固液界面の摩擦に対する界面微細構造の
影響に関する分子動力学解析*
芝 原 正 彦
*1,
石 田 浩 司
*2
Molecular Dynamics Study on Effect of Surface Structure in
Nanometer Scale on Friction at a Solid-Liquid Interface
Masahiko SHIBAHARA* , Koji ISHIDA**
*
Graduate School of Engineering, Osaka University,
2-1 Yamadaoka, Suita, Osaka, 565-0871 Japan
**
Mitsubishi Heavy Industries, LTD. Nagasaki Shipyard & Machinery Works,
1-1 Akunoura-Machi, Nagasaki, 850-8610, Japan
Effects of various periodic nanometer structures on friction coefficients and behaviors of lubricate
liquid molecules were calculated by the classical molecular dynamics simulations. When the wall
distance was constant, a friction coefficient decreased and became constant with pressure increase in
liquid region. When the wall distance was less than 1.5nm, a friction coefficient increased under the
same pressure condition. A friction coefficient of a surface with periodic linear nanometer structures
was less than that of a surface with random nanometer structures. Furthermore, a friction coefficient
had a close relationship with the behaviors of liquid molecules and liquid molecules in the region
surrounded with a nanostructure and a wall didn’t go out even when the upper wall moved.
Key Words : Molecular Dynamics Method , Solid Liquid Interface, Interface Phenomena, Friction
1. 緒
する研究も行われてきており(9)-(14),それら過程におけ
論
る固体−液体間の運動量伝搬や熱エネルギー輸送過程
境界潤滑とよばれる表面付着分子が支配的な潤滑
に関しても論じられてきている(15),(16).それらの研究の
過程では,潤滑分子膜はわずかに数分子層程度であり,
非常に小さな表面粗さが摩擦に影響することが知られ
いくつかは界面微細構造の潤滑過程への影響を論じて
いるが(17)-(19),それらはいずれも界面構造の流体力学的
ている(1).また,近年利用されるようになったマイク
な境界条件への影響を検討したものであり,液体分子
ロメートルスケールの流動場においては摩擦低減手法
が数層程度の場合に数 nm の規則的な界面微細構造に
がいくつか存在するが,同様の方法では境界潤滑過程
よって,分子挙動や摩擦がどのように変化するかとい
では摩擦の低減効果を得ることが出来ないため,新し
う観点からは論じられていない.
い摩擦低減方法を開発しなければならない.一方で,
このようなことから液体と固体間の潤滑過程にお
これまでに原子・分子スケールの解析によって摩擦や
摩耗を理解しようとする研究は行われてきており(2)-(6),
界面に付着する単分子層の摩擦過程への影響も検討さ
れてきている(7)-(8).また,固液潤滑過程の潤滑剤の影
響や潤滑剤の物性予測を原子・分子スケールから検討
原稿受付 2006年 7月 日.
*
*1 正員,大阪大学大学院工学研究科(〒565-0871
いて潤滑剤の粘性予測や表面付着層の摩耗特性を原
子・分子スケールで試みた研究例はあるが,数 nm の
規則的な界面微細構造の流体分子挙動への影響を原
子・分子スケールで論じた研究例は少ないといえる.
そこで,本研究では,固体と固体が接触するかしない
かの距離にある場合,すなわち固体と固体間の間隔が
吹田市山田丘
2 –1).
*2 正員,大阪大学大学院工学研究科(現 三菱重工業長崎造船所).
E-mail: [email protected]
数 nm 程度であり,固体表面に数 nm の規則的な構造
が存在する場合に,固体と固体にはさまれた液体分子
挙動特性がどのように変化する可能性があるか,また,
−1−
固液界面の摩擦に対する界面微細構造の影響に関する分子動力学解析
どのように摩擦が変化する可能性があるかに関して分
100m/s
子動力学的に検討を行った.通常,潤滑分子は多原子
分子であり,その内部自由度は潤滑過程や摩擦過程に
大きな影響を持つ.また,本研究が対象とする界面微
Liquid
molecules
細構造と潤滑過程の関係は,界面微細構造と潤滑分子
Wall distance
の内部自由度の相関する複雑な現象となることが考え
L nm
られる.本研究では,潤滑分子としては内部自由度の
Z
ない単純な分子モデルを採用することにより,潤滑過
程における界面微細構造の影響のみを議論することを
Solid wall
Y
5.611 nm
X
考えた.
