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超短レーザーパルスによる時間分解フォノンスペクトロ
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八木, 駿郎
電子科学研究, 3: 8-14
1996-01
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http://hdl.handle.net/2115/24335
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bulletin
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3_P8-14.pdf
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Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
超短レーザーパルスによる
時間分解フォノンスペクト口スコピー
相転移物性研究分野八木駿郎
ピコ秒あるいはフェムト秒の時間幅を持つレーザーパルスを用いて物質内にフォノンを励起しその実時間に
おける振る舞いを直接観測する時間分解フォノンスペクトロスコピーは,相転移物性の研究に新しい可能性を
もたらす。この方法では物質内の任意の空間位置にモードと波長を選択してフォノンを励起することができ,
その時間変化をプローブすることで波数に依存する外力に対する応答関数を実時間で観測できる。応答関数は
スペクトル強度に対してフーリエ変換の関係にあるので,この方法は従来の分光法において分光器の分解能の
制限を受ける振動数領域を相補的に精度よく観測できる特徴がある。この方法により相転移物性の研究におい
て実時間領域におけるダイナミクスの判定ができるばかでなく,(1)フォノンモードの制御による相転移の制御,
3
)フォノン選択励起などの新しい可能性が期待できる。
巴)長波長フォノンの励起, (
物性発現の機構のヒントを豊穣に宿している舞台であ
1.はじめに
る。相転移の研究はこの機構の原子論的な動的機構(ダ
今世紀の初頭のラマン散乱の発見以来,物質を構成
イナミクス)を完全に解明することを目的としている
する原子・分子のエネルギー状態の解明には,光散乱
ので,相転移機構に対するプロープとしてのフォノン
スペクトノレを求めて解析することが伝統的に行われて
の挙動を観測することは極めて重要でドある o しかし,
きた。このスペクトルの観測とその解析により物質内
ブオノンの挙動の奥に隠された相転移ダイナミクスを
の構成分子・原子あるいはそれらの集団のエネルギー
余すところ無く明らかにするためには,そのスペクト
構造が詳細に解明されてきた。この方法では,観測か
ル強度つまり周波数ドメインにおける観測だけでは充
q,ω)と複素感受率関数
ら得られるスペクトル波形 1(
分な情報を得ることはできない。
x(q,ω) (ただし q, ω は波数と角振動数)との関係,
1(q,
ω)~(kT/ω )Imx (
q,ω
-12sec)あ
最近のレーザー技術の発達は,ピコ秒(10
-15sec)領域の時間幅を持つ超短
るいはフェムト秒(10
(
1
)
から,いわゆる周波数ドメインにおける物質情報とし
光パルスの発生を容易にし,かつてはレーザーの専門
x(q,ω)を求めていることになる。感受率関数は
家しか扱えなかったこれらの超短光ノ¥}レスを物性実験
物質の誘電率や弾性率などに関係した電子材料物性上
2
J。物性実験では特に微
の舞台に登場させつつある [1,
最も基本的で重要な物質定数である。当研究分野でも
弱な信号の観測を問題にすることが多く,光源として
レーザーラマン散乱装置,スペクトル直視装置および
のレーザーには長時間の安定性が求められる。さらに,
広帯域高分解能分光装置などを駆使してスペクトル強
具体的な実験システムにはこのほかに物質の状態を変
度の観測から電子材料物性の原子的機構の解明を行っ
化させるための多種多様な機器が含まれ,光源として
てきた。
のレーザーにもそれらの機器群と同様の維持管理の容
ての
とくに当研究分野で研究対象としている相転移現象
易さが求められる。当然その価格も中心となる機器に
は,熱平衡の状態では見られないゆらぎの増大を本質
比較して廉価でなければならない。最近のレーザーの
的な機構としてもち,それに基づいて秩序変数及びそ
性能向上はこれらの必要性も満たし,ここで述べるよ
れと結合している様々な物理量に異常が生じ,新しい
うに,相転移物性研究の新しい手法として超短光ノ¥}レ
8
スを用いてブォノンを生成し,その挙動を実時間で検
出する時間分解ブォノンスペクトロスコピーを可能に
した。以下では,その原理と実際に相転移物性研究分
野で試みられている実験システムについての解説をを
述べ,続いて相転移の研究へ応用した例を紹介す
る[3"6]。
2
.時間分解フォノンスベクトロスコピーの原理
8=16
0
この方法は以下に述べるようにブォノンの励起と,
励起後のフォノンの時開発展のプロープの 2つの部分
から成る。
2
.
