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イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
落合理
1. Introduction
整数論 = 代数体や代数体上の幾何的な対象の様々な性質をしらべる学問
代数体 F のイデアル類群 ⇐⇒ 代数体 F のゼータ函数 (L-函数)
この講義の目的
1. 上の両者 (とそれを結びつけるための大事な概念) をなるべく例もこめて
説明し登場人物を理解してもらう
2. 証明のアイデアをできる限り伝えたい. 特に代数体という幾何的には自
明な対象に対して何かを調べるのに代数曲線やより高次元の幾何的な対
象が活躍する不思議さを伝えたい.
話す内容
1. イデアル類群について
2. 代数体のゼータ函数について
3. モジュラー形式とモジュラー曲線
4. ガロア表現
5. モジュラー形式とガロア表現
Notation
Q: 有理数体, Z: 有理整数の環
2. 代数体の基本事項と例 (特にイデアル類群について)
まず, R ⊂ R を整域の拡大とする. x ∈ R が R 上整であるとは, xn +
a1 xn−1 + · · · + an−1 x + an = 0 (ai ∈) なるモニックな方程式を満たすことを
いう. R の中で R 上整な元全体は R の部分環をなす.
定義 2.1. 可換整域 R が次のような性質をもつとき Dedekind 整域と呼ぶ.
1. R はネーター環である.
2. R の (0) 以外のイデアルはすべて極大イデアルである.
3. R は整閉整域である.
命題 2.2.
1. 単項イデアル整域は Dedekind 整域である.
2. R を Dedekind 整域, F = Frac(R) とする. F を F の有限次拡大, R を
R の F の中での整閉包とするとき R はまた Dedekind 整域である.
3. R を Dedekind 整域とするとき,
R が単項イデアル整域 ⇐⇒ R が UFD
1
もし記述に関するミスなどありましたらお知らせください. 万が一何らかの形で本ノート
を個人的に眺める以外で使う場合 (あまりないかと思いますが) はお知らせください
1
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落合理
定義 2.3. F が代数体であるとは, 有理数体の有限次拡大体であること. また,
Z の F での整閉包を代数体 F の整数環とよび OF で記す. F の Q ベクトル空
間としての次元 d を拡大次数という. このとき, F は d 次 (代数) 体であると
いう
1. 代数体の整数環 OF は Dedekind 整域となる.
例 2.4.
2. K を体とするとき K[X1 , · · · , Xn ] が Dedekind 整域 ⇐⇒ n = 1
3. 体 K 上のアファイン代数曲線 C を考える. C の函数環 OC は Dedekind
整域となる (e.g. C が体 K 上のアファイン直線 A1 ならば OC = K[X]).
定義 2.5. 可換整域 R の分数イデアルとは分数体 Frac(R) の有限生成 R-部
分加群のことをいう. A, B⊂ Frac(R) を R の分数イデアルとするとき, 積
AB ⊂ Frac(R) を AB := { ab|a ∈ A, b ∈ B} と定めることにより自然に分
数イデアル全体は可換半群をなす. この半群を MR で記すことにする. 分数
イデアル A ⊂ Frac(R) があったとき A−1 = {r ∈ Frac(R)|ra ∈ R, ∀a ∈ A}
と定める. 特に普通の意味でのイデアル A ⊂ R を強調して整イデアルという
こともある.
例 2.6.
1. R = Z のとき, M =
⊕ Z となる.
p:prime
2. R を体上の多項式環 K[X1 , · · · , Xn ] とする. このとき, n > 1 ならば半群
MR は自然な法則で群にはならない. 実際, 高さ 2 のイデアル (X1 , X2 ) ∈
R を考えると, (X1 ) ⊂ (X1 , X2 ) かつ (X2 ) ⊂ (X1 , X2 ) である. よって
1
1
R ⊂ (X1 , X2 )−1 ⊂ R =
R∩
R より (X1 , X2 )−1 = R.
X1
X2
命題 2.7. 「A−1 を A ∈ MR の逆元として MR が可換群になる」⇐⇒ 「R が
Dedekind 環」.
定義 2.8. R を Dedekind 整域とする. 分数イデアル全体のなすアーベル群を R
のイデアル群という. また, 単項な分数イデアル全体で生成されるイデアル群の
部分群を単項イデアル群とよぶ. 商群 {R のイデアル群 }/{R の単項イデアル群 }
のことを R のイデアル類群とよぶ. 特に R が代数体 F の整数環のとき, OF
のイデアル類群を記号 Cl(F ) であらわすことにする.
定義から直ちに
Cl(F ) = 0 ⇐⇒ F が単項イデアル整域
である.
√
例 2.9.
1. F = Q( −1) は単項イデアル整域である
(これは Euclid 環の話
√
などから直接わかる
). 従って, Cl(Q( −1)) = 1
√
2. F = Q( −5) は単項イデアル整域ではない. 例えば
√
√
6 = 2 · 3 = (1 + −5)(1 − −5)
√
√
で 2, 3, 1 + −5, 1 − −5 はすべて既約元であり, どのふたつをとって
も片方が他方を割り切らない.
次の結果は代数体の整数論における最も基本的な結果である.
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イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
定理 2.10. 代数体 F に対してイデアル類群 Cl(F ) は常に有限アーベル群と
なる.
今, F /F を代数体の有限次拡大とする. このとき下の体のイデアルが拡大
でどのように振舞うかということが重要である.
命題 2.11. R をネーターな可換整域とする. このときすべてのイデアルが (
順番を除いて ) 一意的に素イデアルのべき積であらわせるための必要十分条
件は R が Dedekind 整域であることである.
定義 2.12. 素数 p を O
. p で生成されるイデアル pOF F の素イデアルとする
を考えると pOF =
Pei i と表せる (Pi は OF の素イデアルを渡る).
1≤i≤r
1. p が拡大 F /F で分岐するとは, 表示 pOF =
1≤i≤r
Pei i においてある i で
ni > 1 となることをいう. p が拡大 F /F で分岐しないとき, p は F /F
で不分岐であるという.
. このとき, p が F /F で分解するとは
2. p が F /F で不分岐であるとする
表示 pOF =
Pi において r > 1 であることをいう.
1≤i≤r
F を d 次代数体とするとき, ある整数 r1 , r2 が存在して F ⊗ R ∼
= R r2 × C r2
(r1 + 2r2 = d) とかける. これに対応して, 埋め込みの言葉では異なる埋め込み
σ (1) : F → R, · · · , σ (r1 ) : F → R
σ (r1 +1) : F → C, · · · , σ (r1 +r2 ) : F → C
σ (r1 +r2 +1) : F → C, · · · , σ (r1 +2r2 ) : F → C
がある. 但し, σ r1 +j = σ r1 +r2 +j と順序付けする.
√
例 2.13. F = Q( d) (d ∈ Z) のとき,
d > 0 ⇒ r1 = 2, r2 = 0
d < 0 ⇒ r1 = 1, r2 = 1
である.
定義 2.14. F を d 次の代数体とし, OF をその整数環とする. OF はねじれの
ない有限生成 Z-加群より自由基底 OF ∼
= ⊕1≤i≤d Zωi をもつ. 判別式 DF を
ω (1) ω (1) · · · ω (1) 2
1
. . . . . . . .2. . . . . . . . . . .d. .
DF = ω1(i) ω2(i) · · · ωd(i) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
(d)
(d)
(d) ω
ω
··· ω 1
2
d
で定義する.
この判別式は自由基底のとり方 OF ∼
= ⊕1≤i≤d Zωi に依存せず well-defined
である.
命題 2.15. p が F/Q で分岐 ⇐⇒ p|DF となる. 特に分岐する素数は有限個.
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落合理
√
√
例 2.16. F = Q( −1) とする. OF = Z, OF = Z[ −1] である. よって,
DF = 4 となる. 拡大 F/Q での素イデアル (p) ∈ Z (p は素数) の振る舞いは
以下のようになることが知られている.
⎧
⎪
p=2
⎨(p) は分岐
(p) は不分岐で 2 つの素イデアルに分解する p ≡ 1 modulo 4
⎪
⎩
(p) は不分岐でかつ不分解である
p ≡ 3 modulo 4
√
上記のことは, まず Z[ −1] が単項イデアル整域であることなど用いて
√
√
p が分解 ⇐⇒ p = αα (∃α = a + b −1 ∈ Z[ −1])
⇐⇒ p = a2 + b2 (∃a, b ∈ Z)
⇐⇒ p ≡ 1 (modulo 4)
といった流れで示される. 以下の定理は大域類体論と呼ばれる定理の特別な
場合である.
定理 2.17. H を F の最大アーベル不分岐拡大とする. このとき相互写像と呼
∼
ばれる同型 Cl(F ) −→ Gal(H/F ) がある.
2.1. 2 次体. F が Q 上のベクトル空間として 2 次元のとき, F を 2 次体と呼ぶ.
