ドイツにおける着床前診断の法的規制
海外立法情報課 渡辺 富久子
【目次】
いたという点で画期的であった。その後、体外
はじめに
受精の件数は世界中で増えていくが、ドイツに
Ⅰ 胚保護法の概要
おいては、このような体外受精による子どもは
1 胚保護法の概要
1982 年に初めて誕生している⑴。
2 2011 年改正前の胚保護法における着床前診断に
体外受精は、子どもを持ちたいという夫婦の
係る規定
Ⅱ 着床前診断をめぐる論点
願望を叶える一方で、体外で受精させた受精卵
(以下「胚」という。
)を研究に用いることをも
1 胚の憲法上の地位
可能とした。しかし、このような胚の利用がど
2 妊娠中絶規定との関係
こまで許されるのか、さらに、体外受精におい
Ⅲ 着床前診断の法律による規制
て母体に移植されなかった胚の廃棄が許される
1 2010 年 7 月 6 日の連邦通常裁判所判決
のか等、倫理上の問題も数多く存在する。欧米
2 着床前診断を規制する規定(胚保護法第 3a条)
諸国では、これら諸々の事情を背景に 1980 年
3 着床前診断に関する命令
代半ば以降、生殖補助医療に関する法律が制定
おわりに
されており⑵、生殖補助医療を法律で規制して
翻訳:胚保護法
いる。
着床前診断に関する命令
ドイツにおいては、1990 年に胚保護法⑶が制
定され、1991 年 1 月 1 日から施行されている。
同法は、不妊治療の目的に限り生殖補助医療技
はじめに
術の適用を認め、ヒトになる生命としての胚を
その他の研究利用から保護することを目的とし
科学技術の発達により、不妊症の場合でも、
ている⑷。しかし、科学技術の進展があまりに
子どもを持ちたいという願望が叶えられるよう
も速いために、法律による規制では、新しい局
になった。特に、1978 年にイギリスで体外受
面に対する法改正が遅れるという側面があった。
精により誕生した初の試験管ベビーは、女性か
このような中で問題となってきたのが着床前
ら採取した卵子を体外で受精させ妊娠出産に導
診断である。着床前診断とは、体外受精を経て
⑴
体外受精は、主に、卵子及び精子の採取、受精、母体への移植の工程で行われる。ドイツでは、2009 年に、
卵子採取のためのホルモン投与が 54,239 件(うち 50,993 件が成功)
、体外受精(IVF)又は顕微授精(ICSI)
による受精が 49,604 回(うち 47,379 回が成功)、胚の母体への移植が 45,671 件、そのうち妊娠に至ったの
が 13,175 件となっている。実際に出生した件数はさらに少なくなり、移植した胚の 19% が出生に至った。
Deutscher Bundestag, Drucksache , 17/5210, S.8.
⑵
詳細は、林かおり「海外における生殖補助医療法の現状―死後生殖、代理懐胎、子どもの出自を知る権利
をめぐって―」
『外国の立法』No.243, 2010.3, pp.99-136 を参照。︿http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo
_1166428_po_024304.pdf?contentNo=1〉以下、インターネット情報は、2013 年 2 月 28 日現在である。
Gesetz zum Schutz von Embryonen(Embryonenschutzgesetz – EschG)vom 13. Dezember 1990(BGBl. I
⑶
S.2746)
. 胚保護法制定の経緯及び制定時の同法の翻訳については、
齋藤純子「胚保護法」
『外国の立法』30 巻 3 号,
1991.5, pp.99-107 を参照。
〈http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2641591﹀
⑷
同上, p.103.
国立国会図書館調査及び立法考査局
外国の立法 256(2013. 6)
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得られた胚を子宮に移植する前に、その遺伝子
概要を紹介する。末尾に、胚保護法及び着床前
を検査して、生まれてくる子どもの重篤な遺伝
診断に関する命令⑼の翻訳を付す。
性疾患の有無を調べる生殖補助医療技術であ
り⑸、そのような疾患を発症するリスクが高い
Ⅰ 胚保護法の概要
場合等に行われる。着床前診断は、1989 年に
イギリスで初めて行われ、その後多くの国で実
1991 年に施行された胚保護法は、人工的な
施されている⑹。ドイツの胚保護法は着床前診
受精⑽を不妊治療の場合に限定し、生殖補助医
断を直接的に規制していなかったが、胚保護法
療技術及び胚の濫用を回避することを目的とし
の規定の解釈により、着床前診断は法律で禁止
て制定された。胚保護法は、2011 年の改正に
されているものとみなされ、ドイツでは従来、
より着床前診断を規制する第 3a 条が新しく追
着床前診断が実施されてこなかった。
加されるまで、ほとんど改正がなかった。第Ⅰ
しかし、2010 年 7 月 6 日に連邦通常裁判所
章では、第 1 節で胚保護法の概要を紹介し、第
が着床前診断を条件付きで容認する判決⑺を下
2 節で 2011 年改正前の胚保護法における着床
したため、着床前診断を法律上明文で定める必
前診断に係る規定の概要を紹介する。
要があるとの認識が生じた。この結果、2011
年に胚保護法が改正され⑻、着床前診断の規制
1 胚保護法の概要
に関する規定が定められた。
胚保護法は、ドイツにおいて生殖補助医療を
本 稿 で は、 第 Ⅰ 章 で 胚 保 護 法 の 概 要 及 び
規制する主要な法律である。胚保護法の大きな
2011 年改正前の胚保護法における着床前診断
特色として、刑法の性格を有することが挙げら
に係る規定を紹介する。第Ⅱ章では、着床前診
れる。つまり、同法は、特定の生殖補助医療技
断をめぐる主要な論点として、胚の憲法上の地
術の濫用、特に胚の研究利用に対して刑罰を規
位及び刑法典の妊娠中絶規定との関係を紹介し、
定しており、医師の行為に対して刑罰が科され
第Ⅲ章では、2010 年 7 月 6 日の連邦通常裁判
る。胚保護法がこのように刑法的な法律となっ
所判決の概要、2011 年の胚保護法の改正によ
た背景としては、胚保護法制定当時、連邦が生
り定められた着床前診断に係る規定及び 2013
殖補助医療についての立法権限を有しておらず、
年 2 月に制定された着床前診断に関する命令の
連邦が立法権限を有していた刑法の分野からの
⑸ 『日経バイオ最新用語辞典 第 5 版』日経 BP 社, 2002, p.525 を参照。
⑹
欧州ヒト生殖学会(European Society for Human Reproduction and Embryology: ESHRE)の報告書によれ
ば、1999 年以降の 10 年間に、57 の登録機関において 27,630 周期の着床前診断が実施された。また、これを経
て 4,047 人の子が誕生した。ただし、着床前診断を行う機関は実際には登録機関以外に数多くあり、特にアメリ
カの大規模な生殖補助医療機関は ESHRE に登録していない。Deutscher Bundestag, op.cit . ⑴, S.9.
⑺ 5 StR 386/09. なお、連邦通常裁判所は日本の最高裁判所に相当し、民事及び刑事の事件を担当する。
⑻ Gesetz zur Regelung der Präimplantationsdiagnostik vom 21. November 2011(BGBl. I S.2228). 2011 年 12
月 8 日に施行された。
⑼
Verordnung zur Regelung der Präimplantationsdiagnostik(Präimplantationsdiagnostikverordnung –
PIDV)vom 21. Februar 2013(BGBl. I S.323).
⑽
胚保護法にいう人工的な受精(künstliche Befruchtung)は、
主に、
精液を直接子宮内に送り込む人工授精(AIH,
AID)
、配偶子卵管内移植法(GIFT)及び体外受精である。このように、
「人工的な受精」という語は、人工授
精及び体外受精等を包含する上位概念として用いられている。齋藤 前掲注⑶, p.107 を参照。
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ドイツにおける着床前診断の法的規制
規制を試みた⑾という事情がある。
療は行うことができると解される。例えば、第
胚保護法による禁止事項として、例えば、第
三者による精子及び胚⒀の提供は禁じられてい
三者による卵子の提供(胚保護法第 1 条第 1 項
ないため、ドイツにおいても行われている。
第 1 号)がある。この禁止は、別の女性から卵
ドイツにおいては、1991 年に施行されたこ
子の提供を受けると、子にとって遺伝上の母と
の胚保護法以降、生殖補助医療に関わる規定が
懐胎・出産する母が分かれることになり、この
諸法に定められてきた。胚保護法と深く関わり、
ような状況は当該 2 人の母のためにも子の福祉
生殖補助医療に関する規定を有する法律として、
のためにもよくないとの判断による。同様の理
⒁
ヒト組織法(Gewebegesetz)
、民法典⒂及び社
由で代理母も禁じられている(胚保護法第 1 条
会法典第 5 編―公的医療保険―⒃ などがある⒄。
第 1 項第 7 号)⑿。
ドイツ連邦共和国基本法(以下「基本法」とい
反対に、胚保護法が禁じていない生殖補助医
う。
)においては、生殖補助医療について直接
⑾
同上, p. 104. その後、1994 年に基本法第 74 条(連邦の競合的立法権限)が改正され、生殖補助医療や遺伝子
技術について、連邦が競合的立法権限を有する事項とされた。Gesetz zur Änderung des Grundgesetzes(Artikel
3, 20a, 28, 29, 72, 74, 75, 76, 77, 78, 80, 87, 93, 118a und 125a)vom 27. Oktober 1994(BGBl. I S.3146). 連邦が競
合的立法権限を有する事項については、州は、連邦が当該事項について立法権限を行使していない場合に限り、
立法することができる。
⑿
その他、胚保護法が明文で禁じる生殖補助医療は、以下のものである。妊娠以外の目的、特に研究目的の胚
の作成及び利用(第 1 条第 1 項第 2 号及び第 6 号)
、4 以上の胚の移植による多胎妊娠(第 1 条第 1 項第 3 号
及び第 4 号)
、意図的な余剰胚の作成(第 1 条第 1 項第 5 号)
、子の性別の選択(第 3 条)、死亡した男子の精
液(第 4 条第 1 項第 3 号)又は死亡した女性の卵子(第 1 条第 1 項第 2 号)を使用した人工的な受精、クロー
ンの作成(第 6 条)
、キメラ及びハイブリッドの作成(第 7 条)。Christoph Revermann und Bärbel Hüsing,
Fortpflanzungsmedizin – Rahmenbedingungen, wissenschaftlich-technische Entwicklungen und Folgen,
Berlin: Büro für Technikfolgen-Abschätzung beim Deutschen Bundestag(TAB)
, 2010, S.198.〈http://www.
tab-beim-bundestag.de/de/pdf/publikationen/berichte/TAB-Arbeitsbericht-ab139.pdf〉TAB は、技術や社会の
変化についての連邦議会の諮問機関である。
⒀ ただし、卵子の由来する女性の妊娠以外の目的で当該卵子を人工的に受精させることは禁止されているため
(第 1 条第 1 項第 2 号)
、最初から他の女性への胚の移植を予定した人工的な受精は禁じられている。第三者によ
る胚の提供には、胚を卵子の由来する女性に移植することが不可能となった場合又は当該女性が移植を拒否す
る場合に生じた「孤児胚(Verwaister Embryo)」が用いられる。Rolf Keller et al., Embryonenschutzgesetz:
Kommentar zum Embryonenschutzgesetz , Stuttgart: W. Kohlhammer, 1992, S.150.
