参考資料(第2報 第2版)
緊急時における食品中の放射性セシウム測定に用いる
NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータの機器校正
社団法人日本アイソトープ協会 医薬品・アイソトープ部技術課
はじめに
平成23年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い,厚生労働省医薬食品局食品
安全部長から食安発0317第3号「放射能汚染された食品の取り扱いについて」(平成23年3月17日)
が発出された。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf
この通知により当分の間,原子力安全委員会により示された指標値を暫定規制値とし,これを上回る食品に
ついては,食品衛生法第6条第2号に当たるものとして食用に供されることがないよう販売その他について
処置する必要が生じている。検査に当たっては,平成14年5月9日付け事務連絡「緊急時における食品の
放射能測定マニュアルの送付について」を参照して実施することとなっている。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf
緊急時における食品の放射能測定マニュアル(以下,マニュアルという。
)では,緊急事態発生時に迅速に
行う第一段階モニタリングにおける測定法として,NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いた放射性
ヨウ素測定法が規定されている。この測定法は文部科学省による放射能測定法シリーズ15「緊急時における
放射性ヨウ素測定法」に基づくもので,試料採取現場等で多数の試料の中から飲食物摂取制限に関する指標
等を考慮して,より詳細な測定を要すると判断される試料のみを選択する,いわゆるスクリーニングを目的
としたものと位置付けられた簡易測定法である。
この簡易測定法を用いる場合,飲食物摂取制限に関する指標を上回っているかどうかを判別するためには,
試料測定と同一のジオメトリの131Iに対する計数効率を得る必要がある。しかしながら,線量当量率(マイク
ロシーベルト毎時(μSv/h))で目盛ったサーベイメータは本来このような測定を目的としたものではなく,
通常131Iなどの放射能に対する計数効率に関する情報はほとんど示されていなかったため,アイソトープ協会
では,国内で多く使用されているNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータについて,マニュアルに準拠した
機器校正を実施し,各測定器の機器効率データを参考資料(4月20日速報)として示した。
本測定法に用いる多くのサーベイメータは核種弁別が困難なことから,放射性核種を全て131Iとして取り扱
うこととしている。発電所事故当初より当分の間は,緊急の措置として131I以外の放射性核種が混入している
場合でも,本法によると131Iの放射能についてのみ着目した評価で大きな問題はなかった。しかし,現時点で
すでに事故発生から2ヶ月以上経過し,相対的に放射性セシウム(134Cs及び137Cs)が多くなっている状況であ
る。従って,測定・評価対象もこの状況に対応する必要がある。
今回は放射性セシウムの一つである137Csを用いた機器校正を,131Iを用いた試験に準じて実施した。
1.137Csによる機器校正
Csによる機器校正は,
「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」に規定されていないが,131Iに準じ
137
て実施した。ここで言う機器校正とは,特定の容器に充填された137Cs標準溶液を一定のジオメトリで測定し
たときの計数効率を決定するものである。指示値から試料放射能を求めるための表2に示す換算係数は,計数
効率の逆数として求められるものである。
1.1 標準溶液の調整
特定二次標準器等により校正した137Cs標準溶液(約5kBq/kg)を,2Lマリネリ容器,2Lポリエチレン瓶及
び丸型V式容器に秤量充填し,密閉して校正に供する標準線源とした。各容器の構造と測定ジオメトリを図
1に示す。なお,牛乳用についてはマニュアルでは塩化カリウム(KCl)を加えることと規定されているが,
スクリーニングレベルの読み値に対しては自然に存在する40Kの影響は十分無視できるため,KClは添加し
なかった。
1.2 対象機器
対象機器はマニュアルに規定されたNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータとした。今回校正対象とし
た機器と機器の主な仕様を表1に示す。
2.結果
各測定器の137Csに対する計数効率より求めた換算係数は表2のとおりである。なお,測定ジオメトリ④は試
料容器の口径から,1"×1"の検出器のみについて実施対象とした。さらに,汚染防止のため,検出器先端部
を2重のポリエチレン袋で覆って測定した。従ってポリエチレン袋による検出器と溶液の空隙の影響が結果に
含まれている。
3.他の核種の影響
事故発生から2ヶ月以上経過した現時点においては,131Iは放射性セシウムと比較して相当減衰しているが,
供試体によっては検出下限を超える量が未だに存在することも考えられる。また,放射性セシウムには137Cs
だけではなく134Csが現時点で137Csと放射能比でほぼ等量存在している分析データが厚生労働省等より報告さ
れている。
本法に用いるサーベイメータのほとんどが,核種弁別の機能を持たないため,核種毎の放射能を定量する
ことは不可能である。しかし,NaI検出器の134Csに対する計数効率は,137Csに対する計数効率と比較して高い。
従って例えば放射性セシウムの放射能を137Cs,134Csの合計放射能とし,これを137Csに対する計数効率を用いて
計算すると安全側に評価される(放射能の数値は過大評価となる)といえる。
4.おわりに
「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」における131I測定法に準じ,市販のNaI(Tl)シンチレー
ション式サーベイメータの137Csに対する機器校正を実施した。本法により測定目標値を達成する測定を行う
ためには,適切な測定条件(測定器性能,各現場環境等)を設定する必要がある。137Csに対する計数効率は,
131
