テーマA
【小学校
社会】
佐賀市立思斉小学校 教諭
要
桑原
良太
旨
社会科の学習においては,社会的な見方や考え方を成長させることが重視されている。そのため
に,社会的事象の特色や意味,事象間の関連などを話し合ったり,多様な考えを出し合って自他の考
えや見方を比べたりする学習場面が必要だと考える。そこで,本研究では,問題解決的な学習の「調
べる」過程において,小集団での話合い活動を設定し,セパレートシートマップを使って自他の考え
や根拠を比べさせるような学習を行った。これにより,習得すべき知識と概念が結び付きやすくな
り,社会的事象の特色や相互の関連について考えることができるようになってきた。
〈キーワード〉
1
①自他の考えや見方を比べる
②セパレートシートマップ
③考えの振り返り
研究の目標
社会的な思考力を育成するために,中学年の地域社会に関する学習において,自他の考えや見方を比
べる学習活動の指導の在り方を探る。
2
目標設定の趣旨
小学校学習指導要領解説の社会編においては,改善の基本方針に「社会的事象に関心をもって,多面
的・多角的に考察し,公正に判断する能力と態度を養い,社会的な見方や考え方を成長させることを一
層重視する方向で改善を図る」1) とある。また,改善の具体的事項には「比較・関連付け・総合しながら
再構成する学習や考えたことを自分の言葉でまとめ伝え合うことによりお互いの考えを深め ていく学
習の充実を図る」2) とあるように,言語活動を重視することが求められている。これらのことから,お互
いに多様な考え方や違う価値観に触れながら,社会的事象の関係や傾向などを探っていく学習活動を取
り入れることで,社会的な見方や考え方の成長につながると考えることができる。
平成 25 年度の佐賀県小・中学校学習状況調査報告によると,社会的事象についての知識の定着や社
会的な問題について論述したり,事象の意味を説明したりすることについて課題があることが分かった。
このことから,習得すべき知識と概念を結ぶために,社会的事象の特色や意味,事象間の関連などを話
し合ったり,多様な考えを出し合って自他の考えや見方を比べたりする学習場面が必要だということが
考えられる。
所属校の3年生児童の実態を見ると,言葉のもつ意味を事実や情報と結び付けて分かりやすく説明し
たり,根拠を明確にして考えを伝えたりすることを苦手としている児童が多い。また,身近な社会問題
に対しての体験知や経験知の個人差が大きく,自分の生活とのつながりを強く意識している児童は半数
ほどである。習得した知識が他の社会的事象へと結び付きにくい児童が4割おり,他の社会的事象への
転移が円滑に行われていない様子が浮かび上がってくる。家族形態の変化,地域行事の減少,居住環境
の多様化などを要因として,家庭と地域との関わりが少なくなっている中で,地域社会の一員としての
自覚や地域社会に対する誇りや愛着が求められている。社会科が始まる3年生で,生活に身近な地域社
会を見る目や考え方の基礎を養うことは重要であると考える。
これらのことから,自分の考えを振り返らせる場面の設定や,自他の考えや見方を比べる話合い活動
の工夫が必要であると考える。
そこで,本研究では,研究テーマ,研究課題を受け,中学年の地域社会の学習において,自他の考え
や見方を比べる学習活動の指導の在り方を探っていく。一人一人が習得した知識を活かし,自他の考え
や根拠を比べる小集団での話合い活動を通すことで,社会的事象の特色や相互の関連について考える力
を育成できると考え,本目標を設定した。
3
研究の仮説
問題解決的な学習の「調べる」過程において,小集団での話合い活動を設定し,セパレートシートマ
ップを使って互いの考えや根拠を比べさせれば,社会的事象の特色や相互の関連について考える力が育
つであろう。
4
研究方法
(1)
社会的な思考力・判断力・表現力を育成する指導に関する理論研究
(2)
児童の意識・態度や社会的な思考力・判断力・表現力に関する実態調査
(3)
仮説を検証するための授業実践
5
研究内容
(1)
先行研究や文献を基に社会的な思考力・判断力・表現力を育成する指導についての理論研究を行う。
(2)
アンケートによる意識調査及び社会的な思考力・判断力・表現力のレディネス問題を分析し,単元
構成,発問,資料提示の工夫などに生かす。
(3)
所属校の3年生における単元「農家の仕事」(3時間)と「のこしたいもの,つたえたいもの」(3時
