逆アーベル変換を用いた冷却原子の 3 次元運動量分布の復元
電気通信大学 新世代レーザー研究センター 向山研究室 B4 服部敬太
平成 27 年 3 月 10 日
1
背景と目的
我々の研究室ではレーザー冷却を原子気体に用いて超伝導現象のメカニズムの解明を目標としている。極低温状態で
の実験系は不純物がなく、粒子の統計性、密度、温度等が可変であり、実験の自由度が高いため、原子物理の紐を解く
ものとして期待されている。冷却原子系での実験では吸収イメージングが主に用いられていて、我々の研究室でも使用
されている。吸収イメージングについて説明する。空間にトラップされた原
子集団に対して、原子の共鳴光を1方向から照射する。その吸収率によって
変化する透過光を CCD カメラを用いて観測する。得られる吸収イメージに
よって原子集団の形状や運動量分布、密度分布を直接観測することができ
る。しかしこの方法には大きな欠点がある。それは得られる吸収イメージは
共鳴光を照射した方向に積分されてしまった結果であり、その情報が失われ
てしまっている。そこで本研究では吸収イメージを逆アーベル変換すること
によって積分されてしまった情報を復元することを目的とする。
2
原理と方法
アーベル変換は、軸対称な関数 R(r, z)(r =
√
x2 + y 2 ) を一方の軸につい
て積分を施す変換で、次で定義される [7]。
∫
P (x, z)
の負の方向へ共鳴光を当てたとき
の吸収イメージング (P(x,z))
+∞
=
R(r, z)dy
−∞
∫ +∞
=
図 1: 原子 (R(r,z)) に対して y 軸
2
x
(1)
rR(r, z)
dr
− x2 )1/2
(2)
(r2
関数 R(r, z) が 1/r よりも速く 0 に収束するとき、この逆変換である逆ア
ーベル変換が次の式で与えられる。
∫
+∞
R(r, z) =
r
(x2
∂P (x, z)
1
2
1/2
∂x
−r )
(3)
光トラップ中の軸対称な密度分布を持つ原子に対して、軸に垂直にイメージングを行うと、得られる画像は元の
分布のアーベル変換になる。よって逆アーベル変換を吸収撮像イメージに施すことにより、原子の 3 次元密度分布
を復元することができる。しかし (3) の形では、R(r, z) の被積分関数の中に微分の形が含まれているので、変換を
行うことによって得られる結果はノイズが増幅された形になってしまう。そこで今回は Modified Fourier-Hankel
method(MFH) と呼ばれる、(2) のアーベル変換の式をフーリエ変換したものが、もとの密度分布 R(x, z) のハン
ケル変換となっていることを利用する手法を用いた [1]。
1
以下では Modified Fourier-Hankel method(MFH) について述べる。以下のアルゴリズムは 2N + 1 個の軸対称
離散データ I(xi ) に対して施すものとし、そこから逆アーベル変換された N + 1 個の離散データϵ(ri ) を得る。た
だし、xi = i △ x(i = −N, ..., 0, ..., N ),
rj = j △ r(j = 0, ..., N ) とし, △x = △r, r0 = x0 = 0, rN = xN = R とする。(図??)
図 2: 物体の投影とフーリエ変換の関係性 [9]
吸収イメージ P(x,z) のフーリエ変換と軸対称にトラップされた原子集団 R(r,z) のハンケル変換は等しいので、
F T [P (x, z) = HT [R(r, z)]2π
1
R(r, z) =
HT −1 F T [P (x, z)]
2π
(4)
(5)
(5) をベッセル関数を用いて変形すると
R(r, z) =
1
2π
∫
∞
F T [P (x, z)]xJ0 (r)dx
(6)
0
(6) は不連続点を含んでいないので、周波数間隔を, △ω = απ/R として次の
ように分割できる。ただし α は周波数間隔を変えるパラメータとする。図 3
より (6) を変形すると
ϵ(ri )
=
N
1 ∑
F T [I(ωk )]ωk J0 (rj ωk )
2π
k=0
) N
)
(
(
N/α
α π ∑
αjkπ ∑
αikπ
kJ0
I(xi ) cos
2N R
N
N
2
=
k=0
(7)
i=−N
これが Fourier-Hankel method(FHM) である。特徴として α を低くする
ことで、細かい周波数間隔で積算されることによって得られるデータのノイ
ズを減らすことができるが復元されたものの再現性は低くなる。また α を
調整するときに、k の値を変えることで、データ点の個数を多く必要とする
弱点を改良している。
2
図 3: 用いたスケール
3
結果
まず作成したプログラムが正常に動作することを確認するために、既知で
あるトーマスフェルミ分布関数を用いた。冷却原子として
