一
般 地 質
移動から,数百もしくは数千平方メートルを覆う大きなス
ランプの複合体まで,様々なものが知られている.
学 (大 藤)
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滑動では,落下と同様に,しばしば岩石もしくは堆積物
の塊が急速な移動することがある.盤すべり(rock slide)
スランプは,人工的に改修した地形面沿いで見られるこ
は,例えば層理面などの傾斜した面に沿って岩塊が(土石
とが多い.特に,建設作業により過度に急傾斜にされた道
すべり[debris slide]の場合は,岩屑が)剥離し,突然下
路の法面(道路脇の斜面)沿いで,多く見られる(第 8.4
方へすべり落ちる現象である(第 8.3 図).落盤や落石と
図).水流や波の侵食により形成された河岸や海岸の急斜
同様に,盤すべりや土砂すべりは,急斜面に囲まれた高山
面でも,スランプはしばしば起こる.
でよく見られる現象である.大規模な盤すべりが起きる
落下と滑動
登山愛好家に,山で最も危険なことは何かと尋ねると,
落盤が恐らく上位にランクされる.落盤(rockfall)とは,
崖や急斜面から分離した岩塊の自由落下を指し,切り立っ
た山地でよく起こる.落盤の岩塊は,落下に連れてその速
度を増す.落下の高度差(H)を知れば,衝突時の速度(v)
を以下の式として計算できる.
と,結果として出来た堆積物は一般に様々な大きさの岩塊
の混沌とした集合体で,時には差し渡し数十 m の巨礫を
伴う(第 8.5 図).
切り立った崖の基底部には,角張った岩片の集積体がよ
く見られる.この集積体を,崖錐(talus)と呼ぶ(第 8.6
図).崖錐中の岩屑は,一般に砂粒から巨礫の大きさまで
の範囲をもつ.崖から崖錐への岩片の運動は,主に落下,
滑り,跳ねおよび回転である.岩片は,岩屑の斜面が安定
v  2 gH
に保たれる角度の斜面をなして止まる(第 8.7 図).安息
角(angle of repose)と呼ばれるこの角度は,一般には 30°
ただし g は重力加速度である.
落盤は,単一の岩塊の剥離・落下を指すこともあるし,
から 37° の間である.崖錐へ落ちていく細い粒子は,一般
に,より粗粒な岩片の間隙で静止する.一方,大きな落石
径数百 m の大岩塊が落下して速度を増し,衝突で多数の
は,小さな粒子よりもより勢いが強いため,崖錐の外側に
より小さな岩片に分かれるまでの崩壊過程全てを指すこと
まで達し,平らな地面の上に散在することがある.なお,
もある.崩壊で生じた岩片は,斜面の傾斜が減少し摩擦に
第 8.7 図にあるような急斜面をもつ崖錐は,乾いた陸上に
より静止するまで,跳動・回転しつつ下方へ移動する.
特徴的な堆積体である.水中では,粒子間の摩擦力が弱く
山の斜面が崩壊する時には,岩石だけでなく,表土や植
生も共に崩壊する.結果として生じる落石(debris fall)は,
落盤と類似した現象であるが,岩石と風化した表土の混合
物からなり,中に植物片まで含まれる(第 8.3 図).
なるため,安息角は数度と非常に低角になる.
堆積物流(sediment flow)
マスムーブメントの中には,岩石粒子の塊全体の動き
を,流動として記述できるものがいくつかある.流動的な
マスムーブメントは,一般に固体粒子,水,そして時には
空気の混合物で,堆積物流(sediment flow)と総称される.
ただし,乾いた堆積物流も存在しうる(例えば砂時計は,
乾いた砂の流れである).堆積物流とは,広い意味をもつ
言葉で,流動が始まった時には孤立した岩片や表土の様に
堆積物とは呼べなかったものの流動をも含む.
第 8.4 図
第 8.3 図
狭義の斜面崩壊
狭義の斜面崩壊の例.
スランプ,
落下現象,
滑動現象など,
スランプの例 合衆国ワシントン州,
ヤキマ川沿いの河
岸段丘が,
大規模にスランプし,
川沿いの高速道路を 100 m 以
上に渡り河中へ押し出した様子.
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第
8 話
マ ス
堆積物流の様式を支配する要因
氷点よりも上で,堆積物流の様式を支配する要因は,(1)
固体,水,空気の相対的な割合と (2) 物理的・化学的な堆
積物の特性である.
