講義2
前提と第三の真理値
須藤 靖直
University College [email protected]
予定
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講義1:真理条件的意味論入門
・文の意味と真理条件
・合成性
・名詞句の意味と指示
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講義2:前提と第三の真理値
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講義3:前提の引き金問題と投射問題
前提とは
真か偽か
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講義1では文の持つ真理値を真か偽かとした
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アリストテレスの時代から
二値論理(bivalent logic)が基本
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例えば、古典的な述語論理の式は
全て真か偽
Ἀριστοτέλης (前384-前322)
真でも偽でもない
自然言語の平叙文の中には真でも偽でもないものがある
・「この文の言うことは嘘だ」 嘘つきの矛盾
・「650円のラーメンは高い」 曖昧性の問題
・「フランスの現在の国王はハゲている」 前提の問題
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今日は前提(presupposition)の問題を扱う
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蘊蓄:これらの観察はエウブリデスによる
Εὑβουλίδης(前4世紀)
フランス国王
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現在のフランスにはもちろん国王はいない
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「フランスの現在の国王はハゲている」は
・絶対に真ではない
・が、かと言って偽でもない
「フランスには現在ハゲた国王がいる」は
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・絶対に真ではない
・さらに、絶対に偽である
ほんと?
Louis XIV (1638–1715)
フレーゲ派 vs ラッセル派
「フランスの現在の国王はハゲている」が真でも偽で
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もないというのは、フレーゲとストローソンに代表さ
れる考え方
対照的にラッセルは、この文は偽であるとした
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Gottlob Frege (1848–1925)
vs.
P. F. Strawson (1919–2006)
Bertrand Russell (1872–1970)
前提の見つけ方
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実際、真でも偽でもないか、それとも偽かという判
断はちょっと難しいかもしれない
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前提は一般的に以下の2つの特徴を持つ推論である
・語用論的に、公然の事実として扱われる
・複雑な文において投射する!
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つまり文の持つ推論(含意)の内、この二つの特徴
を持つものが、前提であると言える
前提の語用論的特徴
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直観的に、誰かが「フランスの現在の国王はハゲて
いる」と言った場合、その人はフランスに現在国王
がいると思っていて、さらにそれを当然みんな知って
いると思っている(存在前提)
言い換えると、前提は会話上で公然の事実として扱わ
れるという語用的性質を持つ
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「フランスには現在ハゲた国王がいる」にはこの存
在前提はない
前提投射
さらに前提は投射(project)するという特徴を持っている
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「フランスの現在の国王はハゲている」
➡️ 存在前提:フランスには現在国王がいる
•
「フランスには現在ハゲた国王がいる」も同様の含意を持つが、
例えば、疑問文でも存在前提は残る
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「フランスの現在の国王はハゲていますか?」
➡️ 存在前提:フランスには現在国王がいる
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「フランスには現在ハゲた国王がいますか?」
この文はこの含意を持たない
他の前提投射環境
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このように、前提を持つ文をより複雑な文に埋め込んだときに、
前提が残る現象を前提投射(presupposition projection)と呼ぶ
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否定態度文:
「僕はフランスの現在の国王がハゲていると思いません」
(cf.「僕はフランスに現在ハゲた国王がいると思いません」)
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仮定文:「フランスの現在の国王がハゲてるなら、カツラをか
ぶってるはずだ」
(cf.「フランスに現在ハゲた国王がいるならば、カツラをか
ぶってるはずだ」)
局所的適応
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疑問文、否定態度文等での前提投射は一般的に観察されるが、一定の
状況下でキャンセルすることも可能である
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「僕は、フランスの現在の国王がハゲているとは思いませんよ。
なぜならフランスには国王がいないので」
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この現象の一般的な考え方:前提は前提としての性質を失うことがあ
り、その場合は投射しない
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この振る舞いを局所的適応(local accommodation)と呼ぶが、今回は
詳しくは立ち入らない
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ただし前提投射の判断をする場合、局所的適応を考慮する必要がある
意味の多様性
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まとめ:
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「フランスの現在の国王はハゲている」は存在前提と
いう意味持っている
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「フランスに現在ハゲた国王がいる」はこの存在前提
を持たない
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つまり文の持つ推論には、少なくとも、前提と前提でな
いもの(断言的意味)がある
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この意味の種類をどのように記述するか?
フレーゲ・ストローソンのテーゼ
!
