特許戦略論 第1回
2004年12月11日
久野敦司 (特許戦略工学分科会オーガナイザ)
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(1) 特許戦力とは何か
(2) 特許戦略の基本思想
(3) 特許戦略の形態
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【特許権行使における大義名分】
特許権行使は、市場を支配し、相手企業に事業撤退を強制する
非常に強力なものである。したがって、このような特許権の行使
に対する相手企業、相手企業の顧客、業界、自社内の関係者か
らの大きな反発や反撃等の反作用を覚悟しなければならない。
このような反作用を克服し、特許権を行使して市場を支配するた
めには、特許権行使に多くの人を納得させることのできる大義名
分が必要である。この大義名分がなければ、特許権行使を行う
側の迷いを生み、その特許権行使の体制を崩壊に導く。
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特許戦力とは何か?
特許戦力は、「特許戦争を戦い勝利するための力」であり、次の要因の総合力に
よって定まる。
(1)特許権活用上での各種の障害を乗り越えてでも活用しようとする目的の存在
と、その目的達成の意志(大義名分の存在)
(2)特許権の権利範囲の広さと、権利範囲内のマーケットボリュウム
(3)その特許発明の侵害発見容易性
(4)特許権の権利期間の長さと特許権の個数
(5)他社製品の侵害摘発能力(他社商品の収集分析能力を含む)
(6)公知技術の調査・分析能力
(7)訴訟能力と交渉能力
(8)自社・他社の特許情報の管理体制(特許の内容へのアクセスの容易性)
(9)特許権を活用する担当部署の士気と知識・能力
(10)特許権を活用する担当部署の社内的な地位の高さ
(11)特許権活用における意志決定体制と必要予算の確保の状態
(12)特許権活用の担当部署と他の部門との協調体制の強さ
(13)特許権活用担当部署の戦力についての世間の評判(間接的な戦力)
特許パワー
情報パワー
組織パワー
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特許権行使での大義名分として一般的に用いられるのは、
「独創技術を特許権で守りつつ、独創技術による製品で社会に
貢献する。」
というものである。特許権の行使は、絶え間のない戦いの世界
である。従って、基本特許を取得したからといって、油断をして
いると、より実用価値の高い改良特許によって反撃される。こ
のような競争のもとでどんどんと技術開発が進行することに
よって、技術を高度化し、産業を発展させ、人類を幸福にしよう
とするものが特許制度である。
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【特許戦力の説明】
矢を弓につがえて、的をねらって、弦をひきしぼり、適当なタイミングで矢を解き放っ
たら、矢は的に向かって飛んでいく。従って、矢がたくさんあって、倉にたくわえてい
ても、弓につがえなければなんの戦力にもならない。矢と弓があっても射手がいなけ
れば矢を弓につがえることはできない。射手は、的を探して狙いを付けて、弦を引き
絞るだけの能力がなくてはならない。そして、適切なタイミングで射手は矢を解き放
つ決断力も持っていなければならない。
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【特許戦力を表現する数式】
特許戦力を数式であえて表現すると、次のようになる。
特許戦力=
(特許パワー)×(特許部門の侵害摘発能力)×(訴訟能力+交渉能力)
広い特許権を多数保有していれば、特許パワーは大となる。競合企業の商
品が自社の特許権を侵害している証拠をつかむ能力と体制が充分に整備
されて運用されていれば、(知財部門の侵害摘発能力)は大となる。また、
侵害企業に対する訴訟を実行する能力や直接に相手と交渉する能力が高
ければ、(訴訟能力+交渉能力)は、高くなる。
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特許戦力の性質
• 特許パワーを外部に発する出口が組織にはあり、それが特
許戦力のボトルネックになる。
2本の腕しかない人間は、最大で2本の刀しか振り回せないので、3本目からの刀
は武器ではなく、単に行動をスローダウンさせたり、コストアップをもたらす邪魔も
のでしかなくなる。いくらたくさんの特許権を保有していても、それを活用する戦士
の人数と能力が小さいと、特許パワーが特許戦力にならない。また、大きすぎる
武器も活用できないし、整理されていない武器も活用できない。特許パワーだけ
を増大させてもだめである。
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特許戦力の中核である特許権は、次の点で弓矢に似ている。
(1)構築や維持に多くの労力と費用を必要とする。しかし、適切な情報システムを構築
すれば、少人数でその戦力を行使して、多大な戦果をあげることができる。
(2)特許権も矢も構築に時間がかかる。
(3)標的に照準を合わせてはじめて、戦力としての価値を生じる。
(4)配備しているだけで威圧感を周囲に与える。
