丸紅経済研究所
ロシアレポート #35
公的債務デフォルトの可能性は低いが、民間長期債務返済にリスク
2014/12/17
主要経済指標の推移:投資に続き消費にも陰り。10 月までの GDP は横ばい圏内。
1.
図表 1 ロシアの主要経済指標(特に断りが無ければ季節調整済前期・前月比)
分類
経済指標名称
景気 実質GDP成長率
実質鉱工業生産指数
企業
実質固定投資
雇用 失業率(季節調整値、%)*
実質可処分所得
家計 実質賃金(1人あたり)
実質小売売上高
消費者物価指数*
物価
通貨供給量*
輸出(国際収支ベース)*
輸入(国際収支ベース)*
対外経済
貿易収支(国際収支ベース、億ドル)*
外貨準備高(金除く、期末値、億ドル)
為替レート(ルーブル/US$1)
市場 株価指数(RTS指数、期末値)
ウラル原油価格(US$/b)
2011
2012
2013
Q1
4.3
3.4
1.3
-0.1
5.0
3.4
0.4
-1.4
10.8
6.8
-0.2
-0.9
6,5
5,5
5,5
5.4
0.5
4.6
3.2
1.9
2.8
8.4
4.8
1.4
7.1
6.3
3.9
1.0
8.4
5.1
6.8
1.5
23.1
17.9
15.4
5.7
31.3
2.3
-0.8
-1.2
29.7
5.4
1.7
3.0
1,969 1,917 1,819
426
4,540 4,866 4,696 4,773
29.4
31.0
32.0
30.6
1,382 1,520 1,443 1,460
109.6 110.8 107.9 111.4
2013
Q2
Q3
0.4
0.9
0.7
1.2
-0.4
0.5
5.5
5.5
-1.5
0.5
2.3
0.5
1.1
1.0
1.4
1.7
3.2
3.3
-3.6
5.2
-5.4
0.8
427
485
4,752 4,795
31.9
32.8
1,275 1,422
102.4 110.6
Q4
0.6
0.5
0.6
5.5
1.0
0.6
0.7
1.6
2.5
-0.4
0.4
476
4,696
32.7
1,443
108.4
Q1
-0.5
-1.6
-4.8
5.2
-1.6
1.2
0.7
1.6
1.6
-2.9
-1.7
453
4,428
35.7
1,226
106.8
Q2
0.0
1.2
1.5
5.2
2.9
-0.5
-0.2
2.5
0.1
2.1
-4.1
515
4,320
34.7
1,366
107.7
Q3
0.0
0.1
-0.1
5.1
0.8
-1.4
0.3
1.8
2.4
-2.8
-3.4
505
4,092
37.4
1,124
100.8
2014
7月
0.4
0.2
0.3
5.1
2.6
-0.2
0.4
0.4
1.1
9.5
0.4
196
4,227
35.7
1,219
105.4
8月
-0.4
-0.2
-1.7
5.1
1.0
-1.4
0.2
0.6
1.1
-7.6
-4.5
173
4,192
36.9
1,190
101.1
9月
0.4
1.0
-0.4
5.1
-2.9
-0.1
0.2
0.8
0.8
-9.4
-0.9
135
4,092
39.4
1,124
95.8
10月
-0.1
0.2
0.5
5.1
2.0
-0.2
0.0
0.7
0.2
1.9
-2.2
148
3,833
41.0
1,091
86.4
<資料>ロシア連邦統計局、ロシア経済発展省、ロシア中央銀行、*は筆者季節調整値
ロシア経済は景気後退(≒2 四半期以上連続で実質 GDP 成長率が前期割れ)に近い状態ですが、
10 月までの指標を見る限り大きく悪化しているわけでもありません。しかし足元では急激な原油安・ル
ーブル安が進んでおり、11 月・12 月は経済指標の急激な悪化が予想されます。
鉱工業生産は 9 月、10 月と好調ですが、これは政策効果(自動車購入支援)もしくはルーブル安や
経済制裁に伴う輸入代替効果が出たものと思われます。
一方、経済制裁をまともに受ける固定投資は不調が続いています。
生産年齢人口の制約を背景に、失業率は史上最低水準で推移しています。但し、景気が更に悪化
すれば、雇用にも悪影響が出てくるでしょう。
ロシア経済を支えてきた消費にも陰りが見えます。小売売上高は緩やかに減速しています。背景に
は主にインフレによる実質賃金の目減りがあるようです。
