京都大学21COE主催市民講演会
「素粒子」の溶ける話
---超高温・高密度の世界の探求----
2007年9月30日
国広 悌二
京都大学基礎物理学研究所研
1. 現代の物質観:物質の階層構造
日常の物質分子原子(atom 約0.00000001 cmの大きさ)
0.00000001 cm
原子の
構造
電子
原子核の拡大図
名前
10-13 cm
陽子
中性子
クォーク
原子核
0.0000000000001 cm
原子全体の10万分の1の大きさ
グルーオン
0.000000000001 cm
10-12 cm
陽子や中性子の仲間(ハドロン)
クォークやグルーオンから構成されている粒子
31
9.1

10
kg )の約2千倍の質量
陽子(p);正電荷を持った粒子、電子(
中性子(n);電荷を持たない粒子、質量は陽子とほとんど同じだが 少し大き
い
質量
重さ

陽子間の電気的な斥力に打ち勝ち、かつ、
電荷のない中性子をも極小さい領域に閉じこめて
いる「力」は何か?
二十世紀になってはじめて人類がその存在を認識
した新しい力(「強い相互作用」)
湯川の中間子理論

新しい力、新しい(素)粒子!
ある階層の神秘はその下の階層
の未知の素粒子の性質に帰着される。
中間子(パイ中間子)の予言!
多くの陽子、中性子、中間子の仲間(ハドロン)
クォーク  ハドロンの構成要素
陽子、中性子の仲間(重粒子);3個のクォーク
坂田昌一
中間子;クォークと反クォークからなる
T8
「色」の「自由度」の導入
M. Gell-Mann
G. Zweig
T3
南部陽一郎
クォークは6種類;3「世代」
電荷
2 / 3
1/ 3
u   c  t 
     
