実践レポート
「『本当の
本当の友達』
友達』と言える
かけがえのない仲間
かけがえのない仲間づくりをするために
仲間づくりをするために」
づくりをするために」
善通寺市立筆岡小学校
教諭
大久保 敬現
1
はじめに
「私たちは、周りからとても仲のよい学級と思われているかもしれない。でも、みんな
の心はばらばらで、見せかけだけの友達や!」教師たちも認める「穏やかでまとまりの
いい学級」であったはずなのに、子どもたちの内に潜んでいた様々な思いによって「歪
み」が生まれ、そこここで亀裂が生じ始めた。しかし、子どもたちの求めているものは、
互いが「本当の友達」となることであり、「かけがえの仲間」となることであった。特
別な仕掛けや方法があるわけではない。「本当の友達」になりたくてもがき苦しむ子ど
もたちに寄り添い、共に歩むことを自分自身への課題とした。
2
実践の
実践 の 内容・
内容 ・ 方法
◆ 基本的な姿勢
○ 子どもに寄り添う(今あるがまま)
何かあった時は、必ずじっくりと時間を取って話を聴く。
○ 惻隠感情の涵養(他者に向かう)
相手の立場に立って考えることや、もし自分だったらどう思うかを考えること
を働きかけ続ける。
○ 自力で解決する力を育成する(将来への展望)
話し合いを経た後や教師の話を聴いた後、どうするのか自分で決めさせる。
(1)自分の考えや思いを持ち、伝える力を育てるために「表現できる場」を用意する
① 縦割り班のリーダーを育てる (意志決定して伝えられるリーダー)
② 学習発表会の場を生かす
(自分を見つめ直す学習発表会)
(2)友達の気持ちを自分のことのように分かろうとする心を育てる
① 学級全員で納得いくまで話し合わせる
(「30 人 31 脚」の学級目標達成のために)
② 学級通信を通じて語りかける (人として大切なこと)
3 実践の
実践の 成果
(1)自分の考えや思いを伝える力を育てる
① 縦割り班のリーダーを育てる(意志決定して伝えられるリーダー)
学級のリーダーではない子どもも含め、30名をすべて縦割り班のリーダーとし、
下級生に意思表示をしたり、指示を出す機会を設ける場を設定した。
学級内でリーダーの立場にならない子どもは、学級をよくするための自分の思いを
伝えることはほとんどなかった。しかし、班のリーダーになれば、どんなグループに
したいか、そのためにどんなことをしてほしいかなどを伝えなければならない立場に
追い込まれることとなり、下級生を相手にはっきりと意思表示をしなければならなく
なる。
縦割り活動が始まった年度当初には、「並んでください」という指示さえも出せず、
おろおろするだけだったA男に、B子が「できない時には、勇気を出して注意してな」
「A男が頼りだから言ってよ」と何度も働きかけたことで、運動会の練習の頃には、
「もっと声を出して応援しよう」「早く集合してください」など、自分から声かけが
できるようになっていった。
また、それぞれのグループで、どのように活動を進めていくか相談する場面におい
ても、6年生の教室に帰って来るなり、「みんなが考えてくれません」「下級生がふ
ざけて参加しません」という訴えがいくつもあった。そのような時には、教師が解決
策を示すのではなく、リーダー同士で話し合わせた。話し合うことによって、困って
いる気持ちに共感し合い、解決の糸口となる方法や工夫を見つけていくことができる
ようになっていった。
② 学習発表会の場を生かす(自分を見つめ直す学習発表会)
1月に行われる学習発表会は、自
分たちの思いを表現する特別な場で
ある。何をどんな形で発表するかに
ついては、5年生の後半から、自分
たちで決めさせてほしいという気持
ちを強く持つ子どもたちになってい
る。
小学校最後の発表ということもあ
って、6年間で自分たちが学んだ大
〈自分たちの中で起きた出来事の場面〉
切なことを発表したいということは
全員一致ですぐに決まった。その大
切なことは、「友達」であった。し
かし、それをどんな形で伝えるかを
決める話し合いでは、意見が2つに
分かれた。これまで学級内であった、
友達をめぐる様々な出来事をもとに
劇をつくりたいという意見と、その
ことはもうやめたいという考えであ
る。
自分たちの中で起きた出来事を劇
〈「風切る翼~本当の友達になるために~」〉
にして見せるということは、劇をつ
くる時に、実際に歩いた道をもう一度たどることになる。傷ついた子も傷つけた子も、
もう一度そのときのいやな思いやつらい思いを思い起こさなければならない。教師自
身もそれは避けたかった。対立した意見は歩み寄ることがなく、話し合いはまとまり
そうになかった。
その時「嫌な出来事」の渦中にあったN子が発言した。「みんな、私のことを思って
言ってくれているんだと思うけれど、私は大丈夫や。それに、他の物語でその主人公
を演じても、私たちの学んだ「友達の大切さ」は表現できんと思う。私たちが実際に体
験したことを伝えよう。」と熱く語った。友達から突然仲間はずれにされるというつ
らい経験をしたN子のことも、その出来事のことも、学級全員がよく知っていた。何
度も学級で考えたことだった。その発言によって、実際にあった出来事をもとに台本
を作ることとなり、テーマは「本当の友達に
なるために」に決まった。
「台本は私たちでつくらせてほしい」と申
し出があった。見て驚いた。登場人物の名前
や、出来事が起こる場面は全く違ったもので
あったが、ストーリーは、子どもたちの間で