⒁ Gesetz über Qualität und Sicherheit von menschlichen Geweben und Zellen(Gewebegesetz)vom 20. Juli
2007(BGBl. I S.1574). EU のヒト組織・細胞指令(2004/23/EC)を国内実施するために 2007 年に制定された
法律で、主に臓器移植法及び医薬品法を改正する法律であった。臓器移植法の改正では、胚及び胎児の臓器及
び組織が新たに同法の適用対象となり、生殖補助医療を行う機関は、移植した卵子、精子、胚等について記録
し、患者が記録を追跡することが可能な措置を講ずることが義務付けられた(臓器移植法第 13a 条 ~ 第 13c 条)。
医薬品法の改正では、組織を採取し、及び取り扱う機関として、生殖補助医療を行う機関は、州の所管官庁の
許可を必要とすることが定められた(医薬品法第 20b 条及び第 20c 条)。臓器移植法及びそのヒト組織法による
改正の詳細並びに臓器移植法の邦訳については、齋藤純子「ドイツの臓器・組織移植法」
『外国の立法』No.235,
2008.3, pp.96-134 を参照。
〈http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000282_po_023503.pdf?contentNo=1〉
⒂ 民法典は、生殖補助医療と関連して、親子関係を定めている。例えば、母は、子を出産した女性である(民
法典第 1591 条)とされている。
⒃ 社会法典第 5 編―公的医療保険―は、不妊を理由とする人工的な受精のための措置に係る公的医療保険の費
用負担を定めている(第 27a 条)
。この規定によれば、医師が当該措置を必要と認める場合において、治療を受
ける男女が婚姻しており、本人の配偶子(精子及び卵子)が用いられるときに、3 回まで、費用の 50% を公的
医療保険が負担する。女性は 25 歳以上 40 歳未満、男性は 25 歳以上 50 歳未満であることが条件とされている。
⒄ Revermann und Hüsing, op.cit . ⑿, S.197.
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定められていないが、特に、自己決定権(基本
能力のある人の卵子で細胞核融合の時点以降の
法第 2 条第 1 項)並びに婚姻及び家族の保護
(基
もの及び胚から採取した全能性細胞と定義され
本法第 6 条第 1 項)の規定により保障される権
ている(胚保護法第 8 条。以下、この節におい
利は、生殖補助医療を受ける権利を含むと解さ
て単に条番号を掲げた場合は、胚保護法を指
⒅
れている 。
す。
)
。この規定によれば、精子と卵子が受精し
ま た、 連 邦 医 師 会(Bundesärztekammer)
て細胞核融合が行われた時点からが胚である。
⒆
の「生殖補助医療に関する指針」
が胚保護法の
その後、胚は細胞分裂を行うが、2 細胞期及び
実施の詳細を定めている。生殖補助医療に関す
4 細胞期の胚の細胞は全能性細胞 である。8
る指針を始めとする連邦医師会の指針は雛型と
細胞期になると、全能性細胞もあるが、幾つか
しての指針であり、各州の医師会がそれぞれそ
の細胞は全能性を有しない多能性細胞となる。
の指針に連邦医師会の指針を取り入れている⒇。
着床前診断には、卵子から初期胚へ至る発達
各州の医師会の指針は、その職業集団内の医師
段階に応じて、主に極体生検(受精前)
、割球
に向けられたものである。
生検(受精後約 3 日目)
、胚盤胞(Blastozist)
生検(受精後約 5 日目)がある。
2 2011 年改正前の胚保護法における着床前
極体生検は、受精前の卵母細胞の減数分裂の
診断に係る規定
段階において放出される極体を検査することに
2011 年改正前の胚保護法は、着床前診断の
より、女性に由来する染色体異常を調べるもの
実施の可否を明文で定めていなかった。しかし、
である。この段階は、第 8 条に定義する胚の発
胚保護法中の様々な規定により、着床前診断は
生前であり、極体生検はドイツにおいても行う
禁じられているものと解されてきた。この節で
ことができる。
は、これに関連する規定の概要を紹介する。
割球生検は、受精後およそ 3 日目の 8 細胞期
⑴ 胚の定義
までの胚の細胞の遺伝子を検査することにより、
胚保護法の保護対象となる胚は、受精し発育
生まれてくる子どもの重篤な遺伝性疾患の有無
Susanne Knoop, Recht auf Fortpflanzung und medizinischer Fortschritt , Universität Konstanz, 2004,
⒅
S.177, 217.〈http://kops.ub.uni-konstanz.de/bitstream/handle/urn:nbn:de:bsz:352-opus-14893/dr_knoop_2005_
internet3.pdf?sequence=1〉
⒆ (Muster-)Richtlinie zur Durchführung der assistierten Reproduktion –Novelle 2006–(Deutsches
Ärzteblatt, 103
(20)
, S. A-1392)
. 最 初 に 策 定 さ れ た 生 殖 補 助 医 療 に 関 す る 連 邦 医 師 会 の 指 針 は、1985 年
の Richtlinien zur Durchführung von In-vitro-Fertilisation(IVF)und Embryotransfer(ET)als
Behandlungsmethode der menschlichen Sterilität (Deutsches Ärzteblatt, 82(22), S. A-1691)であった。そ
の後、この指針は、1991 年、1998 年及び 2006 年に改正され、現在の指針となっている。州の医師会は公法上
の団体であり、医師として職業活動を行う者は、職業活動を行う州の医師会の会員となる義務を有する。全部
で 17 ある州の医師会が連邦医師会を構成する。特に、連邦医師会の指針の詳細については、佐藤亨「ドイツに
おける着床前診断を巡る状況―胚保護法制定以降の動向について―」
『上智法学論集』49(1)
, 2005.8, pp.105-107;
岡島道夫編訳『ドイツの公的医療保険と医師職業規則』信山社, 1996, pp.97-98 を参照。
⒇
Knoop, op.cit . ⒅, S.315ff.
胚(Embryo)
は、
受精卵から妊娠 8 週までの器官形成期までのものをいう。Revermann und Hüsing, op.cit . ⑿,
S.265.
全能性細胞とは、受精卵から分化する細胞で、あらゆる組織の細胞に分化できる能力と同時に、分化を自ら
制御して正常個体に発生するプログラムの両者を備えたものをいう。前掲注⑸, p.748.
多能性細胞とは、受精卵の分割が進み、分化可能な組織の幅が狭くなった状態の細胞をいう。同上。
Deutscher Bundestag, op.cit , ⑴, S.5.
44 外国の立法 256(2013. 6)
ドイツにおける着床前診断の法的規制
を調べるものである。割球生検は世界的にも頻
あるが、実際に幾つまでの卵子を受精させるこ
繁に行われているが、ドイツではこの時期の胚
とができるかについては様々な解釈がある。最
から全能性細胞を採取して遺伝子診断に用いて
近の判例や学説では、妊娠を成功させる目的で、
はならないとされている。よって、割球生検は、
高い受精率を得るために医療上必要な数の卵子
胚保護法の規定によって禁じられていると解釈
に限り受精させることができるとする解釈が多
されている。
くなっている。卵子を採取した周期に女性に
胚盤胞生検においては、受精後およそ 5 日目
移植することのできない胚は、冷凍保存するこ
の胚盤胞の細胞を検査する。この時期の細胞は
とができる。
多能性細胞であり、多能性細胞の遺伝子の診断
については、合法と違法と見解が分かれていた。
Ⅱ 着床前診断をめぐる論点
胚保護法には、妊娠以外の目的の卵子の人工的
な受精の禁止(第 1 条第 1 項第 2 号)及び胚の
上述のように、ドイツにおいては、胚保護法
維持以外の目的の胚の利用の禁止(第 2 条第 1
の規定の解釈により、極体生検を除く着床前診
項)という規定があり、ドイツにおいては、胚
断が禁じられてきたが、着床前診断の実施が許
盤胞生検は、これらの規定により禁じられてい
可されている国では、着床前診断の実績が増え
ると解釈され、実施されてこなかった。
てきた。これに伴い、重篤な遺伝性疾患の子が
生まれるリスクが高い夫婦に配慮して、ドイツ
⑵ 女性に移植する胚及び受精させる卵子の数
の制限
でも着床前診断を条件付きで容認すべきとの声
も大きくなり、着床前診断の法的規制の是非を
胚保護法は、胚を研究目的に利用することを
めぐる議論が 1990 年代半ば以降行われてきた。
防ぎ、余剰胚の発生を回避するために、1 治療
胚保護法で禁じられた着床前診断を一定の要件
周期(以下「周期」という。)に女性に移植す
下で認めるべきか否かについては、様々な立場
ることができる胚の数を 3 までに制限している
の意見があった。
(第 1 条第 1 項第 3 号)。さらに、1 周期に女性
着床前診断をめぐる議論において最も問題と
に移植する予定の数を超える数の卵子を受精さ
されるのが、憲法が定める人間の尊厳や基本権
せることが禁じられている(第 1 条第 1 項第 5
は、生命のどの時点から保障されるのかという
号)。後者の規定については、3 の胚を女性に
問題、つまり胚の憲法上の地位をめぐる問題で
移植するためには 3 を超える卵子を受精させる
ある。他の問題として、刑法典第 218a 条が妊
ことができるという点では大方の意見の一致が
娠中絶を特例として認める場合を定めており、
Urs Peter Böcher, Präimplantationsdiagnostik und Embryonenschutz; zu den Problemen der strafrechtlichen
Regelung eines neuen medizinischen Verfahrens , Göttingen: Vandenhoeck & Ruprecht, 2004, S.116.