Fig.1 Calculation model
具体的には,本研究では境界潤滑過程あるいは混
合潤滑過程をせん断を受ける液体分子層(1.50 ∼ 3.00
nm)としてモデル化して,界面微細構造ならびに界
σ nm
ε/10−20 J
面間隔の摩擦係数への影響に焦点を絞って分子動力学
法を用いて解析を行った.また,界面構造の影響とし
Table 1 Potential parameters
Solid - Solid Solid-Fluid
Fluid-Fluid
0.2209
0.4079
0.5949
4.00
1.485
0.551
ては,これまで界面構造を sin カーブ状に変化させた
子(20)に,液体分子は n-デカン分子(21)に相当するポテン
例(18)やランダムな構造を形成して検討した例(19)がある
シャルパラメータを用いた.これらのポテンシャルパ
が,本研究では,界面構造として直方体構造,矩形孔
ラメータの詳細を表1に示す.また液体分子と固体原
構造,台形構造,ランダム構造などを考えて,水平方
子間の相互作用を計算するためのポテンシャルパラメ
向に周期境界条件を課すことにより,上下壁面間隔が
ータは Lorenz-Berthelot の組み合わせ法則により,
界面構造と同スケールの場合において規則的に並んだ
Lennard-Jones ポテンシャルパラメータεに関しては
界面構造が摩擦係数へ与える影響について分子動力学
相乗平均として,Lennard-Jones ポテンシャルパラメ
解析を用いて調べた結果について報告する.
ータσに関しては相加平均として求めた.
図2(a)∼(e)に本研究で用いた壁面モデルを示す.
図2(a)は壁面に微細構造や凸凹が存在しない完全にフ
2.解析方法
ラット平面の壁面モデルである.図2(b)は断面の幅
2.1 計算モデル
図1に本研究で用いた完全
1.40nm,断面の高さ 1.57nm の直方体状の構造が壁面
フラット平面の壁面モデルを示す.上下の壁面はそれ
に存在している壁面モデルであり,幅 4.21nm,深さ
ぞれ単位セル内に 32×32個の原子を fcc構造で三層に
1.57nm の溝が存在する壁面モデルとも考えられる.
配置されている.また,上下の壁面は平行な位置関係
この壁面構造モデルの場合に,上壁面移動方向を(b-1)
にあり,その距離を L と定義した.上下壁面のそれ
x 方向,(b-2) y 方向,(b-3) x 軸に対して 45°方向に変
ぞれ第二層を一定の温度に速度スケーリングを施すこ
化させることによって,直方体の構造に対する上面の
とにより,上下壁面の境界温度一定の条件を実現した.
上下壁面間距離 L は 1.50nm∼3.00nm まで 0.50nm づ
つ変化させ,シミュレーションパラメータとした.上
下壁面間に液体分子を配置して,液体相が存在すると
した.計算系のx方向及びy方向は周期境界として無
限平板を模擬したため,壁面に微細構造が存在する場
合には,その微細構造が周期的に存在する壁面を模擬
していることとなる.基本セルの周期間隔は 5.611nm
である.
本研究では,壁面微細構造および上下壁面間距離
が摩擦係数に及ぼす影響を定性的に理解することを研
究の目的としたことから,壁面を構成する原子ならび
に液体分子の相互作用の計算には Lennard-Jones(12-6)
移動方向の影響を調べた.図2(c)は上底が 1.40nm,
下底が 2.97nm の台形状の構造が存在する壁面モデル
であり,台形状の溝が存在する壁面モデルであるとも
考えられる.この壁面モデルの場合に,上壁面を(c1)y 軸の正方向,(c-2)y 軸の負方向に移動させることに
より,壁面構造の移動方向の影響を調べた.図2(d)は
縦×横 ×高さ= 4.21nm × 4.21nm×1.57nmの直方体孔
が壁面に存在する壁面モデルである.図2(e)は壁面に
幅がそれぞれ 0.88nm,0.53nm,1.05nm のランダムな
構造が壁面に付着している場合である.周期境界条件
を用いていることから図2(a)∼(e)はそれらの構造が周
期的に壁面に付着しているモデルとなる.
