認知症高齢者に対する作業療法士の
生活支援のための着眼点
-2000~2007年の日本作業療法学会誌
を手がかりにして-
平成20年6月20日
第42回日本作業療法学会
於:長崎県立総合体育館
田島明子(東京都板橋ナーシングホーム、立命館大学大学院院生)
仲口路子(藍野大学医療保健学部、立命館大学大学院院生)
天田城介(立命館大学大学院)
はじめに
• 演者は、2006年に、介護老人保健施設の作業療法士の問
題関心を探ったところ、認知症高齢者に簡便に使え・感度の
良い・QOLに着目した評価法の検討は最も演題数が多く、
評価法の開発は老健で働くOTにとって火急の問題であるこ
とがわかった1)。
• 認知症高齢者における作業療法の効果検討は期待されると
ころだが、認知症高齢者への支援の効果指標として用いら
れているQOL概念そのものの定義があいまいである。
• そこで本研究では、認知症高齢者のQOL理論モデル構築の
一助として、対象者の生活を支援する専門家である作業療
法士が、認知症高齢者に対して行う生活支援のための多様
な着眼点の諸相を明らかにした。
1)田島明子,2006,「老健の作業療法に対する作業療法士の問題関心-日本作業
療法学会誌抄録を手がかりとして-」,第17回全国介護老人保健施設熊本大会.
パワーポイント:http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/2006/1110ta.ppt
対象
2000~2007年の日本作業療法学会誌から、
タイトルに「痴呆」「認知症」の記載のある文
献を抜粋(206件)し、その中から、さらに、
「介入と生活への効果」が主たる内容となっ
ている文献(114件;2000年10件、2001年17
件、2002年17件、2003年7件、2004年16件、
2005年17件、2006年16件、2007年14件)を
対象とした。
分析方法
1. KJ法を参考にし、各文献を生活問題・介入
方法に注目しつつ全体的内容をまとめたも
のをカード化した。
2. それらを内容の類似性でグルーピングした
ところ15グループが生成された。
3. さらにそれらを内容の関連性で分類し、最
終的に6カテゴリーに整理された。
結果1
作成された15グループと6カテゴリー
6カテゴリーは以下のとおりである。15グループは「」で示し、アルファベットをあてはめた。
「→」は右項目が左項目の下位項目であることを示している。()内はカード(文献)数である。
1 対象者理解の視点
•
「a 重症度・タイプに応じた関わり」(7)
•
「b ニーズ・自己意志に基づいた作業活動の提供」(4)
•
「c 本人世界の理解、それをこわさない対応」(9)
2 対象者への介入の視点
•
「d 身体保全」(11)
•
適応的な活動性を引き出す
1) 作業活動の導入:「e 脳活動賦活」(8) 「f 外部刺激」(7) 「g 作業活動」(11)
2) 「h 安心の場の提供」(11)→「i なじみの環境・活動」(8)
•
「j 他疾患へのアプローチの際の工夫」(6)
3 介入規模・時間の柔軟な活用
•
「k 訓練時間・頻度を増やす」(3)
•
「l 集団・個別・ユニットケア」(11)
4 介護者負担のための支援
•
「m 介護者負担のためのインフォーマル・公的サービスの活用」(4)
5 「n チームによる関わり」(3)
6 「o 多様な介入が可能な場としてのデイケアの活用」(11)
結果2
グループ名
15グループの内容
内容
a
認知症による症状を生活・行動障害や重症度により類型化し、類型化に応じた介入を行おうとす
る研究をグルーピングした。OT協会版アセスメントを使用している研究が複数あった。
b
c
作業遂行への動機づけや主観的な満足を目的とした介入をグループ化。COPM理論を用いた介
入が複数あった。また環境と感情の関係を数量化した研究もみられ、それも含めた。
d
生活問題としては、嚥下・摂食障害、食事動作による失行症状、転倒、食事時の道具の使用、食
事環境などである。それらに対する介入の効果。「ともに食事をとる」ことで、摂食状況がよりわか
り、楽しくとれたなどの報告も含めた。