Revermann und Hüsing, op.cit . ⑿, S.203. 特に後述の 2010 年 7 月 6 日の連邦通常裁判所の判決を受け、この見
解が支配的となってきた。しかし、胚保護法第 1 条第 1 項第 5 号の規定によれば、1 周期に受精させることのでき
る卵子の数は 4 までとする見解も多い。海外における着床前診断の経験からすると、着床前診断を行った後に女性
に 3 の胚を移植するためには、8-10 の卵子を受精させる必要があるため、この規定を改正する必要があるとの見
解もある。Marion Weschka, Präimplantationsdiagnostik, Stammzellforschung und therapeutisches Klonen:
Status und Schutz des menschlichen Embryos vor den Herausforderungen der modernen Biomedizin; Eine
Untersuchung aus einfachgesetzlicher, verfassungsrechtlicher und internationaler Perspektive , Berlin:
Duncker & Humblot, 2010, S.48f.
Böcher, op.cit . , S.21f.
外国の立法 256(2013. 6)
45
この規定との整合性が取り上げられてきた。
権利に関して、ヒトの生命は着床後に始まり、そ
着床前診断をめぐる議論の論点は他にもある
の後の生命の発展過程を時期により区分するこ
が、このⅡ章では、代表的な論点として、胚の
とはできないとしている。また、出生の前後にお
憲法上の地位及び刑法典の妊娠中絶規定との関
いてそのような区分をすることもできないことか
係をめぐる議論の概要を紹介する。
ら、 胎 児 も生命の権利を有するとしている。
1993 年の判決では、医療人類学(medizinische
1 胚の憲法上の地位
Anthropologie)の知見として、ヒトの生命は
基本法では、人間の尊厳(基本法第 1 条第 1
精子と卵子の融合の時点から存在することを引
項。以下、この節において単に条番号を掲げた
合いに出している。しかし、両判決とも妊娠中
場合は、基本法を指す。)
、生命の権利(第 2 条
絶に関するものであるため、着床前の胚や母体
第 2 項第 1 文)
、身体を侵害されない権利(第
外の胚には直接言及していない。
2 条第 2 項第 1 文)
、障害を理由とする差別の
これらの連邦憲法裁判所の影響を受けた学説
禁止(第 3 条第 3 項第 2 文)等の基本権が定め
は、その立場により、胚は無条件に基本権を保
られている。このうち、人間の尊厳は、他の権
護されるというものから、発達段階に応じて保
利との比較衡量が許されない絶対的なものであ
護されるというもの等様々あり、それぞれの論
る 。
拠が主張されているが、この議論に決着は付い
着床前診断をめぐる議論においては、胚にこ
ていない。しかし、胚や胎児も独自に基本権
れらの権利が保障されるか否かが問題とされて
を有するとの見解が支配的となっている。
きた。そのため、ヒトの生命は法的にどの時点
胚の基本権を保障しようとして着床前診断を
から始まるのかについて様々な見解が提示され
禁止すると、夫婦の基本権を制限することにな
てきた。ヒトの生命の法的な始まりについては、
る。ここで特に関連する夫婦の基本権は、自己
主に、着床の時点からという見解と、受精の時
決定権(第 2 条第 1 項)並びに婚姻及び家族の
点からという見解がある。
保護(第 6 条第 1 項)である。
連邦憲法裁判所は、1975 年と 1993 年の妊娠
基本権は、本来、国家権力を拘束するもので
中絶に関する判決で、生命の法的な始まりにつ
あるが、第三者により侵害される場合の国家の
いて触れている。1975 年の判決では、生命の
保護義務を含むものである。よって、立法者は、
基本法第 2 条第 2 項第 1 文が保障する生命の権利は、他の法益との比較衡量が可能である。例えば、胚の生
命の権利と妊婦の生命の権利の比較である。人間の尊厳は、
ヒトの存在自体が要求する社会的価値や尊重であり、
ヒトを物とみなしたり、そのように扱ってはならないということである。ibid ., S.148.
BverfGE 39, 1. この判決の判旨及び解説は、嶋崎健太郎「7 胎児の生命と妊婦の自己決定―第 1 次堕胎判決―」
ドイツ憲法判例研究会編『ドイツの憲法判例』信山社 , 1996, pp.49-54 を参照。
胚が受精卵から妊娠 8 週までの器官形成期までのものであるのに対し、胎児(Fetus)は、それ以降の時期の
母体内の子どもである。Revermann und Hüsing, op.cit. ⑿, S.265f.
BverfGE 88, 203. この判決の判旨及び解説は、小山剛「7 第 2 次堕胎判決」ドイツ憲法判例研究会編『ドイツ
の憲法判例Ⅱ(第 2 版)
』信山社, 2006, pp.61-66 を参照。
Weschka, op.cit . , S.159ff.
受精後の胚にどの程度基本権が保障されるかについては、様々な立場から論拠が言いつくされ、現在議論は落ち
着いている。Tanja Henking, Wertungswidersprüche zwischen Embryonenschutzgesetz und den Regelungen des
Schwangerschaftsabbruchs?: Am Beispiel des Verbots der Präimplantationsdiagnostik , Baden-Baden: Nomos,
2010, S.24ff.
Böcher, op.cit . , S.142.
46 外国の立法 256(2013. 6)
ドイツにおける着床前診断の法的規制
胚の基本権と夫婦の基本権を衡量して、胚を十
218a 条第 1 項)
。さらに、妊婦の現在及び将来
分に保護する規定を定めなければならないとさ
の生活を考慮して、妊婦の生命又は身体若しく
れている。
は精神の健康状態にとっての重大な障害となる
危険を避けるために医師が適切であると認める
2 妊娠中絶規定との関係
場合に、医師が妊婦の同意を得て行う妊娠中絶
刑法典は妊娠中絶を原則禁止とし、特例的な
は、違法ではない(医学的事由)
(第 218a 条
場合に妊娠中絶を認めている。着床前診断をめ
第 2 項)
。また、妊娠が性犯罪による場合にお
ぐる議論においては、特に着床前診断の推進派
いて、妊婦の同意を得て、医師が妊娠 12 週以
により、この規定と胚保護法による着床前診断
内に行う妊娠中絶も違法ではない(犯罪学的事
の禁止が矛盾しているとの指摘が頻繁になされ
由)
(第 218a 条第 3 項)。妊婦が妊娠問題の解
てきた。最初に、刑法典の妊娠中絶に関する規
決について相談所の助言を受け、医師による妊
定の概要を紹介する。
娠中絶が妊娠 22 週以内に行われるときは、妊
刑法典は、原則として妊娠中絶を禁止し、中
。
婦は処罰されない(第 218a 条第 4 項)
絶を行った医師を 3 年以下の自由刑又は罰金に
簡潔にいえば、妊娠中絶は原則禁止とされて
処するとしている(刑法典第 218 条。以下、こ
いるが、妊娠 12 週以内に相談所の助言を受け
の節において単に条番号を掲げる場合は、刑法
た場合、医学的事由がある場合(期限なし)又
典を指す。)。しかし、妊娠中絶が処罰されな
は犯罪学的事由がある場合(妊娠 12 週以内)
い場合が特例として定められている(第 218a
には、特例として中絶が認められる。医学的事
条)。この規定によれば、妊婦が妊娠問題の解
由には、胎児の遺伝性疾患も含まれると解され
決について中絶の 3 日前までに相談所 の助言
ている。
を受け、妊婦の要求に基づいて医師が妊娠 12
実質的には、妊娠 13 週以降の妊娠中絶は難
週以内に行う妊娠中絶は第 218 条の構成要件に
しいが、それ以前であれば法的に大きな困難な
該当しないものとされ、医師は処罰されない(第
く中絶をすることができる。このため、着床
ibid ., S.141
刑法典の妊娠中絶規定の対象は、着床後の胚及び胎児とされている。
ここでいう相談所とは、妊娠の葛藤状態の回避及び克服のための法律第 3 条の規定により州により設置され
る相談所である。相談には、必要に応じて、医学や心理学、社会教育学、法律学等の専門家が参加する。妊娠
の葛藤状態の回避及び克服のための法律の邦訳は、齋藤純子「ドイツにおける妊娠中絶法の統一」
『外国の立法』
No.201, 1997.5, pp.281-306 を参照。
妊娠 13 週以降 22 週以内の相談後の妊娠中絶の場合には、
妊婦は処罰されないが、
医師は処罰される。そのため、
この規定がどのような意味を持つのかについては議論があるが、少なくとも外国の医師により妊娠中絶を受け
ることを可能としているとされている。Günther M. Sander, Münchener Kommentar zum Strafgesetzbuch , 2.
Auflage, München: C.H. Beck, 2012, S.808f.
ドイツの妊娠中絶に関する刑法等の法令の概要は、齋藤 前掲注を参照。
同上, pp.290-291. 1995 年に刑法典が改正されるまで、第 218a 条では胎児の遺伝性疾患を妊娠中絶の例外事由と
して明文で定めていた。1995 年にこの「胎児の遺伝性疾患の事由」の文言が削除されたため、胎児の遺伝性疾患
を理由とする妊娠中絶は許されなくなったとする見解もある。Manfred Spieker et al., Die Würde des Embryos:
ethische und rechtliche Probleme der Präimplantationsdiagnostik und der embryonalen Stammzellforschung ,
Paderborn: Ferdinand Schöningh, 2012, S.46f.
