第2章 10~15 年後の日本社会の俯瞰
1.はじめに
内閣府経済社会総合研究所「科学技術と経済社会」研究ユニットでは、経済的・社会的要素を幅広く考
慮した上で将来ビジョンを描く手法であるフォーサイトにより、
10~15 年後の日本社会を俯瞰した。
また、
描かれた将来像を実現するために検討すべき事項に関して考察を行い、科学技術政策上の課題を幅広く明
らかにした。
10~15 年後の日本社会の将来像に関しては、テーマ毎1)に記載している。また、描かれた将来像を実現
するために検討すべき事項に関しては、本文点線枠内に例示した。なお、一点付記しておくと、本研究で
は、複数の将来像を提示することを目的としているため、一見すると相反する傾向(例えば、シェア(共
有)と個別化等)が併記されているところがある。
2.10~15 年後の日本社会の将来像とその将来像を実現するための検討事項例
2-1 テーマ:全般的な社会の流れ(価値観の変化も含む)
1) 大量生産・大量消費の社会から、既存ストックを活かしつつ(例:リノベーション)
、できるだけ
モノはシェア≪消費のシェア≫し、そして、よいモノを少し買うといった、
“質”重視の社会にな
る。
シェアにもいくつかの種類がある。街や住空間などの≪空間のシェア≫、一人の人がある特定の組
織に属さず、自分の専門を生かせるような複数の場で働くといった≪人のシェア≫などが挙げられ
る。このように、シェアの概念が広がっていく可能性がある(※)。
※シェアする際には、先着順にしたり、多くお金を払った人を優先したりするのではなく、モノや
空間を譲り合うといった互恵的な利他行動が重視されることが必要であろう。フリーライダー的
行動が発生すると、シェアするメリットが失われてしまう。シェアするためには、そのコミュニ
ティに参画している人同士の信頼関係が構築されていることが前提であるため、シェアは 評判と
いう資本(reputation capital)2)の一形態とも言える。
1)
テーマは、全般的な社会の流れ(価値観の変化も含む)
、都市、住まい・生活、産業(全般)
、産業(モノづくり)
、産業(サービ
ス)
、教育・人材育成、雇用・働き方、セーフティーネットの9種類に分類している。
2) 評判という資本(reputation capital)
:IBM は、世界的に注目されている様々な立場の識者が、医療、環境、政府の役割、企業の
未来といった今日の重要課題について、オープンで、率直かつ自由に議論する GIO(Global Innovation Outlook)という場を設
けている。この活動の報告書内で強調されている一つの概念が‘評判という資本(reputation capital)
’である。
‘評判という資
本’とは、いわば、ネット上のような仮想的な人的ネットワークの中で、
「あの人にならこの仕事を任せられる」といったような、
安心してパートナーを組めると認識してもらえるような評判・評価を意味する[1]。
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2) 様々な領域(教育、住まい、医療など)で個別化が進むとともに、イノベーションのプライベート
化(※)が進む。
※今までのイノベーションは、コンピューターの発明など、万人に新たな価値観を提示するもので
あったが、今後は、個別化の進展とともに、イノベーションの方向性が個人のニーズに則したも
のに(万人にとってのイノベーションではなく、ある特定のニーズをもった集団にとってのイノ
ベーションとなる。
)変化していくのではないか。
3) できることは自分で取り組む DIY(暮らしの自給自足)が大きな流れになる。家庭用太陽光発電が
普及することでエネルギーの自産自消、近隣住民も利用可能な共同菜園で食の自産自消、私設コ
ンサート、住民劇場のようなリクリエーションの自産自消が進む。
インターネットなどを通し様々な領域の専門的な情報を即座に入手することが可能となった。例え
ば、住まいの場合、今までは画一的な集合住宅に住んでいたような人々も、住まいに関する知識を
身に付け、自分が好きなように住まいをつくり変えられるようになる。住まいだけでなく、様々な
領域において、個人による「編集権」が獲得される時代、個人の力が拡大する時代となる。
4) 人の「評価」方法が変化する。インターネット上でどのような人がどのような評価をしているのか
が新しい評価方法になる(例:日本の小さなベンチャー企業の取組に対し、アメリカ合衆国大統領
が「いいね」ボタンを押して評価する、など。
)
。
お金よりも、人からの評価・信頼や評判といった、評判という資本(reputation capital)に価値を