1
定在波としてのフォノンの励起
フォノンの励起は,ある角度で試料物質内で交差す
8=32
0
る 2本の経路に沿ってレーザー光パルスを物質内に送
り込み,その交差する領域(交差領域あるいは励起領
域)で角振動数
,波数 k
l
o k2 をもっ 2個の光
ω10ω2
パルスを時間的にも一致させることで行われる。この
交差領域の中で 2個の光ノ "{;レスの電場の振幅が同位相
で重なり合うところは強い電場となり干渉縞を形成す
る。この状態、を実現するためには光の振動数を持つ電
場の振動の位相が 2つの光ノ fルスの問で一定であるこ
とが必要である。つまり,光の干渉の実験でよく知ら
図 1 光パルス(波数 k
" k,)が角度。で交差したと
きに生じる過渡的干渉縞の模式図.細い平行線
は光パルスの平面電磁波の波面を,太いぎざぎ
ざの線は干渉縞を示す.上から θ =8
',1
6
',3
2
"
.
qは干渉縞の間隔を波長とする波数ベクトル.
れているように干渉縞が生じるためには交差する 2光
束は互いにコヒーレントでなければならない。この干
いるパターンとして励起される。 2
{
固の光パルスの干
渉縞は図 lに簡単な模型で示したように平行な縞模様
渉で互いに強めあった電場の生じた領域では,その電
であり,時間的には光パルスの時間幅の間だけ生じる
場が外力として働き物質中に電場と物質の相互作用を
ので過渡的干渉縞である。これはまた回折格子のよう
2
)式で与えられる d を波長
直接反映した応答として (
に光を回折するので,過渡的グレーティング (
t
r
a
n
s
i
e
n
t
とする励起状態が生成される O
g
r
a
t
i
n
g
)とも呼ばれる。この干渉縞の間隔 dは図 1に
その相互作用には,1)電場による各原子内の電子
示されたように入射光の波長 λ と光ノ"{;レスの光路の
雲のひずみと電子雲に対する核の相対変位により生じ
交差角度 θで変わる。これらの聞には
る誘電率の変化,
λ二 2
ds
i
n
(
1
3
/
2
)
(
2
)
2) フォトンの吸収過程により物質
がエネルギーを吸収することによる温度上昇にともな
の関係があり,交差角を変えることで干渉縞の空間周
う密度の変化に伴う誘電率の変化,の 2通りを考える
期 dを変えることができることがわかる。このことは
p
h
o
t
o
e
l
a
s
t
i
c
ことができる。前者は光弾性相互作用 (
交差角を変えることで特定の波数 q=2π/dを持つ励
i
n
t
e
r
a
c
t
i
o
n
) と呼ばれ,光の電場が誘電率の変化を直
起状態を選択して励起できることを意味している。ま
接励起し,後者は過渡的グレーティングに応じて空間
たこの qは q二 k]-k2を満たしている。生成された干
的に光の吸収で熱的に膨張した領域(熱グレーティン
2個の励起光ノ fルスの時間幅 Tp が充
グ)が誘電率の変化を生成する。どちらの場合も誘電
分短くて,その聞における振動数 ω のブォノンの運動
率の空間変化を定在波として生じる。このことは光パ
が無視できるとき,つまり Tp {
2
π
/
ω のときには,光
ルスの時間幅がフォノンの振動数の逆数に比べて充分
パルスの通過時間の間,フォノンは空間的に静止して
短いときグレーテイングのパターンに応じて波数qを
渉縞は,交差する
-9
もつ、外カグ F(q)が
,
された i番目のフォノンモードの減衰定数,固有角振
F(q,
t
)= Ao(t)[o(qーザ)十 o(q十q
'
)
]
動数である。一方 2)の熱吸収による過程では, ε(q,
t
)
(
3
)
と与えられることを意味する。ここで A は光ノ'¥}レスの
を生ずる熱的に励起された領域が熱伝導により緩和す
強度に依存する定数で, δ(t
)は時間 tに関するデルタ
る過程と,熱膨張による弾性歪みの生成,伝播の過程
関数である。この波数 q
'は前述のように干渉縞の間隔
があるので,
Gi
(
q,
t
)
d により q
'= 2π/dである。 F(q,
t
)によって生じる誘
γa{exp[- (
r
r
/
2)
t
]
二
exp[- (
r
.
!