例 2.18. F が Q 上 2 √
次体とする. F は単拡大 Q(θ) である. よって結局ある
があって Q( d ) という形で書ける. d = n2 d(n は自然数) とすると
自然数
d
√
√
Q( d ) = Q( d) より以下平方因子を持たないとする.
まず 2 次体は常にガロア拡大である
. 実際, F ∼
= Q[X]/(X 2 − d) であり, 最
√
√
小多項式の根 d, − d は共に F に含まれている.
例 2.19. もちろん拡大次数の大きな体ではガロア拡大ではない代数体もたく
さんある. 最初に出てくるのは
d = 3 のときである. a を 3 乗因子を持たない
√
整数として, F = Q( 3 √
a) とする
√ . このような拡大は一般にガロア拡大ではな
√
い. x3 − a = 0 の根は 3 a, ζ3 3 a, ζ32 3 a の 3 つである.
2 次体の整数環の構造について若干考察する.
命題 2.20. d は平方因子を持たない整数とする.
√
1+ d
d ≡ 1 modulo 4
ω = √2
d
d ≡ 2, 3 modulo 4
√
とするとき, F = Q( d) の整数環
OF は, OF ∼
= Z ⊕ Zω で与えられる. 判別
2 1 ω 4d
d
≡
1
modulo
4
=
で与えられる.
式 DF は DF = σ
1 ω
d
d ≡ 2, 3 modulo 4
√
証明のラフスケッチ. α = a+ b d ∈ F (a, b ∈ Q) を考え, b = 0 とする (b = 0
なら α が整 ⇐⇒ a ∈ Z
√
√である).
Gal(F/Q) = σ (σ : d → − d) とするとき, α の最小多項式は (X −α)(X −
ασ ) = X 2 − 2aX + (a2 − b2 d) である.
1
α が整 ⇐⇒ a ∈ Z かつ a2 − b2 d ∈ Z
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イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
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a = a2 , b = 2b とおく.
α が整 ⇐⇒ 4|(a 2 − b 2 d) ⇐⇒ a , b ∈ Z かつ d ≡ 1 modulo 4.
2 元 2 次形式との関係
定義 2.21. 整係数 2 元 2 次形式とは
f (x, y) = ax2 + bxy + cy 2 = x y
a b/2
b/2 c
x
(但し a, b, c ∈ Z)
y
なるもののことを言う. また整係数 2 元 2 次形式 f の判別式 Df を b2 − 4ac で
あらわす.
定義 2.22. f (x, y) = ax2 + bxy + cy 2 , f (x, y) = a x2 + b xy + c y 2 をと
2 元 2 次形式とする. このとき, f と f が整同値であるとは行列
もに整係数
α β
A=
∈ SL2 (Z) が存在して f (x, y) = f (x, y)A = f (αx+ βy, γx+ δy)
γ δ
となることである.
f と f とが整同値ならば Df = Df である. 各判別式ごとに基本形式とい
うのがある. それでは, 判別式 D をとめて同じ判別式をもつ整係数 2 元 2 次
形式の同値類はどれくらいあるかというのがまず基本的な問題となる.
定理 2.23. 与えられた判別式 D をもつ整係数 2 元 2 次形式の同値類は有限個
である.
Proof. まず, f (x, y) = ax2 + bxy + cy 2 が同値なもののうち必ず
|a| ≤ |c|
(1)
とできる. このことは以下のようにしてわかる. f (x, y) の同値類のうちで
|a|
0 1
が最小なものであるとする. このとき, |c| < |a| ならば, A =
∈
−1 0
− bxy + ay 2 となり, 仮定に反
SL2 (Z) によって f A (x, y) = f (y, x) = cx2 1 n
する. 従って |a| ≤ |c| である. また, A =
∈ SL2 (Z) による変換
0 1
f A (x, y) = f (x + ny, y) = ax2 + (2an + b)xy + (an2 + bn + c)y 2 で置き換え
ることにより他の条件を保ったまま
|b| ≤ |a|
(2)
とすることができる.
(3)
|D| = |4ac − b2 | ≥ 4|ac| − |b|2 ≥ 3|a|2
である (最初の ≥ は ac > 0 のときは等号である). よって a は有限個. (2) よ
り直ちに b も有限個. c = (b2 − D)/4a より a, b が決まると c は自動的に決ま
る. とり得る (a, b, c) の組み合わせが有限個であるから同値類は有限個.
例えば, f (x, y) = x2 + xy + 6y 2 , f (x, y) = 2x2 + xy + 3y 2 は両方とも判別
式 −23 をもつ整係数の 2 元 2 次形式であるが互いに整同値ではない.
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落合理
定義 2.24. F を代数体とし A ⊂ OF を整イデアルとするとき, N (A) = |O/A|
とおきこれを A の絶対ノルムとよぶ. A ⊂ F を分数イデアルとするとき,
N (A1 )
と定
A = A1 A−1
2 (A1 , A2 は整イデアル) と表せる. このとき, N (A) =
N (A2 )
め, これを分数イデアル A の絶対ノルムとよぶ.
定義 2.25. F を 2 次体とし A ⊂ F を整イデアルとする. このとき, A は階
数 2 の自由 Z-加群より A = Zω1 + Zω2 (ω1 , ω2 ∈ OF ) と表せる. このとき,
fω1 ,ω2 を
fω1 ,ω2 = N (A)−1 (xω1 + yω2 )(xω1 + yω2 )σ
(Gal(F/Q) = σ) と定める. x2 , xy, y 2 の係数 ω1 ω1σ , ω1 ω2σ + ω2 ω1σ , ω2 ω2σ は
Gal(F/Q) = σ の作用で不変であるから, fω1 ,ω2 は整係数の 2 次形式となり
判別式は DF である.
定理 2.26. F を判別式 D の 2 次体とする.
1. A ⊂ OF を整イデアルとする. (ω1 , ω2 ) と (ω1 , ω2 ) をともに, A の Z-基
底とする. このとき,
ω ω σ − ω2 ω1 σ
ω1 ω2σ − ω2 ω1σ
√
= 1 2√
⇐⇒ fω1 ,ω2 と fω1 ,ω2 は整同値
DF
DF
が成り立つ.
ω1 ω2 σ − ω2 ω1 σ
√
> 0 なる基底 (ω1 , ω2 ) に
DF
と定める. このとき, DF < 0 ならば有限集合の全
2. 整イデアル A ⊂ OF に対して,
よって, f = fω1 ,ω2
単射
Cl(F ) −→ { 判別式 DF の正定値 2 次形式 }, [A] → f
が引きおこされる.
注意 2.27.
1. DF > 0 のときも, イデアル類と判別式 DF の不定値 2 次形
式の間に類似の 1 対 1 対応があるが若干の修正が必要となる.
2. 直接には示していないが, 上記のような議論によりイデアル類が有限であ
2
2 |DF |
ることが示されている. 粗い評価かもしれないが, |Cl(F )| ≤
3
Siegel らにより類数 1 の虚 2 次体は有限個であることがわかっており, また
Heegner-Stark, Baker
√ らのさらなる研究によってそのようなもののうち |DF |
が最大のものは Q( −163) である.
未解決問題 2.28. 類数 1 の実 2 次体は無限個あるだろう (Gauss 予想 )
少しだけ一般論の補足として Minkowski の数の幾何学について説明する.
以下の定理が知られている.
Minkowski の格子点定理 . X ⊂ Rd を凸部分集合で原点対象なもの, L ⊂ Rd
を格子 ( 離散部分群で商 Rd /L がコンパクトなもの ) とする. d(L) を格子 L
の基本体積とするとき, vol(X) > 2d d(L) ならば, X は少なくともひとつは原
点以外の L の点を含む.
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
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代数体のイデアルなどをユークリッド空間の格子として埋め込み, 上のよ
うな格子点定理を用いてノルムや絶対値を評価するというのが Minkowski の
数の幾何学の述べるところであり, 評価の改善, 精密化など様々な発展が得ら
れている. Minkowski の数の幾何学によって, 代数体 F が与えられたときに
F のイデアル類群を求めるアルゴリズムは完全にわかっている.
命題 2.29. F を d 次代数体として, Cl(F ) をイデアル類群とする. Cl(F )
の任意のイデアル類
[A] の中で, A と同値な整イデアル A0 で, N (A0 ) ≤
d! 2 r2 |DF | なるものがとれる.
dd π
証明の前に d 次代数体 F の代数的数 α ∈ F のノルム NF (α) を導入して
(i)
おく. 埋め込み α(1) , · · · , α(d) の積により NF (α) =
α と定める. この
1≤i≤d
とき, 単項分数イデアル (α) のノルムとの関係は N ((α)) = |NF (α)| で与えら
れる.
証明のアイデア. 分数イデアル B ⊂ F をイデアル類 A−1 の中にとる.