起こったことそのものであった。そして、配
役が、実際の立場通りになっていた。つらい
目に遭わせた子、つらい思いをした子、何も
言えなかった子のそれぞれが、実際そのもの
であった。結果的に、その劇は、自分たちの
間で起きた出来事を、自分たちで「こういう
ことだったんだ」と客観視し、登場人物の台
詞を通して心から友達に謝り、本心を伝える
こととなった。
教師が間に入り話し合って解決したと思っ
ていたことは、本当の意味での解決ではなか
〈子どもたちの手で作成した台本〉
ったのかもしれない。その場で謝ってもなか
なかしっくりといっていなかった関係は、劇を作る過程や発表を成功させたことによ
って、子どもたちが望んでいた関係になっていった。
(2)友達の気持ちを自分のことのように分かろうとする心を育てるために
① 学級全体の問題として考える(「30 人 31 脚」の学級目標達成のために)
一人に起きた問題でも、可能な限り30人全員で考えた。「30人31脚」が合い
言葉だった。学級全体に問題やどう解決したらいいと思うかなどを投げかけても、始
めから自分の考えが話せたのではない。始めは、自分の考えを書かせ、誰が書いたか
分からないように教師が全員の考えを読むという繰り返しだった。学級の子どもたち
からの意見は、それが分かりきったことでも心に響くことが多く、「周りの子たちは、
ひどいと思って見ているのだ。こんなことをしていてはいけない」と思うことにもつ
ながった。また、N 子のように孤立してしまった子にとっても、「学級の中には分か
ってくれる子もいるんだ。その子たちの方に自分が向けばいいんだ」と思えることに
もつながった。
また、話し合いによる解決を繰り返し行っていくうちに、「話し合えば必ず解決へ
の糸口が見つかり、自分たちで解決していける」という自覚が芽生えていった。
② 学級通信を通じて語りかける(人として大切なこと)
教師の気持ちや伝えたい
ことを伝える時には、学級
通信を使った。出した学級
通信は、2年間で 128 枚に
なった。帰りの会や、場合
○自分の生き方を見つめる
によっては朝の会で読んで
○生き方の角度を変える
伝えた。
○人間としての生き方を磨く
学級が落ち着かない様子
○考えを求める
であった時も、にぎやかな
○成長を自覚させる
雰囲気の時も、学級通信を
読んで聴かせている時だけは、通信に書かれた文字をじっと見つめ、しんとして聴
く雰囲気があった。それは家に持ち帰るので、保護者も読んでくださり、学校で起き
ている子どもたちの出来事を知ってもらう一つの方法でもあった。
書いた記事に対して子どもたちから返事をもらうこともあった。卒業の時には、「人
間として大切なことを教えてもらった」と表現してくれた子もいた。
明日がいよいよ運動会という日になりました。今日まで30
人全員が元気にがんばれたことに、心から感謝していま
す。運動会までの過程で、多くのことを学んでいることが伝
わってきました。
今週の初めに「組み立て体操で学んでいることは何か」と
あなたたちに問いました。「我慢すること」「信じ合うこと」
「助け合うこと」「力を合わせること」「相手を気遣うこと」・・・
たくさんの答えが返ってきました。どれもそうだと思います。
私は、その上に「人を支えることができる喜び」だと思って
います。私が支えることで友達ががんばれる。私が支える
ことで友達が輝く。私が支えることで下級生ががんばれる。
私が支えることで運動会が成功する。そんな私になれてい
るあなたたちを、心から誇りに思っています。
〈運動会前日の学級通信〉
明日はいよいよあなたたちの、小学校で最後の、特別な運
動会です。力いっぱいやり遂げて、心と体の奥底からわき
上がってくるような感動を味わってください。
4
課題及び
課題及 び今後の
今後の 取り 組みの方向
みの方向
高学年になると、心身の発達に伴って、これまで深く考えずに過ごせた様々なことが
気になり、許せなくなり、友達とも自分自身とも折り合いが付かなくなる子どもが出て
くる。しかし、子どもたちにとって、その苦しい時期をどう乗り越えたかが、その後の
生き方に大きく関わってくると実感する。子どもたちは、本当に自分のことを分かって
くれる友達を求めていた。そんな子どもたちの願いを実現させるためには、子どもたち
の間で起きている出来事を、子どもたち自身が解決し、乗り越えたという体験をするこ
とが欠かせない。そのために教師ができることは、次のようなことであると思われる。
① 子どもの思いを、必ず受け止め、一緒に考えるという構えで聴くこと。
② 人として「こうあるべきだ」という理想を示すこと。
③ 子ども自身が解決できるような「表現できる場」を用意すること。
④ 「仲間がいてよかった」と実感できる活動を仕組むこと。
どれも、これまで先輩教師から教わったことで、何も目新しい方法ではないが、教師
自身が誠実に地道に子どもたちと向き合っていく心構えでい続けることは、常に大切な
ことである。それは、たやすいことではない。時には目を背け逃げたくなるほど苦しい
ことでもある。しかし、時には涙があふれるほど喜びが、その道の先にはある。大人の
入り口に立つ子どもたちと関わる教師の自分自身の生き方が問われている。
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「本当の友達」と言えるかけがえのない仲間づくりをするために