間)において授業実践を行い,仮説を検証し,手立ての有効性を示す。
6
研究の実際
(1)
文献等による理論研究
思考力・判断力について,寺本は「仲間との対話により吟味されることで,より科学的な思考活動
を促し,社会生活を広い視野から捉え直し,総合的に理解することにつながるものである」3) と述べて
いる。思考力・判断力・表現力を育てるために,澤井は「観察や資料活用で情報を獲得し,それを既
有の知識と組み合わせながら,(社会的事象の特色や意味など)学習問題の解を見つけるためにほかの
子どもと一緒に考えるような学習展開を図ること」4)と述べている。また,小原は「自分の見方・考え
方と友達のそれを比較し,意見をかかわり合わせることで,さらに追究が深まり,社会的事象のもつ
意味にせまっていくのである。」5 ) と述べている。
以上のことから,問題解決的な学習過程において,児童に互いの見方や考え方を比べさせることが,
社会的事象の特色や意味などを考える力を付けるのに有効だと考える。そこで,小集団での話合い活
動を設定し,互いの考えや根拠を基にした理由付けを比べさせることで,社会的事象の特色や相互の
関連について考える力が育つと考えた。
(2)
研究の構想
ア
自他の考えを比較しながら社会的事象の特色について考える力を育成する学習過程
本研究では,単元の学習過程を「つかむ」
,「調べる」
,「まとめる・深める」の3つの段階で構成す
る。
「つかむ」段階では,児童の生活に身近な社会的事象を提示し,自分の生活とのつながりを意識
しやすくさせる。学習問題に対する予想について話し合い,見通しをもった学習計画を立てさせる。
「調べる」段階では,前段を学習問題を基に調べ活動を行い,社会的事象についての事実を捉える
時間,後段を調べた事実を基に少人数で考えを出し合い社会的事象について考える時間と する(次
頁図1)。調べる時間と考える時間を明確に位置付ける。調べる時間と考える時間を交互に行う場合
や調べる時間が終わった後に考える時間をもつ場合などが考えられる。後段の社会的事象について
考える際に,自他の考えや見方を比べる小集団での話合い活動を仕組み,調べて分かったことを基
に比較・関連付け・総合しながら社会的事象の意味付けを行い,知識を習得させていく(図2)。これに
より,調べて分かった事実を正しく理解できると考える。
図1
イ
学習過程
図2
「調べる」過程の中の位置付け
「社会的事象の特色について考える時間」における社会的事象を比較・関連付け・総合するための手
立て
(ア)
セパレートシート
上に「考え」を,下に「根拠を基にした理由付け」
を書く (図3)。上下を切り離して使うことができるよ
うに切り取り線が入っている。3人組で自他の考えや
根拠を比べるときに切り離して使う(図4)。セパレー
トシートを使う目的は2つあり,1つは根拠を基にし
た考えを導くためである。そして,もう1つは多面的
な見方ができるようにするためである。多面的な見方
について説明する。根拠は同じだが考えが違う場合は
図3
セパレートシート
(自分の考えを書く)
図5のようになり,1つの事象に多面性があり,いく
つもの考えが出る場合に対応できる。また,根拠は違
うが考えが同じ場合は図6のようになり,複数の事象
のつながりから考えを明らかにしていく場合に対応で
きる。
このセパレートシートは,まず,自分の考えを表現
するときに使い,次に3人組で話し合う場面で使うよ
うにし,自他の考えや根拠を基にした理由付けを比べ,
より多面的な見方や考え方がもてるようにするもので
ある。
図4
セパレートシート
(考えを比べるために切り離す)
図5
根拠が同じ場合
図6
根拠が違う場合
(イ)
セパレートシートマップ
セパレートシートを切り離
して個人の考えを貼り集めた
ものをセパレートシートマッ
プと呼ぶ(図7)。これを基に
小集団で話合いを行わせる。
自他の考えや根拠を基にした
理由付けを比較・関連付け・
総合しながら社会的事象の特
色 を 考 え さ せ る こ とができ
る。まず,考えを比べながら
貼っていく(図8①)。関連し
図7
セパレートシートマップ
③
ているものは同じカテゴリー
①
の枠に入れる(図8②)。いく
つかにカテゴリー化されたも
のを総合して一つにまとめた
り,相互に及ぼしている関連
②
について明らかにしたりする
(図8③)。このようにして,
社会的事象の特色や相互の関
