一般社団法人 電子情報通信学会
信学技報
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
IEICE Technical Report
磁界共振結合による三相交流伝送での
共振器位置の回転変化に関する実験
谷川 雄介†
加藤 昌樹†
居村 岳広†
堀 洋一†
†東京大学新領域創成科学研究科 〒277-8561 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
E-mail:
[email protected] [email protected], [email protected], hori@} k.u-tokyo.ac.jp
あらまし 有線の電力送電で用いられている三相送電を磁界共振結合方式のワイヤレス電力伝送に応用した実
験を示す.本論分では各相の位相差が 120°かつ電圧振幅が等しい正弦波による三相平衡状態の伝送を行う.さら
に送電コイルと受電コイルの位置関係を各相とも均等に回転させた際において, 三相平衡状態の維持や相互インダ
クタンスの変化に伴う伝送特性の変化を観測する.また, 等価回路計算により電流および電圧の理論値を計算し, 実
験値と比較することで, 実験と理論の整合性を確認した.
キーワード ワイヤレス電力伝送 磁界共振結合 三相交流 回転 共振器
1.
三相交流無線電力伝送とアプリケーション
本研究では kHz 帯を用いた磁界共振結合方式 [1][2]
での無線三相交流送電の実験を行っている.三相電力
送電の実現可能性については 2013 年 IEICE 総合大会
[3] にて発表を行った.三相交流無線伝送では瞬時電力
が一定化でき , 高周波整流後の直流部分のリプルが小
さいため , 電磁誘導並 [4][5], またはそれ以上の kW ク
ラスでの大電力での無線伝送に有用である.その三相
ワイヤレス電力伝送のアプリケーションとして , 三相
交流の回転対称性を生かした伝送システムを想定する.
例として , 建設機械のクローラと車体の間や , クレー
ン基部回転部分での電力伝送が想定される.本論文で
は , 同軸回転式の三相電力伝送装置を作成し , 相互イ
ンダクタンス特性を計測し , それに基づいた理論値計
算および実測値との比較を行う.
2.
実験の目的
三相において , 図 1 のように 1 次側の 3 つのコイル
と 2 次側の 3 つのコイル中心をそれぞれ正三角形に配
置し , 全てのコイルが 2 つ正三角形の重心を結ぶ軸を
中心に回転対称である場合 , 回転角度によらず , 三相
平衡送電状態が維持されると推定した.なお , その際 ,
2 次側では他相の位相が重ね合わさり位相が変化する
と推定されるので , これを観測する.
本実験では, 大電力伝送を見越して共振周波数
120kHz の回転可能な伝送システムを作成し , 回転角
度ごとの伝送状態を計測する. 計測結果より角度と伝
送の関連性を理論式での計算値と比較して考察する.
3.
理論値の導出方法
理論式としては , 図 2 に示す単相での等価回路から
導出される以下の式 (1) から式 (3) を用いる [6] .単相の
理論式を使用した理由は , 三相対称交流を回転対象配
置で伝送する際には非対称成分が存在しないと仮定し ,
飛び越し結合を無視したためである.この式より電圧
増幅率 A および電流増幅率 A 伝送効率ηを求める.
なお , 相互インダクタンス L , コイル内部抵抗 R , R
の値は作成したコイルの実測値である.三相化には三
角関数の合成式 (4), (5) を用いる.
v
i,
m
Av = j
Ai = j
ω0 Lm RL
(1)
R1RL + R1R2 + (ω0 Lm )2
ω0 Lm
(2)
( RL + R2 )
η = Av ⋅ Ai =
ω 0 Lm R L
( R L + R 2 ){R1 R L + R1 R 2 + (ω 0 Lm ) 2 }
A1 sin( ω t ) + A2 sin( ω t +
=
1
2
2
π
3
) + A3 sin( ω t +
2π
)
3
(3)
(4)
2
( A1 + A2 + A3 ) − ( A1 A2 + A2 A3 + A3 A1 ) sin( ω t + φ )

( 3 / 2) A2 − ( 3 / 2) A3
sinφ =
2
2
2
( A1 + A2 + A3 ) − ( A1 A2 + A2 A3 + A3 A1 )


A1 − ( A2 / 2) − ( A3 / 2)
cosφ =
2
2
2

( A1 + A2 + A3 ) − ( A1 A2 + A2 A3 + A3 A1 )

(5)
図 1 コイルの配置
.