分数イデアル B ⊂ F を Rd = Rr1 × Cr2 の格子とみなすとき, d(B) =
1. |DF |N (B) である.
(i)
d! 2 r2 |b | ≤ d
|DF |N (B) となる b ∈ B が
2. b ∈ B で |N (b)| =
d
π
1≤i≤d
ある (ここで Minkowski の格子点定理を使っている).
3. (b) ⊂ B より, A0 := (b)B −1 は整イデアルであり, 定義から [A0 ] = [A]
でもある. 上のことより
d! 2 r2 −1
−1
N (A0 ) = N (bB ) = |N (b)|N(B) ≤ d
|DF |
d
π
が満たされている.
問題 2.30. 上の評価を用いてイデアル類群を求めるアルゴリズムを自分なり
√
√
にまとめてみよ. また, Q( −23), Q( −163) のイデアル類群をもとめよ. 1
課題 2.31. 自然数 n を与えたとき, 類数が n より大きな代数体や類数が n で
割り切れる代数体は与えられるか.
√
2.2. 円分体. この節では, ζn = exp( 2π n−1 ) とする. ζn の最小多項式 f (X) は
X n − 1 を割る既約多項式である. 実は,
(X − ζ) =
(X − ζni )
f (X) =
ζ:1 の原始 n 乗根
i∈( /n )×
となる.
命題 2.32. Q(ζn )/Q はガロア拡大であり, ガロア群 Gal(Q(ζn )/Q) は (Z/nZ)×
となる. Q(ζn ) の整数環は Z[ζn ] である.
1
講義の主目的が代数的整数論の解説のみではなかったので例えば 2 次体のイデアルの同値
類別の判定などを講義の中で触れなかった. これらについては高木「初等整数論講義」などを
参照されたい
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落合理
類体論の系として次が成立する.
定理 2.33.
1. F を上アーベルである代数体とすると必ず円分体の部分体
である (Kronecker-Weber).
2. p > 2 を素数とする. 素イデアル (p) の拡大 Q(ζn )/Q における振る舞い
に関して次が成り立つ.
Q(ζn )/Q で分岐 ⇐⇒ p|n
Q(ζn )/Q で完全分解 ⇐⇒ p ≡ 1 modulo n
p が Q(ζn ) において素イデアル ⇐⇒ 群 (Z/nZ)× が p を生成元とする巡回群
4d
例 2.34. d を平方因子をもたない整数とする. d∗ =
d
√
とおく. このとき, Q( d) ⊂ Q(ζ|d∗ | ) である.
d ≡ 1 modulo 4
d ≡ 2, 3 modulo 4
問題 2.35. p を奇素数とする. Q(ζp ) に含まれる 2 次体を決定せよ (証明も与
えよ. ヒント:分岐の不変量を有効にもちいること). 紹介にとどめるが Kummer は円分体のイデアル論を用いて次のような Fermat 予想の部分的な解決を与えた (というよりは Fermat 予想の問題が Kummer
のイデアル論が創り出される動機であった).
定理 2.36. p ≥ 5 を素数とする. Q(ζp ) の類数が p と素であるとする. このと
き X p + Y p = Z p は XY Z = 0 なる整数解を持たない.
まとめ
• 代数体の整数環に対してイデアル類群というアーベル群が定義される.
• イデアル類群は有限でありしかもその位数の評価や構造は代数体が与え
られれば effective に求まる.
• 様々な代数体に対してイデアル類群の位数や構造を調べることは歴史的
な発展からも考慮して非常に重要な課題である.
• 大事な群でありながらも一般にはイデアル類群の大きさや構造は不規則
ですべての代数体を包括するきれいな法則性は知られていない.
Bernoulli 数とはべき乗和などの初等数論を考える上で自然に現れる興味深い
有理数である. 各自然数 n に対する第 Bernoulli 数 Bn は
tet
tn
=
B
n
et − 1
n!
1
1
1
, B4 = −
, B6 =
· · · B12 =
で与えられる. B2 =
2·3
2·3·5
2·3·7
7
3617
43867
691
, B14 =
, B16 = −
, B18 =
,
−
2 · 3 · 5 · 7 · 13
2·3
2 · 3 · 5 · 17
2 · 3 · 7 · 19
283 · 617
, ···
B20 = −
2 · 3 · 5 · 11
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イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
t
tet
− は偶函数であるから, B1 = 1 で n > 1 なるすべての奇数
−1 2
n に対して Bn = 0 である.
以下 p を奇素数とする. 特に, Cl(Q(ζp )) の p-torsion 部分 Cl(Q(ζp ))[p] を
考えてみよう. 今ディリクレによる古典的な結果 ( 次の節で証明 ) などに基づ
いて次のことがしられている.
また,
et
定理 2.37 (Kummer). 次は同値
Fp -vector space が Cl(Q(ζp ))[p] が非自明
⇐⇒ B1 , · · · , Bp−1 のうちどれかが p で割れる
∼
標準同型を与える指標 ω : Gal(Q(ζp )/Q) −→ (Z/pZ)× を考える. Gal(Q(ζp )/Q)
は自然に Cl(Q(ζp )) や Cl(Q(ζp ))[p] に作用する. 1 ≤ i ≤ p − 1,
1
gω −i (g)
ei =
p−1
g∈Gal( (ζp )/ )
とおく. e2i = ei , Id = e1 +· · ·+ep−1 である. Cl(Q(ζp ))[p]ω = ei (Cl(Q(ζp ))[p])
とおくと, これに従って,
i
Cl(Q(ζp ))[p] =
⊕
1≤i≤p−1
Cl(Q(ζp ))[p]ω
i
と分解する.
i
予想 2.38 (Vandiver). i を 0 ≤ i ≤ p−3 なる偶数とするとき, Cl(Q(ζp ))[p]ω =
0 である.
p < 4, 000, 000 なら計算で確かめられている. また栗原将人氏によって
p−3
Cl(Q(ζp ))[p]ω
= 0 が示されている.
さて, これから目標とする定理は以下のようなものである.
Ribet の定理 (1976) . p を素数とする. n は 1 ≤ n ≤ p − 1 をみたす偶数と
1−n
するとき, このとき p|Cl(Q(ζp ))ω
⇐⇒ p|Bn が成立する.
⇒ は Herbrand の定理として以前より知られていた. ⇐ が Ribet による新
しい結果である.
2.3. この節の基本文献.
可換環論の基礎的なこと
1. 「環と加群」 岩波書店, 山崎圭次郎著
必要最小限の Dedekind 環の定義、性質、証明などについてはこの本の
第 6 章がコンパクトにまとまっている.
2. 「Algèbre Commutative」 Bourbaki 著
可換環論についてある程度徹底した姿勢で書かれている.
代数体についての基本的なことや具体例など
1. 「数論への出発」 日本評論社, 藤崎源二郎, 森田康夫, 山本芳彦著
数論を専門とする学生のためにはちょっとやさしめすぎるが整数論をこ
れから学ぶ人のための簡単な導入としてはよい読み物であろう.
10
落合理
2. 「数論 1」 岩波書店, 加藤和也, 黒川信重, 斉藤毅著
3. 「代数的整数論」森北出版, 石田信著
類体論などまでは進んでいないが, それ以前の代数的整数論に関しては
非常によく書かれている.
4. 「ベルヌーイ数とゼータ函数」 牧野書店, 荒川恒男, 伊吹山知義, 金子昌
信著
特に第 6 章にある 2 次体のイデアルと 2 次形式の対応は判別式が squarefree でない場合も含みまた証明も丁寧である.
5. 「数論入門」岩波書店, Zagier 著, 片山孝二訳
上の本と同様, 2 次形式の簡約理論, 種の理論などに多くのページが割か
れている.
6. 「Introductory Algebraic Number Theory」Cambridge University Press,
Alaca and Williams 著
単数や整数環の構造そしてイデアル類に関するアルゴリズムなどが丁寧
に書いてある入門書.
円分体について
1. 「Introduction to cyclotomic fields」 Springer Washington 著
岩澤理論におけるもっとも定評のある教科書.
2. 「円分体の代数的類数公式」上智大学出版会, 木村達夫著
類体論について
1. 「数論 2」 岩波書店 加藤和也, 黒川信重, 斉藤毅著
2. 「整数論」共立出版 斉藤秀司著
局所類体論のコホモロジカルなアプローチによる教科書
3. 「Basic Number Theory」 A. Weil 著
大域および局所類体論を位相群的な立場で書いてある本.
3. ゼータ函数に関連する基本事項
前節では Ribet の定理を説明して意味をまず理解してもらうためにイデア
ル類群について説明しある程度, 2 次体や円分体の場合の類数をゼータ函数を
用いて計算する方法を説明する.