連について考える よ う に す
図8
セパレートシートマップの活用方法
る。
ウ
検証の視点と手立てについて
(ア)
【検証の視点Ⅰ】セパレートシートによって根拠をもった考えが表現できるようになったか
問題解決的な学習の「調べる」過程において,セパレートシートに,調べて分かったことを根
拠とした自分の考えをもたせる。これにより,調べて分かったことに意味付けをさせたり,調べ
て分かったことから社会的事象についての特色を考えさせたりすることができる。しかし,自分
の考えをもつことができても,根拠がない場合も考えられる。その場合には,自分の考えにつな
がる事実を探させたり,理由付けを考えさせたりすることで,自分の考えを明確にさせる。この
ようにして,セパレートシートに自分の考えと根拠を基にした理由付けを書かせることで,社会
的事象に対する見方を養うことができると考える。
(イ)
【検証の視点Ⅱ】セパレートシートマップによって自他の考えを比べることで社会的事象の特
色を探ることができたか
まず,ある考えに至った経緯が見えるように,その考えと根拠を基にした理由付けを紹介させ
ながらセパレートシートマップに貼らせる。次に,自他の考えと根拠を基にした理由付けを比べ
させることで,共通点や差異点に気付かせ,物事の多様性や多様な考え方に触れさせる。そして,
関連付けさせたりまとめさせたりすることで社会的事象の見方を広げさせたり,社会的事象の特
色や相互の関連について考える力を育てたりすることができると考える。
(3)
授業の実際
ア
検証授業 第3学年 単元名「のこしたいもの,つたえたいもの」(平成 27 年 1 月実施)
(ア)
単元の目標
地域の人々が受け継いできた文化財や年中行事について,見学・調査したり,保存・継承について
携わる人から話を聞いたりして調べ,文化財や年中行事に込められた地域の人々の願いや思いが分か
り,保存・継承するための努力や工夫について考えるようにする。
(イ)
単元の概略について(全9時間)
本単元では,まず,県内の祭りと香椎神社(佐賀市久保田町)の祭りについて参加人数と歴史の長さ
を比較させる。「規模は小さいのに,ずっと続いてきたのはなぜだろう」という疑問をもたせ,「香椎神
社の秋祭りはどのようにして 800 年も続いてきたのだろうか」という学習問題へと導く。次に,この
学習問題についての予想を話し合わせることで解決に至るまでの学習の見通しをもたせる。この学習
問題について追究する際に,香椎神社を見学したり,神主や地域の人々,浮立を継承する指導者から
聞き取りを行ったりして,祭りを中心に神社や浮立について調べる。そして,社会的事象について考
える時間では,全体での話合いの前に,調べて分かったことから社会的事象の特色を考えさせる小集
団での話合い活動を行い,地域の人々の思いや願い,工夫,努力を探らせる。最後に,学習問題の解
決を図り,ふるさとカルタを作ることにより地域社会の一員として,地域へのつながりを意識させた
いと考える(表1)。
表1「のこしたいもの,つたえたいもの」単元計画
時
1
2
○祭りの比較から疑問点を出し,学習問題をつくる。
つかむ
学習問題
香椎神社の秋祭りは,どのようにして 800 年も続いてきたのだろうか
○学習問題を予想し,調べることを話合い,学習計画を立てる。
3
○香椎神社で見学したり歴史やいわれなど神主の話を聞いたりして調べる。
4
○香椎神社について調べたことを基に考える。(検証の視点Ⅰ・Ⅱ)
5
6
○秋祭りについて様々な立場の人の思いについて調べる。
調べる
○秋祭りについて調べたことを基に考える。 (検証の視点Ⅰ・Ⅱ)
7
○浮立の継承について指導者に話を聞き,調べる。
8
○浮立について調べたことを基に考える。
9
(ウ)
主な学習内容
学習過程
まとめる
○学習問題をまとめる。
深める
○思斉っ子ふるさとカルタをつくる。
本時のねらいと展開(4時目)
神社のことについて考える4時目では,地域の人々の様々な願いや思いがあることや自分の生活と
の関連について調べてきたことを踏まえ,地域の人々の思いや願いを支えるためにどのような工夫や
努力があるのかを考える。
主
1
な
学
習
活
動
学習のめあてを確認する。
香椎神社はどのように守られているので
しょうか。
2
○前時を振り返り,香椎神社,秋祭り,浮立につい
て見学・聞き取りしたことを思い出させる。
○調べて分かったことから,神様の力と人々の思い