置くようになる。
5) 貨幣の概念が広がる(例:法定通貨以外のもの(集合住宅内など、ある一定の圏内で使用できる地
域通貨のようなもの)も、財・サービスの交換手段機能を果たすものとして広く認識されるように
なる)
。
6) 婚姻関係、家族形態、住まい方、雇用形態などが流動的なものとなる。
7) ネット(バーチャル)とリアルの双方にコミュニティを築いている人が多くなる。また、ネット上
に築かれたコミュニティがリアルな場で活動を起こすことも多くなる。
(インターネットを活用し
て、様々な職種の人たちが‘ギルド’をつくっている。未来のギルドは、働き手がいくつもの企業
の仕事を経験しながらキャリアを築く手助けをし、これまで企業の人事部が果たしてきた役割を担
うようになる。また、ギルドはメンバーの能力証明、職務内容の統一基準づくりなどの機能も果た
すようになる。[2])
8) インターネットなどテクノロジーのお蔭で、距離が意味をなさなくなった一方で、どこで何をする
か、といった‘場所性’が重要になる(労働力、文化面、規制面、技術力の特徴などの条件が最適
22
な場所で事業がなされるようになる。[3])
。
9)個人が自らの様々な情報(生体情報、位置情報など)を‘情報バンク’
(各種データの共通インフ
ラ)に預け、その‘情報バンク’を管理している機関から、有益なサービス提供をタイムリーに受
けられるシステムが構築されている。
10)人口減少が進む中、人々が今の居住地から撤退あるいは移動し、人と自然の境界線が再定義される。
11)今までは目先の、短周期の現象にとらわれることが多かったが(
「いま、ここ感覚」
)
、これからは、
長周期の現象に焦点を当てて物事に取り組むような「いつか、どこか感覚」が好まれるようになる。
12)日本の美意識(繊細、丁寧、緻密、簡潔)が再認識される。
≪検討課題例≫
・建築物の用途変更(コンバージョン)
・リノベーションが促進されるように、新築や建て替えに偏
重した住宅不動産関連の税制や金融、建築に関わる規制・基準を、ストック活用時代に合わせて
いかないといけないのではないか。
・住まいにおける DIY を実現するために、メーカー、問屋、特約工務店の垂直統合からなる材工一
式の供給構造を、材工分離の供給構造へ転換していく必要があるのではないか。
・個人が様々な情報を得られるようになる流れの中で、知りたくない情報(例:遺伝子検査により、
ある疾患になりやすいことが分かるなど)を情報提供者側が伝えるか伝えないかの判断基準の策
定、また、伝える場合には、どのような伝え方をすべきか検討が必要であろう。また、情報が悪
用されないように、個人が自分の情報をコントロールできるような仕組みづくりも必要となるの
ではないか。
・人口減少が進む中、地域の特性を活かした新たな土地利用の仕組みが求められるようになるので
はないか。
2-2 テーマ:都市
1)魅力的な都市の第一条件は‘多様性’である。人口減少が進む中、日本の魅力に魅せられた様々な
業種の高度人材が日本で事業展開し、日本人と外国人の間で良い競争環境が生まれる。
2)一方、日本人(日本企業)も国内に留まることなく、今まで未進出であった国を含め、海外進出の
動きを活性化させる。
3)国家間の競争(例:日本 vs.アメリカ vs.イギリス)から、都市間の競争(例:東京 vs.ニューヨー
ク vs.ロンドン)になる。魅力ある都市に人が世界中から集まる。
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4)公共交通の衰退、都市の維持管理コストの増大、高齢化に伴う移動制約・外出機会の減少等の社会
問題が顕在化しつつあり、解決策の一つとしてコンパクトで小回りがきき、環境性能も優れたパー
ソナルモビリティが普及している。
≪検討課題例≫
・東京が、世界の中で有数のデザイン的に洗練された都市というブランド力を獲得するために、例
えば公的組織内にチーフクリエイティブオフィサーというポストを設置し、ビジネスマンや旅行
者を対象に様々なデザイン戦略を打ち出していく必要があるのではないか。都市のデザイン戦略
において、外国人にとっての利便性向上のために ICT を積極的に活用するなど、科学技術の果た
す役割が一層大きくなるのではないか。
(補足:既にニューヨーク市では、マーケティング及び観光業を手掛ける公式組織にチーククリエ
イティブオフィサーを配置している。
)
・情報通信技術が進み、コミュニケーションにおける地理的な制約が取り除かれ、各々が自由に就