命題 3.1. rank(OF× ) = r1 + r2 − 1 である (但し, wF は F の中の 1 の巾根の
数とする). 特に, OF× ∼
= Zr1 +r2 −1 ⊕ Z/wF Z である.
証明は省くことにするが少しだけコメントをしておく. やはり数の幾何学
的な見方を踏襲する. 単数 u ∈ OF× に対して
log|u(i) |
1 ≤ i ≤ r1
l(i) (u) =
(i)
(i)
(i+r
)
2
2log|u | = 2log(u u
) r1 ≤ i ≤ r2
とおく. 今次のような準同型を考える.
OF× → Rr1 × Rr2 , x −→ (l(1) (x), · · · , l(r2 ) (x))
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
11
これに対して次のようなことが言える.
• x −→ (l(1) (x), · · · , l(r1 +r2 ) (x)) の kernel は 1 の巾根のなす群である.
• x−
→ (l(1) (x), · · · , l(r1 +r2 ) (x)) の Image は rank が r1 + r2 − 1 の離散部
分群である.
特に2番目の記述がより主要な議論である. これらが言えれば証明が従うこ
とはよいであろう.
√
√
例 3.2. F = Q( 2) のとき, OF× = {±(1 + 2)n } である.
定義 3.3. 代数体 F に対して単数 1 , · · · , r が存在して勝手な単数 u ∈ OF×
は u = ζn1 1 · · · nr r (ζ は 1 の巾根, ni たちは整数) とかける. このような単数
1 , · · · , r たちを基本単数 (系) と呼ぶ.
定義 3.4. r = r1 + r2 − 1 とする. r 個の数 1 ≤ i1 < · · · < ir ≤ r1 + r2 をと
る. 単数規準 (regulator)RF を
⎛ (i )
⎞
l 1 (1 ) · · · l(i1 ) (r ) RF = det ⎝. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .⎠
l(ir ) (1 ) · · · l(ir ) (r ) で定義する. これは基本単数の選び方や i1 , · · · , ir の選び方に依らず welldefined である.
一般の代数体のゼータについて説明する.
定義 3.5. F を有限次代数体とする. ζF (s) =
1
とおく. これを代数
N (A)s
体 F の Dedekind のゼータ函数とよぶ
特に F = Q のとき, ζ (s) はよく知られたリーマンのゼータ函数 ζ(s) =
1
である.
ns
命題 3.6.
1. ζF (s) は Re(s) > 1 で絶対収束して, また絶対収束する領域で
−1
1
をもつ.
1−
はオイラー積表示
N (p)s
:prime
2. ζF (s) は全複素平面に有理型に解析接続される.
ΛF (s) = As Γ(s)r2 Γ(s/2)r1 ζF (s)
1
( 但し, A = |DF | 2 2−r2 π − 2 ) とおくとき, 函数等式 ΛF (s) = ΛF (1 − s)
が満たされる.
3. s = 1 で 1 位の極を持ちその留数は
d
lim ζF (s)(s − 1) =
s→1
2r1 (2π)r2
Cl(F )RF
wF |DF |1/2
で与えられる (Dirichlet の類数公式 ).
命題についての説明. オイラー積表示については、素イデアル分解の一意性
から直ちにしたがう. また, Re(s) > 1 での収束性は次のような評価でわかる:
12
落合理
−1
1
1
log
=
である.
1−
s
N (p)
nN (p)ns
:prime
:prime n≥1
1 n
2
1
=
< ∞ となる.
δ > 0 ならば,
<
p1+δ
p1+δ − 1
p1+δ
p:素数 n≥1
p:素数
p:素数
したがって, Re(s) = 1 + δ > 1 とすると
n
1 n
1
1
<
<d
n|N (p)ns |
N (p)1+δ
p1+δ
:prime n≥1
:prime n≥1
p:素数 n≥1
函数等式については, 特に F = Q に限って若干コメントするにとどめたい.
∞
√
2
テータ函数 θ(x) を θ(x) :=
eπ −1n x (x ∈ C, Im(x) > 0) とおく. リー
n=−∞
マンの第2積分表示:
(4)
Λ (s) =
1−s dx
1
1
θ(x) − 1 s
(x 2 + x 2 )
−
+
2
x
s 1−s
1
∞
dy
が得られる. これは Γ(s) =
e−y y s
より
y
0
∞
y s dy ∞
s dx
1
2
−s
−y
(5)
=
π Γ(s ) 2s =
e
e−πn x x 2
2
n
n π
y
x
0
0
∞
式 (5) の最後の等式は変数変換 s = 2s , y = n2 πx を行っている. さらに, 式 (5)
√
∞
θ( −1x) − 1
−πn2 x
の n に関する無限和をとり,
e
=
に注意することで
2
n=1
∞ √
s
θ( −1x) − 1 s dx
− 2s
(6)
x2
π Γ( )ζ(s) =
2
2
x
0
2
s
を得る (|e−πn x x 2 | は n や x に関して急減少であるから n ≥ 1 をわたる無限
). θ(x) は函数等式 θ(−1/z) =
和と積分の交換を行ってよいことに注意する
√
( √z−1 )1/2 θ(z) を満たすので, z = −1x としてこれを適用することで
∞ √
θ( −1x) − 1 s dx
x2
2
x
0
1 √
∞ √
θ( −1x) − 1 s dx
θ( −1x) − 1 s dx
2
x
+
x2
=
2
x
2
x
1
0
√
∞
∞ √
θ( −1x) − 1 s dx
θ(−1/ −1x) − 1 − s dx
x2
+
x 2
=
2
x
2
x
1
1
∞ 1/2 √
∞ √
θ( −1x) − 1 s dx
x θ( −1x) − 1 − s dx
x2
+
x 2
=
2
x
2
x
1
1
∞
∞ √
1−s dx
1−s
s dx
1
θ( −1x) − 1 s
(x 2 + x 2 )
−
(x 2 + x 2 )
=
2
x
2 1
x
1
13
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
を得る. かくして求める積分表示 (4) が得られる. 一般のについては 2 通りの
アプローチが知られている. 一つはテータ函数などすべての対象を多重化する
ことである. こちらは手法としては elementary ではあるが一般の代数体では
非常に煩雑な計算となる. もう一方でより現代的には, 位相群上のフーリエ解
析による一般化によって統一的にあつかう (岩澤-Tate の方法と呼ばれる) 方
法がある. どちらも講義の目的から出るので今回は紹介しない.
最後の主張である留数の値に関する記述について説明する. 各イデアル類
1
C ∈ Cl(F ) に対して ζF,C (s) =
とおく
.
ζ
(s)
=
ζF,C (s)
F
N (A)s
C∈Cl(F
)
⊂OF , ∈C
より, lim ζF (s)(s − 1) =
lim ζF,C (s)(s − 1) である. 次の Tauber 型の
s→1
C∈Cl(F )s→1
定理を思い出そう.
補題 3.7 (Tauber 型定理). すべての n で an > 0 なるディリクレ級数 f (s) =
∞
an
が, Re(s) > 1 で収束しているとする. また f (s) は収束線 Re(s) = 1 を
ns
n=1
除いて正則であり s = 1 で 1 位の極をもつとする. このとき, lim (s − 1)f (s) =
lim
n=t
1
t→∞ t
s→1
an が成り立つ.
n=1
今上の Tauber 型定理をディリクレ級数 ζF,C (s) に対して用いてみる. f (s) =
ζF,C (s) に対して適用すると,
an = {A ⊂ OF , A ∈ C|N (A) = n}
となる. 従って,
(7)
2r1 (2π)r2
{A ⊂ OF , A ∈ C|N (A) ≤ t}
=
RF
t→∞
t
wF |DF |1/2
lim
を示せばよい. 以下 F が虚 2 次体の場合に限ってこの式を示す. 従って, この
場合は
(8)
2π
{A ⊂ OF , A ∈ C|N (A) ≤ t}
=
t→∞
t
wF |DF |1/2
lim
を示せばよい. A ∈ C のうち A0 ⊂ OF かつ単項分数イデアル (α) ⊂ OF で
割れないものをとる.
{A ⊂ OF |A ∈ C, N (A) ≤ t} = {(α) ⊂ OF |α ∈ OF , N (α) ≤ N (A0 )t}
である. A0 = Zω + Zω2 と Z-基底をとり, α ∈ A0 に留意すると,
{A ⊂ OF |A ∈ C, N (A) ≤ t}
1
{x, y ∈ Z × Z|(xω1 + yω2 )(xω1σ + yω2σ ) ≤ N (A0 )t}
=
wF
14
落合理
(xω1 + yω2 )(xω1σ + yω2σ )
とおく. f ¼ (x, y) は正定値な
N (A0 )
整係数 2 元 2 次形式である. 次の値
となる. f
¼ (x, y) =
{(a, b) ∈ Z × Z|f ¼ (a, b) ≤ t}
t→∞
t
を求めればよい. 見方を変えると,
lim
lim
{(a, b) ∈
1
√
Z
t
×
1
√
Z|f ¼ (a, b)
t
t
を求めればよいのであり, リーマン積分により, 楕円 f
積 π/|DF |1/2 を求めていることに他ならない.