This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere
Copyright ©2013 by IEICE
2
C1 R1
4.
R2 C2
Lm
L2
L1
実験装置
実験装置は , 図 3 に示すような構造であり , 共振器 ,
電源 , 1 次側コイルを保持する回転台 , 2 次側コイルを
保持する架橋構造の台 , 測定機器と負荷からなる.以
下に仕様を示す.
RL
4.1.
図 2 等価回路の図
共振器
共 振 器 は コ イル と コ ン デ ン サ か ら な る直 列 共 振 回
路である.伝送周波数は 120kHz であり , この周波数
が共振周波数となるようにコイルのインダクタンスを
調整する.コンデンサは 2000pF 仕様のセラミックコ
ンデンサを用いたので, コイルのインダクタンスは
880 μ H である.断面積 2mm のビニル皮膜銅線 ( 平均
半径 1.7mm, 皮膜厚さ 0.8mm) を 60 巻き ( 直径 0.5m) す
ることで所定のインダクタンスを得た.なお , 各コイ
ルのばらつきは , 共振周波数が± 0.5% (120 ± 0.6kHz)
となるように巻き数を増減させて調整を行った.完成
した共振器の共通仕様を表 1 にまとめる.
2
4.2.
電源には出力インピーダンス 50 Ωの 4ch 信号発生器
を用い , 各相の位相差が 120 °となる正弦波を 10V
で与える.
図 3 実験装置
p-p
4.3.
1
V2
2nd side
I1
~
~
1st side
4.4.
~
図 4 回路構成
表 1 共振器の仕様
a 相
次1
側
次側
2
自己共振周波数
[ kHz]
自己インダクタンス
[ μ H]
コイルの内部抵抗
[Ω]
共振コンデンサ容量
[ pF ]
受信 (2 次側 ) コイルの配置
次側のコイルは 1 次側の上に覆い被さるテーブル
状の架橋構造の支持台に載せられている.この台は 1
次側の台に干渉せずかつエアギャップが変更可能であ
る.構造部材には木材と塩化ビニルパイプを用いる.
2
自己インダクタンス
[ μ H]
コイルの内部抵抗
[Ω]
共振コンデンサ容量
[ pF ]
Q 値
送信 (1 次側)
次側 ) コイルの配置
コイルの配置
次側のコイルは直径 1.1m の一体の大型円盤上に配
置し , この円盤と足からなる台の全体が回転する構造
とした.台本体は発泡スチロール製で , 高さ 0.5m, 全
体を回転台の上に設置している.また, 円盤部には
15 °刻みで角度を表示している.角度精度は± 1.5 °以
下すなわち刻み幅の 10% 以下 (1 周 360 °に対しては
0.4% 以下 ) になるよう実験する.
I2
V1
電源
b 相
4.5.
C 相
測定機器と負荷
3
2. 0 4 × 1 0 3
5. 4 6 × 1 0 2
5. 3 6 × 1 0 2
5. 8 9 × 1 0 2
1. 1 9 × 1 0 2
1. 1 9 × 1 0 2
1. 2 0 × 1 0 2
測定にはオシロスコープと LCR メータを用いる.負
荷には 50 Ω無誘導抵抗 3 本をそれぞれの相に接続し ,
Y 結線として用いた.オシロスコープでは入出力波形
として電圧および電流を測定し , LCR メータでは各コ
イル間の相互インダクタンスを測定する.
8. 6 7 × 1 0 2
8. 6 9 × 1 0 2
8. 6 9 × 1 0 2
5.
1. 1 7
1. 2 3
1. 2 0
8. 7 3 × 1 0
2
1. 2 1
2. 0 4 × 1 0
2. 0 7 × 1 0
8. 6 8 × 1 0
2
1. 2 3
3
3
2. 0 9 × 1 0
2. 0 3 × 1 0
8. 6 9 × 1 0
2
1. 1 2
3
2. 0 4 × 1 0 3
Q 値
5. 6 3 × 1 0 2
5. 3 6 × 1 0 2
5. 4 9 × 1 0 2
自己共振周波数
[ k H z]
1. 1 9 × 1 0 2
1. 2 0 × 1 0 2
1. 2 0 × 1 0 2
実験
5.1. 実験条件
実際の実験は回路構成 , 回転角度 , エアギャップに
ついて以下の条件で行った.回路構成は図 4 に示すよ
うな Y 結線で行った.Y 結線とした理由は効率測定の
際に基準となる中性点相間で共有するためである.回
転角度については , 1 次側と 2 次側の同相コイルが直上
に来た時を 0 °として , 1 次側と 2 次側の相が隣り合う
相に達する 120 °までの間を 15 °刻みで角度設定を行
う.エアギャップは 0.15m とする.