2
)t
]
cos(
ω;
t
)}
電率の変化 ε(q,
t
)は,線形応答理論により応答関数 G
(
q,
t
)を用いて,
ε(引
(
9
)
で与えられる。 (
9
)
式で第 1項は熱伝導,第 2項は弾性
)
=
fd
∞ 刊
(
q,
t 川
(
q,
t
'
)
波の伝播による効果を表す。れと r
rはそれぞれ光吸
(
4
)
収による弾性歪み生成の効果を表す定数と熱伝導度に
と与えられる。従って励起領域に光ノ fルスが入射して
比例する熱格子の緩和定数である。
から t秒後の応答としての誘電率は
2
.
2 励起されたフォノンのプローブ過程
ε(q,
t
)
二
A[G(q,
t)δ(q-q')+G(q,
t)δ(q十 q
'
)
]
(
5
)
励起後のブォノンの運動状態を観測するためには,
となる。 (
5
)
式は光パルスが交差領域に入射した直後に
励起光ノ'¥}レスの通過後からある時間間隔だけ遅れた時
励起された定在波の,それに続く時開発展としての ε
刻にプロープ光を励起領域に照射し,その回折光を検
(
q,
t
)を示しており,光パルスの通過した後は残された
出する。これにより励起されたフォノンの応答関数 Gi
励起状態は物質内の相互作用にもとずく力を受けて,
(
q,t
)を求めることが出来る。回折光発生の基本過程は
平衡状態へ向かつてその夕、イナミクスを反映して:tq
通常の光散乱と同様にプロープ光の電場で形成される
の向きに互いに逆の 2方向に進行する運動を始める。
振動双極子モーメント Piからの輯射であるので,励起
この夕、イナミクスとして物質内のあるフォノンモード
光パルスから
Qi(
q,
t
)を考えると ε(q,
t
)は
,
民をもっプロープ光の電場,
ε(q,
t
)=αQi(
q,
t
)
T だけ遅れて入射する波数
k3,振動数
E(t-r)exp{i
[k3
r一ω3(t-r
)]}+
c
.c
・
(
6
)
と表される。ここで α は Qi(q,
t
)と ε(q,
t
)の結合定数
によって振動誘起分極,
Pi
(
r,
t
,
q,τ)=ε(r,
t)exp{i
[k・
r一ω3t+ <
t]}X
であり,モード Qiが光学型フォノンの場合にラマンテ
ンソル成分に,音響型フォノンの場合は光弾性結合な
E(tτ)+c.c.
(
1
0
)
どに対応する。また (
6
)
式では単一のモードが ε(q,
t
)に
が生じる。ここで k 二 k]-k2+ k3= q+k3で φはプ
関係している場合を表しているが複数のモードが結合
ロープパルスの到達時間が遅れることによる位相のず
している場合もある。 (
6
)
式の左辺は Qi(q,
t
)を与え,外
れである。励起された状態のうちラマン活性のものが
)が
力 F(q,t
プロープ光と相互作用して kの方向で回折光を生じ
E(
q,
t
)を通じてモード
Qi(
q,
t
)を誘起す
る。その強度 I
d(τ)は
,
ることになり, Qi(q,t
)は(
3
)式より,
Qi(
q,
t
)= A[Gi
(
q,
t)δ(q-q')
十 Gi
(
q,
t)δ(q+q')]
叶j古日杭P巴町州パ(
Iυdμ
山川(什
ωT
刊)~ f
d
(
7
)
1
川
T
刊)
位
eX
却叫
此
p[
川
1
2
となる。 Fi(q,
t
)でプォノンモード Qi(q,
t
)が励起され
~I同ε(何
q, τ)
て,その時開発展は応答関数 Gi(q,
t
)で与えられる。以
~IGi(q, r
)12
(
1
1
)
t)として音響フォノンが励起される場合
下では Qi(q,
となり,回折光強度を遅延時間
を考える。 Gi(q,
t
)の時間依存性は運動方程式によって
で測定することにより, τを tと書き換えて応答関数
与えられ,光ノ'¥}レスが1)の光弾性結合を通じて Qi(q,
Gi(q,t
)の 2乗が観測される。
t
)を励起する場合には,
Gi(q,
t
)=γeexp[一(r;/
2)
t]sin(ωit)
T
の関数として回折角
3
. 実験システム
(
8
)
となり,減衰振動子のものとなる。ここで γe,r
j およ
この方法の実験上の重要なポイントは,コヒーレン
び ω:はそれぞれ光と弾性歪みの聞の結合定数,生成
トな 2個の光パルスを作り出すことと,それを試料内
1
0
で時間的,空間的に一致させることである。我々の実
遅延時間を得ている。 cw光をプロープとして用いる
験システムを図 2に示す。まずコヒーレントな 2個の
こともあり,回折光強度の時間依存性の検出は,パノレ
光パルスの生成は, Qスイッチ付き C Wモードロック
スプロープの場合にはボックスカー積分器を, cwプ
YAG(λ=1,
064nm)あるいは YLF(λ=1,
054nm)
ロープの場合にはデジタルオシロスコープを用いた。
レーザーからの光ノ¥}レスをビームスリッターなどで 2
4
. 実験結果
経路に等強度比で分けることで得られる。我々の場合
4
.