業場所を選択できるようになると、交通に対するニーズも変化し、比較的短距離の都市圏内の移
動が中心となることが考えられる。このニーズを満たすため、都市内のランダムな移動に適した
超小型モビリティを中心とした省エネルギー、省スペースな都市交通システムを構築する必要が
あるのではないか。
2-3 テーマ:住まい・生活
1)住まいのコンシェルジェ(見守り、ヘルスケアなど)という職業ができる。コンシェルジェは集合
住宅ごとに配置される場合と、Google のようなソフトウェア会社、コンビニエンスストアなどが一
括でその役割を担う可能性もある。ここで起こるのはサービスの統合である。
2)住まいの中にあるセンサーから生体情報が収集され、ヘルスケアサービスに活用されるようになる。
3)車、電化製品をはじめ数多くの機器にオンラインネットワーキング機能(SNS 等)が搭載される。
(例:2012 年より、トヨタは“トヨタフレンド”という SNS を開始。オーナー同士の情報共有だ
けでなく、人とモノ(車)もつながることができる。例えば、車が利用者に対し、
「とってもお腹
が減っています。おうちにいるようでしたら充電お願いします。
」といったつぶやきをする。
)
4)外に開かれた住まいが普及する。
(人と人との交流だけでなく、自然を感じながら生活するという
意味も含まれる)
5)都心と緑豊かな田舎の両方に家を持つなど、二地域居住が進む。
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≪検討課題例≫
・個人が、医師に任せきりにするのではなく、より積極的に自らの医療・健康情報を利活用できる
ようにするために、家庭と医療機関の間で生体情報(血糖値等)が共有されるようなシステムの
構築が求められるのではないか。また、生活習慣病等の予防のため、個人が自らの健康情報を随
時把握できるようにするために、医療従事者以外の一般の人が家庭で簡単に計測できるような非
侵襲の生体情報センシング技術の研究開発も推進する必要があるのではないか。ただし、どのよ
うな生体情報をどこまで精密に計測することが、実際、健康の維持・増進につながるのか検証が
必要なのではないか。
・得られた生体情報をサービス提供に利活用するところで、利用者にとって情報過多になることが
ないよう、
「さりげなく適切な」サービス提供ができるようにする必要があるのではないか。
・2軒目の居住用住宅取得に関わる税制優遇など、二地域居住のハードルを下げることを促進する
ような対策が求められるのではないか。また、自然豊かな地域にある空き家になっている古民家
など付加価値のある住宅を管理し、その情報を流通させユーザーとマッチングする仕組みを構築
する必要があるのではないか。
2-4 テーマ:産業(全般)
1)日本の強みを活かしつつ、コンテンツ単体としてではなく、モノ+サービスなどのパッケージとし
て輸出する。
(住宅+サービスの例:住宅内に設置されたセンサーによって収集された健康バイタ
ルデータを活用した健康管理サービスを付加した形で住宅を輸出。その他、日本食+サービスなど)
)
2)人口の3割を占める高齢者向けの製品開発(例:ジェロンテクノロジー3))やサービス産業が盛
んになる。⇒シンプルなテクノロジーなど
3)単独世帯数は増加傾向にあり、2025 年には一般世帯総数に占める割合は 35.6%となると予想され
ており、おひとりさま向けの製品開発やサービス産業が盛んになる。
4)規模の経済と個人のニーズを満足させるようなカスタマイゼーションをベストミックスしたビジ
ネスが成功を収めている。
3)
ジェロンテクノロジーとは、1989 年に Graafmans らオランダのアイントフォーヘン工科大学の研究者たちが提唱した、高齢者
が自立して生活するために役立つ技術を意味する。
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≪検討課題例≫
・廊下での転倒、浴槽での溺死など家庭内事故による死亡数は年間1万人以上と交通事故死者数を
上回っており、その多くを 65 歳以上の高齢者が占める[4]。特に、室内における高齢者の死因の
中では、急激な温度変化に伴って起きる体調不良のヒートショック(例:入浴時に血圧が下がり、
意識障害や心筋梗塞を起こすなど)により命を落とす高齢者の割合が比較的多い。ヒートショッ
クによる高齢者の事故を防ぎ、また、住宅における消費エネルギーを低減するため、既存住宅の
気密化・断熱化を促進するような優遇策及び性能のガイドラインを作成する必要があるのではな
いか。
・単身者や高齢者を対象に、コンシェルジュのようなきめ細やかな対応ができ、かつ、時には話し