≤ 1}
t→∞
¼ (x, y)
= 1 の内部の面
ゼータ函数の特殊値がどうなるかについてが整数論の大事な問題である. ま
ず次のことが知られている.
命題 3.8. F を有限次代数体とする.
1. m < 0 を偶数とするとき ζF (m) = 0 である. また, m < 0 を奇数とする
とき ζF (s) はすべての s = m で r2 位の零点をもつ.
2. m < 0 を負の整数とするとき, ζF (m) はすべて有理数である.
特に F = Q のとき, 次のような状況である.
1. m ≤ −1 を偶数とするとき, ζ(m) = 0 である.
n
Bn
(2π)n
Bn かつ ζ(1 − n) =
2. n ≥ 2 を偶数とするとき, ζ(n) = (−1) 2 −1
2 · n!
n
である.
命題についての若干の説明. Γ(s) の性質として次のことがある.
• 自然数 n ≥ 1 に対して Γ(n) = (n − 1)! である.
1
である. 他では
m!
零点も極も持たない複素平面全体で定義された有理型函数である.
自然数 m ≥ 2 に対して
• Γ(s) は各整数 m ≤ 0 で 1 位の極をもち留数は (−1)m
Γ(1−m)r2 Γ((1−m)/2)r1 ζF (1−m) = (零でない複素数)×Γ(m)r2 Γ(m/2)r1 ζF (m)
が成り立つ. 今, 右辺は零でない複素数である. よって上述のガンマ函数の極
に関する性質から負の整数点での零点の位数に関する結果がわかる.
総実な場合 (r2 = 0 のとき) の負の奇数点での値については Contour 積分
の手法による.
それ以外に現段階で知られているリーマンゼータの特殊値に関する結果とし
て次のようなことがある:
事実 3.9.
1. ζ(3) は無理数 (Apéry/1979) である.
ζ(2k
+ 1)Q は Q 上無限次元である. ζ(5), ζ(7), · · · , ζ(21) のうち
2.
k≥1
少なくともひとつは無理数 (Rivoal/2000)
最後に前節で述べた Kummer の定理について論ずる.
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
15
定義 3.10. n を法とするディリクレ指標 χ とは, χ : Z −→ Q で次を満たすも
のをいう.
1. χ(ab) = χ(a)χ(b).
2. a ≡ b modulo n ならば, χ(a) = χ(b).
3. (n, a) = 1 のときに限り, χ(a) = 0.
n を法とするディリクレ指標 χ は自然に準同型
χ : (Z/(n)Z)× −→ {1 の ϕ(n) 乗根のなす群 } ⊂ Q
を引き起こす. 自然な全射環準同型 Z/(mn)Z Z/(n)Z により引き起こされ
る群準同型 (Z/(mn)Z)× (Z/(n)Z)× より n を法とするディリクレ指標 χ
は自然に nm を法とするディリクレ指標を引き起こす.
定義 3.11. χ を n を法とするディリクレ指標とするとき, 上述の意味で n の
真の約数を法とするディリクレ指標から引き起こされなければ原始的ディリ
クレ指標とよぶ.
定義 3.12. χ をディリクレ指標とする.
χ(n)
ζ(χ, s) =
ns
n≥1
とする. χ が自明な指標のとき, ζ(χ, s) は Riemann のゼータ函数 ζ(s) に他な
らない.
定義 3.13.
1. χ を n を法とするディリクレ指標とする. n を割る自然数 f
のうちで χ が f を法とするディリクレ指標でもある最小のものを χ の導
手 (conductor) とよぶ. このとき,
2. 指標 χ 付きの Bernoulli 数を, Q[[t]] の中で
f
−1
a=1
χ(a)teat tn
=
B
n,χ
ef t − 1
n!
と定義する.
例 3.14. n = 9 = 32 のときにいくつか例を与える. (Z/(9)Z)× = {1, 2, 4, 5, 7, 8}
であり σ = 2 を生成元とする位数の巡回群である. よって χ(σ) の値を定めれ
ばディリクレ指標が定まる. χ(σ) は 1 の原始 6 乗根, 原始 3 乗根, ±1 のいず
れか.
χ の位数 χ の導手
χ(σ) の値
1 の原始 6 乗根
6
32
1 の原始 3 乗根
3
32
−1
2
3
1
1
1
補題 3.15. ζ(ζn ) (s) = χ ζ(χ, s) となる. ( 但し右辺は導手が n をわるすべ
ての原始的ディリクレ指標をわたる )
16
落合理
定義 3.16. G(ωi ) をガウス和 G(ωi ) =
p−1
ω i (j)ζpj とする. また, 1 ≤ b ≤ p
j=1
に対して Gb (ω i ) =
p−1
ω i (j)ζpbj と定める.
j=1
とき次が成り立つ.
補題 3.17.
1. Gb (ω i ) = ω −i (b)G(ωi )
√
2. |G(ωi )| = p
|G(ωi )|
|Gb (ω i )|2 とすると, |Gb (ω i )| =
Proof. S =
0
b=1
p
b = p
より, S =
b=p
(p − 1)|G(ωi )|2 である. 一方で
p
S=
Gb (ω i )Gb (ω i )
b=1
p p
p
i
xb
( ω (x)ζp )( ω i (y)ζp−yb )
=
=
b=1 x=1
p
y=1
ω i (x)ω i (y)ζp(x−y)b
b=1 1≤x,y≤p
=
ω i (x)ω i (y)pδx,y
1≤x,y≤p
=
p|ω i (x)| = p(p − 1)
1≤x≤p
よっての二通りの表示から p − 1|G(ωi )|2 = p(p − 1) でなければならない.
補題 3.18. ω i は非自明であるとする
(p − 1 i). このとき, ζ(ω i , s) は s = 1
⎧ √
π −1G(ωi )
⎪
⎪
B1,ω−i
i が奇数のとき
⎪
⎨
p
とな
で収束し, ζ(ω i , 1) =
G(ωi ) −i
⎪
−
ω (b)log|1 − ζpb | i が偶数のとき
⎪
⎪
p
⎩
×
b∈
p
る. ( 倍角公式により, log|1 − ζpb | = sin( bπ
p ) であることにも注意 )
1
i , s) =
とおくと
,
ζ(ω
ω i (a)ζ≡a (s) と表せ
Proof. ζ≡a (s) :=
s
1≤n<∞,n≡a(p) n
a=1
p
1 n ≡ a(p)
1 (a−n)b
る. また, 1 の p-べき根の簡単な性質を用いて
ζp
=
p
0 n ≡ a(p)
b=1
p
∞
1 ζp(a−n)b
であるから, ζ≡a (s) =
とあらわせる. Gb (ω i ) を用いて整理す
p n=1 ns
b=1
p
17
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
ると,
p−1
∞ −nb
ζ
1
p
Gb (ω i )
ζ(ω i , s) =
p
ns
n=1
b=1
が得られる. −log(1 − z) =
zn
は |z| ≤ 1 かつ z = 1 で収束する.
n
n
ζ(ω i , 1) = −
Gb (ω i )
log(1 − ζpb )
p
×
b∈
=−
p
G(ωi ) −i
ω (b)log(1 − ζpb )
p
×
b∈
i が偶数のとき, ω i (−1) = 1 である. よって ζ(ω i , 1) = −
G(ωi ) −i
ω (b)log(1−
p
×
b∈
ζp−b ) ともあらわせる. これより,
また同様の方法によって, 2 次体についても類数公式が導かれる. 結果だけ
紹介しておく.
⎧
⎪
p は F/Q で不分岐, 不分解
⎨1
命題 3.19. χF : Z −→ Q を χF (p) = −1 p は F/Q で不分岐, 分解
⎪
⎩
0
p は F/Q で分岐
で定まる導手 |DF | のディリクレ指標とする.
|DF |
wF χF (i)i.
1. F を虚 2 次体とする. Cl(F ) = −
2|DF |
i=1
|DF |
2. F を実 2 次体とする. Cl(F ) = −
1 χF (i)logsin(πi/DF ).
log()
i=1
証明のアイデア. 証明では同様に ζF (s) = ζ(s)ζ(s, χF ) という事実を用いる.