ポテンシャルを用いた.具体的には,固体壁面は鉄原
−2−
固液界面の摩擦に対する界面微細構造の影響に関する分子動力学解析
2.2 計算方法
本研究では,下壁面を固定し
て,上壁面を 100m/s で水平方向に移動することによ
Wall distance
L nm
り,流体相にせん断を与えた.計算手順としては,ま
ず基本セル内に流体分子を一定の個数配置し,初期条
Z
Z
件として目標の壁面間隔よりも十分に離した距離に上
5.611 nm
壁面ならびに下壁面を平行に配置する.このときに基
5.611 nm
X
Y
Y
本セル内の流体分子の個数を変化させることにより,
X
同一壁面間隔条件において系内の圧力を変化させた.
(a)
すなわち,一定の壁面間隔の条件で基本セル内の流体
(b-1)
(b-2)
分子個数を十数通りに変化させた場合の解析を行うこ
とにより,系内の圧力と摩擦係数の関係を求めた.そ
Wall distance
L nm
の後,50ps 間,上下壁面のそれぞれ第二層が 800K と
1.57 nm
なるようにスケーリングを施すと同時に,流体層全体
Z
Z
も同一温度となるようにスケーリングを施すとする.
1.40
5.611 nm
ここで時間積分のための時間ステップならびに温度ス
5.611 nm
Y
X
ケーリングの間隔は 5fs とした.その後,上壁面を目
X
Y
標の上下壁面間隔まで 0.4ns 間に近づけていくとした.
(b)
上下壁面間隔が一定間隔に達した後,上壁面を固定し
(c-2)
(c-1)
たまま 50ps 間緩和計算を行った.その後,上壁面に
水平方向に一定の移動速度を与えて,上下壁面のそれ
Wall distance
L nm
ぞれ第二層の温度を一定に保ちながら 1ns 間計算を行
1.57 nm
うことにより,諸物理量算出のための初期状態を作成
Z
した.その後,さらに 1ns 間の計算を行って,流体分
Z
1.40
1.57
5.611 nm
子の挙動の観察ならびに上壁面の摩擦係数などの物理
5.611 nm
Y
X
X
Y
量を数値実験的に算出した.上壁面の摩擦係数の算出
には,計算領域の単位セル内の領域で 1ns 間に流体分
(c)
子から上壁面が受ける垂直方向力 N を数値的に平均
するとともに,同時に上壁面が流体分子から水平移動
Wall distance
L nm
方向に受ける力 F を数値的に平均する.これらの流
体分子から上壁面が受ける力に関しては,分子動力学
1.57 nm
解析において毎ステップ計算される各流体分子と壁面
Z
1.40
原子間に作用する力の各成分をそれぞれ足し合わせる
Z
4.211
4.211
5.611 nm
X
ことにより,計算した.このようにして,上壁面に対
1.40
5.611 nm
Y
Y
X
する摩擦係数 F / N を算出した.したがって,上壁面
(d)
が流体分子から受ける垂直方向力を単位セル内の上壁
面の面積で割ることにより流体相の圧力を算出した.
Wall
L nm
distance
なお,上壁面に加わる力を平均する時間は,試行錯誤
0.70
的に決定し,1ns間の平均で F, N, F/Nなどが変化しな
Z
Z
0.88
いことを確かめている.このような摩擦係数を評価に
0.53
1.05
0.88
1.05
Y
X
用いた理由は,境界潤滑過程では固体潤滑と同様にほ
Y
ぼクーロンの摩擦法則に従うとされているためである
1.58
5.611 nm
5.611 nm
X
(e)
(1).
Fig.2 Surface structural models
また,図 2(b)∼(e)のように壁面に構造が存在する場
合に,どのように上下壁面間隔を定義するかが問題と
この定義における図2(b)∼(e)の壁面モデルの場合の流
なる.本研究では,下壁面に存在する構造の上部から
体相の圧力と摩擦係数の相関が,図2(a)のフラット面
上壁面までの距離を上下壁面間隔と定義した.これは,
モデルの場合と,上下壁面間隔が十分に大きい場合に
−3−
固液界面の摩擦に対する界面微細構造の影響に関する分子動力学解析
friction coefficient
friction coefficient
-0.1
case (a)
case (b-1)
case (b-2)
case (b-3)
-0.08
-0.06
-0.04
-0.02
0
2
4
6
pressure MPa
8
friction coefficient
friction coefficient
L=1.50nm
L=2.00nm
L=2.50nm
L=3.00nm
-0.02
2
4
6
pressure MPa
-0.04
-0.02
2
4
6
pressure MPa
8
coefficient: Case (b-1)
-0.04
0
-0.06
Fig.5 Effects of pressure and surface distance on friction
-0.1
-0.06
L=1.50nm
L=2.00nm
L=2.50nm
L=3.00nm
-0.08
0
Fig.3 Effects of pressure and surface structural models on
friction coefficient: L=3.0nm
-0.08
-0.1
8
-0.1
-0.06
-0.04
-0.02
0
Fig.4 Effects of pressure and surface distance on friction
coefficient: Case (a)
L=1.50nm
L=2.00nm
L=2.50nm
L=3.00nm
-0.08
2
4
6
pressure MPa
8
Fig.6 Effects of pressure and surface distance on friction
coefficient: Case (b-2)
friction coefficient
は相関が一致したためである.例えば,本研究で定義
した上下壁面間隔が 3.0nm の場合の図2(a)と図2(b)
の場合の比較を図3に示す.ほぼ,図2(a)の場合と図
2(b)の場合の相関は一致していることが分かる.