相手になるようなスマートフォン向けサービスに需要が高まることが考えられるため、利用者と
対話する音声認識、音声合成技術に関する研究開発を推進する必要があるのではないか。
2-5 テーマ:産業(モノづくり)
1)3Dプリンターといったデジタルツールの普及により、個人レベルで行うモノづくりが盛んになる
とともに、万人のモノづくりリテラシーが向上する。誰もが自由にモノづくりができるようになり、
つくる人と使う人の垣根がなくなるのではないか。これは、必要なものを自分でつくっていこう、
と唱える「メイカームーブメント」4)と密接に絡んでいる。市民工房育ちのメイカーがブランド
企業になっていく可能性もある。デザインやブランド戦略のみを個人で行い、資金調達はクラウド
ファンディング5)を活用し、製造、量産、流通の部分をアウトソーシングするモノづくりの方法
が普及する。
2)ガラパゴス現象の改良がモノづくりの分野で鍵となる。
3)国内に埋もれている中小企業が持つ高度な技術を活用したモノづくりの海外展開が進む。
≪検討課題例≫
・今までは専門家のみが把握していた製造プロセスを含め、モノづくり全般の情報のオープン化が
進んでいく流れの中で、モノづくり分野におけるイノベーションが起こる確率を上げるために
は、SNS 等の活用により、より多くの人から得られるようになった製品に対するフィードバッ
クを反映しつつ、試作と PDCA のサイクルを、大きなスケールで、かつ、短期間で回すような
仕組みをつくることが必要となるのではないか。
4)
5)
メイカームーブメント:MIT ビット・アンド・アトムズセンターのニール・ガーシェンフェルド所長を始祖とする運動。ものづ
くりによる自己の確立を説き、世界中に市民工房「FabLab」のネットワークを広げている。
クラウドファンディング:ある目的、志などのため不特定多数の人から資金を集める行為、またそのためのネットサービスのこ
と。
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・モノづくりの個人化が進むと、一方で、知的所有権が侵害される危険性、銃器などの危険物が容
易に製造されてしまう危険性が高まるため、このような負の側面に対する対策も検討しなくては
ならないのではないか。
・日本のモノづくりの特徴の一つとして、きめ細やかさが挙げられるが、これまで、このきめ細か
な製品が海外市場で競争力を持てなかった事例がいくつか挙げられる(携帯電話のガラパゴス化
等)
。これからは、海外のニーズを汲み取った上で、日本のきめ細やかなものづくりを活かしつ
つ、そのニーズにあった製品をつくり出すことで、新たな海外市場を開拓していくことが必要な
のではないか。
2-6 テーマ:産業(サービス)
1) ビッグデータなどから個人の消費行動、動線、健康情報を拾い上げ、サービス提供に結びつけるビ
ジネスが増加している。
2) 一方で、ネット上に上がってこないような、土着性のある情報(sticky information)の活用も重
視されるようになる。自産自消を含め、距離の経済(コンパクトシティの経済性)に対する認識が
高まる。
3) 情報過多に悩ませられるようになり、膨大なデータの中から、適切な情報をいかに提供するかが重
要視されるようになる。
≪検討課題例≫
・環境内に設置されたセンサーから収集される情報やユーザー情報を活用し、個人の状況に適した
サービスを提供するコンテクスト・アウェア・サービスが今後広まると予想されるが、一方で、
過度に科学技術に依存した生活は、一旦災害など突発的な事象が起こり機能しなくなると、社会
の機能を大きく停滞させる可能性をはらんでいる。このように、災害時など万が一の時に備え、
機能の一極集中を避けるなど、レジリエントな仕組みづくりが必要となるのではないか。
・リアルタイムに発生する多種多様な情報を活用し、新たな価値を創造するためには、情報を客観
的に俯瞰し、構造化する技術が求められる。また、膨大なデータの中から知識を取り出すデータ
マイニングを行うデータサイエンティストの養成も行う必要があるのではないか。
2-7 テーマ:教育・人材育成
1) ネットを利用したオープンエジュケーションが広まる。日本にいながらにして、世界的に著名な教
授の授業が受けられたり、世界中で作成された優良コンテンツ教材を活用した学習ができる。
(今まで質の高い教育を受けられなかった発展途上国の人も、ネット環境さえあれば、世界トップレ
ベルの授業を受けることが可能である。例えば、2013 年ダボス会議に招かれた 11 歳のパキスタン