連邦統計局によれば、2011 年に 108,867 件(前年比 1.4% 減)の中絶が報告された。そのうち 96.8% が相談所
の助言を受けた中絶であり、3.2% が医学的事由又は犯罪学的事由があるための中絶であった。連邦統計局のウェ
ブサイトを参照。
外国の立法 256(2013. 6)
47
前診断の推進派は、妊娠中絶に関する規定を引
険の給付対象となって以来、件数が増えた。
合いに出し、母体内の胎児の中絶が認められる
2009 年には遺伝子診断法が制定され、出生前
のに、母体外の胚がそれよりも保護されること
診断の実施の要件が定められた(遺伝子診断法
は法的な整合性がないと主張してきた。また、
第 15 条)
。着床前診断の推進派は、出生前診断
推進派は、着床前診断が禁じられているために
も着床前診断と同様に生命の選別のために行わ
遺伝性疾患を有する胚を子宮に移植し、妊娠し
れるものであり、出生前診断が合法である点か
た段階で出生前診断を受け、その結果中絶をす
らしても、着床前診断を合法とするべきである
ることになると、母体に大きな負担をかけるこ
と主張してきた。一方、反対派は、出生前診断
とになり、これは母親の身体を害されない権利
はもともと遺伝リスクが大きい場合に限定して
に反すると主張する。
行われるはずだったのに、日常的に行われるよ
他の矛盾点として、避妊薬、特に性交後の受
うになってしまった経験に鑑み、着床前診断も
精卵の着床を防止するためのアフターピル(緊
一度許容すると歯止めなく適用されることにな
急避妊薬)の服用も挙げられてきた。刑法典で
るのではないか、との懸念を表明している。
は、着床後の胚及び胎児が保護され、着床前の
母体内の胚は保護の対象ではない。よって、避
Ⅲ 着床前診断の法律による規制
妊薬の使用は違法ではない。一方、胚保護法で
は、体外受精の場合の母体外に存在する胚が保
連邦議会においても、着床前診断を法律で規
護される。よって、同じ着床前の胚でも母体内
制するべきか否かについては、重要な課題とし
にあるか否かによって、法的な保護を受けられ
て 1990 年代後半から検討が行われてきた。連
るか否かが違ってくることになり、この点でも
邦議会には、
第 14 議会期(1998~2002 年)に「現
矛盾が生じる。
代医療の法と倫理」
、
第 15 議会期
(2002~2005 年)
また、ドイツにおいては、妊娠中の胎児の異
に「 現 代 医 療 の 倫 理 と 法 」 と い う 調 査 会
常を調べる出生前診断が 1970 年代から行われ
(Enquete-Kommission)が設置され、医療倫
ているが、1976 年に出生前診断が公的医療保
理と法について広範な議論が行われた。特に第
〈https://www.destatis.de/DE/ZahlenFakten/GesellschaftStaat/Gesundheit/Schwan gerschaftsabbrueche/
Aktuell.html;jsessionid=F9DDB85FEEC87E20BD6F296B14AF30B7.cae1〉しかし、実際には、統計の数字よ
り多い中絶が行われているとされている。Henking, op.cit. , S.125.
妊娠しなかったことが、避妊薬によるものか、自然妊娠が成立しなかったためか証明することはできない。
それゆえ、現実的に避妊薬の使用という理由で刑を科すことはできない。しかし、体外受精の際の母体外の胚
は現に存在するものである。このため、着床前の母体内の胚と体外受精の際の母体外の胚では、置かれている
条件が異なるため、単純に 2 つの規定が矛盾するといえないとする説もある。ibid ., S.180ff.
連邦共同委員会(連邦保険医協会、連邦病院協会及び連邦疾病金庫中央連合会により構成される。
)の母性指
針(Mutterschafts-Richtlinien)において定められた。出生前診断に関しては、その他、連邦医師会の指針があ
る。Richtlinien zur pränatalen Diagnostik von Krankheiten und Krankheitsdispositionen(Dt Ärztebl 1998;
95: A-3236)
. しかし、この指針は、2009 年に制定された遺伝子診断法に合わせて改正されていない。
Deutscher Bundestag, Drucksache, 14/9020, S.70f.
Gesetz über genetische Untersuchungen bei Menschen(Gendiagnostikgesetz – GenDG)vom 31. Juli 2009
(BGBl. I S.2529, 3672). 山口和人「遺伝子診断法の制定」
『外国の立法』No.240-1、2009.7, pp.12-13 を参照。
〈http://
dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000066_po_02400107.pdf?contentNo=1〉遺伝子診断法は、母体外の胚や
着床前診断には適用されない(遺伝子診断法第 2 条)
。
Spieker, op.cit . , S.45f.
48 外国の立法 256(2013. 6)
ドイツにおける着床前診断の法的規制
14 議会期の調査会は、その最終報告書におい
妊治療クリニックの医師が、染色体の異常があ
て、着床前診断に関する包括的な検討を行い、
る 3 組の夫婦に対して着床前診断を行った。こ
着床前診断は胚や夫婦等の関係者の基本権に関
れは、胚盤胞期胚の多能性細胞を用いた診断で
わるため、法律で定める必要があるとした。最
あった。医師は陰性の胚のみを移植して、陽性
終報告書では、禁止(16 票)と条件付き容認(3
の胚は培養せずに放置して死滅させた。医師は、
票)の両論が併記された 。
これが違法行為であったかどうかを確認するた
2001 年及び 2003 年には、着床前診断を規制
めに自首をした。
するための法律案が野党の自由民主党(FDP)
連邦通常裁判所は、
判決において、
医師の行っ
から提出されたが、社会的に議論が二分してい
た着床前診断は、胚保護法第 1 条第 1 項第 2 号
たこともあり、法律の制定には至らなかった。
(妊娠以外の目的の卵子の人工的な受精の禁止)
しかし、2010 年 7 月 6 日、連邦通常裁判所
及び第 2 条第 1 項(胚の維持以外の目的の胚の
が着床前診断を条件付きで容認する判決を下し、
利用の禁止)の規定に違反しないと判示した。
これが転機となって 2011 年に着床前診断を規
判決では、胚保護法第 1 条第 1 項第 2 号に関
制する規定が胚保護法に加えられた。そこで、
して、着床前診断は、妊娠の成立を目的とした
この章では、第 1 節で連邦通常裁判所の判決の
体外受精という全工程中の一工程であるとされ、
概要を紹介し、第 2 節では、この判決を受けて
この場合、最終的な妊娠という目標が重要であ
胚保護法に追加された着床前診断を規制する規
り、着床前診断の結果としてあり得る胚の選別
定、第 3 節では着床前診断に関する命令の概要
及び死滅はその副産物にすぎないとされた。さ
を紹介する 。
らに、判決は、胚保護法第 3 条は人工的な受精
における性の選択を禁止しているが、子が重篤
1 2010 年 7 月 6 日の連邦通常裁判所判決
な伴性遺伝病を発症するのを防ぐための精子の
2005 年から 2006 年にかけて、ベルリンの不
選別を例外的に許容している点から、胚保護法
調査会は、多分野にわたる重要な問題に関し、連邦議会の決定の準備を行うために連邦議会に設置される。
調査会においては、議員の他に、連邦議会に属さない専門家も、議員と同等の権利を持つ委員となる。調査会は、
技術的、経済的、社会的な発展とその影響に関する情報を収集及び分析し、連邦議会に対して、政治的な決定
のための提言を行う。第 14 議会期と第 15 議会期に設置されたこれら医療倫理に関する調査会においては、13
人の議員と 13 人の専門家が委員となっていた。
“(Deutscher Bundestag,
Schlussbericht der Enquete-Kommission „Recht und Ethik der modernen Medizin
Drucksache , 14/9020)
. この報告書の邦訳は、松田純監訳『ドイツ連邦議会審議会答申 - 人間の尊厳と遺伝子情報 現代医療の法と倫理(上)
』知泉書館, 2004 及び松田純監訳『ドイツ連邦議会審議会答申 - 受精卵診断と生命政策の
合意形成 - 現代医療の法と倫理(下)
』知泉書館, 2006 を参照。
採決には、26 名の委員のうち 19 名の委員が参加した。
Entwurf eines Gesetzes zur Regelung der Präimplantationsdiagnostik(Deutscher Bundestag, Drucksache ,
14/7415, 15/1234)
.
2010 年 7 月 6 日の連邦通常裁判所判決から着床前診断を規制するための胚保護法の改正に至る経緯及び新法
の内容については、
戸田典子「着床前診断法 ; 胚保護法改正へ」
『ジュリスト』No.1428, 2011.9.1, p.47; 渡邉斉志「着
床前診断の条件付き合法化」
『論究ジュリスト』No.5, 2013.5, pp.150-151, 三重野雄太郎「着床前診断と刑事規制
―ドイツにおける近時の動向を中心として―」
『早稲田大学大学院法研論集』143 号, 2012, pp.359-384; 三重野雄
太郎「着床前診断関連法 ドイツ」
『年報医事法学』27, 2012, pp.200-205 に詳しい。また、ドイツの出生前診断
及び着床前診断の法的規制に関して、安井一徳「諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制に
ついて」『調査と情報―ISSUE BRIEF―』No.779, 2013.4, pp.6-7 を参照。
〈http://dl.ndl.go.jp/view/download/
digidepo_8173847_po_0779.pdf?contentNo=1〉
外国の立法 256(2013. 6)
49
制定時に着床前診断が普及していたならば立法
判決は、胚保護法の規定は着床前診断を全面
者は胚盤胞期胚の多能性細胞を用いた着床前診
的に禁止しているわけではないが、着床前診断
断 を 禁 じ て い な か っ た は ず で あ り、 ま た、
は限定的に行われるべきであり、どのような条
2009 年に制定された遺伝子診断法の第 15 条は、
件で着床前診断を行うことができるかについて
出生前遺伝子診断を合法化し、着床前診断はこ
は、立法者が法律で定める必要があるとした。
の規定の適用から除外されるが、もし、立法者
が着床前診断を禁止したいのであれば、同時に
その旨の規定を遺伝子診断法又は胚保護法に置
2 着床前診断を規制する規定(胚保護法第
3a 条)
いていたはずであるとし、過去の立法者の意図
上記の連邦通常裁判所の判決を受けて、着床
から着床前診断の禁止を汲み取ることはできな
前診断を行うことができる条件について、法律
い、とした。
で明確に定める必要があるとの社会認識が強く
第 2 条第 1 項に関しては、判決では、当該禁
なった。連邦議会で胚保護法の改正が審議され
止規定は、主に、胚の研究目的の利用の禁止を
る見通しとなり、2011 年 3 月には、連邦議会
念頭においたものであり、また、全能性細胞を
及び連邦政府の諮問機関であるドイツ倫理審議
診断に用いることにより移植する胚に損傷を与
が、着床前診断に
会(Deutscher Ethikrat)
える可能性を排除するためのものであるとされ
関する意見を連邦議会に提出した。この意見
た。判決は、医師の行った胚盤胞生検はこれら
も、
条件付き容認(13 票)と法律による禁止(11
に該当しないとしている。
票)の両論併記であった。
判決においては、全能性細胞を用いた着床前
2011 年 4 月には、①着床前診断を禁止する
診断は、胚保護法において明確に禁じられてい
法律案が超党派の議員 192 名により、②着床
るとされた。また、判決は、着床前診断が重篤
前診断を規制する法律案 が超党派の議員 215
な遺伝性疾患を確かめる目的に限られ、望みど
名により、③着床前診断を限定して容認する法
おりの子を選別するためのものではないことを
律案 が超党派の議員 35 名により連邦議会に
強調している。
提出された。②と③の法律案は、着床前診断を
精子をヒトの初期段階と見ることはできないため、精子の選別と胚の選別を同列に扱うことはできないとい
う見解もある。Spieker, op.cit . , S.12f.
