居住系ケアマネジメント
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ケアハウス第二椿寿荘 (長崎県諫早市)
介護保険施設、GH、小規模多機能─
居住系施設でのケアマネジメント、また、
そこでのケアマネジャーの役割とは何だ
ろうか? 第一線からのレポート。
在宅に近い個別ケアをめざし、
介護職中心のケアマネジメントシステムを構築
特養に負けないケアを進めるために
さんは語る。
田園地帯を見下ろす丘の一角に、向かい合
「第二椿寿荘」の場合、そもそも自立型ケア
って建つ2棟のケアハウスがある。そのひと
ハウスの「椿寿荘」で対応が困難な利用者の
ちん じゅ そう
つ「椿寿荘」は、平成11年にオープンした自
終の棲家として、特定施設入居者生活介護の
立型ケアハウス。基本的には身辺自立してい
指定を受けて整備したため、要介護3の利用
るが部分的に身体機能の低下が見られる高齢
者が半数以上を占め、中には要介護4や5の
者に対し、炊事と入浴のサービスや生活相
利用者もいる。そして、
「ターミナルケアを
談、緊急時連絡対応などを行う。一方、
「第
はじめ、特養に負けないケアに取り組んでき
二椿寿荘」は、特定施設入居者生活介護の指
た」という。
定を受けた介護型ケアハウスだ。ケアプラン
立ち上げ当初からのケアの基本コンセプト
に基づき、入浴・排泄・食事等の介護や日常
は、
“できる限り在宅に近い、個別ケアの実
生活上の支援、機能訓練および療養上の支援
践”
。施設全体としての日課を設けず、ケア
を行うもので、5年前にオープンした。
プランに基づく個々の生活スタイルの構築に
介護型ケアハウスの法令上の人員基準は、
注力してきた。このため、1. 8対1という手厚
要介護者:介護職と看護職を合わせた職員=
い職員配置のもと、当初は1ユニット10名ず
3:1以上で、生活相談員、ケアマネジャ
つ計5ユニットに分け、職員を固定していた。
ー、機能訓練指導員の配置が義務づけられて
そんな同施設が大きな変革に踏み切ったの
いる。特養と比較した場合、利用者の負担費
は2年前のこと。10名ずつ2ユニットに分け
用が高めであることを除けば大差ないように
ていた2階と3階の各フロアを20名1ユニッ
思われるが、
「特養の利用者が重度化してい
トとし、常勤職員についてはユニット固定で
るのに対し、ケアハウスの利用者は一般的に
はなく、ローテーションで各ユニットをまん
要介護1ぐらいまでが限界。また、特養では
べんなく担当する形にした。事実上のユニッ
嘱託医の配置が義務づけられていますが、ケ
ト解体である。
アハウスでは協力医療機関との契約が義務づ
その主な理由は、夜間は3階建ての各フロ
けられているのみで、医療ニーズの高い利用
アを常勤1名非常勤3名の計4名でカバーし
さいくさ
者は少ないでしょう」と副施設長の七種秀樹
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ケアマネジャー|vol.13-no.12|2011-12
なければならず、職員が担当ユニットの利用
第二椿寿荘の外観。1Fから 3 Fまで居室があり、フロア
ごとに入居者の状態が異なっている。他にショートステ
イとヘルパーステーションを居宅介護支援事業所と併設
副施設長の七種秀樹さん。ケアマネジャーの平野さんとは、立ち上げ時から苦
楽を共にしてきた仲。施設も在宅も経験した二人が、試行錯誤の末に、現在の
在宅の仕組みを取り入れたケアマネジメントシステムに辿り着いたという。同
施設での情報共有に欠かせないPCシステムも、七種さんが独学で開発した
者しかわからないようでは対応できない、と
なければ絵に描いた餅。ケアプランを理解
いうのがひとつ。そして、職員の急な欠勤時
し、根拠あるケアに組み立て、実行できる介
には、ユニットを越えて協力しあわなければ
護職の育成が急務でした」
(七種さん)
対応できないため、日頃から担当外のユニッ
さらに、計画実施後の評価もケアマネジャ
トのことを把握しておく必要があった。法令
ー任せにせず、月に一度担当介護職が評価
上の最低基準より手厚い職員配置とはいえ、