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の女性はスタンフォード大学の人工知能のオンラインコースを受講し、難しい物理学などをマスタ
ーし、優秀な成績を収めた。よって、質の高い教育を受けられる人が増加し、世界で通用する人が
増え、今まで以上にグローバル市場において優秀な人材の競争が激化する可能性が高い。
)
一方で、オンライン教育は、通常の対面型の授業と比較して落第者が多いなど、問題も提起されて
いる[5]。
2) 今までは教育に携わるのは主に学校の教員が中心であったが、地域の若者、高齢者、障害者、社会
人など多様な人々がチームになって教育に関与するようになる。
3) 座学中心から、プロジェクト型中心の教育になる。
4) 一方通行型の学びから、双方型の学びに変化していく。
5)生涯にわたって学び続けられる環境が整備される。
6)小学校、中学校といった早い段階から職業教育がなされるようになる。
7)広く浅い知識や技能を蓄えるゼネラリストから、複数の分野について深い知識と高い能力を持ち、
かつ、その知識を生かすための人的ネットワークを築きあげられる人材の育成がもとめられている
[2]。
8)企業を牽引していくコア人材には、ビジネス、クリエイティビティ、テクノロジーの能力を兼ね備
えていることが要求されている。デザインする力、ファシリテーション能力がより重要視されるよ
うになる。
9)大きな抽象的な社会課題ではなく、具体的な社会課題を見つけられる人材(社会課題のセンシング
能力を備えた人材)が求められている。→具体的な社会課題を発見し、その課題を解決するところ
にこそイノベーションが生まれる。
≪検討課題例≫
・ビジネス、クリエイティビティ、テクノロジーの3つの能力を操ることができる人材をイノベー
ションを起こすコア人材として位置づけ、大学院レベルでの教育を行うことができる拠点を大学
に設置する必要があるのではないか。また、将来有望な若手社員や重役に新たな価値を創造でき
るような力をつける教育を集中的に行うことも必要なのではないか。
・リアルタイムで動作するモバイル・ウェアラブル型同時通訳システムなど、優秀な人材が海外で
活躍する上でのバリアを取り除くような技術開発を推進することが必要なのではないか。
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2-8 テーマ:雇用・働き方
1)職住近接が進む。
在宅ワークに関しては、ワーク・ライフ・バランスの観点から、推進する動きがある一方、2013 年
の2月にヤフーが従業員に在宅ではなくオフィスでの就業を求めるなど、反対の動きもある。ヤフ
ーの人事部は、対面によるコミュニケーションとコラボレーションの重要性をこの決定の理由とし
て挙げている。
「在宅ワークは、仕事の生産性を上げることはできるが、人とのコミュニケーショ
ンがないため、イノベーションが生まれにくい」と指摘する専門家もいる [6]。
2)対価の受け取り方が多様化する(例:サービスに対しサービスで対価を払うなど)
。
3)特定の組織に属さず、複数の企業に自らの技能を売るようになるフリーランスのような働き方が増
加するなど、雇用形態が変化するとともに、組織と個人の在り方も変化する[2,3]。
2-9 テーマ:セーフティーネット
1)若者が色々な事業にチャレンジすることを支援するために、人生前半の社会保障等セーフティーネ
ットが充実される。
3. 最後に
今までの研究会やワークショップで議論した結果を踏まえ、10~15 年後の日本社会を俯瞰した際、キ
ーワードとして、
〈大量生産・大量消費から既存ストックの利活用へ〉
、
〈規模の経済から距離の経済へ〉
、
〈個人による「編集権」の獲得〉
、
〈様々な領域における自産自消〉
、
〈場所性が重要視される6〉〉
、
〈ビッ
グデータ等のデータを起点としたサービスの統合〉
、
〈オープンエジュケーション〉
、
〈ビジネス・クリエ
イティビティ・テクノロジーの能力を備えているコア人材育成〉
〈日本の美意識(繊細、丁寧、緻密、簡
潔)など、我が国の強み〉といったものが挙げられる。このように、いくつかの要素が見えてきたが、
どの要素が強く現れるかによって、社会の様相が大きく変わってくる可能性がある。かつ、この将来俯
瞰は、大災害など、予想できない出来事によって修正され得ることを念頭に置きつつ読んでいただきた
い。
また、本将来シナリオは、現時点で特徴的な流れ(所有から共有、個人化等)がそのまま進んだと仮
定した場合、10~15 年後に起こり得る事象を提示したものであり、実際は、全く反対の方向の将来像に