ドイツ倫理審議会は、2001 年にゲアハルト・シュレーダー(Gerhard Schröder)連邦首相(社会民主党)に
より連邦首相府に設置された国家倫理審議会(Nationaler Ethikrat)を引き継いで、2008 年に設置された。ド
イツ倫理審議会の根拠法は、2007 年に制定されたドイツ倫理審議会法である。ドイツ倫理審議会の詳細は、齋
藤純子「ドイツ倫理審議会法―生命倫理に関する政策助言機関の再編」
『外国の立法』No.234, 2007.12, pp.174184 を 参 照。
〈http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000292_po_023403.pdf?contentNo=1〉 国 家 倫 理 審
議会が 2003 年に出した意見『妊娠前及び妊娠中の遺伝子診断』においても、着床前診断の禁止(7 票)と条件
付き容認(15 票)の両論が併記されていた。Nationaler Ethikrat, Genetische Diagnostik vor und während
der Schwangerschaft: Stellungnahme , Berlin, 2003.〈http://www.ethikrat.org/dateien/pdf/Stellungnahme_
Genetische-Diagnostik.pdf〉
Stellungnahme des Deutschen Ethikrates Präimplantationsdiagnostik(Deutscher Bundestag,
Drucksache , 17/5210).
Entwurf eines Gesetzes zum Verbot der Präimplantationsdiagnostik(Deutscher Bundestag, Drucksache ,
17/5450)
.
Entwurf eines Gesetzes zur Regelung der Präimplantationsdiagnostik(Deutscher Bundestag,
Drucksache , 17/5451).
50 外国の立法 256(2013. 6)
ドイツにおける着床前診断の法的規制
原則禁止とし、一定の要件の下に例外として許
して、①女性に対して着床前診断の医学的、心
容する点では同じであるが、③の法律案の方が
理的及び社会的結果を説明及び助言して、女性
要件が厳しく、両親又はそのどちらか一方の遺
の同意を得ること、②着床前診断の実施を許可
伝的素因により、流産、死産又は子の 1 歳未満
された機関のために設置された倫理委員会(3-
の死亡のおそれが高い場合に限り、着床前診断
(2)に後述)が要件の遵守を審査し、同意した
を行うことができるとしていた。
こと、③着床前診断の実施を許可された機関に
投票は党議拘束なしで行われ、結果として②
おいて資格のある医師が着床前診断を行うこと
の着床前診断を規制する法律案が、修正の上、
が定められた。また、着床前診断の実施を許可
2011 年 7 月 7 日に連邦議会において可決され
された機関は、着床前診断のために実施した措
た。同法律案は、着床前診断を原則禁止としな
置を、倫理委員会により却下された事例も含め、
がらも、子の重篤な遺伝性疾患、流産又は死産
匿名で中央センターに報告し、中央センターは、
のおそれが大きい場合に例外として許容するも
これを記録することが定められた。着床前診断
ので、胚の生命を保護する国家の義務と、私生
を実施することができる機関、当該機関に設
活において国家の介入を受けない夫婦の権利の
置される倫理委員会及び中央センター(3-(3)
保護との均衡を図ろうとするものであった 。
に後述)の詳細については、法規命令で定めら
同法律案は、2011 年 9 月 23 日に連邦参議院を
れる(第 3 項)
。第 3 項の要件に違反して着床
通過した。法律は、2011 年 11 月 24 日に公布
前診断を行った者は、5 万ユーロ以下の過料に
され、12 月 8 日に施行された。
処することができる(第 4 項)
。連邦政府は、4
着床前診断を規制する法律は、胚保護法を改
年ごとに着床前診断の実績に関する報告書を作
正するものである。改正により、胚保護法には、
成する(第 6 項)
。
着床前診断を規制するための第 3a 条が新たに
追加された。その概要は、次のとおりである。
3 着床前診断に関する命令
着床前診断を実施した医師は、1 年以下の自
法律は施行されたものの、着床前診断の実施
由刑又は罰金に処するとされ、着床前診断の原
機関等の要件を定める法規命令が制定されなけ
則禁止が定められた(第 1 項)。ただし、両親
れば、実際に着床前診断を行うことはできない。
又はその一方の遺伝的素因により、子が重篤な
連邦保健省の着床前診断に関する命令案は、よ
遺伝性疾患を発症するリスクが高い場合におい
うやく 2012 年 11 月 14 日に閣議決定された。
て、女性が書面により同意するときには、例
この命令案の施行には、胚保護法第 3a 条第
外として着床前診断を行うことができる。ま
3 項の規定により、連邦参議院の同意が必要
た、女性の書面による同意を得て、死産又は流
である。当初の命令案の規定によれば、着床前
産のおそれが大きい胚の重篤な損傷を確認した
診断の実施機関の数に上限が設けられておらず、
場合にも、着床前診断を行うことができる(第
例外として行うはずの着床前診断が常態化しか
2 項)
。第 2 項の着床前診断を実施する要件と
ねない等の懸念がドイツ倫理審議会や連邦政府
Entwurf eines Gesetzes zur begrenzten Zulassung der Präimplantationsdiagnostik(Deutscher
.
Bundestag, Drucksache , 17/5452)
Susanne Schneider, „Präimplantationsdiagnostik und Schwangerschaftsabbruch,“ Recht und Ethik
im Zeitalter der Gentechnik: Deutsche und japanische Beiträge zu Biorecht und Bioethik , Göttingen:
Vandenhoeck & Ruprecht, 2004, S.194ff.
連邦参議院は、各州政府の代表 69 名から構成され、
連邦の立法手続において州の利害を反映させる機関である。
外国の立法 256(2013. 6)
51
障害者オンブズマン(Beauftragter der Bundes-
必要な助言をすること、生殖補助医療上の処置
regierung für die Belange behinderter Menschen)
、
及び遺伝子検査の処置を行う部門がそれぞれ必
カトリック教会、連邦医師会等から寄せられ
要な知識及び経験を有すること、という要件を
た。
すべて満たしている必要がある。ドイツでは、
連邦参議院における審査においては、州の意
生殖補助医療や遺伝子検査が開業医によって多
向を反映した修正案が検討され、連邦と州の妥
く行われている実情に鑑み、生殖補助医療と遺
協が目指された。その結果、2013 年 2 月 1 日、
伝子検査は大学病院のように同一の構内で行わ
連邦参議院の提案のとおりに修正するという条
れる必要はなく、別個の施設で行われてもよい
件付で、着床前診断に関する命令案に連邦参議
とされた。ただし、その場合には、施設間で協
院が同意した。主な修正点は、着床前診断の実
力協定を結ぶ必要がある。
施機関の許可申請について、要件を満たす申請
着床前診断はあくまでも例外であることを保
すべてを実施機関として許可するのではなく、
障し、質を確保するために、所管の官庁は、公益、
需要を考慮して許可することとした点、倫理委
着床前診断実施の申請者の多様性及び着床前診
員会の決定は委員の 3 分の 2 の多数をもって行
断の実施機関に対する需要を考慮して、実施機
うこととした点である 。ただし、着床前診断
関の許可を決定する。施設が要件を満たしてい
の実施機関の上限数は定められなかった。
ても、必ずしも申請に対して許可が下りるわけ
修正された命令案は、2 月 19 日に連邦政府
ではない。法案理由書によれば、これは、実施
の同意を得、命令は、2 月 25 日に公布された。
機関の数が増えすぎないように配慮する規定で
命令は、2014 年 2 月 1 日に施行される。
ある。
(命令第 3 条。以下、この節において単
制定された着床前診断に関する命令の概要は、
に条番号を掲げた場合は、命令を指す。
)
次のとおりである。
⑵ 着床前診断に係る倫理委員会
⑴ 着床前診断の実施を許可される機関
州は、着床前診断の実施を許可された 1 又
着床前診断を実施するためには、州の所管の
は 2 以上の機関のために倫理委員会を設置する。
官庁による許可が必要である。許可を得るため
倫理委員会は、医学の専門家 4 人、倫理学及び
には、生殖補助医療上の処置及び遺伝子検査の
法学の専門家各 1 人並びに州における患者の利
質を確保すること、着床前診断に係るすべての
益及び障害者自助の代表的組織の代表者各 1 人
処置が資格を有する職員によって実施されるこ
により構成される。また、任命機関は、倫理委
と、着床前診断に係る処置の医学的・心理的・
員会の委員構成に際し、男女同権の参加を目的
社会的結果について当該処置を行わない医師が
として、男女の数を考慮しなければならないと
連邦政府障害者オンブズマンは、障害者平等法第 14 条の規定により、連邦政府により任命される。連邦政府
障害者オンブズマンの任期は 1 議会期であり、連邦議会の議会期と連動している。連邦政府障害者オンブズマ
ンの任務は、障害者と障害のない者に同等の生活条件を確保すべき連邦の責務が、社会生活のあらゆる領域に
おいて遂行されるよう努めることである(障害者平等法第 15 条)。障害者平等法の邦訳は、山本真生子「ドイ
ツの障害者平等法」
『外国の立法』No.238, 2008.12, pp.73-95 を参照。
〈http://dl.ndl.go.jp/view/download/digi
depo_1000159_po_023803.pdf?contentNo=1〉
州は、各実施機関に倫理委員会が設置されると、全国における審査基準の統一性を保てなくなるおそれがあ
ることから、各州に 1 つの倫理委員会を設置することも要求していたが、実施機関の許可を制限的にしたこと
に伴って、
この要求を取り下げた。
„Strengere Regeln für Gentests,
“ Süddeutsche Zeitung , 30. Januar 2013, S.6.
