サービス・ラーニングの理論と方法
筑波大学大学院人間総合科学研究科(教育学類)
唐 木 清 志
1
サービス・ラーニングの役割

現代社会と若者

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
サービス・ラーニングの源流




若者の政治的・社会的無関心
若者のボランティア活動への関心の高さ
経験主義教育(experiential education)
青少年の社会活動(community service)
シティズンシップ教育(citizenship education)
「国家およびコミュニティ・サービス法」(1990年)
の制定とサービス・ラーニングの確立
2
ボランティア学習の問題点

一度きりの社会活動


十分な振り返り活動の欠如


振り返り用紙(感想文用紙)への記入
学問的な知識・技能との非連続性


高齢者福祉施設への訪問
高齢者福祉の理念や制度に関する学習の欠如
「心の教育」としてのボランティア学習

社会活動で「思いやりの心」を身に付けさせる
3
サービス・ラーニングの必要条件

「サービス」の条件




地域社会のニーズに対応していること
学校教育課程に統合されていること
市民的責任の育成を目標としていること
「ラーニング」の条件


学問的な知識・技能を生かす場面があること
振り返るための十分な時間を保障すること
4
ある大学生(ラトガース大学)の言葉


この授業の履修を通して,私はニュー・ブランズウィック市(ニュジャージー州)の市民になる
ことができた。もちろん,この授業の履修以前より,私は立場的には市民であった。しかし,
現在のように市民であることを自覚してはこなかった。この授業を履修することで,私は今
では自らが市民であることを自覚するに至っている。市民は自らの地域社会において,活
動的な役割を担えなければならない。市民は変革のために働くのであり,決して,通常問題
なしとみなされる現状をただ受け入れるだけでは不十分なはずである。私は今では身の回
りに起こっている様々な事柄に敏感に気付けるようになっている。
ニュー・ブランズウィック市は,バスのEルートを超えてどんどん拡大している。そこには,助
けを必要としている人々,助けを与えている人々や助けを与えることを面倒だと考えない
人々,さらには,かつての私のように自分が市民であることを自覚していない人々など,
様々な人々が生活している。私は今ではこの町を異なって見れるようになった。ここから遠
く離れたサービス現場へ歩いていくことも,今の私にとっては一向に億劫ではない。「町の
細かい部分まで知っている」とさえ,今の私は感じることができる。私が町で誰かに出会っ
たら,彼らは私に挨拶をしてくれる。そのうち幾人かは,私の名前を呼んでくれる。サービス
に関する仕事を通して,私は様々な人々と出会うことができたし,彼らもまた私と出会うこと
ができた。現在でも,私は自分自身のサービスに関する仕事を楽しんでいる。それは私の
目を,地域社会で演じる市民としての役割へと,開かせてくれているのである。
5
サービス・ラーニングの教育効果

学問的・知的発達

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
社会的・個人的発達



学問的な知識・技能を学ぶきっかけづくり
「知識」から「知恵」へ
社会的存在としての自分
キャリア教育としてのサービス・ラーニング
政治的有効性と参加

社会の担い手意識(シティズンシップ)の涵養
6
性格の異なる2種類のサービス・ラーニング

道徳に関する目標
政治に関する目標
認知に関する目標
慈善(charity)
与えること
市民の義務
付加される能力
変革(change)
ケアすること
社会の再構成
変容する能力
慈善活動を中心としたサービス・ラーニング


援助を必要としている人々と交流し,そうすることで他者の存
在を知り,他者を援助することの喜びを知る
変革活動を中心としたサービス・ラーニング

地域社会の問題を批判的に分析し,問題解決のための行動
計画を策定し,実際に行動を起こす
7
サービスの3つの形態

直接的サービス(Direct Service)



間接的サービス(Indirect Service)


援助を必要としている人との直接的な接触
高齢者福祉施設における介護支援
援助を必要としている人への間接支援(募金など)
市民行動(Civic Action)


社会問題の深刻さを一般市民に伝えること
社会問題を解決するために実際に行動すること
8
出発点としての地域社会のニーズ


地域社会のニーズ:地域住民の多くがその解決
を強く望んでいる問題
4種類の地域社会のニーズ




調和(差別,暴力,児童虐待・・・)
犯罪と安全(事件・事故,防災・・・)
健康と福祉(ホームレス,高齢者・障害者,教育・・・)
環境(ゴミ,リサイクル,省エネ,文化財保護・・・)
9
プロジェクト型の学習

1.導入(Get Involved!)


2.背景(Research the Issues!)


地域社会の問題を分析する段階
3.訓練(Get What It Take!)


地域社会の問題を1つに絞り込む段階
問題解決に必要となる知識や技能を獲得する段階
4.サービス(Just Do It!)

実際の社会活動を展開する段階
10
実践事例(中学校の場合)

河川における環境保護活動





学校の近くを流れる河川にゴミが氾濫し,水質も悪化
してきているので,以前のようにきれいにしたい!
1.導入:河川を観察し,現状を理解する
2.背景:新聞や環境系NPOから情報を得る
3.訓練:水質調査の仕方やゴミの回収方法
4.サービス:水質調査の結果を市民に伝えると
ともに,実際に河川に入り,ゴミを回収する
11
実践事例(大学の場合)

移民に対する英語教育活動





言語学(linguistics)の知識・技能を活用して,移民の
シティズンシップ・テストの手助けをしたい!
1.導入:移民を対象とした英語講座を見学する
2.背景:移民の抱える生活課題を分析する
3.訓練:ボランティアの講習会に参加する
4.サービス:週2回(火曜日と金曜日の夜),英
語講座のボランティアとして働く
12
リフレクション(振り返り活動)の重要性

リフレクションの役割



社会活動そのものより,社会活動の振り返りから学ぶ
ことの方が多い
プロジェクトの各段階を結び付ける
リフレクションの方法



「構造化された時間」を予め設定しておくこと
“4C’s”:継続的(Continuous)・関連的(Connected)
挑戦的(Challenging)・文脈的(Contextualized)
4つの方法:読む・書く・為す・話す
13
市民としての自覚

伝統的な若者観
サービス・ラーニングにおける若者観
資源の使用者
資源
消極的な傍観者
活動的な学習者
サービスの消費者
サービスの生産者
援助を必要とする人
援助者
受容者
提供者
役に立たないという感覚に支配された人
社会変革のリーダー
大学教育の目標の再検討


職業人の育成から市民の育成へ
「認識」と「実践」の統合
14
人間学群とサービス・ラーニング

人間についての深い理解と,発達支援を行うこ
とのできる人材へと成長するためには,




地域社会で生活する人々の目線に立って物事を考え
(現場主義),
具体的な経験を通して人々と深く関わり(体験主義),
そのために必要な学問的な知識・技能(教育学・心理
学・障害科学)を深めることが必要となる(学問主義)。
「人間フィールドワーク」「国際教育協力実習」
(「教育インターンシップ実践演習」)の有効活用
15
サービス・ラーニングに関する情報

以下のサイトを参照。



サービス活動全般に関する連邦組織
(http://www.learnandserve.org/)
サービス・ラーニングに関する全米情報センター
(http://www.servicelearning.org/)
唐木の連絡先。



人間系学系棟B422
029-853-6730
[email protected]
16
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