インフレ率は緩やかに加速しています。食料品価格上昇の他、ルーブル安の影響も受けています。
通貨供給量は減速しています。通貨供給量が前期比+1.8%(前月比+0.6%)を割り込むと実質 GDP 成
長率がマイナスになるという経験則があり、金融制裁の影響を測る上で要注目です。通過供給量を増
やせば成長率が高まる一方、インフレ率も同時に高まる恐れがあるため、ロシア中央銀行は微妙な舵
取りを要求されています。ここまでの動きを見る限り、ロシア中央銀行は成長よりもインフレ抑制に重点
を置いているようです。
エネルギー価格の低下もあり輸出は減速していますが、同時に輸入も減速しており、貿易収支は一
定の水準を維持しています。但し 11 月以降はエネルギー価格が急低下したため、輸出の急減速と貿
易収支の悪化が予想されます。
外貨準備高は年初から約 900 億ドル減少しました。プーチン大統領や主要経済閣僚は否定していま
すが、今後外貨準備高を維持するため、何らかの規制(輸入規制や外貨強制売却)が導入される可能
性も排除できません。
尚、原油価格は低下しているものの、同時にルーブルも安くなっているため、一般政府財政はあまり
影響を受けていません。ルーブル安の中でいかに外貨を確保し、対外支払いを滞りなく行うかが当面
の注目点となるでしょう。
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2.
ルーブル急落:公的債務デフォルトの可能性は低いが、民間長期債務返済にリスク。
図表 2 ロシアの国際収支(単位:10 億ドル)
経常収支(①)
財・サービス貿易収支
財輸出
石油
石油製品
天然ガス
その他
財輸入
サービス輸出
サービス輸入
所得収支
資本移転収支(②)
金融収支(③)
負債(増加は+、減少は-)
連邦政府
地方政府
中央銀行
民間銀行
その他セクター
資産(増加は-、減少は+)
一般政府
中央銀行
民間銀行
その他セクター
誤差脱漏(④)
外貨準備増減(増加は+、減少は-、①~④合計)
民間による資本流出入
<資料>ロシア中央銀行
14Q1
26.8
39.7
123.2
38.8
27.5
17.8
39.0
-72.4
15.1
-26.0
-13.1
-0.2
-49.1
2.9
-6.6
0.0
0.0
0.9
8.6
-52.0
-0.1
0.5
-22.1
-30.4
-4.9
-27.4
-48.6
14Q2
14.1
37.4
132.3
42.3
30.5
16.2
43.3
-80.5
17.3
-31.7
-23.3
0.0
-29.8
7.7
1.8
-0.1
0.3
-7.4
13.0
-37.4
-0.6
0.0
-8.3
-28.6
5.3
-10.3
-23.7
14Q3
11.4
29.3
128.4
42.0
31.9
9.9
44.5
-79.7
17.9
-37.2
-17.9
-9.9
-1.6
-21.8
-5.5
0.0
0.7
-11.3
-5.7
20.2
10.5
0.0
32.1
-22.4
-5.6
-5.7
-13.0
14/1-9月
52.3
106.5
383.8
123.1
89.9
43.9
126.8
-232.7
50.2
-94.9
-54.2
-10.1
-80.4
-11.3
-10.2
-0.1
1.0
-17.8
15.8
-69.2
9.9
0.5
1.8
-81.4
-5.1
-43.4
-85.2
13Q1
25.0
38.1
125.2
43.2
25.5
18.1
38.3
-76.6
15.2
-25.7
-13.1
0.0
-13.3
86.2
3.6
0.0
4.4
7.3
70.9
-99.5
-0.6
0.3
-24.7
-74.5
-6.8
4.9
-28.2
13Q2
1.8
29.1
127.3
40.7
29.3
13.9
43.3
-84.5
17.9
-31.5
-27.4
0.0
-7.8
19.1
0.4
-0.1
-0.5
9.2
10.2
-27.0
-1.2
0.0
-13.6
-12.2
1.6
-4.4
-5.5
13Q3
-0.7
23.9
131.0
44.0
27.1
16.4
43.6
-87.3
18.4
-38.2
-24.7
-0.2
-4.5
8.0
6.0
-0.1
-1.8
-4.4
8.2
-12.5
0.5
0.1
15.3
-28.3
-1.9
-7.4
-10.4
13/1-9月
26.1
91.2
383.5