d   s  b
小林誠、益川敏英
しかし、クォークを単独で観測できない!
何がクォークを閉じ込めるのか?
2. 「強い相互作用」の基礎理論
---量子色力学(QCD)--クォークと クォークの間の力を媒介するグルーオンの理論
D. グロス, D.ポリッツアー, F. ウイルチェック
2004年度ノーベル賞受賞
力の強さ
長距離
短距離
南部陽一郎
短距離でのクォーク・グルーオンの
漸近自由性と長距離での力の増大
真空と物質; 真空と物質の相互規定性
例 ディラックの相対論的電子の理論
真空は負のエネルギーの状態に電子がいっぱい充満した状態。
そこからのずれ(電子を足したり取ったり)するとそこに電子や陽電子が
作られたように見える。
0
-m
0
-m’
QCD(量子色力学)の特徴
•分解能に応じて変化する描像、「法則」: 高分解能では
ほとんど質量のないクォークとグルーオンが「見える」。
さらに高分解能ではクォーク間の力は弱くなる。
しかし、低分解能(長距離)では力が強く、クォークや
グルーオンは単体では取り出せない。(閉じこめ問題)
• ハドロン(「素粒子」)は低分解能で見える粒子
• ハドロンの仲間では特別に軽い湯川の
パイ中間子の存在は陽子や中性子の
質量の起源と結びついている。 (カイラル相転移;南部陽一郎)
温度、密度による真空の根本的変化(相転移)
陽子や中性子
中間子
Q
Q
Q
グルーオン;膠(にかわ)粒子
市江博子博士その他(2003)
3.物質の相転移とは?
水の三態; 氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)
金属の磁石化;高温(3000度ぐらい)で磁石になる性質を失
う
金属の超伝導;超低温で抵抗なしで電流が流れるようになる。
温度の単位:絶対温度K(水の氷点は273.15K, 絶対温度0Kは 273.15 C)
圧力
固体
液体
気体
0.006気圧
温度
273.16
マイスナー効果:
磁界をかけると超伝導状態の
金属(酸化銅)が中空に
浮き上がる
http://boojum.hut.fi/research/theory/typicalpt.html
4.超高温、高密度の世界
圧力
圧力を加える
熱する
クォークとグルーオンの
「スープ」=「クォーク・
グルーオンプラズマ」
ビッグバン以後の宇宙の温度変化
1兆度K
10億度K
ハドロン化
元素合成
100万度K
原子形成
現在
かに星雲
5.超新星爆発と中性子星の形成
重力エネルギーを用いて、H, He,,,と核融合を繰り返し、
最も安定なFe(鉄)の原子核まで行き着くと、
(大質量の)星の進化は終わり、超新星爆発を起こして、
その残骸として超高密度の天体が形成される。
それが中性子星。
おもにパルサーとして観測される。
質量:太陽のおよそ1.4倍
半径:10kmほど
内部の密度:原子核の5-10倍
メモ:原子核の密度=約 3 1014 g / cm3
14
11
8
10 g=10 kg=10 t
=10000,0000 t=1億トン
高密度になるとなぜ中性子ばかりになろうとするのか
電子と陽子は全体が電気的に中性になるようにいつも同数ある。
量子力学的な効果(パウリの禁制律)のために密度が上がると電子や陽
子、中性子それぞれの全体のエネルギーはどんどん大きくなる。(縮退エ
ネルギーという。)
その大きくなり方は質量が小さいために電子のほうが激しい。
したがって、電子の数が少ない方が全体のエネルギーが小さい。
n+ν
p+e
陽子
電子
中性子 ニュートリノ
この反応により電気的中性条件を保ちつつ、電子の数を減らし、
エネルギーの増大を避けることができる。(相対論と量子力学の効果)
電
子
中性子
陽子
電
子
陽子
中性子
中性子星内部の物質の変化
4.31011 g/cm3 まで: 通常の金属の内部と同じ状態。 実験室では存在しない中性子
過剰核が存在。
途中の密度 8 106 g/cm3 電子の捕獲開始
4.31011 g/cm3
: 中性子が原子核から「染み出し」、「中性子の海」を作り出す。
染み出した中性子集団は(1S0)超流動状態になっている。
2 1014 g/cm3
0.7 0 :圧倒的な数の中性子と少数の陽子、電子(そしてわずかな
ミュー粒子)からなる一様な物質(中性子星物質)になる。
30   :
この密度になる少し前に、中性子超流動は終わる。
しかし、新しいタイプの超流動状態になる。
一方、陽子は以前の中性子と同じタイプの超伝導。
これは、 3  あたりまで続く。
0
高密度中心領域。 さまざまの可能性がある。ストレンジネスをもった
バリオンが現れる。中間子凝縮が起こる。「ハドロン物質」と特徴付けされる。
より高密度ではクォーク物質になる可能性がある。
中性子星の構造
典型的な中性子星の構造
玉垣良三(1993)による
(PTP supplement 112
より。)
密度
半径
高密度での物質の状態は何で決まるか?
核子(陽子、中性子)間やハドロン間の相互作用で決まる。
密度の増大により、運動エネルギー(縮退エネルギー)が大きくなる。
粒子間の相互作用の「得」と縮退エネルギーの「損」のつりあいから、
様々の「相」が出現する。
有限温度ではそのエネルギー(内部エネルギー)とエントロピー(乱雑さ、自由度)のつ
りあいから定まる。
例; 超流動、ハイペロン(ストレンジネス)物質、
核子系の層状構造を伴う中間子凝縮、
クォーク物質への相転移、等々
F  E  TS
核子間のパイ中間子交換力の特性と核子系スピン層状構造
r

