2010年度東大農経院
第2回「『農経』アプローチを考える」
2010年6月10日
有本寛
(一橋大学)
今回のゴール
• 事例研究と仮説検証研究の違いを理解する
• 仮説検証研究のスタイルや書き方を学ぶ
• どのような研究スタンスをとるか考える
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メニュー
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研究論文の要件,手法,タイプ
事例研究と仮説検証型研究
で,どっち?
仮説検証型論文を書いてみる
論文報告にあたって
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研究論文の要件,手法,タイプ
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研究論文に求められる
要件は何か?
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新規性:新しい知見があるか
独創性:(新規性とどう違う?)
資料性:データとして後世に残るか
有用性:知見が実際に使えるか
重要性:課題が取るに足るか
信頼性:再現可能か
厳密性:適切な手続きか
妥当性:知りたいことが測定されているか
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農経でよく使われる手法
• 文献調査
– 先行研究の理解,実態把握
• フィールド調査
– 実態把握,論点発見・発掘
• 理論分析
– 構造理解,抽象化,仮説提示
• 計量分析
– 統計的事実の記述,仮説検証
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事例研究と仮説検証研究
農業労働交換を題材にした例
宮西(2005)
Tue and Bulte (2010)
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宮西(2005):背景
• ユイ=労働交換を伴う協同労働
– 農作業,家屋建設,冠婚葬祭
• 日本全国で協同労働が崩壊
• 波照間島のサトウキビ収穫ユイマール
– 賃金精算の導入
– 刈り取り組合,収穫班 への変化
• 波照間のユイは存続  なぜ?
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宮西(2005):目的
• 実態分析を基に,波照間島の収穫ユイマー
ルにみられる協同労働組織の実態と新たな
機能について考察する
• ユイマールの
– (1)協同労働組織として持つ性格
– (2)現在の波照間島農業において果たす
経済的機能
の2点に関して明らかにする
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分析視角
• ユイの労働交換は「厳密な等量交換」?
• Yes?
 雇用関係と何が違う?
• 雇用関係=労働と賃金の等価交換
• RQ,分析視角:
– 「社会的統一性を持つ協同意識」があるか
– 賃金精算の導入  代償の観念強化?
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協同労働組織として持つ性格
1. 島内の全体的な利益も協同労働のインセン
ティブとなっている
2. 協同労働組織としての性格や総合扶助的な
規範が維持されている
• 存続要因
– 公平性:賃金精算
– 相互性:労働交換の義務感
– 柔軟性:相互扶助意識による柔軟な対応
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経済的機能
• 賃金制による規模の差の精算(?)
– ただし,気兼ねも存在
• 賃金支払いによる雇用創出?
– No.むしろ支払い超過
• 労働の保険
– 将来何かあったときに助けてくれる
• 外部労働力の効率的な受け皿
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主張1
• 主張1
– 島内の全体的な利益も協同労働のインセンティ
ブとなっている
• 根拠
– 製糖工場の効率的な稼働の必要性
– 1日100トン,収穫後24時間以内に精糖
– 計画的な出荷や品質向上という共通目標
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主張2
• 主張2
– 共同体に基づく協同労働組織としての性格や
相互扶助的な規範は維持されている
• 根拠
– ユイに依存した規模拡大への「気兼ね」
– 自分の圃場への責任感(任せ放しにしない)
– 労働交換の義務感
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H組の規模拡大の様相
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規模拡大を全面的にユイに
依存しているわけではない
ハーベスタの
利用も高い
ユイの受入
日数多い
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気兼ね?
• コスト比較では,協同労働<ハーベスター
• しかし,農家A,Bはハーベスターの利用率が
高い
• (規模拡大すると)協同労働では
– 自ら提供できる労働力が相対的に小さく
– 他の農家の負担が大きくなる
↓
気兼ね?
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労働交換の相互規範
ユイ全体の
総労働時間
の占有率
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労働交換の相互規範
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機能に関する主張
• 主張3:
– 賃金制が導入され,既存の規模格差の精算が
可能となった
• 主張4:
– 収穫ユイマールの組織内での雇用創出という
機能はあまりみられない
• 主張5:
– 外部労働力の効率的な受け皿となっている
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賃金精算すると収支マイナス
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ユイ=外部労働力の受け皿?