(5)射手が的を狙っている間にも馬は移動する。事業戦略と特許戦略の同期が難しい
し、特許戦略の実行コストを負担できる事業体でなければ、事業体のための特許戦略
の実行は難しい。
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重要なのは「特許戦力を活用しようとする意志の大きさ」である。
この意志が大きければ、小回りのきかない体制は、小回りのきく
体制に組み替えられることになるし、さまざまな障害があったとし
ても、それを取り除くような行動がなされる。
したがって、「特許戦力を活用しようとする意志の大きさ」こそが、特許戦略での最重要
テーマとなる。
自社の事業における主力商品の競争力の要となる技術は、絶対に他社に模倣させない
との強い意志を持ち、この競争力の要となる技術をカバーする特許権を保有している場
合。
表現をかえると、(戦略商品、戦略技術、戦略特許)の組を保有し、事業上で「戦略特許
を用いて他社に戦略技術を模倣させないことによって、戦略商品の圧倒的な競争力を
維持する。」との強い意志を持つ事が重要となる。
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特許戦略の基本思想
【特許戦争の定義】
特許の活用を中心的手段として、自社の利益の確保を目的とした企業間の戦争である
【特許戦争での勝利とは何か?敗北とは何か?】
特許戦争での勝敗は、特許戦争においた動員された自社の特許権と相手会社の特許権を
中心手段としての双方の攻撃が終結した時点で判定する。特許戦争での勝利は、目的とした
利益(事業利益や実施料収入など)を獲得し、獲得した利益が被った損失よりも十分に大であ
る状態に到達した事を言う。逆に、特許戦争での敗北とは、獲得した利益よりも被った損失が
大きい状態に到達した事を言う。物理的な兵器を用いた戦争では、敵の戦闘力の撃滅や相手
方の降伏をもって勝利としていたが、特許戦争ではこのような相手会社の特許戦力の撃滅は
できない。
できるのは、法的手続きによって相手の特許を消滅させる事や、自社を標的とさせないように
契約を締結する事である。ただし、例外的にではあるが、差し止め権を行使して、相手企業の
事業を停止させて、相手企業を倒産に追い込むことも、理論的には可能である。
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【特許戦略の定義】
特許戦争に勝利して自社の利益を確保するための、特許戦力の配置,特許
戦力の活用の体制,特許以外の戦闘手段との連携も含めた特許戦力の活用の
方向と順序を定めた戦争計画である。
【特許戦略の定義の根底にある思想】
(1)特許は特許戦争での活用と、特許戦争以外での活用の両面がある。
(2)特許の特許戦争以外での活用の形態としては、次のaとbがある。大多数の
特許は実際の特許戦争に活用されず、いわば威圧効果のみを有する。この威
圧効果を大きくするためには、世間において特許権活用担当部署が強い部隊
であるとの認識が広まっている必要がある。
a.強大な特許権の存在自体が有する他社への威圧
b.高度な技術の発明が多数あることをアピールすることによる技術力の
宣伝効果
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特許戦略の形態
特許戦力の活用の形態は、防御、攻撃、威圧、宣伝、提携の5形
態である。
この5形態では、最も上策は「提携」である。最も下策は「防衛」で
ある。
提携では、自分の事業領域を侵 食される事もなく、自分の特許権
について実施権を与えるのでもなく、補完関係にある相手先との協
力によって 、自分の事業領域の拡大や、自分の事業競争力の増
大が図れる。従って、提携が最も良い。
防御
攻撃
威圧
宣伝
提携
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宣伝と威圧は、これ によって競合企業が事業撤退したり、顧客が自社の特許権を尊
重してくれて、自社の製品を優先的に購入してくれるならば、特許戦力の活用にかか
る投資の割には効果が大きいことになる。
しかし、宣伝や威圧だけでそのような効果があがる事は少ない。また、提携の場合の
ような自社の事業領域の拡大効果はない。
攻撃では、自社の 事業領域に進入する他社を排除することもできる。しかし、攻撃を
完遂するには多大の労力と時間がかかるし、 最終的には相手先に実施権を許諾す
るという形での和解になると、相手先を自社の事業領域から排除するとの目 的は達
成できないし、実施権を許諾した特許権は、その時点からは相手先には武器とはなら
なくなる。
攻撃をすることによって、新しい事業領域が生まれたり、新しい技術を得られるわけ
ではない。攻撃をする場合には、短期間に完遂し、実施権を与えない事を基本方針と
すべきである。防御とは、自社の事業領域に進出してくる相手 があったとしても、自
社の特許権は何も用いずに、相手から特許権で攻撃を受けた場合にのみ反撃に特
許権を用 いるというものである。これでは、事業を特許権で守るという特許権の基本
機能が発揮できていないので最も下 策である。
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特許流通特論レポート 提出日 2004年11月19日 久野敦司(6490742)