(HI 研究会), Vol.109,
No.414, 35-39 (2010.2.15), 札幌
「色覚メカニズムとその加齢変
③ 岡嶋克典:
化 ~ネットワークモデルとシミュレー
ションシステム~」、電子情報通信学会技
術 研 究 報 告 ( PRMU 研 究 会 ) Vol.109,
No.249, 43-48 (2009.10.15), 広島
④ Katsunori Okajima and Masafumi Oda,
"Quantification and Formulation of
Age-Related
Changes
in
Color
Appearance," Perception 38 Suppl., 36
(2009.8.25), Germany
「高齢者の色恒常性
⑤ 小田将史、岡嶋克典:
を 考 慮 し た 演 色 性 の 可 視 化 」、 Color
Forum Japan'08 Proceedings, 87-90
(2008.11.26), 東京
⑥ 岡嶋克典、神戸秀、村上和也、荒井観、
小田将史:
「カラーユニバーサルデザイン
のためのヒューマンインタフェース評価
システム」、ヒューマンインタフェースシ
ンポジウム 2008, 941-944 (2008.9.1),
大阪
⑦ T. Suzuki, Y. Okada, Q. Yi, S.
Sakuragawa, K. Takayama, and K.
Okajima," Simple Estimation Method for
Age-Related
Change
of
Spectral
Luminous
Efficiency
using
LEDs,"Proceedings of Interium Meeting
of
the
International
Colour
Association(AIC), #38 (2008.6.17),
Sweden
〔その他〕
ホームページ等
http://www.okajima-lab.ynu.ac.jp
6.研究組織
(1)研究代表者
岡嶋 克典(OKAJIMA KATSUNORI)
横浜国立大学・大学院環境情報研究院・
准教授
研究者番号:60377108
ダウンロード

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