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主張6
• 主張6:
– 「労働の保険」としての機能が強くなっている
• 根拠
– 脱退した4戸のうち2戸の復帰が拒否された
• 自らが困った時だけ助けを求めた
– 「今は大丈夫でも,将来何かあった時を考えると
,組にいれば安心」「今は若い自分の負担が大き
いが,将来は自分も歳をとる」
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Tu and Bulte (2010): 背景
• 背景
– 信頼と経済成果に正の関係性が観察される
• 仮説
– 信頼は経済取引の基盤である
– 信頼している人ほど市場取引に参加する
• 課題
– 信頼の決定要因を明らかにする
– 信頼が市場取引への参加を規定しているか検証
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中国農村の農業労働調達
• 雇用労働(市場取引)
– モラルハザードの可能性(サボる)
• ユイ
– 互酬性と長期的関係がモラルハザードを抑制
↓
「雇った人がマジメに働く」という信頼が
ないと雇用労働は使わない
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信頼の測定
• 信頼ゲーム(実験)  general trust
– 出し手:
– 受け手 :
0 ≦ S ≦ 10 を差し出す
0 ≦ R ≦ 3S を返礼する
• 質問票  local trust
– “in general, do you think your friends and relatives
can be trusted or that you cannot be too careful
when dealing with your friends and relatives?”
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検証方法
• 信頼レベル(信頼ゲームの差し出し額)
• 農業労働調達(bivariate probit)
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信頼の決定要因
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信頼の決定要因
• 期待返礼額とは無相関 ??
• 返礼額が多い人は多く差し出す
• みんな出すっぽいなら自分も出す
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コメント
• 宮西(2005)
– ユイマールの実態がよくわかる
• 「気兼ね」, 「相互規範」 ,「労働の保険」の事例証拠
– 情報として非常に有益
• Tu and Bulte (2010)
– 既存の議論(信頼と市場参加)にうまく絡めた
– 雇用労働への着目に意外性とうまさ
– 「信頼」指標の測定の信頼性(再現性)
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宮西(2005)の疑問点
• 定義や判断基準がやや不明瞭
– 「社会的統一性を持つ協同意識」?
– ハーベスタ利用率高い  「気兼ね」?
– 総労働時間の23%が外部労働力  受け皿?
– ユイマール存続の要因として,そういうことも
あろうとは思えるが・・・
• 各主張の納得感に疑問残る
• が,「生の声」による裏付けは説得力ある
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Tu and Bulte (2010)の疑問点
• 「信頼」指標の測定の妥当性
– 期待返礼額と信頼が無関係なのに,
その信頼指標を信頼していいのか?
• 信頼雇用労働の実態がよくわからない
– 雇用労働のモラルハザードの定性証拠ほしい
• そもそもユイと雇用労働の実態が分からない
– 同じ作業?どう使い分け?
• local trustがないから雇用せざるを得ないの
では?
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研究論文のタイプ
問い
目的
仮説
結論
事例研究
どうなっているか?
実態を記述する
明示的にはなし
•発見した事実の整理
•新たな仮説の提示
仮説検証研究
なぜ?
因果関係を検証する
あり
仮説の採否
事例研究
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農経の十八番,「事例研究」
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事例研究とは何か?
どのような長短があるか?
意義と特徴は?
どのようなときに有効か?
• 参考:
– 佐藤仁(2003)「開発研究における事例分析の
意義と特徴」『国際開発学研究』第12巻第1号.
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事例研究とは?
• 「そもそも統計的な意味での一般化を
目指さずに,何がしかの理論に基づいて
選ばれた少数の事例を深く調べる調査」
• フィールド調査を主な手法とする
• 事例の詳細な情報を収集・加工・編集
• 事例の実態を報告
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事例研究への批判
• 非科学的,再現性がない,信頼性が低い
– 誰もが同じ結論に到達できるか(再現できるか)
• 一般性に欠ける
– その発見はどれぐらい一般的(普遍的)なのか
• 研究としての意義は?
– ルポや雑誌記事と何が違うのか
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事例研究が活かされる場面
• 事例という方法しかとることができないとき
• ある特定の問題状況の深い理解が必要と
されるとき
– コンテクストへの目配り
– 要素や論点の発掘
• 事例研究の意義は,その方法自体に依存
するのではなく,調査の目的との関連に
おいて定義される
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事例研究の意義と特徴
• 佐藤(2003)
– 様々な事例に共通する類型を生み出せる
– 大規模サーベイよりも優れた妥当性を示す
– 科学的な一般性より実践的な有用性を希求
• さらに追加したい:
– 仮説提示力(理論モデルをつける)
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類型化の例:失敗百選
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失敗行動の類型化
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信頼性と妥当性
• 信頼性=再現可能性
– ダーツの矢が繰り返し同じ場所に当たるか
– 科学的な立場からみて「正しいか」
• 妥当性=本来測定されるべきものが測定
されているか
– ダーツの矢が的を外していないか
– 実践的な立場からみて「使えるか」
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信頼性を高める工夫
• 他の事例との比較や量的データとの統合に
よって,妥当性を吟味
• データの獲得方法,一般化の手続きを
透明にする
• 背景条件を豊かに記述する
– それが問題として立ち現れた過程を記述
• 理論化(モデル化)
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仮説検証型論文
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4つの質問
1. 検証しようとする因果関係は何か?