5.2.
v
i
1
2
A-A
B-A
C-A
0 [deg]
180
0.00
k
(6)
Ai =
(7)
I out
I in
P
V ⋅I
η = out = out out = Av ⋅ Ai
Pin
Vin ⋅ I in
0.10
240
m
V
Av = out
Vin
5.3.
60
測定条件
測定項目は 1 次側と 2 次側の各相間の相互インダク
タンス , 各相の 1 次側相電圧 , 相電流 , 2 次側相電圧 ,
相電流 , 1 次側と 2 次側の位相差とした.また , 電圧電
流の値から電圧増幅率 A および電流増幅率 A , 伝送効
率ηを以下の式 (6) から (8) のように計算し , 前述の理
論値との比較を行った.なお , ここでの電圧および電
流は全て実効値である.力率に関しては , 共振周波数
での伝送かつ無誘導負荷を使用しているため 1 として
計算した.実際に実験中に測定した結果 , 入出力とも
に同一箇所での電圧と電流波形の位相差が 5 °以下で
あったため力率を 1 として計算しても誤差は少ないと
考えられる.他にも全コイルの自己インダクタンス L ,
L を 880 μ H に統一したため , 相互インダクタンス L
から以下の式 (7)で結合係数を計算した.
k=
120
0.20
m
L
k
300
図 5 結合係数と回転角度
120
60
電圧増幅率 計算値
電圧増幅率 実測値
(8)
Lm Lm
=
L1 L2
(9)
実験結果
まず , 相互インダクタンス L の実測値から計算し
た結合係数 k を図 5 に示す.実測値および図 5 の値を
用いて式 (1) から (3) で計算された計算値を以下の図 6
から図 8 に示す.回転角度ごとの各相の電圧増幅率 A ,
電流増幅率 A , を図 6, 図 7 伝送効率ηを図 8 に示す.
0
180
0 0.2
0.4
0.6
0.8
Av
m
1.0
[deg]
v
考察
6.1. 実験結果からの考察
i
240
6.
実験結果より , 回転角度 0 から 45 °および 75 °から
120 °において効率 80% での電力伝送が可能であると
示された.また , 電圧および電流増幅率 , 位相差の変
化をふくめた全てのグラフが 3 相全てで同じ傾向であ
ることから , 回転角度に依存せず , 三相平衡状態を維
持したワイヤレス電力伝送が行われていると考察され
る.なお , 回転角度 60 ° , 180 ° , 240 °において伝送効
率の著しい低下が生じているが , 結合係数のグラフよ
り , 60 ° , 180 ° , 240 °の位置において , 全ての相での
結合係数が 0.01 程度まで低下している.すなわち , 相
互インダクタンスを確保できない場合 , 伝送効率の低
下が認められる.相互インダクタンスの低下はエアギ
ャップの拡大と同等であり , 電圧増福率が上昇するこ
とがグラフより確認される. すなわち , 60 °の位置で
電圧増幅率が大きくなり , 一方で電流増幅率が減少し
ている.位相差については , 0 °から 45 °の範囲では 2
次側は 1 次側に対して , ほぼ 90 °遅れ (270 °進み ) だ
が , 60 °の位置で位相が反転 ( 位相差 180 ° ) となる.
300
図 6 電圧増幅率と回転角度
120
電流増幅率 計算値
電流増幅率 実測値
60
0
180
1.0
240
2.0
Ai
3.0
300
図 7 電流増幅率と回転角度
[deg]
120
120
効率 計算値
効率 実測値
6060
180
180
0 0.2
0.4
η
240
240
0.6
0.8
0 [deg]
0 [deg]
1.0
300
300
図 8 効率と回転角度
120
180
A-A
B-A
C-A
60
30
0 [deg]
150
[deg]
270
対して 10 倍以上大きいため , 飛び越し結合が非常に
小さくなる.しかし , 相互インダクタンスが小さい回
転角度 60 + 120n °近傍においては , 電圧増幅率と計算
値との誤差が 10% 程度生じた.このことは上記の飛び
越し結合と相互インダクタンスの測定誤差の影響であ
る.すなわち測定誤差を一定値と考えた場合 , 相対的
に測定値が小さい部分で誤差の影響が大きくなるため
である.
