遠隔画像診断:ガイドラインと法的問題
第71回日本医学放射線学会総会 教育講演
2012年(平成24年)4月13日
寺本振透(Teramoto, Shinto)
九州大学大学院 法学研究院 教授、弁護士
e-mail: [email protected]
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本発表の内容に関連する利益相反事項は
☑
あります
企業・団体等の名称
株式会社 ジェイマックシステム
問:遠隔画像診断医は誰に対して責任を負っているのか?
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ガイドライン
4-2(1)遠隔画像診断に従事する医師の立場
遠隔画像診断に従事する医師は検査が施行される医療施設の外に
あって専門的知識を提供している。患者に対しては、遠隔画像診
専門家として善良なる管理者の注
意義務を負い、読影によって不法行為責任(民法709条)を患
者に対して負う場合がある。また、委託を受けた主
治医に対しては契約責任(民法415条、614条)を別
断に従事する医師は
途負うことになる。
「専門家」に対する信頼が医療の基盤
診療を受ける前に細かな契約条件を定めることはない。
診療のプロセスで、治療の内容は、どんどん変わっていく。
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専門家の責任の特徴
読影医は、主治医よりも(当然、患者よりも)、画
像からより多くのことが読み取れるであろう、とい
う期待が前提。
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(遠隔読影医に限らず)医師の法的責任は二種類
不法行為に基づく責任
医師という「専門家」なら「これくらいの注意
を払ってくれるはず」という考え方がベース。
契約に基づく責任
医療契約がベース。とはいえ、契約に詳細が書
き込まれない以上、不法行為に基づく責任と、
判断の仕方が実質的に変わるわけではない。
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遠隔画像診断医の法的責任
不法行為に基づく責任
患者(および、患者の保護者または家族等)に
対して。
契約に基づく責任
主治医(または、主治医の所属機関)に対して。
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裁判例より
最高裁判所第三小法廷 平成13年3月13日判決 平成10(受)168 損害賠償請求事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52236&hanreiKbn=02
「本件は, 本件交通事故と本件医療事故という加害者
及び侵害行為を異にする二つの不法行為が順次競合し
た共同不法行為であり....」
‣ 診療契約の具体的な内容を問うことなく、医
師(医療機関)の不法行為責任を議論してい
ることに注意していただきたい。
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問:読影は医療行為か?
遠隔読影を行うのは医師であるべきか?
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ガイドライン
4-3. 遠隔画像診断に備わっているべき態勢
遠隔画像診断においても医療施設内での医療行為と同様に医
療行為として要求されている基本的な条件を満たしている必要がある。そ
れは以下の2点である。
(1)画像診断業務の一般的な最低限の必要条件を満たしていること
緊急に治療を要する所見を見つけた場合には、直ちに担当医、場合に
よっては患者本人に直接連絡する態勢を整えていること、また
定期的な意見交換などにより、偶発所見が適切に伝達され対処されて
いることを確認する仕組みを備えていることが必要である。
(2)診療情報管理の体制を明確にしていること。
<以下略>
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「専門家」に対する信頼が医療の基盤
To Err is Human.
「間違うかもしれない」以上、
「専門家」が、「十分に注意し
て」判断してほしい、という期
待に応えなければならない。
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院内読影では、「医師が読影してくれるはず」
という患者(および主治医の)期待がある。
院外読影だからといって、期待の水準が下がる
理由がない。
「これは参考情報にすぎない」という弁解は成
り立たない。
あくまでも、専門医による医療行為であると見
るのが順当。
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裁判例より
大阪地方裁判所 平成15年12月18日判決 平成12(ワ)7100 損害賠償請求事件
判例タイムズ1183号265頁
下記の項目の構成に注目されたし。
第6 当裁判所の判断
2 争点1(1)(検査義務違反等)について
(1) 画像診断上の注意義務違反等について
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ア 平成9年9月25日CTについて
ウ 平成9年10月20日MRについて
(ア)被告病院医師らの注意義務
(ア)[放射線科医]の注意義務違反
(イ)[放射線科医]の注意義務違反
(イ)[主治医]の注意義務違反
(ウ)[主治医]の注意義務違反
エ 平成9年11月26日注腸検査について
(ア)[放射線科医]の注意義務違反
(エ)まとめ
(イ)[主治医]の注意義務違反
イ 平成9年10月9日CTについて
(ア)[放射線科医]の注意義務違反
(イ)[主治医]の注意義務違反
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‣ 一つ一つの画像診断について、「医師の注意
義務違反」の有無(有りとした部分と、無し
とした部分の両方がある)を判断しているこ
とに注意。
‣ 「放射線科医」の注意義務と、「主治医」の
注意義務とを、別々に議論している。
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患者→主治医→放射線科医
信頼の連鎖を絶ち切ってはならない。
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問:読影に用いた画像はどうやって保管すべきか?
院内?院外?クラウド?
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ガイドライン
4-3. 遠隔画像診断に備わっているべき態勢
<前略>
(2)診療情報管理の体制を明確にしていること。
•具体的事項については本ガイドラインで後述するが、診療情
報管理の基本的な方針をもち、その方針に基づいた体制に
より、実際に運用に問題が生じた場合の対処法につ
いての検討を行っていることが必要である。とくに診療
情報管理の基本的な方針については文書化してあることが
必要である。
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ガイドライン
5-1. ネットワークおよびハードウェア
•
ネットワークの構成やハードウェアには
様々なレベルのものが存在しているが、技術
的進歩とともに必要とされるレベルは常に
変化していくと考えられる。そのため、常
に施設の運用方針に基づいて、現在のシステ
ムの限界を認識し、改善する態勢が求めら
れている。
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宝物を裏庭に埋めて隠すのか?
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信頼できる専門家に託するのか?
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現在の技術環境において、より安全で安価な
医療情報保管の方法を選択する必要がある。
過去の技術環境を前提としたガイドラインか
ら外れたからといって、ただちに違法となる
わけではない。
自然災害が多い我が国では、国外バックアッ
プも十分に検討に値する。
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問:読影に用いた画像の integrity はどうやって確保すべきか?
読影医の責任?主治医の責任?
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ガイドライン
5-1. ネットワークおよびハードウェア
✓
integrity 確保の重要性を示唆しつつも、はっき
りしたガイダンスをしていない。
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責任分界点を置きづらい。
医師は、その責任の一部を他の医師に丸投げ
することはできない。
患者は、医療システム全体を信頼している。
ガイドライン4-3(1)は、「ここから先は知らな
いよ」と医師が言ってはならないことを示し
ている。
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医療画像情報の保管および交換のクラウド化
の流れの中で、画像のintegrityを確保するため
の約束事(プロトコル)確立のために議論が
なされることが期待される。
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Thank you.
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