e
f
無表情、無感情、意欲・関心低下、不穏、興奮などへの介入手段としての、感覚統合アプローチや、
前頭前野訓練、前庭刺激、触感覚などの感覚刺激によるアプローチをグルーピングした。
g
具体的な作業活動に注目した研究報告をグループ化。相互交流、情緒安定、有能感・達成感・満
足感などを目的として、回想法、園芸活動、化粧、コラージュボックス、音楽活動、仕事としての作
業活動、自分史づくり、絵手紙活動、レクリエーションなど、様々な作業活動が取り組まれていた。
h
肯定的感情を指標とし、パラレルに作業関係を設定するなど、適応しやすい作業・場の設定を行
い、孤独感を回避し、「安心できる場を提供しようとした/できた」、という報告をグルーピングした。
本人の行動に介入するのではなく、本人の意味世界を探り、周囲や環境の補いにより、結果的に、
環境への適応に導きこうとするような内容をグルーピングした。
自発性、情緒的反応等を期待した、乳児行動のVTRや、ビデオ鑑賞、動物型玩具、動物介在療法、
ペットロボット、集団体操、人形、AIBOなどによる、主にビデオ、玩具、動物による介入についての
報告をグルーピングした。
結果2
15グループの内容・つづき
グループ名
内容
i
茶の間のような環境・畳部屋、買い物、着物の着付け、ライフストーリーからのアクトとして生け
花・花作り、家電の使用など、その人のなじみの環境・活動を取り入れたことで、手続き記憶の
残存状況の確認や痴呆予防、社会性、交流、役割の獲得、満足感の向上につながったとの報告。
j
認知症だけでなく、癌や廃用性症候群、視覚障害、ALS、骨折などを随伴している症例に対する
様々な工夫が紹介されている。例えば、ALSの症例に対しては、選択肢を制限した文字盤の工
夫、骨折した症例に対しては複雑な訓練は困難なため、足底挿入板の使用を工夫するなど。
k
集団訓練と個別機能回復訓練を複合させる、訓練時間・頻度をあげる、作業療法の長期的関与
により、言葉の増加、覚醒状態の安定、問題行動の減少、在宅生活の維持などの効果があった
との報告。
l
(小)集団活動、ユニットケア、個別的な関わり、あるいは、段階的に人数・活動内容を変化させ
るなど、集団規模とその変化による効果についての報告内容をグルーピングした。ユニットの凝
集性を生かした積極性の向上、役割意識の再獲得、自己効力感の向上、肯定的表情の増加な
どが効果としてあげられていた。
m
介護者の介護負担軽減・QOLの向上ために、インフォーマルサービスや夜間介護サービス、
ショートステイ、デイサービス、入浴サービスの活用が有効であることの報告、また、家族機能と
介護負担感・肯定感との関連性を検討し、在宅介護の継続要因を探った研究もあった。
n
チームによりアプローチが特徴の報告をここに一括した。問題行動に対して、なぜこのような行
為につながるのかチームで検証し統一した関わりをもった症例や、覚醒度低下による摂食不能
な症例に対し、チーム医療にて服薬調整を行い摂食指導を行った症例の紹介など。
o
「デイケア」という場を活用し、家族支援、身体能力やデイケア継続の維持、不安解消、役割・有
能感・成功体験の獲得など、多様な観点から支援を行う報告があった。
結果3
15グループにおける各年代ごとの文献数
2 対象者への介入の視点
1 対象者理解の視点
重症度
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
計
ニーズ
適応的な活動性を引き出す
本人世界
身体保全
1
2
1
3
1
2
2
7
4
3
2
2
1
9
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
計
作業活動の導入
脳活動賦活 外部刺激 作業活動
1
2
1
1
4
1
2
1
1
4
1
4
4
1
11
3 介入規模・時間の柔軟な活用
4 介護者負担のための支援
訓練時間・頻 集団・個別・
度を増やす ユニットケア
2000
1
2001
2002
2
2003
2004
1
2
2005
2
2006
5
2007
1
計
3
11
介護者負担軽減のためのイン