地 域の人々はどんなことをして神社を
守ってきたのか考える。
や願いの関係を整理し,地域の人々の工夫や努力
について考えるように焦点化させる。
①自分の考えを書く。
(検証の視点Ⅰ)
○自分の考えの基となる根拠を明確にさせる。書け
②3人組で話し合う。
(検証の視点Ⅱ)
ないときは考えを支える事実を基に書かせる。
③自分の考えを見直す。 (検証の視点Ⅱ)
④全体で話し合う。
3
教師の働きかけ
学習のまとめをする
○人々の思いや願いと守るための工夫や努力が結び
付いていることを再確認し,学習課題の解決に近
付いたのか確認させる。
(エ)
本時のねらいと展開(6時目)
事前に,商工会や総代のように祭りを支える立場の人がいることや地域の人々の願いや思いが
詰まっていることなどを調べてきた。これらのことを踏まえ,祭りのことについて考える6時目
では地域の人々はどのような工夫や努力をして祭りを支えているのかを考える。
主
1
な
学
習
活
動
学習のめあてを確認する。
地域の人々はどのように祭りを支えてきた
のでしょうか。
2
祭 りに寄せる地域の人々の思いや願いに
地 いきの人々はどのように祭りを支えて
立場の人の努力を関連付け,参加している人々
に導かせる。
○資料を基に,祭りのために「していること(工
①自分の考えを書く。
(検証の視点Ⅰ)
夫)」「がんばっていること(努力)」「困っている
②3人組で話し合う。
(検証の視点Ⅱ)
こと(課題)」の視点で調べさせる。
③自分の考えを見直す。 (検証の視点Ⅱ)
④全体で話し合う。
イ
の工夫や努力について振り返らせる。
はどのように祭りを支えているのかという考え
きたのか考える。
4
○様々な立場の人が参加していることやそれぞれ
○祭りを続けてほしいという思いと祭りを支える
ついて確認する。
3
教師の働きかけ
学習のまとめをする。
○様々な立場の人々の祭りに寄せる思いや願いと
工 夫 や努力が結び付いていることを再確認さ
せ,学習問題の解決に近付いたか確認する。
検証について
【検証の視点Ⅰ】セパレートシートによって根拠をもった考えが表現できるようになったか
調べる過程の自分の考えを書く場面で,調べて分かったことを基に自分の考えを導くことができ
たかを検証する。本単元では,調べて分かったことから目的や様子を考えさせることで保存・継承
の工夫や努力に気付かせる。事前調査時と6時目のセパレートシートの記述について検証する。
【検証の視点Ⅱ】セパレートシートマップによって自他の考えを比べることで社会的事象の特色
を探ることができたか
セパレートシートを使って,調べて分かったことやそこから導かれた自分の考えを小集団で比べ
させ,社会的事象の特色について考えることができたか。さらに,小集団での話合いを経て,自分
の考えを振り返る場面で,根拠を挙げて自分の考えを表現できたかを検証する。4時目と6時目に
ついて話合い前後のワークシートの記述から,社会的事象の特色について考えることができたかに
ついて検証する。
(4)
検証結果と考察について
ア
【検証の視点Ⅰ】について
地域の人々の思いや願いを支えるためにどのような工夫や努力があるのかを考える時間(6時目)
の自分の考えをもつ場面で検証することにする。この時間はセパレートシートを使った授業の最後
の時間であり,事前調査(9月実施)時との自分の考えを比べることでその変容を明らかにしていく
ようにする。
検証に当たっては,まず,セパレートシ
ートの記述内容を基に,抽出児O児の変容
問い「農家の人はどんな工夫をしているのでし
ょうか」
を見ていく。事前調査では,傍線部のよう
「太陽をくだものにあてている。なぜなら,大
に,「太陽をくだものにあてている」という
きくなるから」
事実から点線部の「大きくなるから」という
資料1
O児の記述
(事前調査時)
理由を考えている(前頁資料1)。しかし,大き
くさせることの目的が,それ自体に着目してい
るのか生産者の願いにまで着目しているのか分
からないところがある。
問い「地域の人々はどのように祭りを支えてい
るのでしょうか」
「人を増やしたい思いでチラシをくばったりし
セパレートシートを使った学習を進めた検証
てささえている。なぜなら,昔は大ぜいでやっ
授業②の6時目では,破線部の「参加者が減って
ていたけど参加者がへってきたので,人がいな
いとできないから。」
きた」という事実から二重線の「人がいないと