(B)を参照した。
命令の概要については、主に、Bundesrat, Drucksache , 717/12, 717/12
52 外国の立法 256(2013. 6)
ドイツにおける着床前診断の法的規制
されている。委員は、独立して意見形成及び意
学識経験を有する専門家を審査に参加させるこ
思決定を行い、他からの指示に拘束されない。
とができ、鑑定を要請し、申請権者から聴取す
(第 4 条)
ることができる。申請について倫理委員会の同
倫理委員会は、着床前診断の申請について、
意があった場合に着床前診断を実施することと
要件を満たすか否かを審査する。申請の権利を
なるセンターに勤務する医師は、審査に関与す
有するのは、卵子の由来する女性である。申請
ることができない。倫理委員会は、具体的な個
権者は、両親の一方又は双方の遺伝的素因によ
別事例における心理的、社会的及び倫理的観点
り、その子孫が重篤な遺伝性疾患を発症するリ
を考慮して審査しなければならず、倫理委員会
スクが高い場合には、申請時に、当該遺伝的素
の議事は、投票権を有する委員の 3 分の 2 の多
因に関する医師の人類遺伝学上の所見を記載し
数をもって決する。
(第 6 条)
た書類を倫理委員会に提出しなければならない。
倫理委員会は、申請に際して提出された書類
また、胚の重篤な損傷により死産又は流産のお
及び決定のために根拠としたすべての文書を、
それが大きいことを推定する医師の診断がある
決定後 30 年間保管する。
(第 7 条)
場合には、申請権者は、当該医師の診断を記載
した書類を提出しなければならない。申請権者
⑶ 着床前診断の措置を記録する中央センター
が、既に倫理委員会に着床前診断を申請して却
着床前診断の実施機関は、申請のうち倫理委
下された結果、別の倫理委員会に申請する場合
員会の同意を得た数、倫理委員会により却下さ
には、最初の倫理委員会の決定の写しも提出し
れた数及び実施した着床前診断の数を、匿名で
なければならない。これは、倫理委員会の審査
毎年中央センターに報告する。
(第 8 条)
基準を統一するための規定である。(第 5 条)
中央センターは、パウル・エーリヒ研究所
立法者は、着床前診断を行うことができる遺
に設置され、実施機関により報告されたデータ
伝性疾患の一覧を作成することは敢えて行わな
を記録し、10 年間保管する。中央センターは、
かったが、法規命令においても、これを踏襲し
連邦保健省が着床前診断の実績に関する連邦政
て、着床前診断を行うことができる遺伝性疾患
府の報告書を作成する際に協力する義務を負う。
は挙げられなかった。どのような場合に、胚保
(第 9 条)
護法第 3a 条にいう「重篤な遺伝性疾患」、
「
(遺
伝病発症の)高いリスク」及び「(死産又は流
おわりに
産の)大きいおそれ」があるかについては、倫
理委員会が今後検討することになる。
従来、ドイツでは着床前診断が禁止されてお
倫理委員会は、申請権者により提出された申
り、これについて様々な意見があった。大別す
請書及び書類を 3 か月以内に審査し、申請権者
ると、着床前診断を条件付きで容認すべきとい
に対して書面により決定を通知する。倫理委員
う意見と、全面禁止とすべきという意見であ
会は、申請の審査に際し、その科学的知見を活
る。2010 年の連邦通常裁判所の判決を受けて、
用し、審査対象の申請に係る健康障害について
2011 年に胚保護法が改正された結果、着床前
連邦保健省のウェブサイトを参照。
〈http://www.bmg.bund.de/gesundheitssystem/gesundheitsziele/fragenund-antworten-pidv.html〉
パウル・エーリヒ研究所(Paul-Ehrlich-Institut)は連邦の研究機関で、ワクチンや抗体医薬品等の生物薬品
の臨床試験の承認やそれらの許可を行っている。
外国の立法 256(2013. 6)
53
診断は条件付きで容認されることになった。
生思想から生じた歴史的事件に対する反省があ
しかし、着床前診断に反対する声も決して小
る。そのため、ドイツにおいては着床前診断を
さくなく、第 14 議会期の連邦議会の調査会「現
めぐる議論においては、倫理的な視点からの発
代医療の法と倫理」の最終報告書、国家倫理審
言も大きく、長年にわたって議論が活発に行わ
議会の意見、ドイツ倫理審議会の意見いずれに
れてきた。2011 年の胚保護法の改正は、その
おいても両論併記であった 。連邦議会におけ
結果としての着床前診断の法律による規制であ
る着床前診断を規制する法律案の議決の際にも、
り、今後どのように限定的な実施が担保される
賛成票が 326 票に対して、反対票が 260 票であっ
かが注目される。
た 。
ドイツにおいて着床前診断がこれまで禁止さ
(わたなべ ふくこ)
れてきたこと、また、慎重論が根強いことの背
景には、キリスト教文化、そして、ナチスの優
連邦医師会は、2002 年の第 105 回大会において、着床前診断の禁止に賛成する旨の決議を行っていた。佐藤
前掲注⒆, pp.107-109.
Deutscher Bundestag, Plenarprotokoll , 17/120, S.13910ff.
54 外国の立法 256(2013. 6)
胚保護法
Gesetz zum Schutz von Embryonen (Embryonenschutzgesetz – ESchG)
国土交通調査室 齋藤 純子訳
海外立法情報課 渡辺 富久子訳
第 1 条 生殖技術の濫用
⑴ 次に掲げる者は、3 年以下の自由刑又は罰
⑶ 次に掲げる者は、罰しない。
1 第 1 項第 1 号、第 2 号又は第 6 号の場合
金に処する。
には、卵子又は胚の由来する女性及び卵子
1 本人のものでない未受精の卵子を女性に
の移植を受けた女性又は胚の移植を受ける
移植した者
2 卵子の由来する女性の妊娠以外の目的の
ために当該卵子を人工的に受精させること
を試みた者
3 1 周期に 3 を超える胚を女性に移植する
予定の女性
2 第 1 項第 7 号の場合には、代理母及び子
を長期にわたり引き受けようとする者
⑷ 第 1 項第 6 号及び第 2 項の未遂罪は、罰す
る。
ことを試みた者
4 配偶子卵管内移植法により 1 周期に 3 を
超える卵子を受精させることを試みた者
第 2 条 人の胚の濫用
⑴ 体外受精した胚又は子宮内での着床が完了
5 1 周期に女性に移植する予定の数を超え
する前に女性から採取した人の胚を譲渡し又
る数の卵子を受精させることを試みた者
は胚の維持以外の目的にこれを引き渡し、取
6 他の女性に移植し又は胚の維持以外の目
得し若しくは利用した者は、3 年以下の自由
的に利用するために、子宮内での着床が完
了する前に女性から胚を採取した者
7 子を出生後に第三者に長期にわたり引き
渡す意思のある女性(代理母)に対して、
刑又は罰金に処する。
⑵ 妊娠以外の目的で人の胚を体外で育成した
者は、第 1 項の刑に処する。
⑶ 未遂罪は、罰する。
人工的な受精を行うこと又は人の胚を移植
することを試みた者
第 3 条 性の選択の禁止
⑵ 次に掲げる者は、第 1 項の刑に処する。た
卵子を、性染色体によって選別された精子
だし、卵子の由来する女性の妊娠を目的とし
と人工的に受精させることを試みた者は、1
て行う場合を除く。
年以下の自由刑又は罰金に処する。ただし、
1 人の精子を人の卵子内に人工的に侵入さ
医師による精子の選別が、子がデュシェンヌ
せた者
2 人の精子を人の卵子内に人工的に注入し
た者
型筋ジストロフィー又は同様に重篤な伴性遺
伝病を発症するのを防ぐためであり、かつ、
子が発症するおそれのある疾病が州法に基づ
* この翻訳は、連邦法務省と Juris の共同法律データベースである Gesetze im Internet の Embryonenschutzgesetz
vom 13. Dezember 1990(BGBl. I S.2746)
, das zuletzt durch Artikel 1 des Gesetzes vom 21. November 2011
(BGBl. I S.2228)geändert worden ist を訳出したものである。翻訳に際しては、
齋藤純子「胚保護法」
『外国の立法』
30 巻 3 号, 1991.5, pp.99-107 中の胚保護法の全訳に、2011 年の胚保護法の改正で追加された第 3a 条を加え、改訳し
た。訳文中 [ ] 内の語句は、訳者が補ったものである。
国立国会図書館調査及び立法考査局
外国の立法 256(2013. 6)
55
く所管機関によって相当に重篤であると認め
より、次の各号に掲げる事項の詳細を定め
られたものである場合には、この限りでない。
る。
1 着床前診断の実施を許可される機関の数
第 3a 条 着床前診断 ; 命令への委任
及び許可要件並びに実施機関に勤務する医
⑴ 胚を子宮に移植する前に、当該胚の細胞の
師の資格及び許可の期間
遺伝子を試験管内で検査(着床前診断)した
者は、1 年以下の自由刑又は罰金に処する。
⑵ 卵子の由来する女性、精子の由来する男性
又は双方の遺伝的素因により、その子孫が重
2 着床前診断に係る倫理委員会の設置、構
成、手続及び財政
3 着床前診断において実施された処置を記
録する中央センターの設置及び形態
篤な遺伝性疾患を発症するリスクが高い場合
4 着床前診断において実施された処置の中
には、卵子の由来する女性の書面による同意
央センターへの報告に係る要件並びに [ 中
を得て、一般に承認された医学的知識及び技
央センターにおける ] 記録に係る要件
術に基づき、子宮への移植前の胚の細胞の遺
⑷ 第 3 項第 1 文の規定に違反して着床前診断
伝子を試験管内で検査した者は、違法としな
を行った者は、
秩序違反とする。違反行為 [ を
い。卵子の由来する女性の書面による同意を
した者 ] は、5 万ユーロ以下の過料に処する
得て、死産又は流産のおそれが大きい胚の重
ことができる。
篤な損傷を確認するために着床前診断を行っ
た者も、違法としない。
⑶ 第 2 項の規定による着床前診断は、次に掲
げる場合に限り、行うことができる。
⑸ いかなる医師も、第 2 項の規定による処置
を実施し又はこれに協力する義務を負わな
い。これに協力しないことにより、当該医師
に不利益が生じてはならない。
1 女性が希望する胚の細胞の遺伝子検査の
