2008 年度 卒業論文
エアロジェルで発生する
チェレンコフ光を用いた荷電粒子の測定 奈良女子大学 理学部 物理科学科
高エネルギー研究室
今村 美貴 前田 奈津子
平成 21 年 3 月 11 日
1
はじめに
1
1.1
実験の目的
高エネルギー物理学は、物質の究極的な構成要素とそれらの間に働く相互
作用についての性質を明らかにする学問である。そのための高エネルギー実
験では様々な物理量を精度よく検出する必要がある。検出器には様々な種類
があり、実験目的によって使用する検出器は分けられる。
1.2
本論文の構成
本論文では、はじめにチェレンコフ光等の原理について述べ、次に実験デー
タ収集解析装置の概要について述べる。そしてその上で実験を行い得られた
結果・考察を述べる。
2
原理
2
2.1
宇宙線
宇宙線には、宇宙空間から直接飛来する一次宇宙線と、大気中の原子核と
一次宇宙線との相互作用で作られる二次宇宙線がある。一次宇宙線の 90% は
陽子で、残りは He,C,O などの原子核である。陽子は、大気中の原子核と相
互作用し新たな二次粒子を生成する。これが何回か繰り返されて多くの二次
宇宙線が生成される。これをカスケードシャワー (cascadeshower) と呼ぶ。多
くの粒子は空気中で吸収されるが、透過力の強い µ 粒子は運動エネルギーの
高い状態で地上に到達する。
図 1: カスケードシャワーのようす
2.2
宇宙線の反応
一次宇宙線は大気中の原子核との相互作用で多くの π 中間子や K 中間子
が生成される。さらに π 中間子や K 中間子は以下のように崩壊する。
π 0 → 2γ
π − → µ− + νµ
π + → µ+ + νµ
K →µ+ν
K →π+π
3
静止系で π 0 の寿命は τπ0 = 0.83 × 10−16 (sec)、π± の寿命は τπ± (sec) であ
る。µ 粒子はさらに電子、ニュートリノ、反ニュートリノに崩壊する。
µ− → e− + νe + νµ
µ+ → e+ + νe + νe
寿命は 2.2 × 10−6 (sec) と比べて長い。また、高エネルギーなので相対論的効
果により寿命が 1/(1 − β)1/2 倍長くなる。したがって大部分の µ 粒子は崩壊
せずに地上に到達する。
2.3
チェレンコフ光
透明物質中を通過する荷電粒子の速度vが物質中の光速度
c
n
を超える速
度で走るとき、粒子の飛跡に沿って物質が発する弱い光のことをチェレンコ
フ光という。チェレンコフ光は可視光線から紫外線領域の光で、中止の進行
方向に角度 θ をなして円錐状に放出される。
図 2: チェレンコフ光
光を出す条件は、
1
nβ
1
β≥
n
cos θ =
4
(1)
(2)
となり、光子数は sin2 θ に比例する。また、チェレンコフ光は媒質中を粒子
が発生条件を超える速度で走る間ずっと発光する。
2.4
シンチレーション光
荷電粒子が物質中を通ると原子または分子を励起して光を発生させる。こ
れをシンチレーション (Scintillation) といい、ある種の物質ではこの発光が
著しい。シンチレーション光はチェレンコフ光に比べて発光量が多く、原子
などが励起して元に戻るまでの間だけ発光する。
5
荷電粒子のエネルギー損失と光子数の計算
2.5
荷電粒子がエネルギーを失う過程には制動放射によるもの (radiation loss)
と衝突によるもの (collision loss) がある。物質に固有の臨界エネルギー (crit-
icalenergy) が荷電粒子の入射エネルギーよりも大きいとき、エネルギー損失
は Bethe-Bloch の公式 (3) に従う。
−
[
]
dE
Z z2
2me γ 2 v 2 Wmax
2
= 2πNa re2 me c2 ρ
ln
−
2β
dx
A β2
I2
(3)
ここで、
NA : アボガドロ定数 = 6.02 × 103
re : 電子半径 = 2.817 × 10−13
me : 電子質量 = 0.511(M eV /c2 )
1
γ = 1/(1 − β 2 ) 2
2
4πNA re2 me c2 = 0.3070( M eVg·cm )
ρ : 物質の密度
A:物質の質量数
Z:物質の原子番号
z:入射粒子の電荷
I:原子一個を励起するのに必要なエネルギー