(祭りが)できない」という理由付けをしている。
これらの根拠を基にした理由付けから,波線部
資料2 O児の記述 (検証②6時目)
の「人を増やしたい思いでチラシをくばったり
してささえている」という考えを導いている(資
料2)。これは,祭りの参加者が減ってきている
事前n=35,検証後n=33
事前
60%
8.5%
8.5%
23%
0
という問題点と祭りには様々な役割があるとい
うことを結び付けて考え,人がいないと祭りが
できないという理由付けをしたものだと考えら
れる。調べて分かった事実を基に,祭りの問題点
が明確になり,それを解決していくことが祭り
を支えることにつながると筋道を立てて考えた
結果だと捉えることができる。
これらのことから,セパレートシートを使う
ことで調べて分かった事実に目を向け,根拠を
3%
検証②
6時目
85%
6%
6%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
調べて分かったことを基に考えを導いている
考えに沿った理由付けができている
調べて分かったことのみ
考えのみ
根拠も考えもあるがつながっていない
図9
セパレートシートの記述の内訳
基にした理由付けを考えさせることができ,調べて分かった事実と考えが結び付きやすくなったと考え
ることができる。
次に,学級全体の変容を見ていく。事前調査の児童の記述の様子を見ると,「調べて分かったことを基
に考えを導いている」児童が 60%(21 名)であった。セパレートシートを使った学習を経た検証授業②の
6時目の児童の記述の様子を見ると,「調べて分かったことを基に考えを導いている」児童が 85%(28 名)
に増えている(図9)。このことより,セパレートシートを使った学習を通して,多くの児童が根拠をも
って自分の考えを表現できるようになったと考えることができる。また,「考えに沿った理由付けができ
ている」児童が6%(2名)おり,調べて分かったことや既有の知識などを根拠にしているわけ ではない
が,「もし~がなかったら」と存在の有無などを比較して理由を導いている児童もいるなど,根拠を基に
した理由付けを考えることで,もう一度振り返ってよく考えたものだと捉えることができる。「根拠はあ
るが考えとつながっていない」児童が事前調査時の 23%(8名)から6時目では6%(2名)に減っている。
このことから,根拠と考えをつなぐための理由付けができるようになったものだと考えられる。
これらのことから,セパレートシートは,根拠をもって自分の考えを表現するのに効果的であったと
考えることができる。
イ
【検証の視点Ⅱ】について
ここでは,話合い前後の記述の様子を4時目と6時目の記述の様子から迫っていく。神社のことにつ
いて考える4時目と前述の6時目で,自分の考えが話合いを経てどのように変容したのか。また,自他
の考えをどのように関連付けながら社会的事象の特色を探っていったのかを明らかにしていく。
検証に当たってはまず,セパレートシートの記述内容を基に,セパレートシートマップを使った3人
組(R児,U児,M児)での話合いの前後の抽出児M児の記述の内容を,3人組の考えと比べながら見て
いく。
表2
セパレートシートの記述 (3人組
R児
U児
みんながお供え物をした
考え
にした理
由付け
抽出児M児
秋祭りなどで神様を守って
り,浮立をしたりしてねがっ
いる。
ている。
根拠を基
4時目)
久保田町の人々で守っている。
神主さんや人々がいなかったら神
お供え物などをして喜ばせ
未記入
るため。
社がきたなくなるし,神様を守る人
がいないから。
4時目の抽出児M児のセパレートシートの記述
(表2)を見ると,調べて分かった事実から,点線
部の「神主さんや人々がいなかったら神 社がきた
なくなるし神様を守る人がいない」とい う理由付
けをしている。この理由付けから波線部の「久保田
町の人々で守っている」という考えを導いてい
る。セパレートシートを使った3人組の話合いで
は,それぞれが自分の考えと根拠を基にした理由
付けを紹介しながらセパレートシートマップに貼
っていく(図 10)。3人組の話合い後のM児の記述
を見ると,
二重線部のように考えが「久保田の人々
や神主さんがお供え物などをしている」 となって
図 10
セパレートシートマップ
いる(資料3)。これは,R児の破線部の「お供え物
抽出児M児の話合い後の振り返り