– 原因と結果は何か?
2. どのような状況(実験)なら,その因果関係を
浮き彫りにできるか?
3. どのような識別戦略をとるか?
4. 統計的推定の方法は何か?
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仮説と検証戦略
• 検証戦略:
– ○○の違いで××の違いを説明する
– 例:薬投与の有無で治療効果を説明する
– 例:勉強時間で成績を説明する
– 「バラツキ」=variationが必要!
– 仮説(原因と結果の関係に関する説明)が必要!
批判
• 妥当性の疑問
– 信頼性を追究し過ぎると,分析対象が限られる
(もはや,社会実験じゃないとダメ?)
– 細部にこだわり,本質的な問いを問うていない
• 新規性への疑問
– 既に事例研究で言われていることを再確認して
いるだけでは?
• 個別性の捨象への疑問
– 一般性にこだわり,細かな違いを見逃しているの
では?細かい違いが実は重要なのに.
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仮説検証の意義と特徴
• 科学性(再現性,信頼性)
– 恣意性の排除
• 一般性
まあ,そういうこともあるだろうけど・・・
でも,それ,どれぐらいよくあること
なんデスカ?
– 突飛な事例や逸話に振り回されない
• エビデンスに基づいた政策
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で,どっち?
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エビデンスとは?
•
•
•
•
学術論文には必ず結論がある
結論=主張
主張には根拠(エビデンス)が必要
根拠?
– 論理的根拠(理論分析)
• その主張が論理的に正しいか?
– 実証的根拠 (実証分析)
• その主張が経験的に正しいか?
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実証的根拠にもレベルがある
•
•
•
•
事例証拠
記述統計
相関関係
因果関係
では,どのレベルのエビデンスが必要か?
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結局のところ
• 研究の目的と「場」による
– 目的:何のための研究か?
– 「場」=分野.その分野で妥当とされるエビデンス
の水準,敷居,妥当性境界
• 信頼性や一般性vs. 新規性
– 信頼性や一般性は弱くとも,それを補って余り
ある新規性や独創性があればよい(?)
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事例研究vs.仮説検証?
• 事例研究と仮説検証型研究は排他的でない
– データや現場をみて仮説を考えたり修正したり
することも多い
• 演繹:仮説実証(観察)
• 帰納:観察仮説
• 論文の書き方(スタイル)の違い?
– 多角的な視点から事実を網羅的に記述
– 流れ=ストーリーがないと読みづらい
• どこからどこ行くか,ゴールがどこか分からない
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仮説検証型論文を書いてみる
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仮説検証型論文の構成
1. 導入
–
–
–
–
–
研究の背景・動機
目的と課題,仮説
先行研究
主な結果
論文の構成
2. 背景・コンテクスト
3. 仮説と検証方法
– 仮説(理論モデル)
– データ,識別戦略
4. 検証結果
– 記述統計
– エコノメの結果
– 結果の解釈
5. 検証結果の吟味
– 頑健性のチェック
– 代替仮説の排除
6. 結論
導入で首を3回縦に振らせる
• 背景
– 正確な事実認識の共有
• 目的
– 背景から導き出される問題(issue)とその重要性・
意義への共感
• 課題
– 目的の到達に適した仮説やアプローチであること
への賛同
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計量実証研究の流れ
モチベーション,意義
背景を整理する
仮説をたてる
仮説の論理を整理
(できればモデルで)
5. 仮説を推計式で表す
6. 識別上の問題を整理
1.
2.
3.
4.
7. データを探す
8. 識別戦略をたてる
9. 推計する
10. 頑健性チェック
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論文報告にあたって
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ゼミで報告すること
1. 背景
– 背景となる客観的事実
2. 課題と方法
–
–
–
–
研究の「問い」
仮説
検証戦略
検証方法
• データ
• 方法
3. 結果
4. コメント
– 感想
– 問いに共感できたか?
– 課題や仮説は適切か?
– 結果の解釈に納得でき
るか?
発表にあたってのヒント
1. レジュメは棒読みするな
2. PowerPointをレジュメ代わりに使うな
大きく
3. 字は
4. (一撃必殺の)図表を使え
5. 制限時間内で話す優先順位をつけろ
6. よく練習しろ
レジュメとしてはわかりやすいが
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図を使え
処置群 対照群
1990
2000
20
50
15
60
70
60
50
40
30
20
10
0
1990
処置群
2000
対照群
今週の課題
• 修論もしくは博論の章として取り上げようと
しているトピックや論点について
– 背景
– そのトピック・論点を取り上げる意義,重要性
– 具体的な課題(明らかにしようとすること,仮説)
• できれば注目する原因と結果の関係まで特定すること
• A4二枚以内
• 〆切: 6/17の講義時(メールでも送ること)
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スライド2 - 一橋大学経済研究所