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現代の前提の理論で広く受け入れられている考え方
フレーゲ・ストローソンのテーゼ
前提が偽の時、文は真でも偽でもない
つまり前提は断言的意味が真か偽かになる条件である
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この考えを使った理論は複数存在するが、
今日は三値論理を使った理論を紹介します
第三の真理値
三値論理
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前提の理論は様々なものがあるが、代表的なものに三値
論理(trivalent logic)がある
三値論理のアイデア:
前提が偽のときは、第三の真理値(駄)を持つ
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三つの真理値:真、偽、駄!
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偽を「F」や「0」、 真を「T」や「1」、
駄を「N」「I」「U」「#」「★」や「2」
で表すのが一般的
三値論理における真理条件
「フランスの現在の国王はハゲている」
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・真:フランスに現在国王がいて、その国王がハゲている場合
・偽:フランスに現在国王がいて、その国王がハゲてない場合
・駄:フランスに現在国王がいない場合
(フランスに関する存在前提も本当は考えるべき)!
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つまり駄になるのは、存在前提が偽の場合
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言い換えると、前提は真か偽かになる為(=駄にならない
為)の条件(フレーゲ・ストローソンのテーゼ)
三値論理における真理条件
前提を持たない文の例:
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「フランスには現在ハゲた国王がいる」
・真:フランスに現在国王がいて、その国王がハゲている場合
・偽:フランスに現在国王がいるけど、その国王がハゲてない、
もしくはフランスに現在国王がいない場合
・駄:なし
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全ての可能性が真か偽になるので、駄にはなりえない
つまりこの文には前提が無い!
三値論理における真理条件
一般的に、三値論理を使った理論では、文の意味を
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以下のように分析する
真:前提が真、断言的意味も真
偽:前提は真、断言的意味は偽
駄:前提が偽
三値論理における語用論
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前提を持つ文を発話した話者は、その前提が公然の事実
だと思っている(前提の語用論的特徴)
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三値論理では、語用論の原則からこれを説明する
スタルネーカーの橋渡し原則(Bridging Principle)
話者は会話に参加している全員が真か偽か判断できることし
か言ってはいけない
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これに従っている話者は、前提が真であると
全員が知っている文しか発話しない
Robert Stalnaker (MIT)
講義2:まとめ
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前提という、(断言的意味とは違う)推論の種類がある
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前提は疑問文・仮定文・否定文などで投射する(=これらの演算子
の作用域に残らない)
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前提の語用論的特徴:前提を持つ文を発話した話者は、その前提が
公然の事実のように振る舞う
三値論理を使った前提の分析:
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もし前提が偽の場合、その文は真でも偽でもない真理値、駄を取る
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スタルネーカーの橋渡し原則(Stalnaker’s Bridging Principle)
話者はみんなが真か偽か判断できることしか言ってはいけない
蘊蓄
三値論理の歴史(1)
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三値論理には第三の真理値の解釈により色々なバージョンがある
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ウカシェヴィチ:未来に起こる不確定なものが第三の値を取る
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クリーネ:未定義のものが第三の値を取る
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ボチュバル:嘘つきの矛盾などの無意味なものが第三の値を取る
Jan Łukasiewicz (1878–1956)
Stephen Cole Kleene (1909–1994)
Дмитрий А. Бочвар (1903–1990)
三値論理の歴史(2)
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三値論理を使った前提の研究では、ピーターズ、
ビーバー、クラーマー、ジョージ、フォックスが有
名
Stanley Peters
(Stanford)
David Beaver
(Texas)
Emiel Krahmer
(Tilburg)
Ben George
(Yale)
‫
דניאל פוקס‬
(HUJI, MIT)
部分関数を使った前提の理論
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もう一つの前提の理論として標準的な考え方に、部分関
数(partial function)を使った理論がある
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文の意味:
状況(context)を取って新たな状況を返す関数、状況推
移能力(context change potential)である
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この理論では真理値は真か偽のみだが、前提を持つ文
は、前提が真である状況に対してのみ定義されている
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この考え方はクリーネの三値理論とつながりがある
動的意味論を使った形式化
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ハイムとビーバーはこの考え方を動的意味論
(dynamic semantics)を使って形式化した
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1980年代以来この理論が一番標準的と言って良い
Irene Heim
(MIT)
David Beaver
(Texas)
前提の「束縛理論」
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もう一つ人気の理論:束縛理論(binding theory)
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アイデア:代名詞は個物に関する照応(anaphora)、前提
は命題に関する照応
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この理論は談話表示理論(Discourse Representation
Theory)で形式化される
Rob van der Sandt
(Nijmegen)
Bart Geurts
(Nijmegen)
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講義2 前提と第三の真理値