このことより, lim(s − 1)ζF (s) = ζ(1, χF ) であるから, ディリクレの解析的類
数公式により
Cl(F )2r1 (2π)r2
· RF = ζ(χF , 1)
wF |DF |1/2
これを Cl(F ) を中心に整理し直すと
Cl(F ) =
今次のことが言える.
wF |DF |1/2
· ζ(χF , 1)
2r1 (2π)r2 RF
18
落合理
補題 3.20. ζ(χF , 1) =
⎧
|DF |
⎪
⎪
π
⎪
⎪
−
χF (i)i
⎪
⎨ |D |3/2
F
⎪
⎪
1
⎪
⎪
⎪
⎩− (DF )1/2
i=1
DF
χF (i)logsin
i=1
F が虚 2 次体
πi
DF
F が実 2 次体
√
これをつかって類数の計算例をひとつ与える. F = Q( m) で不分岐な素数 p
を考えるとき,
p が分解する ⇐⇒ 有限体 Fp で m が平方数
p が不分解 ⇐⇒ 有限体 Fp で m が非平方数
√
ということに注意して類数を計算することができる. F = Q( −5) とする.
2
(1 + 3 + 7 + 9 − 11 − 13 − 17 − 19) = 2
Cl(F ) = −
2 × 20
課題 3.21. 2 次体(特に虚2次体)の場合に先の Minkowski 定数を用いた計
算と今回の類数公式による方法の 2 通りのアプローチでイデアル類群を調べ
てみよう.
まとめ
• 各代数体に対してゼータ函数が定義され 大事な情報を含んでいる
• アーべル体の場合は類数公式によっても類数を計算することができイデ
アルの分解や同値性などを判定せずに計算を行うことができる.
3.1. この節の参考文献.
Dedekind のゼータ函数について
1. 「代数的整数論」シュプリンガー東京 Neukirch 著, 梅垣敦紀訳
一般の代数体の函数等式を位相群的方法は用いずに証明している.
ディリクレの類数公式の応用としての 2 次体の類数計算について
1. 「初等整数論講義」岩波書店, 高木貞治著
2. 「数論入門」Zagier 著
3. 「数論序説」小野孝著
第4章において 2 次体の類数計算に頁を割いている.
4. モジュラー形式とアイゼンシュタイン級数
複素上半平面 H = {z ∈ C|Im(z) > 0} を考える. SL2 (Z) が上半平面 H
τ −τ
へ一次分数変換によって作用する. 実際, 一般に Im(τ ) =
に注意す
2
az + b
a b
∈ SL2 (Z), z ∈ H に対して, g(z) =
の虚数部分
ると, g =
c d
cz + d
Im(z)
(ad − bc)Im(z)
=
> 0 である.
Im(g(z)) =
(cz + d)(cz + d)
(cz + d)(cz + d)
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
19
補題 4.1.
1. P SL2 (Z) := SL2 (Z)/{±1} とすると, SL2 (Z) は P SL2 (Z) を
経由して
H に作用する
. 0 1
1 1
としたとき,
2. S =
,T =
−1 0
0 1
P SL2 (Z) = S, T /(S 2 = 1, (ST )3 = 1)
なる表示をもつ.
3. F = {z ∈ H| − 12 ≤ Re(z) ≤ 12 , |z| ≥ 1} とおく. 勝手な z ∈ H に対して,
ある g ∈ SL2 (Z) が存在して, gz ∈ F とできる. また, z ∈ F かつ非自
明な g ∈ P SL2 (Z) に対して gz ∈ F となりうるのは z が F の境界上に
あるときのみである.
定義 4.2. N を正の整数とする. 合同部分群 Γ0 (N ) ⊂ SL2 (Z) を
a b
Γ0 (N ) =
∈ SL2 (Z) c ≡ 0modulo N
c d
で定義する.
Γ0 (N ) は SL2 (Z) の指数有限の正規部分群である. f |kγ = (cz + d)k f (γz) と
おく.
定義 4.3. f (z) を H 上定義された正則函数とする. N を正の整数, χ を conductor が N を割るディリクレ指標とする. レベル N , 指標 χ をもつ重さ k ≥ 1
のモジュラー形式とは次の条件を満たすものである.
1. f |−k
γ (z) = χ(d)f (z)
2. 今上の条件が満たされたとする. δ ∈ SL2 (Z) を勝手にとったとき,
Γ0 (N ) は SL2 (Z) の指数有限の部分群であるからある正の整数 M が存
M
1 1 −1
1 M −1
在して, δ
δ
= δ
δ
は Γ0 (N ) に入る. q =
0 1
0 1
√
δ n/M
exp(2π −1) とするとき f (z)|kδ はフーリエ展開 f (z)|kδ = ∞
−∞ an q
をもつ. この q-展開の級数に関して任意の δ で n < 0 ならば aδn = 0 と
なる.
レベル N , 指標 χ をもつ重さ k ≥ 1 のモジュラー形式は C-ベクトル空間をなす.
この空間を Mk (Γ0 (N ), χ; C) で記す. また2番目の条件で, さらに強く aδn = 0
を課したものをレベル N , 指標 χ をもつ重さ k ≥ 1 のカスプ形式とよぶ. カス
プ形式のなす Mk (Γ0 (N ), χ; C) の部分 C-ベクトル空間を Sk (Γ0 (N ), χ; C) で
記す.
√
ω = exp(π −1/3) とする.
命題 4.4. 次のことが成り立つ.
1. Mk (Γ0 (N ), χ; C) は有限次元.
2. N |N のとき Mk (Γ0 (N ), χ; C) は自然に Mk (Γ0 (N ), χ ; C) の部分空間と
みなせる.
特に χ が自明な指標のとき, Mk (Γ0 (N ), χ; C) を単に Mk (Γ0 (N ); C) と記すこ
とにする.
1. k が奇数ならば Mk (Γ0 (N ); C) = {0}
20
落合理
2. M∗ (Γ0 (N ); C) = ⊕k≥ Mk (Γ0 (N ); C) は自然な次数付き可換環となる.
−1 0
上の3番目の性質については g =
を作用させてやると f (z)|kg =
0 −1
(−1)k f (z) であることからわかる.
重さが 2 のカスプ形式は特に代数曲線上の正則微分形式との同一視がある.
今, Q ∪ {∞} 上に群 SL2 (Z) が一次分数変換で作用する.
命題 4.5. H∗ = H ∪ Q ∪ {∞} とおく.
1. H∗ /Γ0 (N ) は自然にコンパクトリーマン面をなす.
2. H∗ /Γ0 (N ) は有理数体上定義された非特異代数曲線に付随するコンパク
トリーマン面である.
リーマン面 (= 1 次元複素多様体 ) としての局所座標系と張り合わせが定
まることをいえばよい
√ . 作用の固定点がないところはよいので作用の固定点
Γ0 (N )ω と Γ0 (N ) −1 を抜いた残りの部分の商にリーマン面としての構造が
入るのはよい.
例 4.6. 1 ≤ N ≤ 10 のとき, X0 (N ) は genus 0 のリーマン面である. N = 11
のとき, X0 (11) は genus 1 のリーマン面である. さらにこのとき, y 2 + y =
x3 − x2 − 10x − 20 という 3 次方程式でかける代数曲線である.
命題 4.7. 自然な同一視
S2 (Γ0 (N ); C)) ∼
= Ω1 (X0 (N ))
がある. 特に dim(S2 (Γ0 (N ); C))) = genus(X0 (N )) となる.
証明のラフスケッチ. f (z) を重さ 2 のカスプ形式とする. dgz/dz = (cz +d)−2
である. 形式的に f (gz)d(gz) = (cz + d)2 f (z)(cz + d)−2 dz = f (z)dz で
ある. よって, H/Γ0 (N ) 上の正則微分形式である. コンパクト化で付け加
dq
1
√
より
えた点にも正則に伸びることを言わねばならない. dz =
2π −1 q
1
dq
f (z)dz = √ (a0 + a1 q + a2 q 2 + · · · ) . a0 = 0 より q で正則である. 固
q
2π −1
定点のところでの局所座標については授業では触れたが, 図などを要するので
ここでは記さないことにする. 節末の参考文献を参照のこと.
定義 4.8. k, N を正の整数, χ を conductor が N のディリクレ指標とする.
χ−1 (n)
Gk,χ (z) =
(mN z + n)k
2
(m,n)∈
\(0,0)
とおく.
命題 4.9.
1. k ≥ 3 または k ≥ 1 かつ χ は非自明なディリクレ指標とする.
Gk,χ (z) は絶対収束して重さ k のモジュラー形式となる.
2. Gk,χ (z) の q-展開は以下のように与えられる.
√
∞
k −1
−k
−1 (2π −1)
σ k−1 (n)q n .
Gk,χ (z) = 2ζ(χ , k) + 2N G(χ )
(k − 1)! n=1 χ
但し, σχm (n) = 0<d,d|n χ(d)dm である.
21
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
Proof. 簡単のため N = 1, χ が自明な指標のときに示す. このとき Gk,χ (z) を
Gk (z) と記すことにする. 命題 4.4 より k が奇数ならば Gk (z) = 0. よって以
下 k は偶数としておく. 次の補題を思いだそう.