斥力
引力
引力
r
スピンの向き
パイ中間子交換力が生み出す核子系のスピン層状構造
玉垣良三 ら(1993), PTP supplement112 より。
高温高密度での様々の状態変化
宇宙の温度変化
温
度
~150MeV
クォーク・グルーオン
プラズマ(QGP)
QCD 臨界点
1次相転移
ハドロン相
気液相転移
?
中性子星
0
いくつかのタイプ
の超流動
カラー超伝導
クォーク星?
密度
H 物質? ペンタクォーク物質?
部分的非閉じ込め?
パイ、K中間子凝縮?
カラー超伝導; クォーク対凝縮
高密度クォーク物質:
フェルミオン多体系
g
クォーク間相互作用は引力の組み合わせ
がある。
クーパー不安定; 十分低い温度T
q
q
p
引力!
縮退したクォーク
-p
カラー電荷の超伝導
D~100MeV ;原子核の5-6倍の密度
T
ハドロン相
パイ中間子が存在
カラー超伝導相
m
6.超高温の世界の地上での生成
[email protected](米国)
原子核を光速の99.7%の速さまで加速、
衝突させる器械(加速器)
相対論的重イオン衝突
生成される何千という粒子を観測し、その性質(統計的な性質を含む)を調べる
ことにより物質がクォークとグルーオンの「スープ」が作られたかどうかを調べる。
相対論的重イオン衝突の概念図
t
衝突
熱化(温度上昇)
膨張
ハドロン化
QGP 生成
QCD相転移
hadron phase
超相対論的原子核衝突直後の物質の様子を表す概念図
ローレンツ収縮で平べったくなった原子核
モノジェット
vc
v
超高温のクォーク
とグルーオンの
“スープ’’
vc
新しい謎、問題群
温度
高温
初
期
理想流体模型の成功;
強相関QCD物質;
最小粘性物質?
クォーク・グルーオン・プラズマ
宇
宙
QCD 臨界点
大きなゆらぎ?
普遍類は?
有効観測量は?
カラー超伝導
高温ハドロン相
豊富な内部自由度
ミスマッチフェルミ球
FFLO, BCS-BEC
Vector 凝縮
中性子星
グルオン相
低温
原子核
密度
7.関連する多様な研究分野
基礎理論の構築
高温・高密度で新物質の形成
ハドロン・クォーク多体系の理論的解
明
ストリング理論
格子ゲージ理論
高温
超高温高密度の物質
の解明
高エネルギーの原子核衝突
高密度
多体系理論の展開
(相転移・非平衡)
超伝導
エキゾティックな原子核・ハドロン
社会への貢献
宇宙初期の原始物質
超新星爆発
ダークエネルギー
中性子星・クォーク星の謎
例) 放射性元素の
処理の容易な短寿命核
への変換
高温超伝導物質の原理
中高生の科学への興味
8.実験研究と協同・切磋琢磨する理論研究
アメリカ
国内外の主な実験施設
基礎物理学研究所
クォーク・ハドロン科学研究拠点
ブルックヘブン国立研究所
スイス
播磨
大型放射光施設
つくば
京都
欧州合同素粒子原子核研究機構
(稼働中、2007年アップグレード)
高エネルギー加速器研究機構
ドイツ
重イオン研究機構(稼働中、2010年頃アップグレード)
東海
大強度陽子加速器計画(建設中、2008年稼働予定)
9.まとめ
元素を作る原子核は陽子、中性子からできている。
陽子や中性子、そしてその間の力を媒介する中間子はハドロンと呼ばれる。
ハドロンの間の相互作用、「強い相互作用」、の基礎理論は量子色力学(QC
D)と呼ばれる相対論的量子場の理論であり、その理論はクォークとグルーオ
ンの言葉で書かれている。
量子色力学の真空は温度や密度の変化により相転移を引き起こし、ハドロン
の中に閉じ込められていたクォークやグルーオンがハドロンから解放されたり、
物質の質量の元が消え、湯川の中間子も存在しなくなる。
高密度では、原子核物質やクォーク物質が様々の物性、相転移を示すと考え
られている。
QCDの真空が相転移を起こしているような状況は宇宙初期(0.0001秒あたり
まで)存在したと考えられている。
超高密度の世界は中性子星やクォーク星で実現している。
現在その検証のための実験、観測および理論的研究が活発に行われている。
ダウンロード

カラー超伝導