3.解析結果
-0.1
-0.06
-0.04
-0.02
0
3.1 壁面間距離ならびに圧力が摩擦係数に及ぼ
す影響
L=1.50nm
L=2.00nm
L=2.50nm
L=3.00nm
-0.08
2
4
6
pressure MPa
8
Fig.7 Effects of pressure and surface distance on friction
壁面間距離ならびに圧力が摩擦や流体分子
coefficient: Case (b-3)
挙動に及ぼす影響を調べるために,図2(a)に示す壁面
構造がないフラット平面モデルにおいて,上下壁面間
距離ならびに流体相圧力が摩擦係数へ与える影響を調
めに,摩擦係数が一定値に近づいているのではないか
べた.その計算結果を図4に示す.図4の横軸は,上
と考えられる.
壁面に働く単位面積あたりの垂直方向の力,すなわち
また,上下壁面間隔が 2.00nm,2.50nm,3.00nm
流体分子相の圧力であり,縦軸は上壁面の移動方向を
の場合には,同一圧力に対してほぼ同じ摩擦係数の値
正とした場合の摩擦係数である.図4より,上下壁面
となることが分かる.しかし,上下壁面間隔が
間隔にかかわらず,流体分子相の圧力が上昇するにし
1.50nm の場合にはその他の場合と比較して摩擦係数
たがって,摩擦係数が減少していることがわかる.こ
の値が若干上昇し,二本の相関線が存在するような結
れは上下壁面間隔一定の条件で比較しているからであ
果が得られた.それぞれの場合における流体相の流速
り,圧力上昇にともなう上壁面に加わる垂直力の増加
分布を調べた結果,上下壁面間隔が 1.50nm の場合の
と比して,水平に加わる力の増加の割合が小さいため
上側の相関線の場合は,流体分子の流速分布が擾乱を
に起こる現象と考えられる.しかし,圧力が 4MPa
うけてランダムになる傾向があることが分かった.こ
を越えると摩擦係数はほぼ一定となることが分かる.
の場合には流体分子の中には z 方向上向きあるいは下
これは,系の圧力が 4MPa を超えると,液体相が上
向きに大きな速度成分を有する流体分子が生じるため
壁面に対しては固体層のようにふるまうようになるた
に,流体分子が上下壁面に固着するような現象が生じ
−4−
固液界面の摩擦に対する界面微細構造の影響に関する分子動力学解析
friction coefficient
ているため,摩擦係数が大きくなると考えられる.一
方で,上下壁面間隔が 2.00nm,2.50nm,3.00nm の場
合ならびに上下壁面間隔が 1.50nm の場合の下側の相
関線の場合はせん断流れに近い速度分布をしているこ
とが分かった.この場合には流体分子の中には z 方向
上向きあるいは下向きに大きな速度成分を有する流体
分子が生じないために,流体分子の速度分布に擾乱が
-0.1
case (c-1)
case (c-2)
case (b-2)
-0.08
-0.06
-0.04
-0.02
0
2
生じる場合と比べて摩擦係数は小さくなると考えられ
4
6
pressure MPa
8
る.このようなことから,上下壁面間隔が小さくなっ
Fig.8 Effects of pressure and surface structural models on
て 1.50nm になると同一流体分子相圧力の場合に摩擦
friction coefficient: L=1.5nm
friction coefficient
係数が大きくなる場合があらわれはじめ,その場合に
は流体分子相の流速分布に大きな変化がみられること
が分かった.
