むなかた電子博物館紀要 第 5 号
2013 年 10 月 1 日
【資料】
「北斗の水くみ」は永遠か?
平井 正則
「北斗の水くみ」の姿は“世界広し”といえども、緯度ほぼ 33 度、北に海を抱く地、宗像海岸
でしか見られない。
それでは、
「北斗の水くみ」は永遠に見ることができるのだろうか?
天文学で永遠の議論は、たとえば、太陽系は永遠に安定か?という議論があった。
現代の天文学では宇宙は 137億年前にビッグバンで誕生し、それに続くインフレーションを経
て、膨張し続け、なんと、現在、宇宙膨張は加速しつつあると云われる。
その宇宙で、太陽はほぼ 50 億年前に誕生し、やがて、我が地球は 46 億年前に誕生した。
現代宇宙論では宇宙は進化していて、その意味では宇宙は永遠でない。紀元 540 年頃のギリシ
ャの自然哲学者ヘラクレイトスはすでに“万物は流転する”とした。
現代の科学では、たとえば、ニュートンの物理法則は永遠(普遍)だ。しかし、世界が終われ
ばその成立を確かめようがない。太陽が巨星段階に行く 50 億年後、これまでの安定した水素燃焼
から灰のヘリウムに火がつくと太陽は膨らみ、巨星となり、明るくなり、光と熱によって地球上
の生命もその終焉を終えるであろう。
我々地球の永遠とは太陽の終焉による 50 億年ということか?
北斗七星を構成する7つの星はいずれも恒星で、主に分光型 A 型などの主系列星だから 100 億
年ていどの寿命はもつであろう。だから、七つの星は消えない!太陽と同じくらい永遠!である。
事はそれほど大げさでなくても上の議論のように“永遠”については但し書きが必要であろう。
現在、人間の寿命は長くて 100 年ていどだから、100 年を超えて変わらない現象は常識的に永
遠であろうか。つまり、どのくらいの時間を問題にするかを決めないと永遠の議論は成り立たな
い。ここでは、どのくらいの時間経ったら、北斗七星はどのように様子が変わるかを知って、
「北
斗の水くみ」現象が永遠かどうかを考えてみよう。
結論は、我々にとって宗像海岸での「北斗の水くみ」現象は 500 年くらい!(20 世代くらい)
はかわらず、
“永遠”であることになる。
以下、詳しくみよう。
現代天文学では、次のふたつの原因で天球上の星の位置がズレることが分かっている。
ひとつは「歳差」呼び、こまのミソスリ現象のように、地球の自転軸が公転面(黄道)に対し
て 23.5 度傾いていて、約 25,800 年で一周する。また、星が天球上のどの位置に在るか(星の座
標)によって、ズレの大きさが異なるという特徴的な動き方をする。
もうひとつは「恒星の固有運動」によって北斗七星の配置が変わる。
恒星の固有運動とは 100 年くらいの時間経過で位置のズレが顕著になる現象である。
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「北斗の水くみ」は永遠か?
平井正則
視線上、我々に恒星が近づくか、遠ざかる運動は固有運動の視線運動成分と呼ばれ、恒星のド
ップラー効果を測って分かる。また、我々の視線面に垂直面内で南北と東西に動く接線方向運動
成分は天球上のズレとして観測される。これらは、現代、観測衛星を使って大気外で精度良く観
測されている。個々の星は勝手な運動をしている。
1)地球の歳差運動による北斗七星のズレ
地球の歳差運動は西洋ではギリシャの天文学者ヒッパルカス、東洋では中国の 4 世紀、東晋時
代の暦学者の虞喜(ぐき)が発見した。
図 1 歳差
長澤 工「天体の位置計算」
現在は、大型の望遠鏡を使って天体を観測するには必ずこの歳差補正が必要である。
公転面と天球の交わる黄道の北の極「黄極」はりゅう座の赤緯 66°26‘45“(1950 年)にあっ
て、これを中心に天の北極は約 25,800 年かかけて時計周りに 1 周する。ピラミッドの作られた時
代りゅう座のツバーンが北極星だったとか、将来、夏の星座ベガが北極星になるというのはこの
ことである。
現在、北極星(こぐま座のα星)近くの“天の北極(自転軸の方向)”は黄極を中心に円を描い
て、南西向き(時計周り)に移動しているので、毎年、西ほぼ 50 秒角、南にほぼ 26 秒角移動す
る。我々の今見えている北の星座は少しずつ、地平線に隠れて(沈んで)いくことになる。
図 2 北斗七星の見え方(宗像海岸)
1413 年
2013 年
120
2613 年
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2013 年 10 月 1 日
では、時間とともに北斗七星がどうなるかを調べてみる。
柄杓の底にあたる“ほ、く、と、し、ち、せ、い”の“く”と“と”星はほぼ水平線に並行だか
ら“く”の星(βUMa)だけに注目すると大気差も考慮して、次の図 600 年前の 1413 年、現在
(2013)
、600 年後の 2613 年である。
つまり、2600 年には柄杓は水に沈んでしまい、もっと北の地方からしか柄杓全体が見えなくな
る!宗像海岸では、あと 600 年も経てば柄杓の底は水平線に沈んでしまう。
逆に 600 年前(足利義持時代)では北に高く、宗像では、やはり、柄杓は水に接しない!
2)恒星の固有運動による北斗七星の配置のずれ
地球から見る恒星は固有運動とよぶ勝手な動きをする。その動きは、また、地球からみて遠い
星ほどゆっくり、近くの星ほど大きく動いて見える。太陽も勝手な向きに動いているが、これは
北斗七星の配置を崩す原因にはならないので無視できる。
良く知られるように大気を構成する原子・分子温度ゆらぎで勝手に運動する。同様に、恒星も
原子・分子にあたるゆらぎをもつが、銀河という箱に入っているため銀河の構造により重力で縛
られているらしい。しかし、恒星の固有運動とはこの原子・分子の温度ゆらぎに似て、個々の恒
星の固有の運動をしていると考えてよい。
図 3 恒星の固有運動
岡村定矩「銀河系と銀河宇宙」
今、問題は北斗七星の配置が構成する星の運動でどう配置が変わるかである。個々の星の固有
運動のうち、視線面内の観測値を使って計算すると次のようになる。
2000 年後を見る。
「く」
「と」
「し」
「ち」
「せ」の 5 星は 1,000 年経っても、東西に動くが、それほど相対的な位
置は変えない(
「く」は東北方向に動く)
。ところが問題は「ほ」と「い」である。
ともに南西へそれぞれ「ほ」は 4.7 度(1.2 度西、4.5 度南)動き、「い」は 4 度(4 度西、0.5 度
南)も動く。
2000 年後には北斗七星とは言えなくなるだろう。
つまり、固有運動では 2000 年後の紀元 4000 年くらいには北斗七星の柄杓の形は壊れることに
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平井正則
なるというのが結論である。
図 4 北斗七星の経年変化(単位:秒角)
黒:2013 年現在 赤:3013 年 青:4013 年
以上1)と2)の結果から、1000 年経っても北斗七星の形はほとんど変わらない。しかし、600
年後には柄杓の底が水平線に沈んで、宗像海岸では水くみの形は見られない。
北斗の水くみはあと 600 年くらいの永遠の姿と言える。
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