また、
Wmax =
β=
2me c2 η 2
√
1 + 2§ 1 + η 2 + S 2
v
me
1
,S =
, η = βγ, γ = √
c
M
1 − β2
(4)
(5)
入射粒子の質量 M とする M À m のとき Wmax ≈ 2me c2 η 2 となる。ま
∑
た、I は
ln Ief f =
Zef f =
ai Zi ln Ii
Zef f
∑
ai Zi
(6)
(7)
ai :i 番目の原子の数
Zi :i 番目の原子番号
Ii :i 番目の原子の平均励起ポテンシャル
で与えられる。そして、各物質の臨界エネルギー Ec は以下で与えられる。
Ec ≈
800
(M eV )
Z + 1.2
6
(8)
石英、アクリル、水の臨界エネルギーは各々25.6MeV、14.5MeV、86.9MeV
となる。これらが荷電粒子の入射エネルギー (予備実験では 90Sr 2.28MeV)
より大きいので、Bethe-Bloch の公式 (3) を使うこととする。光子数は
dN
= 2πz 2 α sin2 θ
dx
で与えられ、λ1 =350 nm、λ2 =550 nm 、α は微細構造定数で α =
dN
= 475
dx
(9)
1
137
より
(10)
となる。ここでθはチェレンコフ光の発光条件 を満たす。
90
Sr を当てたとき放射媒体を 0.1mm ごとに区切って考える。i 番目の放射
媒体でのエネルギー損失を (dE/dx)i とすると、 i 番目の放射媒体に入射する
エネルギーは 2.18 - Σ(dE/dx)i−1 となる。このエネルギーごとのエネルギー
損失を表にすると以下のようになる。
図 3: energyloss
7
同様にして光子数を計算すると、以下のグラフになる。
図 4: photonscm
入射エネルギーに対する光子数と放射媒体を貫く距離は以下のとおりで
ある。
図 5: photons
8
実験装置の概要
3
3.1
エアロジェルとは
二酸化ケイ素主体の固体が微細な気泡を多量・均一に含んだものである。
90-99.8% の空気で構成されており、密度は 1.9-150(mg/cm3 ) である。外見
はほとんど空気からできているため半透明である。見かけの色は、可視光の
短波長部がナノサイズの光子構造によりレイリー散乱することにより決まる。
このため黒っぽい背景に置くと青みを帯び、明るい背景では白っぽく見える。
感触は乾燥しており発泡スチロールのようで、強力な乾燥剤としての特性を
持ち、また優れた断熱性を持つ。
3.2
エアロジェルの屈折率の測定
波長 532nm の緑色半導体レーザーが回転台上のエアロジェルの角を通過す
ると、スクリーン上のスポットがずれる。スポットの変位が最小となるよう
に回転台を回し、そのときのスポットの変位を d とする。エアロジェルの角
が直角のとき、スクリーンまでの距離を L とすれば、屈折率は以下の式で表
される。(この方法をフラウンホーファー法と呼ぶ。)
9
( )
d
L
(11)
sin( θ2 + π4 )
sin π4
(12)
θ = tan
n=
−1
上記の方法で、本実験で用いる2つのエアロジェルの屈折率を測定する。
エアロジェル 1
n = 1.0645 ± 0.0003
エアロジェル 2
n = 1.0652 ± 0.0003
屈折率:1.0645
大きさ:136.6 × 113.6 × 19.5(mm)
密度:0.223(g/cm3 ) 屈折率:1.0652
大きさ:113.0 × 113.0 × 19.5(mm)
密度:0.222(g/cm3 ) 10
3.3
チェレンコフカウンター
本実験では、放射媒体エアロジェルで発生したチェレンコフ光を反射鏡で
反射させ、光電子増倍管でとらえる、というようなチェレンコフカウンター
を製作した。
• チェレンコフカウンターの製作
– エアロジェル、反射鏡、PMをセットする距離 L+d を決める。
まず、式 (13) で最小のふれの角度θを求める。
cosθ =
11
1
nβ
(13)
宇宙線の運動量 P = 1(GeV)
mµ = 106(M eV /c2 )
とすると、
E2
P2 + mµ 2
=
より、
1.01(GeV ) E =
よって、
β=
P
= 0.99
E
ゆえに、(13) より、 θ = 19°