128.0
81.9
48.4
125.1
-248.4
51.5
-95.4
-65.0
-0.3
-25.7
113.3
10.0
-0.1
2.1
12.1
89.3
-139.0
-1.4
0.5
-22.9
-115.1
-7.0
-6.9
-44.1
ルーブル安が止まりません。昨日 12 月 16 日ロシア中央銀行は政策金利を 10.5%から 17.0%まで一気
に引き上げたものの、本日 12 月 17 日現在、US$1=69 ルーブル近辺で推移しており、ルーブル安の勢
いは止まりません。
ルーブル暴落の背景にあるのは、原油価格急落を背景とするロシアの経常収支悪化予想です。図
表 2 はロシアの国際収支を整理したものですが、直近 2014Q3 を見ると財輸出額 1,284 億ドルのうち、
石油・石油製品・天然ガスが 838 億円、割合にして実に 65%を占めています。足元の原油価格は
2014Q3 比でほぼ半値になっているので、石油・石油製品・天然ガスの輸出額も半減すると想定すれば
(かなり厳しい想定ですが)、これまで黒字を続けてきたロシアの経常収支は一気に 300 億ドル程度の
赤字になると考えられます。為替レートの決定要因は金利や物価等様々ありますが、足元のルーブル
暴落の本質はこのロシアの経常赤字への転落を織り込んだものと考えられます。
どこまでルーブルが低下するのかを考えても占いの域を出ませんが、国際決済銀行が公表している
実効為替レート1(直近データは 2014 年 11 月)を見ると、名目実効為替レートは既に 1994 年 1 月以降
で最安値(2010 年平均を 100 とすると、2014 年 11 月は 69.6)を記録しています。足元では対ドルで 11
月平均比約 50%切り下がっているので、2014 年 12 月の名目実効為替レートは更に切り下がって 50 弱
(69.6÷1.5=46.4)になると予想されます。一方、為替の真の実力を反映するとされる実質実効為替レ
ートの 1994 年 1 月以降での最安値は 1994 年 10 月の 40.89(2010=100)であり、この最安値を底と見る
なら 2014 年 11 月の 85.79 からは更に下落余地があります。足元の実質実効為替レートは 60 弱と予
100 を基準とする指数。当該通貨価値が上昇すれば数字が大きくなり、下落すれば数字が
小さくなります。
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想され(85.79÷1.5=57.2)、史上最安値を底値と仮定すれば、インフレ率が不変という前提を置く場合、
名目実効為替レートはあと 30%程度下落してもおかしくないことになります。その場合、US$1=90 ルーブ
ルが視野に入ってきます。
ではルーブル下落がもたらすデメリットは何でしょうか。マクロ経済の観点からは、①外貨建て対外
債務返済が難しくなる、②(ルーブル安を恐れて)海外からの投融資が細る、③外貨建て輸入が難しく
なる、④輸入物価上昇を通じたインフレ、といったところだと思います。順番に考えて見ましょう。
図表 3 ロシアの対外債権・債務ポジション(14 年 6 月末時点、単位:10 億ドル)
短期
長期
短期
中央銀行
長期
短期
銀行
長期
短期
その他
長期
短期
小計
長期
合計
ー
政府
対外債務 対外債権
0
1
60
62
9
432
7
0
58
124
151
165
29
115
420
137
94
672
640
365
734
1036
<資料>ロシア銀行
①外貨建て対外債務返済が難しくなる、ですが、図表 3 の通りロシア全体で見ると、対外債務 7,340
億ドルに対して、対外債権 1 兆 360 億ドルを有しており、理論的には対外債権を全部売れば対外債務
を完済してもおつりが来る状態です2。対外債務は約 7 割が外貨建てですが、対外債権も同様と思われ
(特に中央銀行が有している短期対外債権 4,320 億ドル3は外貨準備であり、中味の大半は先進国短
期国債)、いわゆる「通貨のミスマッチ」は大きくないと想定されます。一方、「期間のミスマッチ」に目を
移すと、「その他」セクター(主に非金融民間企業)において、長期対外債務 4,200 億ドルに対して、長
期対外債権が 1,370 億ドルしか無い点が気になります。このギャップを今後政府・中央銀行の対外債権