1
に は 必 要 な 時 間 幅 に よ っ て YLFレーザーと YAG
レーザーを使い分けている。 YLFレーザーの Q ス
回折光強度の時間依存性
最初にフォノン励起過程に光弾性効果によるものと
熱吸収効果によるものの 2通りのプロセスがあること
イッチ繰り返し周波数は 400Hz,ピークパワーl.8
MW
,パルス幅 60psであり, YAGレーザーの場合に
をみるために, (
8
)式と (
9
)式 で 述 べ た れ と れ の 値 に 対
は繰り返し 100Hz,ピークパワー 160k W,パルス幅
照的な差を持つ 2つの液体物質,四塩化炭素とエチル
3
0
0psである。これらのレーザーから Q スイッチ発振
アルコールについてのフォノン誘起スペクトロスコ
されたパルス列のうちから 1個のパルスをポッケルセ
a
)は四塩化炭素の測定例で
ピーの実験例を示す。図 3(
ルをパルスセレクターとして用いて切り出して,フォ
あるが,音響フォノンの励起が観測された。その結果
ノン励起用のパルスとして用いる。
t
)を(
l
l
)式に代入したもの
は,ほぽ(
8
)式の結果の Gi(q,
プローフ、光の励起領域への入射のタイミングは光学
を表している。従って四塩化炭素の場合にはフォノン
遅延装置を通過させることで調節する。図 2の場合に
生成はほとんど光弾性結合を通じてなされていること
はl.5 mの光学遅延装置に 2往復させて最大 20nsの
がわかる。仙式で表されているように回折光の強度は
・
しs
i
n
g
l
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o
nl
a
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咽
一
一
・
Q-20nsdelayl
i
n
e
P
叫
k
.
.
.
.
.
.
.
/
図 2 時間分解フオノンスベクトロスコピー実験システム.
HS;ハーモニックセバレータ, KTP;SHG素子としての KTiOPO,結晶, BS;
ビームスプリッター, PM;光電子増倍管.プロープ光と Lて縦シングルモードア
w光を用いるときには点線の経路による. s
a
m
p
l
e
ルゴンイオンレーザーからの c
c
e
l
lには温度,圧力等の計測制御装置が付<.
11-
同(}凶品コヨ
ロ芝礼ロ
532/527nm
Gi(
q,
t
)の振幅の 2乗に比例するので観測された結果
の場合,熱緩和過程の時定数は 4μsec,熱により生成
も ωi (今の場合は音響モードの角振動数)の 2倍の振
された弾性波としての音響モードの振動数は約 8
0
動数を示している。ただし減衰定数 r
i については実験
MHzであった。エチルアルコールの熱吸収が大きい
結果は見かけ上大きい。これは励起領域から進行波動
理由としては, Q-H基の内部振動の 3倍音のエネル
の、逃げ出す汐効果であり,後述する。
ギーがここで用いた YAGレーザーの基本波長を用い
図 3(
b
)はエチルアルコールを試料とした結果であ
た励起光パルスのエネルギーに近いためと思われる。
る。この結果は (
9
)式でほぼ説明できる。 (
9
)式の第 1項
実際に他の水素結合を含む試料のいくつかを用いた結
は 2つの光パルスの干渉縞に伴って熱吸収によって出
果も同様である O しかし図 3(
a
)に示された減衰定数と
来た高温部分が形成する干渉縞(熱グレーティング)
同様に図 3(
b
)のものも見かけ上大きく現れている o そ
が熱伝導によって消失する過程(熱緩和過程)を表し,
れはここで観測している音響モードは波長が長く励起
第 2項は熱吸収によって温度が上昇して膨張したこと
領域における干渉縞の数は多くないので,プロープし
で生じた定在波としての弾性歪みが減衰しながら進行
ている励起領域から時間の経過により音響モードが
b
)の結果も一致する。こ
していく様子を表すが,図 3(
、逃げ出して汐しまい,見かけ上減衰を大きく観測して
しまう効果が含まれているからである。図 4(
a
)にその
様子をシミュレートしたものを示す。その効果を確か
めるために,広い面積を持つ励起領域を円柱レンズを
(a)
用いて生成して, I
d(
t
)を観測した結果を図 4(
b
)に示
す。試料はエチルアルコールでト励起光ノ {Jレスの交差角
などの条件は図 3(
b
)と同一である。両者を比較すると
ロコ.﹄﹄悶
観測されている振動のピークの数が後者の方が多く,
真の振動波形に近づいている。
4
.
