平成 24 年度
第 3 回考古学講座
「古墳時代の祭祀」
公益財団法人高知県文化財団埋蔵文化財センター
調査員 山﨑 孝盛
高知
埋文
文蔵くんとまいちゃん
日時:平成 24 年 11 月 17 日㈯ 午後 1 時 30 分〜 3 時 30 分
場所:高知県立埋蔵文化財センター研修室
公益財団法人高知県文化財団埋蔵文化財センター
第3回考古学講座 古墳時代の祭祀 平成 24 年 11 月 17 日
古墳時代の祭祀研究
導水施設に関連した水辺祭祀を中心として
山崎
孝盛(高知県埋蔵文化財センター)
‒本講座の趣旨と視点‒
本講座では、古墳時代の祭祀事例に視点をあてることで、古墳時代社会における「祭祀」についての理
解を深める。古墳時代の祭祀は、海洋や山地、河川、湖、池、沼、峠、谷、道、巨石、墓域である古墳、
集落などのさまざまな場所でおこなわれ、実に多種・多様な状況がうかがわれる。現代社会と儀式や祭礼
との関わりが複雑であるように、古代社会における祭祀の実状もまた実に多面的かつ多様であった可能性
が高い。そうした祭祀のすべてをここで網羅することは難しいが、今回の講座では、古墳時代の導水施設
に着目し、そうした多様な祭祀のなかの水辺祭祀に視点をあて話しを進めて行きたい。
1.祭祀とは何か?
まず始めに「祭祀とは何か?」について少し考えてみる。祭・祭祀・祭礼は現代社会にも存在する。現
代の祭祀事例を少し参考にしながら、古墳時代における祭祀の特徴について考えてみたい。
2.多様な祭祀とその解釈
次に、古墳時代における具体的な祭祀の事例を見て行く事としたい。海洋や山地、古墳や集落に見られ
る、幾つかの考古学的事例を観察し、古墳時代の祭祀について考えて行く。
3.古墳時代の水辺祭祀
現代社会と同じく古代社会においても、人間生活を営む上で「水」は欠かすことができない。そうした
水を対称とした祭祀は古墳時代においても行われていた。古墳時代における水辺祭祀に関しては、海洋や
河川(自然流路)などの自然の水辺を対称とした祭祀研究が古くから進められて来た。高知県内における
具同中山遺跡なども地域における河川祭祀の一つの事例と言えよう(出原 1993)。
そうした自然の水辺に対し、ここ 10 年来の研究では、導水施設などの人工的な水辺に関しての祭祀研究
がにわかに進展しており、新しい水辺祭祀の実態が徐々に明らかになりつつある。
①祭祀考察の前提条件
今日までの多くの祭祀研究においては、
「祭祀」を考察するうえでの前提となる条件についてあまり触れ
られていない。考古学においては、特徴的であるが、曖昧なもの、不明なものを「祭祀」として安易に判
断しがちな傾向にあり、そうした不安要素は若干なりとも解消しておく必要がある。
私自身の研究では、考古学的に祭祀を観察して行く上での幾つかの条件を設定している。それは、分析
対称となる遺跡・遺構に、①祭祀の主体(目的や対称)、②祭祀の場、③祭祀の痕跡、が観察されることを
祭祀考察の前提条件としている。その3つの条件を満たし、かつお互いの条件が有機的な関係性を持って
確認できることが考古学的に「祭祀」を立証する上では望ましい。少し説明を加えれば、例えば溝のなか
に土器片等が密集した状態で残されている場合、祭祀と認定する場合には、その内容が日常的か非日常的
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か...かどうかの判断が重要となる。加えて、土器の出土状況も重要な判断材料となる。そうしたとき、③
の痕跡の特殊性に加え、②場の認定と状況の分析が重要な鍵となる。土坑や溝などから土器片等がまとま
って多量に出土しているからといって、それがそのまま祭祀になるとは限らない。祭祀か単なる廃棄かの
判断は時として困難であり、祭祀と断定するには、それなりの状況証拠が必要である。
また、先の土器群とは異なり祭祀具等の明確に祭祀的な色彩を帯びた遺物が出土したとしよう。それ自
身は祭祀の証拠としては十分である。しかしながらその遺物自体が、⑴その場での祭祀行為の痕跡なのか、
⑵他の場所行われた祭祀行為の廃棄なのかでは、祭祀の解釈に大きな隔たりが生じてくる。そうした場合
にも、分析において③のみでは不十分であり、②祭祀の行われた場の検討や観察は、分析にとって必要不
可欠な課題となってくる。さらに言えば、祭祀行為には必ず主体(対称)や目的があり、そうした目的を
達成するための場と行為は必ず存在していたはずである。そうした①祭祀の主体(対称)や目的を把握す
る事が、祭祀の特質の理解につながり。その主体や目的の変化を的確に読みとる事が、正しい祭祀変遷の
把握に繋がると私は考えている。祭祀の文化的・思想的な相関関係を読みとくには、①主体と目的、②場