– 求めた θ を用いて、L+d を求める。
本実験で使用するPMは 2 インチで、受光面の大きさは 5cm で
ある。
L+d
=
=
2.5
tan19°
7.3(cm) この長さを超えてしまうと、チェレンコフ光のリングが受光面の大
きさよりも大きくなり、PMに入る光子の数が減ってしまう。L+d
が短いほど、チェレンコフ光のリングが小さくなり、 より多く
の光子をPMでとらえることができるので、7.3(cm) を超えない
ように、 可能な限り最短の距離でエアロジェル、反射鏡、PM
をセットする。
12
3.4
シンチレーションカウンター
本実験では、宇宙線の入射・貫通の検出にシンチレーションカウンターを
使用する。使用したシンチレーションカウンターを以下に示す。
• 光電子増倍管とプラスチックシンチレーターは、OPTSICAL CEMENT (RESIN:HARDENER=100:28) で接着する。
光電子増倍管の入射窓およびプラスチックシンチレーター部分にはア
ルミホイルを巻き、さらに遮光テープを巻いて、余計な光が入らないよ
うにする。
シンチレーターとは、シンチレーションを起こす効率のよい材料のことを
いう。シンチレーションとは、粒子が物質を通過中にエネルギー損失すると、
それが結晶中の電子や分子中の電子の励起に使われ、基底状態に戻るときに
発光することである。シンチレーションによって発生した光を、光電子増倍管
で何倍にも増幅して電気信号に変換するのが、シンチレーションカウンター
である。
プラスチックシンチレーター + 光電子増倍管の組み合わせは荷電粒子入射
の検出に広く用いられている。プラスチックシンチレーターは、プラスチッ
ク母材に微量の蛍光物質を流し込んだもので、減衰時間が nsec(10−9 秒) で
高速計測に適している。
13
3.5
光電子増倍管
光電子増倍管 (photomultiplier) とは、ガラス管に封じられた真空管で、入
射窓、光電面、電子増倍部より構成されている。その構造を以下の図に示す。
図 6: 光電子増倍管
• 光電面
入射窓ガラスの裏側に光電効果を起こしやすい物質を塗布して、光子
を光電子に変換する.
• ダイノード
内部に何段か設けられている電極. ダイノード間に電位差をつけてある
ので、電子がダイノードに当たるたびに新たに電子をたたき出すこと
によって 、電気信号を大きく (=増幅) する.
光電子増倍管に入射した光は以下に示す過程を経て信号として出力される。
[1] ガラス窓を透過する。
[2] 光電面内の電子を放出し、真空中に光電子を放出する。
[3] 光電子は集束電極により第一ダイノード上に誘導され、二次
電子増倍された後、引き続き各ダイノードで二次電子放出を
繰り返す。
[4] 最終ダイノードより放出された二次電子は陽極より取り出さ
れる。
本実験で使用する光電子増倍管は浜松ホトニクス社の H7195,H3178 である。
14
3.6
線源 90 Sr
原子核は最大運動エネルギー 0.546MeV の β 線を出して 90 Y に崩壊する。
さらに 90 Y は最大運動エネルギー 2.28MeV の β 線を出して 90 Zr に崩壊する。
図 7:
90
Sr の崩壊図
β 線のエネルギー分布は (14) で与えられる。
√
N(E) ∝ E E2 − (mc2 )2 (Emax − E2 )
(14)
このとき放出される電子は運動しているため式の式 (15) を満たす。
E = t + mc2
(15)
√
N(T) = (T + mc2 ) T2 + 2Tmc2 (Tmax − T)2
(16)
よって、
となる。
ここで、90 Sr から出る β 線のエネルギー分布を図 8 に示す。
エアロジェルを放射媒体としたとき、90 Sr から出る β 線のピーク時のエネル
ギーは、チェレンコフ光の発光条件を満たしているのか考える。
15
図 8: β線のエネルギー分布
90
Sr の β 崩壊のピーク時のエネルギー E=0.95(Mev)
エアロジェルの屈折率 n=1.0645
であり、
電子がチェレンコフ光を発する条件は β = v/c ≥ 1/n なので、
β = p/E より、
p
√
E2 − m2e
√
=
(0.95)2 − (0.5)2 ' 0.81(MeV)
=
...
...