Iに対し低いため,137Csの検出限界放射能は131Iと比較して, 131I計数効率と137Cs計数効率の比に従って高く
なることに留意されたい。
表1 校正対象とした測定器
製造者
富士電機
日立アロカ
メディカル
型式
NaI結晶
サイズ
NHC610B1
0.5"×0.5"
NHC710B1
1"×1"
TCS172(B)
1"×1"
TCS171(B)
検出器構造
指示目盛り
検出器表面-結晶表面間距離:4mm
検出器外カバー厚さ:樹脂
1mm
検出器表面-結晶表面間距離:7mm
検出器外カバー厚さ:Al 2mm
Health
Physics
5000S
1"×1"
不明
1"×1"
不明
Instruments
LUDLUM
LIR
Radiation
44-2
(MODEL3)
identiFINDER
1.4"×2"
検出器外カバー:Al
Sv/h
-1
s
ディスクリ
レベル
50keV
不明
備考
エネルギー補償式(Sv/h)目盛りあり
Sv/h
s-1
50keV
エネルギー補償式(Sv/h)目盛りあり
不明
エネルギー無補償式(Sv/h)目盛りあり
不明
エネルギー無補償式(Sv/h)目盛りあり
Sv/h
Sv/h
s-1
Sv/h
s-1
Sv/h
s-1
20keV
検出器表面-結晶表面間距離:3mm
940-GN
2"×2"
25 x 3 mm Li (Eu) 結晶付(中性子用)
Berkeley
Nucleonics
Corporation
検出器外カバー厚さ:Al 0.8mm
検出器表面-結晶表面間距離:3mm
940-2G
2"×2"
940-3G
3"×3"
SG-1R
1"×1"
検出器表面-結晶表面間距離:4.3mm
SG-2R
2"×2"
検出器外カバー厚さ:Al 1.8mm
CANBERRA
検出器外カバー厚さ:Al 0.8mm
Sv/h
s-1
10keV
検出器表面-結晶表面間距離:6.3mm
検出器外カバー厚さ:Al 0.8mm
Sv/h
s-1
40keV
エネルギー補償式(Sv/h)目盛りあり
表2 換算係数表
富士電機
NHC610B1
測定ジオメトリ
充填量
①
2L マリネリ
蓋測定
②
③
④
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
3.13E+02
0.63kg
8.41E+02
2kg
6.34E+02
2kg
3.35E+02
富士電機
NHC710B1
測定ジオメトリ
充填量
①
2L マリネリ
蓋測定
②
③
④
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
7.11E+01
0.63kg
1.87E+02
2kg
1.28E+02
2kg
8.14E+01
日立アロカメディカル
TCS-172(B)
測定ジオメトリ
①
②
③
④
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
7.10E+01
0.63kg
1.98E+02
2kg
1.68E+02
2kg
6.78E+01
日立アロカメディカル
TCS-171(B)
測定ジオメトリ
充填量
換算係数
Bq/kg/(Sv/h)
①
②
③
④
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
2kg
2.45E+04
0.63kg
7.34E+04
2kg
4.92E+04
2kg
1.92E+04
Health Physics Instruments
5000S
測定ジオメトリ
①
②
③
④
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
7.96E+01
0.63kg
2.53E+02
2kg
1.44E+02
2kg
7.34E+01
LUDLUM
44-2 (MODEL3)
測定ジオメトリ
①
②
③
④
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
7.27E+01
0.63kg
2.04E+02
2kg
1.44E+02
2kg
-
LIR Radiation
identiFINDER
測定ジオメトリ
①
②
③
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
-
0.63kg
-
2kg
5.94E+01
Berkeley Nucleonics Corporation
940-GN
測定ジオメトリ
①
②
③
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
1.40E+01
0.63kg
4.44E+01
2kg
3.01E+01
940-2G
測定ジオメトリ
①
②
③
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
1.40E+01
0.63kg
4.62E+01
2kg
2.96E+01
940-3G
測定ジオメトリ
①
②
③
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
5.40E+00
0.63kg
2.01E+01
2kg
1.39E+01
CANBERRA
SG-1R
測定ジオメトリ
①
②
③
④
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
2L ポリビンタイプ
先端 5cm 液中
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
7.12E+01
0.63kg
2.06E+02
2kg
1.48E+02
2kg
7.08E+01
SG-2R
測定ジオメトリ
①
②
③
充填量
2L マリネリ
蓋測定
タッパ(V5)
2L ポリビンタイプ
側面測定
換算係数
Bq/kg/cps
2kg
1.42E+01
0.63kg
4.77E+01
2kg
3.33E+01
①2L マリネリタイプ
②丸型 V 式容器(タッパ:V5)タイプ
検出器
検出器
③2L ポリビンタイプ
(アイボーイ広口びん 2L)側面
④2L ポリビンタイプ(アイボーイ広口びん 2L)
水面
検出器
検出器
110
図1 検出器―線源間ジオメトリ
50
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緊急時における食品中の放射性セシウム測定に用いる NaI(Tl