3.2 壁面微細構造が摩擦係数に及ぼす影響
壁面微細構造が摩擦係数や流体分子挙動に及ぼす影響
を調べるために図2(b)∼(e)に示す壁面モデルを用いて
-0.1
-0.08
case (d)
case (b-3)
-0.06
-0.04
-0.02
0
2
解析を行った.まず,図2(b)に示す直方体の壁面構造
4
6
pressure MPa
8
が存在する場合において,上下壁面間距離ならびに流
Fig.9 Effects of pressure and surface structural models on
体相圧力が摩擦係数へ与える影響を調べた.同時に,
friction coefficient: L=1.5nm
friction coefficient
上壁面移動方向を(b-1) x 方向,(b-2) y 方向,(b-3) x 軸に
対して 45°方向,と変化させることによって,直方
体の構造に対する上壁面の移動方向の影響を調べた.
(b-1) x 方向,(b-2) y 方向,(b-3) x 軸に対して 45°方向
の場合の計算結果をそれぞれ図5,6,7に示す.こ
れらの図より,上下壁面間隔が 1.50nm の場合には,
上下壁面間隔が大きい場合と比較して摩擦係数は若干
-0.1
case (a)
case (b-1)
case (e)
-0.08
-0.06
-0.04
-0.02
0
2
上昇する結果が得られたが,上面の移動方向の影響は
4
6
pressure MPa
8
小さいことが分かる.また,流体分子の挙動を観察し
Fig.10 Effects of pressure and surface structural models
た結果,下壁面上の直方体構造と下壁面に囲まれた壁
on friction coefficient: L=1.5nm
friction coefficient
面極近傍領域の流体分子は上壁面の動きに追従した流
動をしないことが分かった.図2(c)に示す上底が
1.40nm,下底が 2.97nm の台形状の構造が存在する壁
面モデルの場合の流体相圧力と摩擦係数の関係を図8
に示す.ここで,上下壁面間隔が 1.50nm,2.00nm,
2.50nm,3.00nm の場合を調べたが,上下壁面間隔が
1.50nm の場合の結果のみを示す.図中には図 2(b-2)の
-0.1
-0.06
-0.04
-0.02
0
壁面モデルの場合の結果を比較のために示している.
case (a)
case (d)
case (e)
-0.08
2
4
6
pressure MPa
8
この図より,台形状の構造に対する上面移動方向の影
Fig.11 Effects of pressure and surface structural models
響はほとんどなく,また,図2(b)の直方体構造の場合
on friction coefficient: L=1.5nm
とほぼ同一の関係を示すことが分かる.これは,台形
状構造と下壁面の囲まれた表面極近傍の領域に存在す
図2(d)の直方体孔が存在する壁面モデルと図2(b-3)
る流体分子は上壁面の動きに追従した流動はしないこ
の壁面モデルの場合の,流体相圧力と摩擦係数の関係
とから,摩擦係数は上壁面と壁面付着構造上部の領域
を図9に示す.ここでも,上下壁面間隔が 1.50nm の
で決まっているためであると考えられる.
場合の結果のみを示す.この場合にも,図2(a)完全に
フラットな場合,図2(b)壁面に直方体構造が存在する
−5−
固液界面の摩擦に対する界面微細構造の影響に関する分子動力学解析
場合や図2(c)壁面に台形状の構造が存在する場合とほ
造によって表面付着分子構造が変化することと関連す
ぼ同様な相関を示すことが分かる.なお,上下壁面間
ると考えられる.本研究で用いた液体分子モデル,界
隔が 2.00nm,2.50nm,3.00nm の場合も調べたが,図
面微細構造,壁面速度条件ならびに温度条件では,壁
2(d)の場合は図2(b)の場合とはほぼ同様の相関を示し
面間距離が 1.50nm 以下になると摩擦係数が変化する
た.
ことが分かった.しかしながら,これらの現象は液体
図10は,図2(e)のランダムな構造が壁面に付着し
分子モデル,界面微細構造,壁面速度,温度条件が関
ている場合と図2(a)フラットの場合ならびに図2(b)直
連する複雑な現象であるため,これらの現象を一般化
方体構造の場合の流体相圧力と摩擦係数の関係の比較
するには個々の物理要因の影響についてさらに検討す
である.上下壁面間隔が 1.50nm の場合の結果のみを
る必要がある.
示している.この図より,上下壁面間隔が 1.50nm の
場合には,図2(a)フラットな場合,図2(b)直方体構造
4. 結
論
の場合,図2(e)ランダムな構造の場合の順番で,同一
圧力条件下では摩擦係数が大きくなることが分かる.