0.81
' 0.85 < 0.94
0.95
1
β≥
を満たさない。
n
β=
エアロジェルを放射媒体としたとき、β 線のピーク時のエネルギーは発光
条件を満たさないので 90 Sr を使用せず、本実験では宇宙線のみを扱う。
16
データ収集・解析装置の概略
4
検出器からの信号はまず NIM 規格のモジュールに送られる。そしてそのア
ナログ信号をデジタル信号に変換するために ADC や TDC が使われる。そ
れらは CAMAC 規格のものが広く用いられる。ADC や TDC はクレートコ
ントローラー (C.C) の制御下にある。このクレートコントローラーと情報の
授受を行う PC 側のインターフェースと PC 内のデータ収集プログラムの仲
介を行うものをデバイスドライバーという。
図 9: 解析
4.1
camdrv
デバイスドライバーとして camdrv を使用する。camdrv は高エネルギー実
験・原子核実験のための汎用データ収集ソフトウェアである KiNOKO の一
部として作成されており、そのホームページからダウンロードした。
*参照 http://www.awa.tohoku.ac.jp/ sanshiro/kinoko/camdrv/
本実験ではクレートコントローラーを東陽テクニカの C/C7700、インター
フェースボードを Linux2.4x として使用した。
17
4.2
CAMAC 規格の概略
CAMAC (computer Automated Measurement and Control)
とは放射線検出器のアナログ電気信号をデジタル電気信号に数値化するエレ
クトロニクスの規格名である。計測や制御を目的とする装置を作成するのに、
独立の単位機能を持つモジュール・ユニットを適当に組み合わせて構成する
ことが行われる。このような複雑な装置を比較的単純なユニットの組み合わ
せで実現できる利点を持っている。
(1) クレート クレートは標準ラックに取り付けられるようになっている。挿入でき
るモジュールは最大 7 個、ステーション 2 個分 (スロットナンバー 6、
25) にクレートコントローラーを挿入している。それぞれのステーショ
ンは、モジュールをデータウェイコネクターに導きいれるためにデータ
ウェイコネクターのソケット、モジュールを固定するためのねじ穴が設
けられている。
(2) データウェイ
モジュールの相互の信号の授受はデータウェイを通して行われる。こ
の受動多線式のハイウェイはクレート内部に組み込まれており、全ての
ステーションのデータウェイコネクターソケットに接続されている。
(3) モジュール
モジュールは幅約 1.7cm の整数倍、裏側の半分にはモジュールの回
線配線に使われるプリント基板ヘッジが 86 ピンのコネクターとなって
いる。クレートに差し込むと自動ト・コントローラー
クレートの右端の 25 番目のステーションは特別な配線になっており、ク
レートコントローラーと呼ばれる。クレートコントローラーは 25 番目
以外の通常の配線をされたステーションを少なくとも一つ占拠し、デー
タウェイを監視する。
18
図 10: CAMAC 規格
4.3
NIM 規格の概略
検出器に電圧をかける HV や Discriminator などのモジュールは NIM 規
格の物を用いる。スロットの数は 12 である。
図 11: NIM 規格
19
4.4
データ収集プログラムの概要
ADC や TDC で数値化されたデータは、媒体に入射した荷電粒子の電離損
失に比例する量である。その分布は、CAMAC から読み込みファイルに保存
したデータを UNIX で PAW を用いてヒストグラムにして出力することで得
られる。
図 12: データ収集プログラムの概要
プログラムは 2006 年度卒業論文を参考とする。
20
4.5
使用するモジュールの名称と説明
Clock Generator
Discriminator
: 規則正しいパルスを発生させる装置 : 入力信号が設定した threshold を越えた
ときにパルスを出力する装置
Gate Generator
Coincidence
: 入力信号を必要な波高と幅に形成する装置
Signal Divider
Attenuator
Amp
: 信号を分ける装置
Scaler
ADC
: 信号の数を数える
4.6
: 複数の信号が同時にきたときに出力する装置
: 信号を小さくする
: 信号を増幅する
: アナログ電気信号をデジタル電気信号に変換する装置
ADC の動作テスト
ADC(2249W)を Signal Divider を用いて CockGenerator からの入力
信号を変化させ電荷と ADC のカウント数を計った。電荷はオシロスコープ
を見ながら電圧と width(nsec) を見積もり以下の計算を行った。なお、ケー
