第 3 章 虐待対応の流れ(市町村・児童相談所)
Ⅱ 子どもや保護者への対応のポイント
1. 子どもへの初期の対応ポイント
(1) よくみられる子どもの状態
子どもは、長期間虐待を受け続けると、下記のような状態となっていることが多くあると言わ
れている。子どもがこのような状態になっていたら、
「虐待の影響である」という認識のもと、子
どもの訴えや態度等を否定せず、受容的に対応していくことが大切である。
① 虐待を受けた子どもが、自分から虐待を受けたことを訴えることは稀である。
虐待について確認しても、否定したり、一旦は認めても後からその事実を取り消したりする子どもも
いる。親をかばう場合も多い。
② 自分が虐待を受けているという認識を持てないでいる子どもも少なくない。
③ 虐待を受けた子どもの多くが、虐待を受けたのは自分が悪かったせいだと思っている。
④ 虐待を受けた子どもの話は、事実関係が矛盾していることがよくある。
⑤ 虐待を受けた子どもは、支援者の怒りを誘うような態度や行動をとることが少なくない。
⑥ 虐待を受けた子どもは、周囲の大人の気持ちに敏感である。
(2) 事前準備
ア 日常的な子どもの様子に関する情報の収集
学校その他、日常的に子どもの様子を把握している関係者から子どもの性格、行動等参考
となる情報を可能な範囲で収集する。
イ 子どもとの接点の取り方の検討
通告の内容や収集した子どもの様子等をもとに、子どもの特性に配慮し、会う場所、会う
人の性別や人数等を検討する。
ウ 子どもと会った後の対応の検討
ケースの緊急性等を勘案し、その後に必要とされる対応の見通しをあらかじめ立て、実際
にどのような対応がとれるのかを検討しておく。
(3) 話をする際の留意点
ア 子どもの不安に配慮する
なぜ、何のために面接をするのか知らせずに面接を行うことが、子どもにとって不安の原
因となる。逆に、目的を伝えることが子どもの不安を募らせることも考えられる。子どもの
おかれた状況や子どもの性格等を考慮し、面接を行う場面設定を工夫することが必要となる。
また、子どもが安心して話すことができるように、子どもの味方となり、一緒に問題解決
にあたることを伝えることも必要である。
しかし、安易に「話したことは、
(親には)絶対内緒にする」という約束から面接をスター
トすることは、その後の対応に支障をきたすことから、してはならない。
子どもに対して、誠実に、真摯に対応することが求められる。
イ 子どもの負担に配慮する
子どもは親への秘密を持つことを、
「親への裏切り」と感じることが多々あり、虐待行為の
原因が、自分自身にあると考えようとする子どももいる。子どもに対して、
「会ったことを親
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第 3 章 虐待対応の流れ(市町村・児童相談所)
Ⅱ 子どもや保護者への対応のポイント
へ内緒にするように」との約束をさせないようにし、子どもが親へ隠し事をしたり、嘘をつ
かずにすむように会う機会を設けることが望まれる。
事情聴取のように次々と事象を確認するような問いかけは避け、子どものペースを尊重し、
話を進める。子どもの様子から「これ以上は話せない」と子どもが考えていると思われるこ
とについては、無理に追及せず、いったん話題を変えるなど、子どもを追いつめないよう配
慮することも必要である。
ウ 子どもが意見を言える場面の用意
子どもの言葉による表現力は、その年齢等によって大きく異なる。それぞれの子どもの経
験等により、大人とは異なった表現をすることがある。話をする相手との関係性や相手の性
別等によって、話をする内容が変わることもある。
子どもから伝えたいことがあっても、上手く説明できない、言葉が見つからない、話す気
にならないなど、障害になるようなことがあると、子どもは話すことをあきらめてしまう。
子どもが話をしやすい場所や相手を考えて、会う場面を用意し、子どもが「どうしたい」と
考えているかを確認することが必要である。
エ 子どもの主張は変わる可能性があることを意識する
子どもは、大人と同じように状況判断をしている訳ではない。また、新たに知ったこと、
周囲の状況変化等により、認識を変えることもある。虐待など生活環境が厳しい状態にある
子どもは気持ちの揺れも大きく、その主張が極端に変わってしまうこともある。
オ 子どもに最終決断を委ねるのは適切でない状況がある
家庭からの分離など最終決断を全面的に子どもの判断に委ねることは、子どもへの負担が
非常に大きく、適切ではない場合があることについても、十分留意が必要である。
2. 保護者への初期の対応ポイント
(1) 通告等による介入の場合
ア 反応の類型
関与・介入を拒否
虐待行為を否定
(虐待行為そのものを認めない)
・攻撃型(通告元の追及)
・消極型(時間がない、忙しい)
・否認型(やってない)
・半否認型(わからない、知らない)
虐待行為を肯定・正当化
(虐待行為は認めるが、虐待認識は低い)
・当然型(養育方針である)
イ 対応の留意点
・必要性型(こうするしかない)
(ア)保護者の抱える問題の把握
虐待行為を肯定・反省姿勢
(虐待を認めている)
・現状肯定型(悪いとは思うがなおせない)
・改善主張型(何とかしたい、もうしない)
強い叱責や体罰など虐待に通じる行為にまで至ってしまった保護者は、子どもの養育に関
して何らかの問題を抱えている。
叱責してしまう姿勢や体罰自体を責めることから始めず、保護者が困っていることをまず
確認し、共感するように接していくことが必要である。
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Ⅱ 子どもや保護者への対応のポイント
イ 「通告元」に関する話題への対応
訪問理由について自然な設定ができない場合は、通告をきっかけとした訪問であることを
伝えることが必要となる。通告があったことを伝えた場合、保護者の多くが「通告元がどこ
であるか」を最初の話題とする。
児童虐待防止法第7条の規定により、通告元を明かすことは禁止されており、法律の趣旨
を説明し、
「通告元」に関する話題を短く切り上げるように対応することが適切である。
ウ 家族全体の問題であるか等の見極め
子どもと母あるいは父等の間だけの問題か、子どもと父母等(母と祖母等々)家族全体の
問題として現れているのか注意深く見極めることが必要である。そのためには、まず、誰と
話すことが効果的か、あるいは安全であるか見通しをたてて対応する。
不用意に親族等と連絡することにより、家庭が著しく閉鎖的になってしまうことがあるの
で、十分に情報を得た上で対応をすることが必要である。
重要!