フォーマル・公的サービスの活用
2000
2
2001
2002
2003
1
2004
2005
2006
2007
1
計
4
1
1
8
7
他疾患への
アプローチ
安心の場の提供なじみの環境・活動 の際の工夫
1
3
1
2
3
1
11
2
3
1
2
1
1
1
1
2
3
11
5 チームによる関わり
8
3
1
6
6 多様な介入が可能な場
としてのデイケアの活用
2000
2000
1
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
計
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
計
2
1
1
1
2
2
1
11
1
2
3
考察1
対象者理解の3つの視点
重症度モデル
主体モデル
承認モデル
生活上の認知症症状による理解
意志を持った主体としての理解
その人のありのままを承認し、周囲の補
いにより社会的適応に導こうという理解
認知症の人たちの症状を理解した上で-「重症度モデル」として様々な情報を参照した上で-
その人たちを自らの意思を持った人たちとして理解し-「主体モデル」としての理解-
その人の《ありのまま》を受け入れていこうとする-「承認モデル」としての実践-
認知症の人たちは(明確な意思を持った主体であるにもかかわらず)自らの意思を表明すること
が困難な状況にあるがゆえに、その人の言動を否定するのではなく、受け入れて支援をしていこ
うとするような理解モデルが提示されてきていることが確認された
考察2
各カテゴリーの関連図-生活支援の着眼点の諸相-
【目的・効果】
行動変容:問題行
動の減少、覚醒状
態の安定
家 族
【対象者理解の視点】
介入視点
重症度モデル
身体保全
主体モデル
問題となる行動
承認モデル
他疾患
認知症の人
介護負担軽減
在宅継続
自発性・覚醒度・
不穏・興奮
【方法論】
インフォーマルサービス
公的サービス
【方法論】
脳活動賦活・外部刺激
作業活動・なじみの活動
介入規模(人数・時間等)の柔軟性
チームアプローチ
場:デイケア・なじみの環境
セラピスト
考察3
1.
2.
3.
4.
結果3より考察されること
対象者理解の視点としては、「承認モデル」により理解が増加傾向にあ
ることがわかる。「重症度モデル」「主体モデル」による介入の限界性の
影響を考える。今後は「重症度モデル」「主体モデル」「承認モデル」を
包摂した理解モデルが展開されるのではないか。
ペットロボットなどの動物型玩具の導入は、2000年代初頭の一時的
な試みで終わった感がある。認知症の人に対する支援の目的の重点
は「安心」「肯定的感情」などの心理的支援に置かれており、今後も人
間的交流が介入のベースとなると考える。
チームアプローチに着眼した介入成果の報告は近年なされているが、
認知症の人の支援には、統一性、多領域性を含みもつことから、今後
こうした視点の重要性はますます増加していくのではないかと考える。
デイケアの場を活用した報告は各年とも必ずなされており、様々な着
眼点からの支援が展開されていることが明らかとなった。今後もデイケ
アは、多様な支援のあり方の発掘がなされる場としての可能性を有し
ていると考える。
まとめ
1.
2.
3.
4.
作業療法士による、認知症高齢者に対する生活支援の着眼
点について、次のことがわかった。
対象者理解の視点には、「重症度モデル」「主体モデル」「承
認モデル」という3つの位相が存在していた。
介入の視点としては、問題行動や自発性・不穏など(適応的
行動を導く)だけでなく、「身体保全」「他疾患へのアプロー
チ」についても着目していた。
介入の方法論としては、 人数・時間などの介入規模の
柔軟な利用、チームアプローチによる統一的・多領域的
な関わり、デイケアにおける多様な着眼点による介入が
なされていた。
家族の介護負担の軽減、在宅生活継続をいかに支援する
かにも着目していた。
本研究は第2回作業療法ジャーナル研究助成によって行われた
ダウンロード

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