σ
補題 4.10. L を複素平面 C の中の格子とする.
l∈L 1/|l| は σ > 2 で収束
する.
z が基本領域 F に含まれるとすると
|mz + n|2 = (mz + n)(mz + n) = m2 |z|2 + 2mnRe(z) + n2
≥ m2 − mn + n2 = (mω + n)(mω 2 + n) = |mω + n|2
が成立する. よって,
2\(0,0)
(m,n)∈
1
≤
|mz + n|k
(m,n)∈
2\(0,0)
1
であ
|mω + n|k
. z ∈ H が基本領域に
るから, Gk (z) の基本領域における絶対一様収束がでる
a b
含まれないときもある g =
∈ SL2 (Z) が存在して gz が基本領域に含
c d
1
まれる. Gk (z) =
Gk (gz) より H 全体で正則となる.
(cz + d)k
1
Gk (z)|kT =
(m(z + 1) + n)k
2
(m,n)∈
Gk (z)|kS =
\(0,0)
1
1
·
z k m,n (−m/z + n)k
はともに Gk (z) に等しいから無限遠 z → ∞ で正則ならば Gk (z) は保型形式
となる.
1
1
lim
=
= 2ζ(k)
lim Gk (z) =
z→∞
z→∞ (mz + n)k
nk
2
(m,n)∈
n∈ \{0}
\(0,0)
函数 πcot(πz) を考える部分分数展開
∞
πcot(πz) =
1
1 1
+
+
)
(
z
z+n z−n
n=1
がある. 一方で定義より
πcot(πz) = π
∞
√ q+1
√
√ cosπz
= π −1
= π −1 − 2π −1
qn
sinπz
q−1
n=1
となる. 以上の式を合わせて得られる等式
∞
∞
n=1
n=1
√ q+1
√
√ n
1
1 1
+
+
) = π −1
= π −1 − 2π −1
(
q
z
z+n z−n
q−1
22
落合理
の両辺を z に関して k − 1 回微分することで次の式
√
∞
(2π −1)k k−1 n
1
=
n q
(z + n)k
(k − 1)!
n=1
n∈
を得る. 従って, 勝手な m ∈ Z で
n∈
√
∞
(2π −1)k k−1 mn
1
=
n q
(mz + n)k
(k − 1)!
n=1
であるから,
Gk (z) =
(m,n)∈
2\(0,0)
∞ 1
1
=
2ζ(k)
+
2
(mz + n)k
(mz
+ n)k
m=1
n∈
は求める q-展開をもつ.
z ∈ H, f を上の有理型函数とするとき, ordz (f ) を z での (広義の) 零点の位数
df
1
√
である.
とする. Cauchy の積分定理より ordz (f ) =
f
2π −1
命題 4.11.
1. f ∈ Mk (SL2 (Z)) とするとき,
1
1
ord√−1 (f ) + ordω (f ) + ord∞ (f ) +
2
3
ordP (f ) =
P ∈/SL2 ( )
k
12
である.
2.
dim(Mk (SL2 (Z); C)) =
[k/12] + 1
[k/12]
k/2 ≡ 1 mod 12
k/2 ≡ 1 mod 12
3. M∗ (SL2 (Z); C) = C[G4 (z), G6 (z)].
Proof. R を十分大きい実数とする. {z ∈ F |Im(z) > R} → {0 < |q| <
1
} より, R が十分大きいとき f は {z ∈ F |Im(z) > R} に零点も
exp(2πR)
√
√
√
極も持たない. 区間 A = [ω, 12 + −1R], B = [ 12 + −1R, − 12 + −1R],
√
C = [− 12 + −1R, ω 2 ] と絶対値 1 の円周上の ω 2 から ω までの経路 D におけ
df (z)
df (z)
る積分を考える.
+
= 0 である.
A f (z)
C f (z)
f (−1/z) = z k f (z) より
1 d(z k f (z))
1
df (−1/z)
df (z)
= k
dz = k
kz k−1 f (z) + z k
dz
f (−1/z)
z f (z)
dz
z f (z)
dz
dz df (z)
+
=k
z
f (z)
23
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
D
df (z)
=
f (z)
df (z)
+
D f (z)
df (z)
−
(
=
D f (z)
−k
dz =
=
D z
df (z)
f (z)
df (−1/z)
)
f (−1/z)
√
π −1k
6
D 残りの性質はこれを元にして導き出される. 次のことに注意しよう:
1. f ∈ Mk (SL2 (Z); C) が H または無限遠点で零点も極も持たないとする
と f は定数函数でなければならない.
2. f, g ∈ Mk (SL2 (Z); C) H または無限遠点で零点の位数も極の位数も等し
いとすると f は g の定数倍でなければならない.
以下では, 勝手な 4 以上の正の偶数に対して Ek (z) = Gk (z)/ζ(k) とおくこと
2k−1
Bk π k より Ek (z) の q-展開は
にする. ζ(k) =
k!
2k (k−1)
Ek (z) = 1 + (−1)k/2
σ
(n)q n
Bk
k
となる.
定義 4.12. A を C の部分環とする. Kk (Γ0 (N ), χ; A) = {f =
Mk (Γ0 (N ), χ; A)|an ∈ A}
n an q
n
∈
命題 4.13. Mk (Γ0 (N ), χ; C) = Mk (Γ0 (N ), χ; A) ⊗A C
M∗ (SL2 (Z); Z) = Z[E4 (z), E6 (z)]
命題 4.14. すべての偶数 k ≥ 2 で dimMk (SL2 (Z); C)−dimSk (SL2 (Z); C) =
1 となる.
Proof. 今次のような線形写像
Mk (SL2 (Z); C) −→ C, f = a0 + a1 q + a2 q 2 + · · · −→ a0
を考える. この kernel が Sk (SL2 (Z); C) より, 準同型定理から dimMk (SL2 (Z); C)−
dimSk (SL2 (Z); C) ≤ 1 となる. 一方で, 勝手な偶数 k ≥ 4 で Ek (z) ∈
Mk (SL2 (Z); C) は Sk (SL2 (Z); C) ≤ 1 に入らないから dimMk (SL2 (Z); C) −
dimSk (SL2 (Z); C) ≥ 1 となる.
k < 12 で Sk (SL2 (Z); C) = {0}. k = 12 ではじめて dimS12 (SL2 (Z); C) = 1
となる.
命題 4.15. ∆ ∈ S12 (SL2 (C); C) を正規化されたカスプ形式とする
. このと
3
2
n
24
(1 − q ) で与え
き ∆ = (E4 (z) − E6 (z) )/1728 である. ∆ の q-展開は q
n≥1
られる.
24
落合理
Proof. E4 (z)3 − E6 (z)2 はカスプ形式となり q の係数は 1728である. よって
∆ = (E4 (z)3 −E6 (z)2 )/1728 はよい. やるべきことは ∆ = q (1−q n )24 で与
n≥1
えたときの保型性を示すことである. ∆(z) = ∆(z + 1) は明らか. ∆(−1/z) =
z 12 ∆(z) を言えばよい. そのためには
(9)
d∆(−1/z)
d∆(z)
dz
=
+ 12
∆(−1/z)
∆(z)
z
を言えばよいこともすぐにわかる. 実際, 上が言えると (log∆(−1/z)) =
12
(log(z12 ∆(z))) よりある定数√C が存在して ∆(−1/z)
√ = Cz ∆(z)
√ となけ
ればならない. 今これに z = −1 を代入すると, ∆( −1) = C∆( −1) で
, 命題 4.11 より, 無限遠以外で
ある. ∆(z) は無限遠で 1 位の零点をもつので
√
全く零点をもたない. 特に, ∆( −1) = 0 であり C = 1 が得られる. さて,
n−1 dq
d∆(z)/∆(z) = (1 − 24 nq
1−q n ) q = これは重さ 2 の Eisenstein 級数であ
る.
∆(z) = q − 24q2 + 252q3 − 1472q4 + 4830q5 − 6048q6 − 16744q7 + · · · とい
う具合に不規則に大きくなっていく.
部分集合 S ⊂ {p : 素数 } に対して, S の大きさを測る密度を導入する. 今,
1
p:素数 s ∼ log(1/(s − 1)) であることを思い出そう ( ここで ∼ は比がである
p
ことを意味する ).
1 定義 4.16. 部分集合 S ⊂ {p : 素数 } の密度は
log(1/(s − 1))
p∈S s
p
で定義される. 密度は 0 以上 1 以下の実数である. S が有限ならば密度は 0, 密
度が正ならば S は無限集合であるが逆はともに正しくない.
∆ = q (1 − q n )24 に関して次のようなことが予想されている.
4.17.
1. 全ての n ≥ 1 で an (∆) = 0.
p ap (∆) なる素数は密度が 1.