などをして喜ばせて」という理由付けから,感謝の
気持ちを伝えることも大切だと思い,自分の考え
考え
に書き加えたものだと思われる。保存・継承の考
えが広がったものだと捉える。さらに,U児の話
合い後の記述を見ると,「神様をまつって守ってい
る」と書いている。これは,M児の点線部の「神主
さんや人々がいなかったら神社がきたなくなるし
(4時目)
久保田町の人々や神主さんがお供え物
などをしている。
人々や神主さんがいなかったら神社が
根拠 きたなくなったり神様がさびしくなった
りするから。
資料3
話合い後の振り返り (4時目)
神様を守る人がいない」という部分から,U児は,祭りのような特別な日だけでなく掃除や点検,祈りなど
の日々している活動にも目を向け,その行動について考えたところ,神様に感謝するという目的を導き出
したと考えられる。その結果「まつる」という言葉が出てきたものだと捉える。このことから,M児が理由
付けたことを参考にしてU児が見方を広げることができたと考えられる。
表3
セパレートシートの記述 (3人組 6時目)
R児
考え
根拠を基に
した理由付
け
いつまでも続いてなくなら
ないでほしいという思い
U児
いつまでも続いてほしいと言
ってささえている。
抽出児M児
人々が参加することで祭 りを支
えている。
祭りが続いているのはみん
お米のしゅうかくをいわってい
子どもが浮立に参加したり,人々
なが楽しみにしているので,
るのは,毎年,米がちゃんとでき
が祭りに参加しているのは,人が来
なくならなかったら楽しみが
るように願っているから。
ないと神様が喜ばないから。
続くから。
6時目のM児のセパレートシートの記述(前頁
表3)を見ると,傍線部の「子どもがふり ゅうにさ
んかしたり,人々が祭りにさんかしている」という
事実から,点線部の「人が来ないと神様がよろこば
ない」という理由付けをしている。これらの根拠を
基にした理由付けから波線部の「人々が参加する
ことで祭りをささえている」という考えを導いて
いる。3人組の話合い(図 11)後のM児の記述では,
二重線部のように「久保田の全員がささえている」
という理由付けをしている(資料4)。これは,R児
の破線部の「地いきのみんなが楽しみにしている」
という事実から,人のつながりの大切さを知り,U
図 11
セパレートシートマップ
(6時目)
児の太線部の「毎年,米がちゃんとできるように願
抽出児M児の話合い後の振り返り
っている」という理由付けから豊作を願う地域の
人全体の姿を思い浮かべたと考えられる。話合い
考え
前の考えでは,祭りに参加して直接関わることを
根拠
が祭りに参加しているのは久保田の全員
がささえているから。
と見方を広げていると考えることができる。また,
「神様を喜ばせる」,「感謝する」といった自分が考
で人々が祭りを支えている。
子どもがふりゅうにさんかしたり人々
主張していたが,3人組の話合いを経て,祭りへの
間接的な関わりを含めて,町の全員が支えている
いつまでもつづいてほしいという思い
資料4
話合い後の振り返り
(6時目)
えていた祭りの目的に「豊作を願う」,「人のつなが
り」といったことが付加され,鎖線部の「いつ まで
も続いてほしい」という祭りを支える目的を明確
にすることができたと考えられる。
まず,セパレートシートマップを使っ た話合い
が自分の考えに生かされたのか,学級全 体の様子
を児童の振り返りの記述から見ていく。 4時目の
3人組の話合い後の学級全体の記述の様 子を見る
と,「考えが変わっている」25%(9名),「考えの付
け足し」11%(4名),「根拠が変わっている」6%
4時目
30%
25%
11%17%
6% 11%
n=35
3% 6%
6時目
47%
18%
26%
n=33
0%
20%
40%
考えが変わらない
考えの追加
根拠の変更
図 12
60%
80%
考えの変更
一部修正
根拠の追加
100%
3人組の話合い後の記述
(2名),「根拠の付け足し」11%(4名),「よりよい言葉に修正している」17%(6名)であった。これらを合
わせた 70%(25 名)が考えを修正していた(図 12)。6時目では,「考えが変わっている」18%(6名),「根拠
が変わって付け足し」6%(2名),「よりよい言葉に修正している」26%(9名)であった。これらを合わせた
53%(17 名)が考えを修正していた。これらのことより,友だちの考えや見方を自分の考えに生かしている