なっていることもありうる。例えば、この将来俯瞰では、
「外に開かれた住まいが普及する」とあるが、
ゲーテッドコミュニティのような外部から遮断された空間のもたらす安心感に価値が見出されているか
6)
場所性:トロント大学ロットマン・スクール・オブ・マネジメント教授であるリチャード・フロリダは、著書『クリエイティブ資
本論』の中で、
「場所はいまも重要な経済的・社会的な構成要素である」と述べている。また、
「場所の質」として〈何があるのか
-建築物と自然が融合しており、クリエイティブな生活を求めるには最適な環境。
〉
〈誰がいるのか-様々な種類の人々がいて、誰
もがそのコミュニティに入って生活できるよう、互いに影響し合い提供し合う役割を果たしている。
〉
〈何が起こっているのか-ス
トリートライブの活気、カフェ文化、芸術、音楽、アウトドアでの活動。それら全てがアクティブで刺激的な活動である。
〉を挙げ
ており、これらの条件が整っているところにクリエイティブ・クラスは集まるとし、
「場所の質」の重要性を説いている。
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もしれない。さらに例を挙げれば、本検討の全般的な傾向の一つとして、個人が既存の組織や仕組みに
頼らず、自ら行動することに重点を置いている点が挙げられるが、反対に、中央集権的な仕組みが再評
価されているかもしれない。現在は注目を集めているものとは正反対の分野に目を向けることが、新た
な飛躍(イノベーション)のきっかけになるとも言われており(逆転の発想(Flipping the equation)
)
[6]、逆方向のシナリオも考察に値することを付記しておきたい。
本章では、描かれた将来像を実現するにあたり検討すべき事項に関して例示しており、大きな傾向と
して以下のものが挙げられる。
1) 住まいのコンシェルジュ、データサイエンティスト、ビジネス・クリエイティビティ・テクノロ
ジーの能力を兼ね備えた人材など、新たな時代の流れに合わせた人材育成方策が必要ではないか。
2) 専門家任せではなく、個人が主体的に様々な物事に携わるようになる流れ(メイカームーブメン
ト等)の中で、DIY のような取組をサポートするような仕組みづくりが必要ではないか。
ただし、P.26 の産業(モノづくり)の検討課題例のところで述べたように、個人化が進むことに
よって現れる負の側面に関しても事前に対応策を検討しておくことが必要であろう。
3) レジリエンスの観点から考えると、過度に科学技術に依存した社会は脆弱である(参照:P.27 の
産業(サービス)の検討課題例)ため、特定の機能を有する技術だけに依存することなく、土着
性のある情報(sticky information)
、場所性、評判という資本(reputational capital)など、多
様性を考慮した上で、自産自消を促すような仕組みづくりが必要なのではないか。
4) 人口減少が進む中で、地域の特性を活かした新たな土地利用の仕組みづくりが求められるだろう。
例えば、農地の集約化など、土地利用の効率化が求められるところもあるだろう。一方で、従来
の土地利用を踏襲せず、人々が撤退あるいは移動することにより(本来農業に適さない土地から
の撤退等)
、人と自然の境界を再定義することも選択肢としてあり得るだろう。
検討すべき事項に関しては、実際、その制度等が運用された際に、長期、短期の両方のスパンで起こ
り得る正と負の両事象をより詳細に分析・考察した上で、その具体化が図られることが期待される。
参考文献
[1] IBM Corporation, “Global Innovation Outlook 2.0”(2006)
[2] リンダ・グラットン, 『ワーク・シフト』
、プレジデント社、2012 年
[3] 英『エコノミスト』編集部, 『2050 年の世界 英エコノミスト誌は予測する』
、文藝春秋、2012 年
[4] 厚生労働省,人口動態調査(平成 23 年)死亡 表 5-35 家庭における主な不慮の事故の種類別にみた
年齢別死亡数及び百分率、2011 年
[5] The New York Times,“The Trouble With Online College”(February 19,2013)
[6] The New York Times,“Yahoo Orders Home Workers Back to the Office”(February26,2013)
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第2章 10~15年後の日本社会の俯瞰