特に p ap (∆) なるもののうち ap (∆) ≡ 1 modulo p なものは無限個ある.
p|ap (∆) なる素数も無限個あるが密度は 0 であろう (今知られているの
は p = 2, 3, 5, 7, 11, 2411 のみ).
n
n
命題 4.18.
n≥1 an (∆)q は無限積展開
n≥1 an (∆)q =
p:素数 (1−ap (∆)q+
11
2
−1
p q ) をもつ.
an (∆)
とおく. はオイラー積 ζ∆ (s) = p:素数 (1 − ap (∆)p−s +
ζ∆ (s) =
ns
p11−2s )−1 を持つ. 次の予想なもともと Ramanujan によるものであるが Deligne
によって 1970 年代はじめに解決されている.
予想
2.
3.
4.
予想 4.19 (Ramanujan). すべての素数 p に関して |ap (∆)| ≤ 2p11/2 が成り
立つ. Deligne の証明はモジュラー形式に付随するガロア表現をつくりそのガロア
表現のフロベニウス作用の固有値に対するヴェイユ予想を解くという方法で
なされた.
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
25
an (∆)
命題 4.20. ζ∆ (s) =
は Re(s) > 11
ns
2 + 1 で絶対収束する. また全平面
に正則に解析接続され函数等式をみたす. Λ∆ (s) = (2π)−s Γ(s)ζ∆ (s) とおく
とき, 函数等式 Λ∆ (s) = Λ∆ (12 − s) を満たす.
4.1. この節の基本文献.
1. 「数論講義」 岩波書店, Serre 著 ( 彌永 健一訳 )
この本の第4章がモジュラー形式の導入となっている. レベルのモジュ
ラー形式に関しての必要事項をコンパクトに切れ味良くまとめている.
前の章を仮定せずにほぼ独立して読むことができるのではないかと思う.
2. 「Introduction to the arithmetic theory of automorphic forms」Princeton University Press, G. Shimura 著
若干歯ごたえはあるが楕円モジュラー形式と関連する基礎事項に関して
は昔からの定評のある教科書である. スタンダードに知っておくべきこ
とを一般の設定でほぼ網羅しているのではないかと思う.
3. 「数論3」岩波書店, 斉藤毅-黒川信重-栗原将人共著
他の和書にはみつけられない少し変わった視点やテーマからモジュラー
形式について書いてある.
4. 「Elliptic curves」Knapp 著
谷山志村予想や理論など楕円曲線とモジュラー形式の結びつきについて
説明してある本. 著者は専門家ではないので細かい間違いは見られる.
が, 例なども適度に取り入れながら書かれた本としては上述の志村によ
る教科書よりは初心者にはとりつきやすいかもしれない.
5. ガロア群とガロア表現について
ここで, Q の代数閉包が同型を除いてただひとつに定まる. それを Q と記す.
この節では絶対ガロア群 G = Gal(Q/Q) の表現を考える. G は有限群の射影
極限であるコンパクトな位相群である. つまり, G × G −→ G , (x, y) → xy
や G −→ G , x → x−1 は射影極限で定まる位相に関して連続である. G
について知られている構造と未解決問題に触れた後, 本講義のメインテーマで
あったイデアル類群の構成との関連についてコメントしたい.
. F をの
1. 各 p ごとに分解群 Dp ⊂ G という部分群が共役を除いて定まる
有限次ガロア拡大とすると OF において (p) = 1≤i≤g Pi と素イデアル
分解する. Gal(F/Q) は集合 {P1 , · · · , Pg } に推移的に作用する. 各 Dp
は有限生成位相群である.
2. Dp の中には惰性群 Ip がある. Dp は Q の剰余体 Fp に自然に作用する.
実際全射準同型 Dp Gal(Fp /Fp ) がある. この kernel を Ip で記す.
ab
3. Gab
=
= G /[G , G ] の構造はよく知られており, 位相群として G ∼
×
lim
←−(Z/(n)) である (Kronecker-Weber).
4. 位相群として無限生成である. 完全列
1 −→ F
Sn −→ 1
∞ −→ G −→
n≥1
なる表示がある.
26
落合理
予想 5.1 (Galois の逆問題). 勝手な有限単純群は G の商として現れる. つま
り勝手な有限単純群を与えるとある有限次な Galois 拡大があって Gal(F/Q) ∼
=
G となるだろう.
Zp を p-進整数環とする. Zp は Z に入る p-進位相による完備化である. Zp は
p を素元とする完備離散付値環であり Zp /(p) は有限体 Fp である.
定義 5.2. O を Zp 上有限生成な完備離散付値環として F を有限体とする. ガ
ロア群 GF の p-進表現 (resp. mod p 表現) とはある有限生成自由な O-加群 M
有限生成自由な F-加群 M (表現加群) への G の連続な作用のことをいう.
1. ガロア群 GF の p-進表現 (resp. mod p 表現) が与えられたとき, 表現加
群の O 上の (resp. F 上の) 基底をとることで ρ : GF −→ GL2 (O) (resp.
ρ : GF −→ GL2 (F)) ができる.
2. O の剰余体を F とする. p-進表現 ρ : GF −→ GL2 (O) が与えられたと
き, 行列成分を mod π することで表現 mod p 表現 ρ : GF −→ GL2 (F)
が得られる.
ガロア群の表現の例
1. G が G の商であるとき G G → Aut p(Zp [G]) によって位数有限の
ガロア表現ができる.
n
∞
lim
2. µpn ∼
= Z/pn Z には自然に G が作用する. µp∞ = ←
− µp とすると µp
は階数 1 の自由 Zp -加群である. しばしばこの表現空間は Zp (1) と記さ
れる. 行列表示 ρ : G −→ GL1 (Zp ) は p 以外の素数では不分岐であり,
l = p に対して ρ(Frobl ) = l となる. Zp (n) := Zp (1) ⊗ p · · · ⊗ p Zp (1)
(n 回テンソル積 ) を考えるとやはり表現加群は階数 1 の自由 Zp -加群で
ある. p 以外の素数では不分岐であり, l = p に対して ρ(Frobl ) = ln と
なる.
i (X , Z )
3. X を有理数体上の d 次元非特異射影多様体とする. このとき, Het
p
i (X , Z ) には
と呼ばれる有限生成 Zp -加群が定義される. 構成から Het
p
G が連続に作用する.
Galois cohomology の定義を思い出そう.
定義 5.3. G が位相的アーベル群 M に連続に作用するとする. このとき
cocycle Z 1 (G , M ) とは次のような写像のなすアーベル群をいう.
Z 1 (G , M ) = {f ∈ Map(G , M )|f (gh) = f (g)h + f (h)}
coboundary B 1 (G , M ) とは次のような写像のなすアーベル群をいう.
B 1 (G , M ) = {f ∈ Map(G , M )|∃m ∈ M such that fm (g) = mg − m}
これを用いてコホモロジー群 H 1 (G , M ) を
H 1 (G , M ) = Z 1 (G , M )/B 1 (G , M )
と定義する.
定義 5.4. G の連続な表現 W , W, W があったとする. このとき W が W の W による拡大であるとは G の作用と可換な次のような完全系列
0 −→ W −→ W −→ W −→ 0
イデアル類群と L 函数の特殊値の関係
27
があることをいう. W が W の W による拡大であるとき, この拡大が自明な
拡大であるとは, W ∼
= W ⊕ W を導くことをいう.
特に W が有限体 F 上の 1 次元自明表現の場合に拡大の同型類集合につい
て考える.
0 −→ W −→ W −→ F −→ 0
x ∈ W を 1 ∈ F の持ち上げとする. このとき, x + w (w ∈ W ) という元
は全て持ち上げである. g ∈ G に対して xg − x ∈ W は実は W の元であ
る. かくして, 写像 G −→ W ができる. 持ち上げの不定性があるがその差
は xg − x, (x ∈ W ) から来る. したがって写像
{0 → W → W → F → 0} → H 1 (G , W )
ができる.
Ribet は Inventiones 34 (1976) の論文で次の定理を示した.
定理 5.5 (Ribet). p|Bk とする. このとき, 連続表現 ρ : G −→ GL2 (F) で
次を満たすものが存在する.
1. ρ の行列表示は
1
∗
0 ω k−1
となる.
2. ρ の像の位数は p で割り切れる. つまり上述の行列表現の ∗ の部分は 0
でない.
3. ρ|Dp の像の位数は p で割り切れない. つまり ρ|Dp は対角化可能.
これがわかると H 1 ((ζp ), µ1−k
p ) の元で非自明かつ局所的に不分岐なものが
1
1−k
できる. H ((ζp ), µp ) の局所的に不分岐な部分群は (ζp ) のイデアル類群の
p-部分群を与えてくれるのである.
授業の最後では非常に駆け足でこのあたりのことを説明した. 今回は最後
のあたりの話を丁寧にできなかった. 次に似た話をする際にもう少しこのあ
たりを丁寧に論じたい.
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