7.
結論
8.
謝辞
実験より , 三相交流ワイヤレス送電において , 回転
位置にかかわらず , 三相平衡を維持しながらの電力伝
送が可能であることが示された.しかしながら , 相互
インダクタンスの変動により , 特定の角度において伝
送効率が低下することが示された.従って , 三相伝送
に適した専用のコイル形状を考察する必要がある.ま
た , 今回は付加抵抗値を 50 Ωとしたが , 式 (1) から (5)
より伝送効率および伝送電力を最大化する抵抗値が存
在するため , インピーダンス変換の活用 [7] も必要であ
る. 今後は , 大電力送電を行い , 三相伝送の優位性を
証明する実験を行う.
本研究の一部は JSPS 科研費 25709020 の助成を受け
たものです.
240
図9
A
300
相を基準とした際の位相差と回転角度
位相は回転角度 75 °を過ぎると位相差 150 °に収束す
ることが確認された.収束値の 150 °は- 120 °+ 270 °
なので , 隣の相との相対位相差では- 90 °へ戻ったこ
とになる.従って , 120 °回転においては , 60 °近傍での
急激な結合の低下が効率低下と位相の急激な変化をも
たらされていると推測される.すなわち , 相互インダ
クタンスの変化を緩和するコイル形状の場合は , 位相
差変化が緩やかかつ , 伝送効率の低下を抑えられると
推測される.なお , その場合 , 共振器の位相差自体が
角度センサとして機能することも推測される.
6.2.
理論計算値と実験値の比較
本実験と理論値の比較より , 有線同様に三角関数の
合成計算を用いて , 単相での計算を重ね合わせること
によって , 三相平衡状態での特性の傾向を再現した.
このように単純な重ねあわせで再現可能なことは飛び
越し結合の影響を無視できることを意味する.実際 ,
実測した相互インダクタンスに関して最寄りの送受信
共振器間の値が , その他の共振器の組み合わせの値に
文 献
居村 岳広 , 堀 洋一 , “ 共振時の電磁界結合を利用
した位置ずれに強いワイヤレス電力伝送 ”, 電気学
会論文誌 D, Vol. 130, No. 1, pp 76-83, 2010
[2] 粟井 郁雄 , 小森 琢也 , “ 共振器結合ワイヤレス給
電システムの簡便な設計 ”, 電気学会論文誌 C, Vol.
130, No.12, pp 2198-2203, 2010
[3] 谷川 雄介 , 加藤 昌樹 , 居村 岳広 , 堀 洋一 , “ 磁
界共振結合方式を用いた三相交流ワイヤレス電力
伝送の基礎実験 ”, 2013 年電子情報通信学会 総合
大会講演論文集 , 1349-1377, 2013
[4] 紙屋雄史,大聖泰弘 , “ 非接触急速充電装置を搭
載した先進電動マイクロバスの設計製作ならびに
公道実証試験による環境調和性評価 ”, 計測と制御,
[1]
Vol. 50, No. 3, pp 209-214, 2011
[5]Yong Jae Jang, “Optimal Design of the Wireless
Charging
Electric
Vehicle”,
Electric
Vehicle
Conference (IEVC), IEEE International, 2012
[6]Masaki Kato, Takehiro Imura, Yoichi Hori, “The
Characteristics when Changing Transmission Distance
and Load Value in Wireless Power Transfer via
Magnetic
Resonance
Coupling”,
The
34th
International Telecommunications Energy Conference
(INTELEC 34th), 2012
[7]
,
,
, “Impedance
inverter based Analysis of Wireless Power Transfer
Consists of Repeaters via Magnetic Resonant
Coupling”,
,
WPT2012-38, pp 41-45, 2012
コー キムエン 居村 岳広 堀 洋一
電子情報通信学会技術報告
ダウンロード

L - 東京大学