と考えることができる。一方,「考えが変わらない」が4時目で 30%(10 名)であったが,事後アンケートを
見ると,3人組の話合いの効果として,前述の 30%(10 名)のうち 90%(9名)が「自分の考えをよりはっき
りさせることができた」と答えている。また,同様に 90%(9名)が「自分の考えにいかすことができた」と
答えている。6時目では「考えが変わらない」が 47%(15 名)であったが,そのうち 87%(13 名)が「自分の
考えをよりはっきりさせることができた」と答えている。また,同様に 87%(13 名)が「自分の考えにいか
すことができた」と答えている。学級全体では,「自分の考えをよりはっきりさせることができた」と答えた
児童が 83%(29 名),「自分の考えに生かすことができた」と答えた児童が 80%(28 名)であった。
これらのことにより,セパレートシートマップを使った話合いは,自分の考えを補完したり修正したり
することに効果的であり,これを用いて話し合うことを通して多くの児童が社会的事象のつながり
が見え,自分の考えに確信をもつことができたと考えられる。
次に,社会的事象の意
○
味付けがどのように行わ
れているのかを探る。4
時目では調べて分かった
事実を基に,目的や様子
を考えることにより,工
夫や努力を導いてきた。
そこで,調べて分かった
調
べ
て
分
か
っ
た
事
実
の
数
3
○○
2
○○○○
○
○○○○
○○○○
○○○○
○
○○
○○○○
1
○○○
○
0
事実の数と目的の数の変
容を4時目の話合い前後
○○○○
○○
0
1
2
3
調
べ
て
分
か
っ
た
事
実
の
数
○○○○
○
○○○○
○○○○
○
○○○○
○
○
○○○○
○○○○
○
○○
○○
3
2
1
0
0
1
目的の数
図 13
3
目的の数
話合い前の記述内容
で比べ探ってみる。学級
2
図 14 話合い後の記述内容
n=35
n=35
全体の調べて分かった事実の数と目的の数の様子は図 13,14 の通りである。話合い前に比べて話
合い後の方が目的の数0個が 10 人から5人に減り,目的の数2個が2人から6人に増えている(図
13,14)。このことから,3人組での話合いで調べた事実を基にして,互いの考えを比べる中で社会
的事象の意味付けが進み,神社を守る目的の数が増えたと捉えることができる。
これらのことから,セパレートシートマップによって考えと根拠を基にした理由付けを比べさせ
たことで,児童は共通点や差異点に気付き,物事の多様性や多様な考え方に触れることが できた。
そして,関連付けさせたりまとめさせたりしたことで,児童の社会的事象の見方を広げたり,社会
的事象の特色や相互の関連について考えたりする力を育てることにつながったと考えられる。
7
研究のまとめと今後の課題
(1)
研究のまとめ
本研究では,自他の考えや見方を比べる学習活動に取り組ませることで,社会的な思考力を育てる
ことにつながった。また,本研究を通して,以下のような児童の姿が見られるようになった。
・
自他の考えや見方を可視化して比べたことで,社会的事象についての関連付けが容易になり,追
求意欲が高まった。
・
セパレートシートマップを用いて,考えや根拠に基づく理由付けを比べ,比較・関連付け・総合
したことで,調べて分かった事実と概念が結びつきやすくなり,社会的事象の特色につい て考え,
より根拠をもって説明できるようになった。
(2)
今後の課題
系統性を見通して発達段階に応じたセパレートシートマップでの思考方法の整理を図ること
《引用文献》
1)2)
文部科学省 『小学校学習指導要領解説 社会編』 平成 20 年 東洋館出版
2009 年
p.3,4
3)
寺本
潔
『言語力が育つ社会科授業―対話から討論まで―』
教育出版
4)
澤井
陽介
『小学校社会授業を変える5つのフォーカス』 2013 年
5)
小原
友行
『「思考力・判断力・表現力」をつける社会科授業デザイン』 2009 年
図書文化社 p.61
p.34
《参考文献》
・
澤井
陽介
『小学校社会授業を変える5つのフォーカス』 2013 年
p.26
図書文化社
明治図書
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中学年の地域社会に関する学習において,自他の考えや見方を比べる