⑹ 連邦政府は、4 年ごとに着床前診断の実績
医学的、心理的及び社会的結果について説
に関する報告書を作成する。報告書には、中
明及び助言を行い、その後に [ 当該女性の ]
央センターの記録及び匿名のデータに基づ
同意を得た場合
き、年間に実施した処置の件数及び科学的評
2 着床前診断の実施を許可された機関のた
価等を記載するものとする。
めの学際的な委員構成による倫理委員会が
第 2 項の要件が遵守されていることを審査
し、同意とする評価を行った場合
3 着床前診断の実施を許可された機関で
第 4 条 本人の同意を得ない受精、本人の同
意を得ない胚移植及び死亡後の人工的な受精
⑴ 次に掲げる者は、3 年以下の自由刑又は罰
あって、着床前診断の処置の実施に必要な
金に処する。
診断上、医療上及び技術上の能力を備える
1 受精される卵子の由来する女性及び受精
ものにおいて、資格のある医師が行う場合
に利用する精子の由来する男性の同意を得
着床前診断の実施を許可された機関は、
ることなく卵子を人工的に受精させること
着床前診断において実施した処置を、倫理
委員会により却下された事例も含め、匿名
で中央センターに報告し、中央センターは、
これを記録するものとする。連邦政府は、
連邦参議院の同意を必要とする法規命令に
56 外国の立法 256(2013. 6)
を試みた者
2 本人の同意を得ることなく胚を女性に移
植することを試みた者
3 故意により、死亡した男性の精液によっ
て卵子を人工的に受精させた者
胚保護法
⑵ 第 1 項第 3 号の場合には、人工的な受精が
行われた女性は、罰しない。
第 7 条 キメラ及びハイブリッドの作成
⑴ 次に掲げる行為を試みた者は、5 年以下の
自由刑又は罰金に処する。
第 5 条 人の生殖細胞系列の人工的改変
⑴ 人の生殖細胞系列の遺伝情報を人工的に改
変した者は、5 年以下の自由刑又は罰金に処
する。
⑵ 人工的に改変された遺伝情報を有する人の
生殖細胞を受精に用いた者は、第 1 項の刑に
処する。
1 少なくとも 1 個の人の胚を用いて異なる
遺伝情報を有する複数の胚を 1 個の細胞群
に結合すること。
2 1 個の人の胚を、当該胚の細胞とは異な
る遺伝情報を含み、当該胚と共にさらに分
化しうる 1 個の細胞と結合させること。
3 人の卵子を動物の精液で受精させ又は動
⑶ 未遂罪は、罰する。
物の卵子を人の精液で受精させることによ
⑷ 次に掲げる行為には、第 1 項の規定を適用
り、分化能力のある胚を作りだすこと。
しない。
1 体外にある生殖細胞であって、受精に用
いることが排除されているものの遺伝情報
の人工的改変
⑵ 次に掲げる行為を試みた者は、第 1 項の刑
に処する。
1 第 1 項の規定による行為により生じた胚
を次のものに移植すること。
2 死亡した胎児、人又は死亡した人から採
a) 女性
取したその他の身体固有の生殖細胞系列の
b) 動物
遺伝情報の人工的改変。ただし、次の事項
2 人の胚を動物に移植すること。
が排除されている場合に限る。
a) 胚、胎児又は人への当該生殖細胞系列
の移植
b) 当該生殖細胞系列から生殖細胞が生じ
ること。
第 8 条 定義
⑴ この法律にいう胚とは、受精し発育能力の
ある人の卵子について細胞核融合の時点から
のものをいい、さらに、胚から採取した全能
3 生殖細胞系列の遺伝情報の改変を意図し
性細胞で、その他の必要な前提条件があれば
ない接種、放射線療法、化学療法又はその
分裂し個体に発達することができる個々の細
他の療法
胞をいう。
⑵ 受精した人の卵子は、細胞核融合後 24 時
第 6 条 クローニング
間以内には発育能力があるものとみなされ
⑴ 他の胚、胎児、人又は死亡した人と同一の
る。ただし、当該期間が経過する前に、当該
遺伝情報を有する人の胚を人工的に生じさせ
卵子が単一細胞段階を超えて発育できないこ
ようとした者は、5 年以下の自由刑又は罰金
とが確認された場合には、この限りでない。
に処する。
⑵ 第 1 項の規定にいう胚を女性に移植した者
は、第 1 項の刑に処する。
⑶ 未遂罪は、罰する。
⑶ この法律にいう生殖細胞系列とは、受精卵
から始まり当該受精卵から生じた人の卵子及
び精子に至る細胞系列にあるすべての細胞を
いい、さらに、精子の注入又は侵入から細胞
核融合で受精が完了するまでの卵子をいう。
外国の立法 256(2013. 6)
57
第 9 条 医師の行為
次に掲げる行為は、医師に限り行うことが
できる。
1 人工的な受精
断
3 第 9 条第 3 号の規定に違反した人の胚の
女性への移植
⑵ 第 9 条第 1 号の場合には、人工的に精子注
2 着床前診断
入が行われた女性及びその精子が人工的注入
3 人の胚の女性への移植
に用いられた男性は、罰しない。
4 人の胚及び人の精子が侵入し又は人の精
子が人工的に注入された人の卵子の保存
第 12 条 過料規定
⑴ 第 9 条第 4 号の規定に違反して、人の胚又
第 10 条 自由意思による協力
何人も、第 9 条の規定による処置を行い又
はこれに協力する義務を負わない。
は同項に規定する人の卵子を保存した者は、
秩序違反とする。
⑵ [ 前項の ] 秩序違反 [ をした者 ] は、2,500
ユーロ以下の過料に処することができる。
第 11 条 医師の行為に係る違反
⑴ 医師でない者が次に掲げる行為を行った場
合には、1 年以下の自由刑又は罰金に処する。
第 13 条 施行
この法律は、1991 年 1 月 1 日から施行する。
1 第 9 条第 1 号の規定に違反した人工的な
受精
2 第 9 条第 2 号の規定に違反した着床前診
58 外国の立法 256(2013. 6)
(さいとう じゅんこ・専門調査員)
(わたなべ ふくこ)
着床前診断に関する命令
Verordnung zur Regelung der Präimplantationsdiagnostik
(Präimplantationsdiagnostikverordnung – PIDV)
海外立法情報課 渡辺 富久子訳
2011 年 11 月 21 日の法律(連邦法律公報第
1 着床前診断 胚を子宮に移植する前に、
Ⅰ部 2228 頁)第 1 章第 1 号により追加された
当該胚の細胞の遺伝子を試験管内で検査す
胚保護法第 3a 条第 3 項第 3 文に基づいて、連
ること(胚保護法第 3a 条第 1 項)
。
邦政府は次の命令を制定する。
2 生殖補助医療上の処置 人工的な受精並
びにこれに続く [ 胚からの ] 細胞の採取及
第 1 章 総則
び調製(Aufbereitung)
3 第 1 号及び第 2 号にいう細胞 次に掲げ
第 1 条 適用範囲
この命令は、次の各号に掲げる事項の要件
る幹細胞
a) 体外受精胚から採取した幹細胞で、し
を定めるものとする。
かるべき環境の下で自ら細胞分裂により
1 着床前診断の実施を許可される機関の許
増殖する能力があるもの
可要件及び許可の期間(胚保護法第 3a 条
第 3 項第 3 文第 1 号)
2 [ 着床前診断の実施を ] 許可される機関
に勤務する医師の資格(胚保護法第 3a 条
b) 自ら又はその娘細胞1が適切な条件の
下で様々な種類の細胞に分化する能力が
ある幹細胞で、個体となる能力がないも
の
第 3 項第 3 文第 1 号)
3 着床前診断に係る倫理委員会の設置、構
成、手続及び財政(胚保護法第 3a 条第 3
第 2 章 着床前診断の実施機関及び倫理委員
会に係る要件
項第 3 文第 2 号)
4 着床前診断において実施された処置を記
録する中央センターの設置及び形態(胚保
護法第 3a 条第 3 項第 3 文第 3 号)
5 着床前診断において実施された処置の報
告(胚保護法第 3a 条第 3 項第 3 文第 4 号)
6 [ 中央センターにおける着床前診断にお
いて実施した処置の ] 記録(胚保護法第
3a 条第 3 項第 3 文第 4 号)
第 3 条 着床前診断の実施機関の許可要件
⑴ 着床前診断は、次に掲げる要件をすべて満
たす機関に限り、実施することができる。
1 その時々の確立した科学的知見に基づい
て、生殖補助医療上の処置及び遺伝子検査
のために必要な診断上、医療上及び技術上
の能力を備えていること。
2 所管の官庁により着床前診断の実施を許
可されていること。
第 2 条 定義
生殖医学及び人類遺伝学の施設も実施機
この命令において、次の各号に掲げる用語
関として許可されることができ、[ これら
の意義は、当該各号に定めるところによる。
の施設は、] 施設間で締結する協力協定に
* Verordnung zur Regelung der Präimplantationsdiagnostik(Präimplantationsdiagnostikverordnung –
PIDV)vom 21. Februar 2013(BGBl. I S.323). 訳文中 [ ] 内の語句は、訳者が補ったものである。
⑴
細胞分裂で生じた 2 個の新しい細胞。
国立国会図書館調査及び立法考査局
外国の立法 256(2013. 6)
59
より、第 1 文の要件を満たすものとする。
⑵ 次の各号に掲げる要件をすべて満たす場合
に限り、申請に基づき [ 当該実施機関を ] 許
可することができる。
1 実施機関が質の確保に関する内部のシス
テムを有し、質の確保に関する適切な外部
の措置に参加すること。
Akkreditierungsstelle) に よ る 次 の
認証
aaa) 比 較 ゲ ノ ム ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー
ション又は分子細胞遺伝学的検査
bbb) 分子遺伝学的検査
bb)これらの検査方法を個々の細胞に適
用した十分な実績
2 着床前診断に係るすべての処置が資格を
[ 実施機関の ] 許可の請求権は、存在しな
有する職員によって実施されることを、実
い。複数の適切な機関又は施設が許可を申請
施機関が保障すること。
し、これらから選択しなければならない場合
3 着床前診断に係る処置の医学的、心理的
には、所管の官庁は、公益、申請者の多様性
及び社会的結果について、当該処置を自ら
及び着床前診断の実施機関の需要を考慮して
行わない医師が必要な助言をすることを、
決定する。
実施機関が保障すること。
4 生殖補助医療上の処置を実施する部門が
次の要件を満たすこと。
a) 生殖医学の施設の長が、産婦人科の専