の特徴、③の痕跡の変化や差異を慎重に分析する必要がある。祭祀云々と即断し、論じるのは簡単である
が、考古学において「祭祀」を実証的に証明するのは、特殊なケースを除いてはそんなに簡単なことでは
ないと私は考えている。
今回とりあげる水辺施設は、上述した3つの条件を満たした遺跡である。①祭祀の主体としての「水」。
②祭祀の場である「導水施設」など。③祭祀の痕跡としての「遺物」の内容を複合的に確認できる祭祀遺
跡として評価できる。
②古墳時代の水辺施設
古墳時代の人工的な水辺施設を、便宜的に分類すると、湧水点や井泉の周辺に作られた施設[井泉施設]。
施設内に水を導水することに重要な意味を持つ施設[導水施設]に分類することが出来る。そうした各施
設をさらに構造的な視点で見てみると、ⅰ:土の素堀に加えて石積や板材等から構成されるもの。ⅱ:木
製の樋の組み合わせなどから構成されるもの。ⅲ:そして重厚な石組で作られるものが見られる。
木樋タイプの導水施設は、古墳時代中期に多く見られ、重厚な石組みタイプの施設は後期に見られる。
双方の導水施設が技術や思想的にどう繋がっているのかは今日の課題で、特に後者の石組タイプの導水施
設は、古代以降の庭園とどのような関係にあるのかは、今日の重要なテーマと言える。
その一方で、湧水点や井泉周辺につくられた井泉施設が存在し、その中には施設内に水を導水するもの
も見られる。そこには、単なる井泉施設から導水施設への変化の過程を読みとれる。
・古墳時代の主要な水辺施設
<導水施設>
・木樋タイプ
前期:纒向家ツラ遺跡(奈良)など
中期:浅後谷南遺跡(京都)、瓦谷遺跡(京都)、服部遺跡(滋賀)、
南郷大東遺跡(奈良)、大柳生宮ノ前遺跡(奈良)、延永ヤヨミ園遺跡(福岡)など
後期:神並・西之辻遺跡(大阪)など
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・石積・石組タイプ
中期:城之越遺跡(三重)、砂行遺跡(岐阜)、南紀寺遺跡(奈良)、三ッ寺Ⅰ遺跡(群馬)など
後期:上之宮遺跡、島庄遺跡、酒船石遺跡、飛鳥京跡苑池遺構、宮滝遺跡(各奈良)など
<井泉施設>
前期:纒向遺跡(奈良)、八王子遺跡(愛知)、菅原東遺跡(奈良)
中溝・深町遺跡(群馬)など
中・後期:六大 A 遺跡(三重)、阪原坂戸遺跡(奈良)、
三室間ノ谷遺跡(群馬)、本位田遺跡(兵庫)など
4.王権と水辺祭祀
近年の調査・研究で、集落に見られる導水施設を墓域である古墳上に再現した埴輪(導水施設型埴輪)
の存在が明らかとなった。導水施設型埴輪の存在は集落で行われた祭祀と古墳との関係を読み解くうえで
非常に重要な資料であり、古墳時代中期の水辺祭祀の特質を物語る。ここでは「首長」や「王権」とった
キーワードをもとに古墳時代社会と水辺祭祀との関係について考えて行く。
・導水施設形埴輪
※( )内は(墳形/墳長/時期/地域)
御塔山古墳(円墳/75m/5 期/大分)、月の輪古墳(帆立墳/60m/5 期/岡山)、行者塚古墳(前後円墳/99m/5
期/兵庫)、芝ヶ原 10 号墳(円墳/35m/5 期/京都)、狼塚古墳(円墳/28m/6 期/大阪/※培塚:誉田御廟山
420m)、心合寺山古墳(前後円墳/157m/5 期/大阪)、野中宮山古墳(前後円墳/154m/5 期/奈良)、ナガレ
山古墳(前後円墳/105m/5 期/奈良)、五条猫塚古墳(方墳/37.4m/6 期/奈良)、宝塚1号墳(前後円墳/111m/4
期/奈良)。※石製品:野毛大塚古墳(帆立墳/68m/7 期/奈良)
5.現代社会と水辺祭祀
以上、古墳時代の導水施設とその水辺祭祀について見て来た。ここでは最後に、古代社会から現代へ。
「祭祀」
「水」といったキーワードをもとに、現代社会と古代社会の水と水辺祭祀のつながりについて考え
てみたい。
【引用・参考文献】
青柳泰介 2003「導水施設考」『古代学研究』160 号古代学研究會
石野博信編 1998『古墳時代の研究∼生活と祭祀∼』雄山閣
今尾文昭編 2003『カミによる水のまつり』奈良県立橿原考古学研究所附属博物館図録 第 60 冊
岡田精司 1992『古代祭祀の史的研究』塙書房
岡田精司 1999「神社建築の源流」『考古学研究』第 46 巻 2 号 考古学研究会
小田富士雄編 1988『­古代を考える­沖の島と古代祭祀』吉川弘文館
橿原考古学研究所付属博物館編 2005『水と祭祀と考古学』学生社
出原恵三 1993「祭祀発展の諸段階」『考古学研究』第 36 巻 4 号 考古学研究会
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