おとめ座ものがたり
おとめ座は大地母神 デーメーテール} (Demeter)を現しているとする考えがあります。ここでは、おとめ座物語と
してデーメーテールのお話をお贈りしましょう。
デメテルは、その名がデー(大地の意味か)とメーテール(母)とから成ることから想像されるように、穀物の育成を
司る大地母神です。彼女にまつわる神話もまた、そのことをはっきり示しています。
デメテルはゼウスによりペルセポネをもうけますが、この娘を、こともあろうに冥界の王ハデスが花嫁にと望みゼ
ウスも兄のその願いを聞き入れてやることになるのです。そんなこととはつゆ知らぬペルセポネです。緑したたる
春の野辺で花を摘んでいると、突然大地がぽっかりと口を開け、黄金の馬車を駆ってハデスが踊り出たかと思う
と、泣き叫び嫌がる乙女を大地の底へつれさてってしまったのです。
娘の悲鳴を聞きつけたデメテルは、両手に松明
(たいまつ)をかざして気ちがいように探しまわ
ります。九日九夜、食も摂らず沐浴(ゆあみ)も
せずに地上のすみからすみまでさまよい歩きま
すが、何ひとつ手がかりは得られません。しか
しついに、唯一の目撃者、天空からすべてを見
ていたヘリオス(太陽)が真相を教えます。し
かし、事を仕組んだのはほかならぬ夫であった
ことを知って、デメテルの怒りはゼウスに向け
られます。彼女は神々の集うオリュンポスの峰
を去って、人間の世界に降りていってしまいま
す。そして、エレウシスという所で自分を祀る
社殿を作らせ、そこに身を隠して、娘を恋うる
あまりやせ細ってゆくばかりでした。
しかし、デメテルがやせ細るということは大地
がやせ衰えることにほかなりません。畑は一粒
の麦も生えさせず、種子はむなしく地に蒔かれ
るばかり。飢えのために人類が滅んで神に捧げ
る者もなくなりそうになりました。ゼウスはあ
わてて、天翔る使者イリス(虹)をはじめつぎつ
ぎと神々を遣わして、デメテルに神々の集いに戻るよう説得させますが、彼女は娘と再会するまでは決して天にも
昇らず、大地に稔りをもたらさないと答えます。ここにいたってゼウスは、神々の使者ヘルメスをハデスのところに
急行させ、ペルセポネを母親のもとに返すようたのませます。
ハデスはゼウスの命令におとなしくしたがうかのようでした。しかし彼は、母の胸にかえれる喜びで有頂天のペル
セポネに、こっそりとザクロの実を食べさせます。さあ、冥界のものを食べるのは由々しいことです。イザナギノミ
コトが死んだ妻イザナナミノミコトを黄泉の国からつれ戻そうとしたときに、妻が「くやしきかも、速(と)く来ずて。吾
(あ)は黄泉戸(よもつへ)喫(ぐい)しつ」と答えたように、いったんあの世の食べ物を口にしてしまうと、二度とこの世
にはもどれないと信じられていましたから。
こうしてペルセポネは冥界を離れられないことになりますが、しかしゼウスが彼女に対し、一年の三分の一を夫ハ
デスのもとで過ごし、三分のニは母や神々のそばで暮らすことをゆるしましたので、ようやくデメテルの怒りもとけ、
畑もふたたび麦の穂を出し始めたのです。
この神話の意味は明らかです。穀物神デメテルの娘のペルセポネは麦にほかならず、秋に蒔かれて地下に身を
隠し、春先に茅をふいて帰還するという自然の推移が、哀切な母親の物語として語られているのです。
(岩波ジュニア新書 40 ギリシャ神話、中村善也、中務哲郎、著 より)
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おとめ座物語