(2a)州は、州際協定により、複数の関係する
州の共同の機関として実施機関を許可するこ
とができる旨を定めることができる。
⑶ 許可は、
書面により申請しなければならず、
門医であり、その重点診療分野が「婦人
申請書には次の事項を記載し、次の書類を添
科内分泌学及び生殖医学」であること。
付しなければならない。
b) 当該生殖医学の施設が、生殖内分泌学、
1 申請者の氏名及び住所。第 1 項第 2 文の
婦人科超音波診断学、婦人科手術、試験
場合には、申請者は、人類遺伝学の施設の
管培養を重点とする生殖生物学、男性病
長とする。
学(Andrologie)及び基礎心身医療の知
識及び経験を有すること。
c)当該生殖医学の施設が、特に体外受精、
細胞質内精子注入法又は同様の手続、胚
移植並びに細胞の採取及び調製につい
て、実際の経験を十分有すること。
2 第 2 項第 1 文第 1 号から第 5 号までに規
定する要件を満たすことを証明する書類。
第 1 項第 2 文の場合には、協力協定の写し
とする。
⑷ 所管の官庁は、書面により実施機関を許可
しなければならない。許可には、5 年の期限
d) 当該生殖医学の施設が細胞生物学の実
を付さなければならない。許可は、第 2 項の
験室を有し、この実験室が細胞調製につ
要件を満たす場合には、申請に基づいて延長
いて、必要な専門的経験を有すること。
することができる。
5 遺伝子検査の処置 [ を行う部門 ] が次の
⑸ 申請者は、第 3 項の規定による書類及び事
要件を満たすこと。
項について変更が生じた場合には、所管の官
a) 人類遺伝学の施設の長が、人類遺伝学
庁に遅滞なくこれを届け出る義務を負う。
の専門医であること。
b) 当該人類遺伝学の施設が次に掲げるも
⑹ 所管の官庁は、第 9 条の規定による中央セ
ンターに対して、着床前診断の実施機関の許
のをすべて有すること。
可及びその延長について通知しなければなら
aa)ド イ ツ 認 証 機 関(Deutsche ず、許可の撤回又は取消についても通知しな
60 外国の立法 256(2013. 6)
着床前診断に関する命令
ければならない。
由来する男性又は双方の遺伝的素因に関す
る医師による人類遺伝学上の所見、これに
第 4 条 着床前診断に係る倫理委員会
より発症する遺伝性疾患について、その名
⑴ 州は、着床前診断の実施を許可された機関
称、子孫の発症の確率及び予想される病状
のために、学際的な委員構成による独立した
着床前診断に係る倫理委員会(倫理委員会)
の記述
2 個人データを倫理委員会が収集し、加工
を設置する。州は、[ 複数の州で ] 共同の倫
し及び利用することについて、第 8 条第 1
理委員会を設置することもできる。倫理委員
項の規定による申請権者の書面による同意
会は、医学の専門家 4 人、倫理学及び法学の
を証明するもの
専門家各 1 人並びに州の患者の利益及び障害
3 申請書に記載された個人データを倫理委
者自助の代表的組織の代表者各 1 人により構
員会が収集し、加工し及び利用することに
成される。任命機関は、倫理委員会の委員構
ついて、精子の由来する男性の書面による
成に際し、男女同権の参加を目的として、男
同意を証明するもの
女の数を考慮しなければならない。
4 胚保護法第 3a 条第 2 項第 2 文に規定す
⑵ 倫理委員会の委員は、独立して意見形成及
る場合には、死産又は流産のおそれが大き
び意思決定を行うものとし、他からの指示に
い胚の重篤な損傷が予想されることを推定
拘束されない。委員は、守秘義務を負う。
する医師の診断
⑶ 倫理委員会は、胚保護法第 3a 条第 3 項第
5 着床前診断の実施を予定する機関の名称
1 文第 2 号に定める業務について手数料及び
及び [ 着床前診断の実施に関して倫理委員
費用を徴収する。
会が ] 同意する旨の評価を行った場合に着
⑷ 倫理委員会の構成、内部の手続規則、委員
の任命及び財政に関する細則は、州法で定め
る。倫理委員会の委員の任命には、任期を付
さなければならない。
床前診断を実施する旨の当該実施機関の約
束
6 評価を申請する事案に関して、着床前診
断に係る他の倫理委員会の決定が既にあっ
たか否かの記載、及び決定があった場合に
第 5 条 着床前診断の実施の申請
は当該決定の写し
⑴ 倫理委員会は、卵子の由来する女性(申請
権者)が書面により申請する場合に限り、胚
第 6 条 着床前診断の実施の申請の審査
保護法第 3a 条第 3 項第 1 文第 2 号の規定に
⑴ 倫理委員会は、第 5 条第 2 項の規定により
よる審査及び評価を行う。
必要な事項 [ を記載した申請書 ] 及び完全な
⑵ 申請書には、倫理委員会が胚保護法第 3a
書類が提出された後 3 か月以内に、着床前診
条第 2 項に掲げる要件の存否を審査するため
断の実施について、申請権者に対して書面に
に必要なすべての事項を記載して必要な書類
より決定を通知する。
を添付しなければならない。提出しなければ
⑵ 倫理委員会は、着床前診断の実施の申請及
ならないものは、次の各号に掲げるとおりと
びこれに添付された書類を審査するために、
する。
次の各号に掲げる事項を行うことができる。
1 胚保護法第 3a 条第 2 項第 1 文に規定す
1 自らの科学的知見の活用
る場合には、卵子の由来する女性、精子の
2 審査対象の申請に係る健康上の障害につ
外国の立法 256(2013. 6)
61
いて学識経験を有する専門家を [ 審査に ]
参加させること。
講じなければならない。
⑷ 倫理委員会は、第 5 条第 2 項の規定による
3 鑑定の要請
事項 [ を記載した申請書 ] 及び書類並びに倫
4 口頭による申請権者の聴取
理委員会の決定のために根拠としたすべての
倫理委員会は、第 1 文第 2 号及び第 3 号の
文書を、申請についての決定後 30 年間保管
場合には、個人データを匿名とする義務を負
するものとする。第 1 文の期限が経過した後
うが、必要な知見を得るために匿名とするこ
は、当該事項 [ を記載した申請書 ] 及び書類
とができない場合には、仮名とする義務を負
を遅滞なく廃棄しなければならない。第 5 条
う。
第 1 項の規定による申請が撤回された場合に
⑶ [ 倫理委員会が ] 同意する旨の評価を行っ
は、当該事項 [ を記載した申請書 ] 及び書類
た場合に着床前診断を実施し、人工的な受精
は、第 1 文の期限が経過する前に遅滞なく廃
に関与し、又は着床前診断若しくは人工的な
棄しなければならない。
受精が行われる機関に勤務する医師は、着床
前診断の実施の申請の審査を行うことができ
第 8 条 データの収集、加工及び利用
ない。
⑴ 着床前診断の実施を許可された機関は、着
⑷ 倫理委員会は、具体的な個別事例における
床前診断の実施及び倫理委員会の手続に必要
心理的、社会的及び倫理的観点を考慮して、
な個人データの収集、加工及び利用につい
第 5 条第 2 項の規定による事項及び書類を審
て、申請権者の書面による同意を得るものと
査した後、これらが胚保護法第 3a 条第 2 項
する。
着床前診断の実施を許可された機関は、
の要件を満たすことを確認した場合には、着
事前に、個人データを、着床前診断の実施を
床前診断の実施の申請について、同意とする
許可された機関及び倫理委員会が第 1 文の規
評価を行わなければならない。倫理委員会の
定により収集し、加工し及び利用することに
議事は、投票権を有する委員の 3 分の 2 以上
ついて、申請権者に対して包括的に説明す
の多数で決する。
る。着床前診断の実施及び倫理委員会の手続
に、精子の由来する男性の同意も必要な場合
第 7 条 倫理委員会におけるデータの取扱い
には、当該男性についても第 1 文及び第 2 文
⑴ 倫理委員会は、申請権者の同意を得て、及
の規定を適用する。
び精子の由来する男性の個人情報が申請書に
⑵ 着床前診断の実施を許可された機関は、第
記載されている場合には、第 8 条第 1 項の規
9 条の規定による中央センターに対して、次
定により当該男性の同意を得て、第 5 条第 2
の各号に掲げるデータを匿名で伝達する義務
項に掲げる個人データを、同項に掲げる目的
を負う。
のために、収集し、加工し及び利用すること
1 着床前診断の実施について [ 倫理委員会
ができる。
⑵ 倫理委員会は、第 8 条第 2 項第 1 号、第 3
号及び第 4 号の規定による匿名のデータを着
の ] 同意する旨の評価が行われた申請の数
2 [ 倫理委員会の ] 同意する旨の評価の後
に実施された着床前診断の数
床前診断の実施機関に伝達する義務を負う。
3 着床前診断の実施について [ 倫理委員会
⑶ 倫理委員会は、データの不正な利用ができ
の ] 同意する旨の評価を求める申請のうち
ないように所要の技術的及び組織的な措置を
62 外国の立法 256(2013. 6)
却下されたものの数
着床前診断に関する命令
4 胚保護法第 3a 条第 2 項の規定による要
件の類型を染色体異常、常染色体優性遺伝、
第 9 条 中央センター
⑴ パウル・エーリヒ研究所に、第 8 条第 2 項
常染色体劣勢遺伝及び伴性遺伝に区分し、
の規定により報告されたデータを記録する中
その各区分についての数及び着床前診断の
央センターを設置する。
実施に際して適用した又は適用すべき遺伝
子検査方法の数
⑵ 中央センターは、報告されたデータを記録
し、10 年間保管するものとする。
⑶ 着床前診断の実施を許可された機関は、第
⑶ 中央センターは、連邦保健省が着床前診断
2 項の規定による事項を、毎年、翌年の 3 月
の実績に関する連邦政府の報告書を作成する
1 日までに、第 9 条の規定による中央センター
ために、連邦保健省の求めに応じて、連邦保
に対して報告しなければならない。
健省に対して、報告され記録した事項を伝達
⑷ 第 2 項の規定によるデータの伝達に際して
する義務を有する。
は、中央センターが用意する様式を用いなけ
ればならない。様式は、電子的にも提供され
第 4 章 補則
及び利用されることができる。
第 10 条 施行
第 3 章 中央センター
この命令は、2014 年 2 月 1 日から施行する。
(わたなべ ふくこ)
外国の立法 256(2013. 6)
63
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ドイツにおける着床前診断の法的規制