し、ケアマネジャーに提出。モニタリングの
ユニットケア・個別ケアを徹底するには不十
判断材料のひとつとしている。
分であり、常勤職員が全利用者の状態を把握
同施設に2人いるケアマネジャーの長であ
し、協力しあう体制が不可欠だったのだ。
り、介護と看護部門の統括リーダーでもある
平野由紀美さんいわく、
「これらの仕組みに
情報共有を徹底し、
よって、できていることとできていないこと
ケアプランの実効性を高める仕組みづくり
がとてもよくわかるようになるとともに、利
だが、各職員が利用者50名の情報すべてを
用者の満足度もわかるようになりました。と
把握することは容易ではない。そこで、各フ
ても優れた仕組みだと思います」
。
ロアのパソコンからいつでも誰でも申し送り
職員間の情報共有レベルがアップし、ケア
事項の入力と閲覧ができるようにし、出勤時
プランの精度が上がるにつれ、不要なケアや
には確認を義務づけるなど、情報共有のため
過剰なケアは自ずと削ぎ落とされていく。こ
にシステムを改良した。また、ケアプランの
のことは結果的に、限られたマンパワーを最
実効性を高めるため、ケアマネジメントサイ
大限に生かすことにつながっている。
クルにおける介護職の役割強化にも踏み切っ
現在ではすっかり現場に定着した感のある
た。介護職1人につき利用者3∼4人を受け
ケアマネジメントサイクルだが、同施設では
持つ担当制を導入するとともに、サービス担
特に勉強会などを開いたことはなく、あくま
当者会議で決定したケアプランの短期目標に
でもOJTで定着を図ってきた。また、個別援
基づき、担当介護職が個別援助計画の作成を
助計画の立案から実施、評価という一連の業
担うようにしたのである。
務について、ケアマネジャーが介護職に直接
「どんなにすばらしいケアプランも実行でき
指導することはない。
「
“現場のことは現場で”
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施設としての日課はないが、個別援助計画に基づいた
個々の日課は存在する。レクのメニューをもっと増や
したいが、地域の事情もあってボランティアの確保は
難しいという
ケアマネジャーの平野由
紀美さん。七種さんと作
りあげたケアマネジメン
トシステムに基づき、現
場のケアマネジメントを
回していく
ケアプランの第2表と連動した
「個別援助計画書」
。目標やサ
ービス内容に対する評価・所見を、介護職員がその都度記入し
ていく。
「ライフサポート」は、食事やADL、過去・現在・未来
への思いなど、プランには挙がらない情報が記載されている
が基本。介護主任を通して質問や提案をする
れた場合、各専門職がそれぞれの視点で1週
ことはありますが、介護職の指導教育を担う
間観察したのち、ミニカンファレンスを開
のは介護主任です」
(平野さん)
。
催。各専門職の意見を総合してケア方針を立
専門職によるサービス担当者会議を決定機
てる。
関として、各職種がそれぞれの専門性を発揮
「食べることは健康や命にかかわることであ
するのが同施設のチームアプローチの原則。
ると同時に、楽しみでもありますよね。です
ケアマネジャーはそのための調整・連絡役で
から、誤嚥によるリスクを減らす対策に加
あり、あくまでも裏方なのだ。
え、少しでもおいしく食べていただくための
工夫が必要です。そういう意味でも、多職種
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介護職を中心に各専門職が連携
の視点や知恵は欠かせません」と平野さん。
各専門職の横の連携についても、同施設の
嚥下に関する機能的な能力を改善するため
スタンスは明確だ。七種さんいわく、
「治療
の訓練や口腔ケアについて、計画や指導を担
中心の病院と違い、ここは最期まで生活が中
うのはSTの菖蒲航さんだ。毎日夕食前に各
心の施設。ですから、現場の最前線に立つの
フロアの食堂で行っている「健口体操」も、
は介護職であり、他の専門職は後方支援を担
嚥下機能を高める体操として菖蒲さんが考案
うという形で連携しています」
。
し、介護職にやり方を伝授した。