T
TF
= 0.05 のフェルミ縮退した原子を考えた。また原子
数を N = 10 、それぞれの 3 次元方向のトラップ周波数を ωx = 2π × 300Hz 、ωx = 2π × 300Hz 、ωx = 2π × 20Hz
6
で閉じ込められた系とし仮定した。3 次元のトーマスフェルミ分布関数は式 (2.13) で、その1次元データは以下の
ようになる [2]。
nσ (r) = −
6Nσ
π 3/2 Rx Ry
(
T
TF
)3/2
[
( 2 2 )]
r /Rr
PolyLog 3/2, −ξ exp −
T /TF
(8)
ただし r2 /Rr2 = x2 /Rx2 + y 2 /Ry2 である。
2 次元のトーマスフェルミ分布関数は式 (2.14) で、その1次元データは以下のようになる。
nσ (x) = −
6Nσ
π 1/2 Rx
(
T
TF
)2
[
( 2 2 )]
x /Rx
PolyLog 2, −ξ exp −
T /TF
(9)
第 2 章の原理より式 (4.2) の関数に対して逆アーベル変換を行うことにより、式 (4.1) の関数を得られる。
図 4 に式 (4.2) の関数を逆アーベル変換したものと式 (4.1) の関数を比較したものを示す。
図 4: 式 (4.2) の関数を逆アーベル変換したもの (赤丸 6)、式 (4.1) の関数 (青線)
図 4 より逆アーベル変換により関数が一致していることがわかる。よって逆アーベル変換によって 2 次元密度
分布から 3 次元密度分布に変換されたことが確認できた。(9) の 2 次元データに対して行うことによって原子集団
の 3 次元密度分布を復元することができる。その概要図を図 5 に示す。
図 5: 結果の概要図
3
次に実際の実験データにおいて逆アーベル変換を行った。p 波長流動の実
現に向けて、p 波フェッシュバッハ共鳴近傍での原子間相互作用について研
究を行っており、その結果、共鳴近傍で原子の広がりの変化を観測すること
ができた。その結果を図 6 に示す。図 6 では縦軸は原子集団の広がりを示し
ていて、横軸は 0 を共鳴とした磁場である。しかし、原子集団の広がりの変
化が原子のロスの影響によって現れた可能性がある [3]。それを確認するた
めに吸収イメージングで積算されてしまった 3 次元の運動量分布を、逆アー
ベル変換を用いて復元することによって、確認することが重要とされてい
る。そこで逆アーベル変換のプログラムを用いて図 4.5 のデータを解析する
ことを試みた。図 6 での磁場が 0 におけるデータを用いて変換を行った結果
図 6: p 波フェッシュバッハ共鳴近
を図 7 に示す。
傍での原子の広がり
図 7: p 波フェッシュバッハ共鳴近傍のデータに変換を行った結果
図 7 より逆アーベル変換を行うことによってやはり元のデータのノイズが
大きく増幅されてしまうことがわかった。この実験データを解析するために
はノイズを減らす必要がある。
4
まとめと今後の展望
逆アーベル変換を動作するプログラムを作成し、変換前と変換後の形が既に分かっている極低温のトーマスフェ
ルミ関数について逆アーベル変換を行い、3 次元運動量分布を復元することができた。よって自ら作成したプログ
ラムが正常に動き、関数が正確に変換出来ていることを確認することができた。
次に p 波相互作用の原子の運動量プロファイルについて逆アーベル変換を行った。実際の実験データに対して
も自ら作成したプログラムが適応することが確認できて、3 次元運動量分布が復元できることを確認することが
できた。しかし復元された結果はノイズが増幅されたもので、現時点で解析を行うことは難しいことがわかった。
そこで今後はこの変換後データのノイズを減らすことが課題である。その具体的な方法としては同じ実験データ
を複数回とり平均化を行うことで減らすことができると考えられる。ノイズを減らすことによって、この p 波相
互作用エネルギーの実験データに対して解析することを考えている。
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参考文献
[1] M.I. Apostolopoulos a,n, M.I.Taroudakis b,c, D.G.Papazoglou d,e,Application ofinverseAbeltechniquesininlineholographicmicroscopy,Received 21July2012
[2] 稲田安寿 [極低温フェルミオン原子 6 Li におけるs波及び p 波対形成](博士論文)(2009)
[3] 中筋拓也 [極低温原子気体リチウムにおける p 波相互作用制御](修士論文)(2012)
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