対応で特に注意すること
訪問や面接は、複数の職員で行う。
保護者等に、聴取者の所属や職務上の守秘義務、調査事項と調査の必要性等を簡潔に伝える。
子どもや保護者等のプライバシーに配慮し、第三者のいるような場面で話すことは避ける。
訪問する場合に、玄関の外で内容に踏み込んだ話をするのは NG!
「少しお話をさせて下さい。」と玄関の中に入ることの了承を得て、中に入ってから話を始める。
(部屋の中には、保護者等の了解を得てから入る。)
(2) 保護者自らが虐待不安を訴えた場合における対応の留意点
保護者自らが、虐待の不安を訴えてきた場合には、その気持ちを責めず、不安を受け止め、共
感的に対応することが基本である。
保護者が、虐待の不安を感じる原因となっている問題を主題として相談や支援ができるよう、
保護者が不安を感じていることに共感し、落ち着かせるよう対応することが必要である。
また、支援にあたっては、保護者が過度に依存的にならないよう、支援方法等について検討し
た上で、対応することが必要である。特に、保護者が自らの被虐待体験を訴えるなどの精神的な
悩みを抱えている場合には、専門機関(精神保健福祉センター等)と連携をとることも重要であ
る。
(3) 子どもの行動等の問題として相談があった場合
子どもの乱暴や嘘など問題行動について保護者から相談があった場合、その要因として、保護
者の不適切な関わりが考えられる場合がある。
保護者への聴き取りによって、保護者の養育による問題がわかった場合でも、その場で端的に
指摘することは避け、保護者自身が子どもへの関わりをどのように考えているか等の投げかけに
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第 3 章 虐待対応の流れ(市町村・児童相談所)
Ⅱ 子どもや保護者への対応のポイント
より、保護者の意識の程度を確認することから始めることが適切である。
保護者の意識の程度により、子どもの問題のみを話題として相談の開始をするか、保護者の養
育の振り返りを中心に相談を進めるか等の方針を考え、子どもの養育状況が好転することを目指
すことが必要である。
しかし、明確に体罰等を認め、さらに体罰等に関し肯定的な保護者に対しては、
「子どもに有害
な行為は、その目的等にかかわらず虐待行為とみなされる」ことを、早期の段階で伝えることも
必要である。
保護者の行為が虐待行為になることを指摘するときは、その行為を否定するものであり、自ら
の人格を否定されたと保護者に受け取られないよう、十分に留意が必要である。
重要!
きょうだい事例の扱い
虐待の背景には、多様な問題が複合的、連鎖的に作用し、構造的問題となって発生している。
このことから、きょうだいがいる家庭で虐待が発生した場合には、ある時点で一人の子どもにしか
虐待の矛先が向いていないとしても、虐待が発生する構造的問題が解決されていない限り、他
の子どもに向かう可能性が高いことを意識してその家族に対応しなければならない。
きょうだいがいる家庭で虐待が発生している場合には、虐待の対象となっていない他の子どもに
関してもアセスメントを行うことが重要であり、原則として児童記録票を作成し、安全確認をするな
ど適切に対応する。また、通告のあった子ども本人にもきょうだいにも虐待の兆候が認められない
場合においても、子どもの家庭状況欄にきょうだいの記録をしておく。
特に、被虐待児を家庭から分離した場合は、家庭に残っているきょうだいへの虐待が新たに発生
することもあるので、定期的な安全確認とアセスメントを行い、きょうだいの安全には注意を要す
る。きょうだいに対する虐待の兆候が認められた場合には、ただちに虐待ケースとして、(定例・緊
急)受理会議で対応を検討する。
① 通告対象の児童・きょうだいともに虐待が確認されない
通告対象児童 ⇒ 助言(終了)
きょうだい ⇒ 家庭状況欄にきょうだいの記録をする。(状況により児童記録票を作成。)
② 通告対象児童に虐待あり、きょうだいには虐待が確認されず。
通告対象児童 ⇒ 調査継続
きょうだい ⇒ 児童記録票を作成、継続的に状況把握。(心理的虐待として受理)
③ 通告対象の児童、きょうだいともに虐待あり
通告対象児童 ⇒ 調査継続
きょうだい ⇒ 児童記録票を作成、調査継続
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第 3 章 虐待対応の流れ(市町村・児童相談所)
重要!