ブルの特性インピーダンスは 50 Ω、width は t=40nsec である。
= I×T
V
I =
R
Vout × T × 103
Q =
(pC)
50
Q
(17)
(18)
(19)
表 1: S10362-11-050C の仕様
電荷 Q(pC)
Vout (mV)
Vout /Vin
減衰率 x(dB)
35.33
44
0.06
24
70.50
88
0.13
18
140.67
176
0.25
12
280.66
351
0.50
6
21
図 13: ADC の動作テスト
よってペデスタルは 106.8[ADCcounts] である。
22
宇宙線の測定
5
5.1
Block Diagram
図 14: Block Diagram
このとき、トリガーカウンターには 1300[V]、PMには 2000[V] の電圧を
かけた。
図 15: セットアップ
23
5.2
測定結果
1000[events] データを収集した結果は次のようになった。
図 16: エアロジェルあり
図 17: エアロジェルなし
24
200[count] あたりから立っているイベントは、宇宙線がエアロジェルを通
過せずに、直接PMの受光面に入射したことによるものであると考えられる。
このイベントを減らすためにセットアップの変更をした。
5.3
セットアップ変更後の Block Diagram
図 18: Block Diagram
重ねていたトリガーの一つを、エアロジェルの下に持ってきた。
こうすることで、トリガー 2 枚を通過した宇宙線は、必ずエアロジェルを通
過するので、PMの受光面に直接入射した宇宙線はカウントされなくなる。
さらに、トリガーを離して置いたことで、宇宙線がエアロジェルの端をかす
めて発生する弱いエネルギーのチェレンコフ光のカウント数も減ると考えら
れる。最初と同様に、PMに 2000[V] の電圧をかけて測定した。
25
5.4
測定結果
1000[events] データを収集した結果は次のようになった。
図 19: エアロジェルあり
図 20: エアロジェルなし
26
• セットアップの変更前後で比較を行う。
– 図 21: セットアップ変更前
図 22: セットアップ変更後
200[count] あたりから立っているイベントは、セットアップ変更
後にはかなり減少した。
27
– 図 23: セットアップ変更後
図 24: セットアップ変更後
ぺデスタル付近のイベントは、宇宙線がエアロジェルの端をかす
めて発生する弱いエネルギーのチェレンコフ光によるものである。
セットアップを変更したことで、このイベントが減ったため変更
後の分布は、ぺデスタルとチェレンコフ光による信号を分離する
ことができた。
28
次に、図 19, 図 20 のぺデスタルの左に出るイベントに着目する。
ぺデスタルの左側にイベントがでるのはおかしいので、ランダムトリガーを
とって宇宙線がきていないときのPMのようすを見てみる。
5.5
ランダムトリガー
clock で 100Hz の信号を送り、常に gate を開いた状態にしておく。
ランダムトリガーでえられる分布は、エアロジェルなしの分布 (図 20) と同じ
になるはずである。
図 25: Block Diagram
5.6
測定結果
図 26: ランダムトリガー
29
図 20, 図 26 を比べると、二つの分布は大きく異なる。
この原因を探るため、モジュールの掃除をしたりと、試行錯誤の結果.
.
.
遮光を強化することで改善され、図 27 がえられた。
図 27: ランダムトリガー
再び、PMに 2000[V] の電圧をかけ、遮光を強化して測定しなおした。
図 28: Block Diagram
30
5.7
測定結果
図 29: エアロジェルあり
図 30: エアロジェルなし
エアロジェルなし (図 30) と、ランダムトリガーの分布 (図 28) が同じにな
り、ぺデスタルの左には何も出なくなった。よって、ぺデスタルの左側に出
ていたイベントは遮光が不十分であったことが原因であることがわかった。
31
5.8
HVの違いによる比較
HVの値をかえて、ADC分布をとってみる。
・1900[V]
図 31: エアロジェルあり
図 32: エアロジェルなし
32
・2100[V]
図 33: エアロジェルあり
図 34: エアロジェルなし
図 29, 図 31, 図 33 より、HVの値を 100[V] ずつ上げていくと、ピークの位
置が右にずれることがわかった。
33
5.9
エアロジェルの厚みによる比較
これまで実験で使用してきたエアロジェルと、ほぼ同じ屈折率, 大きさのエ
アロジェルを重ね、厚みを 2 倍にして測定してみた。
図 35: エアロジェル 1 段
図 36: エアロジェル 2 段
34
考察
6
6.1
ADCcount から光子数への変換
測定結果では、ADC 分布のみで比較してきたが、数値化し比較しやすくす