本研究では,固体と固体が接触するかしないかの
なお,上下壁面間隔が 2.00nm 以上の場合には,前述
距離にある場合,すなわち固体と固体間の間隔が数
の3種の壁面で,同一圧力条件下で摩擦係数に大きな
nm 程度の場合であって固体表面に数 nm の規則的な
差はなかった.この原因としては,上下壁面間隔が
2.00nm 以上の場合には流体分子相はほぼせん断流れ
構造が存在する場合に,液体分子挙動がそれらの構造
を実現しているのに対し,上下壁面間隔が 1.50nm に
によってどのように変化し,また,どのように摩擦が
変化する可能性があるかを調べることを目的とした.
なると完全にフラットな壁面の場合にも流体分子に擾
そのために数 nm の特性厚さをもつ液体層が高圧下で
乱が生じる場合が存在する.したがって,上下壁面間
隔が 1.50nm の場合には,壁面構造がフラットの場合,
直方体構造が存在する場合,ランダム構造が存在する
場合で表面付着分子構造が変化することで流体分子相
の擾乱度合いに差が生じ,結果として摩擦係数に差が
生じたと考えられる.また,図11に図2(e)のランダ
ムな構造が壁面に付着している場合と図2(a)フラット
の場合ならびに図2(d)直方体孔の場合の流体相圧力と
摩擦係数の関係を示す.これらは上下壁面間隔が
1.50nm の場合の結果である.この図の場合にも,上
下壁面間隔が 1.50nm の場合には,図2(a)フラットな
場合,図2(d)直方体孔の場合,図2(e)ランダムな構造
の場合の順番で,同一圧力条件下では摩擦係数が大き
くなることが分かる.また,図2(c)台形構造の場合の
結果は省略するが,上下壁面間隔が 1.50nm の場合に
は,直方体構造ならびに直方体孔構造と同様に,フラ
ットな場合とランダムな構造の場合の中間の摩擦係数
を示す結果となった.このような結果から,本研究の
せん断を受ける現象に関して,数 nm の規則的な配列
をした微細構造を有する壁面の計算モデルを用いて,
壁面間隔と圧力及び壁面構造への上壁面摺動方向が摩
擦係数へ与える影響を分子動力学解析を用いて数値実
験的に調べた.その結果,本研究の流体分子・界面微
細構造モデルならびに物理条件の範囲で,以下のよう
な知見を得た.
(1) 壁面間隔が十分に離れている場合において,壁面
に数 nm の構造体が存在する場合にその構造物の上端
からの上壁面までの距離を壁面間隔と定義すると,完
全フラットな壁面の場合の圧力と摩擦係数の関係に一
致して,壁面に存在する数 nm の構造体は摩擦係数に
大きな影響を与えない.
(2) 壁面間隔が近づいた場合には,壁面に存在する数
nmの構造体は摩擦係数に影響を与える.
(3) 完全フラットな壁面ならびに壁面に構造体が存在
する場合の両方において,壁面間隔が近づいた場合に
条件下では,上下壁面間隔が 1.50nm より大きい場合
は,同一圧力条件下では壁面間隔が十分に離れている
には,壁面に付着した数 nm スケールの微細構造によ
場合に比べて,摩擦係数は大きくなる.
る摩擦係数への影響はほとんどないが,上下壁面間隔
が 1.50nm 以下になるとそのような壁面微細構造の影
響が摩擦係数に表れることが分かる.その場合に,完
(4) 壁面に存在する数 nm 程度の構造物と壁面に囲ま
れた領域内の液体分子の領域外への移動はほとんどな
い.
全にフラットな壁面の場合,壁面構造が直方体あるい
文
は台形,あるいは直方体孔の場合,壁面構造がランダ
ムな場合の順に摩擦係数が大きくなることが分かる.
これは,上下壁面間隔が 1.50nm 以下になると壁面構
−6−
献
固液界面の摩擦に対する界面微細構造の影響に関する分子動力学解析
(1) Lubrication Handbook, Japanese Society of Tribologists,
(13) Greenfield, M. L. and Ohtani, H., Molecular dynamics
Yokendo, (1982) (in Japanese).
simulation study of model friction modifier additives
(2) Jeng, Y. –R. et al., Molecular dynamics studies of atomic-
confined between two surfaces, Tribology Letters, 7
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固液界面の摩擦に対する界面微細構造の 影響