で埋めていくことになりそうですが、その際にどの企業を救うのか、といった点が議論になりそうです。
いずれにせよ、対外債務返済に関しては、公的部門よりも民間部門のリスクが相対的に高いようです。
②(ルーブル安を恐れて)海外からの投融資が細る、については、既にロシアは欧米の経済制裁の
結果、ほぼ国際金融市場から切り離されています(過去の与信行動を見ると、対ロシア与信の 90%は
欧米金融機関によるものです)。従って、皮肉なことに、既に経済制裁を受けていたがゆえに、足元の
ルーブル安が海外からの投融資に与える影響は限定的なのでは、とみています。
③外貨建て輸入が難しくなる、については①に近い問題と思われます。外貨を節約するため、ロシア
政府が何らかの輸入管理に出る可能性も排除できません(既に西側制裁への報復措置として、欧米
からの一部食料品輸入は禁止されています)。
2
危機回避策として、発行済みのロシア政府国債を全て買い取る、という案があります。そ
うすることで公的債務デフォルトへの懸念を絶ち、
(投機的取引のきっかけになり易い)
CDS 市場そのものを成立させない、というアイデアです。ロシア政府国債の価格も低下し
ており、技術的に可能であれば検討に値するアイデアだと思います。
3 但しこれは 2014 年 6 月末の数字であり、ロシア中央銀行統計に基づく筆者の計算では、
ロシアの外貨準備(金除く)は 2014 年 12 月 16 日現在、3,719 億ドルまで減少していると
推計されます。
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④輸入物価上昇を通じたインフレ、については、現状ではロシア中央銀行が利上げ等の金融政策を
通じて沈静化を試みています。ではルーブル安がどの程度ロシア国内のインフレ率を引き上げるのか、
重回帰分析で試算してみました(対象期間は 2010Q1~2014Q3 の 19 四半期)4。結果は、以下数式の
通りとなり、ルーブル安の影響は原油安によってほぼ相殺され、重回帰分析の説明変数に為替要因
は含まれないという結果になりました。
消費者物価指数(季節調整済、前期比%)=1.634+0.04×北海ブレント価格(季節調整済、前期比%)
+0.02×国際小麦価格(季節調整済、前期比%)
つまり、原油価格が上昇する場合はルーブル高となり、原油価格が下落する場合はルーブル安とな
ることで、インフレ率に対する上昇・下落圧力が相殺し合っている、というのが過去の傾向のようです。
もっともこのようなメカニズムは過去の、しかも中期的な傾向であり、足元の急激な原油安・ルーブル安
においても速やかに機能するという保障はなく(過去と比較して経済構造も変化しているので)、今後も
ロシアのインフレ率については楽観できないとみています。
以上
TEL 03 – 3282 – 7582
E-mail: [email protected]
担当
シニア・アナリスト 榎本 裕洋
住所
〒100-8088
東京都千代田区大手町 1 丁目 4 番 2 号
WEB
丸紅ビル 12 階
経済研究所
http://www.marubeni.co.jp/research/index.html
i
(注記)
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保証するものではありません。
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衆送信、送信可能化などすることは著作権法違反となります。
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消費者物価指数(季節調整済、前期比%)を被説明変数とし、以下の被説明変数候補から
被説明変数を選択して重回帰分析を行いました。
被説明変数候補は、①北海ブレント価格
(季
節調整済、前期比%)
、②実質 GDP 成長率(季節調整済、前期比%)、③通貨供給量(季節
調整済、前期比%)
、④小麦国際価格(季節調整済、前期比%)
、⑤ルーブル対ドルレート(前
期比%)
。説明変数選択基準は、①説明変数と被説明変数の間に単なる相関関係でなく、因
果関係が想定されるものを選ぶ、②多重共線性が生じないよう配慮(具体的には、説明変数
のトレランスを 0.5 以上とした)
、としました。
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