3 相転移物性研究への応用
コ
叱
同
図 5(
a
)は 当 研 究 分 野 で 観 測 さ れ た 強 誘 電 体 TGS
。
(
t
r
i
g
l
y
c
i
n
es
u
l
f
a
t
e
)のI
d(
t
)のシグナルで,世界最初
100
口o
300
の研究例である。今までの液体試料に比べて結合係数
400
time(n sec)
が小さくシグナル強度は約 1
,
0
0
0分の 1であった。こ
(b)
のシグナルの温度依存性を強誘電性相転移温度 Tc近
b
)である。 Tcの低温
傍において観測した結果が図 5(
ロコ.﹄
側の相は自発分極を持つ強誘電相であるので,この相
o
r
d
e
rp
a
r
a
r
n
e
t
e
r
) は電気分極であ
転移の秩序変数 (
H国
100
200
300
り,相転移機構としては電気分極のゆらぎのダイナミ
400
クスが問題になる。このときに音響型フォノンモード
コ
吋
円
は結晶の対称性が示すように高温相では電気分極ゆら
ぎと結合せず,低温相である強誘電相で圧電結合を通
じて双 1次結合をする。したがってこの音響フォノン
D
500
1000
1500
2000
モードを励起してその時間変化を観測すると,ブォノ
time(nsec)
ンをプロープとして相転移における電気分極ゆらぎの
図3 (
a
)光弾性結合による回折光の時間依存性.試料
ダイナミクスの検出ができる。図 5(
b
)では弾性定数 C22
は四塩化炭素.点線のパックグラウンドからの
小さなずれは,熱吸収過程も存在しているニと
を示している.(
b
)熱吸収による回折光.献料はエ
0
0nsecまでの範囲
チルアルコール.挿入図は 4
に関係する音響モードの音速の異常が Tcの直下で生
じていることを示しており,この結果は分極のゆらぎ
が単一の緩和時間を持つ緩和型であることを示してい
を拡大したもの.
1
2
(a)
(a)
6
;
: 4・
コ
.D
M
"
' 2・
。
。
守
コ
ド司
"
4
6
4
0
5
0
1
0
time(ns
e
c
)
h
u
)
(
4
1
0
0I
,
.
.
u
u
<
I
l
、
、
j
.
'
"
54050・
M
H
M
I
叫
g4000
同
凶
>3950I
2
0
3
0
6
0
TEMPERATURE(
'
C
)
(
4
)
7
0
図 5 強鱗電体 TGS(
t
r
i
g
l
y
c
i
n
es
u
l
f
a
t
e
)の相転移に
a
)単結晶中に励起された c"音
伴う弾性異常。 (
響モードの回折光強度(実線).点線は本文中の
2
.
5
7
2X
(日)式において第 1項を無視し, ω,=1
1
日'
rad/sec,r
,= 0
.
5
1
0X 1
0
'
/
s
e
cを用いて得
b
)回折光強度の温度依存性から求めら
られた. (
0
2
れた c"音響モードの Tc近傍の異常.