すべての水流は,多少なりとも堆積物を運搬する.しか
し,水が運搬できないほどの高濃度の堆積物が含まれる場
合,流動性の高い堆積物流と呼ばれるマスムーブメントが
生ずる.堆積物流中の水は,流動を促進する役割をもつ
が,流動の根本的原因は堆積物の固体粒子にはたらく重力
である(それに対し,一般の水流では,中の固体粒子は,
重力により流れる水に動かされている).
第 8.8 図では,堆積物流を堆積物の濃度により,二つに
細分している.スラリー流(slurry flow)は水に飽和した
堆積物の塊の移動である.一方,粒状流(granular flow)は
堆積物,空気および水の混合物で,スラリー流とは異な
り,水で飽和していない.粒状流では,流れている堆積物
の総重量が,粒子と粒子の接触もしくは,粒子の間の衝突
により支えられる.これら二種の堆積物流は,流速により
さらに細分される(第 8.8 図).堆積物流のこの分類の各
境界は,粒径分布,堆積物の濃度,その他の要因で決まる.
スラリー流
スラリー流では,巨礫が浮遊できるほど堆積物が濃厚に
混合する場合がある.巨大過ぎて流れに乗れない巨礫は,
流れによって回転させられる.スラリー流の流動中および
流動停止時に,流れの中の固体粒子はほとんど淘汰され
ず,細粒粒子と粗粒粒子の混ざった堆積物が残る.
土壌流:水に飽和した土壌と表土の非常に遅い流下運動
は,土壌流(soil flow)として知られる.第 8.8 図に示
したように,土壌流は,スラリー流でも最も遅い流れで
ある.土壌流の流動速度は,一般に年間 30cm よりも遅
第 8.5 図
(上) 盤すべり アンデス山脈で見られた盤すべりの跡.
画面左手前に傾斜した広い面の上にあった岩盤が,
画面奥の垂
直な面から剥がされてすべったらしい.
画面右下の盤すべり堆
積物を構成する岩塊は,1 つが家 1 軒程の大きさをもつ.斜
面上方には,
次の盤すべり候補地となる斜面が見られる.
第 8.6 図
(右) 崖錐
アラスカで見られた例.
急斜面の基底部に,
円錐状の崖錐堆積体が見られる.
ム ー ブ
メ
ン ト
い.何年にも渡って計測することで,初めて存在がわか
るほど遅い流れである.土壌流は,地表に特徴的な地形
を残す.特に,第 8.9 図にある様な,シート状あるいは
舌状の起伏を作り,それらの一部は,他のものに乗り上
げることがある.土壌流は,表土が長い期間水に飽和し
た状態でいる,熱帯~冷帯の丘の斜面で起こる.
土石流:土石流(debris flow)は,約 1 m /年から 100 km
/時ほどまでの速度幅をもち,多くは砂よりも粗く未固
結な表土の下方への運動である(第 8.8 図).スランプ
や土石すべりが,斜面の下方で土石流に移化する場合も
ある.一旦土石流となって流動化すると,それは渓谷に
沿って遠くまで流れ下り(第 8.10 図),下流の平坦面(多
くは沖積扇状地)上に広がって,淘汰の悪い堆積物を形
成する.土石流は,地面を水で飽和させるような集中豪
雨の期間にしばしば発生する.
泥流:十分な水によって高い流動性もち,砂以下の細かさ
の粒子が支配するスラリー流は,普通泥流(mudflow)と
呼ばれる.第 8.8 図では,泥流の速度の幅は,土石流の
上部域(約 1 km /時以上)におかれる.多くの泥流は
高い流動性をもち,渓谷の底に沿って土石流に伴い急速
に移動する(第 8.10 図).
高速流動する泥流を一すくいできるならば,その流動
性が,混ぜたばかりのコンクリート程度から,やや濃厚
な泥水程度まで幅をもつことがわかるだろう.山地・渓
谷での豪雨の後,泥を含んだ流水が次第に未固結堆積物
を拾い上げると,泥と水と雑多な角礫からなる土石流/
泥流が,渓谷いっぱいに広がって流れるようになる.こ
の時,一般に,角礫からなるダムのような土石流が,後
方からの高速な泥流に押されて流れるらしい(第 8.10
図).山の前面の開けた所に達すると,動いていた土石
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移動から,数百もしくは数千平方メートルを覆う大きなス ランプの複合体まで