一
般 地 質
学 (大 藤)
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たは双方が変化することを表す.例えば,流量が増加する
流や滝を観察し,河川の下流でゆったりとした流れを観察
と,増加分をまかなうために,流路断面積も流速も増加し
している我々の常識とは一見反する.しかし,この見かけ
ようとする.逆に,流量の減少は,流路断面積や流速の減
は,実は実際の流速を忠実に示してはいない.多くの場
少につながる.
合,川の上流部では流量が少ないため,流れる水の水位は
洪水の際には,上記因数の劇的変化が見られる.1956 年
非常に低い.河床は,深い水よりも浅い水の流れに大きな
には,合衆国,コロラド川沿いのアリゾナ州リースフェ
抵抗力を与えるため,上流部の浅い流れは,勾配が急で
リーで,流量の増加および減少に伴い流路断面積の大きな
あっても,下流部の深い流れよりも流速が遅くなる.下流
変化が観察された(第 9.3 図).洪水前の河川は,深さ約
部で河川の流量が増えるのは,支流(tributary)や地下水
2 m,幅約 100 m であった.晩春になって流量が増すと,
脈からの水の流入があるからである.下流部では,より多
流路内の水位は増大と河床の侵食が進み,遂に流路断面積
い水量をまかなうため,流路断面積とともに流速が増加す
は,深さ約 7 m,幅約 125 m にまで広がった.流路断面
る.
積を増やしたコロラド川は,流速の増大もあって,増加し
流水のはたらき
地表付近の岩石は,流水,波浪,氷河,風などによって,
次第に侵食される.流水は,岩石や土砂を削り取って砂や
礫にする侵食作用,それを運ぶ運搬作用,および運んだも
のを沈降させる堆積作用を行っている.
第 9.4 図は,流水の速さと粒子の大きさによって,侵食,
運搬,堆積のどの作用が起きるかを,実験によって示した
ものである.Ⅰの線は,底に静止している粒子が動き始め
る教会を示す.この線よりも上の領域になると,粒子が移
動する.この線は,最小の流速で移動し始めるのが,泥で
はなく砂であることを示している.また,Ⅱの線は,移動
している粒子が停止して堆積し始める境界を示す.この線
よりも下の領域では,粒子は沈んで堆積する.粒径の大き
い粒子ほど,大きな流速でも堆積することを示してる.泥
の粒子は,いったん浮遊するとなかなか堆積しないが,堆
積すると互いに吸着し合って動きにくくなる.
た流量と流送量とをまかなった.洪水が治まり流量が減少
すると,河川はこれまでの流送量をまかなうことができ
ず,過剰な砕屑粒子が流路に落ちて河床は底上げされるこ
ととなった.同時に,流路内の水位も落ちて,コロラド川
の流路断面積は洪水前の規模に落ち着くこととなった.
この例で端的に示されるように,河川とその流路には,
密接な関係がある.流路は常に,流量の変化に反応して変
化し,河川のどの地点でも,流量などの物理条件と平衡の
とれた形態に流路が変化する.
上流から下流への河川の変化
河川の源流から下流へと向かうと,以下の様な秩序だっ
た変化が観察される:(1) 流量の増加,(2) 流路断面積の増
加,(3) 流速のわずかな増加,および (4) 勾配の減少.下
流に向かって流速が増加するというのは,河川の上流で急
流路パターン
流路のパターンは,河川により様々な様相を見せる.河
川の勾配と,流量と堆積物流送量との関係を理解すれば,
流路パターンの様々な様相を説明することができる.
直線流路
直線流路(straight channel;第 9.5 A 図)は,比較的稀
である.規則的な屈曲の多い流路を,波状流路(sinuous
第 9.3 図
洪水時のコロラド川の流量変化(上)と,上流から下
流への河川の形態変化
(下)
(上)
洪水時の流量に応じて,
河川の形態が大きく変化した例.
洪水時には河川の下刻作用により流路の底が深くなり,
水面の
高さや流速も上昇し,流量が大幅に増加する.洪水が引くと,
流速が落ちて河床に土砂が堆積するようになり,
洪水前の流路
形態を回復する.
(下)
河川の下流ほど流路の傾斜は緩くなり,
流路の幅,
流路の
深さ,
流量および流速は増加する.
上流の方が急傾斜なのに流
速が遅いのは,
流量が少なくて水の流れを妨げる河床の摩擦力
が強くはたらくためである.
第 9.4 図
河川の流路の形態を示すブロックダイヤグラム
は,本文を参照のこと.
説明
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第
第 9.5 図
9 話
堆 積
岩 と 堆
積
環 境
河川の流路の形態を
示すブロックダイヤグラム
説明は,
本文を参照のこと.