Ⅱ 子どもや保護者への対応のポイント
知っていると役立つ聴く技術(子どもや保護者との初期の面接)
① 冷静に聴く
子ども虐待について、子どもや保護者と話をする場合、時として驚くようなひどい状況や、予想もつか
なった事実が語られることがある。
そのようなときに支援者が感情的に反応し、怒ったり、表情を大きく変えたりすると、子どもや保護者は
それ以上話を続けることに戸惑いを感じてしまう。
たとえ、心の中は動揺していたとしても、それは表に出さないように気をつける。
② 共感的に聴く
状況把握の段階では、話の内容を分析したり、評価したり、支援者の意見を言う必要はない。
「そう思っているのですね。」とか「つらかったのですね。」と話し手の気持ちを受け止める言葉かけに留
め、話を聴くことに徹する。
子どもに対し、「まったくひどいことをする親だね。」と同感の言葉や、「かわいそうにね。」といった同情の
言葉は口にしてはいけない。それ以上話すことをさえぎってしまう。
また、保護者に対しても、状況把握の段階では、話した内容がたとえ好ましくないことであったとしても、
「そんなことをするなんて許されません。」等非難する言葉をかけることは、避ける。
「よく話をしてくれましたね。」と、まず、話してくれたことにねぎらいの言葉をかけることが大切である。
③ 「はい」「いいえ」で答えられる質問は避ける
「はい」「いいえ」で答えられる質問はできるだけ避け、子どもや保護者の言葉や気持ちをできるだけ引
き出すことを心がける。
子どもや保護者が自分の言葉で語り始めると、堰を切ったように話し出すことも多々ある。
(例)「叩かれて痛かった。」という子どもの話に対し、「お父さんが頭を叩いたの?」と聴くのではなく、「誰
が叩いたの?」「どこが痛かった?」と一つずつ聴いていく。
※「はい」「いいえ」で答えられる質問は、回答を限定したり、誘導することになりかねない。
④ 問い詰めない
「なぜ○○したのか?」「どうして○○なのか。」という質問は、場合によっては責められているように受け
取られる場合があるので、できるだけ避ける。
これらの前提として、
「一緒に問題解決にあたっていくこと」を子どもや保護者に明確
に伝えることが大切である。
(介入的な関わりであったとしても、それは問題解決のための一過程である。
)
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第 3 章 虐待対応の流れ(市町村・児童相談所)
重要!
Ⅱ 子どもや保護者への対応のポイント
児童虐待死亡ゼロに向けて
~平成 23 年度における児童虐待死亡事例の検証について(第 3 次答申)~を踏まえて
援助機関の虐待対応上の留意点
① ネグレクト死の態様から学ぶ
ネグレクトにおける虐待の態様については、まだ十分に分かっているとは言えない。重度のネグレクト
の場合、極端なきょうだい差別があることにも留意し、家族関係全体の動向に注意を払うと同時に、
一人ひとりの子どもの状況について、具体的に把握することが必要である。
また、同じような時期に同じような虐待を受けた場合、乳幼児など年齢が低いほどリスクが高いことに
も留意する。
② DVに着目する
生活の様々な面でDV関係の一つといえる「支配関係」がある夫婦関係は、正常な子育てを著しく阻
害し、虐待を深刻化させる背景要因となることから、DVに着目して、家族関係全体を分析することが
必要である。
③ 虐待の隠蔽に留意する
虐待が深刻化した場合、保護者は関係機関だけでなく、祖父母などの親族、近隣などに対しても事
実を隠すことが多い。特に深刻なネグレクトが進んでいる場合、保護者は長期に亘り、子どもの姿を誰
にも確認させようとしない。子どもの姿を確認できないまま長期間経過することは、非常に高いリスク
の可能性があることを認識する。
④ 安全確認と初期アセスメントの留意点
安全確認は子どもを直接目視することと併せて可能な限りの事実確認、情報収集をして総合的に
行う。子どもの安否だけでなく、家族関係全体を見たてる視点に立ったアセスメントを行う。
⑤ 初期段階の情報収集
初期段階であっても、家族状況が不明あるいは疑義がある場合は、積極的に戸籍情報を得るなど
家族関係の把握に努める。生活保護担当課など関係機関が持つ家族情報、妊婦健康診査の受診
状況(飛び込み出産)、乳幼児健康診査結果の情報、過去の相談歴などについても慎重に確認す
る。
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II子どもや保護者への対応のポイント(PDF:1009KB)