るために ADCcount を光子数へ変換することを試みた。ADCcount = G · Ne
より、G(1photoelectron あたりの ADCcount) を求める。
図 37: G の説明
図 37 から分かるように、宇宙線がエアロジェルに入射した際に発生するチェ
レンコフ光を、PM で捉える。この光子が受光面で光電子として放出される。
これを ADC で測定する際に ADCcount へ変換するときの係数を G とする。
G を測定するために使用したセットアップはこのようになった。
図 38: Block diagram
Clock Generator でパルスを発生させ LED を光らせる。同じ信号で ADC の
Q(電荷) 測定の外部ゲートを作り、LED による PM の応答と同期をとって、
LED が光ったときの信号を ADC で測定する。
ここで、LED を用いた理由について触れておく。光電面からの光電子の放出
35
は確率現象であるため、入射光子の数が少ない場合、放出される光電子の数
は数個、あるいは 1 個、時にはゼロとなる。このとき、ADC 分布はポアソン
分布に近づく。また、光電子数が増えるとガウス分布の近づくと考えられる。
このことを利用してGを求める。LED を光らせた時の ADC 分布は次のよう
になった。
図 39: LED の ADC 分布
図 39 は、ADC 分布にガウス分布を fit させたものである。fit させたのち、
P
σ
=
N
√e
Ne
(20)
の関係を用いて、
ペデスタルが 126、ピークの位置が 745 であることから、
Ne
=
(745 − 126)2
P2
=
σ2
412
= 228(photoelectrons)
36
(21)
(22)
従って、Gは、
G =
P
619
=
Ne
228
= 2.7(ADCcount/photoelectrons)
と求めることが出来た。
37
(23)
(24)
6.2
光電子数の実験値と理論値の比較
次に、Gを用いて光電子数の実験値と理論値を比較する。
図 40: HV2000V のときの ADC 分布
図 41: 光子数のグラフ
図 40 より、G を用いて光電子数は、
Ne =
122 − 110
= 4.5(p.e.)
2.7
38
(25)
(26)
次に、図 41 より、理論値を求める。
例えば、1GeV のエネルギーを持つ µ 粒子が aerogel で発生する光子数は、図
41 より約 100 個である。これに、収集効率、量子効率をかけることで PM で
放出される光電子数が求められる。
• 量子効率 ∼ 0.2
量子効率は、ほぼどの PM で同じである。一方収集効率については実験装置
について異なるため、私たちが製作した検出器の収集効率の正確な値を知る
ことは難しい。従って、実験値の 4.5(p.e.) より逆算すると、
• 収集効率 ∼ 0.225
となり、これは私たちが考えていた値から遠くはなかったため、もっともら
しい値と言える。
以上より私たちは自作のチェレンコフ検出器を用いて、数個の光電子とノ
イズを分離して測定できたと言える。
39
6.3
エアロジェルの厚さによる比較
エアロジェルの厚みを増すことで、光量はどのように変化するか比較する
ために、エアロジェルを 1 つ置いて測定したときと、エアロジェルを 2 つ重
ねて置いた時の光電子数を比較した。
図 42: HV=2000V, エアロジェル 1 枚
図 43: HV=2000V, エアロジェル 2 枚
光電子はエアロジェル 1 枚の時の光電子数は 4.5 個だったのが、エアロジェ
40
ル 2 枚を重ねた時は、光電子数は 8.1 個に増えた。従って、エアロジェルを
厚くすると光量は増加する。
7
まとめ・課題
• チェレンコフカウンターを製作し、その検出器でチェレンコフ光を捉え
ることが出来た。
• エアロジェルの厚みが増すと光量は増加する。
• G を測定する際に、LED の光量を変えて測定することで、G の値をよ
り正確に決定できたのではないか。
• さらに光量を増やすためには、角度分解能の悪化を防ぎつつどれくら
いエアロジェルを厚く出来るか。
• 屈折率の違いによる光量の違いはどうか。
41
謝辞
卒業研究を行うにあたり、お力添えを頂いた先生、先輩方にこころより感
謝申し上げます。 指導教官の野口先生、および林井先生、宮林先生にはお
忙しい中丁寧にご指導いただき、大変お世話になりました。また、岩下先輩
を始め多くの先輩方にアドバイスを頂き、研究を行うことが出来たと感じて
います。
改めて、お世話になった方々全員に感謝申し上げます。本当にありがとう
ございました。
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- 奈良女子大学 高エネルギー物理学研究室