1
0
る。測定振動数範囲はプリルアン散乱と超音波の聞を
カバーするものであり,解析の結果分極緩和時間 τPI
の温度依存性が
(Tc-T)-1 に比例することが明らか
になった。
5
. 舎後の研究の新しい可能性
ここまで述べたようにこの方法は,超短光ノ¥}レスを
用いて任意のフォノンを生成してその実時間運動を観
time(n sec)
図4 (
a
)
過渡的グレーティングの時間変化の模式図。
(
1
)
励起直後, (
2
)時間の経過とともに励起領域か
ら:tqの 方 向 に フ ォ ノ ン の 波 動 が 進 行 し 始 め
3
)
励起フォノンは励起領域からほとんど*逃
る.(
げ出してぺ (
4
)そのあとには熱吸収によるグレー
ティングが残る.従ってプローブ領域を固定し
ていると見かけ上フォノンの減衰が大きく測定
b
)円柱状レンズを用いて励起領域を広
される. (
げた効果の実験例.試料はエチルアルコール [7J
測できる特徴から様々な新しい相転移物性研究の可能
性を秘めている。特に実時間ドメインにおける観測に
よって,相転移ダイナミクスの運動方程式の直接検証
による解明は計り知れないメリットである。さらに今
後期待できる可能性は,
1)相転移の制御
共鳴・非共鳴の条件を実現することで相転移に関与
13-
)
(
q,
t
)
﹃
せることで物質内の特定の集団分子運動としての
n
t
l
(
x(q,ω)
=
J
二dt叫(iω川
するモ←ドを enhanceしたり,逆に強制的に dampさ
i
、モードかの運動を制御することが可能で、ある。この
の関係があるので相補的であることは当然である。
モードが音響型格子振動モードであれば,ここで述べ
3)フォノン選択励起
た方法で,結晶内の特定の弾性歪の成分を制御できる
ある範囲では波数ベクトルの大きさと向きを任意に
ことになる。強弾性相転移の場合には高対称性相の弾
選択でき,かつ励起光ノ¥}レスの偏りとプロープ光の偏
性歪成分の一つが不安定化し低対称性相へ相転移をす
りを組み合わせることで励起するフォノンのモードを
るが,このときこの弾性歪成分に対応する音響型格子
人為的に選択できる。さらにこの選択したモードを前
振動フォノンがソフトモードとなる。このフォノンに
述の共鳴法を用いて選択的に励起し振幅を増大でき
対して共鳴・非共鳴の条件を適用すると相転移の制御
るO これにより励起されたフォノンが,どのような速
が可能となる。各種の物理量の揺らぎが増大し非線形
さでどういう結合を経て緩和していくのか,あるいは
性が顕著に現れる相転移においてその発現を制御でき
フォノンがどのような素励起に結合しているのかな
ることは物性研究に従来にない新しい可能性をもたら
ど,固体中の励起状態聞のダイナミクスを任意に解明
すことが期待できる [3,4J
できる。 qの大きさの範囲はブリルアンゾーンの
2)長波長老E
持つフォノンの観測
の近傍ではあるが方向と大きさとかっ領域も選択で
従来のラマン散乱あるいはブリルアン散乱などの光
r点
き,他の方法には見られない特徴である。
散乱法では,分光器を用いてスペクトルを検出してい
ここまでピコ秒領域の時間幅を持つ光パルスレー
た。そのために ω の小さい領域のスペクトル成分は分
ザーを用いいたので主に音響フォノンの励起について
光器の分解能の制限により正確な観測はできない。構
述べたが,フェムト秒のものを用いると光学フォノン
造相転移の研究においては,長波長つまり Oにきわめ
の励起も可能であるが検出系の高速化も必要となる。
て近い q のブォノンスペクトルは重要である。ここで
しかしこの方法は励起状態さえ出来てしまうと後のプ
述べた方法はこの領域にコヒーレントな励起状態を生
ロープ過程はむしろ通常の光散乱分光法よりも単純
成し,その時間的振舞いを検出するのであるから低振
で,かなり強い回折光を直接検出するので多くの場合
動数をもっ状態のに検出には時間的に低速の検出法で
S/Nの良いシグナルが得られる。現在ではまだ、パルス
むしろ正確な検出が容易で、ありコヒーレントブォノン
レーザーは相当大がかりな装置の部類に属するが,今
であるので S/N比 も 良 心 こ の 意 味 で こ の 方 法 は 従
後さらにレーザー技術が向上してより簡便で高性能な
来の光散乱法を補うものである o この特性を利用して
ものが出現すると,その廉価化と併せて,ここで述べ
従来の方法では結論できなかった q~O におけるダイ
た時間分解フォノンスペクトロスコピーは従来のラマ
ナミクスに光を当てることが期待できる。またこの方
ン,ブリルアン散乱に匹敵あるいはそれ以上の有効な
法と従来の光散乱法との関連は (
1
)式の感受率 x(
q,ω)
かっ新しい可能性を期待できる相転移物性研究の有力
は応答関数 Gi(
q,
t
)と
,
手段になると思われる。
以上
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ダウンロード

超短レーザーパルスによる時間分解フォノンスペクトロスコピー