その一例として、口腔ケアの取り組みを見
嚥下に限らず、身体や脳などの機能訓練全
てみよう。同施設では一時期、誤嚥を起こす
般をSTが担い、ケアプランに基づいて個別
利用者が増えた。そこで、介護職・看護職・
訓練計画を作成する。もっとも、日常的な実
言語聴覚士(ST)
・栄養士の各専門職からな
行部隊の中心はあくまでも介護職。STはケ
る口腔ケア委員会において、
「誤嚥リスクチ
アプランの目標を達成するための方法や注意
ェック表」を作成。これを用いて、介護職が
点を洗い出し、居室や小集団レクの中ででき
全利用者について入居時および年1回のチェ
る訓練を考案。これを介護職に実行してもら
ックを行うほか、嚥下に関する変化が見られ
う。
「利用者50名に対し、僕ひとりで行える
た利用者には随時チェックを行っている。そ
訓練の回数は限られています。また、訓練の
の結果、誤嚥リスクが高まっていると考えら
基本目的は今の生活を維持すること。介護職
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わたる
けん こう
食堂に併設されている一時介護室は、終末時などに家
族が泊まれるよう開放されている。
「ここは、いつで
も、家族が来やすい雰囲気をつくってくれる」と、毎
日食事介助に訪れるという家族が話してくれた。窓の
外には、諫早の田園風景が広がる
介護主任の川内野昭子さんと言語聴覚士の菖蒲航さん。
「ケア
プランを軸に、情報の共有が密に取れているからこそ、互いの
専門性をより発揮することができる」と二人は語る
と情報交換しながら、無理なく楽しく生活の
うにしている。最期を施設で迎えるにしろ、
なかで継続できる訓練方法を考え、指導する
病院で迎えるにしろ、大切なのは「家族に後
のが僕の仕事です」と菖蒲さんはいう。
悔させないこと」と考えるからだ。
今までに同施設で看取った人は4名。夫婦
最期までその人らしく…
で入居していたあるケースでは、衰弱し、嚥
生活施設ならではの看取り
下能力も低下していた夫を認知症の妻が起こ
ターミナルケアについては、
「基本的には
そうとしたり、固形物を食べさせようとし
ふだんのケアの延長上にあり、何か特別なこ
た。そこで、家族も交えてカンファレンスを
とをやっているわけではありません」と七種
した結果、最期まで夫に寄り添って世話を焼
さん。介護職を中心に各職種が連携して利用
こうとする妻の気持ちを最大限尊重しようと
者を支えるスタイルも、通常と変わりない。
決め、妻を含めたターミナル期のケアプラン
ただし、医療的な処置が必要になった場合
を作成。職員が一丸となって看取りを行っ
にはできることとできないことがあるため、
た。家族は、両親が最期まで一緒に過ごせた
ターミナルケアを希望する家族には、あらか
ことを喜んだという。
じめそのことを説明し、了承してもらうこと
5年間、手探りの実践を続けてきた結果、
が前提となる。たとえば、日中はかかりつけ
ケアの中心を担う介護職にうれしい変化があ
医の協力があれば点滴なども可能だが、夜間
った。以前は介護主任やケアマネジャー任せ
の痰の吸引や点滴などはできないため、いざ
だったケース会議で積極的に意見を述べるよ
という時には救急車を呼ぶしかない。
うになったこと。観察力が身につき、問題が
説明を聞いた家族の多くは病院での延命行
起こった際にその原因や背景を分析できるよ
為を望まず、
「最期までここで」と希望する
うになったこと……等々。一方、同じ介護職
が、いざ状態が悪化して呼吸困難や痛みに苦
の間で仕事に対する意識やレベルに格差が生
しむ姿を目の当たりにすると、入院を希望す
まれていることも否めないという。同施設で
る家族もいる。そこで、ターミナル期終盤な
は今後、職員の評価と教育に一層力を入れて
どに状態の変化が激しくなればケース会議の
いくつもりだ。
頻度を上げ、こまめに家族に現状を伝えるよ
(フリーライター 金谷眞理子)
2 0 1 1 -12|vol.13-no.12|ケアマネジャー 55
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