第 9.6 図
河成段丘
一般に,
河床にできた平坦面が,
河川の下刻
作用や隆起運動により相対的に上昇すると,
河成段丘ができる.
channel)と呼ぶが,自然流路の直線部分を観察すると,波
す河川である.洪水時には,一本の水流となる.洪水時に
状流路の特徴が見られることがある.例えば,直線流路で
運ばれた巨礫が河床上に停止すると,平水時にその下流側
あっても,河川中の深みを連ねた線(谷みち:Talweg)は
に砂が次第に集まり州を作る.この様な州を避けて,とこ
必ずしも直線にはならず,流路中を左右へ蛇行する.この
ろどころに淵を作りながら川は流れる.
形態は,流路の深さ分布がもともとランダムであったせい
この様な州は,蛇行河川よりは急勾配で,幅が広く浅い
と考えられている.深みが流路の片側に存在する場所で
川において,水量が頻繁に変化するとできやすい.その結
は,堆積が対岸の流速の遅い流路に沿って起こり,浅瀬
果,いくつもに分かれた流路を生じ,網状河川となる.特
(cay, bar)を形成する傾向がある.直線流路中での波状の
に,氷河の下流では,流量と運搬される堆積物の量が頻繁
流れにより,浅瀬は,左右両岸に交互に形成される.
蛇行河川
蛇行河川(meandering river;第 9.5 B 図)は,多少なり
とも規則的に屈曲した河道をもつ河川である.河川の中流
域において,岩盤をうがつ穿入蛇行河川が見られることも
あるが,一般に蛇行河川と呼ばれるのは,平野部によく発
達する自由蛇行河川である.Meander の語源は,トルコの
小アジア半島を西流して多島海へ注ぐメンデレス川(ラテ
ン名が Meander)である.
ある特定の場所での川の蛇行は,その波長・振幅・曲率
半径がほぼ一定となり,あまり大きく変化しない.これら
の値は,川幅と密接な関係があるといわれる.河道がいっ
たん曲がり始めると,湾曲部の外側は侵食されて急な攻撃
斜面をなし,湾曲部の内側では土砂の堆積がポイントバー
(point bar;突州)とともに緩やかな滑走斜面を作る.こ
の侵食・堆積の連続により,河道は側方へ移動して河川の
屈曲は次第に大きくなり,最後には一部が短絡(切断とい
う)して河道が変わる.河川から切断された旧河道は,三
日月湖(oxbow lake)と呼ばれる帯水域として残る.
蛇行河川の河道の側面には,洪水時の堆積によりでき
た自然堤防(natural levee)ができ,その外側が後背湿地
となる.河道の移動によって,ある時点に河道であった場
所の環境が,河道→ポイントバー→自然堤防へと変化す
る.この環境変化により,河道の粗粒堆積物からポイント
バーの砂を経て,後背湿地の泥質堆積物へと上方細粒化す
る地層の積み重なり(層序 sequence)が形成される.
網状河川
網状河川(braided river;第 9.5 C 図)は,幅広い河床
上に砂礫の州が多数形成され,平水時の水流が網状流をな
に変化する(日中と夜,夏と冬など)ため,網状河川が発
達することが多い.網状河川の州は,洪水の度ごとにその
位置を変えやすいが,州が十分に成長して植生で固定され
ると,安定した中州となって長期間同じ位置に留まる.
河成段丘(河岸段丘)
河川に沿って片側または両側に分布する階段状の地形
を,河成段丘(fluvial terrace)という.河川の流れによっ
て谷底にできた平野において,相対的な海退(汎世界的な
海退,地殻の隆起など)に伴い侵食―河川の下刻作用―が
進行したために,現河床より高く台地状になった地形とさ
れる.一般に,高い段丘ほど形成期が古い.日本では,地
殻変動によって河成段丘が発達し,現河床からの比高が地
殻変動の指標となることがある(第 9.6 図).
氷河のはたらき
山地では重力,平坦な大陸では氷の厚さと高さに起因す
る圧力により,流動する巨大な氷の塊を氷河(glacier)と
呼ぶ.また,陸地を覆う 50,000 km 2 以上の氷河の塊を氷
床(ice sheet)と呼ぶ.地質時代には,地球の大陸上を大
規模な氷床が覆っていた時代があったと考えられている.
例えば,今から 10,000 年以上前の氷期には,グリーンラ
ンド,スカンジナビア半島,北米,パタゴニア(チリ)な
どは厚い氷床に覆われていた.また,今から 7–8 億年前に
は,赤道付近 の大陸 まで氷 床に覆わ れる全 球 凍 結 事件
(snow-ball Earth event)があったとされる.
山岳氷河と地形・堆積物
間氷期である現在でも,高緯度地域の高山では,氷河が
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たは双方が変化することを表す.例えば,流量が増加する と,増加分を